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シリーズ日本経済を考える97

日本国債先物入門―日本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―

財務総合政策研究所 研究員 服部 孝洋*1

1.はじめに

裁定(アービトラージ)取引はファイナンス理論において最も重要なアイデアであるといっても過言ではありません。裁定取引とは類似性の高い2つの財の価格に乖離がある場合、相対的に価格が高い商品を売り、価格が低い商品を買うことによって収益化を図る投資行動を指します。投資家による裁定取引は「同質のものは同じ価格が付される」という一物一価の法則を生み出し、多くのファイナンス理論では、このシンプルなロジックに立脚することで驚くほど多くの資産のプライシングを行います*2。

本稿では「国債先物」と「国債現物」の間の裁定に注目しますが、先物と現物の裁定取引はベーシス取引(キャッシュ・アンド・キャリー取引)と呼ばれ、国債の投資戦略の中で最もスタンダードなものの一つです。国債市場において先物と現物の裁定が特に重要である理由は、国債先物市場は1日数兆円規模の売買がなされる最も流動性が高い市場であるためです。先物の価格には多くの投資家の意見が反映されるという意味で適切なプライシングがなされており、その情報は残存7年の国債との裁定を通じて、国債市場全体の価格形成に影響を与えます*3。現物と先物の裁定の度合いを把握することは、先物が有する情報がどの程度現物の価格に反映されているかどうかを確認する上で重要なプロセスといえます。

1970年代に固定相場制が崩れる中でリスク管理の必要性が高まり、シカゴを中心に金融先物市場が発展しました。当時、米系投資銀行であるソロモン・ブラザーズが早くから先物と現物の裁定に着手し、ボンドハウスとしての地位を築きます*4。当時のソロモンに所属していたジョン・メリウェザーは国債の現物と先物は同質性が高く、いずれはその乖離が価格の収れんにより解消されると考えました。その後この裁定取引は広がりをみせ、今日では国債市場を理解するうえで必須な知識となっています。

本稿では、できる限り日本国債(JGB)の市場参加者の視点に立って先物と現物の関係を考えることで先物の本質に迫ります。国債先物では先物の売り手が残存7~11年の中で割安なものを受け渡すという制度設計がなされていますが、先物と現物の裁定取引の中で、売り手側が残存7年の国債を受け渡すインセンティブが高いことを議論していきます。また、投資家はこの裁定を行う際、国債の貸借を行うレポ市場にアクセスする必要があるため、本稿ではレポ市場との関係も深堀します。

なお、本稿では2020年1月号の「ファイナンス」に掲載された「日本国債先物入門:基礎編」(服部, 2020)を前提に議論を進めていきます。服部(2020)では先物の基本的な設計について日本国債先物に焦点を当てて解説を行っています。

本稿の構成は以下の通りです。2節では国債市場における現物と先物の裁定を考え、残存7年の国債が先物の受渡に用いられる理由について説明を行います。3節では現物と先物の裁定についてレポ市場の観点で議論を行います。4節が結語です。

2.日本国債市場における現物と先物の裁定

2.1 ベーシス取引とは

服部(2020)では国債先物*5を購入(売却)した場合、残存7年の国債(7年国債*6)が受け渡されることを前提に議論をしてきました。なぜ国債先物と7年国債の連動性が高いかというと、これまでの相場では、残存7~11年の国債の中で、先物の売り手にとって7年国債を受け渡すコストが一番低い状態が続いているからです。本稿では日本国債市場における現物と先物の裁定に焦点を当てますが、ここから自分が日本国債で運用を行う機関投資家になったことをイメージしながら、現物と先物の裁定行動を少し厳密に考えてみましょう*7。

前述のとおり、国債先物と7年国債の連動性を前提とすれば、先物を売り建てた場合、受渡日に7年国債を受け渡す必要があります。7年国債そのものは店頭市場で取引されていますから、先物を売り建てると同時に、7年国債を買っておきます(図1 日本国債市場における現物と先物の裁定取引のステップ1)。そうすれば先物の決済日に、すでに購入していた7年国債を受け渡すことができるため、事前に契約していた先物取引(売建)は無事、決済がなされることになります(図1 日本国債市場における現物と先物の裁定取引のステップ2)。これが国債市場における現物と先物の裁定取引(ベーシス取引)に相当します。

気を付けるべきことは先物取引において現物決済を行う場合、先物価格で7年国債を受け渡すわけではなく、コンバージョン・ファクター(CF)で調整する必要がある点です。服部(2020)で記載したとおり、国債先物では標準物と呼ばれる仮想的な国債を取引しますが、標準物の価格を国債の受渡価格へ変換するためにCFを用います(具体的には「受渡価格=先物価格×CF」で算出します)。そのため、先物と現物の間の裁定機会を考えるためには、「先物価格×CF(受渡価格)」と「現物価格」を比較する必要があります。

例えば、1か月後に満期を迎える国債先物を1億円分(1枚)売り建てると同時に、現物の7年国債を1億円購入します。もし前者の価格(先物価格×CF)が100円であり、後者の価格(7年国債の価格)が99円であれば、先物を売り建てるとともに今のうちに99円で7年国債を購入しておき、1か月後に先物の決済を迎えたタイミングで、7年国債を100円で受け渡せば1円の利益を得ることができます。すなわち、「7年国債の価格」と「先物価格×CF」に大きな乖離が生まれた場合、裁定機会が発生することになります。逆に、この価格差が小さければ裁定が働いている状態と解釈できます。

2.2 グロス・ベーシスとネット・ベーシス

このような現物価格と先物の受渡価格(CF×先物価格)の差をグロス・ベーシスといいます*8。

グロス・ベーシス=現物価格-先物価格×CF

先物価格×CF=国債先物を通じた国債の受渡価格

もっとも、これは厳密な意味での裁定取引にはなっておらず、実際、投資家はグロス・ベーシスがゼロになることを目指して裁定を行っているわけではありません。というのも、現時点で7年国債を購入するためには、その購入資金を調達するコスト(レポ・コスト)が発生しますし、国債を1か月在庫として保有することで、その間、利子が得られます(ここでの調達コストがレポ・コストとなる理由は3節で議論を行います)。利子収入からレポ・コストを除いたものを「キャリー」といいますが、調達コスト等も考慮した正確な裁定を考えるには現物価格からキャリーを調整しなければなりません。この部分も考慮した先物と現物の価格差をネット・ベーシスといいます。

ネット・ベーシス=(現物価格-(利子収入-レポ・コスト))-先物価格×CF

(利子収入-レポ・コスト)=キャリー

ちなみに、BOX 1に記載しているとおり、現物価格にキャリーを調整した価格は先渡(フォワード)価格に相当するため、事実上、ネット・ベーシスでは先物と先渡の裁定取引を行っていると解釈できます*9。先物取引と先渡取引の主な違いは前者が取引所取引である一方、後者が相対(店頭)取引である点ですが、詳細は服部(2020)を参照してください。

ネット・ベーシス=先渡価格-先物価格×CF

先渡価格=現物価格-キャリー

実務的には、「現物ロング+先物ショート」(「現物ショート+先物ロング」)をロング・ベーシス(ショート・ベーシス)といいます。読者がロング(ショート)・ベーシスというポジションをとった場合、上記で定義したグロス・ベーシスが上昇(低下)すれば収益が得られますから、そのように動くと予測した場合、ロング(ショート)・ベーシスのポジションをとることに合理性が生まれます*10。例えば、グロス・ベーシスおよびネット・ベーシスがゼロからマイナス方向に大きく乖離しており、読者が受渡日までにはゼロに収れんすると考えているとしましょう。この場合、ロング・ベーシスをとることでこの乖離が解消した際、利益を得られることになります。一方、ベーシスがゼロからプラスに乖離していた場合、ショート・ベーシスをとることで裁定取引を行うことができます。

このように資産間における価格・金利差に注目した運用戦略を相対価値(レラティブ・バリュー)戦略といいますが、債券市場における運用戦略として幅広く用いられています(詳細はBOX 2を参照してください)。ちなみに、国債の現物と先物は証券会社等に同時に注文できるため、ベーシス取引はパッケージ商品としても取引されています*11。

2.3 最割安銘柄(チーペスト)

ここまでの話を前提に、国債市場で頻繁に用いられる最割安銘柄(チーペスト、Cheapest To Deliver)という概念が意味することを考えてみましょう。国債先物の売り手は、残存7~11年の国債(受渡適格銘柄)を受け渡すことができますが、先物の売り手はむろん自分にとって得となる銘柄を受け渡したいと考えます。例えば、先物を売り建てており、最後まで反対売買を行わず、受渡日に国債を受け渡す必要が生じたとしましょう。もし読者が残存7~11年の国債を持っていない場合、証券会社に発注するなどして受け渡しできる国債を調達してこなければなりません。この購入コスト(現物価格)が受渡を行う場合の費用に相当します。

一方、受け渡すことで得られる収入はどうでしょうか。受渡価格が「先物価格×CF」で定まることを考えると、「先物価格×CF」が国債を受け渡すことから得られる収入になります。そのため、売り手側は受け渡しが可能である残存7~11年の国債の中で、下記が大きくなる銘柄を渡すインセンティブを有します。

先物価格×CF - 現物価格…(*)

先物価格×CF=受渡から得られる収入 現物価格=受渡に係る費用

もし仮に店頭で売買されている残存7~11年の国債価格が似た価格であれば、(先物価格は一つなので)受渡可能な国債の中からCFが大きい銘柄を選択することにより費用に対して収入が大きい銘柄を選ぶことができます。そのため、この場合、CFが大きい銘柄が売り手にとって最も利益の高い銘柄になりますが、ポイントは、CFは6%より金利が低い環境下では(クーポンが同じ水準であれば)年限が短い銘柄ほどCFが大きくなる傾向がある点です(このメカニズムは服部(2020)のBOX 3を参照してください)。このことに鑑みれば、現物を受け渡す者にとって年限が短い国債を受け渡すメリットが生まれます。ご承知のとおり、日本の金利は6%より低い状況が続いてきたため、受渡適格銘柄のうち短い年限の国債(7年国債)が受け渡し銘柄として用いられる局面が続いてきました。このように先物の売り手にとって最も受け渡しのメリットがある銘柄を、受渡のコストが低いという意味から「最割安銘柄(チーペスト、Cheapest To Deliver)」といいます。

この議論は結局のところ、店頭市場で売買される現物価格と先物の受渡価格を比較していることになるので、先ほど定義したグロス・ベーシスやネット・ベーシスがチーペストを考えるうえで役に立ちます。たとえば、残存7~11年の銘柄について、それぞれグロス・ベーシスを計算できますが、グロス・ベーシスの定義は「現物価格-先物価格×CF」ですから、(*)と符号が逆であることに注意すれば、先物の売り手にとってグロス・ベーシスが小さい銘柄を渡すメリットが高いことがわかります。もっとも、実際の裁定取引にあたっては受渡日より前にチーペストを考えるため、グロス・ベーシスではなく、受渡日までのキャリーを調整したネット・ベーシスが小さい銘柄をチーペストとして定義することが一般的です*12。Hattori(2019a)ではこれまで受渡適格銘柄の中で7年国債がチーペストになってきたことを過去のデータから指摘しています*13。チーペストの計算例については次節で取り上げます。

BOX 1 先渡(フォワード)価格のプライシング

本文で先渡(フォワード)の話をしましたが、先渡価格は基本的に現物価格に金利を調整した価格で決まります。例えば、JGBトレーダー*14の立場にたって、1週間後に受け渡す日本国債を今買いたいという注文を受けたとしましょう*15。この時、トレーダーが顧客に提示する価格が先渡価格に相当しますが、どのようなプライスを提示すればよいでしょうか。例えば、注文が来た時点で国債を購入してしまい、それを在庫として保有しておき、1週間後に顧客へ当該銘柄を受け渡せば、このような注文に対応することができます。その際、この「保有のためのコスト」を国債の購入価格に加算した価格を提示すれば、トレーダーとしては損することなく顧客の注文に対応できます。

先渡価格を以上のような形でプライシングするモデルを「保有コストモデル(Cost of Carry Model)」といいますが、ここでは少しフォーマルに記載してみましょう。N日後の先渡価格をプライシングすることを考えます。先ほどと同様、現在、現物国債を購入し、これをN日間在庫として保有する必要がありますが、国債を購入するためにはその資金を調達する必要があるため、その調達コスト(レポ・コスト)を支払う必要があります。その一方、国債を保有することに伴い、利子収入が得られるため、その部分はコストから控除することが可能になります。それゆえ、先渡価格は下記のように定義されます。

先渡価格=現物価格+(レポ・コスト-利子収入)

本文でも説明しましたが、「利子収入-レポ・コスト」を「キャリー」というため、先渡価格は「現物価格-キャリー」という形で算出ができます*16。

なお、タックマン(2012)や村上(2015)などファイナンスのテキストでは先渡価格を短期債のショート(発行)と長期債のロングの合成によりプライシングするケースもあります。また、フォワード・レートについては服部(2019)で議論を行っています。

BOX 2 相対価値(レラティブ・バリュー)戦略

2節では先渡と先物の間に価格差が発生した場合、それが縮小することを利用して収益を上げる手法を紹介しましたが、債券市場における投資家は債券の価格差や金利差(スプレッド)に注目して運用戦略を立てることが少なくありません。この背景には、例えば、7年国債の金利の動きそのものを予想することはできなくても、7年国債と国債先物の価格差であれば予測可能なケースがあるからです。この理由を計量経済学の言葉で表現するならば、先渡と先物の価格差が「平均回帰性」という性質を有するからです。本文で記載したとおり、十分な裁定が働くことで先渡と先物の価格差であるネット・ベーシスは平均的にはゼロ(あるいは小さな値*17)になることが予想されます。もちろん、短期的には投資家による需給要因などによってその価格差が大きく動く可能性はありますが、先渡と先物は同質性が高いため、投資家の裁定行動により、やがて平均的な値(ゼロあるいは小さな値)へ戻っていく動きをすることが予測できます。

このように資産間の価格差や金利差(スプレッド)に注目する戦略を一般的に「相対価値(レラティブ・バリュー)戦略」といいますが、これはスプレッドが平均回帰的な性質を有する点を利用した運用戦略と考えられます。本文では、7年国債と国債先物のスプレッドに焦点を当てましたが、国債市場では、他の年限の国債とのスプレッド(例えば10年金利と7年金利のスプレッドなど)、国債金利と金利スワップレートとのスプレッド(アセット・スワップ・スプレッド)*18、さらにはスプレッドのスプレッド*19を見ることが少なくありません。これらのスプレッドは、足元の市況や国債入札の結果などを解釈するうえで頻繁に用いられます。

スプレッドが平均回帰的な動きをするかどうかは計量経済学の手法により検証することができます。詳細な説明は計量経済学のテキストに譲りますが、具体的にはスプレッドに対して単位根検定を行うことでスプレッドが平均回帰的な動きをしているかどうかを検証することができます。また、金利水準が単位根過程に従うと解釈した場合、変数間に共和分の関係があるかどうかを検証することで変数間の安定性を評価することも可能です。もっとも、実務的には実際に検定を行うのではなく、自らが平均回帰すると考えるレンジ(典型的には数か月の期間)に絞って考えることが多い印象です。学術研究においてスプレッドが平均回帰的な動きをすることをサポートするものは少なくありません。

注意すべき点は、統計的にスプレッドが平均回帰的な動きをしていたとしても、それは、あくまでも過去の経験則に過ぎない可能性があることに加え、かりに平均回帰的な性質があったとしてもその回帰の期間が長くなることがあり得ることです。ジョン・メリウェザーに加え、ノーベル賞受賞者が参加していたことで注目を受けたロング・ターム・キャピタル・マネジメントはレラティブ・バリュー戦略に基づいた運用を行っていましたが、その破綻の一因として極端なイベントが起こる可能性を考慮しないなど、スプレッドの修正に係る判断ミスが指摘されることもあります。

3.レポ市場とインプライド・レポレート

3.1 レポ市場とは*20

日本国債への投資を考えるうえで非常に重要なことは日本国債を保有する調達コスト(前述のレポ・コスト)を考えることです。我々個人が運用をする場合、貯金などの元手があるケースがほとんどでしょうから、運用の調達コストを意識することはあまりありません。しかし、金融機関などの機関投資家は調達コストを意識しています。銀行や生保のような投資家は預金者や保険加入者から資金の提供を受けており、預金金利等の形で調達コストを払っています。日本国債の店頭市場を作っている証券会社のトレーダーなどはそもそも元手となる資金を持っていないことが多く、自ら資金調達を行う必要があるケースも少なくありません。

もっとも、例えば読者が日本国債の入札に際して資金調達が必要な場合、国債を保有することになるわけですから、国債を担保にして資金調達を行うことができます。これは我々が家を購入する際、購入する不動産を担保にしてお金を借りることができることと同じです。大切なことは国債を担保にした場合、その信用力の高さから調達コストを抑えることができる点です。このように国債を担保にした資金調達はレポ取引と呼ばれ、その時の調達コストをレポ・コスト(レポ・レート)といいます*21。

そもそも、レポ取引の正式な名称は「Repurchase agreement」ですから、その名称自体は、貸借というより「買戻契約」という意味合いを持ちます*22。そのため国債を担保にした調達をレポ取引といわれると、その名称と一致していないという印象を受けるかもしれません。実は日本の場合、かつて有価証券取引税という税があり、証券の売買には税金が課されていたため、買戻契約に相当する「(債券)現先取引」*23ではなく、国債を担保に現金を受け渡す貸借取引*24が拡大しました*25。もっとも近年、海外との平仄を合わせることなどを背景に、貸借ではなく現先取引を普及させる努力が続き、直近では半数以上の取引が現先に集約されています(詳細はBOX 3を参照ください)。ちなみに、タックマン(2012)などのファイナンスのテキストでは現先と有担保ローンを同等とした説明がなされることが少なくなく、法的な位置づけは違うものの、経済効果は現先でも貸借でも同じと考えて大きな問題はありません*26。

3.2 GCレポとSCレポ

レポ取引はGC(General Collateral)レポとSC(Special Collateral)レポという2つの異なる取引に分かれていますが、これは受渡を行う債券に対してニーズが異なることなどが背景にあります。GCレポの場合、銘柄の個別性を特に考慮せず、国債全般を担保とした資金調達や運用で用いられます。一方、SCレポの場合、例えば現物と先物の裁定を行う場合のように特定の国債(例えば7年国債)がほしい、というときに用いられます*27。レポレートについていえば、GCのレート(GCレポレート)がレポ市場全体の運用と調達の需給で決まるのに対して、SCのレート(SCレポレート)は個別証券の需給関係で決まる点が異なります(GCとSCのスプレッドを取ることで個々の証券の需給状況を見ることもあります)。2019年における取引の残高でみると、おおよそGCレポが7割、SCレポが3割程度というイメージです*28。

図2 GCレポを利用した資金調達のイメージ(国債入札時)は、国債の入札に参加するJGBトレーダーが国債入札時のファンディングのためにGCレポを用いているイメージを示しています*29。JGBトレーダーは入札に際し、典型的にはオーバーナイトなどの短期で資金調達を行いますが、レポ市場で担保を差し出すことで資金調達を行います*30。JGBトレーダーはこの際、GCレポレートを調達コストとして支払います。

では、「現物ロング+先物ショート(ロング・ベーシス)」という現物と先物の裁定を行う場合はどうでしょうか。7年国債を購入する際、その資金調達を行う必要がありますが、SCレポ市場にいけば7年国債を担保にして資金調達を行うことができます。図3 7年国債(チーペスト)を用いたSCレポでのファンディングのイメージがこの時の取引のイメージ図になりますが、この際に支払う調達コストがSCレポレートに相当します。前節では、「ネット・ベーシス=(現物価格-キャリー)-先物価格×CF」を定義しましたが、ここでのキャリー(=利子収入-レポ・コスト)を計算する際、厳密にはSCレポレートを用いる必要があります*31。

3.3 インプライド・レポレートとは

この裁定を行ううえでの問題点は、受渡日までの期間が遠い場合、流動性が低くなること等を背景に、SCレポレートが観測しにくくなる点です。SCレポレート自体は短資会社*32などに電話をすることでその水準を確認することができますが、期間が長くなるほどその正確な値を得ることは難しくなります。その一方、ネット・ベーシスの計算に用いられるレポレート以外のすべての情報(現物および先物の価格など)は容易に観察できるため、発想を転換し、先物と現物の間に十分な裁定が働いていることを前提にレポレートを逆算することを考えてみます。これは裁定が働いていることから示唆される(インプライされる)レートという意味で、インプライド・レポレート(Implied Repo Rate, IRR)といいます。IRRの有益な点は、裁定が働いているという条件を置くことで、受渡日まで遠い場合、本来見えないSCレポレートが見えるようになる点です。

このように一定のモデルを仮定することで、必ずしも容易に観察できない情報を抽出することは金融市場において少なくありません。例えば、しばしば新聞などで「恐怖指数(fear index)」が言及されますが、これはオプションと呼ばれる金融派生商品の価格から一定のモデルを用いて投資家が考えている市場の変動性を抽出することで指数を構築しています。*33

IRRではネット・ベーシスがゼロであると想定してSCレポレートを抽出することを考えます。ネット・ベーシスがゼロの場合、「現物価格+(レポ・コスト-利子収入)-先物価格×CF=0」が成立します。この式は「レポ・コスト=先物価格×CF+利子収入-現物価格」という形でレポ・コストに関する式へ変換することができます。IRRはこれを年率のリターンにした式になります*34。

IRR=[先物価格×CF+利子収入-現物価格/現物価格]×(360/受け渡しまでの期間)

IRRを用いることの最大のメリットは、IRRを用いることで先物と現物の間に十分な裁定が働いているかどうかを確認することができる点です。IRRの計算に際し、現物と先物の間で裁定が働いている点(ネット・ベーシスがゼロになるという点)を仮定していましたが、現実のマーケットにおいてその裁定が十分に働いているとは限りません。そこで、例えば、流動性の高い短期間のSCレポレートやGCレポレートのタームストラクチャーなど他のレポレートと比較検討し、現在のIRRの水準が正当化されるかどうかを考えることで、現物と先物の裁定がどの程度働いているかについて評価を行うことができます。筆者は市場参加者から「JGB市場の参加者はIRRを必ずチェックする」と指摘されたことを今でも覚えていますが、これは最も流動性が高い先物の価格が実際の現物の価格にどの程度反映されているかを確認する上で重要なプロセスといえます。

3.4 インプライド・レポレートの計算例と解釈

図4 受渡適格銘柄と各種指標では、2019年10月末時点における受渡適格銘柄の一覧に加え、グロス・ベーシス、ネット・ベーシス、IRRを示しています*35。この場合、受渡日が2019年12月20日ですから受渡日までの期間が2か月弱ある状況です。正確なネット・ベーシスを計算するためには受渡日までの期間に相当するSCレポレートが必要ですが、図4 受渡適格銘柄と各種指標では3か月の東京レポ・レート*36(-0.123%)を用いて、簡易的にネット・ベーシスを計算しています。前節では、ネット・ベーシスが小さくなる銘柄がチーペストになることを指摘しましたが、この図が示しているとおり、7年に一番近い銘柄(10年利付国債(第345回))のネット・ベーシスが最も小さい値をとっており、チーペストになることが分かります(図4 受渡適格銘柄と各種指標では年限が短い銘柄ほどCFが大きくなることも確認できます)。これは最近の1日の例を示しただけですが、別の日で計算しても日本国債市場ではこれまで7年国債がチーペストになる傾向があります。

図4 受渡適格銘柄と各種指標をみるとチーペストである345回債のIRRは-0.206%になります。前述のとおり、このことは仮にネット・ベーシスがゼロであれば345回債の(受渡日までの)SCレポレートは-0.206%になることを意味しています。この日のGCレポレートは1か月物が-0.080%、3か月物が-0.123%です。ここでは具体的なSCレートを用いていませんが、実際には345回債について短期のSCレポレートを短資会社などにヒアリングすることができますし、日銀の補完供給オペを通じて345回債を借り入れた場合のコストとも比較できます(補完供給オペについてはBOX 4を参照してください)*37。これらのレートを考慮しこのIRRがもっともな値をとっていると判断できれば現物と先物の間には十分な裁定がなされていると解釈できます。

一方、例えば様々な要因を総合的に勘案した結果、現物の受渡日までのSCレポレートとして、-0.1%が妥当な水準であると考えたとしましょう。この場合、IRRが-0.206%である状況は現物と先物の間に裁定が十分働いていないと解釈することもできます。仮に実際のSCレポレートが-0.1%であるとすれば、ネット・ベーシスがプラスの値をとるので(この場合のネット・ベーシスは0.015)*38、ショート・ベーシスのポジションをとることで裁定取引を行うことができます。

図4 受渡適格銘柄と各種指標においてチーペストである345回債以外のIRRは非現実的な値をとっていますが、このことは345回債以外の銘柄と先物との間に裁定が働いていない(投資家は7年国債以外の銘柄と先物の間で裁定取引を行っていない)と解釈することができます。この観点からも、345回債がチーペストであることが確認できます。

なお、ここでは少し実務家の観点にたってIRRの例を考えてみましたが、具体的な分析については日銀や金融機関などが実務的な立場からIRRを用いて分析した論文・レポート等が参考になります。たとえば、重見等(2000)では、1999年に生じた現物と先物の裁定関係の悪化についてIRRを用いた分析を行っています。

また、ネット・ベーシスやIRRを計算する際、日本相互証券(Broker's Broker, BB)の引け値や売買参考統計値は15時時点での気配値をベースとしていることから、実際に売買される水準とずれる可能性がある点には注意が必要です*39。例えば、BBの板には、チーペストが売買されたタイミングで先物の価格が刻まれるため、実際に売買がなされたチーペストの価格と先物の価格を用いてIRRを計算し、現物と先物の裁定関係を評価するなどの工夫をすることも少なくありません。

BOX 3 レポ取引:現担レポと現先

日本のレポ市場を初めて触れた者が混乱する点は米国など海外でのレポ取引というとそもそもの名称である「買戻契約」に相当する「現先取引」が普及している一方、日本では長い間、現金を担保とした貸借取引である現金担保付債券貸借取引(現担レポ取引)が普及していた点です。前述のとおり、有価証券取引税の影響等から現先取引が普及しなかったことが背景にありますが、日本ではその特殊性から「日本版債券レポ市場」と呼ばれることもありました(このあたりの歴史的背景に関心がある方は東短リサーチ(2019)が参考になります)。その一方、グローバル・スタンダードに合わせるための努力が続き、2001年からリスク管理面等で改善された「新現先取引」が導入されました。金融機関のシステム対応等を背景に、新現先は普及しない期間がありましたが、2019年には新現先が取引の半分を超えるところまできています。その背景には、特に2019年の「T+1」決済導入以降、銀行等で新現先を使う慣行が普及したことなどが挙げられます*40。

BOX 4 公開市場操作(オペレーション)とレポ取引

量的・質的金融緩和以降の公開市場操作(オペレーション)では、日銀がオークションで国債を購入する国債買入オペ(いわゆる輪番オペ*41)が中心となっていますが、伝統的な金融政策が短期金利の操作であることを考えると、短期金融市場において重要な役割を果たすレポ市場とオペレーションは密接な関係にあります。白川(2008)によればオペレーションは「永続的オペ(長期)」と「一時的オペ(短期)」に分類できますが、国債買入オペは永続的オペと整理できる一方、共通担保オペが代表的な一時的オペとして挙げられます。共通担保オペは国債などを担保に金融機関に一定期間貸し付けを行うオペレーションですが、日銀が実施するGCレポと解釈することもできます。一時的オペには現先オペもありますが、これはその名の通り日銀によるレポ取引(現先取引)と解されます。

近年重要性を高めている一時的オペは補完供給オペです。これは日銀が保有している銘柄を金融機関に貸し出すオペレーションです。こちらは日銀が実施するSCレポと解されますが、近年規模・内容共に改善傾向にあります。Hattori(2019b)や源間・稲村(2019)では補完供給オペが日本国債の流動性にプラスの影響を与えたと評価しています。

なお、海外の中央銀行でも一時的オペとしてレポが用いられています。例えば米連邦準備理事会(Federal Reserve Board, FRB)によるレポ・オペがその代表例として挙げられます。FRBのレポ・オペについては2019年後半、米国レポ市場における混乱をうけ、FRBが実施したオペレーションとして注目を受けました。

4.おわりに

本稿では、国債の現物と先物の裁定に焦点を当てて、日本国債先物について考えてきました。筆者の実感では、7年国債がチーペストになる理由やIRRの解釈などは日本国債先物に初めて触れた者にとって理解しづらい論点です。本稿ではそのメカニズムについて計算例等を用いながら比較的丁寧に解説を行いました。先月に掲載した論文(服部 2020)と本稿により日本国債先物について把握すべき基本的な論点は概ねカバーできたと感じています。

もっとも、日本国債先物において本稿が取り上げていない論点も少なくありません。例えば、タックマン(2012)やハル(2016)などファイナンスのテキストでは仮に裁定が十分に働いていたとしてもネット・ベーシスがゼロから乖離するメカニズムについて議論を行っています。具体的には、先物取引における証拠金の受渡がプライシングへ与える影響やデリバリー・オプションのプレミアムにより、ネット・ベーシスがゼロから乖離する可能性を有しています。また、特定の銘柄を買い占めることから発生する問題(いわゆるスクイーズ)や金融危機の影響など、現実の市場において裁定が働きにくくなる状況を考えることも非常に重要です。次回はこれらの論点について深堀することを予定しています。

*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、財務省、日本取引所グループの関係者等、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。

*2) 例えば、為替レートやオプションは一物一価の法則に立脚して価格形成を考えます。一方、行動ファイナンスのように投資家の心理的要因などを重視し裁定行動が限定的にしか働かないと考える分野もあります。

*3) 池尾(2010)では「資産価格ができるだけ正確な情報を反映するかたちで適切に形成されることの重要性」を指摘しており、資産市場の「情報発信機能」は、「資産市場のいろいろな機能の中でも最も重要なものであるいうのが、標準的なファイナンス理論の考え方である」(p.136-137)と指摘しています。

*4) ダンバー(2001)やローウェンスタイン(2001)などを参照しています。

*5) 本稿では特別記載しない限り長期国債先物を前提に議論を進めます。

*6) 本稿では記述の煩雑さを避けるため、受渡適格銘柄の中で最も残存7年に近い10年利付国債を「7年国債」と記載します。

*7) 小説ではありますが黒木(2008)の第二章では、日本国債先物導入時における現物と先物の裁定を行うシーンが描写されています。

*8) ここではグロス・ベーシスを「現物価格-先物価格×CF」と定義しましたが、現物と先物の価格の乖離という意味では、「先物価格×CF-現物価格」という形で定義しても本質は変わりません。しかし、実際にはグロス・ベーシスを「現物価格-先物価格×CF」と定義することがほとんどです。例えば、多くの書籍(久保田(2012)、太田(2016)、Burghardt and Belton(2005)、Choudhry(2006)など)においてそのように定義されていますし、Bloombergが提供する機能(JBA Comdty DLV)でも同様の定義がなされています。ネット・ベーシスについても同様のことが言えます。

*9) 本稿ではタックマン(2002)などに倣い、キャリーを引くことで調整していますが、「レポ・コスト-金利」を「キャリー・コスト」として定義して、現物価格にキャリー・コストを加える形で先渡価格を定義する文献も少なくありません。

*10) ロング・ベーシスの場合、「現物ロング+先物ショート」というポジションをとっているので、現物の価格が上昇あるいは先物の価格が低下した場合、収益が得られます。

*11) この際、証券会社等が提示するプライスはグロス・ベーシスが用いられます。

*12) インプライド・レポレートを用いてチーペストを計算することもあります。例えば、BloombergのJBA Comdty DLVのデフォルト設定ではインプライド・レポレートが大きい銘柄をチーペストとして計算しています。

*13) クーポンやイールドカーブの形状によって、7年国債以外がチーペストになる可能性がある点には注意が必要です。服部(2020)のBOX 3で指摘しているとおり、クーポンが低い場合、その銘柄のCFが下がります。そのため、例えば、7年国債のクーポンが受渡適格銘柄の中で相対的に低く、現物価格の価格が変わらない場合、7年より年限の長い受渡適格銘柄のCFが大きくなることで、7年以外の銘柄がチーペストになる可能性はありえます。

*14) ここでは先渡注文を受けた際のプライシングの事例を取り上げているため、国債の流通市場のマーケット・メイクを担っている証券会社のトレーダーを想定した例を取り上げています。証券会社のトレーダーは債券を在庫で持ちながら、顧客にプライスを提示することで流通市場を形成しています。トレーダーでなく、ディーラーという表現が使われることもあります。

*15) 通常、日本国債は翌営業日(T+1)に決済を行います。

*16) 文献によってはこの値を「債券先物の理論価格」と記載することもあります。

*17) 本稿では取り上げていませんが、証拠金やデリバリー・オプションによる影響から、仮に完全に裁定が働いていたとしてもネット・ベーシスがゼロから乖離する可能性はありえます。これらの論点は次回の論文で紹介することを予定しています。

*18) アセット・スワップ・スプレッドは金融危機以降、スプレッドが負になるなどの現象が起こっている点に注意が必要です。この点は近年、Jermann(2019)など学術研究でも分析がなされています。

*19) 例えばアセット・スワップ・スプレッドのスプレッド(例えば10年のアセット・スワップ・スプレッド-5年のアセット・スワップ・スプレッド)などを見ます。スプレッドのスプレッドに着目したトレードはボックス・トレードといわれることもあります。

*20) ここでは先物を考えるうえで最低限必要となるレポについて整理しています。レポについてより詳細に知りたい読者はレポトレーディングリサーチ(2001)、稲村・馬場(2002)、東短リサーチ(2019)、笹本等(2020)などを参照してください。また、日本銀行が実施する「東京短期金融市場サーベイ」は我が国におけるレポの動向を把握するうえで非常に有益です。

*21) レポ・レートはレポ・コストを年率の利回りに直した概念です。

*22) 国債を差し出し、現金を調達するケースをレポとして定義する一方、国債を受け取り、現金を差し出す逆の取引をリバース・レポと定義することもあります。

*23) 前田(1998)は「(債券現先取引の)語源については「現時点で先日付の取引を確定する」であるとする説もあるが、定かでない」としています。

*24) 正式には現金担保付債券貸借取引といいます。

*25) この経緯については東短リサーチ(2019)などを参照してください。

*26) マージン・コール等で細かな違いがある点にも注意が必要です。詳細は菅野・加藤(2001)や東短リサーチ(2019)などを参照してください。

*27) 本稿では国債市場におけるベーシス取引に焦点を当てているため、ここでは7年国債との裁定という観点でSCレポ取引の事例を挙げています。もっとも、東短リサーチ(2019)が指摘しているとおり、SC市場における取引の多くは、証券会社のトレーダーがマーケットメイクを行う上で、特定の銘柄のニーズが発生することにより生じる取引です。

*28) 日銀による「わが国短期金融市場の動向—東京短期金融市場サーベイ(19/8月)の結果—」を参照しています。

*29) ここではGCレポを用いた資金調達の例を取り上げていますが、国債の入札では特定の銘柄を在庫として保有するため、SCレポを用いて資金調達をすることもできます。

*30) 例えば、国債の入札の結果、1000億円落札した場合、国債の決済はT+1であるため、翌日財務省に支払いをする必要があります。もっとも、1000億円の国債を落札した場合、その分の国債を保有することができるため、レポ市場にいけばそれを担保にして資金調達ができます。レポ市場もT+1で決済できるため、翌日資金調達ができ、財務省に支払いをすることができます。なお、2年債の入札時など、決済のタイミングが異なるケースがある点に留意してください。また、実際には入札で落札した国債をJGBトレーダーがすべて在庫として保有するわけではなく、事前に注文を受けていた投資家に国債を販売することなどを通じて在庫の整理を行います。

*31) 現物と先物の裁定を行う上で、例えば先物の受渡が2か月先である場合、7年国債を購入するため、2か月間資金調達をしてくる必要があります。ただ、レポ市場はオーバーナイトのような短期調達の方が流動性が高いため、例えば、2か月間、満期が来たらまた借りるというロールをしていくことも少なくありません。

*32) 短資会社とは主に短期の貸借を行う際の仲介業を担う金融機関を指します。詳細は東短リサーチ(2019)などを参照してください。

*33) オプション価格から示唆(インプライ)される変動性(ボラティリティ)であることからインプライド・ボラティリティと呼ばれることもあります。詳細はオプションのテキストを参照してください。

*34) この式はBurghardt and Belton(2005)やChoudhry(2006)を参照としています。Bloombergでは経過利子等について明示した定義式を用いています。

*35) 例えば、Bloombergが提供するJBA Comdty DLVという機能を使えば、CF、グロス・ベーシス、ネット・ベーシス、IRRについて銘柄ごとの一覧を見ることができます。

*36) 東京レポ・レートとは日本証券業協会が公表しているGCレポレートであり、円金利における代表的なGCレポレートです(正式名称は「東京レポ・レート(レファレンス先平均値)」です)。具体的には、国内大手金融機関などが午前 11 時時点のレートを報告し、対象期間ごとに上位および下位15%相当を除いた単純平均値を計算しています。本稿では1か月と3か月のみを紹介していますが、翌日物や1週間先などほかのタームについても公表されています。

*37) 衣笠・長野(2017)はSCレポレートのデータを用いた検証を行っています。

*38) 逆にSCレポレートが-0.206%より低い値(例えば-0.3%)をとると、ネット・ベーシスはマイナスの値をとります。

*39) BBの引け値を使う場合、長期国債の引け値だと最低の刻みは5糸なっており、引け目の刻みが粗いことが実態からの乖離を生み、ネット・ベーシスをゼロから乖離させている可能性があります。

*40) 「T+1」決済に伴い、銘柄後決めGCレポ取引の残高も増加しています。決済の短期化によるレポ市場への影響については日銀による「わが国短期金融市場の動向-東京短期金融市場サーベイ(19/8月)の結果-」や藤本等(2019)などを参照してください。

*41) かつて日銀が輪番方式で国債の買い入れを実施していたことが語源といわれています。

参考文献

[1].衣笠慧・長野哲平(2017)「SCレポ市場からみた国債の希少性」日本銀行ワーキングペーパーシリーズ No.17-J-5.

[2].池尾和人(2010)「現代の金融入門」ちくま新書

[3].稲村保成・馬場直彦(2002)「わが国のレポ市場について-理論的整理と実証分析-」金融市場局ワーキングペーパーシリーズ 2002-J-1.

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[6].久保田博幸(2012)「日本国債先物入門」パンローリング

[7].黒木亮(2008)「巨大投資銀行」角川文庫

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[9].笹本佳南・中村篤志・藤井崇史・仙波尭・鈴木一也・篠崎公昭(2020)「わが国レポ市場の透明性向上のための新たな取り組み―「FSBレポ統計の日本分集計結果」の公表開始―」日銀レビュー 2020-J-1.

[10].重見庸典・加藤壮太郎・副島豊・清水季子(2000)「先物価格とレポレート、銘柄毎の需給によって国債価格は決まる―1999年中の国債市場の動きを理解するために」日本銀行金融市場局『マーケット・レビュー』

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[22].ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい

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