このページの本文へ移動

職員トップセミナー(小泉 文明 氏、令和元年10月7日開催)

講師 小泉 文明 氏(株式会社メルカリ取締役会長)

演題 「メルカリのこれまでの成長の軌跡と今後の戦略」

 

1.はじめに

みなさんこんにちは。メルカリの小泉です。

本日は、スタートアップの話から入りまして、その後のメルカリの成長やその成長の裏側にある消費の変化等をお話ししたいと思っています。

私は最初、金融機関に3年ほどいました。新卒時からずっと投資銀行部門にいまして、主にテクノロジー企業のIPO(新規株式公開)のアドバイスをしていました。その後、自分のアドバイス先であったミクシィに入り、コーポレートを中心に様々な業務を経験しました。そして、そこを辞め、メルカリに入社しました。

このほかにも私が役員として関わった企業は、8社が上場しています。若い会社の経営を早い時期からサポートし成長させていくということをやってまいりました。

2.メルカリについて

(1)メルカリのミッション

メルカリという会社は「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」をミッションとしています。

「新たな価値」とは何でしょうか。人によって、また、タイミングによって価値は変化するものだと私は思っています。ある人にとっては価値がないものでも、別の人には価値がある。今までは、そういうものをマッチングするマーケットプレイスがなかったのです。これを作ることによって循環型社会の実現であるとか、人々の行動を変えていきたい、こういったミッションを掲げています。しかも、それを世界的にやりたいと考えています。

(2)企業概要

メルカリの設立は2013年2月です。創業してまだ6年半ほどの若い会社です。我々は、「世界的な」マーケットプレイスを創るというミッションを掲げていますので、日本に加え、創業の翌年から米国でも事業を開始しています。現在、オフィスは日本に3か所(東京、仙台、福岡)、米国も3か所(サンフランシスコ、ポートランド、ボストン)あります。

東京のオフィスには、1,000人程度の社員がいます。仙台と福岡はカスタマーサポートが中心です。日本全体では1,600名ほどの社員がいます。

米国には200名強の社員がおり、グローバルでは1,800名程度の規模になります。

(3)どういう形で立ち上がってきたのか

ア. 勝者総取りのモデル

マーケットプレイスというビジネスは、勝者が総取りする(Winner-take-all)モデルです。

ソーシャルメディアもそうですし、eコマースもそうですけれども、人であるとかモノ、情報が集まるところにさらに価値が生まれていく、いわゆるネットワークの外部性が働いて、そのマーケットプレイスなりサービスが圧倒的な1位になる。1位しか意味がないというモデルです。

実は、私たちは先発のサービスではなく、後発組です。フリルというベンチャー企業が私たちよりも1年ぐらい前にサービスを開始しています。フリルはのちに楽天が買収して、いまはラクマというサービスになっています。

私たちは最初から、私たちが戦っている土俵はWinner-take-allの構造だと意識し、最初は良いプロダクトを必死に磨く、そしてどこかのタイミングで大規模なプロモーションを仕掛けていき、Winner-take-allのWinnerになるという戦略をとりました。

イ. サービス作りへの注力

私は、経営というのは車の運転と同じだと考えています。左の車輪がプロダクト、右の車輪がPRマーケティング、そしてガソリンとしてのファイナンスがあり、最後にハンドルを握る経営陣がいる。このバランスで車が進む、経営も前に進んでいく、というものです。

そこで、まずは左の車輪であるプロダクトをしっかり作り上げて、徐々に右に車輪であるPRマーケティングに移っていくという形で進んでいこうと考えました。

最初の1年のうち、半年間はサービスを作ることに集中しました。中途半端なサービスを出してしまうと、おそらく、その後のスケールに耐えられないだろうということを見越して半年間じっくりとモノづくりを行いました。

半年かけてモノづくりをした上で、2013年7月、サービスのローンチと3億円程度の資金調達を実施しました。また、最初の1年間はオンラインのマーケティングもやって“PDSA”(plan-do-study-act)を回していくということをやりました。

2013年12月には、アプリのダウンロードが100万ぐらいになりましたが、このタイミングでは社員数はまだ10名ぐらいです。

ウ. テレビCM・カスタマーサポート拠点整備

100万ダウンロードを達成したので、翌年に向けた準備として、資金調達を行おうと考えました。そして、3か月奔走して、ようやく2014年3月に15億円を調達しました。

当時は、商品の売買時に販売手数料を取っていなかったため、売上ゼロです。売上ゼロの社員数10名ぐらいの会社で、さらに他社で先行するサービスがあったという状況だったこともあり、多くの先から資金調達を断られました。しかし、最終的には、私たちのことを信じていただいた先から15億円を調達することができました。調達後、すぐに2つのアクションを起こしました。

1つ目はテレビCMです。このタイミングはまさにマーケティングの勝負時だと信じて、5億円規模のCMとオンラインマーケティングの発注をしました。

2つ目には、仙台にカスタマーサポートの拠点を設けました。CMのヒットを見越して80名規模のカスタマーサポートの拠点を借りました。

2014年5月の連休明けにテレビCMを開始したところ、同月中に100万ダウンロード積み上がり、その後、200万から300万へと伸びました。このタイミングで一気にマーケットの中では「フリマアプリと言えばメルカリだよね。」という評判になりました。2014年5月から6月ぐらいでトップの会社を抜き去り、8月にかけて差が開いていきました。このタイミングではかなりの手応えを感じていました。

エ. 米国進出

このあと米国に進出していきます。スマートフォンのアプリとなると、いやでもグローバルで戦わないと生き残ることができません。そうであれば、早い段階で勝負しようということで、2014年9月には米国でのサービスを開始しました。

オ. 販売手数料の有料化

米国で成功するためには資金が必要になると考え、2014年10月、日本事業で初めて10%の販売手数料をいただくようになりました。同じタイミングで23億円の資金調達を行い、手数料有料化による顧客離れを抑制するために5億円のテレビCMとオンラインマーケティングを新たに投入しました。日本を盤石にしてグローバルで戦う上での資金を稼いでいくため、この10月に一気に仕掛けていきました。

日本での事業は、手数料有料化後もほぼ無風の状況で伸びていきました。ユーザーは、手数料有料化以上に、一番売れるタイミングで売りたいという思いがあったのではないでしょうか。この後、2015年2月にはアプリのダウンロードが1,000万を突破し、1年間で10倍伸びました。

カ. スタートアップの人材の流動性

私も創業者の山田も2回目の経営経験であり「シリアルアントレプレナー(連続起業家)」と呼ばれています。米国を見ていると、スタートアップの人材流動性が非常に高くて、起業5回目、6回目という人ばかりです。日本では私たちが2回目なので、この流動性を高めていかないと、日本のスタートアップの成功率は上がらないと思っています。

また、米国のスタートアップの成功率を見ると、40歳代の経営者が圧倒的に高いのです。米国では20歳代の経営者が成功すると思われがちですが、実は、米国のベンチャーキャピタルも経験や人脈のある40歳代が一番高い成功率なのです。日本でも40歳代での起業をもう少し支援していくことによって、成功率を上げていくことが大切ではないかと思います。

(4)急成長を継続するMAU、GMV

メルカリはこうして成功してまいりましたが、その後も、MAU(Monthly Active User:月間アクティブユーザー数)も1,350万人を超えました。また、GMV(Gross Merchandise Volume:流通高)も現在、月間ベースで400億円の中ほどぐらいです。これは、日本で言うと、Amazonや楽天がおよそ年間2兆円、ヤフーが1兆数千億円であり、5,000億円強の私たちは4番目ぐらいに位置しています。

よくeコマースの中で比較されるのですが、メルカリは、誰かが在庫を持っているというモデルではありません。また、法人が入るモデルでもありません。個人間のマッチングだけで年間5,000億円ぐらいの取引をやっている会社なのです。そういう中でも年率50~60%伸びてきましたし、認知率も私たちが圧倒的に高い状況となっています。

では、グローバル規模のネット企業と比べてどうなのでしょうか。実は、中国のアリババ・グループなどと比較しても流通高は違えど、それ以外の数値は引けを取らない数字になっています。成長率も6割近く、毎日アクセスするユーザーの割合も4割程度になっています。そうした方々による1日当たりの平均商品閲覧数は23品であり、非常に多くの方々が接触頻度高く利用していることが分かります。ユーザーの月間利用時間も5時間を超えています。

(5)購買体験は「検索」から「探索」へ

Amazonや楽天のようなeコマースは、目的買いをするコマースで、サイトに入るときにはもう何を買うかが頭の中にあるのです。安さとか機能で選んでいるので、月間利用時間は1時間ぐらいです。では、メルカリがなぜ5倍の5時間もあるのでしょうか。これはソーシャルメディアとあまり変わらない時間数です。

私たちは、メルカリは「コマースとメディアの中間」だと言っています。eコマースの場合、Amazonや楽天で売っている商品は、基本的に新品もしくはモデルとしては最新のものが多いのです。しかし、メルカリは、5年前、10年前の商品も売っています。消費者は必ずしも新品を欲しいわけではないのです。

メルカリでは、いつの時代の商品にもアクセスできます。しかも、買う際には早い者勝ちなので、常にアクセスしないと、商品があるかないかも分かりません。さらに基本的には、商品は二次流通品なので価格も安いのです。

メルカリはドン・キホーテに近いと思っています。私は、ドン・キホーテの店舗に行くとき、欲しいものは決まっていません。何かお得なものがあるのではないか、というモチベーションで店内に入り、一周して、帰るときには黄色い袋を持っているのです。まさしくこれが今の消費者のトレンドであると思っています。必ずしも効率的に自分の欲しい商品だけを買いたいわけではないのです。

私はよく「検索」から「探索」という言い方をしています。「探索」をして購買体験を楽しむのです。ドン・キホーテやメルカリのように、「探索」のような購買体験で商品を探していくことが伸びていく。これは必ずしも効率性を求めない消費者が増えてきている一つの事例ではないかと思っています。

(6)承認欲求をどう刺激するか

私は、承認欲求が今の消費のトレンドだと思っています。メルカリを使う理由を尋ねるアンケートを取ると、1位は「もったいない」とか「自分の心が満たされる」であり、「金儲け」は決して1位ではないのです。私は、「社会との接点を大切にしたい」とか「自分の商品が他人から認められたことに対する心の潤いを求める」などといった承認欲求が満たされることがメルカリでの滞在時間の長さや評価の高さにつながっていると思うのです。これからの消費は承認欲求をどのように刺激するかが一つのキーポイントになってくるのです。

(7)安心・安全な取引を実現するシステム

出品者が一番おそれていることは「代金が振り込まれないのではないか」ということです。私たちは購入代金が口座に入金されたことを確認して初めて、「支払いがあったので発送してください」という通知を出品者に送ります。つまり、必ず一度メルカリが代金をホールドします。出品者からすると、そこでお金がホールドされるので、代金の取り損ないは起こりません。

商品が発送され購入者に商品が届きますが、違う商品が届くなど、何か問題がある場合には購入者がキャンセルすることによってメルカリがホールドした代金が購入者に戻り、商品も出品者に戻ります。

購入者が商品を受け取ると、購入者が出品者を三段階で評価します。この評価をもって初めて、私たちは販売手数料10%と配送料を引いた残額を出品者にお渡しします。私たちが間に入ることで、出品者、購入者双方が不安を解消して安全な取引ができるのです。

また、出品者も購入者を評価します。双方の評価が累積していくことが、シェアリングサービスを行う我々にとってはとても重要なのです。相互に評価し合うことで秩序が保たれるマーケットプレイスとしてのガバナンスが効いてきます。これは、AirbnbもUberも同じです。

(8)簡単で安価な配送

メルカリには、ラストワンマイル(最終拠点からエンドユーザーへの物流サービス)に「配送」というリアルなサービスが入ります。今では、コンビニやPUDOステーション(オープン型宅配ボックス)のロッカーも対応できるようになっています。QRコードをコンビニ端末にかざすと、自動的にシッピングラベルが印刷され、このラベルを貼るだけで配送されます。このシッピングラベルは、双方の名前と住所が出ない匿名での売買となります。

安価な配送という点に関しては、ヤマト運輸及び日本郵政と法人の契約をしています。「日本全国どこに送っても定額」というサービスです。地域によって配送料に違いが出ると、自分の取り分が変動するので、日本全国どこに送っても通常の配送料より安く、また、定額で送ることができる分かりやすいサービスを提供しています。

(9)ユーザー拡大のポテンシャル

日本において、いわゆる不用品と呼ばれているモノの推定価値は年間7.6兆円あります。私たちの売上は、まだ年間4,000億円や5,000億円程度ですので、まだまだ捨てられているモノがあるのが現実です。そして40歳代、50歳代の方々には、まだメルカリを利用していないポテンシャルユーザーも多いのです。

いろいろとアンケートを実施してみると、今よりも3倍程度の3,600万人まで顧客を増やすことができると考えています。そのためには、次のような取組みを行いたいと考えています。

ア. AIを利用したプロダクト施策

ポテンシャルユーザー掘り起こしのための1つ目の取組みは、AIを利用したプロダクト施策です。AIを使って出品を簡単にするのです。出品予定のスニーカーの写真を撮ると、自動的に「この商品はスニーカーで、メーカーは○○、売れ筋の価格帯は○○円」という情報が簡単に分かるのです。特に、値段の目安が分かることは重要です。多くの方は値付けの経験がないので、こうしたデータを提供することで、あまり悩まずに出品していただけるようにしていきたいと考えています。

買う側に関しても、AIによってホーム画面のパーソナライズができます。私はスニーカーが好きなので、私のホーム画面には靴が多く表示されます。このように、見る人に応じて商品がパーソナライズされるのです。

また、違反出品の検知にもAIが使われるようになっています。

イ. カテゴリー別施策

2つ目の取組みはカテゴリー別施策です。

例えば、私たちは、車検証のQRコードを読み込んで、自動車の出品が簡単に行えるようにしています。書籍の場合にも、裏側のバーコードを読み込むことで、情報が全部出てきますので、10秒で出品できます。このように、テクノロジーを使ってどんどん出品しやすくしていくことに取り組んでいます。テクノロジーで他との差別化を図っていかないと事業は伸びません。

ウ. 幅広い層へのマーケティング

3つ目の取り組みは、幅広い層へのマーケティングです。私たちはネット企業ですが、オフラインのマーケティングにも注力しています。

例えば、私たちは現在、コインランドリーと提携しています。コインランドリーで洗いたての洋服をそのまま撮影できる撮影ブースと、その場で梱包もできる資材が用意されているブースを設置することで、その場で撮影、出品ができるようにしています。

ほかにも、MISTER MINITのような靴やバッグを修理する専門店やハンドメイドやリメイク、包装といった私たちの周辺産業とコラボすることで、出品強化を図っています。

また、NTTドコモなど携帯キャリア各社とともに「メルカリサロン」というものを実施しています。キャリアとしては、従来型の携帯電話、ガラケーの利用者をスマートフォンにシフトさせたいのです。そこで、買い替え促進とメルカリの顧客開拓をセットにした教室を60歳代以上の方を対象に実施しています。こちらは非常に好評で毎回満席となっています。

モバイルペイメントに取り組んでいると感じるのですが、いくらキャッシュレス化が進んでいるといってもデジタル機器に慣れていない60歳代以上の人たちはその恩恵を受けられないのです。これは北欧などで大きな問題になっています。デジタル機器に慣れていない人々をケアしないといけない、情報弱者を出してはいけないということで、私たちとしても様々なオフラインの施策を実施しています。

(10)メルカリの成長の理由

では、なぜメルカリが成長したのか、ということについてお話しします。

ア. 所有から利用へ

1点目に「所有から利用へ」という流れがあるのではないかと思っています。

かつて、大量生産・大量消費で効率的に皆が豊かになった時代においては「所有」に価値がありました。しかし、この2、3年のデータを見ると、中古品を購入する機会が多くなったという人が増加していることが分かります。つまり、今では社会全体が「何でも新品を買う時代」から「循環型」にマインドが変わってきているのではないかと思います。

また、フリマアプリを利用している人にアンケートを実施すると、半分以上の人が「売ることを前提に」新品を買っています。若い人たちは新品を買う前にメルカリの画面を閲覧して、この商品がいくらで売れるかを事前に確認した上で買うのです。そのため、今では、二次流通を意識した上での、モノの売り方、作り方をしなければいけないと思っています。

イ. 承認欲求

2点目は、先ほど述べた承認欲求です。これは、利用の目的がお金目的より、もったいない精神であることです。

ウ. ゲーム要素

そして、3点目は、ゲーム要素です。コミュニケーションや交渉にゲーム要素、中毒性があるのだと考えています。それは先ほども触れたとおり、私たちがコマースとメディアの中間のような存在であることによるものです。

3.メルペイ事業

(1)メルペイの特徴

次に、私たちが準備しているのは、ペイメントです。ペイメントは、Winner-take-allのような1社だけが圧倒的に勝つ状態になることはおそらくないと思っています。私たちのペイメントもあれば、楽天やヤフー、銀行系もあるということです。つまり、併存型のビジネスになっていくのではないかなと予想しています。

メルカリのペイメント、メルペイは何が特徴なのかというと、メルカリの売上や獲得ポイントを活用したキャッシュインです。これは私たちにしかない機能です。

そのキャッシュインしたお金で、利用者にモバイルペイメントを体験してもらうのです。5回、10回やっていく過程で、モバイルペイメントは便利だから、給料の一部はメルペイに入れようかなというように、これまでの習慣は変わっていくことを期待しています。

メルペイの支払いには、QRコード又はバーコードによるコード払いと非接触型決済「iD」による支払いの2つがあるので、多くの店で使えるというのが特徴的です。

PayPayなどは、加盟店開拓に力を入れていますが、私たちは、そこでの勝負はあまりしなくていいかなと思っています。私たちは、どちらかと言うと、ユーザーサイド、消費者サイドの行動を変えるほうを差別化のポイントに置いています。

メルペイは、2019年2月にサービスを開始して、125日間で登録者数200万人を突破しました。今も順調に伸びてきています。

(2)メルカリとメルペイのシナジー効果

次に、メルカリとメルペイのシナジー効果についてお話しします。

メルペイの決済手数料のみで稼ぐのは、なかなか難しいことです。他方、メルペイを使えば使うほど、メルカリでモノを売ろうという方も増えるはずです。メルカリはちゃんと手数料10%をいただくので、メルカリでモノの売買が増えていけば、グループ連結としてはちゃんと収支が合います。こういう説明をしながら、メルペイへの投資をある程度、合理的に説明できるようにしています。

あとは、メルカリでは、出品者と購入者がそれぞれを評価していますので、そういうレーティングの情報で信用が「見える化」すると、新しいクレジット・スコアリングの形ができるのではないかと思っています。メルカリでのレーティングを通じて、例えば、主婦や学生など、今までお金が向かわなかった人に対して、ちゃんとスコアリングができてお金が向かう仕組みや社会を作っていきたいと思っています。

4.米国での事業展開

現在、米国での事業は、年率70%くらい伸びてきている状況です。イメージとしては、日本での事業規模に比べてゼロが一つ少ないといったところです。ぐぐっと伸びて、落ちて、今はまたぐっと伸びています。最初にぐぐっと伸びた時には、App Storeのアプリダウンロードランキングで全米3位までいきました。キャンペーンが大いにヒットし、とてつもなく伸びたのです。しかし、フィリピンにあるカスタマーサポート拠点のオペレーションがパンクするという大失敗があり、落ち込んでしまいました。

その後、オペレーションを作り直して、今は年率70%で伸びてきています。App Storeのレーティングでもほとんどのユーザーから5つ星をいただき、競合アプリと比べても一番良い評価を得ています。私たちとしても、ようやくプロダクトの満足度が上がってきたところかなと思っています。

ここからPRマーケティングを徐々に踏み込んでいき、今の70%成長というのを更に加速していく流れにもっていきたいというのが、現在の米国事業のフェーズです。

5.鹿島アントラーズへの経営参画

(1)約62%の株式取得

メルカリ、メルペイ、米国での事業に次ぐ4本目の柱として、鹿島アントラーズへの経営参画についてお話しします。

鹿島市自体は6万7,000人ぐらい、ホームタウンを全て足しても20万人ぐらいの小さいエリアです。そこにJリーグで圧倒的な実績を残す鹿島アントラーズがあるのです。2019年7月、私たちはアントラーズの約62%の株式を取得し、経営に参画しています。

(2)経営参画の狙い

私たちは、アントラーズの経営参画で何をやりたいのでしょうか。

ア. 顧客層の拡大

1つ目は、アントラーズと相互に顧客層を拡大することです。

現在、Jリーグの課題は、ファンの高齢化です。Jリーグのファンの平均年齢は現在42歳です。Jリーグ創設時からきれいに上がっています。一方、メルカリのユーザー層は若い女性が中心です。相互に得意とする対象が異なっているので、それぞれのユーザーやサポーターが行き来するような形になれば大きなメリットがあるのではないかと思います。

イ. ブランド力向上

2つ目は、ブランド力向上です。

私たちはまだ創業から6年半の若い会社ですので、日本を代表するアントラーズのブランドを活かし、メルカリのブランドも固めていきたいのです。

ウ. ビジネス機会の創出

3つ目は、ビジネス機会の創出です。

私たちは、アントラーズを通じて、スポーツビジネスだけではないことをやっていきたいと考えています。これは大きく分けて2つあります。

●エンターテインメント

まずは、エンターテインメントです。エンターテインメントビジネスであるスポーツとテクノロジーとの掛け算は、とても相性が良いのです。

今後、テクノロジーが進化すると、週休3日など、働かなくなる社会になったときに、スポーツや音楽といったエンターテインメントが、人々に潤いや豊かさを与えるのに欠かせなくなってくるでしょう。そういう状況において、5G(第五世代移動通信システム)、もしくはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)をはじめとしたテクノロジーは確実に伸びると思っています。

●地域

次に、地域です。地域とテクノロジーの掛け算も絶対伸びます。これから5Gが入ってきます。そして、これからの社会は「アンビエント社会」になっていきます。つまり、私たちはこれから常時接続のネットワークの中で生活していくようになる。そうなると、良くも悪くも、私たちの行動が全部データ化される、もしくは「見える化」されていくわけです。今後、テクノロジーがリアルな社会への変化に対して寄り添いやすくなっていきます。リアルな生活が、全部テクノロジーでネットワークの中につながったときに、すごく生活は変わります。私は、鹿島を中心としたホームグラウンドをテクノロジーで地域課題を解決する一つの実証実験の場にしたいと思っています。

地域にアイコンとしてのサッカーチームがあるので、住んでいる人からも「アントラーズがやるのなら応援しよう。」と理解をいただける、また、私たちとしても地域にスムーズに入っていくことができるのではないかなと思っています。

6.メルカリのESG

メルカリのESGについてお話しします。ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)のことです。企業が長期的に成長していくために必要な3つの視点です。

最近、私たちは、ESGのレポートを初めて出しました。そのレポートでは、循環型社会の実現や循環型社会の実現に向けた文化醸成・教育など、5つの重要な課題を設定して投資家に説明しています。循環型社会の実現をビジネスの形で行い利益を上げている会社というのは、世界的にも少ないので、この点は評価いただいているところかなと思っています。

7.個人がエンパワーメントされる社会へ

「今後、どういう社会になるのか?」と、よく聞かれます。これに対し、私は「テクノロジーで個人がエンパワーメントされる社会になる」と説明しています。今までの資本主義社会では、個人が社会に合わせていた方が、効率的に皆が豊かになれました。

しかし、今後は、テクノロジーの発展により、例えば、SNSでの情報発信など、どんどん個人がエンパワーメントされてイニシアティブを持つようになります。そして、その人がその人らしく、人生を送ることができる社会になっていくと思うのです。

おそらく、これからの社会というのは、この切り口で多くの課題が解決できるような形に変わっていくのではないかと思っています。また、そういう社会になっていってほしいなと思っています。

8.さいごに―メルカリのカルチャー

最後にメルカリのカルチャーについて簡単にお話しします。

通常、企業の福利厚生は、基本的には全社員に平等な福利厚生です。

しかし、メルカリの福利厚生の考え方は、普通の会社の考え方と真逆です。メルカリは、ダウンサイドについては会社が徹底的にケアをします。何かあったら会社が面倒を見るので、徹底的に働いてほしいのです。産休や育休中、介護休暇中の給料を会社が保証しています。また、全社員の死亡保険にも会社が入っています。

一方、アップサイドは全くありません。アップサイドはむしろ実力主義であり、年功序列でも当然ないのです。また、家賃補助の類もありません。

家族のケアを会社がやらなければ、今の若い人は応募しません。こうしたことをやることで、私たちは採用の競争力をきっちりと持ちたいと思っています。

私からは以上になります。ご清聴ありがとうございました。

講師略歴

小泉 文明(こいずみ ふみあき)

株式会社メルカリ取締役会長

早稲田大学商学部卒業後、2003年大和証券SMBC(現・大和証券)入社。投資銀行本部にてインターネット企業の株式上場を担当した後、2007年ミクシィ入社。取締役執行役員CFOに就任しコーポレート全体を統括。

ミクシィ退任後、ベンチャー企業を数社支援し、2013年12月メルカリ入社。2014年同社取締役、2017年取締役社長兼COOを経て、2019年9月、取締役会長に就任。

このほか、2019年8月、J1プロサッカーチームの鹿島アントラーズを運営する株式会社鹿島アントラーズFC代表取締役社長に就任し、様々な改革を実践中。