このページの本文へ移動

コラム 経済トレンド68

近年の雇用環境と人手不足について

大臣官房総合政策課 調査員 石神 哲人/葭中 孝

本稿では、近年の雇用動向を踏まえて、人手不足の背景と今後必要とされる方向性について考察した。

近年の雇用環境

・足元の雇用環境をみると、雇用者の増加基調が継続している。背景には、女性の社会進出やシニア再雇用の拡大がみられる。また、失業率もバブル期に匹敵する低い水準となっており、総務省が「完全雇用に近い状況にある」との見方を示すなど、雇用環境は着実に改善している(図表1 雇用者数・完全失業率、図表2 雇用者数の増加内訳)。

・他方で、15歳~64歳以上人口が減少傾向にある中で、潜在的な雇用者数の増加には限界があり、長期的に雇用者数が増加し続けることを期待できるわけではない(図表3 15歳以上人口の推移)。

人手不足といわれる状況

・雇用環境の改善の背景には労働需要の高まりがあり、新規求人数は2010年頃より増加傾向にある。同時に有効求人数も増加傾向にあり、求職者数の伸びを上回る求人の伸びが見られる(図表4 新規求人数と有効求人数)。

・企業のマインドを反映する雇用人員判断DI(全規模全産業)は、バブル期以来の水準に迫っており、特に中堅企業や中小企業において、人手不足感がより顕在化している(図表5 雇用人員判断DI)。

・近年の倒産の中には、求人難や従業員の退職を理由とするものが、件数は少ないものの徐々に増加している。企業側にとっては、人手不足が経営に大きな影響を与えるようになっている(図表6 人手不足関連倒産件数)。

人手不足の背景

・人手不足の解消のためには、非労働力人口の労働力化も重要であるが、ここでは求人・求職のそれぞれの立場での「不一致」に注目してみたい。

・職業別に有効求職者数と有効求人数の差をとると、一般的な事務職では、求職が求人を上回っている。一方で介護サービスや販売の職業、飲食物調理の職業などで求人が求職を上回り、人手不足感が強く出ている。一定の経験や技能が要求されたり、勤務時間が不規則な対人サービスなどで、高い報酬を得ることが難しい業種においては、人手不足の状況が生じやすいと考えられ、実際に、業種によって人手不足感のばらつきも大きいようだ(図表7 月間有効求人数と月間有効求職者数の差(職業別))。

・実際に、求職を行っていない者にその理由を尋ねた調査結果を見ると、賃金・給料が希望とあわないという理由に加え、「希望する種類・内容の仕事がない」や「勤務時間や休日」が挙げられている。求人が求職を上回るサービス業においては、休暇が希望とあわないことや、勤務時間が求職者側の希望と合致しないこともあるため、人手不足の背景には、労働力人口の減少だけではなく、賃金以外の求人条件と求職条件の不一致も影響しているようである(図表8 仕事につけない理由別の失業者割合)。

今後必要とされる方向性について

・企業側では、近年、働き方改革などの取組みが推進されている。残業規制の強化・徹底や有給休暇取得などの改革は進められているが、柔軟な勤務時間や休日の設定といった改革については、まだ途上であることも窺える。多様な働き方を可能とするための柔軟性拡大は、企業側として、より強く意識する必要がありそうだ(図表9 働き方改革の施策の導入率、図表10 働き方改革の具体的な取組み)。

・もちろん、こうした取組みを拡大しつつ、求職者側が希望する賃金水準を実現するためには、柔軟な働き方の下でも高い付加価値を生み出すための工夫や、労働生産性を向上させる企業努力も必要不可欠である(図表11 労働生産性と賃金の関係)。人手不足の業種において、状況を改善するためには、求職者の求める多様な働き方にも配慮しつつ、生産性向上によって、より良い求職条件を提示していくことで、求職者の希望する条件との乖離を埋めていくことが求められるだろう。

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。