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コラム 経済トレンド66

転職と日本型雇用

大臣官房総合政策課 調査員 村田 亮/尼崎 謙

本稿では、近年における転職者の動向及び企業等が抱える課題について考察した。

雇用環境について

・近年、日本経済が回復基調で推移する中、失業率が低水準に推移し、有効求人倍率が非常に高い水準で推移する等、雇用情勢は着実に改善している(図表1 有効求人倍率と完全失業率)。

・また人手不足の深まりに伴う労働者の待遇改善等もあり、転職者数も増加している(図表2 雇用人員判断DI(全規模)、図表3 転職者数と転職比率)。

転職者数の推移

・転職者数の推移をみると、年齢別では、55歳以上は一部定年後の再雇用が含まれていることに留意する必要があるが、45~54歳の中高年者の伸び幅は特に高くなっている(図表4 年齢別転職者数)。転職活動の動きは中高年者にも広がっていることが窺える。

・雇用形態間の移動では、非正規から非正規の割合が一番高いことには変わりないが、近年の特徴としては、正規から正規への転職者数が増えている(図表5 雇用形態間の移動(過去1年間の離職))。

・前職を離職した理由をみると、雇用情勢の改善を受け、より良い労働条件を求めての転職が増えており、前向きな理由による転職者が増加している(図表6 前職を退職した理由(過去3年間の離職))。

転職者数増加の背景

・転職者数増加の背景としては、景気回復をにらみ採用を積極化したことや異業種や専門人材確保のため、企業が若手だけでなく経験豊富な管理職などを外部から登用していること等が指摘されている(図表7 会社が転職者採用で重視した要素)。

・労働者サイドにおいても、転職や起業が珍しくなくなっている状況下、転職後に賃金が上昇した割合が増えていることも転職を決意する人が増えている要因と考えられる(図表8 転職入職者の賃金変動状況)。

・そのような中、転職希望者については、2012年までは概ね横ばい圏内であったものの、直近では大幅に増加している(図表9 転職希望者の推移)。希望する条件の求人がないため転職に至っていない「転職予備軍」の存在も指摘されており、今後の条件改善次第では、転職希望者が一気に転職市場に参入してくる可能性がある。

企業等の課題

・転職者数増加の傾向は、社会としての人材活用という観点等からポジティブに捉えられる。他方、その裏で日本型雇用が構造的な問題を抱えている可能性がある。

・現在、中高年者の賃金は、以前の世代のような賃金水準を得られなくなってきている。賃金カーブのフラット化は、労働者にとっては、想定していたよりも賃金が増加しない、あるいは今後の賃金増加を期待できなくなるため、同一の企業に勤続するインセンティブを損なう可能性がある(図表10 賃金カーブの推移)。

・また、健康寿命の延びや将来不安の中、定年延長等による働く期間の延伸は、多くのミドルがキャリアプランの見直しのきっかけになると回答している。自身の能力を長い期間活かせるキャリアを検討し、転職が増える可能性が考えられる(図表11 定年延長はキャリアプランを見直すきっかけになるか、図表12 「図表11」で「はい」と回答した方が、どのような見直しを検討しているか)。

・労働者サイドのキャリア観の変化に対し、新卒を一括採用し、長期的な人材投資で育成し、終身雇用する日本型雇用は変革を迫られているといえるだろう。今後、企業等には多様な人材を活かすためにも、勤労意欲を上げるためのインセンティブ設計の再構築や多様な働き方ができる環境整備を期待したい。

(出典)総務省「労働力調査」、厚生労働省「一般職業紹介状況」、「転職者実態調査」(2015年)、「雇用動向調査」、「賃金構造基本統計調査」、日本銀行「全国企業短期経済観測調査」、エン・ジャパン「ミドルに聞く『定年延長』意識調査」(2019年1月)

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。