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ファイナンスライブラリー:久保田 勇夫 著『「令和への提言」政と官-その権限と役割』

産経新聞出版 2019年8月 定価 本体1,500円+税


評者 佐々木 豊成

この本は、西日本フィナンシャルホールディングス会長の久保田勇夫氏が、産経新聞の九州・山口特別版の「一筆両断」に寄稿した自身のエッセイを再構成したものである。

著者は、昭和41年入省で私の10年先輩である。私が入省した頃、文書課の久保田補佐は、頭が良くて仕事ができるばかりでなく、いつも笑顔で行動力に溢れ、当時から後輩の教育に熱心な方だった。

ところで、本書のベースとなっている考えは、久保田氏の17年前の本「役人道入門-理想の官僚を目指して」(中央公論社から2002年3月刊、2018年11月中公新書ラクレで新装版刊)にまとめられている。その本のキャッチ・コピーが当時、「役人は首をタテに振らずナナメに下ろす」だったことを覚えている。新装版の帯には、「信用失墜の今、元財務官僚による渾身の書を緊急復刊」と書かれている。

本書は「役人道入門」のベースの上に、政と官をめぐる最近の状況を踏まえて書かれている。第1章の「政と官-役人道論」の最初に掲載されているエッセイ、『「政」と「官」-その協調関係と緊張関係』に本書のメインテーマが端的に集約されている。前著の「役人道入門」がもっぱら官僚組織の組織人としての行動原理を説いていたのに対し、本書では政と官の相互関係が明確に意識され、前著(2002年)の直前に実施された中央省庁の再編や最近の公務員をめぐる事件を念頭に置いて書かれている。

次の第2章「回想の政治家たち」は田中角栄、竹下登、宮澤喜一という元総理との公私の付き合いを書いたものだが、そこでは当時の「政」と「官」の関係が具体的な人物を通じて見える。

以下、第3章「プラザ合意」、第4章「日米交渉」は自身の体験を踏まえたリアルな記録であり、ここでも「政」と「官」の役割に触れられている。また、プラザ合意がバブルの原因となったという一般的な見方に対する著者の疑問には説得力がある。

第5章「世界経済」、第6章「アジア経済と日本」、第7章「わが国の経済政策」は、その後の経済の推移を見ると、著者の見立てが当たっていることに驚かされる。

最後の第8章「次世代へ-国際化論」では、我が国の「国際化」に真に必要なものについて、直接体験、論争能力、歴史への関心、使える英語など著者の実体験から具体的に提示されている。

なお、本書全体を通じて、「政」と「官」の関係以外の内容も豊富であり、広い視野から物事を見るうえで大いに助けになる本である。

ちなみに、本書が役人経験のない人にどのように受け止められるのかを知りたいと思い、私が所属する生命保険協会の複数の職員に読んでもらったところ、以下のような感想が寄せられた。「役人経験がなくとも、内容は十分理解できる。」(若手)、「官僚としての矜持を感じ、公務員がいかにあるべきかを読者に考えさせる。とかくネガティブに論評されがちな「官」に対して、信頼に足るものと感じさせる。」(幹部)、「著者が『まえがき』で述べている『我々の世代の果たす役割』が自分自身にとって一体何なのかを改めて考えさせられる契機となった。」(若手)

全くの私見ながら付言すれば、今回の「令和への提言」や前回の「役人道入門」の底に流れているものは、人間どうしの「信頼関係」の大切さではないかと思う。組織内の信頼関係、交渉相手との信頼関係、「政」と「官」の信頼関係、外国首脳との信頼関係、そして「官」と国民との信頼関係。組織人として求められる能力や技術を磨きぬくことは当然であるが、人と真の信頼関係を築くことの大切さを本書は語りかけているように感じる。

最後に、この書評は、「他者の文書を行間、紙背に至るまでとことん読み込んだ上で、正確な文書をギリギリと詰めて書く」という役人道水準にほど遠いと思うので、是非とも皆さんご自身が一読されることをお勧めしたい。