このページの本文へ移動

徳島産すだち輸出倍増計画てんまつ記~地方創生の「ガチな」現場から~

徳島県庁 経営戦略部長 久山 淳爾

0.初めに

徳島県が全国シェア1位を誇る柑橘「すだち」。欧州でのすだち需要が高まっていることを聞きつけた筆者は、輸出量を倍増しようと画策したが、結果的にそうはならなかった。しかし、もう一つの目的である「農福連携(農業と福祉の連携、障がい者雇用)」には一定の道筋をつけた。

本稿は、農産品輸出の現場に文字通り「手を突っ込んでみた」記録と、その後のリベンジを目論む、現場からのリアルな報告である*1。

【目次】

1.すだちブームに乗れ!in 欧州

2.欧州輸出の高い壁-2つのハードル

3.人手が足らん!

4.「農福連携」のモデルケースへ-支援学校の実習を組み込む

5.前年の2倍のすだちを確保!→まさかの結果

6.来年に向けたリベンジ計画-政策の相乗効果を目指して

7.最後に-もう一つの究極の目標

1.すだちブームに乗れ!in 欧州

(1)すだちって何?

読者諸氏はそもそもすだちをご存知だろうか?ゆずやかぼすは聞いたことがあるが、すだちはよく知らない、という方もおられるかもしれない。すだちとは、これである(写真1。なお、筆者が11月下旬に徳島市内のスーパーで買った際、一袋(18個)150円であった。)。

ゆずより一回り小さい柑橘で(直径約4センチ。ゴルフボールくらいの大きさ)、半分か四分の一に切って絞ると大変さわやかな香りが楽しめる。収穫時期は8~9月が最盛期で、国内収穫量の実に98.5%がわが徳島県産であり(平成28年)、県の花、徳島県民の歌*2、県のマスコット(すだちくん)にも採用されている(写真2。ちなみに、すだちくんは1993年(平成5年)の東四国国体から登場しており、最近のポッと出のゆるキャラとはキャリアが違うことを付言しておきたい。県民の人気も圧倒的である。)。

主に焼き魚やお酒に使うことが多いが、「何でもかける、味噌汁にも入れる」という県民の声も聞かれる。なお、サイダーやコーラに絞って皮ごと入れるのが筆者のお薦めである(写真3)。

写真 (写真1)すだち

写真 (写真2)すだちくん

写真 (写真3)すだちサイダー

(2)欧州でのすだちブーム

主に県内または関西圏で使われることが多いすだちであるが、2016年(平成28年)にすだち史に銘記されるべき出来事が起こる。同年12月のノーベル賞授賞式のディナーにおいて、すだちを使ったムースが供されたのである。これに反応したのがフランスはじめ欧州のトップシェフ達で、「YUZU(ゆず)は知っているが、この新しい柑橘は何だ? すごくいい香りじゃないか!」と大いに関心を持つに至った。

その結果、表1 (表1)欧州向けすだち輸出量の推移にあるように、すだちの欧州向けの輸出量は大いに伸び、既に欧州で先行していたゆずに次ぐ柑橘として輸出拡大が大いに期待されている。

本年5月頃、「欧州ですだちがブームになっている。去年の輸出量は1トンだったが、倍くらいの需要はあるらしい。」との話を聞きつけた筆者はごく単純にこう思った。

「県内の収穫量は年間約5000トンもある。なら、あと1トンくらいは輸出に回せるはずだ。よし、俺が直接指導してやろう!」

2.欧州輸出の高い壁-2つのハードル

しかし、欧州への柑橘の輸出には検疫の高いハードルがある。それは、

(1)欧州輸出用に認定された圃場(農地)から収穫されたものでなければならないこと、

(2)実際の輸出作業の際、検疫所の立ち合いの下、指定された薬品に指定された時間浸して殺菌しなければならないこと、の2つである。

(1)指定圃場

まず、柑橘類に卵を産みつける「ミカンバエ」(写真4)という虫がそのすだち農園にいないことを、「フェロモントラップ(写真5)」という罠を使って証明しなければならない(ミカンバエの欧州への侵入を防ぐため)。それが証明された圃場だけが欧州向けのすだちを収穫してよいことになる。

つまり、「すだちさえあればいい、どのすだちでもいい」というわけでなく、特定の農地のすだちのみ、輸出が可能なのである。

写真 (写真4)ミカンバエ

写真 (写真5)フェロモントラップ

(2)薬品による殺菌

次に、実際に収穫されたすだちに対して、検疫所の立会いの下、「次亜塩素酸ナトリウム」という薬品の溶液に2分間漬け、「カンキツかいよう病菌」を殺菌しなければならない。小学校の水泳の授業でプールに入る前、小さなプールに入って消毒をしたという経験のある読者諸氏もあるかと思うが、「次亜塩素酸ナトリウム溶液」とはそれである。

カンキツかいよう病菌とは、植物に写真6のような症状を引き起こすもので、ひどい場合は樹木の枯死をもたらす。

実際の作業は写真7の通り、かごにすだちを入れて次亜塩素酸ナトリウム溶液の入った水槽に2分漬ける(横で検疫所の職員がストップウォッチで時間を計っている。)。これが結構重く大変である。その後、取り出して乾燥させ、一つ一つ布で拭き、箱詰めして出荷ということになる。

なお、当然ながら、上述の2つの手続きは国内に流通の場合は必要はない。また、カンキツかいよう病で見た目が悪くなっていても中のすだちの味には特に大きな影響はない。

写真 (写真6)カンキツかいよう病が発生したすだち

写真 (写真7)次亜塩素酸ナトリウムの浸漬作業(カゴを持って作業しているのは筆者)

3.人手が足らん!

さて、本年の状況であるが、上述の指定圃場は県内に5か所あり、7月の時点で合計2トン程度の収穫が見込まれていた。これだけ見れば去年の輸出量(1トン)から増えるじゃないか、というところだが、一つの問題が発生する。

それは「人手不足」である。全国的に人手不足が問題となっているが、農業の現場においては特に深刻である。また、8~9月の時期に各農家が一斉に収穫作業を行うため、いずれの農家も上述の検疫作業や箱詰め作業に割ける人員は少ない。

そんな中で輸出量を増やそうというのであるから、取扱業者(輸出業者や地域商社)からは「人手が足りません。このままだと輸出が増やせないかもしれません。何とかなりませんか。」という声が聞こえてきた。折角の輸出拡大のチャンスを人手不足で逃すわけにはいかない。さて、どうする?

4.「農福連携」のモデルケースへ~支援学校の実習を組み込む

そこで考えたのが、「障がい者の就労の場としての活用」すなわち農福連携である。このすだち輸出の諸作業のうち、次亜塩素酸ナトリウムに浸す作業は重労働であり、また危険を伴うものであるが、すだちを拭いて箱詰めを行うといった工程には大きな危険はない。よってこの作業に障がい者の方にも参加してもらうことした(なお、「先ず隗より始めよ」で筆者も休暇を取って作業に参加した。)。

具体的には、作業を行う「徳島県立農林水産総合技術支援センター」(徳島市に隣接する石井町に所在)近くの「国府支援学校」の生徒さん二名に、実習の一環として参加して頂いた(写真8、9)。

彼らは一つ一つの作業を大変丁寧、熱心にやってくれ、一緒に作業を行った輸出業者からも評価は非常に高く、来年は実習に参加する人数を倍以上に増やしてほしい、との声も聞かれたところである。

写真 (写真8)拭き取り作業を行う支援学校の生徒

写真 (写真9)箱詰め作業を行う支援学校の生徒と視察に訪れた飯泉徳島県知事

5.前年の2倍のすだちを確保!→まさかの結果

さて、こうして支援学校の生徒さんの協力もあって人手不足の問題もクリアでき、昨年の倍の2トンのすだちを輸出用に持ち込み、本年は「すだち輸出倍増!農福連携の成功事例!」と高らかに謳い上げることを筆者はこの時点で確信していた(写真10)。

写真 (写真10)輸出用のすだち(計2トン)を前に喜ぶ筆者

しかし-、

結果として輸出量は2倍にならず、昨年とほぼ同量にとどまった。なぜか?

確かに2トンのすだちを輸出作業に持ち込んだ。しかし、その約半数に既にカンキツかいよう病が発生してしまっており、検疫で弾かれてしまったのだった(病気が発生してしまったすだちは輸出できず、発生していないすだちのみ、殺菌の上輸出可能。)。

本年8月15日、台風10号が西日本に襲来し、徳島県にも被害をもたらした。指定圃場のすだちに大量の落果こそなかったが、風ですだちの実がこすれ、傷がついてしまった。その部分にカンキツかいよう病菌が侵入していたのだった。収穫直前に台風が襲来したため、この時点では手の施しようがなかったのである。

6.来年に向けたリベンジ計画-政策の相乗効果を目指して

さて、以上のように本年は農福連携のモデルとして、また、障がい者就労支援の場としての一歩は踏み出したが、輸出の倍増とまでには至らなかった。

しかし、依然として欧州ではすだちを売り込むチャンスがある。この機会を確実に捉えるため、筆者は県庁内に「すだち輸出新未来化プロジェクトチーム(仮)」*3を発足させ、以下の事業を展開中である。

(1)登録圃場の拡大、欧州での更なる市場の開拓

需要はあるのに輸出に回せていない、ならそもそもの輸出量を増やさなければならない。天候はいわば「所与の条件」として、仮に来年も台風が来て半分ダメになったとしても、輸出に回せるだけの十分なすだちをそもそも確保しておかねばならない。ということで、指定圃場自体を増やすことがまず必要になる。

これはもう、個別に生産者を回ってお願いするしかなく、筆者も農林水産部の担当者と手分けをして、生産者に直接、欧州でのすだちの可能性を説明に上がっているところである。

加えて、欧州でより多くの人にすだちを認知してもらう必要があるため、本年11月5日にパリにて「とくしま食材サロン会」を開催した。ここでは、フランスのトップシェフやパティシエに徳島の食材(すだち、鳴門金時、わかめ、蓮根など)を使った料理を作ってもらい、現地のシェフ、バイヤー等、約80名に参加してもらった。評価は上々で、さらなる需要拡大が期待される。

(2)農福連携のさらなる深化

本年は近隣の支援学校1校に実習として参加してもらったが、上述のように業者からさらに参加者を増やしてほしいとの要望もあったところであり、障がい者の方の就労支援の場をさらに拡大するため、全県の支援学校に参加を呼びかけることとしている。実際は移動距離の関係で近隣の学校ということになろうが、可能なところから農福連携をさらに深化させていきたいと考えている。また、実習だけでなく、障がい者雇用を図っていくことも計画している。

(3)深紫外LEDの開発

LEDの光の中でも、特に高エネルギーを持つ「深紫外」という波長の光は、細胞中のDNAに直接影響を与えることができ、菌やがん細胞のDNAにも効果を発揮できる(平たく言うと、「菌でもがん細胞でも殺せる」。)。そして、徳島県はLED産業が盛んな地でもある。

これに目を付けた筆者は、徳島大学ポストLED研究所に「深紫外LEDをすだちの殺菌に使えませんか?」と持ち掛けた。

同研究所の永松謙太郎・特任准教授から「是非やらせてほしい」とご快諾を頂き、同准教授をはじめとする開発チームにおいて、かいよう病菌への照射実験や装置の開発を近く行う予定である。

上記の検疫作業のうち、次亜塩素酸ナトリウムへの浸漬・乾燥は結構な重労働であり(筆者も危うく腰を痛めるところだった。)、この工程を深紫外LEDで殺菌できれば(例えばベルトコンベヤー上をすだちを転がし、深紫外LED光を照射するなど)、作業は相当楽になる。また、無農薬で殺菌できるということにもなる。

また、開発が成功すれば、すだちだけでなくみかんやゆずといった他の柑橘の殺菌にも転用が見込まれ、他分野への波及効果が期待されるところである。

このように、このプロジェクトは単に農産品の輸出拡大だけではなく、農福連携・障がい者雇用のさらなる拡大と、地元大学のLED技術の開発・転用といった、複数の政策を統合運用し、政策の相乗効果を図るところがミソである。

7.最後に-もう一つの究極の目標

上述のように、来年の輸出拡大に向け、様々な手段を講じているところであるが、もう一つ大事なことがある。本プロジェクトの究極の目標と言ってもいい。

県内には、すだちはなっているのに、人手不足や高齢化で収穫できずに放棄されているすだちが大量にある(筆者の推測では100トン以上。)。欧州ですだちが晴れて広く認知されれば、こうした「未収穫すだち・放置すだち」を果汁で輸出に回したいと考えている。生果はどうしても検疫のハードルが高いが、果汁はそこまでではない(そして、無農薬でもある)。また、利益率も果汁のほうが生果より高い(ざっと倍くらい)。

そして何より、現在活用されていない地域の潜在資源・放置資源を活用することは、原価ゼロで価値を生み出すことであり、いわば「トラッシュ(ごみ)をキャッシュ(お金)に変える」という、最も投資効率の高い事業ともなる。

これらがうまくいけば、単なる掛け声や「イベントやりました」「予算取ってきました」「計画策定しました」だけでは終わらない、「実を伴った」地方創生の新たなロールモデルを示すことができると考えている。

さて、どういう結果となるか-。結末はまたご報告したいと思う。

*1) なお、本稿のうち、将来の見通しや目標等にかかる部分はあくまでも筆者の個人的な見解や希望であり、筆者が属する組織の公式見解ではない。

*2) 「♪さわやかさ すだちの香り さわやかさ 鳴門の潮よ」との歌い出しで始まる。冒頭からすだち推しである。

*3) メンバーは農林水産部、教育委員会、政策創造部(企画部門)、徳島大学など。

【著者略歴】

平成12年大蔵省(現財務省)入省。理財局総務課・政策調整室長、同財政投融資総括課・企画調整室長、在ベトナム日本大使館一等書記官、国際局為替市場課、金融庁検査局等を経て、平成30年より徳島県庁に出向中。徳島県庁では、保健福祉部長を経て令和元年より現職。英・ケンブリッジ大学大学院修了(国際金融論・通貨危機論)。

写真 (写真11)徳島大学ポストLED研究所・永松准教授(左)と筆者