現在位置 : トップページ > 広報・報道 > 広報誌「ファイナンス」 > 令和元年11月号 > 夏季職員トップセミナー(本間正人氏、令和元年8月2日開催)

夏季職員トップセミナー(本間正人氏、令和元年8月2日開催)

講師 本間 正人 氏(京都造形芸術大学副学長)

演題 コーチング〜役職者の役割〜

 

1.教育学から学習学へ

(1)人間は学ぶ存在

おはようございます。本間正人です。

本日の内容はコーチングですが、その前に、「教育学から学習学へ」という話を少ししたいと思います。

学習学というのは、あまり皆さんお聞きになったことはないと思うのですけれど、私がつくった考え方です。登録商標も私が持っています。

生物学では人間は「考える存在」、経済学では「経済的合理性に基づいて行動する存在」だと定義されます。

しかし、そもそも人間は学ぶ存在です。人間には先天的に学ぶ力が備わっているのです。この「学ぶ存在」だという見方の方が、より本質的な人間の定義ではないかと思うのです。

コミュニケーションに関しても、教わること以上に自ら学ぶことの方が大きい。人間は「生まれてから死ぬまで学び続ける存在」なのです。

私は、最終学歴という言葉に大きな違和感を覚えます。本当に「学び終わり」で良いのでしょうか。

皆さんが大学時代に学んできた理論と、実際に行う実務とは全然違います。現在の学校教育は個人主義モデル、競争原理重視で、個人のペーパーテストの成績が非常に重視されます。しかし、実際には組織の中で仕事をやれば、チームワークがとても重要で、個人の力量だけで結果が出るわけではありません。例えば、国会議員への対応とか、この人に先に根回ししておかないと話が通らないとか、いろいろなことを学び続けていくものです。

(2)最新学習歴を更新し続ける

最終学歴も当然大事ですが、「最新学習歴」を更新し続けることが、仕事がうまくいく秘訣です。社会が成長していくためには、みんながこの「最新学習歴」を更新し続けていくことが大切なのです。またそれが人生を豊かにしていくことではないかなと私は考えています。

平成の時代は、残念ながら、日本の国としての学習力は下がっていたのではないかと思います。日本がこれから再生の道を歩んでいくためには、国として学習力・創造力を高めていくことが重要です。そのためにも学び続ける必要があるのです。

2.コーチングとは

(1)コーチの語源

それでは、コーチングの話に移ります。

コーチ(coach)という言葉は「馬車」という意味です。さかのぼるとハンガリーにコーチという地名があり、ここで16世紀に四輪の旅客用の馬車がつくられました。コーチ村の馬車は良いということで、地名が一般名詞化されました。そこから転じて動詞が生まれました。

コーチングとは「大切な人をその人が現在いるところから、その人が望むところまで送り届ける」ことなのです。

(2)「教え込む」のではなく、「引き出す」

コーチングの対概念でコマンディングというのがあります。

これは一方通行の「指示命令」です。軍隊の司令官をコマンダーと呼び、一つ一つの発する命令をコマンドというのです。軍隊では命令したら人は動きます。それはなぜかと言うと、命懸けだからです。米国の心理学者であるマズローは人間の欲求を5段階の階層で理論化しました。この欲求5段階説の一番下の基本的・本能的な欲求である「生存欲求、生理的欲求」のところに関わることなので、命令したら人は動きます。

しかし、平和な時代、平和な社会、平和な組織の中では、命令したところで自動的に人が動くという保証はありません。何らかのレベルの自発性を引き出さないと人は動かない。これがコーチングの原点であり、ティーチングと対比した説明になります。

ティーチングが「教え込む」ことであり、外から内へのベクトル、コマンディングも外から内へのベクトルであります。これに対してコーチングというのは、内から外へと「引き出す」ベクトルです。ティーチングは「教え込む」、コーチングは「引き出す」のです。これは大きな違いです。

では何を引き出すのでしょうか。可能性、自発性、アイデア、やる気、責任感などいろいろあります。ただ、代表的なものとしてこの二つ、すなわち「可能性を引き出すコミュニケーション」と「自発性を引き出すコミュニケーション」、これがコーチングだと定義しておきましょう。

(3)ポテンシャルを引き出す

本日は、皆さんのポテンシャル、潜在力を引き出すお手伝いをしたいと考えています。

財務省であれば、日本の未来の青写真を描き、日本の国をよくしていこう、というワクワクする気持ちを引き出し、気持ちが盛り上がったときに、これまで以上のポテンシャルが発揮されるのです。

しかし、そういった気持ちの盛り上がりは、そもそも上意下達ではできないのです。

予算をつくるときに主計局で夜遅くまで侃々諤々議論をする。その中で、気持ちが盛り上がれば、面白い意見やアイデアがどんどん生まれるでしょう。

しかし、仕事の仕方が変わって、みんな黙々とPCで作業するようになり、隣の人とのコミュニケーションもどうしても薄くならざるを得なくなりました。

だからこそ、職場の中のコミュニケーション、チームのコミュニケーションというのを意識して増やしていく必要があるのです。そのための起爆剤として、コーチングというのを活用いただけるといいなと思います。

3.傾聴のスキル

(1)聴く力が人間力

それでは、どういうコミュニケーションが必要なのでしょうか。

それは、指示命令ではありません。一番重要なのは「傾聴」です。聴く力が人間力だということです。そして、聴く姿勢を持っていても、質問の仕方が下手だと相手は話しません。話さないと聴く力が発揮できません。「傾聴」以外にも「承認の力」「褒める」「叱る」というものがあります。ほかにもいろいろありますが、こういうさまざまなコミュニケーションスキルを駆使して、人間の持っている可能性、自発性を引き出していくのがコーチングです。繰り返しになりますが、何と言っても重要なのが「傾聴」のスキルです。

しかし、この聴くというのがなかなか難しく、奥が深い。話をするときには自分のリズム、自分のペース、マイペースで話をすることができます。しかし、聴くのは、マイペースではなくて、話し手のペースに合わせて聴くことが求められます。

(2)男性は話を聴くのが苦手?

特に男性は話を聴くのが苦手という説があります。「話を聞かない男、地図が読めない女」の著者であるアラン・ピーズは男性と女性では、コミュニケーションに対して求めている要求が違っていて、「女性は共感欲求、男性は有能性の証明欲求」を求めていると唱えています。

女性に強いのは共感欲求で、その日あったことは時系列的に話す。「あなた、聴いてよ」と、直接話法で再現する。相手は最後まで共感しながら聴くということが重要になります。

ところが、男性はなかなかこれができない。男性がコミュニケーションに対して求めている欲求は、共感欲求ではなくて、有能性の証明欲求、つまり「俺は有能なのだ、できるのだ」というところを見せつけたい、認めてほしい、というものだとアラン・ピーズは述べています。

(3)有能性の基準

19世紀までの有能性の規準は戦闘能力でした。戦の場で武勲武功をあげる強い侍、強い武将が優秀だと評価されたのです。

それが20世紀では、正解がある問題に解答する能力が有能性の基準となりました。試験の成績が良い子が学校で「できる子」と言われました。ただし、これは今の世の中、確実にAIに取って代わられます。これは間違いありません。AIがセンター試験で満点を取るのも時間の問題でしょう。そうすると、21世紀の有能性は次のとおりだと言えます。

一つ目は、ゼロから1を生み出していく創造力。AIは何かアレンジすることはできるけれども、全くのオリジナルを生み出すことはできない。

二つ目は、人間関係を構築し、深める力です。ペッパー君(感情認識ヒューマノイドロボット)は「きょうは元気ですか。」と気の利いたことを言います。しかし、人間関係を結べるのは人間だけです。

三つ目は、初期条件なしに感動して発見する力です。AIは「これを見つけてこい」と命令されると、膨大なビッグデータの中から、すごいスピードで検索をしてきます。しかし、「これを見つけてこい」という最初の初期条件を設定しなければ動けません。一方、人間は何の初期条件を与えなくても、これは面白い、かわいい、すてき、きれい、うまいなどと感動して発見できます。

ここが非常に重要な点です。20世紀は左脳重視の社会で、そうした教育が行われていました。これはAIが得意な世界です。しかし、私は、左脳が優秀な人は、右脳も意識すればちゃんと鍛えていくことができます。だから、財務省には、21世紀型の能力に切り替えていくという、この日本社会の未来に向けての先陣を切っていただきたいなと思います。

(4)基本は「相づち」「頷き」「繰り返し」

「傾聴力」で大事なのは何でしょうか。それは、「相づち」「頷き」「繰り返し」です。これは基本中の基本です。

「相づち」は、「はい」とか「ほう」などといった同意、同感のしるしです。

「頷き」は、首の上下運動です。

「繰り返し」は、相手の発言の全部又は一部をリピートして返してあげることです。

しかし、優秀な人ほど、部下が話し始めると、問題解決回路が作動して、「お前、だったらこうしろよ。」「こうすればいいじゃないか。」「なんでこうしないんだ。」と話を遮りがちです。

そこで、そのような状況になりそうなときには「うん、なるほど。」「おう、そう思うんだな。」と、相づちの言葉を入れていただくと、その後、相手が何を言いたいかというのを引き出しやすくなるのではないかと思います。こうした「相づち」「頷き」「繰り返し」、これをアクティブリスニングの3要素と言っています。

4.アクティブリスニングの実践

では、これからアクティブリスニングを実践してみましょう。

二人一組になって、一人には、自分のいる職場、あるいは自分が就いているポスト、仕事、これがどんなにすばらしい仕事なのか、どんなに素敵な職場なのか、心を込めて力説してください。そして、もう一人は、「相づち」「頷き」「繰り返し」は一切なし、無反応無表情で聞いてください。

それでは、お願いします。

***

はい、そこまでです。お互いやりにくかったと思いますけど、無表情、無反応な人に対して話をしたらどんな気持ちになったでしょうか。

やはり、頷いてもらえないと話をしにくいですよね。頷くというのは、首の上下運動だけで、相手の中から言葉とか気持ちというのを引き出してくる効果絶大だということが分かります。

コーチングというのは「教え込む」ことではなくて「引き出す」ところにウェイトがありますから、頷くというのが基本中の基本の動作です。頷いてもらえないと言葉が出にくいだけではなくて、自分の発している、自分自身の言葉に対してもだんだん自信が持てなくなってきてしまいます。

「聴く」というのは決して受け身なことではありません。相手に話をさせてあげる、相手の話をサポートするといった、とても積極的で能動的なエネルギーの注ぎ方なのです。聴く側のイニシアティブというのは極めて重要なのだと私は考えています。

職場では上司が部下を自分の席に呼びつける場面があるかと思います。そこら辺に部下を立たせておいて、ずっと書類に目を落としっ放しで、「それどこまで進んでいるわけ。」「だったら、それでいいじゃない。じゃあご苦労さん。」というケースもあるでしょう。なぜ書類に向かって話をするのでしょうか。相手のほうを見ながら、アイコンタクトも取りながら、「相づち」「頷き」「繰り返し」を行うのと、そっぽ向いているのとでは全然違います。

目の前に人がいるのに、その人があたかもいないように接することを漢字四文字で「傍若無人」と書きます。返り点を振ると「傍らに人無きがごとし」です。

目の前に人がいるのに、その人があたかもいないように接するというのでは組織のポテンシャルを引き出すことはできない。本当に優秀な部下が大勢いるわけです。この人たちの素晴らしいポテンシャルを引き出していくことこそが、役職者である皆さんの仕事なのです。本当に大切な一人一人の可能性とか自発性とかポテンシャルを引き出すためにも、アクティブリスニングを徹底して実践していただきたいと思います。

5.質問のスキル「ヒーロー・インタビュー」

「聴く」ことが一番大事で、2番目に大事なことが「質問」です。

質問と似て非なるものとして、「詰問」というのがあります。詰めて問うと書いて詰問、この代表的なものとして「反語」というのがあります。

なぜ詰問とか反語表現というのが生まれるかというと、その心理的なメカニズムは、仕返しだと言われています。つまり、人間は社会的な動物なので、他者、相手に対して期待を持っています。この人はこうあってほしい、こう考えてほしい、こういう行動のパターンを取ってほしい、その期待が裏切られたときに、非常に悔しい、残念だという思いで胸がいっぱいになる。だから、相手にも残念な思いを味わわせたい。

そうすると相手の心を傷つけるような「反語」、「詰問」というのが発生する。それは家庭だけではなくて職場でもあり得るのだと思います。

「大体お前何回言ったら分かるんだ。」というのは、別に何回という回数を聞いているわけではないですよね。言いたいメッセージは「私はあなたに対して高い期待を持っています。この件に関して私は既に2回同じ注意をしました、それにもかかわらず、今回もまたこういうミスが発生したことを私は大変残念に思っています。今度こそこの注意を守ってこの仕事をちゃんとやってくださいね。」ということです。こう言いたいときに、「何回言ったら分かるんだ。」という怒った言い方はお勧めしません。

大事なのは、詰問ではなく、引き出す質問をしようということです。引き出す質問の代表が「ヒーロー・インタビュー」です。

よく、野球の試合が終わった後で、その試合の中で一番活躍した選手をお立ち台の上に上げて、アナウンサーがマイク向けます。「放送席、放送席、7回裏に決勝ホームラン放った○○選手でした。おめでとうございます。」とやりますよね。これをこれから皆さんにやっていただきます。

インタビュー側がやることは二つ、「傾聴」と「質問」です。

「傾聴」するに当たっては「相づち」「頷き」「繰り返し」はすごく役に立ちます。人間にはそもそも質問力というのは先天的に備わっている。その証拠に小さな子供は質問の天才で、別に学校で質問のやり方なんて教わったことないのに、「ねえねえ、これ何、これどうするの。」と質問ができる。しかし、だんだん成長するに従ってその質問力を手控える傾向がある。「お前そんなことも知らないのか。」なんて言われたくない。大勢の前では手を挙げるのが恥ずかしい、などといろいろな心のブレーキが働いて、質問力を発揮しなくなってしまうものです。しかし、今日は思いっきり質問力を行使していただきたいと思います。

インタビュアーの方、間違っても無表情、無反応でインタビューしないようにしてください。「相づち」「頷き」「繰り返し」です。

ヒーロー・インタビューらしく、盛り上がるように、盛り上げるようにやっていただきたい。

ヒーローの方は、どんなことでも結構です。人生の中でのヒーロー体験、充実感、成功体験を感じたときのことをなるべく具体的に細かく映像的に気持ちよく話す。あのときは頑張った、うれしかった、一生懸命やったぞ、そのときの情景光景を思い出して、気持ちよくお話していただきたい。

それではいきましょう。

***

はい、そこまでです。

これは結構元気が出ますよね。逆に組織の中で上司が部下に対して「君、元気出したまえ。」と言っても、これで元気が出た人は見たことありません。命令文で相手の状況を変えることには限界があります。

「そのことをやろう」という自発性を引き出さないと、行動変容は実現しないのです。

ぜひ日常においても、ヒーロー・インタビューをやってみてください。これは簡単で、そんなに時間も掛かりません。歩きながら、階段を一緒に上りながら、ご飯食べながら、そういうインフォーマルなコミュニケーションの機会を増やしてくことが私は本当に大事だと思います。

今のヒーロー・インタビューを通じて、パートナー、相方との何か心理的な距離がぐっと近づいた、親しみとか親近感が増したという方は多いと思います。

世の中、コミュニケーションで悩んでいる人は大勢います。大人も子供もです。学校教育の中に、コミュニケーションという科目はありませんが、人間関係の成立はコミュニケーションによるのです。しかし、一口にコミュニケーションといっても、表面的な事務連絡や業務連絡をいくらやったところで人間関係は構築されません。

人間関係をつくっていくのは心と心の通い合うコミュニケーションなのです。英語にすると、Heart to Heart、これが人間関係をつくっていくコミュニケーションだと思います。

一般に組織の中のコミュニケーションはPosition to Positionです。これは対立構造になりがちです。対立構造をちょっと脇に置いて、どれだけ心がつながるコミュニケーションを取れるのか、社会を良くしていくのはこの点に尽きるとすら思っています。ですから、Position to Positionのコミュニケーションは必要ですけれども、それを補って、生かしていくのはHeart to Heartの部分だと思います。その一番簡単な入り口の部分がヒーロー・インタビューだと思うので、ぜひ実践していただきたいと思います。

6.人間は磨けば光るダイヤモンドの原石

私はこのエクササイズをペアインタビューではなくてヒーロー・インタビューと呼んでいます。それは「全ての人が一人の例外もなく、いつかその人なりにヒーローになる可能性を持っているから」です。早咲きの人もいれば、遅咲きの人もいる。全ての人がいつかその人なりにヒーローになる可能性を持っている、これを引き出していくのがコーチングだと思うのです。

このことを、我が師匠、松下幸之助さんは「人間は磨けば光るダイヤモンドの原石のようなもの」と言っていたわけです。ダイヤの原石というのも、ちょっと見たところでは普通の石ころとそんなに変わりません。「何だ、こいつはダメなやつだな。」と思うと、やっぱりダメで終わってしまう。いや、そうではなくて、ピグマリオン効果と言って、この人はダイヤモンドの原石なのだと思って期待をする。そして、磨きをかけていくと、その内側からダイヤモンドの輝き、ブリリアントカットのきらめきを引き出すことができる。

この部下は使えないなと内心思うことがあるかもしれませんが、大間違いです。確実に輝かせることができる。ただし、磨かないと輝かないわけです。

自然界ではこれまで人類が発見した鉱物の中ではダイヤモンドが一番硬い、したがってダイヤモンドの宝石はダイヤモンドの粉で研磨します。

もし人間がダイヤモンドの原石であるとするならば、そこに磨きをかけ、その内側からその人らしい輝きを引き出すことができるのは、やはりほかのダイヤモンドなのです。

他の人とのFace to Face、Heart to Heartのコミュニケーションなくしては人間を輝かせることはできない。

知識を与えることは、e-ラーニングでいくらでもできます。それでも学校は必要です。それは社会性の涵養のためであり、コミュニケーション能力を身に付ける上で、学校の役割は大きいのです。

松下幸之助さんは「ダイヤモンドの原石」と言っているわけですが、中国の古典である「詩経」「大学」の中では「切磋琢磨」と言います。

「切」はのこぎりで切る、「磋」はやすりで研ぐ、「琢」はのみでうがって形を整える、「磨」は最後に微粒子で仕上げ磨きをしてつるつるにする。これによって宝玉本来の輝きを引き出し、博物館に陳列できるような宝物へと仕上げていく、これが切磋琢磨という言葉のもとの意味です。

ぜひ、皆さんの組織には、上から下まで切磋琢磨し合って、輝いていくという未来をつくっていただきたいなと思います。

7.グッドニュースの循環を

マスコミはバッドニュースばかりを取り上げます。だからこそ、組織にいる人はグッドニュースの循環を図ったほうが良いのです。そのほうが確実に職場は明るくなる。モチベーションも上がる。でも日本人は謙譲の美徳があるから、「僕こんなに頑張りました、褒めてください。」と言えません。

だから、誰かがヒーロー・インタビューして、「お前頑張ったな、どんなふうにしたわけ、ああそうなのか。」と言って吸い上げて、それをミーティングなどで紹介してあげると、グッドニュースが循環し、同時にベストプラクティスの共有が進みます。

学習する組織というのは、ビジョンが共有され、一人一人が学び、そしてチームが学び、これまでの先入観、固定観念を克服し、部分最適ではなくて常に全体最適を目指していくのです。

学習する組織、学習する地球社会(Learning Planet)になっていくためにも、グッドニュースの循環とベストプラクティスの共有が必要です。そのネタを取材するためにも、ぜひヒーロー・インタビューをやっていただきたいと思います。

8.ほめ活かし、ほめ育ての3か条

ほめ活かし、ほめ育ての3か条というものがあります。「事実をほめる」「タイミングよくほめる」「心をこめてほめる」の3つです。ここでは「事実をほめる」に焦点を当てます。

事実でないことをほめようとするのは、「おだてる、ほめ殺し」と言います。ほめ殺すと、「この上司は僕の機嫌を取ろうと思って、心にもないことを言っているな。」と思う。だから、本当のこと(=事実)をほめる。特に細かい進歩、細かい長所、細かいところを見逃さずにほめてもらえると、「この上司はちゃんと僕のことを見ていてくれる、ああ見守っていてくれる存在なのだ。」という、そういう気持ちが伝わるのです。

ただ観察力をネガティブに発揮してはいけません。特に優秀な人ほど自分を基準にして部下の至らない点にどうしても認識がいってしまいます。ではどうしたらいいのでしょうか。「美点凝視」という言葉もあるとおり、この人の良いところはどこか、この人の輝きはどこかと探すことで、そこで初めて良いところが見えてくるのです。

9.効果的な叱り方

「怒る」のは感情的な反応で大体現状の否定、人格の否定になります。これに対して「叱る」というのは理性的な対応で、「然るべきビジョンを示す、引き出す」ことになります。

お母さんが子供を「叱る」つもりが、ついつい「怒る」になってしまう。「なんでそんなことをしたの。」と詰問してしまうことがよくありますが、子供のいたずらに合理的理由はありません。では、どうしたらいいのでしょうか。

こんな時は、子供の目の高さに視線を合わせるのです。ちょっと間を置いて「○○ちゃん、こういうことしちゃいけなかったの、分かっているわよね。じゃあ今度からどうするの。はい、じゃあ今度からはそうしようね。」と子供に話しかけ、最後はにっこりと、あなたは無条件に愛されているのよ、ということを伝えると効果的です。

仕事上の学びはいろいろとありますが、親としての学びが社会の中にほとんど存在していません。そこで、私は親としてのコミュニケーション能力を高めること、社会の変化に対応した親の学びに軸足を置いたプログラムにも取り組んでいます。

10.禁止の命令文は逆効果

禁止の命令文は逆効果です。上司が「ミスをするな」と言うと、部下はミスします。これを「池ポチャの法則」と言います。意識を向ける回数の多いものは増えていくのです。ゴルフをする方は分かると思うのですけど、「池ポチャしちゃいけない、池ポチャしちゃいけない」と思うと、池の中にポチャ、です。

意識を向ける回数の多いものは確実に増えていきます。だからこそ、望ましい方向を増やしていくというのが大事です。

ですから、コンプライアンスの学びも、何々しちゃいけないというものではなく、「こうしたらうまくいくね」「こうしようよ」ということをぜひお伝えいただきたいなと思います。

11.最後に

最後にこれだけ言っておきましょう。

ぜひ上司が部下を変えてやろうと思うのではなく、自らが学習者としてのお手本になってください。そして、皆さんが部下から学ぶ姿勢を徹底していたただけると良いと思います。

また、挑戦するマインドセットを持つことが激変する社会では不可欠です。厳しい財政、変わる人口構成、そして高まる行政需要、今までと同じことをやっていたら、日本は右肩下がりになっていくのは間違いないので、前例のないこと、新しいことに挑戦しなければなりません。

私は「失敗」という言葉を使うのはやめようと提案しています。前向きにチャレンジして、ある時点でそれが成功とは言えなかったとしても、「未成功」と呼びましょう。質の高い未成功を積み重ねていくことが成功への道なのです。

ご清聴ありがとうございました。

講師略歴

本間 正人(ほんま まさと)

京都造形芸術大学副学長、NPO法人学習学協会代表理事、らーのろじー株式会社代表取締役。

東京大学文学部社会学科卒業、ミネソタ大学から成人教育学博士号(Ph.D.)取得。ミネソタ州政府貿易局日本室長、松下政経塾スタッフ、(社)青少年育成国民会議企画委員、NHK教育テレビ「英語ビジネスワールド」「実践ビジネス英会話」「3ヶ月トピック英会話」講師などを歴任。

現在、一般社団法人大学イノベーション研究所理事長、NPO法人ハロードリーム実行委員会理事、一般社団法人キャリア教育コーディネーターネットワーク協議会理事、アカデミックコーチング学会顧問などをつとめる。教育学を超える「学習学」の構築をテーマとし、世界一クリエイティブな「学習国家ニッポン」の実現、そして、SDGsの目標年2030年の後の地球社会のビジョン「Learning Planet(学習する地球社会)」の構想を目指して、研究・講演・研修活動を展開中。

財務省の政策