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シリーズ 日本経済を考える94

企業の資金調達手段選択に関する諸議論

財務総合政策研究所 研究員 佐野 春樹*1

1.はじめに

企業の資金調達行動は変化している。日本企業は伝統的に、資金調達手段を銀行借入に大きく依存していると考えられてきたが、特に1980年代以降に行われた金融規制緩和の影響は大きく、例えばShirasu and Xu(2007)によると、金融規制緩和に伴い社債発行による調達が増加したことが指摘されている。その一方で、銀行を中心としたメインバンク制には、情報の非対称性によって発生するエージェンシー・コスト*2を引き下げる役割があると考えられており、Hoshi, Kashyap and Sharfstein(1993)は、1980年代以降に銀行依存度を低下させた結果、企業の資金制約の程度がむしろ強まったことを報告している。結局のところ、企業はどのような要因に従って資金調達手段を選択しているのだろうか。

いわゆる「モディリアーニ・ミラー理論*3」によると、税金や倒産の可能性がない完全市場のもとでは、資本と負債の間の選択は企業価値に影響を与えないとされ、どの資金調達手段を選択するかは企業のコストにとって無差別となる。したがって、この場合、企業価値を最大化する最適負債比率は存在しないことになる。しかしながら、実際の金融市場においては税金や倒産などといったさまざまな市場の不完全性が存在する。この不完全な市場の下では、企業は、負債利子による節税効果を求めて負債を増やそうとするモチベーションと、負債比率の上昇に伴って倒産リスクが高まる危険性を考慮しつつ、企業価値を最大化する資本構成を目指すこととなる。このようなトレード・オフの存在により、企業は最適な負債比率を選択するという考え方を、「最適資本構成の理論(資本のトレード・オフ理論)」と呼ぶ。「最適資本構成の理論」に従えば、負債比率が最適水準よりも高い企業は新規借入や社債発行を抑え、株式発行での資金調達を行うことで、負債比率の最適水準に向けて調整を行うと考えられる*4。

この「最適資本構成の理論」をはじめとして、企業の資金調達手段の選択についてはいくつかの代表的な仮説が存在し、その実証分析も行われてきた。本稿ではこうした理論仮説および実証分析のサーベイを行うとともに、2000年代以降の日本企業の資金調達行動を対象とした実証分析を行い、既存の理論仮説との整合性を検証することを目的とする。

本稿の構成は以下の通りである。次節では、まず、前述した「最適資本構成の理論」に代表される、企業の資金調達手段選択に関する理論仮説について整理した後、企業の資金調達行動に関する既存の実証研究のサーベイを行う。第3節では、2000年代以降の日本企業の資金調達行動について実証分析を行い、既存の理論仮説との整合性を検証する。第4節は本稿のまとめである。

2.企業の資金調達に関する研究の動向

2-1.理論仮説

企業が資金調達手段を選択する動機については、複数の仮説が存在する。

例えば、前述した「最適資本構成の理論」によると、負債比率の上昇に伴うトレード・オフの存在により、企業は最適な負債比率を選択する*5。具体的には、企業が過度な負債を負う場合、倒産に至る可能性が高まるが、仮に企業が倒産したとすると倒産処理コストや取引条件の悪化などのコストが発生する。つまり、負債利子の税控除による節税効果と、過度な負債依存が倒産リスクを高めることによって生じるデフォルト・コストを比較し、負債比率が最適水準よりも高くなると企業は株式での資金調達を行い、負債比率が最適水準に達するまでは負債による調達を優先するのである。

企業の株価が上昇すると、必然的に時価ベースのバランスシート上の負債比率は低下するため、「最適資本構成の理論」に従えば、企業が最適な負債比率を維持するためには負債を増加させるか、株式数を減少させる必要がある。しかしながら、仮に企業が、一時的な株価の高低を利用して便益を得ようとするのであれば、株価が上昇し、ファンダメンタルズ価格を上回っている局面で、むしろ株式を新規発行することにより、新規株主を犠牲にしつつ、既存株の価値を高めることができるため、このような行動をとる企業も想定される。Baker and Wurgler(2002)によると、こうした行動は「マーケット・タイミング仮説」に基づいた行動と呼ばれる。

「モディリアーニ・ミラー理論」が前提とする完全市場においては情報の非対称性が存在しないとされるが、実際の市場においては、例えば投資家と経営者の間には情報の非対称性が存在し、それに起因してエージェンシー・コストが発生する。Myers and Majluf(1984)によると、企業は各資金調達手段の利用に優先順位を定めており、ある手段での調達を限界まで進めた後、それでも資金が不足する場合に次の手段を選択するとされるが、これは、「ペッキング・オーダー理論」と呼ばれ、投資家と経営者の間に生じるエージェンシー・コストが低い順、すなわち、内部留保、借入、社債、株式、の順に資金調達を行う。これについて詳述すると、まず、内部留保に関しては経営者が最も自由に利用できることから、エージェンシー・コストが最も低くなる。次に、株式や社債に投資する投資家よりも銀行の方が企業のモニタリングに優れているため、情報の非対称性にかかるコストが低いと考えられ、銀行借入が優先される。株式や社債の発行には、手数料などの費用が発生することも理由に優先度が低くなると考えられる。

前述したように銀行は一般的に、投資家よりも企業に対するモニタリング機能に優れているとされる。企業が実行しようとする投資に関する情報が貸し手に充分伝えられない情報の非対称性が存在する場合、企業は貸し手からの資金調達が困難になると予想されるため、情報の非対称性が大きい企業は銀行から借入を行い、非対称性の小さい企業は公開市場から調達を行うと考えられる*6。この、情報の非対称性によって発生するエージェンシー・コストを引き下げる働きは、銀行が持つ重要な役割の一つであるといえる。

一方で、銀行によるモニタリングは企業にとって不利益にもなりうる。通常銀行は与信管理を行う上で借り手に対するモニタリングを行うが、銀行がモニタリングによって得た情報を独占することで借り手に対する交渉力を強め、借り手の超過収益を奪う可能性が考えられる*7。これは、銀行によるホールドアップ問題と呼ばれ、成長機会豊富な企業には銀行への超過収益分配を避けるため、他の資金調達手段を選択する動機があると考えられる。

また、経営者が私的便益を追求しつつも、株式価値の上昇からも便益を受けうる状況を想定すると、銀行によるモニタリングを受けることは、経営者にとって株式価値の上昇と私的便益の減少というトレード・オフを生じさせる*8。したがって、役員持ち株比率が高い企業の経営陣は、役員持ち株比率が低い企業よりも株主の利益に沿って行動するため、株式価値上昇に資する銀行借入を選択することとなる(「経営者の裁量」)。

そのほか、銀行借入の持つ特徴として、企業が返済困難になった場合に、事業存続のために比較的容易に負債契約の変更交渉が行える点が挙げられる。銀行借入と比較すると、社債の場合は債権者の数が多いために、負債契約の変更が容易ではない。そのため、財務内容にリスクを抱える企業には銀行借入を選択する動機があると考えられる(「再交渉仮説」)*9。

負債の特徴について考えると、負債契約は経営者に返済の約束をさせるため、経営者による非効率的な支出を抑制するとされる*10。また、負債のデフォルト時には経営権が債権者に移転してしまうリスクを抱えるため、経営者への規律付けがなされる*11。ここから、経営者が裁量的に使えるキャッシュフローが多いほど、経営者による非効率的な支出の抑制と、経営者への規律付けのために、株主が負債比率を高めようとすると考えられる(「フリーキャッシュフロー仮説(ガバナンス構造仮説)」)。また、負債については返済義務があることから、株式よりも優先的に収益の分配を受け取ると予想される。そのため、負債が多い場合、投資による収益が債権者に回ってしまうことを恐れ、株主が投資を行わない過小投資の問題が生じるとされており*12、成長機会が豊富な企業では負債の発行が抑えられると考えられる(「デット・オーバーハング仮説」)。

最後に、企業の質が資金調達行動に与える影響を考える。企業のキャッシュフローに目を向けると、投資機会が豊富な一方キャッシュフローの変動が激しい企業は、将来的に手元の資金不足により投資機会を逸することを避けるため、予備的に現預金を保有するという動機があり、株式発行コストの低いタイミングで株式発行を行うと考えられる(「予備的動機に基づく現金保有仮説」)*13。また、返済実績が良く、資本市場での評判を確立しているような企業や、収益力の高いプロジェクトを持つような企業を質の高い企業と考えると、これらの企業は、公開市場から資金調達を行い、質が中程度の企業は借入を選択する。さらに質が低い企業の場合、銀行のモニタリングコストが便益を上回るために、社債発行を選択すると考えられる*14。

2-2.既存の実証研究

本節では、先ほど整理した理論仮説を踏まえ、企業の資金調達行動に関する先行研究をレビューする。

1970年から1990年にかけて米国で株式発行を行った企業を対象として分析したLoughran and Ritter(1995)は、株式発行がその後のマイナスの超過収益率につながることを示唆している。これは、株式発行後に企業の収益が、投資家の期待する期待収益を下回ることを意味し、株価が企業本来のパフォーマンスを上回る評価を受けているタイミングで株式発行を行っている可能性がある。また、Baker and Wurgler(2002)は、米国上場企業を対象として、資本構成が過去の時価簿価比率によって影響を受けていることを指摘しており、これらはいずれも、資本構成がマーケット・タイミングによる株式発行と株式買入によって決まるとする「マーケット・タイミング仮説」と整合的な結果を得ている。

Kim and Weisbach(2008)は、株式発行による調達資金の使途について分析を行っている。彼らは株式発行による資金調達によって、その後の投資、買収、研究開発のほか、現金保有が増加することを指摘しており、「予備的動機に基づく現金保有行動」を示唆している。また、彼らは時価簿価比率の高い企業ほど現金保有に向かう割合が高く、また既存株式の売却割合が高いことを指摘しており、「マーケット・タイミング仮説」との整合性が見られる。

社債発行の動機について分析を行ったものとしては、Houston and James(1996)などがある。彼らは、1980年から1990年にかけての米国企業を対象とし、銀行借入などの間接金融と社債、すなわち直接金融を対比させた分析を行っている。Denis and Mihov(2003)は1995年から1996年にかけての米国企業による新規負債発行データを用いて、資金調達手段を銀行借入・ノンバンク借入・公開市場調達の3つに分類し、その決定要因を分析している。その結果、収益性、健全性の高い企業は公開市場による調達を行い、中程度の企業は銀行借入を選択し、健全性の低い企業はノンバンク借入を選択することを明らかにしている。また、経営者持ち株比率が高い企業ほど、社債発行の割合が低いことも指摘している。このことは、前述した「経営者の裁量についての仮説」と整合的であるといえる。

日本企業の資金調達手段選択に関する先行研究を見ると、Hoshi, Kashyap and Sharfstein(1993)は、純資産が豊富な企業は社債を選択する傾向が強いことを明らかにしており、関連するところでは、福田(2003)は、1980年代後半以降の日本企業を対象として実証分析を行い、負債比率の低い企業において社債が選択される傾向にあることを明らかにしている。両者の分析結果は、負債選択と企業の質に関する仮説と整合的であるといえる。また、Hosono(1998)は研究開発費の支出が多い企業ほど、銀行借入よりも社債発行を選択する可能性が高いことを示しており、これは、銀行借入のネガティブな側面に目を向けたもので、「銀行によるホールドアップ問題」と整合的である。

企業の負債比率の決定要因について分析を行ったものとしてはHirota(1999)や西岡・馬場(2004)がある。いずれも大企業、東証一部上場企業を対象とした分析を行い、「最適資本構成の理論」の影響を示唆する結果を得ている。また、松浦・竹澤・鈴木(2000)は、1990年代の上場企業を対象とし、増資を行うかどうかの意思決定に対して影響を与える要因を分析している。彼らによると、増資は株価動向による影響を受けやすいことに加え、緩やかではあるものの、経営者の立場からみた場合の資金調達の容易さに従った順位関係があることが示されている。これは資金調達方法間に事前に優先順位が存在するとする「ペッキング・オーダー理論」を支持するものである。

Shirasu and Xu(2007)は、1993年から1997年における東証一部上場企業を対象として、借入、あるいは公開市場からの資金調達の選択について、フローとストックの両面から分析を行っている。それによると、株式の時価簿価比率を基準とする質の高い企業は銀行借入から社債発行へ、質の低い企業は社債から銀行借入へ、それぞれ資金調達手段を移行させていることを明らかにしている。

また、複数の資金調達手段の中で、なぜ企業はその資金調達方法を選択したのかという観点から分析を試みたものとして、嶋谷・川井・馬場(2005)がある。彼らは、1996年度から2003年度までの東証一部上場企業の決算データを用いて、資金調達方法の選択確率の分析を行っている。分析の結果、企業はエージェンシー・コストの程度に従って、資金調達方法に優先順位をつけるとする「ペッキング・オーダー理論」が支持されたほか、借入以外の市場性のある資金調達手段を選択するのは、比較的情報の非対称性の度合いが低いと考えられる、規模の大きな企業が中心であることが明らかにされた。また、負債比率が著しく高い企業については新規借入を抑えようとするという最適資本構成の理論を支持する結果や、転換社債による資金調達が、株価が市場対比で上昇したときに選択されやすいという「マーケット・タイミング仮説」と整合性のある結果が得られている。

細野・滝澤・内田・蜂須賀(2013)は、1990年代以降の日本企業を対象として、非上場企業の新規株式発行、上場企業の株式発行および社債発行による資金調達手段の決定要因を分析し、資金調達後の行動についても考察している。分析の結果、時価簿価比率およびレバレッジ比率の高い企業は株式発行割合が高いことが示されており、このことは、「マーケット・タイミング仮説」、「最適資本構成の理論」、「ペッキング・オーダー理論」を支持するものであるといえる。また、売上高伸び率および債務不履行確率の高い企業は社債発行割合が高いことが示されており、「銀行によるホールドアップ問題」と整合的である一方、銀行の「再交渉仮説」は支持しない結果となっている。

3.資金調達手段選択に関する実証分析

3-1.2002年以降の東証一部上場企業の資金調達行動に関する実証分析

本節では、2002年以降、東証一部に上場していた企業を対象として、企業の事前特性と資金調達手段選択の関係を分析する。

分析に使用する資金調達データ、各種財務データについては、日本経済新聞社が提供するNikkei Financial QUESTから取得した。分析対象は、2002年から2018年に東証一部に上場しており、借入、コマーシャルペーパー(CP)、社債または株式による資金調達を行っている企業である(保険・証券・銀行などを除く)。借入は、銀行借入だけではなく、ノンバンクや関連会社等からの借入金を含む。社債については、日本国内で発行された社債だけではなく、海外で発行された社債も含み、社債・借入・株式の発行額は各企業における決算年度内の合計額である。本稿ではパネル・データを用いた分析を行っている。パネル・データとは、複数の個体を複数の時点にわたって観測したデータである。本稿では分析対象となる企業の決算年度ごとのデータを取得し、同一企業でも違う決算年度の場合は別データとして扱い、そこから外れ値等を除外したうえで*15、延べ33,822企業をサンプルとする。

分析にあたっては、以下の固定効果モデルを推計する。固定効果モデルとは、前述したような、複数の分析対象を複数の時点にわたって観測したパネル・データの分析に用いられる手法のひとつである。分析対象(本研究では各企業が該当する)ごとに、時間を経ても変化しない個別の特性がある場合に、その個別の特性がもたらす効果(固定効果)を消去して、比較・分析することができる。以下の推計式においてはαiが固定効果を表す。

推計式(固定効果モデル:新規借入額の場合)

=αi+β1Sizeit−1+β2Growthit−1

+β3Profitit−1+β4DefaultProbit−1

+β5Leverageit−1+β6Collateralit−1

+β7ManageOwnit−1

+yeardummyt+εit

上記推計式は、被説明変数をLoan / ExternalFinance、すなわち「外部資金調達総額に占める新規借入額の割合」とした場合の式である。添え字i, tはそれぞれ、企業、年のインデックスを表す。説明変数Size, Profit, Growth, DefaultProb, Leverage, Collateral, ManageOwn, yeardummyはそれぞれ、規模、収益性、成長性、債務不履行確率、レバレッジ、担保提供能力、経営者の株式保有割合、年ダミーを表す。

各説明変数の係数βは、各説明変数が被説明変数に対して与える影響の大きさを表しており、係数が大きいほど与える影響の度合いも大きくなる。つまり、例えばβ1の値が有意に大きければ、企業の規模が大きくなるほど資金調達に占める新規借入の割合も大きくなる傾向にあることを意味する。また、係数の符号が負(マイナス)の場合は、被説明変数に対してマイナスの影響を与えることを意味している。

上記のような分析を、被説明変数が、社債、株式発行の場合についても同様の推計式により分析し、計3パターンの推計式により分析を行うこととする。以下、各説明変数の詳細について説明する。

Size(規模)を表す変数としては、総資産を用いる。規模の大きな企業ほど情報の非対称性が軽減されると考えられるため、情報の非対称性の小ささを表す代理変数として総資産を採用している。なお、分析に際しては対数値を採用する。

Growth(成長性)を表す変数としては、PBR*16、売上高伸び率(対前年比)、有形固定資産伸び率(対前年比)、研究開発費 / 売上高を用いる。

Profit(収益性)を表す変数としては、EBITDA*17/ 総資産を用いる。

DefaultProb(債務不履行確率)を表す変数としては、倒産確率指標*18(SAFダミーB、C、D)およびカバレッジ比率(営業利益 / (支払利息+割引料))を用いる。カバレッジ比率は営業利益で利息および割引料の負担をどの程度賄えているかを表しており、仮にカバレッジ比率が1を下回れば、営業利益で利息負担を賄えていないことになる。カバレッジ比率については、細野・滝澤・内田・蜂須賀(2013)などに倣い、2未満の場合に1を取るダミー変数(低カバレッジダミー)とする。

Leverage(レバレッジ)を表す変数としては、簿価ベースのレバレッジ比率(負債 / 総資産)を用いる。レバレッジ比率の高い企業は、財務上のリスクを抱えているといえる。

Collateral(担保提供能力)を表す変数としては、固定資産比率(対総資産)を用いる。これは、不動産や工場設備といった、担保として適格とされやすい資産の保有状況を表す。

ManageOwn(経営者による株式保有)を表す変数としては、総発行済株式数に占める役員持ち株比率を用いる。これは、経営者の利害と株主の利害の一致の程度を示す指標として採用する。

3-2.推計結果

図表1 推計結果において、外部資金調達総額に占める新規借入、社債発行、株式発行の割合に関する固定効果モデルの推計結果を示している。

まず、Size(規模)を表す変数として、総資産の係数を見る。係数は、借入に対して有意にプラス、株式に対して有意にマイナスである。情報の非対称性についての仮説に従うと、規模の大きな企業ほど情報の非対称性が軽減され、公開市場からの資金調達を優先すると考えられるが、結果は仮説と整合的でないものとなっている。

次にGrowth(成長性)変数について見る。PBRと有形固定資産伸び率は、借入、社債、株式のいずれに対しても有意な結果とはならず、研究開発費についても社債に対してわずかに有意にプラスを示すのみとなった。売上高伸び率に関しては、社債、株式に対して有意にプラスの結果を示した。これは、超過収益の事後的分配を避けるために銀行借入以外を選択する、「銀行借入のホールドアップ問題」と整合的である。

Profit(収益性)変数であるEBITDA / 総資産は、借入に対して有意にマイナス、株式に対して有意にプラスを示す結果となっている。これは、収益性の高い企業、すなわち質の高い企業は公開市場からの資金調達を優先するとする仮説と整合的な結果となっている。

DefaultProb(債務不履行確率)変数を見ると、SAF B、C、Dのいずれも、借入、社債、株式のそれぞれに対して有意な結果とはならなかった。低カバレッジダミーについては株式に対して有意にプラスの結果となっている。これは、資金繰りが厳しく第三者割り当て増資を行う企業が含まれている可能性が考えられる*19。

Leverage(レバレッジ)を表すレバレッジ比率に関しては、借入、社債、株式のすべてに対して有意にプラスの結果を示しており、係数を見ると、特に借入および株式に対して数値が大きくなっている。これは、財務上のリスクを抱える企業が銀行借入を優先する「再交渉仮説」、負債比率が最適水準を超えると株式発行を行うとする「最適資本構成の理論」を一定程度支持するものといえる。

また、Collateral(担保提供能力)の変数である固定資産比率は、借入、社債に対してプラスに有意な結果となっており、係数は借入の方が社債よりも大きくなっている。これは、担保提供能力が高いほど負債発行が容易になった結果と解釈でき、有担保が多い銀行貸出の慣行とも整合的である。

ManageOwn(経営者による株式保有)を示す役員持ち株比率は、株式に対してのみ有意にプラスを示している。経営者の裁量についての仮説に従うと、役員持ち株比率が高い企業は、モニタリングを伴う銀行借入による資金調達を選択することとなるが、結果はこの仮説を支持しない。

分析結果全体を見ると、概ね理論仮説と整合的な結果といえるが、一部、総資産の結果などについては理論仮説を支持しないものとなった。

4.結論

本稿では、企業の資金調達手段の選択に関する理論仮説を整理し、既存の実証研究のサーベイを行ったうえで、2000年代以降の東証一部上場企業の資金調達行動について実証分析を行い、既存の理論仮説との整合性を検証した。

実証分析の結果、「銀行のホールドアップ問題」や質の高い企業が公開市場から資金調達を行うとする仮説、「再交渉仮説」、「最適資本構成の理論」などと整合的な結果が得られた。一方で、経営者の裁量についての仮説は支持しない結果となった。

本稿では、企業の内部要因、すなわちバランスシート上の数値を変数に用いて資金調達手段の選択に対する影響を分析したが、外部要因を変数に加えることによって、より精緻な分析も可能になると考えられる。例えば、金利上昇局面では、借入から別の調達手段へシフトするなど、金利環境の変化による影響が予想される。あるいは、税制度等の制度変更による影響として、法人税改革によって実効税率が低下する中で、租税回避へのモチベーションが影響を受けると予想される。こうした要因の株式発行などへの影響も検証する意義はあるといえるだろう。

また、分析対象となる期間を細分化したり、別の分析期間を採用した場合などでは、各指標の影響が異なる可能性も考えられる。例えば、本稿では比較的低金利かつ景気拡張が比較的長く続いた期間を対象としているが、景気後退が長く続いた期間の企業行動を考察することで、それぞれ景況感での企業行動の違いが捉えられることも考えられる。

企業の資金調達行動の背後にある動機を解き明かすことは、行政が制度的・政策的観点から企業の円滑な資金調達をサポートするための判断材料を提供することにつながり、市場にとっても、ひいては企業自身にとっても、望ましい資金調達環境が整備されることにつながるものであり、今後も様々な観点から企業の資金調達行動についての議論・分析が進展することが望まれる。

参考文献

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*1) 本稿の執筆にあたっては、佐藤栄一郎氏(財務総合政策研究所総務研究部総務課長)、西畠万季人氏(同研究所主任研究官)をはじめ、多くの方から貴重なコメントをいただいた。ここに記して深く感謝の意を表したい。なお、本稿の内容や意見はすべて筆者の個人的見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではなく、本稿における誤りはすべて筆者個人に帰するものである。

*2) 企業や消費者、あるいは資金の貸し手と借り手などがそれぞれ自分にしかわからない情報を保有している場合、情報の非対称性があるという。また、一般に、投資家と企業の経営者は、「依頼人」と「代理人」の関係にあるが、代理人である経営者は必ずしも投資家の利益のためではなく、自身の利益のために行動する可能性がある。これは投資家が経営者の行動を完全には把握できない、情報の非対称性に起因する。こうした「依頼人」と「代理人」という構造に付随するコストをエージェンシー・コストと呼ぶ。メインバンクには、企業に対するモニタリングによって、エージェンシー・コストを引き下げる機能があるとされる。

*3) Modiliani and Miller(1958)

*4) Krasu and Litzenberger(1973)

*5) Krasu and Litzenberger(1973)

*6) Diamond(1984)

*7) Sharpe(1990)

*8) Almazen and Suarez(2003)

*9) Berlin and Loeys(1988)

*10) Jensen(1986)

*11) Aghion and Bolton(1992)

*12) Myers(1977)

*13) McLean(2011)

*14) Diamond(1991)

*15) 外れ値等のサンプル除外のため、以下の処理を行う。推計に必要な各変数の値が入手できなかったサンプルを除外。PBRの値が上位・下位0.5%のサンプルを除外。借入・社債・株式発行額がマイナス値のサンプルを除外。カバレッジレシオがマイナス値のサンプルを除外。役員持ち株比率が1以上のサンプルを除外。12か月決算以外のサンプルを除外。

*16) 株価純資産倍率。PBR=株価÷一株当たりの純資産。時価総額を純資産で割ったものと言い換えることもできる。

*17) EBITDA=税引前利益+特別損益+支払利息+減価償却費。企業の収益力を測る指標のひとつとされる。

*18) SAFは、白田(2003)に基づく格付けの代理変数。SAFの値が小さいほど、倒産確率は高くなる。SAFは以下の式によって算出され、4つのレベルに従ってSAF値を分類、SAF値が各レベルの範囲内に収まる場合に1となるダミー変数を設定する。SAF算出方法は、以下の通りである。

SAF=0.01036X1+0.02682X2−0.06610X3−0.02368X4+0.70773

X1:総資本内部留保利益率(%)=期首期末平均内部留保利益÷期首期末平均総資産×100

X2:総資本税引前当期利益率(%)=税引前当期利益÷期首期末平均総資本×100

X3:棚卸資産回転期間=期首期末平均棚卸資産×12÷売上高

X4:売上高支払利息率(%)=支払利息割引料÷売上高×100

ダミー分類基準 

SAF A 1.44<SAF値    優良圏内

SAF B 0.9<SAF値<1.44 安全圏内

SAF C 0.7<SAF値<0.9  倒産要注意

SAF D SAF値<0.7     倒産可能性大

本稿の分析においては、SAF Aを基準とし、説明変数にSAF B〜SAF Dダミーを用いる。

*19) 嶋谷・川井・馬場(2005)は、2001年以降、低格付け企業が株式発行を選択する確率が上昇していることを示している。また、細野・滝澤・内村・蜂須賀(2013)においても、倒産確率が高いとされるSAF Dランクと低カバレッジダミーの両方で、株式に対してプラスに有意な結果を示している。

財務省の政策