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コラム 経済トレンド65

健康志向とフードテック

大臣官房総合政策課 調査員 杉山 渉/志水 真人

本稿では、フードテック(フード×テクノロジー)のうち、近年世界的に注目を浴びつつある植物肉が、高まりを見せる日本人の健康志向にどう影響を与えるかについて考察していく。

食生活の変化

・厚生労働省と農林水産省によれば、1日の理想的な食事バランスというものが決まっており、例えば、12〜69歳の男性であれば2600kcal前後、10〜69歳の女性であれば2200kcal前後が推奨されている(図表1.理想的な食事バランス)。

・しかし、食生活は嗜好の変化や雇用・所得環境の変化などの影響を受けるため、常に人々が理想的な食事バランスを意識できているかは疑問の余地もある。直近約15年間でも、人口は横ばいにも関わらず、米や野菜の消費量は緩やかに減少、魚介類は大きく減少、一方で肉類は増加基調にあるなど変化は大きい(図表2.食物摂取量の変化)。

・また近年は、増加している単身世帯において中食や外食の機会が増えているため、食事バランスを意識した食事が難しくなっている可能性もある(図表3.食料に対する支出割合の比較)。

健康意識が強い背景

・医療技術の向上で、結核などに代表される感染症での死亡リスクが大きく改善したため、平均寿命は堅調に延びてきた(図表4.平均寿命の推移)。

・現代における主な死亡要因は生活習慣病であり、6割強を占めている(図表5.死亡要因)。

・そのような状況が周知の事実となる中で、2016年に行われた調査によれば、健康のために行っていることで、特に食事に気をつけている人が多いことが分かっている(図表6.健康のためにしていること)。また、供給側をみても、栄養バランスやカロリーの表示、糖質制限など、健康を意識した商品の提供が多く見られるようになった。

海外で広がる植物肉ブーム

・食を通じた健康意識の高まりは世界でも同様であり、オーガニック食材やグルテンフリー穀物などはその代表例である。そして現在、大豆などの植物性タンパク質を肉状に加工した植物肉が注目されている。

・植物肉が注目されている要因として、栄養価の高さが挙げられる。例えば、牛肉と比較すると鉄分や葉酸などが豊富に含まれている(図表7.栄養素の比較)。また、人・社会・地球環境への配慮を重視するエシカル消費の流行や、菜食主義者や準菜食主義者などの増加も、植物肉が注目される大きな要因だろう。

・植物肉を中心とする代替肉の市場規模は2018年現在で約4,800億円とされており、5年後には6,700億円になるとも予想されている(図表8.代替肉の市場規模(世界))。

・従来より動物肉の消費量が多い米国では特に植物肉への注目度が高く、すでに設立10年未満の企業が小売店や大手飲食チェーンなどを通じて植物肉の供給を進めている(図表9.植物肉に取り組む企業)。

日本の食文化と植物肉の親和性

・栄養面が注目される植物肉だが、強みはそれだけではない。牛肉1.0kgの生産には大豆換算で約5.3kgの飼料が必要となることから、植物肉は生産効率が高いと言える(図表10.肉1.0kgを生産するのに必要な飼料(大豆換算))。

・一方、家畜が排出するGHG(温室効果ガス)は、国内の農林水産業におけるGHG排出量の約3割を占めるなど、相応の影響を環境に与えている(図表11.農林水産業のGHG排出量)。大豆の栽培時にもGHGは排出されるが、生産効率を踏まえれば家畜の育成時の方が影響は大きい。

・日本は肉消費が増加傾向だが、消費対象が動物肉か植物肉かで栄養面・環境面への影響は変わるだろう。

・調査によれば、大豆製品は日本文化に根差しており、植物肉が広がる基礎はすでにあると考える(図表12.タンパク質摂取のために摂ろうとしている食品)。将来的に植物肉が日本にも広がり、人々の健康志向に応え、かつ環境保全にもつながることを期待したい。

(出典)農林水産省「食料需給表」「畜産環境をめぐる情勢」、総務省「家計調査」、厚生労働省「人口動態統計」、日本生命保険相互会社「インターネットアンケート」、Markets and Markets「Global Forecast to 2023」、不二製油グループ本社株式会社「食への意識に関する調査」

(注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。

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