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海外ウォッチャー/「ファイナンス」令和元年11月号

IMF支援プログラム−IMF財務の視点から

国際通貨基金(IMF)財務局 エコノミスト 北野 賢治

1.はじめに

筆者は二年前より、IMFの財務部にあたる財務(ファイナンス)局においてエコノミストとして勤務している。財務局における筆者の業務は簡単に言うと、資金を使う仕事と集める仕事が半々となっている。前者はIMFの主要な活動の一つである加盟国に対する資金融資に対しIMFの財務の観点から審査を行うこと、それに対し後者は、そのIMF融資を支える十分な資金基盤を確保するため加盟国からの資金拠出と貸与を受けることである。

本稿は前者の業務に関連した内容である。現在筆者は数か国のプログラム国を担当しており、各国担当が起案する個々のプログラム及び資金計画の審査を財務局の立場から行っている。企業への融資が財務諸表や事業計画の分析に基づいて行われるのと同様に、IMF支援プログラムの審査は、IMF内の借手国の担当者が起案する、当該国のマクロ経済指標とその予測を含む経済レポート及び経済プログラム案の分析を通じて行う。本稿では、IMFによる資金支援の現状とその特徴を簡潔に紹介した後、IMF財務の視点からのプログラム審査における基本的な考え方を紹介したい。なお、本稿は筆者なりの理解に基づくIMFにおける貸出ルールの個人的な解説であり、組織としての見解や公式解釈を示すものではない。IMFになじみのない方にも、本稿がIMFという国際機関やIMF支援プログラムの役割を知るための一助となれば幸いである。

2.IMF資金支援の現状

通貨や経済に関する国際協力を行うための国際機関として設立されたIMFのミッションは多岐にわたり、設立以降その力点も変遷してきた。その中でもIMFが国際機関最大の資金基盤を備えている理由は、主要ミッションの一つである、加盟国が国際収支危機に対処するにあたっての資金支援を担うためである。IMFの資金支援は、特定のプロジェクトや地方自治体に対して行われることはなく、支援対象は常にIMFとの間で経済プログラムの実施に合意した国そのものである。2019年9月末現在で、IMFの一般財源からの資金支援を伴う21のプログラムが進行中であり、プログラム期間が終了したものも含めた資金貸付残高は930億ドル強に上る。世界金融危機、ユーロ危機を経て貸出残高がピークとなった2012年と比べ4分の3程度の水準であり、昨年から比べると顕著に増加傾向にある。具体的な貸付先を見ると、貸出残高に占める国別の割合は以下の通りである。残高がピークとなった2012年前後より、経済規模が大きくかつ危機時の資金ギャップも大きかった複数のユーロ圏国がIMFからの借入を増やし、結果として一時的に資金貸付額が大きく欧州に偏った。今現在はこのような地域的偏りは解消されているものの、特定国への与信集中は高まっている。

3.IMFによる融資は何が違う?

IMFによる貸付は、商業銀行や世銀などの開発金融機関による資金融通とどこが違うのか。IMFの最上位の法規、IMF協定の第一条に掲げられた6つの組織目的のうち5つ目が、貸付の根拠となっている。

(v)適当な保障の下に基金の一般資金を一時的に加盟国に利用させ、このようにして国内的又は国際的な繁栄を破壊するような措置に訴えることなしに国際収支の失調を是正する機会を提供することにより、加盟国に安心感を与えること。[公式訳より]

“国際収支の失調を是正”とあるように、IMFによる資金支援は、国際収支上の資金ギャップを政策調整を通じ解消するための経済プログラムと、切っても切り離せない関係にある。資金支援を受ける加盟国は、資金ギャップを生じさせている政策や経済構造が抱える問題の解消に向け、1〜4年の経済プログラムにIMFとの間で合意する必要がある。プログラムのデザインに当たっては、定性的な達成事項と経済パラメーターに対する定量的な基準値からなるコンディショナリティを、各々の達成期限と併せて設定する。そして、プログラムの進捗状況をこのコンディショナリティに照らして定期的に理事会が検証(レビュー)し、そのレビューが完了すればその都度資金が分割式で借り手国に渡っていくのが原則である。この国際収支の問題解決に向けた経済プログラムの存在が、IMFによる貸付の最大の特徴であり、組織的に集積されたマクロ政策及び経済危機管理の知見をもとに、効果的かつ実現可能なプログラムデザインを考案しプログラムを成功に導くことが、IMFには期待されている。IMF支援プログラムが実施されていることを条件として、IMF以外からの多国間、二国間の資金動員が可能となっているケースも多く、プログラムの存在は当該国の経済運営に対する信頼感を下支えする効果もある。

また、他の特徴として、資金支援規模に関する柔軟性がある。借手国ごとの貸出上限は一応存在するものの、それを超える巨額の対外資金ギャップが見込まれ、かつ債務持続可能性や制度的キャパシティなどの一定の条件を満たせば、例外的アクセスと呼ばれる上限を超えた貸付が認められる場合がある。これは、世銀などの開発金融機関が貸出のエクスポージャーの絶対的上限額を借手国ごとに定めていることとは対照的である。この違いの背景には、組織の目的が異なる上に、資金調達構造の違いがあるだろう。資本市場からの調達を行う開発金融機関は、市場からの財務評価により敏感である一方、IMFは加盟国の中央銀行からの通貨拠出及び貸付のみで資金調達を行っている。こうした柔軟性は、一定の条件を満たせば、世界的な経済危機等の緊急時にも資金ニーズ規模に応じた最適な対応を可能とし、最大1兆ドル規模の大きな貸出能力と併せ、国際金融セーフティネットの中心的な担い手として市場にコンフィデンスを与える効果を果たしてきた。

一方で、いざという時の支援規模に関して柔軟性があるとはいっても、融資自体が柔軟に行われるわけではない。IMFの資金利用は、先述したIMF融資の目的に沿った真に必要な資金であることに加え、リソースに対する十分なセーフガードが確立されていることが前提条件である。上記協定抜粋の“適当な保障の下に(under adequate safeguards)”との文言は、融資にあたりIMFの資金保全のための十分な措置を講じることを求めており、この原則は、議論の過程を経て精緻化され貸出ルールの各所細部に埋め込まれている。上述したコンディショナリティも、借り手国による国際収支の問題解決を手助けするものであると同時に、将来のIMFへの返済を担保するためのリソース保全の重要な手段でもある。

また、協定の“一時的に(temporarily)”という部分もIMFの融資を特徴付けている部分と言える。基本的にIMFによる資金は借換を繰り返し継続的に利用することを前提としたものではなく、プログラム期間中に経済的不均衡の解決を終えて国際収支上の資金ギャップを解消し、IMF資金の利用から退出していくことが想定されている。プログラムの実施後、事後的にIMFに対する償還資金が新たなIMF資金で賄われてしまったケースはあるが、それは当初意図していた国際収支上のギャップ解消が実現しなかったということである。

図表 IMFの一般財源による貸付残高

4.財務面からのIMF支援プログラムの審査

筆者の勤務する財務局のエコノミストの主要な役割の一つは、先述したIMF資金利用の原則に基づく貸出ルールに基づき、各国担当が起案する個々のプログラム及び資金計画の審査を行うことである。基本的に、プログラム承認時や定期的なプログラムレビュー時に、担当チームが現地に交渉に向かう前と後に審査が行われ、書面コメント及び会議で担当チームと協議を行う。プログラムの審査を総括する戦略政策審査局による取りまとめの下、財務局は主に、協定と整合的なIMFの資金利用やIMFのリソースに対するセーフガードを確保するため、資金支援の計画に関し、十分に強度のある有効な経済プログラムとなっているか、アクセス額(貸出額)や貸出スケジュールは適切か、将来の資金返済能力は十分か、といった観点から審査を行う。具体的エピソードは記述することができず少し抽象的になってしまうが、様々な異なる状況下のプログラムから自分なりに得た審査における基本的な考え方を紹介したい。

[十分に強度のある有効な経済プログラムとなっているか?]

まず、IMFの資金利用は、根本的に何により正当化されるのか。上記協定にもあるとおり、IMFの貸出の直接の目的は、借入国の国際収支上の資金ギャップへの対応でなければならない。資金ギャップは、債務借り換えの困難や、主要交易産品の価格下落、金融セクターの棄損など、各国の経済構造に応じた様々な原因で発生する。しかし、例えば政府部門が赤字というだけではIMFの資金利用は正当化できないし、たとえ民間部門含めた国全体で経常赤字が存在していても、その分を海外からの資本流入や援助でまかなえている限りは問題はない。さらに、一見資金繰りが厳しく見えても、外貨準備を一時的に取り崩している間に、その間に当局が個々の経済構造に応じた短期的な政策対応(金利引上げ、財政収支の改善、実質為替レートの引下げ、需要管理政策による輸入抑制、債務再編等)を進め、不均衡是正に向けた経済調整を完了できる場合は、資金ギャップは現在も将来も存在しないことになる。つまり、経済を破壊しない範囲で国際収支の問題解決に向けた最大限の政策調整を行い、外貨準備の確保も必要最小限に留め、それでも経済に内在する不均衡解消には時間がかかるため一時的に資金不足が生じて国際収支に穴が空かざるを得ない、という状況が予想されて初めてIMFの貸出は正当化される。そのかわり同時に、その“最大限の政策調整”を担保するための十分に強度のある経済プログラムにコミットしなければならない。

言い方を変えれば、強度が十分でないプログラムではIMF資金の最適な活用は行われない。IMFからの借入は、例えば、金融の引き締めが足りなければ際限のない資本流出の穴埋めに使われていくかもしれないし、政府の支出削減が行われなければ消費水準を間接的に支え輸入の抑制を阻害するかもしれない。通貨下落圧力がかかる中で固定為替レートを維持している場合は、対外競争力の改善が進まないばかりか、為替レート防御の介入にIMF資金が際限なく使われていきかねないケースもある。上記は例示であり、実際には全ての国に対応する正解、不正解はないが、IMFの資金が最大限効果的に活用されるべく、対外バランス、財政政策、金融政策、金融セクター、構造問題など、各分野の政策とコンディショナリティを点検しながら、総体として調和がとれた、経済や政策が抱える不均衡の解消に有効なプログラムとなっているかを検証する。

また、IMFの貸付は、その経済が抱える国際収支上の不均衡の様態に合わせて選択された、一つの特定の類型の資金アレンジメントの下で行われることとなる。個々の詳細には立ち入らないが、アレンジメントの種類により、プログラムの期間、資金の償還期間、コンディショナリティの設定の仕方などが異なっており、当該国が抱える問題解決に向けたプログラム目的に沿った、妥当なアレンジメントが選択されているかも検討を行う。

[アクセス額(貸出額)や貸出スケジュールは適切か?]

IMFからの貸付額は、プログラム下でのマクロ経済予測に基づき算定された国際収支上の資金不足額を基に決定されるため、上述した経済プログラムのポリシーの内容と貸付額は密接につながっている。プログラムの規定する経済調整の実施を前提とした国全体の貯蓄投資バランスの予測を立てた上で、一定期間ごとの国のトータルの対外資金ニーズ(輸入、対外利払いや、債務償還などを含む対外資金フロー等)と対外資金ソース(輸出、債券新規発行や借換を含む対内資金フロー、IMF以外の海外からの援助、外貨準備の取り崩し等)の額を算定し、その差額として現れる国際収支上の資金ギャップが、IMF資金へのアクセス額となる。

アクセス額に関する精査は、上記の方法で資金ギャップを算出するための表の数字を点検することが出発点になる。前提としておいているプログラム下のマクロ予測や、その数字の背後にある政策の妥当性、またはその他資金ニーズとソースに関する前提が適切かどうかを検証していく。例えば、国内の貯蓄投資バランスの不均衡が継続し資金ニーズが高止まりしていれば、プログラム下での需要の削減が不十分であったり、インフレ率や為替レートの調整が十分でない可能性があるし、逆に資金ニーズの過大見積もりとなっている可能性もある。外貨準備の取り崩しが過度に慎重で資金ソースが過少推計されてないか、債務借換の資金需要が大きく平均満期の長期化など債務管理の見直しが必要ではないか、資金ギャップを埋めるのにIMF以外の国際機関や二国間の援助は見込めないのか等、プログラムのストーリーと整合的で、かつ現在入手可能な情報に基づきリーズナブルな資金前提に基づく資金ギャップの推計となっているかを検証する。また、加盟国が経済プログラム下で資金ギャップを可能な限り小さくしくても、IMFからの支援額でもなおそのギャップがカバーできない見込みの場合は、IMFはプログラム承認やレビュー完了を行うことができないことになっている。従って実際はそのような姿で原案が作られることはないが、むしろ、各期間の資金ギャップを全て閉じるために不自然な経済前提が置かれていないかどうか、注意を払うことになる。

また、IMFの支援規模の大きさは、絶対額の他に、借入国のIMFに対する出資額(クォータ)に対する相対規模で表現されることが一般的であり、クォータ比〇%という形で、他のIMF支援との比較での規模の大体の相場観を把握できる。例えば、一般的な貸出ではクォータ比年間145%、累積435%が上限であり、この規模に近づいてくると大型の資金支援ということになる。さらに、この通常のアクセス上限を超える、先述した例外的アクセスが検討されている場合には、アクセス額自体の妥当性の検証に加え、債務持続可能性、市場アクセス、制度的キャパシティなどから成る例外的アクセスの四つの条件を全て満たし、IMF資金への十分なセーフガードが確保されているか検討を行うことになる。

プログラム下で承認される資金総額に加え、どのようなスケジュールでどれだけの資金を借手国に渡していくかも重要な論点だ。先述の通り、IMF支援プログラムは、定期的にプログラムの進捗状況を理事会がレビューし、3か月又は6か月のレビュー完了の都度資金が分割式で段階的に支払われる(フェージング)。プログラムが計画通りに進捗していない場合は、残りプログラム期間のIMF資金の貸出を留保する余地を残すことで、借入国によるプログラムの確実な実施を担保するとともに、IMFリソースの保全機能としても機能している。一回のレビュー完了で支払われる資金額は、各期間毎に借入国が必要とする資金額の予測に基づいて決まる。そのため、シンプルにプログラム承認及びレビューの回数に応じて等分を貸し出すケースもあれば、前倒しで等分よりも大きな額が要求されることもある。前倒しで資金が借入国に渡れば、当該国のプログラムに対するオーナーシップや政治サイクル等によっては、その分IMF資金はリスクに晒されやすくなる。このようなフェージングの妥当性についても、十分に検討される必要がある。

[将来の資金返済能力は十分か?]

IMF協定に定められるIMF資金に対する十分なセーフガード確保のため、将来の返済能力の評価も重要な論点である。返済能力が十分であると判断されなければ、IMFはプログラムの承認や継続ができない。資金返済能力の評価にあたっては、プログラム期間以降の返済期間も含めた中期的な経済予測を元に、IMFの資金返済に影響を与えうる種々の要素を勘案した包括的な評価が必要である。最近は会計基準の高度化もあり、貸付先の返済能力の評価を精緻に行うことの重要は増している。

定量的な分析を行うにあたって、比較可能性の高い参照値としては、ストック面では対外債務や対IMF債務のGDPや外貨準備に対する割合、フロー面では対外対IMF債務元利払いのGDP、輸出額や外貨準備に対する割合などが用いられる。これらの指標がIMF資金の返済期間中にどのようなレベルまで高まるかを確認することで、他のプログラムとの定量的な返済能力の比較が可能となる。一方で、中期のGDPや外貨準備、輸出に対する過度に楽観的な予測が、返済能力の過信を招いていないかも検証する必要がある。

さらに、アクセス額やフェージング、プログラム期間と償還期間の長短も、返済能力に直接的に影響を与える。例えば一度当たりの資金交付がより等分であれば、それぞれの交付の一定期間後に来る返済期限も緩やかに訪れる。また、プログラム期間が長く償還期間も長いほど、一定期間あたりの返済義務は平準化されることになる。このほか、経済プログラムのリスクや、当局の政策遂行能力などの定性的な要素も勘案し、多面的に当該国の返済能力の評価を行っている。

また、たとえ返済能力が十分と評価されても、借手国が返済義務を履行できないリスクがどこに潜んでいるかを見極めることが重要である。従って、速やかな政策調整の実施や将来の返済能力に影響を与える内外のリスクを特定した上で、個々の融資案件の最終判断を行う理事会に対し、明示的に示すことが求められる。なお、先述した例外的アクセスの場合は、その資金コミットメントの規模の大きさに鑑み、プログラム承認に伴うIMFの流動性に与える影響や、元本貸倒れに備えた積立金の分析等、IMFの財務に対するリスクを財務局がより詳細に分析した上で、理事会に提示することとなっている。

5.おわりに

本稿では、財務の視点からIMFの資金支援プログラム審査における基本的な考え方を紹介した。IMF支援プログラムに関する議論や業務のイメージが少しでも湧けば幸いである。今回は資金を使う側、IMFの融資に焦点を絞って執筆したが、財務局における筆者のもう片方の業務である資金を集める側の業務も、国際金融アーキテクチャを支えるIMFの資金基盤の制度設計や、資金提供国との合意形成や折衝など、また種類は違うがとても興味深い分野であり、本当に貴重な経験をさせて頂いていると感じている。

どちらの側の業務に関してもIMFの財務局は基本的に本部機能であるため、結果として笑顔の現地出張写真などは用意できなかったが、それでもここまで読んでくださった方々には感謝申し上げたい。

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