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ファイナンスライブラリー:政治権力と行政組織 中央省庁の日本型制度設計

河合 晃一 著

勁草書房 2019年3月 定価 本体3,800円+税

評者

渡部 晶

著者は、現在、金沢大学人間社会研究域法学系准教授(本書刊行時、講師)で、専門は行政学、地方自治論である。

本書は、その著者が2017年に早稲田大学大学院公共経営研究科へ提出した博士論文に加筆修正を行ったもので、1990年代の政治・行政改革以降、政官関係の変容が盛んに議論されている中で、政治と行政が互いにどのような影響力を持ちながら近年の中央省庁を新設させているのか、という問題関心を持ち、金融監督庁、金融再生委員会(現在の金融庁)、消費者庁、復興庁を対象に事例比較分析を行ったものとなっている。

本書の構成は、序章 問題関心と課題設定、第1章 理論枠組と仮説、第2章 金融行政組織の制度設計をめぐる政治過程―自民党政権1996‐1998、第3章 消費者行政組織の制度設計をめぐる政治過程―自民党政権2007‐2009、第4章 復興行政組織の制度設計をめぐる政治過程―民主党政権2011、終章 結論と合意、となっている。

序章では、行政組織の制度設計に関する先行研究の2つの知見に焦点があてられる。

1つは、制度設計の政治性であり、すなわち、行政組織の制度設計は「政治権力を行使する者の利益、戦略、妥協を反映して」なされており、必ずしも機能合理性が担保される形で制度設計がなされているわけではない、という知見である。もう1つは、制度設計の帰結に、政治的不確実性(political uncertainty)が影響力を与える、という知見である。政治的不確実性とは、具体的には、現在の政権政党が政権交代によって政治的権力を失う可能性をいう。政権交代による権力喪失といった将来の危機(コミットメント・コストの発生)に備えて、関係アクターはあらかじめ保険的な制度設計をする場合があるというものである。

そして、アメリカ政治学由来の上記の2つの知見(通説)のうち、後者の、組織の制度設計の帰結に対する政治的不確実性の影響力に関して、批判的な検討・検証を行うとする。

第1章では、序章の問題関心を受け、行政組織の制度設計に関する研究動向について、上記のような通説を形成するものとなる、アメリカで発展した、合理的選択制度論にもとづく「組織の新経済学」(NEO:New Economics of Organization)モデルについて詳細な考察がなされる。そして、NEOモデルが重視するコミットメント・コストではなく、コンセンサス・コスト(立法過程における野党との合意に係る政治的取引費用の程度)の大きさを重視する「コンセンサス・コスト仮説」を新たに提唱する。

第2章は、評者がちょうど証券局、大臣官房文書課で課長補佐をしていた時代の事例研究である。金融危機への対処と並行して行われた組織改編が、機能合理性からではなく、「制度設計の政治性」、「コンセンサス・コスト」が大きな要因であったとする分析には頷かされる。ただし、作用法の領域において、野党法案にあったいわゆる「国有化」条項は、従来の法制局審査を越えた思い切った仕組みであり、これと抱き合わせの「丸のみ」になっていたことに留意する必要があろう。

第3章は、評者も本誌平成29年12月号で、原 早苗/木村 茂樹 編著「消費者庁・消費者委員会創設に込めた想い」を紹介したこともあり、福田元総理の想いと消費者行政強化について時代の要請とのタイミングの一致などの幸運に恵まれたとの感想を持つ。また、法案(原案)提出が政府側にあることの修正協議での重要性・優位性を痛感する。

第4章は、金融監督庁を創設する際の作用法についての所管の切り分け作業をした経験からすると、事務的には、関係省庁から復興庁へ権限を移管する自民党案には抵抗感があったろう。行政管理系官庁の影響力は、時限組織(事例によってはスクラップアンドビルドが貫徹しているかどうか)とされたあたりにみることができると思う。

終章では、結論として、何が中央省庁組織をデザインしているかについて、著者の「修正」NEO理論の有効性を確認しつつ、政党間での合意調達に係る政治的取引費用の大きさだとする。ドイツなどと違い、内閣が国会の運営にほとんど関与する法的な仕組みがない中で、野党が議事運営などで徹底抗戦し、国会提出までに膨大なコストを費やした法案が廃案になる可能性は低くしたいところだ。また、強硬策は、内閣の政治資源を大きく減らすことになる。この結論は実務的にも首肯できる。行政学の大きな課題は、アメリカ理論の直輸入からの脱却だとされていると思うが、本書は、「日本の実際」を踏まえた理論書として、その期待にも応えうるものだと感じた。

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