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税務署の将来―新米税務署長からの提言

前近江八幡税務署長(個人情報保護委員会事務局 参事官補佐) 田宮 寿人

平成30年7月から1年間、滋賀県にある近江八幡税務署長として勤務する経験を得ました。ファイナンスをご講読の皆さまに、「税務署とはどんなところか」「税務署長は普段どのような仕事をしているのか」などについてご紹介し、あるべき税務署の将来像について、新米の税務署長としての個人的な見解を述べさせていただきたいと思います。

1.税務署とはどんなところ?

警察署や消防署など、名前に「署」がつく機関は多々あります。警察署や消防署にはパトカーや消防車があり、子供でもイメージを持ちやすいのですが、税務署を小学生に説明をするためには、少し工夫が必要になります。

小学生に税務署を説明するときは、(1)税務署が税金を集めるところであるということを説明して、(2)身の回りにある税金の例として消費税をあげ、(3)税金の使い道として健康保険や道路の話をする、というように、3段階ぐらいのステップを踏まないといけません。

大人に税務署を説明するときも、個人で事業をされている方には馴染みがあるかもしれませんが、給与所得と年末調整だけで、確定申告をしていないような方は、「税務署」と言われてもピンとこないかもしれません。

税務署のイメージをつかむため、税務署や国税組織が取り上げられた映画やテレビドラマの例を見てみましょう。

国税組織が取り上げられた映画で有名なのは、昭和62年公開の『マルサの女』です。宮本信子さんが演じる国税調査官が、老夫婦が経営しているスーパーに税務調査に行き、「売れ残ったコロッケはどうしているの」と質問して、老夫婦が「売れ残りは家で食べているよ」と答えたところ、国税調査官が家事消費*1として売上計上漏れがあることを指摘するというシーンが冒頭にあります。この国税調査官が勤務しているのが税務署です。

ちなみにこの後、宮本信子さん演じる国税調査官は、国税査察官として国税局査察部(いわゆる「マルサ」)に異動を命じられることとなり、映画の舞台は税務署から国税局に移ります*2。

他に国税組織が取り上げられたテレビドラマでは、平成24年に日本テレビ系列で放映された『トッカン』というドラマがあり、井上真央さんが演じる国税徴収官が、税金の滞納者からの取立てに日々奮闘する様子が描かれています。

*1)棚卸資産(商品など)を家事のために消費したり、贈与したような場合も収入金額になり、売上として計上する必要があります。

*2)国税局は、税務署の上部組織であり、全国に11の国税局と沖縄国税事務所があります。国税局は全ての県にあるわけではありません。近江八幡税務署は滋賀県にありますが、国税局の所管は大阪国税局となります。

〈税務職員の役割〉

これまで、「国税調査官」「国税徴収官」「国税査察官」と、3つの職名が登場しました。「国税調査官」は、個人や会社などを訪れて、適正な申告が行われているかどうか税務調査や申告指導などを行います。「国税徴収官」は、滞納した税金の督促や滞納処分などを行います。「国税査察官」は、裁判官から許可状を得て、悪質な脱税者に対して捜索・差押等の強制調査を行い、刑事罰を求めるため告発を行います。国税査察官は、国税局に勤務しており、通常は税務署にはおりません。

近江八幡署には、私を含めて44名の常勤職員がおりました。部署は、総務課・管理運営部門・徴収部門・個人課税部門・法人課税部門の大きく5つに分かれています。非常勤職員を含めると50名程度、最も忙しい2〜3月の確定申告期は、総勢70〜80名程度の規模になります。

怖いイメージのある税務署ですが、働いている職員は使命感のある職員が多く、税に関する質問があれば親切に答えてくれます。「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖の的」という言葉があり、GHQ歳入課長ハロルド・モス氏が、国税庁が発足する際に贈ったスローガンです。悪質な脱税を厳しく取り締まるだけでなく、真面目に納税している国民の相談に寄り添うことも、税務職員の大切な役割です。

平日に税務署に行く時間が取れないという方には、国税局電話相談センターがおすすめです。最寄りの税務署に電話をして音声案内に従い、「税に関する一般的な相談」をお選びいただければコールセンターにつながります。また、まずは自分で調べたいという方には、国税庁のホームページのタックスアンサーによくある質問がまとめられております。

コールセンターやタックスアンサーで解決ができない問題は、事前に税務署に電話をして予約した上で相談に行くと、待ち時間がなくスムーズです。特に、1〜3月は、確定申告前で非常に混み合いますので、その時期を避けて事前に相談をしておくと、職員も丁寧に対応できます。難しい申告などわからないことがあれば、是非、コールセンター、税務署、または税理士さんに相談をしていただければと思います。

2.税務行政の最高責任者としての税務署長

税務署長は、税務署の運営に関する最高責任者です。

国税の法律において、多くの権限は税務署長が決定権を持っています。例えば、国税通則法第40条において、「税務署長は、…国税が…完納されない場合、…滞納処分を行なう。」と定められています。滞納処分とは、差押えなどによって強制的に税を徴収することをいいます。裁判所の令状がなく強制的な執行をできるのは例外的な規定であり、それだけ税の徴収が国家の機能として重要視されていることがわかります。

近江八幡税務署長に着任する前、仙台国税局に出向していた際に、徴収官として、悪質な滞納者の店舗を捜索して、現金を差し押さえたことがあります。「○時○分、国税徴収法第142条にもとづき、捜索を開始します。」という先輩職員の一声で捜索は始まり、事務所の売上金を差し押さえました。

強引に取り立てるだけが徴収職員の仕事ではありません。納税者の資力などを見極め、納税誠意のある納税者に対しては、法律の規定に基づいて分納を認めるなど、納税者としっかりと向き合った対応が求められます。徴収職員だけでなく、税務調査を行う職員、申告相談を行う職員、全ての税務職員に、現場での対応力や人間力が求められます。私が一緒に仕事をした税務職員の方々は、立派で尊敬のできる方々が多かったと感じています。

税務署長の役割は、税務署の職員と向き合って、事案の決裁を行い、行政機関としての最終的な意思決定を行うことです。税務署長が現場に行って、納税者と対峙することはありません。向き合う相手は署の職員です。

決裁を行う際は、内容の吟味はもちろんですが、署の職員の雰囲気を感じ取るようにしていました。「あれ、○○さん、いつもより元気がないな」「××さん、いつもより緊張してるな」といったそんなことではありますが、背景を探ってみると「実は…」といった事情があるときもあります。

職員が「実は…」と話してきてくれてからが、署長の腕の見せ所です。経験のある職員が悩みぬいて、なお残る課題なのでどれも難しい問題ばかりです。途方もない難題を前に、「うーむ」と一人で悩んだことも多々あります。ましてや、国民の権利義務に直結する税の問題であれば、なおさらです。

そんな時に最も頼りになったのは、署のナンバー2を務める総務課長である池田さんでした。新米税務署長であったがゆえに、ご苦労をたくさんかけてしまいましたが、いつも的確なアドバイスを下さいました。また、国税庁・国税局に務める諸先輩方、滋賀県下をはじめとする他署の署長の方々にも、いつも親身になって相談に乗っていただきました。大阪国税局の明るくフレンドリーな気質がとてもありがたかったです。

様々な情報や意見を集めた上で、最後は自分の決断です。適正かつ公平な賦課及び徴収とはどうあるべきか、納得いくまで悩んで、後悔のない決断をしなければなりません。目論見通りに事が進んで、職員と一緒に飲むお酒が、署長としての一番の醍醐味でした。

3.署の顔としての税務署長

税務署長は署の顔でもあります。税務署と他の機関との関係を良好に保つため、いろいろな場で挨拶をしたり、会議に出席したり、署の顔としての働きが求められます。

近江八幡署管内の人口が20万人超であるのに対し、税務署の職員はわずか40数名と、税務署の人員は限られています。市町村や関係民間団体との協調なくして、税務行政は成り立ちません。また、税制はわたしたちの生活の中に溶け込んでいる制度であり、地域の実情を知らずに、紋切り型に法律をあてはめているだけでは、独善的な税務行政になってしまうおそれがあります。

地域の実情について、生の声を届けてくださる貴重な存在が、納税協会や納税貯蓄組合です。納税協会は、健全な納税者を志す個人・法人の会員からなり、税務署の所管地域ごとに設置されています*3。納税協会には、地域の有力企業、名士の方々に加入していただいており、税務当局に地域の実情を教えてくださる非常に有難い存在となっています。

署長として、納税協会の会員の方々に講演をさせていただく機会が何度かあり、「日本経済の構造的な変化と税制での対応」というテーマで講演をさせていただきました。地域の名だたる経営者の方々を前にどのような話をしたら良いか、講演会の前には頭を悩ませましたし、とても緊張しました。

質疑応答で寄せられる質問はどれも鋭く、「東京一極集中をどう考えるべきか」といった地方創生の観点からの質問や、「MMT(現代貨幣理論)についてどう考えるか」といった時流に合ったトピックなど様々な質問があり、霞が関のオフィスで考えていた理論について、地域の方々と直接意見を交換できる貴重な機会となりました。地域の方々と国の政策について意見交換をした経験は、いまの霞が関勤務でも活きています。

*3)「納税協会」という名称は、大阪国税局管内特有のものであり、他の国税局管内では、法人会、青色申告会、間税会などと呼ばれています。

〈地方公共団体との関係〉

税務署が所管しているのは所得税・法人税などの国税であり、住民税などの地方税については地方公共団体が所管しています。国税・地方税は密接に関連するため、税務署と地方公共団体との協調は不可欠です。特に、確定申告の時期は、近江八幡署管内の市や町に、住民の方々の確定申告相談について、多大なご支援を頂きました。近江八幡署のように、管内の面積が広く、税務署の人員が限られている地域においては、市町の職員の方々の協力なしには、確定申告を円滑に運営することはできません。

確定申告の時期は、次々と寄せられる相談に対応するため、税務署の職員も市町の職員も残業時間が多くなっており、かなり心身の疲労がたまりやすい時期です。少しでも職員の負担を軽減するために、作業の合理化が必要となっておりますが、実は、国と地方の連携に一つ大きな課題があります。

課題というのは、現状、地方公共団体で確定申告相談を行う際に使うシステムが、国税のシステムと連携していないことが多いのです。その結果、地方公共団体が作成した確定申告書のデータを、紙に印刷して税務署に持ち込むこととなっています。

せっかく地方公共団体でデータ化されている確定申告書が、税務署に持ち込まれる時には紙になってしまうため、税務署の職員は紙をスキャンして、データに入力をする手間が発生しています。紙をスキャンするのには時間がかかりますし、その分、納税者の方々に還付金をお振り込みするのが遅れてしまうことになります。また、大量の確定申告書を紙で移送するため、万が一紛失があれば個人情報の漏えいにつながり、大きなリスクがあります。

現在、多くの地方公共団体において、システム改修の検討が進められております。私も、この問題を解決するべく、市長さん、町長さんをはじめ、地方公共団体の方々に、着任当初から積極的に働きかけを行いました。システム改修のためには、一時的に費用や労力がかかってしまうのですが、「データ→紙→データ」の非効率を改善するべく、署長の立場で市長さん、町長さんに直談判してまわりました。

幸い、近江八幡管内の自治体の方々は、システム改修に理解を示してくださっており、前向きに検討が進められております。一部の自治体では、私の任期中にシステム改修に対応していただくことができました。

税務署長は、署の顔であり、対外交渉官でもあります。

4.税務署の将来

あるべき税務署の将来像について、新米税務署長として個人的な見解を述べたいと思います。

〈税務署が抱える課題〉

税務署が抱える最も大きな課題は人手不足です。この20年間で、税務行政の専門性が増して仕事が困難になる一方、定員数は削減傾向にあります。背景には、日本経済をめぐるこの20〜30年間における、3つの大きな変化があります。

一つ目の変化は少子高齢化です。子どもの数が少なくなり、人口全体が高齢化したため、働き手の数が減少しました。それに伴って、公務員全体の数も抑制されるようになり、国税組織の定員数も削減傾向にあります。平成9年の国税庁の定員は、57,202人でしたが、平成30年には55,724人と1,478人の定員が減少しました。近江八幡税務署約40署分の定員が減少したのです。

二つ目の変化はICT技術の発展です。昭和60年に発売された日本初の携帯電話「ショルダーホン」は、その名の通り、肩からかける巨大な電話で、とても高価なものでしたが、令和の現代においては、携帯電話は片手に収まるスマホへと進化しました。ICT技術の発展の端的な現れと言えるでしょう。三つ目の変化はグローバル化です。平成元年、ソ連のベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦の象徴が壊されました。東西陣営に分断されていた世界の統合が進み、ヒト・モノ・カネ・情報が自由に世界を動き回るようになり、グローバル化が進みました。

ICT技術の発展とグローバル化により、人々の経済活動が複雑・活発になり、それに伴って、税務行政も複雑・困難化しました。税務調査や滞納処分を行うため、ICTと国際取引に関する知識が不可欠となる時代となりました。

一件一件の事務処理に時間を要するようになったのに対して、定員が減少し、国税組織における人手不足は深刻な課題となっています。顕著に数字に現れているのが、法人の実地調査率の低下です。実地調査率は、全対象法人のうちどのくらいの割合で税務調査が行われているかを示す数字です。平成元年には8.5%あった法人実地調査率は、平成29年には3.2%へと低下しました。約12社に1社行われていた税務調査が、この30年間で、約31社に1社となってしまったのです。

税務調査の頻度が低下することによって、正直者が馬鹿を見るような事態になってはならないと、職員の個々の努力によって、税務調査の質が高められておりますが、税務行政をめぐる環境は厳しいものとなっています。

〈あるべき税務署の将来像〉

「正直者には尊敬の的、悪徳者には畏怖の的」

ハロルド・モス氏が国税庁に贈ったこのスローガンを追求していくためには、人手不足・税務行政の複雑困難化という課題を克服していかなくてはなりません。

私は、その課題の克服のためのカギとなるのが、ICT技術だと考えています。税務署の中には、必ずしも人の手でやる必要のない仕事が山積しています。先ほどご紹介した地方公共団体とのシステム連携もその例の一つです。

確定申告の忙しい時期に、税務署の職員が管内の地方公共団体を車で巡回して、紙の確定申告書を一件一件回収し、申告書の原本を税務署に持ち帰ってスキャンで読み取り、スキャンの読み取りエラーを人の目で修正する、というやり方が、果たしてこの令和の時代に必要なのだろうかと考えさせられました。優秀な税務職員が、令和の時代に重いショルダーホンを背負わされているかのようでした。

現代では、大量反復の作業をプログラミングで解決するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という技術が進んでおり、一部の自治体などでも採用されています。このような技術の導入によって、少しでも税務の現場を支えられたらと考えています。

ICT化がどこまで進んでも、税務職員が不要となることはありません。税務行政は、納税者一人一人と向き合うことが必要であり、AIに完全に代替させることは不可能です。AIやプログラミングは大量のデータを読み込み、選択肢のもっともらしさや確率を算出することまではできます。しかし、その先の価値判断については、税務職員の深い知識と豊富な経験、そして、現場での対応力や人間力が必ず求められます。

ICTの波にのまれることなく、ICTの波に乗ることが、現代の国税組織に求められています。

5.むすびに

私が国税組織に感銘を受けたのは、入省して3年目に仙台国税局に出向したことがきっかけです。仙台国税局では調査課に配属になり、調査官として様々な企業の税務調査を行いました。私が調査先の企業と侃々諤々の議論を行っている様子を、温かく見守っていただいた当時の上司の方々には、税務職員としての心構えを教えていただきました。

また、様々な部署に併任する機会を得て、滞納処分の現場や、査察の強制捜査の現場、無予告調査の現場、被災者の方々の申告相談も経験することもできました。当時の上司の方々には、今でも温泉巡りや芋煮会でお世話になっております。仙台国税局当時お世話になった皆さまに心から御礼申し上げます。

署長として赴任した大阪国税局では、仕事に対する熱い思いを持った方が多く、国税組織の底力を思い知らされました。自ら考え、自ら実行するエネルギーのある職員の方々に圧倒され、良い刺激になりました。国税局の方々とのディスカッションによって、税務署という立場を超えて、国税組織全体について在り方を考えることができました。

また、他署の署長の方々とも、非常に多く意見交換することができました。各署独自の取組みについて勉強することができ、署務運営を行う上で大変勉強になりました。大阪国税局の皆さまには、公私問わず大変お世話になりました。誠にありがとうございました。

最後に、平成30事務年度に近江八幡税務署に勤務した職員・非常勤職員の皆さま、本当にお世話になりました。特に統括官の皆さま、不慣れな署長でご迷惑をおかけしました。皆さまのおかげで何とか一年務めることができました。

「むすびに」を書くにあたり、多くの方々の顔が浮かびましたが、お名前を全て列挙しようと思うと、とても列挙しきれないので、残念ながら個々のお名前は省略させていただきます。その中でも、一年間、労苦を共にした池田総務課長(現大阪局個人課税課課長補佐)には、改めて心から謝意を表したいと思います。

現在、私は、個人情報保護委員会事務局に出向しており、個人情報保護法の改正作業を担当しております。全く畑違いではありますが、国税で学んだ行政機関の執行のプロセスに関する知識は、今の職場でも活きています。国税組織には感謝の気持ちでいっぱいです。

※本稿の内容及び意見は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する(した)組織の見解を示すものではない。また、あり得べき誤りはすべて筆者に帰すものである。

税務こぼれ話(1)国税組織の隠語

国税組織には様々な隠語が存在します。税務職員は国民の様々な情報を取り扱うため、通常の公務員より重い守秘義務が課されており、日常会話から税務職員と悟られないように隠語が使われています。

最も有名な隠語は「マルサ」でしょう。査察部の査にマルをつけて「マルサ」と呼んでおりましたが、今では有名になりすぎて逆に使われなくなってしまいました。

本稿でもあまり隠語を紹介しすぎると、業務に支障がでてしまうかもしれませんので、ほどほどにしておきたいと思いますが、「税務署」や「署」のことを、公共の場で口に出すのは、税務職員の本能として控えられている傾向にあり、「会社」と呼ぶことが多いと思います。家でも「カイシャ」「カイシャ」というので、息子や娘には会社員だと思われているというようなケースもあります。税務職員は、家族にも調査や仕事の中身を話すことができず、それだけ重い守秘義務を負っています。

もう一つだけ隠語をご紹介します。「署長」は「おやじ」と呼ばれています。地域によっては、「おやっさん」だったり「おとうさん」だったりします。署長は、署の大黒柱であるということを含意しています。

私の場合、年も若く、むしろ職員の息子くらいの年齢であることもあったので、着任して当初はあまり「おやっさん」と呼ばれることはありませんでした。仕事のやりとりも増えてきて、職員から「この前、おやっさんと相談した件ですが…」という風に、自然と「おやっさん」と呼ばれるようになり、果たして、自分が「おやっさん」として職務を全うできているか、身が引き締まる思いになりました。

税務こぼれ話(2)「脱税」とは何か

まず、「脱税」というのは、国税通則法に定められた用語ではありません。メディアが報じるときに、「脱税」「所得隠し」「申告漏れ」という言葉が用いられますが、これらはいずれも国税通則法に定められた言葉ではありません。

メディアの記事の用例を見ると、「脱税」は査察調査が入って刑事罰が科されるときに、「所得隠し」は不正事実によって税金を免れたときに、「申告漏れ」は不正事実はないものの結果として税金を免れたときに、それぞれ使われているようです。脱税・所得隠しと申告漏れを分ける分水嶺は、「不正事実」の有無になります。

「不正事実」とは、事実の全部又は一部を隠蔽又は仮装することをいいます。例えば、二重帳簿をつけて利益が出ていないように偽ったり、売上伝票を破棄して売上を圧縮したりした場合、「不正事実」がある場合にあたります。不正事実がある場合は、ペナルティとして重加算税(35%〜)が賦課されることになり、延滞税も合わせると重い制裁となります。不正事実がなくても、税務調査によって申告漏れが発覚した場合は、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが発生します。

税務申告書の作成には、専門知識が必要となる場合もありますので、申告内容が不安な場合は、税務署か税理士に相談することをお勧めします。税理士は、独立した公正な立場において、申告納税制度の理念に沿って、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図ることを使命とした者であり、身近な税務の専門家です。

税務こぼれ話(3)お酒と税

財務省設置法には、国税庁の任務について「内国税の適正かつ公平な賦課及び徴収の実現、酒類業の健全な発達及び税理士業務の適正な運営の確保を図ること」と定められています。「酒類業の健全な発達」という他の並びとは一見合わないような任務が課せられています。

お酒と税の歴史は古く、酒税は室町時代の頃からあったと言われています。室町時代において、酒造業は最大の産業の一つであり、幕府の重要な収入源の一つでした。近代においても、酒税は重要な役割を果たしています。明治30年代には日露戦争を契機に、戦費をまかなうべく、酒税が国税の税収第1位となった時代となりました。地租よりも所得税よりも、酒税の税収の方が多い時代があったのです。

このような歴史から、酒類業については国税庁の所管となっており、酒税とお酒の免許に関する職務を行う「酒類指導官」や、酒類製造者の製造技術や品質管理技術の向上などを行う「鑑定官」という役職の方々がおります。

鑑定官の方々はお酒のスペシャリストであり、醸造の技術に関する知識はもちろん、酒の味覚に関する知識も豊富です。味覚検査では、1日に100点近い酒を利いて、それぞれの酒に対する良いところ・改善点を的確にフィードバックを行っており、造り酒屋の方から「先生」と呼ばれています。

年に一度、毎年5月頃に行われる全国新酒鑑評会の出品酒は、鑑定官の先生によって厳しい審査が行われており、金賞を受賞することは非常に困難となっています。平成30酒造年度には、全国から857点が出品され、金賞酒は237点にとどまっています。

近江八幡署管内で、平成30酒造年度に金賞を受賞した製造場は2場あります。一つは、「松の司」を醸造している松瀬酒造と、もう一つは、「喜楽長」を醸造している喜多酒造です。

松の司は竜王町の文化が込められたお酒です。竜王町の歴史、風土、自然の恵みに正面から向き合い、非常に丁寧に作り込まれたお酒は、毎年高い評価を得ています。社長の松瀬さんは、日本酒と料理のマリアージュにも力を入れられており、私が感動したのは松の司の大吟醸と白味噌仕立てのお碗の組み合わせです。

喜楽長は美味いお酒です。純米大吟醸の「愛おし」や大吟醸の「敬いし」といったハレの日にふさわしい華やかなお酒もあれば、一升瓶からぐい飲みに注いでほっと一息つけるような本醸造まで、「ああ、美味い」と思えるお酒を醸造されています。今年の父の誕生日には「敬いし」を父にプレゼントして「これは美味い酒だな」と喜んでおりました。

これらのお酒は、東京でも手に入りますので、是非、プレゼントやご自身の一本にお買い求めいただければと思います。

写真 苦楽を共にした近江八幡署幹部と一緒に

写真 地域の方々との意見交換の様子

写真 小寺・衆議院議員と小椋・東近江市長と東京で再会

写真 鑑定官の先生による滋賀県新酒きき酒会

コラム:近江八幡一日満喫コース

近江八幡税務署は、滋賀県の二市二町を所管しており、東近江市、近江八幡市、日野町、竜王町を所管しています。一年間住んで、管内をいろいろと巡ることができました。友人を案内してとても満足してもらったので、おすすめの一日観光コースをご紹介いたします。紙面の関係で全てご紹介できないことをご容赦ください。

11:30 昼食(ティファニー)

滋賀県といえば近江牛。産地ならではの美味しい近江牛を食べることができます。

12:30 日牟禮八幡宮

近江八幡観光は、八幡の名前の由来になった日牟禮八幡宮からはじまります。千有余年の歴史を誇り、近江商人に崇拝された由緒ある神社です。山頂のロープウェーからは、琵琶湖を一望することができます。

13:30 八幡堀

八幡堀周辺は、安土・桃山時代に水運の要衝として町が栄えました。旧家やヴォーリズ建築が建ち並び、歩いているだけでタイムスリップしたような感覚になります。最近新しくオープンしたTwo Rabbits Brewing Companyは、八幡堀にあるクラフトビール醸造会社で、本格的なクラフトビールが楽しめます。

15:00 安土城

織田信長の拠点となった安土城も近江八幡市にあります。城址は国の特別史跡に指定されており、当時の先進的な築城の様子を伺い知ることができます。安土城址近くの信長の館では、VRで再現された安土城を見ることができます。

16:30 ラ・コリーナ

ラ・コリーナ近江八幡は、たねやグループ・クラブハリエが誇るフラッグシップ店です。自然の流れに寄り添って設計された広大な敷地は、大人も子どもも楽しめます。焼きたてバームクーヘンが人気ですが、混んでいるときは1時間以上待つことも。バームクーヘンを購入するなら近江八幡税務署近くのたねやさんもおすすめです。クラブハリエ八日市の杜でも焼きたてショコラバームを食べることができ、混雑時はこちらもおすすめです。

18:00 夕食

1日の締めくくりとなる夕食は2パターン。

昼も夜も近江牛を満喫するなら、毛利志満(もりしま)がおすすめです。毛利志満の近江牛を食べて後悔した人を知りません。おすすめは鉄板で焼かれるステーキです。特別な日にどうぞ。

夜は、琵琶湖の幸とともに、滋賀の地酒をという気分なら、ひさご寿司がおすすめです。松の司の大吟醸と白味噌仕立てのお碗のマリアージュを楽しませてくれたのもこのお店です。初夏のビワマスに巡り会えたら幸運です。琵琶湖にしか生息しないビワマスは、滋賀の地酒にぴったりです。

どちらも事前に予約してお伺いされることをおすすめします。

写真 日牟禮八幡宮で毎年3月中旬に行われる左義長まつり。織田信長も参加したといわれる。ワラで編んだ巨大な山車と、夜の火祭りが圧巻。

写真 散歩に疲れたらTwo Rabbits Brewing Company併設のクラフトビアカフェRABBIT HUTCHで一息。新鮮なクラフトビールと琵琶湖産手長海老。

写真 信長の館に展示されている原寸大の安土城天主

写真 滋賀県を代表する観光スポット、ラ・コリーナ近江八幡。

写真 毛利志満:名物の肉寿司。飲み込むのがもったいない美味しさ。

写真 ひさご寿司:三種類の松の司の飲み比べセットと、琵琶湖産のさつきますと小鮎のお造り

<東近江地区に足を伸ばして>

ここまでご紹介したのは、近江八幡市のみで、東近江市、日野町、竜王町が紹介できておりません。近江八幡駅前のホテルニューオウミか、琵琶湖沿いの休暇村近江八幡で一泊して、近隣の市町に足を伸ばしてみてはいかがでしょう。どちらも豪華な朝食がついていて、のんびりと過ごせます。

<東近江市>

・太郎坊宮

・永源寺

<日野町>

・ブルーメの丘

・近江日野牛 岡ア

<竜王町>

・アウトレットパーク滋賀竜王

・湖華舞(古株牧場)

写真 勝利と幸運の神様。見所は二つの岩の間を通れる夫婦岩。筆者の後ろをちょうど一人が通り抜けられます。

写真 秋の紅葉は絶景。近くの八風の湯で日帰り入浴もおすすめ。(写真は東近江市観光協会から)

写真 2019/3には高さ17メートルのアスレチックが完成し、注目のスポット。季節の花が咲き誇り、動物とのふれあい体験も。

写真 ブルーメの丘近くの近江牛の名店。隣には精肉店も併設しており、お土産も。(写真は日野観光協会から)

写真 3月〜11月の毎月第4日曜日にアウトレットで開かれる竜王まるしぇ。竜王名産の甘いメロンなど、新鮮な野菜や果物が集まります。(写真は竜王町観光協会から)

写真 チーズ作り体験、ピザ焼き体験(共に要予約)やジェラートが人気。(写真は竜王町観光協会から)

プロフィール

田宮 寿人(たみや ひさと)

現個人情報保護委員会事務局参事官補佐

平成元年千葉県佐倉市生。平成23年財務省入省、国際局・仙台国税局・大臣官房・米国留学・近江八幡税務署を経て、令和元年7月より現職。

財務省の政策