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地方創生の現場から【第6回】 ラグビーワールドカップ2019の開催に携わって

地方創生に積極的に取り組む自治体(原則人口5万人以下)に対しては、国家公務員や大学研究者、民間人材を、市町村長の補佐役として自治体に派遣しています。本記事では、こうした制度などを通じて2018年度以降に財務省から各地に派遣された職員から、現地の概況や地方創生の取組について紹介します。

写真 トスタくん
※豊田スタジアムマスコットキャラクター

 

豊田市役所経営戦略部ラグビーワールドカップ2019推進課 主査 市岡 寛之

1.豊田市の概要

2018年7月より東海財務局から豊田市役所に出向しております市岡と申します。

今回、ファイナンスへの寄稿の機会をいただきましたので、豊田市の紹介、所属課名にもありますラグビーワールドカップに携わった経験を紹介します。

「豊田市」と聞いて、まずみなさんの頭に思い浮かぶのは、「クルマのまち」ではないかと思います。

豊田市は、全国有数の製造品出荷額を誇り、世界をリードするものづくり中枢都市としての顔を持つ一方で、市域のおよそ7割を占める豊かな森林、市域を貫く矢作川、季節の野菜や果物を実らせる田園が広がる、恵み多き緑のまちとしての顔を併せ持っています。

近年では定住促進に力を入れており、働くまちとしてだけでなく、住みやすいまちを目指しています。

[位置・沿革]

豊田市は愛知県のほぼ中央に位置し、2005年4月1日に西加茂郡藤岡町、小原村、東加茂郡足助町、下山村、旭町、北設楽郡稲武町との合併により、面積が290.12km2から918.32km2と3倍以上に拡大し、愛知県内で最大の面積を有するまちとなりました。(愛知県全体の面積に占める割合は17.8%)

豊田市の主な沿革は以下のとおりです。

1951年:挙母(ころも)市(し)として市制をスタート

1959年:自動車産業とともに発展することを誓って市名を「豊田市」に変更

1998年:中核市に移行

2018年:内閣府が「SDGs未来都市※」に選定

※持続可能な開発目標(S(エス)D(ディ)Gs(ジーズ))達成に向けた取組を先導的に進めていく自治体

[人口・産業]

平成31年1月1日現在の人口は、425,455人となっており、愛知県内では名古屋市に次ぐ人口規模となっています。また、年齢構成は、年少人口(15歳未満)が13.7%(全国平均12.3%)、生産年齢人口(15歳以上65歳未満)が63.5%(全国平均59.9%)、老年人口(65歳以上)が22.8%(全国平均27.8%)となっており、生産年齢人口の割合が全国平均に比べて高くなっています。(出典:「人口推計」(総務省統計局)、「Web統計豊田」(豊田市))

産業では、自動車関連企業を中心に集積しており、平成29年の製造品出荷額は都市別で全国第1位となっています。

農産品では、梨、桃、米、茶の生産が盛んであり、梨の「愛宕」はジャンボ梨として全国的にも有名で、平成23年11月には世界一重たい梨(2,948グラム)としてギネスブックに登録されました。

[観光・特産品]

矢作川支流巴川がつくる渓谷、「香嵐渓(こうらんけい)」は、東海随一の紅葉の名所として約4000本のもみじが彩りを見せます。足助川をはさんで、かつての宿場を思わせる古い町並みの散策もできます。足助の町並みは、愛知県で初めての国の重要伝統的建造物群保存地区(通称:重伝建)に選定されています。

地域の憩いの場として親しまれている「小原(おばら)ふれあい公園」は、約300本もの小原四季桜が植えられており、春は3月中旬〜4月上旬、秋は10月下旬〜12月上旬に花を咲かせます。春に比べて秋の方がより満開になるので、あでやかな桜と燃えるような紅葉を同時に楽しむことができます。

毎年見ごろを迎える11月1日〜30日には、小原ふれあい公園をメイン会場に、近隣地区一帯で「四季桜まつり」が開催されます。

このように魅力がつまった豊田市に一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

ラグビーワールドカップの開催に合わせて、豊田市では市の見どころを集めた「るるぶ特別編集2019年豊田市」を発行しました。豊田市ホームページに掲載しておりますので、ご興味のある方はご覧ください。

写真 紅葉した香嵐渓

写真 桜と紅葉が同時に咲き見ごろとなった小原四季桜

2.ラグビーワールドカップ2019日本大会の概要

「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」

このキャッチコピーをご存知でしょうか。

ラグビーワールドカップ2019日本大会の大会公式キャッチコピーになります。

ラグビーワールドカップは4年に1度行われる15人制ラグビーの世界王者決定戦であり、夏季オリンピック、FIFAワールドカップに並ぶ世界三大スポーツイベントのひとつとされています。

第9回となる日本大会はラグビー伝統国以外で開催される初の大会であり、また、アジアで初めて開催される大会です。

2019年9月20日から11月2日の期間において、日本全国12開催都市※で熱戦が繰り広げられました。みなさんもご存知のとおり、日本代表は今大会初のベスト8に進出するという大躍進を遂げました。

大会開催による経済効果(大会前における試算)は、訪日外国人客の増加、インフラ整備費用等により大会全体で4,300億円と試算されています。また、ラグビーワールドカップの観戦を目的とした訪日外国人客は40万人を見込んでいます。

3.ラグビーワールドカップに向けての取り組み

ラグビーワールドカップの運営体制としては、ラグビーワールドカップ2019組織委員会(以下、「組織委員会」という)が大会の準備及び運営を行っており、試合会場となっている開催都市が組織委員会の業務を支援するという構造になっています。

豊田会場においては、愛知県と豊田市が「ラグビーワールドカップ2019愛知・豊田開催支援委員会」という組織を設立して、開催の支援を行いました。

開催支援委員会の主な業務としては、次のとおりです。

(1)交通、警備などの公共機能の提供

ラグビーワールドカップの試合開催時には、非常に多くの来場客が見込まれ、国際大会ということもあり海外からの来場者の増加も見込まれたことから、十分な交通、警備体制を整える必要がありました。

開催都市としては、まちなかの渋滞を緩和するため、試合会場から離れた臨時駐車場からシャトルバスを運行するパークアンドバスライドの実施、歩行困難な方のための最寄り駅から試合会場までのシャトルバスの運行などの交通手段を拡充するほか、地元警察と協力して警備体制を構築して大会に臨み、大きな混乱なく大会を終えることができました。

(2)チケット販売促進や大会開催の機運醸成を図るための広報・PR活動

ラグビーワールドカップを成功に導くため、100日前等の節目のタイミングでのイベント開催、各種イベントへのチケット販売促進のPRブース出展等により、広報・PR活動を行ってきました。

ラグビーワールドカップ開催期間中には、開催都市はパブリックビューイングの放映やラグビーアクティビティ等のブースからなる「ファンゾーン」を運営して大会を盛り上げ、非常に多くの方に来場いただきました。

(3)ボランティアプログラムの支援

ラグビーワールドカップにおいて、観客と最初に接するボランティアはまさに大会の顔であり、ボランティアの役割は重要なものとなります。

ボランティアの活動内容としては、試合会場の案内誘導等の観客サービス、まちなかの盛り上げ、大会運営スタッフのサポートなど多岐に渡り、活動を通じて来場者だけでなく、ボランティア自身もラグビーワールドカップの特別な体験をしていただくことができました。

愛知県・豊田市独自の取り組みとしては、ラグビーワールドカップの開催時に豊田市が主催するおもてなしイベントの補助等でまちなかを盛り上げるボランティアを募集し、ラグビーワールドカップをさらに盛り上げました。

(4)試合会場の提供

試合会場となっているのは、豊田市にある「豊田スタジアム」です。

豊田スタジアムは、2001年に完成した45,000人収容可能な球技専用スタジアムです。

著名な建築家である故黒川紀章氏がスタジアムのデザインを担当しており、メインスタンド、バックスタンドの前方視界から支柱を排除した吊り屋根構造、最大傾斜角度38度のスタンド席といった独創的なスタジアムです。

ラグビーワールドカップの開催においては、国際大会に相応しい会場の提供が求められるため、ラグビーワールドカップの開催に向けて大規模改修を行いました。

主な改修としては、大型映像装置をこれまでの1基から2基に増設、国際基準の照度を満たす競技用照明の改修、フィールド音響設備の改修、転落防止用の安全柵の改修、フリーWiFiの整備等を実施し、観戦環境が大幅に向上しました。

写真 豊田市役所内のラグビーワールドカップPRコーナー

写真 豊田スタジアム全景

写真 増設した大型映像装置

写真 改修した競技用照明

4.ラグビーワールドカップ後について

大規模イベントを開催した経験・実績、インフラ整備の効果は、イベント開催後も引き継がれていきます。これを「レガシー」と呼びます。

ラグビーワールドカップが愛知県・豊田市にもたらしたレガシーの一例としては以下のとおりです。

(1)インフラ整備による利便性の向上

試合会場である豊田スタジアム改修、豊田市駅前の整備、試合会場周辺道路の拡張等のインフラ整備により利便性が向上しました。また、市内や主要観光地の案内看板を多言語化表記することにより、海外からの来訪者の利便性も向上しました。

(2)国際交流の推進

豊田市でキャンプを行ったウェールズ代表、ナミビア代表、イタリア代表選手の市内小中学校への訪問、中学生をファンゾーン会場のボランティアスタッフとして迎えることにより国際交流の場を提供しました。

参加した生徒からは海外の方と接する良い機会だったとの意見が出ており、国際意識を醸成することができました。また、選手に地元の特産品を贈呈することでPRを行うこともできました。

(3)ラグビー普及活動

豊田市内小中学校の教員を対象としたタグラグビーの指導者育成研修の実施、ファンゾーン会場内での子ども向けタグラグビー体験の実施等により子どもたちがラグビーに触れる機会を創出し、ラグビーへの関心を高めることができました。

(4)市民活動の活性化

ラグビーワールドカップに伴うまちなかイベントの実施、ボランティア活動の推進により、ひとが活躍し、まちが活性化しました。

まちの活性化を継続するため、大会後に市民活動団体等との交流会を実施していきます。

ラグビーワールドカップがもたらした効果が一過性のものとなることなく、「ラグビーワールドカップの開催を契機に豊田市の魅力がさらに向上した」と言われるように取り組んでいくことが重要になります。

5.ラグビーワールドカップに携わって

(1)ラグビーワールドカップの開催準備

ラグビーワールドカップの業務を振り返ると、開催準備時においては、豊田スタジアムの会場整備業務を担当し、ラグビーワールドカップという国際大会で求められる基準(大型映像装置の増設、より高い照度のフィールド照明、ラグビーのスクラムに耐えられる良質な芝生ピッチの整備等)を満たす試合会場を提供するという高いハードルの達成に向けて、豊田市の関係部署と連携して整備を進めました。

整備を進める過程では、関係部署との整備仕様の検討、組織委員会からの要求事項への対応等苦労することもありました。

豊田スタジアムの初戦である9月23日のウェールズ対ジョージア戦、試合会場は組織委員会の管轄となるため、私は試合会場ではなく、開催都市がラグビー中継のパブリックビューイングやラグビー体験等ラグビーファンのために実施する入場無料のイベントである「ファンゾーン」の会場で運営業務に従事していました。

試合開始時間となり、パブリックビューイングのモニター越しではありましたが、眩い照明が照らす青々とした芝生のピッチに選手が入場していく様子が放映された時は、苦労して整備した会場が世界中に放映されていることを実感し、非常に感慨深いものがありました。

豆知識ですが、ラグビーワールドカップ開催時の豊田スタジアムの芝生は、東日本大震災で塩害にあった土地を蘇らせるべく、地元企業と農家の方々が苦労を重ねて育てた「東日本復興芝生」が採用されており、選手の活躍を足元から支えています。

(2)ラグビーワールドカップ開催期間中

ラグビーワールドカップ開催期間中は、前述のとおり、ファンゾーンの運営に従事していました。

愛知県・豊田市のファンゾーンのテーマは「MATSURI」。会場内は縁日をイメージした提灯等で装飾されており、400インチの大型スクリーン、ラグビー体験コーナー、ビール(ラグビーワールドカップのスポンサーであるハイネケン)、キッチンカーでのケータリング等さまざまなブースが出店されていました。

ファンゾーンを振り返ると、やはり、日本代表戦のパブリックビューイングの際に、会場全体が一体となり日本の勝利に歓喜した来場者の方々の姿が思い出されます。

豊田スタジアムで試合が行われた日本代表対サモア代表戦を例にファンゾーン会場の盛り上がりをご紹介させていただきます。

会場内は、豊田スタジアムのチケットが完売であったためスタジアムで応援できないラグビーファン、前の試合で格上のアイルランドに金星を挙げて(「静岡ショック」と各メディアが報道)注目度がさらに高まった日本代表をみたいというファンで満員となっていました。

試合の序盤は、ペナルティーキック(3点)で両チームが得点をあげる展開となり、豊田市の隣の岡崎市出身の田村優選手がペナルティーキックを成功させると会場には歓声が聞こえ観客同士のハイタッチが見られました。その後、日本が1トライをあげ、リードして前半を終えました。

後半は、地元チーム所属の姫野選手がトライをあげると会場は大盛り上がり、会場には大歓声があがり会場はヒートアップ、さらに後半残り5分に福岡選手がトライをあげ日本が攻勢を強めました。

ラグビーの勝ち点は複雑で勝利すると勝ち点4、勝敗にかかわらず「4トライ以上あげた場合」、「7点差以内の敗戦」の場合は、ボーナスポイント1点が加算されます。

予選を突破するにはボーナスポイントを多く獲得することが重要となるため、会場には「あと1トライをあげ、ボーナスポイント1を」という思いが強まるなか、3トライのまま後半ラストワンプレーのホーンが鳴りました。相手陣内での日本の攻撃が続き、最後は松島選手がトライをあげ、劇的なボーナスポイント1獲得に会場のボルテージは最高潮となり、試合終了後も来場者の興奮は収まりませんでした。

来場者の方々は満足した表情で帰宅され、運営側としてもやりがいを感じました。

ここでまたひとつ豆知識です。ラグビーは「ビールを飲みながらの観戦」が当たり前の文化であり、ラグビーワールドカップ2015イングランド大会では、同じ会場でラグビーとサッカーのビール消費量を比較したところ、ラグビーはサッカーの6倍というデータもあります。ファンゾーン会場でもビールを飲みながら観戦する方は多く見られました。(特に海外の方)

ファンゾーンの運営にあたっては、想定外の事象が発生し対応が必要となることもありました。例えば、ファンゾーン会場は3,000人がパブリックビューイングを観覧できるスペースを用意していたのですが、日本代表が開幕戦に勝利すると注目度が高まり、9月28日に行われた日本代表対アイルランド代表との試合は客席のキャパシティーを超える方の来場があったため、来場者の安全を考えて入場を規制することになりました。入場規制のタイミング、会場前で入場できずにいる方や会場に向かっている方へのアナウンスなどその場で即座に判断しなければならないことが多く、イベント運営の難しさを実感しました。

その他の突発事項としては、10月12日に豊田スタジアムで開催される予定であったニュージーランド代表対イタリア代表の試合が台風19号の影響で中止となったことです。これまでのラグビーワールドカップの歴史の中で試合が中止となったのは初めてのことだったようです。試合の中止に伴いファンゾーンも中止と判断し、ホームページでの周知等で対応しました。

(3)ラグビーワールドカップを経験して

財務局で働いている時には、このような大きなイベント運営をすることは想像もできなかったので、貴重な経験をさせていただきました。今後、プライベートでコンサート等に行った際には、少しは運営サイドの目線でモノを見ることができるのではないかと思います。

豊田市役所への出向の機会をいただいたことで、ラグビーワールドカップという一生に一度の経験、職員の方々との新たな人脈形成、市役所という組織の雰囲気など様々なことを学ぶことができています。

残りの在任期間、少しでも豊田市のお役に立てるように努力するとともに、財務局に戻ってからも出向した経験を活かしたいと思います。

写真 ファンゾーンの様子

写真 ラグビーワールドカップ仕様に装飾された豊田スタジアム

6.おわりに

最後に、財務省とラグビーワールドカップとの関わりをご紹介します。

財務省(造幣局)では、ラグビーワールドカップ日本大会の開催を記念した記念貨幣が発行されました。

一万円金貨幣(販売価格12万円、発行枚数1万枚)、千円銀貨幣(販売価格9,500円、発行枚数5万枚)の2種類が発行されましたが、人気が高く抽選となり、金貨幣の倍率は33.01倍、銀貨幣の倍率は7.99倍となりました。

私自身は金貨幣には手が出なかったので、銀貨幣に申し込みを行い、当選して入手することができました。

この記念貨幣は、私にとって、ラグビーワールドカップ2019に携わったという貴重な経験を思い出す重要なアイテムになると思います。

本稿の内容及び意見は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織の見解を示すものではありません。

写真 当選した記念貨幣

図表 ※開催都市・試合会場

財務省の政策