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特集:シェアリングエコノミー等 新分野の経済活動への対応で国税庁の果たす役割

スマートフォンやタブレット端末の普及により、シェアリングエコノミー等によって個人等が保有する資産等を取引するケースが増加している。新たな取引形態に対し、国税庁として的確に対応しなければ、適正な申告を⾏っていない納税者を⾒過ごすことになりかねない。実際にどのような取組みをしているかをレポートする。

取材・文 向山勇

シェアリングエコノミーとは

モノやサービスなどを共有・交換することで生まれる新たな経済活動

市場規模が急速に拡大。令和3年には1,071億円へ

スマートフォンやSNSの普及により、「シェアリングエコノミー」と呼ばれるサービスが進展しつつある。シェアリングエコノミーは、モノやサービス、場所などを共有・交換することで生まれる新たな経済活動のこと。十分に活用されていない資産や個人のスキル、隙間の時間などの有効活用を促し、社会全体の生産性向上につながると期待されている。また、シェアリングエコノミーが日本の抱える様々な課題を解決する手段になる可能性がある。

シェアリングエコノミーのサービスは、基本的にプラットフォーマー(シェア事業者)」、「提供者(ホスト)」、「利用者(ゲスト)」の関係で成り立っている。プラットフォーマーは、利用者と提供者のマッチング機能を果たし、レビューシステムや決済機能等を提供している。また、ホストが提供するサービスをゲストが利用し、ゲストはホストに対価を支払う。ゲストの支払う対価の一部は、手数料としてプラットフォーマーが徴収するパターンが多い(図表1 シェアリングエコノミーの仕組み)。

現在、国内では「モノ」「空間」「移動」「スキル」「お金」の5つの分野でサービスが提供されている。総務省の情報通信白書(平成30年版)によると、平成29年時点で最も多く提供されているサービスは「スキル」を対象としたもので、「モノ」、「移動」と続いている(図表2 シェアリングサービスの種類と数)。

市場規模は拡大傾向にある。平成27年時点では約398億円であったが、平成29年度には636億円まで拡大し、令和3年度にはさらに約1,071億円に達すると予測されている(図表3 シェアリングエコノミーの国内市場規模推移と予測)。

健全な発展へ向けた政府の取組み

推進プログラムを公表し、政府、自治体、業界が一体となって安心な普及を推進

政府の一元的な窓口として「シェアリングエコノミー促進室」設置

シェアリングエコノミーは、活用されていない遊休資産やスキル等の有効活用を進める可能性があるととともに、潜在的な需要を喚起し新しいビジネスの創出に貢献することが期待されている。

その中でシェアリングエコノミーの健全な発展を目指すため、内閣官房は平成28年7月に「シェアリングエコノミー検討会議」を立ち上げ、民間団体等による自主的なルール整備をはじめとした必要な措置の検討をしてきた。同年11月には中間報告書を取りまとめ、その中でシェアリングエコノミー推進のための必要な措置を盛り込んだ「シェアリングエコノミー推進プログラム」を公表している。

その後は、プログラムに基づき、政府のシェアリングエコノミーに関する一元的な窓口として、内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室内に「シェアリングエコノミー促進室」を設置した。また、シェアリングエコノミー伝道師の任命やシェアリングエコノミー活用事例集の公表など、各府省庁、民間団体と連携してシェアリングエコノミーの普及啓発に取り組んでいる。

一方、業界団体である(一社)シェアリングエコノミー協会は、自主ルールの策定とそれに適合する事業者に認証を付与する「シェアリングエコノミー認証制度」を導入した(図表4 シェアリングエコノミー認証マーク付与の仕組み)。認証制度では、利用者の安全性・信頼性を確保するためのサービスの設計及びこれらを維持するための措置を講ずる体制を整備しているシェア事業者に認証マークの使用を認めている。令和元年10月時点で22のサービスがマークを取得している。この認証制度が、消費者が安心して利用できるサービスを判断する目安として普及が進むことが期待されている。

自治体とシェア事業者との連携で地方を活性化

シェアリングエコノミーでは、民間の経済活動を活発にするだけでなく、公共の遊休資産の有効活用や観光資源の開発など、自治体が抱える課題の解決も期待されている。シェアリングエコノミー推進プログラムにおいては、「自治体とシェア事業者の連携実証等」「シェアリングエコノミー導入自治体の事例集の作成・共有」「シェアリングエコノミー伝道師の派遣」を行うなどの後押しも盛り込まれている。

その一環として、内閣官房シェアリングエコノミー促進室は平成30年3月、地域における社会課題の解決や経済の活性化を行うために自治体や民間事業者等がシェアリングエコノミーを活用している37の事例を取りまとめ、「シェア・ニッポン100 〜未来へつなぐ地域の活力〜」を公開した。平成31年3月に改訂を行い、39事例を追加し合計76事例となった(図表5 シェアリングエコノミー活用事例集)。

また、内閣官房では豊富な知見や活用の実績等を備える者を「シェアリングエコノミー伝道師」として11名を任命。シェアリングエコノミーを一つの主要な手段として推進し、地域内外の関係者間の仲介役となり、超少子高齢社会における課題に対応する。

さらに、業界での取り組みとしては(一社)シェアリングエコノミー協会がシェアリングエコノミーを活用し地域課題解決に取り組む都市(「シェアリングシティ」)を平成29年11月に15自治体、平成30年12月に1自治体を認定した。(1)協会会員企業のシェアサービスを2つ以上導入していること、(2)導入したシェアサービスの普及促進に向けた自治体主導による広報PRを実行していること、が認定条件になっている。

消費者が安心して利用できる「信用スコア」の推進も

シェアリングエコノミーのサービスを消費者が安心して利用するには、取引当事者間の信頼の確保が重要となる。一つの方法として海外では「信用スコア」の利用を進める動きがある。従来のように金銭の支払い能力のみならず、年齢、学歴、消費傾向など多様な信用状況をスコア化するサービスだ。国内でも金融やECサービス等の分野でこれに類似した信用スコアサービスを企画・実証する事業者が現れてきており、今後、普及が進む可能性がある。

図表6 シェアリング領域での「信用スコア」の活用イメージ

国税庁の取組み(1)

取引を的確に把握し、適正な申告を実現するための環境づくり

情報発信や納税者の利便性向上、仲介業者を通じた呼びかけも実施

シェアリングエコノミー等新分野の経済活動が広がってきたことから、国税庁では適正課税を確保するための取組みを行っている。

新分野の経済活動には、主に図表7 新分野の経済活動の取引例ようなものがあるが、ネットワーク上で行われており、(1)広域的・国際的な取引が比較的容易である、(2)足が速い、(3)無店舗形態の取引やヒト・モノの移動を伴わない取引も存在するなど、外観上は取引の実態が分かりにくい。また、(4)申告手続等に馴染みのない方も参入が容易である、などの特徴がある。国税庁は、こうした取引を的確に把握し、適正な申告を実現するための環境づくりを進めている(図表8 適正申告のための環境作り)。

まず、国税庁のホームページを通じ、税務手続きや課税上の取扱いについて情報発信をするとともに、納税者の利便性を向上させるため、平成30年分の申告から、スマートフォン専用画面による申告書の作成を可能にする(P7参照)。また、仲介事業者・業界団体を通じた適正申告の呼びかけなども行っている。

シェアリングエコノミーでは、給与所得者が副業として取引を行う機会も多い。大部分の給与所得者は給与の支払者が行う年末調整によって、源泉徴収された所得税額と納付すべき所得税額との過不足が清算されため、確定申告の必要はないが、副収入等によって給与所得以外に20万円を超える所得を得ている場合には、確定申告が必要となる。

給与所得者の副収入には様々なものが考えられるが、シェアリングエコノミーによる所得は、原則雑所得に該当する。なお、個人が空き部屋などを有料で旅行者に宿泊させるいわゆる「民泊」は、不動産所得と混同しやすいが、一般的に利用者の安全管理や衛生管理、また、一定程度の観光サービスの提供等を伴うものであることから、雑所得に該当する。

国税庁の取組み(2)

スマートフォン専用画面の提供で手軽に確定申告ができる環境を整備

生命保険料控除証明書などの添付書類は提出不要で申告書の控えも保存可能

国税庁は、確定申告を行う人の利便性を向上させるため、2019年1月から「確定申告書等作成コーナー」でスマートフォン専用画面を提供した。国税電子申告・納税システム「e-Tax」を利用すると、スマートフォンで手続きが完了する。

「e-Tax」を利用するには、2つの方法がある。

一つは、「マイナンバーカード方式」。マイナンバーカードとICカードリーダライタを用意すれば、税務署に出向くことなく、すべての手続きを進めることが可能になる。なお、スマートフォンでの「マイナンバーカード方式」は2020年1月31日から提供予定。

もう一つは「ID・パスワード方式」。マイナンバーカードやICカードリーダライタは不要。ただし、手続きには「ID・パスワード方式の届出」が必要。これは、税務署に出向いて行うもので、職員による本人確認を行った上でID(利用者識別番号)とパスワード(暗証番号)が記載された「ID・パスワード方式の届出完了通知」が発行される。事前に運転免許証などの本人確認書類を持参して、近くの税務署で手続きが必要になる。

いずれかの方法でe-Taxを利用すれば、必要事項の入力後、送信すれば申告は完了する。e-Taxでは生命保険料控除証明書などの添付書類は提出不要で申告書の控えはPDF形式でスマートフォンに保存できる。

図表9 スマートフォン版の確定申告書作成コーナー

図表10 スマートフォン申告 2つの利用方式

国税庁の取組み(3)

法的な枠組みの積極活用などで適正申告に向けた情報収集を徹底

プロジェクトチームを設置。全国200人規模で取組み

国税庁では、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動の適正課税を確保するための環境作りを進める一方で、情報収集・分析にも力を入れていく。

一つ目は法的な枠組みの整備。インターネットを通じた業務請負の普及など、経済取引の多様化・国際化が進展する中で適正課税を確保するため、令和元年度の税制改正では、事業者等に対する任意の照会(協力要請)について法令の規定が明確化された。また、一定の法令の要件に該当する場合に限り、担保措置(罰則)を伴う形で国税当局が事業者等に情報の報告を求める仕組みが整備された。

また、海外取引や海外資産の把握に関しては、国外送金等調書や国外財産調書をはじめとした各種の法定調書制度が設けられているほか、租税条約等に基づく外国の税務当局との情報交換の枠組みがある。

国税庁はこうした法的な枠組みも積極的に活用して、シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に関する情報収集に努めていく。

二つ目はプロジェクトチーム等の設置。これまで全国税局・沖縄国税事務所に設置している「電子商取引専門調査チーム」を中心に、電子商取引に関する情報収集・分析等に取り組んできたが、シェアリングエコノミー等の新たな分野の経済活動にも的確に対応するため、2019年7月からは、「電子商取引専門調査チーム」をはじめ、関係部署の職員で構成されるプロジェクトチームを全ての国税局・沖縄国税事務所に設置し、全国200名規模で情報収集・分析等を強化していく。

三つ目はICTの積極活用。インターネット上で公開されている情報を効率的に収集する技術など、新たなICTの活用を進めるとともに、デジタル・テクノロジーに精通した人材の育成・登用を進めていく。

実際、平成29事務年度には、インターネット取引を行っている個人に対して2015件の実地調査を行い、1件当たりの追徴税額は約186万円、総額で約37億円を追徴課税している。今後も積極的に調査を実施していく。

図表11 インターネット取引を行っている個人に対する調査状況(取引区分別)

図表12 1件当たりの申告漏れ所得金額(取引区分別)

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暗号資産(仮想通貨)申告の簡便化を推進

自動で損益が計算できる「仮想通貨の計算書」を提供

シェアリングエコノミーと同様、利用者の増加している暗号資産(仮想通貨)においては、平成30年分の確定申告から、手続きの簡素化を実施している。平成29年分の確定申告では、納税者が自ら仮想通貨の取引情報を交換業者から収集しなければならなかったが、平成30年分の申告からは、交換業者が「年間取引報告書」を納税者に交付することとなり、年間の取引内容を手軽に正確に把握できるようになった。

また、納税者が望む場合には、交換業者から個々の取引履歴データの提供を受け、データと自動計算アプリ等を利用して、所得計算をすることも可能になっている。

さらに納税者が年間取引報告書の内容等を基に数値を入力すると、申告に必要な所得金額等が自動計算できる「仮想通貨の計算書」を国税庁のホームページで公開している。実際の申告では、交換業者から交付された年間取引報告書の数値を入力していくだけで簡単に「仮想通貨の計算書」を作成できる。その後は確定申告書を電子又は郵送すれば手続きが完了する。

図表13 平成30年以降の暗号資産の確定申告

図表14 仮想通貨の計算書の作成方法

財務省の政策