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特集:保有者層の多様化を通じた国債市場の安定 国債の海外IR活動 財務省の取組み

国債市場の安定を図るためには、保有者層を多様化して幅広い投資家層に国債を保有してもらう必要がある。財務省では平成26年に国債政策情報室を設置し、海外IRに力を入れている。令和元年度はIMF公的債務管理フォーラムを国内で初めて開催した。海外IR活動における財務省の取組みを紹介する。

取材・文 向山勇

Report 1

海外IRの目的とは

国債保有者層の多様化を通じ、国債市場の安定を図る

海外投資家との関係を強化

多額の国債残高を抱える我が国にとって、国債の安定消化は重要な課題になっている。そのためには幅広い投資家層に国債を保有してもらうことが欠かせない。国債管理政策の諸制度の議論を行う「国の債務管理の在り方に関する懇談会」でも、投資家の多様化、なかでも海外投資家による保有は、重要なテーマのひとつとなっている。そこで、財務省では平成26年に国債政策情報室を設置し、海外投資家へのIR活動に一層、力を入れている。

海外IRは、国債保有者層の多様化を通じて、国債市場の安定を図るとともに、投資家のニーズに即した情報を正確かつタイムリーに提供することで、長期安定的な国債保有を促すことなどを目的として行われている。

これらを実現するための実施方針として、国債管理政策に加えて、広く日本の経済政策や財政健全化の取組み等に関しても情報発信を強化することが掲げられている。また、海外中央銀行(外貨準備)、年金基金、生命保険など国債の安定的な保有が見込まれる投資家を重視すること、欧米に加えて、アジア地域・新興国向けのIRを一層強化することも重要である。さらに、個別投資家との面談を通じて、投資家のニーズを踏まえた的確な情報提供・情報収集をするとともに、セミナー方式や日本国債ニュースレターの送信等の方法を適宜組みあわせ、費用対効果の高い海外IRを実施すること、海外投資家等から得られた情報について、関係部局で幅広く共有すること、各国の債務管理当局や国際機関、海外中央銀行との関係を強化することも重視している。

この実施方針に基づき財務省では、銀行や生命保険会社等の国内機関投資家や個人投資家のみならず、海外投資家の国債保有促進に向けた取組みを進めている。

Report 2

保有者層の多様化の現状

海外投資家のプレゼンスが高まる。

短期債の保有割合が高いのが特徴

流通市場におけるプレゼンスも高水準

国債市場における海外投資家のプレゼンスは着実に高まってきている。海外投資家の国債保有状況については、日本銀行が四半期ごとに公表している「資金循環統計」で確認できる。平成31年3月末の速報値を見ると、国債及び国庫短期証券(T-Bill)の保有者別内訳で海外投資家の割合は12.7%となっている。「T-Bill」は、満期1年以下の「割引短期国債(TB)」と「政府短期証券(FB)」を合計したもので、平成21年2月より統合して発行されている。このT-Billに限ってみれば、海外投資家の保有割合は71.3%に上っている。

このように海外投資家による日本国債への投資は、短期債の保有割合が高いことが特徴の一つになっている。また、海外投資家は、流通市場で取引を活発に行う傾向があり、売買シェアは平成31年3月末で現物が39.4%、先物65.2%を占めている。海外投資家の流通市場におけるプレゼンスは、保有割合に比べて大きいことから、動向を注視していく必要がある。

海外投資家による日本国債の保有割合を時系列で追ってみると、平成20年9月末時点では8.5%を占めていたが、リーマン・ショックを機に減少に転じ、平成22年3月末には5.6%まで落ち込んだ。

その後は各国が金融緩和等を実施したことによるグローバルな投資資金の流入や、平成22年の欧州債務危機を背景とした「質への逃避」といわれる動きから、安全資産とみなされた日本国債を買う海外投資家が見られた。

平成25年4月には日本銀行の金融政策決定会合において量的・質的金融緩和が導入された。その直後は、金利の変動幅が増大したこと等を受けて、日本国債の保有を減らす動きも見られた。しかし、新興国をはじめとする各国の不安定要因等を背景として、金利が低位安定すると、海外投資家は日本国債の保有を増やした。

近年では、ドルの需給が逼迫していることから海外投資家は低コストで円の調達が可能になり、海外投資家の日本国債の保有は増加傾向で推移している。

海外投資家の保有額を地域で分類してみると、欧州が83.1兆円で最も多く、北米の35.7兆円、アジアの32.6兆円と続いている。国別に見ると、トップはアメリカの34.8兆円でルクセンブルクの25.0兆円、ベルギーの23.7兆円と続いている。

Report 3

平成30年度の海外IRの取組み

19か国28都市を訪問し面談実施。

海外現地のセミナーにも積極参加

債務管理当局の国際会議にも参加、情報を発信

海外投資家には様々なタイプがあることから、海外IRでは、投資家のニーズに応じた、きめ細かな情報提供を実施している。当初は、各地でセミナーを実施し、大人数を対象に情報提供を行っていたが、こうした取組みによる認知度の向上等を受けて、近年ではセミナー方式に加え、投資家への個別訪問を強化している。

平成30年度には、多くの海外投資家が所在するニューヨーク、ロンドン、シンガポール、香港等を訪問したほか、欧州地域では新たにポルトガルを訪問した。結果、全11回の海外IRを実施し、19か国28都市を訪問、面談回数は139件に上った。同時に現地のセミナーへの参加や講演も行っている。

また、近年では、アジア地域から日本への債券投資が増加していることから、外貨準備運用担当者の情報交換の場である地域外準運用管理フォーラム(アジア開発銀行主催)に参加し、アジア・大洋州地域の中央銀行等を対象に日本国債の説明を積極的に行った。

さらに、各国の債務管理当局が集まる国際会議にも積極的に参加し、日本の国債管理政策について説明している。平成30年度には、3つの国際会議に参加し、すべての会議で日本の債務管理政策について発表した。例えば、OECD Working Party on Debt Managementでは、日本が運営委員会のメンバーを務め、積極的に運営に貢献しており、平成30年11月の会議においては、3つのセッションで日本がプレゼンを実施した。

海外だけでなく国内でも積極的に活動を行っている。例えば東京に事務所を構えている各国の中央銀行等のオフィスに出向き面談を実施。また、来日した海外の債務管理当局と面談し、市場動向や債務管理政策について意見交換を実施している。

リポートやニュースレターによる情報発信も行っている。年に1回、日本語版、英語版の債務管理リポートを発行しているほか、月に1回、英語版の日本国債ニュースレターを発行している。

また、財務省ではこれまで10年を超える活動による蓄積を活用し、より効果的かつ効率的な海外IRを実施するため、PDCAサイクルに基づいた活動を行い、海外投資家との長期的な関係構築を図っている。例えば、海外投資家の関心事項や投資動向を整理して理解を進め、海外投資家に正確かつタイムリーな情報を提供すると同時に海外投資家の動向やニーズを把握し、効果的かつ効率的なIRができているかを確認した上で、様々なフォローアップを実施している。

リポートやニュースレターで情報発信

年1回発行 債務管理リポート

日本語版と英語版を年に1回発行。財務省のウェブサイトでも閲覧可能。

国の債務管理と公的債務の現状を解説。

コラムなども活用し、わかりやすく解説。

月1回発行 日本国債ニュースレター

毎月1回、英語で発行。

前半の特集では国債に関する毎月のトピックスを紹介。

後半では海外投資家に役立つデータ集を掲載。

写真 海外投資家との面談の様子

Report 4

今後の海外IRの方向性

海外投資家をはじめ各国債務管理当局、国際機関との連携をさらに強化へ

海外IRを通じて把握した最近の動向

日本国債に投資する海外投資家の動向としては、主にインデックス投資によるリスク分散を目的とするもの、ドル円ベーシス・スワップ等を活用した短期債への投資、流動性規制への対応を目的とした保有などが見られる。

インデックス投資では、ベンチマーク対比でアンダーウェイトとする先が多い。なお、世界経済の不確実性を背景として債券投資を増加させるなか、長期ゾーンを中心に日本国債を購入する先も一部に見られる。

通貨スワップを活用した短期債投資に関しては、ユーロ円ベーシス・スワップを活用して短期債投資を行う先も見られる。

一方で面談などを通じ多く質問が寄せられた海外投資家の関心事項をまとめると以下のようになる。

債務管理政策関連

●国債発行計画の具体的内容、策定の背景

●中長期的な国債管理政策方針・考え方

日本国債市場関連

●現下の金融政策のもとでの流通市場の状況

●流動性に対する質問や流動性向上への要望

●日本国内の投資家の内外投資動向

日本経済・財政関連

●財政健全化の進捗や今後の見通し

●消費増税の影響・対策

●外国人労働者の受け入れや女性の社会進出等の労働市場の変化や労働政策

●日本国債の格付け見通し

引き続き、海外投資家との長期的で緊密な関係構築や、債務管理当局や国際機関との連携強化に取り組んでいくこととしている。

今後の方向性

■海外投資家との関係構築

●外貨準備当局や年金基金などの海外機関投資家は、昨今の低金利環境下では日本国債への投資姿勢は積極的ではないものの、継続的な投資や長期安定保有が見込めることから、引き続きこれらの投資家を重視したIRを推進し、長期的かつ緊密な関係を構築

●同時に、将来的な保有や市場の活性化に向けて、現在の保有状況に関わらず、大手運用会社等へも定期的な接触を図る

●各投資家の運用体制や投資方針を理解し、個別ニーズや関心に即した説明・情報発信を実施することで、効果的かつ効率的なIRを行う

■各国債務管理当局、国際機関との連携

●IRや国際会議等の機会を活用し、債務管理当局との間で、昨今の債務管理政策をめぐる課題や債務管理政策の在り方等に関する意見交換を密に行い、関係を強化

●国際機関主催の国際会議等で、議事運営に関する提案や、海外当局・投資家向けプレゼン等を積極的に行うなど、国際機関との連携を強化

日本でIMF公的債務管理フォーラムを開催

世界26か国から約150名が参加。

債務管理の課題を幅広く議論

令和元年6月20日(木)、21日(金)の2日間にわたり、第17回IMF公的債務管理フォーラム(17th IMF Public Debt Management Forum)が東京で開催された。このフォーラムは、当初、途上国に対する債務管理政策の浸透を目的として開催されていた。しかし、リーマン・ショック後、先進国を中心に国債が増発されたことを受け、平成21年には先進国が本格的に参加するようになった。以降は債務管理政策に関する幅広い課題共有の場に発展している。

近年は隔年の6月に開催されており、17回目となる今回は、日本で初めての開催となった。世界26か国の債務管理当局や中央銀行、国際機関、民間金融機関、格付会社、学者等、各方面から約150名が参加した。

今回は「New Investors & New Instruments」を主要テーマとし、世界経済や金融政策の動向、債務残高の上昇に直面する国の債務管理政策の在り方、電子取引をはじめとする技術革新が債券市場に与える影響など、近年の債務管理政策に関する課題について幅広い議論が行われた。

鈴木馨祐財務副大臣による開会挨拶の後、テーマごとに6つのセッションが行われた。財務省からもセッション1、セッション3、セッション5で理財局と国際局の担当者が登壇した。各セッションでは財務省から説明を行い、参加者との間で活発な意見交換が行われた。

財務省からの説明内容

セッション1●日本の債務管理政策や国債保有構造の変化について

セッション3●今年のG20のテーマの1つにもなっている途上国における債務の持続可能性について

セッション5●アジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の取組みについて

本フォーラムの開催を通じて、我が国の政策や取組みを国際的に発信するとともに、債務管理に係る様々な課題について国際的な議論を深めることができた。

写真 開会挨拶をする鈴木馨祐副大臣

図表 海外IRの目的及び方針

図表 国債及び国庫短期証券(T-Bill)の保有者別内訳

図表 国庫短期証券(T-Bill)の保有者別内訳

図表 海外の国債等保有額、保有割合の推移

図表 海外保有債券の地域別推移(カストディアンベース)

図表 平成30年度に参加した国際会議

図表 IMF公的債務管理フォーラムのアジェンダ