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コラム海外経済の潮流114 :米国雇用統計と最近のトレンド

大臣官房総合政策課 海外経済調査係長 赤嶺 彰一

本稿では、米国において、最も重要な経済指標の1つと考えられる雇用統計について概要を説明した後、普段あまり注目されないデータも用いて現在の米国の労働市場を俯瞰してみたい。

米国の労働省労働統計局が公表*1する雇用統計は、家計調査と事業所調査からなる包括的な労働統計である。【図表1 雇用統計概観】。

家計調査は、毎月12日を含む週を調査期間として、約6万世帯の生産年齢人口(16歳以上)*2を対象に調査を行い、失業率・労働参加率等のデータを提供する。また、これらは人種別・教育水準別に詳細なデータが提供されている。

一方、事業所調査は、農業を除く約65万1000の事業所を対象に、毎月12日を含む給与支払い期間(週とは限らない)を調査期間として、非農業部門雇用者の増減数・賃金等のデータを提供する。

雇用統計では、失業率と非農業部門雇用者の増減数が注目されるが、失業率は家計調査、非農業部門雇用者の増減数は事業所調査から作成されている。

家計調査では自営業者と農業従事者が含まれる一方、事業所調査ではそれらが含まれない【図表2 家計調査と事業所調査の相違】。なお、家計調査における就業者の中から自営業者と農業従事者を除いた雇用者を抽出することもできる。具体的に2018年7月の雇用統計(2018年8月3日公表)で示せば、家計調査における就業者の中の雇用者の数は1億4,445万人であるのに対し、事業所調査における非農業部門雇用者は1億4,913万人となっている【図表3 家計調査から得られた生産年齢人口の内訳(2018年7月分)】。ほぼ同水準となっているものの、完全に一致していないのは、調査におけるサンプルの違いや複数の仕事を持っている個人の数え方の違い等に起因するものと考えられる【図表2】。

雇用統計をもとに米国の労働市場を俯瞰してみると、非農業部門雇用者は増加しており、失業率は低下傾向にあるなど引き締まった労働市場が確認できる【図表4 失業率と非農業部門雇用者増減数】が、ここでは人種別の失業率・労働参加率、教育水準別の失業率について、金融危機前と足もとの水準を比較してみる。

人種別の失業率については、白人・ヒスパニック・黒人の全てにおいて、金融危機前の水準を下回っている。また、黒人と白人の失業率に注目すると、スプレッドが縮んできていることが分かる【図表5 人種別失業率】【図表6 黒人の失業率−白人の失業率】。人種別の労働参加率については、ベビーブーマーの退職により、全ての人種において低下傾向が見られるものの、近年の黒人の労働参加率の上昇により白人と黒人のスプレッドが縮んできている【図表7 人種別労働参加率】【図表8 白人の労働参加率−黒人の労働参加率】。

人種的マイノリティについて、パウエルFRB議長は労働市場の改善の恩恵を最も受けやすいと指摘しており*3、データからもこのことが確認できる。

さらに、雇用統計を教育水準別の失業率という視点から見てみると、高校卒業未満の階層の失業率が調査開始(1992年1月)以来過去最低となっている【図表9 教育水準別失業率】ことに加え、高校卒業未満の階層と大学卒業以上の階層との失業率のスプレッドが縮んできている【図表10 高卒未満の失業率−大卒以上の失業率】。足もとの労働市場の改善は人種的マイノリティや教育的弱者に恩恵を及ぼしていると考えられる。

一方で、賃金については金融危機前の水準に比べると未だ低水準にある【図表11 賃金上昇率】。

この点について、パウエルFRB議長は、求人数の増加が今後賃金を押し上げるとみている*4と言及している。

米国において、注目度が最も高い雇用統計は、FRBの金融政策の方向性を決めるうえでも重要な統計であるため、引き続き労働市場の動向を注視していく必要がある。

(注)文中、意見に係る部分は全て筆者の私見である。

*1) 雇用統計の公表は基本的に12日を含む週を基準として、その週の3週間後の金曜日となる。よって、厳密にいえば公表日が毎月の最初の金曜日であるという解説は誤り。

*2) 生産年齢人口(日本):15〜64歳

生産年齢人口(米国):16歳以上(上限なし)

*3) “These groups(筆者注:racial and ethnic minorities)tend to both suffer most from labor market downturns and benefit most from improving labor markets.”(2018年6月20日ポルトガルでの講演)

*4) “High demand for workers should support wage growth and labor force participation--the latter a measure on which the United States now lags most other advanced economies.”(2018年6月20日ポルトガルでの講演)

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