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ファイナンスライブラリー:『財政学15講』

麻生良文(慶應義塾大学教授)/小黒一正(法政大学教授)/鈴木将覚(専修大学教授) 著
新世社 2018年1月 定価2,350円(税抜)

評者

渡部 晶

最近出た財政学の教科書としては、表紙の「ワニの口」が印象的な「実践 財政学」(赤井伸郎編著 有斐閣 2017年4月)が、実践のためのテキストとして注目されているが、本書は、新世社の「ライブラリー 経済学15講」のシリーズの「BASIC編」の1冊として2018年1月に刊行された。麻生良文・慶應義塾大学法学部教授、小黒一正・法政大学経済学部教授、鈴木将覚・専修大学経済教授による分担執筆となっている。

はしがきで、麻生教授は、財政学を学ぶ必要性を述べ、その中で「消費増税をめぐる問題では、新聞等の報道や解説記事では、消費税が景気に与える影響や消費税の持つ「逆進性」の問題が取り上げられることが多かったが、そこには誤解も多く、素人的な視点だったというのが私の率直な感想である。専門家の議論はもちろんもっと深いし、根本的である。税制については、所得と消費のどちらが課税ベースとして適切かという問題が従来から経済学者の中心的なテーマであった。ピースミール的な改革ではなく、税制の理論と整合的な抜本的な税制改革案もいくつか提案されている。本書ではそうした議論も紹介しており、それらを踏まえれば、日本の税制についても一般とは異なる(もちろん、より良い)意見が持てるようになるだろう」という。確かに、近時、ジャーナリズムの在り方もいろいろ議論されるが、国民を代表として、言論の自由市場で「良貨」を供給しようということがその使命であるとするのなら、財政についてはせめてこのぐらいは踏まえて報道してほしいというのはそのとおりだと感じる。

本書の狙いについては、財政学を初めて学ぶ学生を対象に、その基本となる考え方を詳しく解説した入門テキストとし、財政の制度的側面よりも理論(考え方)を重視した記述を心がけたという。グラフを効果的に使い、直観的な理解がしやすいように配慮されていると感じた。読みやすい2色刷りで、A5判で296頁の内容となっている。

構成は、第1講 市場の失敗と政府の役割、第2講 財政制度概観、第3講 予算制度、第4講 公共財、第5講 外部性、情報上の失敗、自然独占、第6講 租税の基礎理論、第7講 労働所得税、第8講 資本所得税、第9講 間接税、第10講 税制改革の方向性、第11講 財政政策の効果、第12講 財政赤字と公債の負担、第13講 再分配政策、第14講 公的年金と医療、第15講 地方財政 となっている。

教科書という位置づけではあるが、かなり踏み込んだ内容も含まれる。このうち、第10講では、フラット・タックスやキャッシュフロー法人税、二元的所得税などについての解説があり、かつて政府税制調査会で「中期答申」が出されていたころのアカデミックな議論を懐かしく思い出した。また、第12講では、最近の財政問題における重要な論争の基本的知識となる、ドーマー命題、成長率・金利論争、公債の中立命題、独立財政機関・世代会計庁などが取り上げられている。公債の中立命題については、ちまたでは前提条件を無視した我田引水的な使われ方が多いように感じるが、本誌7月号で紹介した故大瀧雅之東大社会科学研究所教授もその著作で警鐘を鳴らされていたことを、その突然の逝去とともにあらためて想起したところである。

さらに、第13講では、最近重要な政策課題として議論されている人的資本投資に対する公的支援の在り方について、資本市場での逆選択のメカニズムを説明するとともに、人的資本投資が不足しないような方策について検討していて、その示唆するところは大だと思う。

本書について、著者の1人である小黒教授にお話しを伺う機会があったが、経済学部の学生のみでなく、財研の記者や財務省を中心とする官庁の方々をはじめてとして広く読まれることを期待しているという。まさに、初心に立ち返る意味でも、ぜひお勧めしたい。

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