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国際観光旅客税の創設について

主税局調査課税制調査室長(前・主税局税制第二課課長補佐) 伊藤 孝一

1はじめに

平成30年4月11日に国際観光旅客税法が成立し、独立した国税としては27年振りとなる新税として、国際観光旅客税が平成31年1月より導入されることになりました。本税は、出国する旅客に対し出国1回につき1,000円の負担を求め、主に航空会社を通じて徴収を行うものです。平年度で430億円程度が見込まれる税収は、観光基盤の拡充・強化を図るため、別法(改正国際観光振興法)において、ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備等に充当することが定められています。本稿では、新税創設に至った経緯等について、その概要を紹介します。

2観光財源の検討経緯

(1)背景

観光は、世界において拡大と多様化を続けており、社会経済の発展を牽引しています。我が国は、自然・文化・気候・食という観光振興に必要な条件を兼ね備えた数少ない国の一つであり、政府は観光を成長戦略の柱、地方創生の切り札と位置付け、精力的に取り組んできました。

その結果、訪日外国人旅行者は平成28年に初めて2,400万人を超えるなど、堅調に推移しています。しかしながら、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月30日)が掲げる2020年4,000万人、2030年6,000万人等の目標や、2020年の東京オリンピック開催等を踏まえれば、より高次元の観光施策を展開することが急務であり、安定的な財源を確保することが重要です。

このような問題意識を背景に、「観光ビジョン」や「未来投資戦略2017」(平成29年6月9日)において、観光財源の確保を目指す旨が明記され、観光庁を中心に検討が進められました。

(2)検討会の開催

平成29年8月、平成30年度税制改正要望として、国土交通省(観光庁)から財務省に対し、「次世代の観光立国実現のための財源の検討」との要望が提出されました。これは、要望時点における検討状況に鑑み、税方式に限定することなく財源の確保策の検討を行うことについて要望されたものです。

9月には、観光庁において「次世代の観光立国実現に向けた観光財源のあり方検討会」(以下「検討会」といいます。)が設置され、観光財源の必要性、確保策、使途について議論されました。財源確保策については、まず、事務局から、諸外国の事例について、OECDの報告書を参考に、出入国、航空旅行、宿泊の3類型の紹介があった後、航空業界、船舶業界、観光業界へのヒアリング等を通じ、以下のような議論がありました。

・負担を求める対象に関し、今後のインバウンド拡大等増加する観光需要に対して高次元の施策を講ずるための財源であること等に鑑みれば、「出入国」に負担を求めることが適当ではないか。また、この場合、諸外国の例に倣い、出国時に負担を求めることが妥当。(「国内線を含めた航空旅行」、「宿泊」についても検討したが、宿泊税等既存の負担との関係もあり事業者から反対の声が大きい。)

・財源確保の手法については、観光施策が今後も高度化すること等に鑑みれば、機動的に措置を講ずることができるよう、租税とすることが適当ではないか。他方、手数料・負担金等による方法を採った場合、受益と負担の関係を特定し、受益の程度に応じた負担とする必要。

・税方式を採る場合、租税条約の「国籍無差別」条項との関係上、日本人、外国人に等しく負担を求めることが前提。

・負担額は、公平性の観点や徴収事務を担う事業者の負担軽減の観点等から、航空・船舶にかかわらず、定額・一律とするのが適切ではないか。

・徴収に関し、航空分野では、いわゆるオンチケット方式により旅客の航空券購入時に運賃と同時に徴収する仕組みが国際的に整備されているため、既存の仕組みを活用し、航空会社による徴収及び国への納付を基本とするのが合理的ではないか。他方、船舶分野では、統一的な仕組みがないため、実態を踏まえた精査が必要。

このような議論を経て、検討会は11月に「中間とりまとめ」を公表し、税方式により出国旅客に負担を求めること、負担額は定額・一律とすること、その水準は、近隣アジア諸国との競争環境や訪日旅行需要への影響等を考慮し、一人一回の出国につき1,000円を超えない範囲で、必要となる財政需要の規模も勘案しつつ検討すること、可能な限り速やかな導入を検討すること等を提言しました。

(3)与党税制改正大網

検討会の「中間とりまとめ」の後、与党の国土交通部会や自民党の観光立国調査会においても観光財源の確保について議論され、「観光促進税(仮称)」を創設し出国旅客1人1回当たり1,000円の負担により必要な財源を確保すること、可能な限り早期の導入を図ること等が決議されるなどしました。

11月下旬、税制調査会における検討が始まり、主税局からは、検討会における検討経緯や「中間とりまとめ」の内容、また、考えられる制度設計の案等について説明を行いました。出席議員からは本税の位置付けや税収の使途、また、納税義務者の範囲や施行時期等について質問や意見が出されるなど、精力的な検討が行われました。その結果、「国際観光旅客税(仮称)」を創設し、平成31年1月7日以後の出国に適用すること等が与党の「平成30年度税制改正大綱」(平成29年12月14日)に盛り込まれました。

(4)使途に関する基本方針

観光財源の使途については、検討会での検討等を踏まえ、関係閣僚会議において、「国際観光旅客税(仮称)の使途に関する基本方針等について」(平成29年12月22日)が定められました。

基本方針では、(1)ストレスフリーで快適に旅行できる環境の整備、(2)我が国の多様な魅力に関する情報の入手の容易化、(3)地域固有の文化、自然等を活用した観光資源の整備等による地域での体験滞在の満足度向上、の3分野に税収を充当することとされました。また、充当する施策は、既存施策の単なる穴埋めをするのではなく、(1)受益と負担の関係から負担者の納得が得られること、(2)先進性が高く費用対効果が高い取り組みであること、(3)地方創生をはじめとする我が国が直面する重要な政策課題に合致すること、の考え方を基本とすることとされました。加えて、使途の適正性を確保する観点から、使途の3分野について観光庁所管の法律を改正し法文上明記すること等が盛り込まれました。

この基本方針に基づき、国際観光振興法改正法案(外国人観光旅客の旅行の容易化等の促進による国際観光の振興に関する法律の一部を改正する法律案)が、国際観光旅客税法案と同様、第196回国会に提出され、成立しています。このように、国際観光旅客税は、個別の法律で使途が規定されているという意味において、特定財源に分類されます。(なお、課税根拠となる税法で使途が規定されているわけではないため、いわゆる目的税には該当しません。)

3制度設計の考え方

与党の税制調査会における議論等のため政府内で検討した項目は多岐にわたりますが、主な項目について、制度設計に当たっての基本的な考え方は以下の通りです。

(1)課税の対象

国際観光旅客税は、民間の航空機又は船舶で出国する観光旅客その他の旅客による本邦からの出国を課税の対象としています。これは、本税を財源として講じられる観光施策は、空港・港湾の出入国環境の円滑化・利便性向上等が含まれるとともに、国際航空・海運ネットワークの維持・拡大にも資することを勘案し、出入国という行為に着目し、日本人出国者や外国人ビジネス客を含め、広く薄く負担を求めることとしたものです。出入国に着目して課税するに当たり、円滑な入国手続や確実な執行の観点に加え、諸外国においては出国時に課税することが一般的であることを踏まえ、出国時に一度だけ課すこととしています。その際、原則として入管法(出入国管理及び難民認定法)に基づく出国の確認を受けることを要件としています。

なお、入管法に基づく出国の確認を要さないとされている乗員等や、政府専用機等により出国する者の他、日本への入出国が目的ではないことや諸外国の制度との調和等を踏まえ、乗継旅客等については、課税しないこととしています。

(2)税額

国際観光旅客税の税額は、出国1回につき、1,000円としています。検討会では、運賃等に応じて設定すべきとの意見もありましたが、出入国手続きの円滑化等の観光施策による受益が運賃等に応じて異なるとは一概に言えないことや、本税を徴収する事業者から公平で円滑な徴収のためには税額は一律が望ましいとの声が多かったことも踏まえ、一律・定額としています。税額の水準は、近隣アジア諸国における類似の税の税額が1,000円から2,000円程度であるといった訪日旅行需要を巡る状況や、観光施策に関する財政需要を勘案したものです。平成28年度の出国者数(外国人2,580万人、日本人1,749万人)に基づけば、平年度の税収は約430億円となります。

(3)徴収方法

国際観光旅客税の徴収に当たっては、納税義務者、事業者、税務当局にとって効率的で円滑な出入国を阻害しない観点から、事業者が旅客から徴収し、国に納付する特別徴収制度を基本としています。我が国の出国旅客の約9割が利用する航空の分野では、航空会社や旅行会社が航空券販売時に税や空港使用料を徴収する仕組み(オンチケット方式)が国際的に整備されていることから、国際的な基幹システムや個社のシステムを更新して対応することとしています。船舶の分野では、統一的な既存の仕組みがないことから、それぞれの事業者が、オンチケット方式で徴収するか、運賃とは別に徴収するかも含め、港湾における実務の実態も踏まえて対応することとしています。

国への納付に当たっては、航空、船舶を問わず、国内に事務所を有する事業者は、法人税等の納付先でもある事務所所在地の所轄税務署長に、それ以外の事業者は旅客が出国する港の所轄税関長に対し、出国の属する月の翌々月末までに納付することを原則としています。

なお、プライベートジェット等、事業者の運送によらない出国については、特別徴収方式によらず、出国旅客が直接、又はハンドリング業者等の代理店を通じて、出国する港の所轄税関長に対し、出国の都度納付することを原則としています。

以上のような徴収納付の仕組みが円滑に機能するように、現在、事業者や税務当局等において準備が進められているところです。

(4)適用時期

国際観光旅客税は、平成31年1月7日(月)以後の出国に課すこととしています。これは、2020年の東京オリンピック開催前にできるだけ財源を確保する観点や、徴収納付を行う航空会社等の準備期間を確保する必要性、また、年末年始の繁忙期の混乱を避ける必要性を勘案したものです。なお、同日より前に航空券を購入した場合は、原則、経過措置として本税は課されません。

4国会審議

毎年度の税制改正大綱の内容のうち、国税に係る改正事項については、例年、所得税法等の一部を改正する法律案などとして一本の法案にまとめられ、国会に提出されているところですが、国際観光旅客税については新法の制定が必要であり、単独の法案として準備が進められました。

平成30年2月2日、全27条及び附則からなる国際観光旅客税法案は、所得税法等の一部を改正する法律案と共に国会に提出され、13日には衆議院本会議において趣旨説明質疑が行われました。その後は所得税法等改正案と分けて審議されることとなり、財務金融委員会において2月23日、28日、3月2日の3日間で、合計7時間30分の質疑及び1時間55分の参考人質疑が行われた後に採決され、与党等の賛成多数で可決されました。その間、働き方改革法案の提出等を巡る国会情勢により、一部の野党委員の出席が得られなかったことや、与野党協議の結果を待ちながら深夜まで国会内で財務大臣以下待機したことがありました。また、3月2日の委員会では、財務省による決裁文書の書換えの疑いを報じる記事に関する質問がありました。その後、法案は3月9日の本会議において可決され、参議院に送付されました。

参議院においては、4月4日に本会議において趣旨説明質疑が行われた後、財政金融委員会において4月5日、10日の2日間で、合計6時間の質疑と2時間の参考人質疑が行われた後に採決され、与党等の賛成多数で可決されました。その後、4月11日の本会議において可決、成立しました。

両院における審議では、新税創設の意義、検討経緯、税額、徴収方法、税収の使途をはじめ、幅広い論点について数多くの質問がありました。

4月18日、国際観光旅客税法は平成30年法律第16号として、関係政省令と共に公布されました。

5おわりに

今回、観光財源の確保という課題に対して、観光庁による主体的な検討の後、財務省も連携して、新税の創設という答を出した形となりました。ペイアズユーゴーの考え方は、厳しい財政状況を反映し、平成30年度税制改正で同じく創設が決定された森林環境税(仮称)にも見られます。このような手法が今後もとられるかどうか予断することはできませんが、一つの試金石としても、国際観光旅客税が円滑に導入され、その税収が観光の発展、ひいては日本経済の発展のために活用されることが望まれます。

新税の名称について

本税に係る検討過程において、その名称については、与党税制改正大綱の決定時まで確たるものはありませんでした。当初は「出国税」と報道されることが多く、観光関係者を中心に、観光財源の確保のための税であることを明確にすべきといった声があったことも背景に、自民党の観光立国調査会等においては「観光促進税」との名称が提案されました。

他方、税の名称は課税の対象とするのが基本であり、本税については、納税義務者の約8割が観光を目的とした国際観光旅客であることから、税法上の正式名称は、主たる納税義務者に由来する「国際観光旅客税(こくさいかんこうりょかくぜい)」とされました。

なお、「出国税」は、本税の検討経緯を踏まえれば、基本的な考え方としては(出国だけでなく)出入国という行為に着目して負担を求めるものであることや、所得税において国外転出をする場合の譲渡所得課税の特例が専門家の間で通称出国税と呼ばれることがあり紛らわしいといった問題がありました。

最終的に、与党税制改正大綱では、「観光促進のための税として、国際観光旅客税(仮称)を創設」という表現となりました。「観光促進のための税」は、検討経緯を踏まえ、税の位置付けを明確にする観点から、平成24年度税制改正で創設された「地球温暖化対策のための税」(石油石炭税の課税の特例の通称)の例も参考にしつつ付されたものです。(「(仮称)」に関しては、その名称で法案が提出されることが確定していないという意味で付されるものです。)

ちなみに、本税は外国人旅行者にも課されますが、外国語表記については、例えば、英語では「International Tourist Tax」、中国語では「国际观光旅客税」等として、周知が図られています。

本稿の執筆に当たり、本税創設を共に担当した山下正通主税企画官、宮地孝一課長補佐、馬場洋二郎係長、中曽善文係長、大東一雄調査主任、鈴木悠夫係員をはじめとする関係者の協力を得ましたが、意見に係る部分は筆者個人のものです。

図表 (参考)国際観光旅客税の創設

財務省の政策