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図書館・書店を拠点とした地域活性化への展望〜日本における「サードプレイス」の可能性

図書館・書店を拠点とした地域活性化への展望〜日本における「サードプレイス」の可能性

渡部 晶

1はじめに

(1)図書館・書店・出版の現状*1

本題に入る前に、図書館・書店・出版の現状について概観しておきたい。

ア.図書館数

平成27年(2015)度の「社会教育調査」(3年ごとの調査)によれば、図書館数(同種施設を含む。)は3331で、前回調査に比べ57(伸び率1.7%)増加し、過去最高となった。筆者が特集「岐路に立つ公立図書館〜多彩なサービスで行きたくなる場に」*2に協力させていただいた、日経グローカル2017年7月17日号によれば、2016年4月時点で804市区(全市区の98.9%)、519町村(全町村の55.9%)に存在している(日本図書館協会調べ)。

付言すると図書館事業は自治事務である。また、図書館法に基づく補助金は1998年をもって廃止、一般財源化されている。したがって、持論だが、図書館をみるとその自治体のあり様がよくわかる。その自治体の見識が問われている。まさに格好のメルクマールだと思う。

イ.書店数

毎年恒例のニュースは書店がどんどん減っているというものだ*3。全国の書店数は1万2526店で、2000年の2万1654店から4割強も減った(書店調査会社アルメディア調べ、2017年5月現在)という。朝日新聞が昨年8月に報じた(「書店ゼロの自治体、2割強に 人口減・ネット書店成長…」2017年8月24日)。

また、上記の記事によれば、「書店が地域に1店舗もない「書店ゼロ自治体」が増えている。出版取次大手によると、香川を除く全国46都道府県で420の自治体・行政区にのぼり、全国の自治体・行政区(1896)の2割強を占める。「文化拠点の衰退」と危惧する声も強い。」という。

さらに同記事では、「トーハン(東京)の7月現在のまとめによると、ゼロ自治体が多いのは北海道(58)、長野(41)、福島(28)、沖縄(20)、奈良(19)、熊本(18)の順。ほとんどは町村だが、北海道赤平市、同歌志内(うたしない)市、茨城県つくばみらい市、徳島県三好市、熊本県合志(こうし)市、宮崎県串間市、鹿児島県垂水(たるみず)市など7市や、堺市美原区、広島市の東・安芸両区の3行政区もゼロだ。」ともいう。

別の日本出版販売株式会社のデータでは、「この1年間で約300件の書店が閉店し、2016年度の書店の軒数は10,583件」だそうだ。

週刊文春の人気コラム「夜ふけのなわとび」(2018年1月8日号)で、作家の林真理子氏は、依頼があれば自分の本にため書きも入れ、サインをして応援してきた、大好きな「幸福書房」(代々木上原駅前)が2月いっぱいで閉店すると聞き、思わず泣いてしまったと告白する。「街から本屋さんが消えると、風景が変わる。ひとつの文化がなくなってしまうのだ」*4。

筆者は5年前に三鷹市に引っ越してきたが、三鷹での変化も大きい。ここ5年間で三鷹駅中のブックエキスプレスアトレヴィ三鷹店、駅ビルの中の文教堂書店、駅南口からすぐのところにあった三鷹の森書店が閉店した。

しかし、あとでブックスキューブリックの紹介で考えたいと思うが、従来型モデルが成り立たないので減っているのだから、意欲ある方々の新規参入がなければ書店数が減る一方となるのは当然の流れのように思われる*5。

ウ.出版事情

公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所は2018年1月25日、2017年(1〜12月期)の出版市場(紙+電子)の統計を発表している。それによれば、2017年の出版物(書籍・雑誌合計)の推定販売金額は前年同期比6.9%減の1兆3,701 億円で13年連続のマイナスとなった。

内訳は書籍が同3.0%減の7,152億円、雑誌は同10.8%減の6,548億円。書籍は11年連続のマイナスとなったものの、ヒット作が出て小幅な減少にとどまる一方、雑誌はコミックス単行本の大幅減少もあり、20年連続のマイナスで初の二桁減となり厳しい状況が続いているという。また、電子出版市場は前年比16.0%増の2,215億円。内訳は電子コミックが同17.2%増の1,711億円、電子書籍(文字もの)が同12.4%増の290億円、電子雑誌が同12.0%増の214億円。

よく業界の方はトヨタ1社の利益にもならないと卑下される。

なお、上記の公表数値にあるとおり、業界の分類では「コミック」が雑誌という分類に入れられている*6。従来の業態からみればいまの定義での売上の状況は「出版不況」であるが、読者サイドからみるとそうなのか、という視点は重要だ*7。また、出版物という狭い範囲を超えて小売り全体を俯瞰すれば、藻谷浩介氏のベストセラー「デフレの正体 経済は「人口の波」で動く」 (2010年6月 角川oneテーマ21)まで持ち出さなくても人口減少が大きな要因であることはつとに指摘されているところだ。このような「不都合な真実」は出版業界でも受けないらしい。

写真1 従来の図書館のイメージを変えた武蔵野プレイス(JR中央線武蔵境駅南側 武蔵野市)〜日本における代表的な“サードプレイス”

2図書館・書店の議論をするにあたって

(1)「処士横議」の必要性

この言葉をはじめて知ったのは、谷垣禎一財務大臣の就任1年目の広報室長をしていたときだ。財務省の所管とあまり関係のない質問が大臣会見で出た際に、大臣は、「ショシオウギセズ」と発言された。会見記録として文字化する必要があるので辞書で調べ、大臣の謙虚な人柄を彷彿とさせるわけだが、「素人がよく知らないことに口を挟むべきではない」という趣旨で大臣が使われたことが分かった。また、この言葉は、明治維新に至る過程で様々な意見が身分を問わずに出され、それらが日本の方向性を決める上で役割を果たしたというように、前向きの意味に使われるときもあることも知った。

平成30年(2018年)は、明治元年(1868年)から起算して満150年の年に当たる。この「明治150年」をきっかけとして、明治以降の歩みを次世代に遺すことや、明治の精神に学び日本の強みを再認識することは、大変重要なことなので、政府においては、こうした基本的な考え方を踏まえ「明治150年」に関連する施策に積極的に取り組むこととされている。ここで「明治の精神」については、「機会の平等、チャレンジ精神、和魂洋才」などと例示されているが、「処士横議」も「明治の精神」といえるだろう。

とかく、この図書館・書店に関する話題は、自由度が少なく、ある地域振興に精通したエコノミストの方も、この話題は「炎上」しやすいので避けて通るという*8。

1で記したとおり、出版界は今、「明治維新」に匹敵するような大きな転機にある*9。いまこそ、この分野では「処士横議」が必要なのではないかと思う次第である。

(2)「文化経済戦略」に「書店」・「図書館」の記述がほぼないことについて

閣議決定「骨太2017」などに基づき、昨年末に、内閣官房文化経済戦略チーム及び文化庁が、文化と経済の好循環を実現する省庁横断の新政策を実行するため、「文化経済戦略」を策定した。業界の「「出版文化」こそ国の根幹である」(「新潮45」2015年2月号の特集)との自負にもかかわらず、この「文化経済戦略」では本や書店という文字は1度も出てこない。同じ社会教育施設に位置付けられる博物館(美術館を含む)についての施策は多数言及があるにもかかわらず、「図書館」という言葉は「主な取組(例)」の中で、デジタルアーカイブジャパンの構築の箇所で一度だけ国立国会図書館が言及されているのみである。主たる狙いが文化庁の機能強化などにあるということから、理解できないわけでもないが、正直非常に驚いた。

2006年4月に、文部科学省生涯学習政策局において開催された「これからの図書館検討協力者会議」は「これからの図書館像―地域を支える情報拠点をめざして―(報告)」を公表している。主査を務めた薬袋秀樹氏(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科教授(当時))は、本報告について図書館の「主なサービスと経営の考え方について詳しく論じており、その点で文部科学省の戦後の図書館に関する各種の答申や報告の中でも画期的なものと思われる」としていた。また、本報告の中では、「図書館は、印刷資料のほかインターネット上の電子情報など様々な種類の情報を一か所で利用でき、また、これらの情報の効率的な利用方法を案内する「ワンストップサービス」であることを明らかにしている」と指摘する。このような機能の活用について「文化経済戦略」に入らなかったことは残念だ。

(3)ファイナンスライブラリー

筆者は、これまでこのファイナンスライブラリーで下記のとおり、幾度か図書館・書店に関する本を御紹介してきた。

ア.ファイナンス2012年6月号 根本彰著「理想の図書館とは何か」(ミネルヴァ書房 2011年10月)

イ.同2014年6月号 NPO法人本の学校編「本との出会いを創り、育てるために」(出版メディアパル 2013年7月)

ウ.同2015年6月号 根本彰著「場所としての図書館・空間としての図書館」(学文社 2015年4月)

エ.同2016年4月号 柳与志夫著「文化情報資源と図書館経営」(勁草書房 2015年2月)

まったく偶然であるが、図書館情報学の碩学根本彰先生(東京大学大学院教育学研究科教授(当時))が高校の先輩であることを「理想の図書館とは何か」を読んで知り、そのご縁もあって財務総合政策研究所のランチミーティングにおいでいただき、お話を伺う貴重な機会を得た(2012年8 月1 日「21 世紀に図書館は生き残るのか」)。

根本教授は、ウ.の著書で、「図書館はそのコミュニティの構成員誰もが自由に出入りし、一定時間の滞在を許されるところである。そこに入った利用者はやろうと思えばきわめて多種多様の知的活動をすることができるし、場合によっては何もしなくてもよい。新旧の資料が得られれば、最新の電子情報へのアクセスが可能になるし、各種の行事やセミナーに参加することもできる。これが地域的コミュニティあるいは機能的コミュニティいずれにとっても、場所としての図書館が果たすべき役割である。別に目的がなくとも、そこにいることを許す公共施設というのは図書館以外に公園くらいしかない」という。

また、2004年から1年間主税局で広報担当企画官をしていたが、鳥取県鳥取市に赴き、法人会・第18回全国青年の集い・鳥取大会での講演に加えて鳥取商工会議所でも税についての講演をし、「ZIT」(鳥取県ジゲおこしインターネット協議会)という鳥取県の地域おこしのメーリングリストに加えていただいた。このメーリングリストでの関係者との交流の中で、今井書店グループ会長・今井書店会長・NPO本の学校初代理事長であった永井伸和氏の知遇を得た。そこから本の学校の賛助会員となり、本の学校が毎年開催してきた「本の学校・出版産業シンポジウム」に2012年から毎年参加したり、本の学校が東京で不定期に開催している「本の学校連続講座」のいくつかに出たりする中で、福岡市の独立系書店ブックスキューブリックのオーナーである大井実氏や千代田図書館長の活躍がよく知られる柳与志夫氏と知己になることができた。

さらに、2014年から1年間務めた地方課長の際の実践経験を整理して、「宣伝会議」別冊の季刊「環境会議・人間会議」に2016年に4回にわたり「地域連携で広がる未来」という記事を掲載することができた。現在の地域課題を解決するためには、ネットワーク型の対応が重要になっていることを主張させていただいた。このような考えに至る過程では、これらのご縁を得たことが大きいと思う。地方課長時代に、九州財務局への出張の際に熊本の長崎書店の長崎健一氏とも知りあいになることができた。長崎さんの商店街での活動(「上通りスタンダード」の作成)については、上記の記事で紹介させてもらった。

(4)サードプレイス

2013年10月にアメリカの社会学者レイ・オルデンバーグの「サードプレイス〜コミュニティの核になる「とびきり居心地のよい場所」」(原著:THE GREAT GOOD PLACE Cafes,Coffee Shops,Bookstores,Bars,Hair Salons and Other Hangouts at the Hart of a Community(1989))がみすず書房より出版された。本書の帯には、「居酒屋、カフェ、本屋、図書館・・・情報・意見交換の場、地域活動の拠点として機能する<サードプレイス>の概念を社会学の見地から多角的に論じた書、待望の邦訳。」とある。マイク・モラスキー氏の解説によれば、オルデンバーグのいうコミュニティ再生のための“third place”は、「とりたてて行く必要はないが、常連客にとって非常に居心地がよく、それゆえに行きたくなるような場所。会員制にはなっておらず、予約するような場所でもない。いつでもひとりでふらっと立ち寄って、店主やほかの常連客に歓迎される。そして帰りたいと思ったら、いつでも帰ればよい。その意味では、家庭とも職場とも著しく違う。ただし、家庭とは異なるものの、「アットホーム」な気持ちでいられることがサードプレイスの大きな魅力である。」という。まさに図書館・書店がその例として頭に浮かぶ。

また、2013年は、「知の広場〜図書館と自由」(2011年 みすず書房)の著者アントネッラ・アンニョリ氏がイタリアから来日し本の学校ほかで講演を行った。彼女は、司書歴30年余で、数々の図書館リノベーションにたずさわってきた。筆者は、2013年6月14日に日比谷図書文化館で開催された日比谷カレッジでの来日記念講演「世界の図書館で今、何が起きているのか?」を幸運にも傍聴することができた*10。柳与志夫氏の「知の広場」の解説によれば、アンニョリ氏は公共図書館の可能性のうち、「あらゆる資料と人を受け入れる共通の経験の場」「分別を持って比較しあい、議論でできる社交の場」としての「知の広場」の機能に特に着目しているという。柳さんの「図書館はもともとすべての人に利用可能な文献資源があり、これから発掘・創造される文化情報資源の集積や地域内に点在する資源情報の収集・組織化の情報ハブとなる素地がある」との指摘は、図書館を通じた地域活性化の大きな可能性を示している。

3本の学校とブックスキューブリックの取組み

(1)本の学校

本の学校は、市民の読書推進や図書館づくりなどの運動と、今井書店の三代今井兼文の「ドイツの書籍業学校に学ぶべき」という遺志を継承し、1995年、秀峰国立公園大山を仰ぐ鳥取県米子市に設立され、以来地域を原点に「地域の人々の生涯読書の推進」、「出版界や図書館界のあるべき姿を問うシンポジウムやセミナー」、「出版業界人、書店人の研修講座」などに取り組んでいる。

2012年3月1日より、特定非営利活動法人となった。これまで今井書店の一事業という印象が強かった本の学校を、より中立的で横断的な、当初めざしていたところの本来あるべき姿にいまこそ近づけるべきではないかという思いから、新たな一歩を踏み出したものだという。現在の理事長は3代目で星野渉氏である。

特定非営利活動法人の初代理事長も務めた、永井伸和氏は、今年75歳になり、そろそろ後進に道を譲ろうとされている。これまでの取組についてお話をお聞きすると、「本の学校は、二十数年前にドイツの書籍業学校と産業構造に学び、更に日本の図書館、学校図書館に光が当たってない問題も視野に入れて、ドイツモデルを参考の一つに改革をと、警鐘連打してきました。しかし危機感の共有と改革は進まず、無力感を抱かざるを得ない現実の変化の早さです。新規参入のない産業は滅びると、3年越しで小資本でも可能な本屋の新規参入テキストづくりに本の学校は取りくんできました。」「ドイツでは、いち早く書籍業学校がメディアキャンパスにかわり、55のテーゼ(2011年に、2025年の出版業界どうなるのかを予測したもの)を掲げ、電子と紙、ネットとリアルの融合に挑戦、アメリカでも地域とともにある独立系の新業態の街の書店の元気が伝えられています。」という。

また、早くから図書館と書店の連携という取組みを重視してきた。朝の読書運動や、ブックスタートの開始に寄与し、書店、出版社と図書館の壁を乗り越え、ともに読者を育むことが大切という流れをつくり広げてきた。2014年3月に「本の学校・出版産業シンポジウム2014春」が開催され、「街の本屋と図書館の連携を考える―地域社会での豊かな読書環境構築に向けて―」をテーマに、片山善博慶応義塾大学教授や山梨県立図書館長で作家の阿刀田高氏などが「書店と読書環境の未来図」を巡って語り合い、この分野における画期的なシンポジウムになった。図書館人と書店人がコミュニケ―ションを深め、お互いの本質的な役割を認識した上で、地域の人々がこれまで以上に豊かな読書生活を提案する活動を進め、その結果として「知の再生産」サイクルが地域社会から整備されていくことなどを話し合った。図書館へ本を納入する場合に地域の書店から納品するという鳥取県立図書館の取組み、図書館の中に書店を作る、過剰な複本を持たない、などがとりあげられた。特に、山梨では「やまなし読書活動促進事業」(「やま読」)という取組を関係者が実行委員会を作り実施している。図書館・書店などが水平的な関係で参画している。

写真2 本の学校の外観(2階には研修室、多目的ホールなどがある)

写真3 桜の時期の本の学校

写真4 本の学校の実習・実験店舗(その1)

写真5 同(その2)

写真6 同(その3)

写真7 本の学校初代理事長・前今井書店グループ会長の永井伸和氏

(2)ブックスキューブリック

本の学校の2014年7月のシンポジウムの分科会では、「いま、本屋をやるには」というテーマで、パネリストに福岡・ブックスキューブリックの大井実氏、島根(松江)・アルトスブックストアの西村史之氏などが登壇した。取次会社などに新規開業を促進する施策の必要性を訴えた。

大井氏は昨年初めての単著「ローカルブックストアである」(晶文社)を出版された。2001年に福岡市のけやき通りに15坪の新刊書店を開業するにあたって取次との契約条件が厳しかったことが指摘されている。どの取次も条件は横並びで、推定取引月商の3か月分の支払いもしくは担保の設定、かつ連帯保証人3人という条件だったという。前述のシンポジウムでこのことを訴えたところ、大井氏が2015年に開業を手伝った2件の本屋は保証金が大分下がった由。大井さんがいうに、「本屋は、書棚などの初期投資も馬鹿にならない。それに加えて、保証金も積まなくてはならないというのでは、新規参入を希望する人も萎えてしまう」のだそうだ。

新規参入の促進による書店小売業の活性化に関しては何らかの公共政策の関与も考えられるのではないかと思う。

大井さんは、2006年から行われている、秋の1か月をイベント期間とする「ブックオカ〜福岡を本の街に」というブックフェスティバルの創立時からの有力メンバーである。また、2008年には、カフェとギャラリーを併設する箱崎店をオープンさせた。2016年には箱崎店の中にベーカリーを開設。「自分の感覚を信じ、それを一生懸命伝えることによって、反応してくれる人を集め、最大限におもてなしをしてリピーターになってもらう。」のだそうだ。そのおもてなしを日々続けて、「喜んでくれるお客さんを集め、きちんと事業をまわし、町をよくすることに少しでも貢献できる事業家精神を持った「当事者」がもっと増えてくることでしか、地方は活性化しない」と断言する。

「ブックオカ」は2015年に10周年を迎え、記念イベントとして「車座トーク〜本と本屋の未来について語ろう」が開催された。書店、出版社、取次という業界3者が集まって活発な意見交換がなされた。その模様は、「本屋がなくなったら、困るじゃないか〜11時間ぐびぐび会議」(2016年7月 西日本新聞社)となって刊行されている。「本屋は街づくりの中心になれるんです」という言葉が心強く感じられた。

写真8 ブックスキューブリックけやき通り店(福岡市)

写真9 ブックスキューブリックの大井実氏

写真10 店内の様子

写真11 箱崎店(2Fにカフェとパン工房がある)

4終わりに

JR中央線武蔵境駅の南側に、図書館のイメージを変えた「武蔵野プレイス」がある。図書館を中心とした様々な複合施設である。ぼんやり座っているだけでも楽しい。日本におけるサードプレイスの理想的な在り方の1つだと思う。

昨年末、福岡に用務があった際、空いた時間で大井さんに面会すべくブックスキューブリック箱崎店をおとずれた。JR鹿児島本線箱崎駅近くにある。お店の2階のカフェ・キューブリックで自慢のオリジナルブレンドのコーヒーを頂きながら、独立系書店の今後についてお話を伺った。この場所で、著者を招いたトークイベントも頻繁に開催されている。

荻窪にできたTitleの店主辻山良雄氏は著書「本屋、はじめました」(苦楽堂 2017年1月)で「本は今、インターネットで、家にいながら買うことのできる時代です。そこで商品を買おうとする人がいるのは、ものを買いたいから、欲しいからというよりは、お店にいくという体験がしたいからだと思います」と喝破している。このような思考が書店をより魅力的な場所にして、地域活性化にも良い影響を与えることは間違いない。

なお、これらの独立系書店のホームページはとても魅力的で掲載記事の更新も頻繁だ。いわゆるリアル書店(実店舗。ネット書店に対する用語)であっても、インターネットがその書店の重要な入り口であることを深く認識して柔軟に対応していることが分かる。

図書館・書店については、従来型モデルに固執しなければいろいろな可能性を見出すことができるし、それが地域活性化の文化的な基盤となることを確信する。この記事がファイナンスの読者の皆様にもこの分野の動向にぜひ関心をもっていただくきっかけになれば幸いである。

最後に、この記事を書くにあたり、永井伸和氏、大井実氏からは快く写真を提供していただいた。また、株式会社文藝春秋文藝出版局第二文藝部の東郷雄多氏には意見交換に付き合っていただきいろいろご教示賜った。これらの方々のご厚意にあらためて感謝したい。

(ありうべき間違いは筆者に責がある。文中の意見はまったく個人の意見であり、所属する組織とは独立のものである。)

プロフィール

渡部 晶(わたべ あきら)

沖縄振興開発金融公庫副理事長

1963年福島県生まれ。87年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)に入省。福岡市総務企画局長、財務省地方課長兼財務総合政策研究所副所長、内閣府大臣官房審議官(沖縄政策担当)などを経て、17年6月から現職。「月刊コロンブス」(東方通信社)で書評コラムを掲載中。出身の福島県いわき市の応援大使を務める。

*1) 図書館や書店のデータは、有料で高価なものや入手に手間がかかるものが多いため、限られた時間の中、直接原資料に当たるのがなかなか難しく、報道記事の引用になっていることをご容赦いただきたい。

*2) 編集後記で、グローカル副編集長の磯道真氏は、「図書館特集にあたり、財務官僚で現沖縄振興開発金融公庫副理事長の渡部晶さんから多くの情報と助言をいただいた。(中略)図書館オタクでもある渡部氏は、「専門性が必要な図書館は独立行政法人化すべきだ」と話していた。(以下略)」と記された。「図書館オタク」というほどのものかどうかは自分ではわからないが、図書館政策に興味を持っているということで評価していただいたということで理解したい。魅力のある図書館についてわかりやすく紹介した本として、「つながる図書館」(猪谷千香著 ちくま新書 2014年1月)がある。

なお、日経グローカルで取り上げられている図書館で、鳥取県立図書館(絶えざる種まきと仕掛け)、瀬戸内市民図書館(市民巻き込み公設公営)、武雄市図書館(二度目の変身を目指す)のほか、猪谷さんが武雄市図書館と比較対象として取り上げたお隣の伊万里市民図書館、武蔵野プレイス、千代田図書館などは今後もその動向を注目したい図書館である。さらに、ニューヨーク公共図書館(「public」が「公立」ではなく「公共」である理由はこの本の重大なテーマ)の活動を活写した菅谷明子著「未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告」(岩波新書 2003年1月)は、10年以上前の本だが、日本の図書館の在り方を考える上で、残念ながら今でも必読の1冊だ。

*3) 手元にある2005年8月号の月刊誌「論座」(朝日新聞社)は、「特集 やっぱり本屋が好き」であり、読み返すと、書店関係者の座談会「まだまだ本屋も捨てたもんじゃない」は、まだまだゆとりがあった時代だったようだ。それでも、「身近な本屋をなくさないような努力」の必要性はそのころから指摘はされていた。2013年の神戸海文堂書店の閉店を契機に、業界の有志が、2014年1月から、「町には本屋さんが必要です会議」を各地で開いたことは大きな出来事だった(その取組みは、「本屋会議」(夏葉社 2014年12月)となっている)。さらに、週刊ダイヤモンド2015年10月17日号(特集「「読書」を極める!」)に代表されるように2015年あたりから一般経済誌や全国紙でも書店、図書館、出版業界の状況が本格的に取り上げられるようになったと記憶する。

2018年1月の読売新聞のくらし教育面の「18歳の1票」(毎週土曜日朝刊に掲載)のテーマは、まさに「書店の危機」であった。「1日に1店舗の割合で本屋が消えていく―。」から記事は始まる。

*4) 他の事業の中小事業者と同じく、代表者の高齢化や後継者不足が顕在化しており、事業承継が大きな課題となってきている。ちなみに、2017年12月に出版業及び関連産業(書店小売業も含む)を顧客基盤とする文化産業信用組合と日本政策金融公庫東京支店が事業承継に関する業務提携・協力の覚書を締結したことを発表した。

*5) 月刊誌「潮」(潮出版社)に、2015年6月号から2017年7月号まで長期連載されていた「書店を歩く」が編集し直されて本年1月に「「本を売る」という仕事」」(長岡義幸著)として出版された。出版流通に詳しい長岡氏は、東日本大震災の被災地を含め、全国の多くの書店を訪問し、「街の本屋」の本質としてお客さんとのつながりを大切にする「会話する書店」の意義を見出したという。

*6) マガジン航「「出版不況論」をめぐる議論の混乱について 」2016年5月1日posted by 仲俣暁生 https://magazine-k.jp/2016/05/01/editors-note-12/

「(前略)「出版」という言葉を伝統的な出版社のみが行う商行為として捉えるならば、「出版状況」とはいわゆる「出版業界(出版社、取次、書店)」の動向のみを指すことになる。しかしすでにウェブが一般に普及して20年、スマートフォンの登場からも9年の月日が経っている。いま20歳の人は生まれたときからウェブがあり、小学校高学年の頃からスマホがある世界に生きているのだ。出版とは何かという問いにであれば、「書籍」「雑誌」とは何かという問いによりも簡単に答えられる。「出版 publication」とは創作物や意見を公に表明する行為、そしてそれを支援する仕組みすべてのことだ。出版社はこれまで、publicationのもっとも重要な担い手だったし、これからもそうだろう。しかし、現在の「出版状況」を語るうえで、その対象を出版業界に限ってしまうことは、もはやほとんど意味がないと私は考える(そもそもアマゾンは出版業界のプレイヤーではない)。」との指摘は大変示唆深い。

*7) CNET Japan 「林智彦の「電子書籍ビジネスの真相」」の記事「出版不況は終わった? 最新データを見てわかること」(林 智彦(朝日新聞社デジタル本部) 2016年02月10日 参照) https://japan.cnet.com/article/35077597/

林氏は、「毎年、二千数百億円の売り上げがある「コミックス」のうち、9割は「雑誌」の売り上げに計上されているのです。」という。また、「俗に「雑高書低」と言われますが、1970代末から始まり、80年代のバブル、そして現在に至るまで、日本の出版界では、雑誌の売り上げが書籍の売り上げを上回る状態が長く続いてきました。現在の出版流通システム(取次、書店)は、こうした雑高書低を前提に組み立てられています。雑誌(定期刊行物)を毎週、毎月、大量に書店に送り込むトラック便の「隙間」に本を詰め込む、という発想にもとづいた利益構造なのです。取次や書店のビジネスモデルも、数百万部の雑誌と数千〜数万部の書籍の組み合わせによる商売が基本でした。ところが今、40年以上続いた雑高書低の時代が終わり、「雑低書高」の時代に突入しつつあります。」という。

*8) 「図書館の法令と政策」(樹村舎 2015年8月)で、著者の後藤敏行氏(現在日本女子大学家政学部家政経済学科准教授)は、参考文献の紹介にあたり、「図書館に関する法令を論じた解説書や研究書[中略]には、法令の解釈や解説にとどまらず、「図書館界の願望や要請」を主張するものも多い」ことを留意点にあげる。この分野の「空気」をうまく表していると思う。

*9) 2019年1月12日付の朝日新聞朝刊文化・文芸面で、「出版取り次ぎ「もう限界」」との見出しで、「出版市場の縮小で積荷は減少しているのに、配達は増え続ける」と報じている。雑誌物流を担う運転手も高齢化し、配達するコンビニは増えるのに、取引高は少なく非効率的で、十分な賃金も支払えないことから、運転手確保もままならないという窮状を指摘する。1月24日付 日本経済新聞朝刊2面でも「物流危機が迫る出版改革」との見出しで、この問題を報じている。

*10) 講演では、来日して見学してまわった日本の図書館の椅子についての画像を示し、欧州のそれに比して、まったくゆとりのない事務的な椅子であることをユーモアたっぷりに批判していたのが記憶に鮮明だ。また、ちょうど、佐賀県の武雄市図書館が開館し、全国的な議論のさなかであったが、この図書館に批判的な方々が、権威であるアンニョリさんから、武雄市図書館に対する批判的な言質をとろうと何度も質問していたことにうんざりしたことも忘れられない。賢明にも、アンニョリさんはそのような言質を与えなかった。

財務省の政策