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グリーン・ファイナンスの最前線(第2回)

グリーン・ファイナンスの最前線(第2回)

OECD(経済協力開発機構)上級政策分析官  高田 英樹

(文中、意見にわたる部分は筆者個人としての見解である。)

前回、OECDが取り組む分野のひとつであるグリーン・ファイナンスを通じて、「環境」と「金融」は不可分のテーマとなりつつあることを述べた。今回は、それを端的に示すテーマとしてグリーン・ボンド(green bond)を紹介したい。

グリーン・ボンドとは

世界の金融・市場関係者の、環境金融への関心の高まりを顕著に示すのが、近年におけるグリーン・ボンド市場の飛躍的な拡大だ。グリーン・ボンドとは、それにより調達した資金をもっぱら「グリーン」な事業、すなわち環境改善効果を持つ事業に充てることを前提として発行される債券である。グリーン・ボンドの歴史は比較的新しく、その草分けは、2007年にEIB(欧州投資銀行)が発行した「Climate Awareness Bond」とされる。発行主体は、当初はEIBのほか、世銀などの公的国際金融機関に限られていたが、徐々に、地方自治体、民間金融機関、エネルギー会社、さらに一般事業会社*1など多様化し、2016年12月にはポーランド政府、2017年1月にはフランス政府が、ついに「グリーン国債」を発行した。年間発行額は、2011年には約30億ドルであったが、2015年には約480億ドルへと増加し、さらに2016年には約950億ドルと、1年でほぼ倍増した(図表1 グリーン・ボンドの年間発行額(単位:10億ドル)参照)。なお、2016年の急拡大の大きな要因は、中国の参入である。中国では、2015年に中国人民銀行がガイドラインを発出するなど、政府主導でグリーン・ボンド市場が整備され、わずか1年で世界最大の発行国となった。

グリーン・ボンドは、商品性は基本的に通常の債券と変わらないが、発行体が、その債券を「グリーン・ボンド」と明示し、その資金使途がグリーン・プロジェクトであることを明らかにする点で、通常の債券と区別される。

グリーン・ボンドについて国際的に統一的な定義・基準は存在しないが、International Capital Market Association(ICMA)が中心となって取りまとめたガイドラインである「グリーン・ボンド原則」(Green Bond Principles:GBP*2)が、最も広く参照される基準となっている。これによると、グリーン・ボンドは、マル1資金使途がグリーン・プロジェクトに限定されていること、マル2対象プロジェクトの評価・選定プロセスが透明であること、マル3調達資金が適切に分別管理されていること、マル4調達資金の使用実績を定期的に報告すること、の全てを満たすべきとされる。また、このGBPとの整合性について、外部者の評価を受けることが、義務的ではないが推奨されるとしている。このGBPの他、これをベースとしたいくつかの国際的、あるいは国別の基準が存在する。中国では中国人民銀行がガイドラインを発出しており、日本でも、2017年3月、環境省が日本版のガイドラインを初めて策定・公表した*3。

グリーン・ボンドのメリット

グリーン・ボンドは、発行体、投資家双方にとって様々なメリットがある。発行体のメリットとしてよく挙げられるのが、投資家層の多様化だ。グリーンという特性が付くことによって、通常はその発行体の債券を購入しない投資家が参加する場合がある。また、そうした投資家は、債券を満期まで保有する可能性が高く、安定した保有者となりうる。そしてもちろん、グリーン・ボンドの発行により、その対象となるグリーン・プロジェクトへの取組みをより強くアピールできる。

他方、投資家にとっては、通常の債券と同様のリスク・リターン・プロファイルを持つ商品への投資を通じて、収益性を保ちながら、グリーン投資の需要を満たすことができる。なお、グリーン投資の需要とは、社会貢献によるPR効果ももちろんあるが、最近ではそれを超えて、いわゆるESG(environment, social, governance)に配慮した投資が、長期的なビジネスの成長・収益性確保の観点からも注目されている。特に、気候変動に関しては、次回述べるように、中長期的な財務的リスクが指摘されており、こうしたリスクをヘッジする手段ともなりうる。また、株式と異なり、債券の保有者は通常、発行体企業と継続的に接触することは無いが、グリーン・ボンドに関しては、調達された資金がきちんとグリーン・プロジェクトに充てられるよう、発行体が継続的に管理・報告する建前となっている場合が多く、これを通じて、投資家が発行体と接触・対話する機会を持ちうる。

だが、純粋に金融商品として見た場合、グリーン・ボンドは果たして有利なのだろうか。発行体にとって、通常の債券に比べて様々な追加的コストが生じることは確かである。前述のGBPを遵守するためには、調達資金の分別管理や資金使途の報告が必要となるし、外部評価を受ける場合には、そのための手数料もかかる。だが、グリーン・ボンドへの投資家の需要は高く、発行に対してオーバーサブスクリプション(需要超過)となるケースが多い。これは、発行体にとって有利に働いていると推測される*4。グリーン・ボンドの価格ないしイールドの、通常の債券との比較については、まだ十分な研究がなされていないが、グリーン・ボンドに対するプレミアムが観測されるとするレポート*5もある。

グリーン・ボンドの発行額が急速に伸びているとはいえ、債券市場全体の規模からすれば、1〜2%程度に過ぎず、まだニッチな商品であることは否めない。だがそれは他方で、この市場がまだまだ拡大する余地を持っていることを意味する。機関投資家にとっても、インフラへの直接投資は様々な制約があるが、債券は一般的なアセット・クラスであり、はるかに投資しやすい資産である。OECDにおいて、私の属するチームが2017年4月に公表したレポート「Mobilising Bond Markets for a Low-Carbon Transition*6」においては、今後、パリ協定が目指す「2度目標」を達成する上で、債券市場が果たしうる役割について定量的な試算を行っている。それによれば、2035年までに、米国、EU、中国、日本の4つの主要市場において、低炭素投資向け債券は累積発行残高4.7〜5.6兆ドル、年間発行額6200〜7200億ドルに達する可能性がある。

グリーン・ボンド市場を支えるプレイヤー

グリーン・ボンドに関わる主要なプレイヤーは発行体と投資家であるが、他にも様々な関係者が市場の発展を支えている。

(1)外部評価の提供者

前述のように、多くのグリーン・ボンドが依拠するGBPは、債券の発行に際して外部の評価を受けることを推奨しており、発行の約6割が外部評価を受けているとされる*7。評価は、複数のシンクタンクや監査法人等が提供しており、発行体が一定の手数料を支払って評価を依頼する。評価の内容としては、当該債券のGBPとの整合性を確認するものが多いが、ノルウェーのシンクタンクCICERO(シスロ)は、「Shades of Green」という手法を開発し、対象プロジェクトの環境改善効果の度合いに応じて、段階的な評価を行っている*8。格付け会社のS&P及びMoody’sも、グリーン・ボンドの「グリーン性」の格付けを行うサービスを始めている。また、グリーン・ボンドの調査・普及に関し主導的な役割を果たしているNGOのClimate Bonds Initiative(CBI)は、Climate Bonds Standardという基準を策定

し、それに適合したグリーン・ボンドの認証(certification)を行っている*9。

(2)証券取引所

CBIによれば、2016年末時点で、グリーン・ボンドの72%が上場されている。いくつかの証券取引所は、さらに積極的にグリーン・ボンドの普及を図っており、オスロ、ストックホルム、ロンドン、メキシコ、ルクセンブルグ、イタリアの証券取引所が、グリーン・ボンドに対応した市場のセグメントを設けている。ルクセンブルグは特に、2016年、初のグリーン・ボンド専用の市場としてLuxembourg Green Exchange*10を立ち上げた。

(3)インデックス・プロバイダー

投資家によるグリーン投資の需要に対応し、グリーン・ボンドを組み込んだインデックスも市場に出回っている。S&P Green Bond Index、Bloomberg Barclays MSCI Green Bond Indexといった例があり、中国でも、ChinaBond China Green Bond Indexなどが提供されている。

グリーン・ボンドの課題

グリーン・ボンドが普及するにつれて、その課題も顕在化してきている。関係者の多くが指摘するのは、グリーン・ボンドの統一的な定義・基準の欠如だ。国際的に最も普及しているGBPも、自主的なガイドラインであり、強制力は無い。また、GBPをベースとしながらも、それをアレンジした国別のガイドライン等も存在する。その結果、グリーン・ボンドという名の下に、多様な債券が発行され、中には、その「グリーン性」に疑義が生じるものも出てきている。例えば中国では、中国人民銀行が独自の基準を導入しているが、これによれば、グリーン・ボンドの対象に石炭火力発電所の効率化も含まれている。石炭火力の効率化は、二酸化炭素排出削減につながりうるものであり、これをグリーン・ファイナンスに含める国もあるが、それに否定的な関係者も多い。

また、グリーン・ボンドの発行により調達された資金が、実際にグリーン・プロジェクトに充当され、環境改善効果を挙げているかどうかをチェックし、その遵守を確保する枠組みは十分に確立されていない。債券発行者が元金・利息の支払いをできなくなることをデフォルトというが、グリーン・ボンド発行者が、グリーンに関する約束を破る「グリーン・デフォルト」といった事例も、今後出てくる可能性がある。その場合、債券購入者が発行者に対し、法的にその約束の履行を求めることができるのかは定かでない。

こうした問題に対処し、グリーン・ボンド市場の透明性、信頼性を高めるためには、国際的な共通ルールの策定や、規制的な枠組みを導入することが考えられるが、そうした方向性には賛否両論がある。グリーン・ボンド市場はこれまで基本的に、市場参加者が主体となって自律的に発展してきた。厳しいルールや規制を導入することは、取引コストを高め、通常の債券と比して相対的にグリーン・ボンドを不利にし、その発展の芽を摘んでしまうおそれもある。市場の信頼性と効率性のバランスをどのように図るかという、金融規制に共通の議論がここでも当てはまる。

また、グリーン・ボンドは単に、通常の債券や借入れで調達していた資金の一部を代替しているに過ぎず、グリーン投資に向かう資金を増やしているとは言えないのではないかとの指摘もある。この点についての評価は難しいが、例えば欧米では、単独では市場での資金調達が難しい個人や小規模自治体の需要を仲介機関が束ねて、グリーン・ボンドにより資金調達する仕組みも出てきており、こうしたケースではグリーン・ボンドの効用がより明確といえる。

以上のように、グリーン・ボンドに関しては様々な課題はあるものの、今後さらに普及し、グリーン・ファイナンスを市場関係者にとってより身近なものとしていくことが予想される。日本でも、東京都が発行を表明するなど、注目を集めつつある。次回は、気候変動が金融市場にもたらすリスクと、グリーン・ファイナンスに関するG20及び日本の動きについて紹介したい。

*1) 例えば2016年、AppleがIT企業として初めて、15億ドルのグリーン・ボンドを発行した。

*2) https://www.icmagroup.org/Regulatory-Policy-and-Market-Practice/green-social-and-sustainability-bonds/green-bond-principles-gbp/

*3) http://www.env.go.jp/policy/greenbond/gb/greenbond_guideline2017.pdf

*4) 例えば、2017年1月に発行されたフランスのグリーン国債は、70億ユーロの発行額に対して230億ユーロの需要があり、また、既存の国債の平均と比べ、長い年限かつ低い金利で発行することができた旨、フランス政府は発表している。http://www.gouvernement.fr/en/success-for-france-s-first-sovereign-green-bond

*5) 例えば Barclays (2015) “The Cost of Being Green”, https://www.environmental-finance.com/assets/files/US_Credit_Focus_The_Cost_of_Being_Green.pdf; Climate Bonds Initiative (2017) “Green Bond Pricing in the Primary Market:January 2016 – March 2017”, https://www.climatebonds.net/resources/reports/green-bond-pricing-primary-market-jan2016-march2017

*6) http://www.oecd.org/environment/mobilising-bond-markets-for-a-low-carbon-transition-9789264272323-en.htm

*7) Climate Bonds Initiative (2016) “Bonds and Climate Change:The State of the Market in2016”, https://www.climatebonds.net/resources/publications/bonds-climate-change-2016

*8) https://www.cicero.uio.no/en/posts/what-we-do/cicero-shades-of-green

*9) https://www.climatebonds.net/standards

*10) https://www.bourse.lu/lgx

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