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黒田日本銀行総裁、神田財務官共同記者会見の概要(2)(令和3年10月13日(水曜日))

【冒頭発言】

総裁) 本日開催されたG7財務大臣・中央銀行総裁会議では、デジタル決済や中央銀行デジタル通貨に加え、気候変動、低所得国支援、経済回復の状況について議論を行いました。中央銀行デジタル通貨については、6月のG7財務大臣・中央銀行総裁コミュニケを踏まえて、今般リテールCBDCについての公共政策上の原則を含む報告書を作成し、加えて、デジタル決済やCBDCに関する声明を取りまとめました。
 次に、気候変動については、経済に対する影響や政策対応について議論が行われました。私からは日本銀行が金融機関による多様な気候変動対応の投融資をバックファイナンスする気候変動対応オペを年内に開始することを説明したほか、金融庁と連携しながら大手金融機関との間で共通シナリオを用いたシナリオ分析の試行的な実施に向けた検討を進めていることを説明しました。

財務官) 総裁のご説明に若干の補足をさせていただきます。ますデジタルペイメントの議論につきましては、リテール中央銀行デジタル通貨に関する公共政策上の原則、パブリックポリシー上の原則について合意をするとともにG7で声明を発表してございます。詳しくはお手元にお配りしている声明をご参照いただければと思いますけれども、CBDC原則、例えばプライバシーの保護、あるいはマネロン対策といった中央銀行の権限にとどまらない幅広い公共政策上の課題について初めて検討の指針を示すものでございます。それから、いかなるグローバル・ステーブルコインもリスクに十分に対処されるまではサービスを開始すべきではないとの合意についても改めて確認がなされてございます。
 デジタルペイメントの問題だけではなくて、ほかの各種政策課題についても率直な意見交換が行われてございます。気候変動につきましては先程、黒田総裁からもご説明がございましたけれども、私の方からはネットゼロ目標の実現に向けた政策手段は国によって異なるところ、政策強度の比較可能性を向上させていく必要があること、あるいはネットゼロへ向けた国際的アプローチは全ての大排出国が高い野心を確保し、カーボンリーケージを避けるべきであること、あるいはトランジション・ファイナンスの重要性、こういったことを申し上げております。それから低所得脆弱国支援について、SDRのチャネリングのオプションとして検討されているRSTの具体化に向けて、引き続きG7で連携していくことになりました。
 最後に新型コロナで顕在化いたしましたグローバルサプライチェーンの課題についての意見交換が行われました。私からは経済安全保障の観点を踏まえて、例えば情報共有、あるいは供給先の多様化やR&D、研究開発を含めて経済安全保障の観点の強靱化を図る一方で、保護主義化が進むことのないよう留意する必要があると指摘をいたしました。

【質疑応答】

問)中銀デジタル通貨のことで伺いたいんですが、デジタル通貨の原則、設計ということをG7の中で共有したということなんですけれども、なぜこのタイミングで打ち出したのか、その意義を教えていただきたいと思います。2つ目の質問というか、それに関連してなんですけれども、今いろいろなモバイルのデジタルマネーというか、そういうのは既に世の中にあって、利用者の目線で見ると何で中央銀行がコストをかけてまでお札やコインをデジタルにしていく必要があるのかというのが少しわかりにくくて、もちろんまだやると決めたわけではないと思うんですけれども、今検討を加速させている意味というのを少し説明いただけないかと。今勢いのあるステーブルコインみたいなものへの警戒とか、そういうこともあるのか、そのあたりについてもご説明いただければと思います。

総裁)G7もG20のFSBも、いわゆるクロスボーダーの資金決済、送金などについて、より効率的にしていく必要があるということを議論してきましたが、そうしたことについて合意ができ、今後数年かけて更に効率を良くしていくことになるわけです。そうした中、ステーブルコインは、いわゆるビットコインなどの仮想通貨、暗号資産と異なり、一国の通貨にリンクしたもので価値も安定しているため既にいくつか現れていますが、これがビッグテックなどを中心に幅広く発行されるようになると金融システムに対する影響もあり得ます。そこで、まずステーブルコインについてはきちっとした規制やルールを守ってもらえるようにし、そういうことができるまではグローバル・ステーブルコインはサービスを開始すべきでないということです。そのうえで、資金決済等について、ご指摘のように色々とデジタルなものが出ていますが、通貨という意味では、グローバルに発行されようとしているステーブルコインに匹敵するようなものとしては、やはりCBDCのようなものがあり得るのではないかという議論になっています。要するに、仮想通貨、暗号資産の話、ステーブルコインの話、そしてCBDCの話と、出てきているわけで、別にデジタル通貨を今発行しようと決めたわけではないのですが、決済システムをより効率的、迅速化していく中で、ステーブルコインにだけ頼ることになると、民間の通貨ですので十分な規制などがないといけませんが、そうしたものはまだできていませんし、仮にできたとしても、常時そういうものが金融システムの不安定化を招かないように監視していかなければなりません。そのうえで、決済などの効率化を図る一つの方策としてCBDCのようなものがあり得るということで、いくつかの中央銀行は具体的な検討も進めているわけで、日本銀行やECB、FRBではまだ具体的なことにはなっていませんが、そういうことも含めてG7として共通の認識を明らかにしたということだと思います。

問)黒田総裁、神田財務官、どちらでもというか、どちらもコメントがあれば伺いたいのですが、今の中央銀行のデジタル通貨の件で、やはり中国がかなりデジタル人民元で先行している部分があると思うんですけれども、その中国を含まないG7という形で、法の支配とか健全な経済ガバナンスということを強く打ち出した声明を出したということの意味合いを少しお聞かせいただければと思います。

総裁)声明にありますように、仮にCBDCを発行するとなれば、透明性や法の支配など健全な経済ガバナンス、その他こうしたことが必要だということをG7として合意したわけですが、これは別に中国人民銀行が今検討しているデジタル人民元のことを具体的に考えて行ったということではなく、あくまでもG7国としてCBDCを発行するようなことがあるとすれば、このようにきちっとしなければならないということです。そのようにすることが金融システムの安定にも資するとともに、先ほど申し上げた決済や送金の効率性にも資するということだと思います。


財務官)総裁がおっしゃるとおりでありますが、若干補足いたしますと、ここに書かれている原則というのは、ご覧になったらわかるようにG7に限らず、かなりユニバーサルなバリュー、普遍的なものでございますので、G7を越えて途上国などにも参照していただけるよう、IMFといった国際機関にも連携していくことを呼びかけております。つまりG7以外の国々がCBDCを仮に発行するのであれば気をつけなければいけないような要素がありますので、こういった形で発表することに大いに意義があると考えてございます。

問)総裁に今の中銀デジタル通貨についての関連で1点お伺いしたいと思います。G7として発行するときにこういうことを守ることが大事だと。財務官からそのほかの人達にも守って参照してもらえるようにとおっしゃっていたんですけれども、中国が先行している中で、中国を含めて議論をしようとか、したいという、そういったご意向はないんでしょうか。

総裁)もちろんG20などでも色々な議論が行われていますが、先ほど申し上げたように、これはあくまでも、仮にG7国が発行する場合には、このようにきちっとしたことでなければならないということと、神田財務官から説明したように、仮にほかの国も発行するとしたら、このようなルールに従ってもらうと、その国の金融システムだけではなく、グローバルな金融システムにも問題は生じない、というもので、いわゆるベストプラクティスみたいなものです。G7国として実施するとしたらそういう形でしか行わないですが、ほかの国も、もし行うならばこのような形で実施することが好ましいということを表明しているものです。ですから、神田財務官が言われたように、IMFやBISなどの国際機関も巻き込んで議論をしてきたわけです。そういう意味ではグローバルな視野があることは事実ですが、これ自体はあくまでもG7として「仮に出すとしたらこういうことでなければならない」ということに合意したということです。

(以上)