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黒田日本銀行総裁、神田財務官共同記者会見の概要(1)(令和3年10月13日(水曜日))

【冒頭発言】

総裁) 本日開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、世界経済の回復状況に加えて、パンデミックへの対応、国際課税、気候変動、低所得国支援、金融セクターなどについて幅広い議論を行いました。今回のG20の成果はお手許に配布されていると思いますが、声明に取りまとめています。私からは二点申し上げます。
 まず、世界経済については回復が続いていますが、感染力の強い新型コロナウイルスのデルタ株の流行などにより一部の新興国を中心に下押し圧力が継続していることを説明するとともに、日本経済については新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に和らいでいくもとで先行き回復していくとみられる、と申し上げました。  次に、G20は気候変動や持続可能性への対応を金融面から支えていくため、サステナブル・ファイナンスに関するロードマップを承認しました。気候変動への対応を金融面から支援していくにあたっては、G20が主体的な役割を果たすことが重要です。そして日本銀行も物価の安定と金融システムの安定という自らの使命に沿って気候変動問題への対応を進めていく方針であることもお話ししました。
 今回の会議では、国際課税や金融安定面でも大きな成果を得ており、7月のベネチアでの会合に引き続き、G20の財務大臣・中央銀行総裁が顔を合わせて闊達に議論を行うことで国際協調が一層促進されることを確認できた意味でも、大変有意義な会議であったと思います。

財務官) 先程、総裁がおっしゃったとおり、今日は世界経済、パンデミック対応、国際課税、低所得国支援、気候変動対応、金融セクターといった幅広い課題で議論を行ったところでございますが、つい1時間ぐらい前ですか、コミュニケがまとまりまして皆さんのお手元にございますので、これに基づいて主なポイントのみご説明申し上げます。
 まず1ページ目の上段のところに世界経済のパラグラフがございますが、ここではワクチンの展開などによって強固なペースで回復が続いているけれども、ばらつきが大きく、変異株の拡大などの下方リスクにさらされていて、必要とされる間は全ての利用可能な政策手段を用いるとの決意を再確認しております。
 1ページ目の下の方はパンデミック対応でございまして、足元のコロナ危機への対応に加えて、将来のパンデミックへの備えと対応を強化するため10月29日のG20財務大臣・保健大臣会合に向けて財務当局と保健当局の連携体制を含めて具体策を議論することで合意しております。日本はG20の議長のときに大阪で財務・保健大臣合同会合を初めて開催するなど両当局間の連携強化を推進してきたところでございますので、私からはこうした取り組みの制度化に向けて議論を加速することが重要であると申し上げてございます。
 2ページ目の中程に国際課税があります。ここは先般、「BEPS包摂的枠組み」において実現した「経済のデジタル化に伴う課税上の対応に係る国際合意」をG20として支持しております。国際課税は日本が国際的な議論を一貫して主導してきた分野でございまして、今回G20として歴史的な合意を支持することで実施に向けたモメンタムが確認されたことは大きな成果だと考えております。
 2ページ目の下の方ですけれども、コロナ危機からの回復を支えるためには、すぐれたコーポレート・ガバナンスが重要との認識のもと、G20/OECDコーポレート・ガバナンス原則の見直しの重要性が再確認されてございます。
 気候変動につきましては、先程、黒田総裁からご説明がございましたとおりでありまして、気候変動や持続可能性への対応を金融面から支えていくため、サステナブルファイナンスに関するロードマップが承認されております。私の方からは世銀等の国際開発金融機関のエネルギー支援について新規の石炭火力支援を停止するとの方針を支持すること、また各途上国の野心的なエネルギー計画に沿って天然ガス資源を含む産出削減のために最も寄与する現実的な支援を行う必要があることを申し上げてございます。また先日、鈴木財務大臣が発表された日本の外為特会が保有する外貨資産の運用においてESG投資を開始すること、これをG20の場でも紹介をさせていただいてございます。
 低所得の脆弱国支援につきましては、4ページの下の方にSDRチャネリングに関連したパラがございます。IMFに保健、気候変動などの長期的課題に対応するための新たな基金としてRST、強靱性・持続可能性トラストを設立するよう求めることとされております。また、日本はIMFのPRGT、貧困削減・成長トラストの融資原資に合計40億ドル、利子補給金に8,000万ドルの貢献をこの機会に表明しております。
 5ページ目の下段に債務問題があります。債務救済に関する共通枠組の実施の迅速化に向けてG20として一層努力することにコミットしております。
 金融セクターにつきましては、FSBの報告をもとに金融技術革新について議論が行われております。私からはグローバル・ステーブルコインや分散型金融といった金融のデジタル化が消費者保護や金融システムの安定性に与える影響と対応を検討する重要性を指摘してございます。
 このように今回のG20では今月末に予定されているG20サミットに向けて様々な分野で議論が進捗いたしまして、多くの成果が得られたものと考えてございます。

【質疑応答】

問)1問目は黒田総裁、神田財務官、ご両名にお聞きしたいんですけれども、まず国際課税の合意の意義について黒田総裁は2000年頃、ご自身が財務官でいらした頃からこの問題に関してOECD有害税制に対する議論がなされたり、タックスヘイブンについての問題意識が当時からあったと思いますが、やはり課税主権の問題は非常に壁が強くてなかなか進捗しなくて今に至ったということがあると思うんですが、今回こういう歴史的な合意に至ったことの背景、何が違いというか、どのような違いがあってこういう合意に至ったのかというところのご自身の経験も踏まえながらお聞かせいただければというのと、神田さんにも同様の観点から、いろいろグローバル化の行き過ぎへの反省であるとか、巨大テック企業が出てきたことによる格差への問題意識とか、コロナが起きたこととか、いろいろ背景はあろうかと思うんですけれども、どのあたりを重視していらっしゃるか、神田財務官にもお聞かせいただければと思います。
 2点目は神田財務官にお伺いしたいんですが、G20そのものとやや離れてしまって恐縮なんですけれども、IMFのゲオルギエバ専務理事が世銀の幹部だった時代の世銀のレポートに中国の介入で不正操作があったのではないかという問題をめぐって、IMF理事会が今週、続投が妥当だとする結論を出したわけですけれども、この問題、米中2大国が対立する中でどのよう国際機関がこれから機能していくかという問題にも深く関わると思うんですが、改めてこの問題に関して理事会での立場も含めて日本政府としての立場がどのようなことだったのか、お聞かせいただければと思います。

総裁)具体的にどのようにして合意がなされたかということは神田財務官から詳しくお聞き頂きたいと思いますが、この問題は、実は100年ぶりぐらいの国際課税の原則の修正です。20世紀の初め頃から国際連盟を中心に、専門家が国際課税のあり方について議論を続けていたわけですが、その中で対立する二つの考え方があり、一つは英語で言うとフォーミュラ方式、あるいはアポーションメント、割当方式といいますか、全世界所得をそれぞれの地域の売り上げなどに応じて按分して課税権を与えるという考えでした。しかし、世界的な組織があり、そうしたものをチェックしたり決められるということはなく無理だろうということで、パーマネント・エスタブリッシュメント、PEと言いますが、支店や営業所、あるいは倉庫があり、そこの売り上げから来る利益はその国の課税当局が課税できるとする考え方になりました。要するに、本店のある国の課税当局が全部課税するのではなく、PEがあるところについては、そこでの売り上げに基づく所得はその当該課税当局が課税できるというルールです。これが100年ぐらい続いてきたわけです。ただ、20世紀にはそうでしたが、既に1990年代の終わり頃からデジタル化により、そうした物理的なPEがなくても、遠くからデジタルで売り上げられるものが出てきて、PEはないものの売り上げのあるところで十分課税できないことは不公平ですし適切でないという議論が既にありました。それがずっと続いてきて、G20で麻生前副総理・財務大臣が主導してBEPSで議論を始め、更に国際課税の問題に発展し、今回の合意に至った次第です。ですから、これは国際課税の基本的なルールを、全面的にではありませんが、一部、根本的に修正するという意味では殆ど100年に一度の大改正です。それがOECDの努力もあって百数十か国もの合意が実現して、それをG20でサポートしたということで歴史的な合意だとは思います。

財務官)総裁がおっしゃったことに尽きていまして、全くそのとおりだと思います。まさに国際連盟時代から続けられてきたプリンシプルが100年ぶりに変わった、パラダイム転換に近い歴史的な成果だというふうに考えられると思います。大きなデジタル化、あるいはグローバル化の中で、なかなか主権国家が適切にキャプチャーできない、公平に課税できないというようなことは総裁おっしゃったとおり認識されていたんですけれども、何でうまくいったかというのは、いろいろなことが重なっていると言われます。まさに皆さん、多くの方々の努力もあるんですけれども、例えばやはりずっとレース・トゥ・ザ・ボトムをやっていて、ピラー2で言えば課税ベースがどんどん首を絞められてなくなっていってしまって、こんなことやってられないというようなところまでいったということもありますし、あるいはGAFAについて、もちろんほかにも個人情報の問題とか不正競争の問題とかある中で、税金どこにも払っていないじゃないかみたいな議論があったり、そういったいろいろなことが重なって、何よりも様々な方々の努力によって100年ぶりの成果が得られたんじゃないかなと思っています。ただ、何かこれだというものが1つあるというわけでもないような気がします。
 それからIMF専務理事の話につきましては、世銀理事会の中での議論についてのコメントは控えますけれども、ご案内のとおり世銀のドゥーイングビジネスのデータ不正化に関する問題、これをIMF理事会で確か8回でしたか、事実検証が行われてきたところですけれども、こっちの時間で11日の理事会でこれまでの事実検証等の結果を踏まえて専務理事として引き続きゲオルギエバさんが任務に当たることを再確認したと承知していまして、IMF理事会では今後もIMFが最高水準のガバナンス等を維持できるような取組をしっかりしていく必要性を強調していまして、日本としてもこういったことをしっかり後押ししていきたいと思っております。ただ、日本としては理事会のステートメントにもありますように、確かサラ・オブジェクティブ・アンド・タイムリーレビュー、こういったことはちゃんとやるべきであるということは一貫して主張してきた、客観的な検証が行われることは重要であると指摘してきたところであります。1つだけ申し上げると、一部報道で何か介入を日本が求めたというのが流れていたそうですが、そういった事実は全くございません。これは断定できます。

問)今回のG20の中でインフレについても警戒しているというか、そういう確認が議論が出たということなんですけれども、最近少し各国中央銀行が想定していた物価上昇がおさまっていくようなプロセスが少し想定より外れているというような状況、数字も出てきていまして、好ましくない物価上昇というか、これが続くような懸念というのも少し出てきているのかという点について黒田総裁、お聞かせいただければと思います。

総裁)もちろん従来から中央銀行総裁の会議では、この問題は当然議論されてきましたし、今回のG20でも議論にはなっていますが、ご案内の通り欧米諸国では確かに消費者物価の上昇率が物価安定目標の2%を超えていることは事実です。しかし、これはあくまでも一時的な要因、サプライチェーンの混乱やその他の一時的な要因で起こっているので、物価は2%に向けてまた安定していくという見通しのもとに金融政策が行われているということだと私は承知しております。もちろん当然のことですが中央銀行ですから物価安定は最大の使命ですので、それを危うくするような状況が出てくれば当然金融政策対応があると思いますが、今のところは基本的に一時的な要因によるということだと各国の中央銀行の方は考えていますし、IMFも特に恒久的なインフレの惧れが非常に高まっているとはみていないと思います。なお、途上国の場合は、ご覧になっておられると思いますが、中国を含めて物価はそんなに上がっていません。一部の途上国でかなり物価が上がり、金利を引き上げている国も一部みられますが、途上国全体で何か物価がものすごく上がっているということにはなっていないと認識しています。

(以上)