「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」
報告書
2001年6月
財務省財務総合政策研究所
はしがき |
「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」座長 貝塚 啓明 |
(財務省財務総合政策研究所名誉所長、中央大学法学部教授) |
「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」の報告書は、財務総合政策研究所が2001年1月から3月まで3回にわたって開催した研究会において、報告された際にメンバーである学識経験者が執筆した論文をまとめたものである。この研究会で座長を務めたこともあり、報告書のねらいとその内容の概要を説明し、はしがきに代えたい。 1990年代後半から従来の公共投資の在り方については批判が向けられるようになった。この批判には、他の先進諸国にはみられない公共投資の高い比重の持続や固定化した公共投資の分野別配分、さらには景気対策としての有効性の低下などの論点が含まれる。この報告書は主として公共投資の地域的配分を見直すために、公共投資の受益と負担のメカニズムが働くように自立的なシステムを確立することを主張している。いいかえるならば、従来の公共投資の配分のメカニズムを地方経済の自立に役立つように改革することが重要と考えている。具体的には全国的な国土計画の役割の縮小、公共投資の事前と事後の費用便益分析の必要性、地方の自立的な公共投資を阻害する地方交付税制度の見直しなど、公共投資における受益と負担が地方の人々にも見える形にすべきとしている。 まず、報告書の第1章「社会資本整備の役割」(井堀 利宏)は、近年の我が国の財政政策が公共投資に傾斜し、その景気刺激効果も落ち、またその効率も低下していると論ずる。第2章「公共投資の地域間配分とその経済効果」(三井 清)は、公共投資の効率性を向上させるためには、費用便益分析の手法、データを公開すると共に、実質的に補助部分の比率が上昇している国庫支出金や地方交付税制度の見直しが必要であると主張し、さらに地域別・分野別社会資本のデータを用いた生活環境改善効果を補完的に用いることを提案している。また、生活環境改善効果を地価に反映するとみる「資本化仮説」を実証し、産業基盤型よりも生活基盤型の方が効果が大きいという結果を得ている。第3章「地域活性化に向けた地域計画・政策」(大西 隆)は、戦後の地域開発は、1980年代には制度の効果が疑問視されはじめ、90年代には本格的な制度見直しが始まり、いまや転換期にあるとみる。今後は、地域が作る地域計画があり、その調整としての広域的計画という「下からの計画」策定が重要であるとする。第4章「地方財政制度と公共投資―地方の自立を支える財政制度に関するジレンマ」(小西 砂千夫)は財政収支が厳しい地方の財政状況にあっては、地方交付税の縮小、地方税の増税という方向性は、独自財源をさがすだけでは財源が乏しい地方の公共サービスの維持が困難になるとみて、このような状況を打開するには、すべての自治体が基本的にワンセットで一律の行政サービスを提供する発想から転換し、一律のサービスを最低限として、それ以上は自らの財源調達の範囲内で支出を行い、公共投資も同じ原則に戻るべきと主張する。第5章「公共投資の効率化―PFI成功の鍵:第三セクターからの教訓―」(赤井 伸郎・篠原 哲)は、従来まで民間資金を活用する方式としては第三セクターが用いられてきたが、赤字や経営破綻が多く成功したとはいいがたいとする。PFI方式は、事業をできる限り民間業者に委ねると共に、契約を明確化することで第三セクターにおける損失発生時の事後的な責任体制の不明確さを取り除くことができれば、財源資金の効率的利用を達成しうるとする。第6章「地域経済の活性化と自立的発展―地方経済自立のための方策―」(大熊 毅)は、すでに人口の減少と高齢化が同時に進行しつつある地域が数多く地方圏で見られる中で、地域経済において効率的に財政運営をしつつ自主的に再活性化するには何をすべきかが問われている。このためには「マチづくり」、「モノづくり」、「ひとづくり」の視点を重視し、特に地域の発展戦略を担う「ひとづくり」が重要であり、地域の知的インフラである大学との連携などが考えられるとする。補論「公共投資の効率性の改善と地方経済の自立についての一考察」(初岡 道大・中居 良司・本田 創・篠原 哲)は、これまでの諸論文に共通する事実認識をあらためて確認した上で、1)所得水準の低い都道府県ほど公共投資の依存が高いこと、2)所得の低い都道府県ほど雇用に占める建設業の比重が高いこと、3)公共投資が多い都道府県ほど雇用に占める建設業の比重が高いことが示している。また、これらの関係はかつてはなかったことがわかる。 以上、この報告書の内容をかいつまんで説明したが公共投資へ傾斜してきた財政政策を地域の自立と両立する形で如何に転換するかを検討する際に有益な観点が提供できれば幸いである。 終わりに、この研究会で執筆して頂いた方々とこれをサポートして頂いた事務局の方々に感謝いたしたい。 <本文ダウンロードへ> |
「地方経済の自立と公共投資に関する研究会」
(敬称略、肩書きは2001年6月1日現在)
座長 | 貝塚啓明 | (財務省財務総合政策研究所名誉所長・中央大学法学部教授) |
委員(50音順) | ||
赤井伸郎 | (神戸商科大学経済研究所助教授) | |
跡田直澄 | (大阪大学国際公共政策研究科教授) | |
井堀利宏 | (東京大学大学院経済学研究科教授) | |
大熊 毅 | (日本政策投資銀行地方開発部部長) | |
大西 隆 | (東京大学先端科学技術研究センター教授) | |
小西砂千夫 | (関西学院大学大学院経済学研究科教授) | |
出口正之 | (総合研究大学院大学教育研究交流センター教授) | |
松谷明彦 | (政策研究大学院大学大学院政策研究科教授) | |
三井 清 | (明治学院大学経済学部教授) | |
吉野直行 | (慶應義塾大学経済学部教授) | |
オブザーバー | ||
森信茂樹 | (大阪大学法学部教授) | |
木村嘉秀 | (信州大学経済学部教授) | |
事務局 | ||
渡辺裕泰 | (財務省財務総合政策研究所長) | |
墳崎敏之 | (財務省財務総合政策研究所次長) | |
原田 泰 | (財務省財務総合政策研究所次長) | |
水野哲昭 | (財務省財務総合政策研究所研究部長) | |
初岡道大 | (財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官) | |
中居良司 | (財務省財務総合政策研究所研究部研究員) | |
本田 創 | (財務省財務総合政策研究所研究部研究員) | |
篠原 哲 | (財務省財務総合政策研究所研究部研究員) |
研究会実施状況 | ||
第1回(2001年1月31日) | ○今後の進め方、問題意識等について | |
○第1章「社会資本整備(公共投資)の役割」について | ||
○第2章「公共投資の地域間配分とその経済効果」について | ||
第2回(2001年3月13日) | ○第3章「地域活性化に向けた地域計画・政策」について | |
○第4章「地方財政制度と公共投資」について | ||
第3回(2001年3日23月) | ○第5章「公共投資の効率化」について | |
○第6章「地方経済の活性化と自立的発展」について |
第1章 | 社会資本整備(公共投資)の役割(PDF:52KB) | ||||||||
東京大学大学院経済学研究科教授 井堀利宏 | |||||||||
1.財政の機能 | |||||||||
2.日本の財政運営 | |||||||||
3.社会資本整備の問題点 | |||||||||
4.公共投資の生産性 | |||||||||
5.国と地方の役割分担 | |||||||||
第2章 | 公共投資の地域間配分とその経済効果(PDF:66KB) | ||||||||
明治学院大学経済学部教授 三井 清 | |||||||||
1.戦後の公共投資政策の変遷とその問題点 | |||||||||
2.社会資本整備と2種類の効率性 | |||||||||
3.社会資本整備の政策評価(費用・便益分析) | |||||||||
4.資本化仮説に基づく推計結果 | |||||||||
5.社会資本整備の効率性向上のための施策 | |||||||||
6.むすび | |||||||||
第3章 | 地域活性化に向けた地域計画・政策(PDF:52KB) | ||||||||
東京大学先端科学技術研究センター教授 大西 隆 | |||||||||
1.地域開発政策の経緯と特徴 | |||||||||
2.地域開発政策の成果と限界 | |||||||||
3.地域開発の転換とその行方 | |||||||||
4.地域計画と地方計画 | |||||||||
5.地域計画の例 | |||||||||
6.多様な広域計画 | |||||||||
7.地域計画の新展開 | |||||||||
8.地域計画の内容 | |||||||||
第4章 | 地方財政制度と公共投資−地方の自立を支える財政制度に関するジレンマ−(PDF:47KB) | ||||||||
関西学院大学大学院経済学研究科教授 小西砂千夫 | |||||||||
1.問題の構図−地方財政の充実と自主財源の確保は両立しない | |||||||||
2.地方の公共投資依存体質 | |||||||||
3.国・地方の財政危機 | |||||||||
4.制度的課題としての地方交付税の赤字 | |||||||||
5.交付税を地方税に振り替える難しさ | |||||||||
6.将来の財政負担をコントロールするガバナンスの問題 | |||||||||
7.社会資本の財政制度の不均衡 | |||||||||
8.いま問われているものは財政運営の戦後的思想 | |||||||||
第5章 | 公共投資の効率化−PFI成功の鍵:第三セクターからの教訓−(PDF:181KB) | ||||||||
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1.はじめに | |||||||||
2.第三セクターの現状(マクロ分析) | |||||||||
3.第三セクター失敗の原因を探る(理論的分析) | |||||||||
4.第三セクター失敗の原因を探る−個表データによるミクロ分析− | |||||||||
5.おわりに:PFI手法は、過去の失敗原因を克服しているのか? | |||||||||
第6章 | 地域経済の活性化と自立的発展−地方経済自立のための方策−(PDF:242KB) | ||||||||
日本政策投資銀行地方開発部部長 大熊 毅 | |||||||||
1.はじめに | |||||||||
2.地域を取り巻く内外の環境変化と地域経済の自立的発展の視点 | |||||||||
3.モノづくりを通じた地域経済活性化による自立的発展の取組 | |||||||||
4.マチづくりを通じた地域における社会資本整備の在り方 | |||||||||
5.むすびにかえて−地域経済の自立的発展のための課題− | |||||||||
補論 | 公共投資の効率性の改善と地方経済の自立についての一考察(PDF:312KB) | ||||||||
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1.はじめに | |||||||||
2.公共投資の推移とその問題点 | |||||||||
3.効率性の低い公共投資が行われる理由 | |||||||||
4.公共投資の仕組みの改善と効率化 | |||||||||
5.地方経済の自立 | |||||||||
6.おわりに |