財務総合政策研究所

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新聞発表
平成13年6月12日

主要国の地方税財政制度調査報告書について


 財務総合政策研究所においては、昨年夏以降、部内研究としてイギリス、ドイツ、フランス、アメリカの4カ国の地方税財政制度について地方税制度、財政調整制度を中心に調査を行ない、今回、その成果を報告書としてとりまとめました。
 報告書のポイントは以下のとおりです。


1.【イギリス】

(1

)
地方税制度
 イギリスでは、個人の住居用資産に対するカウンシル税が唯一の地方税目であり、地方歳入に占める割合は1割程度となっている。大都市圏と地方圏で比較すると、地方圏の住居の資産価格の方が高いことから、一人当り税収は地方圏に比べ大都市圏の方が低くなっている。
 地方自治体が、政府が想定する標準支出を超える歳出を行なうときは、カウンシル税の超過課税を財源としなくてはならない。カウンシル税収が歳入の1割程度しかないので、地方自治体は、例えば、歳出を1%増やすと税率は
10%上昇させることとなる。このように歳出の増減の影響が地方税率に拡大されて及ぼされること(ギア効果)により、地方自治体の歳出水準の差が住民負担の格差としてより大きくあらわれており、税率格差は最大で3.1倍となっている。

(2

) 財政調整制度
 財政調整の方法としては、国税である事業用レイト(事業者に対する資産課税)を地方自治体に人口比で配分した上で、地方の標準的な支出と標準的な歳入
(注1)の差額を歳入援助交付金によって補填している(注2)。この財政調整の結果、人口一人当りの一般財源でみると、都市部が地方圏を上回る結果となっている(図1参照)。これは都市部の方が地方圏よりも人件費が高いことなどから行政コストが高いことを考慮したものと説明されている。
 なお、公共事業やその財源(起債、特定補助金、資産売却収入)は、資本会計で整理されている。資本会計は交付金の対象とはなっておらず、公共事業は財政調整の対象とはならない
(注3)
 起債については、国による許可制度がとられているが、事業が特定されない起債許可(基本起債許可)が許可額の半分程度を占めており、公共事業の実際の支出額とは必ずしもリンクしていない。また、許可額を他の自治体に譲渡することもできる。
(注1 )標準的な歳入:事業用レイトと標準カウンシル税(全国一律の税率で計算したカウンシル税)
(注2 )各自治体への配分に先立ち、国は歳入援助交付金の総額を決定している。各自治体の標準的な支出額に調整係数を乗じることにより、歳入援助交付金の配分額の合計を、国の決定した総額に一致させている。
(注3 )ただし、起債の償還費は交付金の算定に含まれている。


2.【ドイツ】

(1

)
地方税制度
 所得税、法人税、付加価値税は連邦と州の共有税とされ、連邦からの委任により州が徴収し、連邦と州に配分される仕組みとなっている。共有税のうち所得税と付加価値税については連邦と州のほかに市町村にも配分されている。共有税は連邦、州、市町村をあわせた全税収の7割程度と高い割合を占めている。
 歳入に占める税収の割合は州が6割程度、市町村が3割程度となっており、州の税収の8割、市町村の税収の4割強は共有税からの配分である。
 このほかに州税として自動車税等があり、これらには税率の自由度がない。市町村税としては営業税等があり、これらには税率の自由度が認められており、税率格差は、例えば営業税の税率は最小で
293%、最大で470%となっている(注)
(注 )州別平均値を比較したもの。なお、営業税の課税ベースは原則、営業利益の5%となっている。

(2

) 財政調整制度
 ドイツの財政調整制度の基本は、各州の一人当り財政力をほぼ均等化することにある。また、水平的な財政調整制度が存在する。


 付加価値税の州間での配分(水平的調整)
 共有税である付加価値税の州への配分総額の
25%を限度として、人口一人当り州税収(注)がその連邦平均値の92%を下回る州に対して、92%に達するまで配分される。なお、付加価値税の残りの部分は人口数で各州に按分される。
(注 )ここでの州税収とは付加価値税を除いた共有税取得分および自動車税などの州税等である。

ii

 州相互間での調整(水平的調整)
 人口一人当り財政力
(注)の強い州から弱い州へと調整交付金が交付される。この調整の結果、財政力の弱い州でも、人口一人当り財政力がその連邦平均値の95%まで引き上げられる。なお、州の人口数は州内の市町村人口数の合計であるが、人口規模が大きい市町村(また人口密度が高い市町村)の人口は割増補正されたものが用いられている。
(注 )ここでの財政力とは付加価値税の配分を含む共有税の州取得分及び州税の全額に市町村税収の1/2などを足したものである。

iii

 連邦補充交付金(垂直的調整)
 上記の水平的調整の後、連邦から州に対して連邦補充交付金が交付される。その一つである不足額補充交付金により、さらに連邦平均の99.5%まで上記の人口一人当り財政力が引き上げられる(注1)

 旧西独地域州の実際の人口一人当り歳入(注2)で見ても、上記の財政調整により人口一人当り歳入水準はほぼ均等化されていることが確認できる(図2参照)。
(注1 )その他の連邦補充交付金として、旧東独向けの交付金や特定州に対する財政再建のための交付金などがある。
(注2 )人口は、人口規模が大きい市町村に対する割増補正を行なわない実際の人口を用いている。また、市町村税収の1/2を含まない実際の州の歳入である。


3.【フランス】

(1

) 地方税制度
 フランスでは、地方歳入に占める地方税収の割合は5割程度
(注1)となっている。地方税収の内訳をみると、資産等に対する課税である主要4税(住居税、既建築地不動産税、未建築地不動産税、職業税(注2))が3/4と高い割合を占めている。
 また、課税自主権の活用により税率格差が生じており、例えば住居税の税率は最小で
17.7%、最大で31.1%となっている(注3)。なお、事業者に対する安易な増税を防止する観点から、主要4税の税率の不均等な変更(住居税を増税せずに職業税を増税する等)が制限されている。
(注1 )国は、地方税の減税等について補填措置を行なっているが、これが含まれている。
(注2 )事業者に対し、有形固定資産等の賃貸価格および支払給与を課税標準として課される。なお、支払給与部分は2003年以降完全廃止される。
(注3 )全地方自治体の平均税率を州ベースでみた数値である。

(2

) 財政調整制度
 財政調整制度としては、多数の一般交付金が存在し、複雑な体系となっている。主なものとしては、かつての地方税が交付金化した「経常総合交付金」、地方自治体の公共投資にかかる付加価値税の還付的性格を有する「付加価値税補償基金」、特定補助を統合した「公共事業総合交付金」、地方分権に伴い財源移譲された「地方分権総合交付金」がある。
 一般交付金の多くはマクロ経済指標の伸び率に連動して総額の伸びが決定されている。交付金の配分方式としては、全国平均税率を適用した場合の各自治体の住民一人当りの主要4税税収額である「一人当り財政力」や、各自治体が住居税等の家計に対する課税をどの程度行なっているかを示す「財政努力」等の指標が用いられている。また、道路延長等の歳出面の指標も用いられている。いずれにせよ、地方の歳出水準と歳入水準の差額を補填する方式は採られておらず、また、税収格差を完全に均等化するものでもない。
 財政調整の状況について、一人当り税収上位県と下位県を比較すると、その格差は縮小するものの完全な均等化はされていない(図3参照)。
 なお、金額は少ないが、事業者に対する課税である職業税に関する地方間の水平的財政調整制度も存在する。


4.【アメリカ】

(1

) 地方税制度
 税収は州の歳入の4割、地方政府(カウンティー等の地方公共団体)の歳入の1/3を占める。州は小売売上税(州税収の1/3)および個人所得税(同1/3)、地方政府は財産税(地方政府税収の7割)が主な税目である。
 各州はそれぞれ課税権を有しており、連邦による制限はなく、租税制度も州によって異なる。一方、各州は州内の地方政府に対して税率などにつき制限を課している。

(2

) 連邦補助制度
 財政調整制度として、一般交付金制度は存在しない
(注)。一人当り税収上位州と下位州を比較すると、連邦補助金(特定補助金)の交付を行っても、一人当り税収上位州と下位州の一人当りの歳入格差はほとんど縮小していない(図4参照)。
(注)一般交付金制度は、1986年に廃止されている。


(参考)各国の財政調整の状況

図1 イギリス(1999年)

図2 ドイツ(旧西独地域州)(1998年)

図3 フランス(1997年)

図4 アメリカ(1996年)

(参考)日本(1998年度)



研究体制および執筆担当者(主要国の地方税財政制度)


柴田 敬司


 財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官(総括、フランス)

近藤 賢治

 財務省財務総合政策研究所研究部研究員(イギリス)

大和田雅英

 財務省財務総合政策研究所研究部研究員(ドイツ)

美作 達郎

 財務省財務総合政策研究所研究部研究員(フランス)

江南 喜成

 財務省財務総合政策研究所研究部研究員(アメリカ)



本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。
 




主要国の地方税財政制度調査報告書
 

 

 

主要国の地方税財政制度の概要(PDF:761KB)PDF

 

主要国の地方税財政制度
1.はじめに、執筆担当者等(PDF:50KB)PDF
2.イギリス−1(PDF:69KB)PDF
3.イギリス−2(PDF:937KB)PDF
4.ドイツ(PDF:845KB)PDF
5.フランス−1(PDF:933KB)PDF
6.フランス−2(PDF:903KB)PDF
7.アメリカ(PDF:1250KB)PDF
8.4ヶ国対照表(PDF:155KB)PDF

 

なお、本報告書の内容や意見は全て執筆者個人に属し、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

 

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