財務総合政策研究所

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2.第二回研究会(11月13日)

(1)国別報告「台湾」

青山学院大学経済学部助教授
    深川 由起子

[1] 危機連鎖回避の背景

 (A)異なる経済基礎条件

 韓国がIMF支援を受ける見通しとなった昨年の秋くらいには、台湾もかなりのアタックを受け、通貨あるいは株式とも大きく下落した。国ではない台湾がもしIMFの支援を要請したら、国際社会は韓国よりももっと困っただろうと思うが、幸いにして、ファンダメンタルズは安定しており、そういうトラブルに巻き込まれずにすんだ。最近になって、ファンダメンタルズとは関係なく起きてしまうのだ、という議論もあるが、少なくともファンダメンタルズで見ると、台湾は圧倒的に安定していたということがまず言えると思う。


 (a) 恒常的な経常収支黒字

 “国際収支ライフサイクル論”からみると、台湾の国際収支の黒字化、黒字の定着、資本輸出国への展開というパターンは、大変日本と似ている。一方、韓国は、全く違う展開をしていた。

 “国際収支発展段階説”は、開発の過程で一国の経常収支及び国際収支全体がどのように変わっていくかを見たもので、要するに、最初の非常に未成熟な発展段階では、貿易収支、経常収支、さらに投資収支も赤字で、長期資本収支でそれを埋めるというパターンである。次第に、発展が進むにつれて、まず貿易収支が黒字化し、さらに中間財や耐久財の国産化が進展すると輸入圧力が減って、経常収支も黒字となる。さらに外貨が積み上がっていくと、為替レートが上昇して資本輸出国となる。やがて成熟していくと、自分の国の成長率は鈍化していき、輸入が増えて、貿易収支はまた赤字となる。しかし、経常収支と投資収支はプラスのままが続く。やがて、国が非常に成熟すると、国内でも高齢化等が進み、競争力は落ち、為替レートも下落し、貿易収支・経常収支とも赤字になるが、今度は投資収益と長期資本収支、いわゆる自分の蓄えを取り崩して食っていく国になる。

 これは、昔、日本でもよく使われた議論だと思うが、台湾を見ると、特に韓国と比べた場合、非常に早く貿易収支の黒字が定着し、それに引きずられる形で経常収支黒字も70年代から定着をしていった。80年代の半ばには外貨準備は大きく増え、それによって資本輸出国に転換していくというパターンをたどった。そして、このパターンは、日本と同じようなパターンである。つまり、あるところまで貿易収支・経常収支とも少し赤字になったり黒字になったりという状況は続くが、ある時期を越えると、黒字が定着してきて、いわゆる国際収支の天井というのが外れていくという姿が、非常によく似たパターンである。

 ところが、一方、破綻した韓国の方は、そもそも経常収支が本格的な黒字を計上したのは1986年〜89年までのわずか4年にすぎない。その前に、貿易収支が黒字化していく時期というのが84年〜86年まであったが、これは専ら原材料輸入の面で原油の輸入が減ったために、実現したという側面が強くて、輸出の伸び率が84年〜85年に高かったわけではない。このわずか86年〜89年の経常収支黒字の時期を過ぎると、また1990年からは経常収支は赤字に転じており、──それ以来 93年に一度、経常収支はまた黒字に戻ったが──赤字が大きくなって、タイやインドネシアと同じように96年には最大の経常収支赤字を計上するというパターンになっていった。つまり、台湾が非常に着実に黒字を維持できたのに対し、韓国はできなかったということであった。


 (b) 縮小するも依然高水準の外貨準備

 また、外貨準備にも大きな差があり、台湾に比べて人口が2倍、GNPもはるかに大きい国でありながら、韓国はかなり少なかった。


 (c) 小バブル崩壊後の安定的回復

 さらに台湾は豊富な外貨に加え小バブルとも言えるものが、94年、95年に発生をしており、株価がかなり上がり、台湾人自らが“カジノ”と呼ぶぐらいの時期というのがあったが、ただ、これは比較的早い時期につぶれており、それ故にタイ型の非常に急激なバブルの崩壊というものは避けられたということもあった。株価指数を見ると、94年末の6,251から、95年に5,544に落ち、96年が6,004、ここが台湾型ミニバブルのクララッシュの時期である。97年には、ほかのアジアの国が逆にバブルが崩壊していく中で、そのお金が一部台湾に回ったということもあると思うが、台湾の株式市場・不動産ともむしろ上げていたということがある。したがって、比較的早めに、しかも、小さな規模でバブル崩壊が起きたために、ほかの国が危なくなった段階ではもうかなりバランスを取り戻しつつあったという違いもあったと思う。


 (d) 円高好調時にも慎重な経済運営

 それから、もう一つ、恐らく違う点として、どの国も──韓国、インドネシア、タイ、マレーシア──94年、95年と円高の時期に、輸出等も大変好調だったので、非常に経済運営のアクセルを踏んでしまった点である。それが96年からの急激な円安から輸出が鈍化し……ということで危機になっていった。一方、台湾の場合は、比較的早く減速が始まり、それを財政で下支えするという内需主体の経済運営をやっていた。そもそも経常収支黒字国なので、別に人にお金を回してもらわなくても自分の国の中で十分回れば減速していくことはできるわけである。しかしながら、台湾は、優等生の経済パフォーマンスであるが、財政収支だけを見ると、ほかのアジア各国が財政がほぼ黒字化ないしはほぼ均衡であるのに対して、台湾の財政収支の赤字は、対GDP比で見ると、一時期は7%を超えており、他の国が外貨の取り入れで無理をしていたところを財政で支えていたという側面は、恐らくあったのだと思う。


 (e) 安定した物価動向

 もう一つは、タイでバブルが発生したり、インドネシアのように景気過熱の中でどうしても物価が上がりがちだったことに比べると、台湾の物価は、ここ長い間大変に安定をしている。むしろ、90年代の半ば以降は、景気の鎮静とともに、消費者物価は大きく下がっており、1%台の大変安定した動向で来ている。


(B) 慎重な金融自由化

 これらに加えて、今となっては幸いと言うべきであるが、台湾は非常に資本市場の開放には慎重な地域であった。アメリカからの圧力はあまり受けずにすんだ。台湾の直接投資の最大の担い手はアメリカであり、それから、アメリカも中国への配慮というのは当然あったので、ASEANや韓国に対する90年代に入ってからの強力な資本市場開放圧力というものが、台湾については比較的少なかった。韓国も、IMFに行く前は、短期の金融市場はほとんど開けていなかったが、台湾も同じように開けていなかった。それから、証券市場の外国人の枠についても、タイの水準以下の小さな枠でしかなかった。よって、そもそも入っている金額もそれほど大きくはなかったということから、一斉に引いてしまったとしても、それほどその衝撃というのは大きなものではなかったわけである。

(C)韓国に比べ安定した企業経営


 (a) 高い自己資本比率・流動性比率

 それから、当然のことながら、だんだん言い尽くされているが、韓国の企業、特に財閥系の大企業が大変借金に依存した経営を行っていたのに比べると、台湾の企業は、それほど危ない経営ではなかったと言われている。別に台湾の方が非常にコーポレート・ガバナンスが優れていたとか、あるいは非常に透明であったとは思わないが、ただ、国際金融上も非常に特殊な立場であり、IMF等も助けてくれるという保証はないので、慎重にやらざるを得ない。したがって、企業のレベルで見てもそう容易には借り入れをしないということがあったと思う。


 (b) 安定した固定長期適合率

 これを経企庁のアジア経済の資料で見ると、「各国の製造業財務状況」では、韓国は、流動比率は100を割っており、固定長期適合率は逆に100を超えていて、かなり自転車操業的な側面があったと思う。一方、台湾の自己資本比率は韓国よりは相当高いわけで、比較的安定した企業運営をやっていたと言えると思う。


 (c) 低い金利コスト

 それから、特に、利払い費用対総資本比率は、韓国とは5.6とか5.5であり大変高い金融コストを払っているのに比べると、台湾も4.1まで上昇しているが韓国の水準までは上昇していない。


(D)米国経済との強い連動

 4番目の点として、台湾は非常にアメリカ経済と強い連動にあった。非常に好調なアメリカ経済についていくことができた数少ないアジアの国であったということが、実態経済面であったと思う。

 台湾の産業高度化は90年代に入ってからは、ほとんどが情報通信、コンピュータ周辺機器が担ってきており、これはまさにシリコンバレーとくっつく形で成長できたわけである。これは韓国が、あくまでも日本の後追いをして、その結果、円とドルの非常に激しい変動に振り回されて、円高のときには競争力はつくが、円安になると一気に非常に苦しい立場になってしまうというのと大変対照的な経済運営であったと思う。


 (a) 97年輸出

 97年の輸出を見ると、台湾の対アメリカ向け輸出は24.2%と大変大きなシェアを占めており、一方、韓国は、15.9%しかなく、実に輸出の40%近くがアジアに行っていた。したがって、韓国はアジアの危機に直撃される形になったということがあった。


 (b) リーディングセクターとしての情報通信産業の存在

 台湾は、リーディングセクターが非常に明確であったということもあって、97年の生産は全般に好調で、特に情報通信系の企業というのは大変業績もよかった。特に顕著なパターンとして、例えば、エイサーのような会社がテキサスインスツルメントのパソコン部門を買収したり、また、ハードからソフトへの展開が大変急ピッチで進んでいる等、電子取引の中核企業を自ら育てていくということをやっていた。


[2] 安定した経済パフォーマンス

(A)直接金融中心の調整

 なぜ台湾がこういう素早い対応ができたかというと、民間企業が中小企業主体で、銀行や公的支援をほとんど期待できないので自分の才覚だけでやらざるを得ないという状況が基本としてあった。これは、常に政府が最後は救ってくれた韓国のジェボルとは大きな違いであったと思う。それから、ハイテク系のベンチャー企業は、シリコンバレーと同じような手法で、むしろ銀行の融資よりは非常にスピード経営の期待できる直接金融の方に熱心だった。証券市場では非常に短期で特に先取りした評価というのを企業に突きつけてくるので、企業はそれを受けながら、95年に株価が調整局面に入ると調整を先取りしてくることができたであろう。その反面、台湾の公営企業は、国民党筋金入りの公的金融というのがしっかり支えているので、決して効率がいいとは言えないが、幸いにして、あまりにも民間の中小のハイテク産業が急速に育ったために、この公営企業の比重が小さくなりお荷物にならなくなっていたという運のよさがあったと思う。

 興味深いことは、95年からの局面で台湾の企業は、アジアのレベルとしてはかなり急ピッチに株価が示す調整を雇用調整によって実現してきている。このため、雇用調整が始まったことを示すものとして失業率は、実は優等生なパフォーマンスの中で結構大きくなった時期というのがある。

 台湾全体では97年には2.7%、98年には2.4%と低い数字となっているが、97年の都市部の失業率は4.5%で、台湾としてはかなり高い水準となっており、アメリカ型の雇用調整を中心とした調整をやってきたと言える。

 それから、外貨を使い果たしてしまうようなことがなく危機を乗り切れた1つの理由としては、台湾の持っている外貨を使って台湾ドルを防衛するということを放棄したということがある。別に対外債務があるわけでもなく、むしろ金利を引き上げることによって株価が落ちる、あるいは企業がつぶれてしまうというインパクトの方が大きいと、恐らく台湾の当局は考えたのだと思う。通貨が下がったとしても、輸出主導型の産業構造であり、輸出が伸びてくれれば特に問題があるわけではない。結局、台湾ドル防衛をあっさりとあきらめたということがあったと思う。


(B)明確な産業構造高度化方向と直接投資流入

 その次は、産業構造高度化の方向が極めてはっきりしていたことから、台湾はアジアの中では例外的に97年の外国人投資が最高を記録するというほど、直接投資は好調に入っていた。その点も、コンフィデンスという意味では役に立っていたと思う。


(C)98年も堅調ながら成長には陰り

 では、98年及び99年の経済についてであるが、非常に安定的なパフォーマンスは示してはいるものの、台湾にとっても、アメリカ以外のアジアのマーケットはかなり大きなものであるし、特に香港への依存度が、中国への再輸出という意味で大きかった。このため、香港の厳しい状況というのを受けて、98年の実質成長率は年初見込みで6.0だったものが5.3%へと0.7%ぐらい引き下げられてきており、このため金利を下げる方向でこの秋からは動いてきている。一部、工業生産などはまだもっているので、それほど大きな懸念にはなっていない。ただ、輸出はやはりアジアを中心に陰りが出てきており、今年の1〜8月の輸出はマイナスであった。台湾にとってはここしばらく輸出がマイナスになるということは全くなかったので、やはり影響は受け始めているということだと思う。

 台湾とか韓国の場合には、よくアメリカ人が指摘するように、中国が切り下げたらどうかという話があったとしても、産業構造は中国とはほとんど競合していないので大丈夫である。ただ、中国が減速する、あるいは東南アジアが減速してくる中で、台湾のポジションというのはそのレベルは違うが非常に日本と似て、アジア域内の中では最終製品・組立て製品の供給者であるというより、むしろ中間財・資本財の供給者なわけである。そうすると、東南アジアや中国で設備投資が落ちてしまうと、台湾の輸出というのは落ちてしまうわけで、まさにそうした影響を受ける形になってきている。

 それから、直接投資も、国内の景気はやや落ちてきているので、今年の上半期については、去年の反動という面もあると思うが、それほど大きな伸びにはなっていない。ただ、英領中米諸国からの金融業投資が非常に大きくなっており、これは、台湾も多分耐えきれずに金融業を開放するであろうとみて、カリブ海の方に進出している金融機関の投資というものが一部出てきているようである。

 以上、全体として、輸出が陰ってきたり、成長率が落ちたりはしているが、来年については、消費者物価も安定しており、まだ利下げをする余地は十分あるし、アジア全体が今年のような非常なショック感から抜け出れば、台湾にとっては極度の落ち込みというのは多分ないのではないかと思う。


[3] 華人マネーとしての地域還流

 ただ、台湾にとっては、中国が来年持ちこたえるかということは当然、大きな1つの関心事になってくる。このアジアの地域の中で今台湾マネーが示している求心力、華人の中で維持してきている求心力というのは、やはりあると思う。その1つは、東南アジアが危機に陥り、台湾は外貨がたくさんあるので、すぐ98年の3月には、東南アジア経済協力強化アクションプランというのが発表された。この目的は基本的には、東南アジアの金融再編に乗じて東南アジアの金融機関を買収していくこと、そして、台湾企業もたくさんASEANに製造業等でも進出しているので、この台湾系企業への貸し渋りを防止するために台湾も資金を出していくことの2つであった。輸出入銀行が機械類の輸出入について、台湾系の企業についてローンを拡大していくとか、他にも華僑信用保険基金が保険信用機能の強化ということで増資をする。さらにはASEAN各国の中央銀行との間でRP協定等も結んでいくということが発表された。

 その一方、香港へも台湾マネーとがしばらく流れており、最近出た「アジア危機と華人ネットワーク」という本の中で、中華マネー対ヘッジファンドの香港での戦いに台湾も参入するという話が出ている。

 日系の現地法人も台湾系の資本が買っており、記者発表などを見ると、華人マネーの拠点としての香港は死守するというのを非常に強調している。政治的には台湾と中国の関係というのは大変微妙であるが、一番自由で一番何でもできる華人拠点は絶対に守るという意味では、台湾もやはり中国に協力していくという、非常におもしろい流れがあったと思う。これまで台湾は、97年5月に中国に対する投資に歯止めをかける措置というのを出しており、特に上場企業や大企業、あるいは巨額の投資インフラ部門については、中国にあまりお金が行かないようにしていたが、これを柔軟に運用して、少なくとも台湾の強さの源泉である中小企業については、中国に行くことを事実上黙認するという方針を確認したりした。次々とアジアが危機に陥っていく中で、華人マネーの求心力というのは働いているのではないかと思える動きはあったと思う。来年にかけても、まだ台湾の安定が極度に揺るがない限りは、恐らくこうした動きは続いていくのではないかと思う。

 最近の台湾資本の対東南アジア進出の例を見ると、まずバンコク銀行はタイのクラウン銀行であり、これに台湾系の企業が出資しているというのは、一番いいところを押さえたいというのはもちろんあるわけである。その他では、証券会社や、投資公司など、どちらかというと投資銀行業務のようなことをねらうところに台湾の資本は出て行っているということが言えると思う。

 アジア全体としては決して貯蓄率が低いわけではないが、域内で凍りついているところはあるので、こういう旺盛な台湾マネーが、IMFの支援等を受けた国に対しても、外資の先駆けのお金として入っていけば、かなり潤滑油としての役割を果たしていくのではないか考える。




(2)国別報告「韓国」

青山学院大学経済学部助教授
    深川 由起子

[1] 本格化した構造調整

 韓国は、金大中政権が誕生した今年2月末、構造調整への取組みが、かなり急ピッチで進んできたと思う。最近の状況を、一言でいうと、マイクロでは依然として厳しく、不良債権問題が依然としてあるが、マクロ全体としてはやや上向いてきている。一時のような緊張感というのは、少なくともかなりなくなっているということができる。特に、IMFのコンディショナリティに従って当初、大変厳しい金利引上げをし、去年の末には3年満期の社債金利が29%まで上昇したが、その後、金利下げのIMFとの合意ができ、急ピッチで金利は下げてきており、今では金利は10%まで一気に下がってきた。コール金利についても、一時、31%程度まで上昇したが、今では7%くらいに低下している。金利を下げても、比較的順調に外貨は積み上がってきており、通貨も非常に安定し ており、1,300ウォン台で推移する状況が既に半年以上続いている。外貨は10月末で452億7,000万ドル、これはIMF支援を受けたときが38億ドルであったので、1年に満たない間に外貨は積み上がってきたことになる。

 そういう対外状況の好転に加えて、一時期非常に萎縮していた国内の生産活動もここに来て、やや良くなってきている。製造業の稼働率は、ここしばらく60%台で低迷していたが、9月には70%を超えた。また、製造業の出荷の伸びは依然としてまだマイナスだが、それでもマイナス2.9%とマイナスが小幅にはなってきている。卸売、小売りについても、相変わらず2桁のマイナスではあるが、マイナス幅が縮まってきている。

 それから、倒産は、97年から98年の初めにかけては、毎月3,000件以上あったが、金利引下げもあって、8月には1,337社、約半分以下にまで減ってきた。特に先月は、倒産する企業は依然としてあるが、新規の法人設立数は始めて上向いてきており、こういうのことから、経済は少しよくなっているのではないかということが言われ始めている。

 その要因としては、当然、韓国自身が構造調整をそれなりにやってきているということのほかに、ここへ来て、少し円高に振れてきたということが大変大きい。韓国は、中国よりも、ASEANよりも、日本と競合しており、円が10%ぐらい切り上がると韓国の経常収支というのは30億ドルぐらいプラスになる。不良債権が一体いくらぐらいで底を打つかという問題が依然としてのしかかっている以上、こうした楽観的な経済指標がそのまま続くとは思わないが、少なくとも、この1年を通してみると、何をやろうとしているかという輪郭はかなりはっきりしてきたというふうには言える。


(A)金融部門;比較的迅速な金融再編

 金融部門については、6月以降、BIS規制を基準にして、つぶさなければいけないところは強制合併をさせ、条件付きでしばらく銀行業をやっていてもいいというところについても、まだ強制合併をさせる形で整理をしてきている。それから、韓国の破綻の最大の要因になった総合金融会社(ノンバンク)については30社が既に14社まで清算はされてきているということで、かなり急ピッチに進んできたと思う。証券会社や生命保険会社についても同じように一定の基準を決めて、少し努力すれば守れるところについては猶予する。そして、その期間内に経営改善計画を金融監督委員会に納得させられなければ処置を受ける。しかし、納得させることができれば、また猶予してもらえる、ということを続けながらある程度のメドはついてきたと思う。

 ただ、金融部門については、起亜自動車等の非常に大きな不良債権を抱えている。また、すでに債務超過となっている第一銀行とソウル銀行の処理というのが少し遅れており、この2つのうち、少なくともどちらかが売却されるなりしてメドがたつということが大仕事として残っていると思う。

 金融部門は輪郭がはっきりしているが、そもそも非常に強力に大蔵省が統制していたわけであり、頭取の人事に至るまで全部政府が決めていたわけであるので、政府が金融機関等を合併させたり、清算させたりしても誰も文句は言わない。そして、最後の中核として問題となっているのは、5大財閥グループの不良債権処理の問題である。


(B)企業部門

 企業部門については、年初、政府と財界で5項目の合意をしていた。1つは、財閥グループの連結ベースでの財務諸表を作成すること、2つめは、財閥内では企業ごと、企業の間でお互いに相互債務支払い保証を行って借入を膨らませてきたが、それを縮小すること。3つめは、負債比率を少なくとも限られた間に下げていくこと。4つめは、経営責任の強化とか透明化ということで努力すること。そして5つめは、非常に多角化しているので大変短期間のうちに戦略事業を決め、絞り込んでバランスシートを改善することである。

 具体的にどういう方法でやっているかというと、まず、連結財務諸表については、これは年初に合意もしているし、誰もこれをノーとは言える立場にないので、企業も積極的には取り組んでいる。ただ、当初、IMFのコンディショナリティーの中には、世界5大会計事務所が担当するということが入っていたようだが、これは韓国の会計事務所ということで押し切ったということである。

 次に、系列企業間の債務保証の解消であるが、これは結構大きな問題である。そもそも銀行に審査能力がないから、お互いに、大きな会社なら大丈夫だろうということで保証していたと考えるべきか、相互債務保証をいつまでもやっているから銀行の審査能力が育たなかったと言うべきか、どちらかはわからないが、ただ、今の段階で一気に相互債務支払い保証をやめると、信用システムは崩れてしまう。いろいろな経緯の結果、今のところは、少なくとも全然関係ない業種間や、全然関係ない会社間での債務支払い保証はやめてもらうが、同じ系列間である程度まとまってこれが行われているのは仕方がない、という現実論で着地しつつある。

 3つめの負債比率の引下げについては、これも来年の末までにすべての30大グループが系列企業の負債比率を200%以下にするという非常に非現実的な要求がなされていた。今となってはそれも非常に無理であり、特に韓国の場合には、タイやインドネシアのように、不動産や証券にお金が回ってバブル的な様相というのはなかったので、まさにIMFの引締めによりものすごくリアルセクターの方に負担がかかってから株価が急落し、不動産価格が落ちるということが出てきた。したがって、今の状況の中で不動産を売ろうとしても、まず買い手もいないし、価格も非常に低いので、これも一気に200%以下に下げるというのは無理である。よって、少なくとも30大グループについては──実は30大グループと言っても、もはやグループとして体を成しているのは8つぐらいしか残っておらず、他グループは、和議申請とか法定管理の最中であり、グループとは言えないが──、少しオーバーしている企業があったとしても1グループ全体として200%以下に落とせばいい、ということで妥協ができた。

 4つめのコーポレート・ガバナンスについても、社外理事を入れるとか、これから大きな火種となると思うが少数株主の保護、これを非常に急速にやっている。これから恐らく、代表株主訴訟の嵐になっていくと思うが、これらを通したガバナンスをしていこうという動きがある。

 そして5つめのバランスシートの改善であり、問題の核心となる。30大グループのうち8グループを除いては、ほとんど経営が傾いており、どの企業をつぶして、どこを銀行が支援して生き返らせるか、こうした作業がずっと続いてきていた。韓国は日本と似たようなメインバンクシステムをとっていた。そして、メインバンクは、財閥グループの企業のうち支援していれば何とか残れるのではないかというところを選定して、だめなところは切り捨てていくという形で、ワークアウトプログラムというのをやっている。

 5大グループ以外の、つまり6位から64位までの殆どの企業グループが、そういう形でのプログラムをやっている。そして猶予期間が完了したものについては、ほとんどオーナー経営の家族たちが経営から追放され、そのかわり融資は続けるということで、所有と経営の分離が進みつつある。

 今後の焦点は、韓国で圧倒的な比重を持っている5大財閥グループの整理をどうやるかということだ。これは最初、政府が強制的にやるという形も検討されたりもしたが、一応、財界が財界内で話し合って「6業種構造調整」というのが10月8日に出て、さらに先週、細則というのがそれぞれ、5大財閥がメインバンクに対して提示されている。この細則の具体的な中身というのは、実は明らかにはされていない。石油化学や、精油とかについては、かなりはっきりした形で政府も、了解し、ほぼゴーになっている。しかし半導体などについては、現代とLGのそれぞれの半導体メーカーが合併することになっているが、互いに経営権を主張して譲らないので硬直状態が続いているというように、一部についてはまだ必ずしも決まってはいない。ただ、このところが非常にはっきりしないと、5大グループの抱えている不良債権が相当大きいものなので、メドがついたという印象を外国人の投資家に与えることはできないと思う。

 一番の懸案である韓国ナンバー2の自動車会社の起亜自動車、これはが9兆ウォン(9,000億円)ぐらいの負債がある会社であるが、これを現代グループが引き受けることについて、入札で決まった。そして、この負債をどのくらい政府が出資転換する、つまり銀行の投資の形にスワップするなり、継続して融資をするなりということが決まってくると、現代の資金繰りが決まり、現代がそれに沿って構造調整をすれば、ほかのグループも多分追随できるということで、目鼻はつきつつある。恐らく、まだ半導体等は決まっていないので、これについても具体的なメドは年内までかかるとは思う。

 こうしたことを進めてきて、構造調整の輪郭自身はだんだんはっきりはしてきているが、5大グループのスピードは遅くて、しかも、銀行をつぶして金融機関を整理すればするほど、まだキャピタル・フライト等が起きているような状況ではないので、お金はどこに行くかというと、5大グループの社債に回ってしまう。5大グループは社債でいくらでも調達できるからますます構造調整やりたくない、という悪循環にしばらくは陥っていたわけである。こうした状況は、根本的にそんなに変わったわけではないが、今後は政府がどこまで5大グループに圧力をかけられるかというのが、恐らく1つの中心点になってくると思う。

 また、構造調整を進めてはいるが、様々な問題点というのは依然として残っている。その1つは、そもそも銀行に審査能力がないからこうなってしまったわけであり、メインバンクを中心に企業をセレクトさせるといっても、実質に銀行にセレクトする能力があるかというと、あまりないわけである。とすると最後は、政治的に決めているところというのはかなり大きいわけで、そうすると結局、政府主導とどこが変わるのかという話がある。


(C)労働部門

 韓国で1つの懸念というのは、依然として労組問題にある。労組の方から考えると、さすがに何人かは経営者の座から追い出されたが、30大グループのうち22グループがほぼつぶれるような形になっても、ほとんどの家族たちは経営にしがみついている、全然責任をとっていない。30大グループに含まれていたハンボウグループという、韓国の破綻の最後の引き金になった融資疑獄を引き起こした大きな財閥グループであるが、このオーナーは、実はロサンゼルスに膨大な土地を所有して邸宅のような家に住んでいたというようなことがしばしば告発された。これを労働者からみると、自分たちはどんどん整理解雇され、悲惨な生活に追い込まれていく中で、その引き金を引いた人は脳天気にやっているじゃないか、という批判はものすごく強いわけである。そこに少数株主の代表訴訟権の権限とかを与えているから、懸念される点として、古典的な資本家対労働者の対立という感じになってきている。

 これから企業の整理、特に大きな企業を整理していく上では、例えば持株会社の許可問題等がでてくる。財閥の側からすると、今、クモの巣のようにからみあった相互債務保証をほどきながら負債比率を落としていくというのは非常に難しいので、持株会社をとにかく許可してくれれば、そこに全部ぶら下げて、そのかわり相互債務保証はなるべく切っていって、だめなものはどんどんあきらめていくというふうにしたいと言うわけであるが、持株会社を持たしたら財閥は何をするかわからないという市民団体の反対というのはものすごく強いので、なかなかこれが導入できないといったような膠着がいくつか既に出てきている。

 同じような点で、そもそも銀行に審査能力がないのはなぜかというと、銀行の持主は誰だかよくわからない。よく「主人がいない銀行」というふうに韓国では言われるが、今は金融業も全部外資に開放したので、外資は銀行をやれるが、韓国の企業なのに財閥というだけで自分は銀行を持てないのか、という不満というのは当然に財閥の側からは出てくる。しかし、財閥に銀行を持たせてしまうと、そもそも今回の破綻の原因になった相互金融会社というノンバンクをほとんどの財閥は持っていて、そこから野放図に資金調達したわけであり、今のまま財閥に持たせれば、コーポレート・ガバナンスがなく、ただ金融部門を持って膨れていくという形が起こり得てしまうので、ここに1つ大きなジレンマというのが出てきてしまうわけである。

 「韓国における株式所有の分布」をみると、基本的にはファミリーの持っている持分というのがかなり大きい国だった。80年代の50%以上をオーナーファミリーが持っているという状況からは機関投資家等のシェアは拡大しているので大分変わっているが、依然として個人、特に特殊な個人たちのシェアというのは非常に大きいわけである。もはや、財閥グループ全体でみると銀行よりも財閥の方が資産も大きく、非常に政治力も強いということになっているので、今のジレンマというのは、本当にガバナンスが効く金融企業のインターフェースをつくろうと思ったら、金融機関を全部外資に譲り渡すしかない。しかし、そこにはナショナリズムも介在しているので、そうすると今度は財閥とのジレンマが出てきてしまうという、非常に複雑な点がまだ残されている。

 特に、財閥が金融部門、マネーセンターバンクを持ってしまった場合には、既にノンバンク、証券、保険というのは持っているので、「金融システムはつぶせない=財閥はつぶせない」という世界になってしまう。むしろ、時代に逆行する形になってしまうので、ここをどういう形で決着をつけていくかということが構造調整の分かれ道になってくると思う。


[2] 今後の構造調整日程と問題点

 全体としてみると、短期で何をしなければいけないか。とりあえず、通貨も非常に不安定であり、外貨もなかったので、通貨を安定させ、外貨がある程度積み上がってくるというところまではうまくやってきたと思う。ただ、長期的な構造調整というのを極めて短期に、手さぐりの中でやってきているので、試行錯誤も多かったし、持株会社や金融機関の問題など、そのハードコアの部分というのは依然として残されているということがあると思う。

 また、これからやや懸念される点として、韓国の場合には短期の資金を、タイやインドネシアのように自分の国内に取り入れていたわけではない。1つは、財閥の海外の現地法人、ここが野放図に借りていた分というのが大変大きい。ここは財閥の経営と直結しているので、どのくらいこれを正直に政府に報告しているか大変疑問がある。それが韓国の不良債権が確定できない本当の理由の1つである。

 それとともに、韓国自身も、実は、債権者であるという非常に不安定な立場というのがある。野放図な借入をし、韓国内にお金を直に持ってくることに関して大変厳しい規制があったので、リスクの高い、したがって、非常に利鞘の稼げるロシア、ブラジル、インドネシア、タイに投資をしていたわけであり、この部分というのが結局、全部腐ってしまった形になっている。今後、例えばロシアが更に悪くなるとか、インドネシアがもっと状況が悪化して、一部にはインドネシア共和国の解体というところまで予想する人が出てくるような中でインドネシアの再建交渉がうまくいかないという場合には、依然として韓国への評価というのは厳しいまま推移する。つまり、自分だけ構造調整を一生懸命やれば、信用評価会社なども含めて許してもらえるかというと、そうでもないというところに、最後に多分、韓国の苦しさというのはあるのだと思う。


(3)質疑・討議


〔 北村次長 〕 特に韓国の構造的な話を興味深く聞いたが、韓国について、マクロの観点及びミクロ的な問題、台湾についてはミクロ的な問題、合計3つ質問する。

 まず、韓国では、通貨は安定し、外貨準備はある程度回復するという意味で、いわゆるマクロ経済的な観点からすれば、ある程度危機を脱出し、かなりいいパフォーマンスを示すに至っている。IMFとの関係で言えば、IMFの方は、いろいろな意味で、資金的な援助を更にしやすい立場、あるいは今までの条件を緩和していくという立場になりやすいと思う。しかし、そういうマクロ的なパフォーマンスを除いて考えると、今の報告のように、構造的には非常に大きな問題が長期にわたって残っている。こうした韓国とIMFとの関係を考える場合に、深川委員からみて、IMFが構造的なところまで絞り込むのを潔癖に、あるいは厳しく問題追求していったら、多分、なかなかIMFの関係というのは難しいと思うが、ある程度のところで割り切らざるを得ないという感じがするが、IMFとの関係で、IMFがどこまで注文を出して、ここから先は韓国経済に任せるのだ、という仕切りについての考えを持っていたら、聞きたい。

 次に、韓国のミクロの問題であるが、先ほどメインバンクという言葉を使ったが、同時に、韓国では財閥が金融機関を持っているわけで、そういう意味では、日本で言うメインバンクと韓国で言うメインバンクとは相当違うと理解せざるを得ない。その場合に、韓国のメインバンクの機能というのは、多分、銀行が自主的に判断して融資するという意味でのメインバンクではなくて、政府なり、中央銀行なりが一定の産業政策なり経済政策の下で融資の方向を決めるという意味のメインバンクと解さざるを得ないと思うが、その点についてはどう思うかというのが第2である。

 台湾については、台湾マネーというものを、東南アジアあるいは東アジア、華僑資本という文脈の中で考えた場合に、例えばマレーシア、インドネシア、タイ等で華僑の資本というのは一定のビジネスの基盤というものをそれぞれの経済にもって、なおかつ国際的に人的ネットワークでいろいろな業務を展開している。しかし、そこには非常にファミリーという要素が大きく働いているのは、華僑資本の1つの特徴であると思う。そういう観点からすると、台湾マネーというものは、そういう意味での華僑資本と同じような行動パターンなのか、あるいはいわゆる華僑資本とは違った形で、独自の動きで東南アジア等で動いているのだろうかという点である。

 その3点についてお伺いしたいと思います。


〔 斉藤委員 〕 深川委員の報告、非常に的確に要点を掴んでおり、またちくりちくりとIMFについてもメンションしていただいたわけであるが、我々の立場からみると、まず、為替市場、金融市場の安定というのが第1目標であった。現在の韓国の情勢について見れば、これは一応達成された。それから、銀行制度の改革についても、問題銀行の、まずはアイデンティフィケーション、次にそれに対する対処というのも、今、合併交渉等がまさに進んでいるところであるから、来年の6月ごろまでには、新しい韓国の銀行の形が明瞭な形で浮かび上がるという意味では進歩があるというのが我々の認識だ。深川委員の認識もそういうことだと思う。

 これが現状認識であるが、この段階で韓国の当面する問題点として3つぐらいある。深川委員も述べたことであるが、IMFの立場からちょっとまとめてみる。まず第1は、銀行改革について、新しい銀行制度のフレームワークができ、その方向に進んでいる。ただ、その過程で不良資産を、韓国アセット・マネージメント・コーポレーション(KAMCO)なるものがずいぶん買い込んでいるわけであるが、これをいずれは市場を通じて処分しなければいけない。あまりいつまでも抱え込んでいると、不動産市場がいつまで立っても底を打たない。だから、これを処分することが次の段階である。また、KAMCOについても、デボジット・インシュアランスの方も、いずれも国の保証付き、金利補助付きで、市中から資金調達しているから、資産の処分、あるいは新しい銀行がうまくやって、相当の株価で民営化して、国がその資金を取り戻さなければいけない、これが次のステップであり、銀行改革についての次の問題点である。

 第2の問題点は、委員もずいぶん強調されたが、銀行改革と同時に、民間企業の債務の整理が必要である。つまり債務のリスケと債務減免である。これは国が介入すべき問題ではなくて、再生した銀行が中心になって、それこそメインバンク等がそうしたグループを作って整理していかなければいけない。この整理がない限り、リアルセクターの経済回復は難しいというのが我々の認識で、ここのところを委員も強調したし、我々のミッションも大いに強調している。

 第3の問題点は、これは半分は委員の意見を聞きたかったが、建前と現実の兼合いで、非常に苦しいところがある。銀行改革の1つの要素は、審査部門を強くすることである。今までのような野放図な、あるいは個人的、家族的ベースで、社長の親類、友だちに無条件に金を貸す、そういう審査形態はおかしい。だから、もっとリスクアセスメントをきちんとやって、新しい経営をしなければいけない、と一方で言っているわけである。しかし、それをやれば、当然、貸し渋りになり、銀行セクター全体の信用供給量も減って、不況になるという問題がある。そこで、それの打開策として政府は、銀行を集めて、中小企業を中心にして、あるいは輸出企業を中心にして、もっと融資をせよということも一方で言っているわけである。このあたりは若干矛盾しており、来年景気がよくなるにつれて、何となくうやむやな形で終わっていくような気がするが、委員はどうみているか、ぜひ聞きたい。


〔 深川委員 〕 私は、実は、韓国におけるIMFの立場には、意外と同情的である。どうしてかというと、実は、IMFがあれだけ立ち入ったコンディショナリティをつけた1つの原因というのは、韓国の官僚たちが自ら、うちはIMFをバックにこれをやらない限りは一生できないから、今回を契機に必ずやるという人たちがいた。韓国人が自ら言ってきたから、IMFも「じゃあ、そう言うのだったら」……ということに多分なったと思うので、それが今さら「できないから」といって、すべてIMFを悪者にするのもちょっとかわいそうかなと実は思っている。

 韓国の構造改革派、自由改革派の役人の欠点の1つというのは、基本的に財閥は卑しくて汚い連中であり、この人たちを何とかしなければいけないという、非常に道徳的発想というのがある。しかし、韓国を代表する会社は皆、財閥に属しているから、これをつぶすと韓国経済も成り立たないし、中小企業も真っ先につぶれるというジレンマがある。非常に実務者の発想というのが乏しいから、どうしても理想主義に走ってやってくる過程での試行錯誤というのは相当あったと思うので、そこが、IMFがわかりもしないのにいろいろ口出しをしてきて、その結果おかしくなったというふうにすり替えられている懸念というのはある。ただ、今になってみると、あそこまでの高金利、あそこまでの引締めが去年の時点で必要だったか、とかいう議論は多分あると思う。しかし、その後、非常に急ピッチで緩めてきたが、為替は全然ブレていない。結果としてみるとちょっと冷え過ぎであったのではないかというのはあると思うが、その構造改革をIMFはどれだけ細かく言うべきであったかという話は、ちょっと留保があると思う。

 もう一つは、韓国の闇の深さというのはとてつもなく深くて、つまり、もう一つの財閥が存在するということと双子の闇の深さであるが、闇金融と訣別できない体質というのがある。なぜ韓国はこんなに莫大な対外債務になってしまったかというと、金融実名制を導入して、とにかくきれいな金融市場にしないと国際競争にもたないという意識があって、グリーンカードを導入した。そうすると、巨額の資金が国内で凍ってしまったので、これをどうにか動かすために、その巨額の資金を握る人たちに、規制緩和の名を借りて、海外業務を自由化して好きにやらせたというのが、実は理由の1つだと思う。そうしますと、闇と戦うために、今度は自分の国が滅んでしまうという非常に難しい問題というのがあるわけである。ですから、外から借りて外に投資していた分が、なぜあんなに当局が全く把握できていなかったのか。外だから見えにくいというのはもちろんあるが、それは何らかの政治的な理由で報告がなされていなかった。それで、把握する気力もなかった、という問題というのが多分あったように思う。そこは12月の公聴会で多分いろいろ出てくる可能性はあるが、突き詰めていくと、本当に政治家のうちどれだけの人がそこに絡んでいないのかというほど、もう闇は深いので、どこかで妥協するしかないのである。

 ただ、今の奇妙なねじれというのは依然として続いており、IMFが言ったとおり、どんどん表の金融を整理していく、信用システムは麻痺しているから、誰が一番確実かというと、闇が一番確実となる。闇の仲間というのは、絶対に裏切りません。裏切ったら最後、命が危ないので。結局、闇がまた復活してしまうという、財閥ともジレンマがあるが、闇金融とのジレンマというのは、韓国の金融近代化には依然としてついて回っているというのが、IMFがこれ以上突っ込めない闇の深い世界として1つ指摘しておきたいと思う。

 それから、メインバンクについては指摘のとおりで、韓国のメインバンクというのは、メインバンクという言葉を本来使わない方がいいと思うが、日本のメインバンクのように、難しいときでも、長期的な視点から助けてあげますよというのではない。もちろん株を持ち合っているわけでもなくて、ひとえに政府が、メインバンクを通じて財閥を抑えていないとどんどん大きくなってしまうので、無理やり抑えるための窓口として近年は使ってきたということが理由である。従って、審査はやっていない。せいぜい、「これ以上はやめろ」というオーダーを出すだけの審査しかやったことはないということがあるので、韓国で言われる官治金融 官僚が治めることによって硬直化した金融というのは、まさにそれ故に生まれてきたものである。

 ただ、このところは今回は、銀行の頭取も思い切って、全然知らない人を外から連れて来てやろうとしているので、その過程では、審査能力は依然としてないので混乱は生じると思うが、少なくとも、昔的な官治金融の体質というのは少しブレークスルーはできたと思う。

 それから、もう一つ台湾の話で華僑資本の話があったと思う。私は、台湾マネーがなぜ域内で重要かというのを考える場合に、日本や韓国の持っている国家資本主義的な体質、それから、果てどもなくファミリービジネスの東南アジア等の華人の体質、この真ん中を埋めてくれる体質というのを台湾は持っているのではないかと思う。

 華人のいわゆる華人ネットワークのファミリーで話がついていく世界だけだと、必ず、帳簿は1つではなくいくつもあるので、アングロアメリカン流の透明性なんて絶対期待しようがない。台湾マネーにも不透明なところというのはもちろんたくさんあるが、ただ、台湾の資本というのは、ファミリービジネスと、例えば銀行をもったときの比較的大きな会社のビジネスとは、そこそこ区分けはできつつあって、株主の意見というのも最近は結構うるさくなっている。それから、2代目のハイテクをやっている経営者というのは、考え方は全くシリコンバレーと同じで、株主をうまく説得して、いかに安く調達するかということしか考えないので、そういう意味では、既に市場にガバニングされている。

 それから、台湾の立場というのは、東南アジアに行こうが、中国に行こうが外国人である。そしてこれからは外国人として、ある程度自由にものを言える立場になっていくので、そこで彼らがわりと近代的になっていけば、ある種の非常に根なし草的な華人の企業たちと違ってどこかに定着する。台湾の場合は重化学工業を非常にやってきているから、わりと長期に資本を投下するという意味で産業資本のバックアップとして台湾マネーが重要なのではないか。今、全体として東南アジアは、特に、華人とのブミプトラの問題が出てきており、華人の立場というのは非常に微妙だと思うが、その2つだけが対立していると全く解決がない。しかし、台湾が一個真ん中にバッファーとして、よそ者として入ってくれると、何かいい解決法が出てくるのではというふうに最近では考えている。

 それから、斉藤委員の話は、私もそのとおりだと思うが、韓国では法的なスキームが整うのにすごい時間がかかった。証券化していく法的な枠組みというのは全然なかったので、それが整うまでにかなり時間を費やしてしまったということと、今までは、特に財閥系の企業については資産を売らずに、執着していたから、これをとにかく債権買取機構に持っていくまでに時間がかかった。しかし、もう何件か不良債権買取機構の資産を売るスキームというのが出ているし、多分、来年くらいになれば、さらに進んでいくだろうというふうには思う。

 もう一つは、多分、斉藤委員の指摘した「行き着くところ」というのは、金融不良債権の金額が今、政府系の金融機関でさえ120兆ウォン、民間の金融機関が大体200兆ウォンから300兆ウォン──これは、韓国の年間の予算が80兆ウォンに比しても、かなり大きい規模である── 、これをどうやっていくかと考えると、公的資金を相当突っ込まざるを得ない。そうすると、財政にものすごい負担がかかってくる。今、失業対策で財政へ圧力がかなりかかっているので、財政がもたないということになった場合に、またソブリンの格付がいつまでもたっても上がらない、外貨は積んでいくのだけれども格付は上がらないという状態の可能性はあるかもしれない。そこは、多分、ある程度日本にも期待が出てくる分なのかもしれないが、財政の問題があると思う。ただ、今年に関しては、政府は非常に強気で、税制改革をIMFの言うとおりやって、しっかり取ってみたら税収はたくさん上がってしまったので、今年は国債を出さないという、すごい強気な姿勢を示しているが、これは単に強気を示しているだけなのか、来年多分パニックになるから、それまでの分を取っているのかということがあると思う。

 ただ、今実施している公企業の民営化、ガス会社も、電気会社も、通信会社も、なりふり構わず売ろうとしているけれども、これに対する反応はわりといいので、これがスムーズに売れていって、あるいはニューヨークやロンドンでの上場で良いプライスが付けば、多分、何十億ドルかまた来年の頭に入ってくる。そこのタイミングで格付が上昇し、ジャンクから抜け出すことができれば、ようやく金は回り始める。こうした、ソブリンごとだめになっていくか、何となく不安ながらもジャンクから逃げさせるかという分岐点というのは、来年の頭くらいに来るのではないかと私は考えている。

 最後の話として、審査能力がないので、審査能力を発揮してやればやるほど貸し渋りとなり、結局状況は厳しくなる。というのは全くそのとおりだと思うが、ただ、9月〜10月に関してはやや良いニュースがあって、銀行は結構お金が溜まってきたので、優良の中小企業には今、お金が回り始めている。よく考えてみたら、全然情報公開しない財閥よりも、担保はないかもしれない、非常に不安はあるけれども、この商売しかやっていないという中小に貸した方が、今となっては少しはいいのではないかという動きが出てきていて、優良中小企業への資金というのは動き始めている。


〔 篠原委員 〕 IMFは、マクロ的に経常収支が改善して、為替が安定すれば、第一義的にはお願いしている役目は終わりではないのでは、という感じを私は持っている。

 韓国の場合、これまでの保守本流から、マイノリティの金大中に代わって政権の中枢を担う人たちも代わった。したがって、官僚群の中で「本当にこの国をどうしなければいけないかな」という人たちとともに、金大中に乗っかかってきていて、野放図に今やっていることを続けなければならない、それ以外の議論は耳を貸さないとい人たち、それから、これまでの慶尚道系の保守本流のように、「実はひどいことをやられている。」というような人たちもあり、やや複雑な感じがする。韓国の社会構造、経済構造等々を本当に良く動かしていくために、今の政権の人たちとIMFの役割を考えると、IMFを水戸黄門の印籠に使いながらやっていく方がはるかに効果的だなというところもあるのだろうとも思うが、深川委員の印象、感想を聞きたい。


〔 深川委員 〕 韓国の新聞に出ている話は、「我が国は、ついにIMFから経済運営自主権をかち取り、IMFが、あとはかなり韓国の好きなようにやっていいと言った」ということに勝手に解釈している。だから、そういう意味では、あまり慶尚道の人たちは、確かに反金大中として、金大中の印籠となっているIMF反対という側面はあったが、IMF攻撃というのはちょっと緩くなってきていると思う。

 ただ、指摘のように全羅道対慶尚道の仲の悪さというのは理性的なものではなく、大変感情的なものだから、経済政策という大変理性的なものをめぐって争っているとは、実は必ずしも言えなくて、完全に既得権者であり、改革者という色彩を帯びつつ、さらに感情がこじれつつ進んでいるわけである。非常にややこしいのは、その地域対立に加え、IMFの処方箋を受けたこれまでいろいろの国が苦しんできたように、どうしても、比較的金持ちに有利な政策になってしまうわけである。韓国は、インドネシアみたいに食料補助金を切ったりとかいうことはなかったが、整理解雇制の導入と、金利が高かったことによって金持ちは非常に優雅であり、我々は貧乏であるというのが鮮烈に出てきてしまった……。

 韓国に対してIMF以外に大きな発言力を持っているのはまさにウォールストリートである。早く人を切れ、果てどもなく切れ、と要請し、そうじゃないと、格付を上げてやらないぞ、と。だから、IMFがどんなに一生懸命に、「もう外貨はありますから」とか、「マクロバランスはよくなっていますから」と言ったって、ウォールの人たちが満足しない限り、民間主体の分の債務というのは格付が上がらないという苦しい立場がある。しかも、「韓国はマレーシアやタイとは違いOECDの加盟国である。もっとインターナショナルスタンダードでやれ」と。また、「それをやれば日本を一気に追いつき追い越せるかもしれないぞ」とか言って焚きつけるから、余計それを真に受ける人たちもいる。そして、切られる方は、切られる方で当然反対なわけであり、既得権者対改革者、全羅道対慶尚道という図式のほかに、さらに資本家、いわゆる持てる者対切られた者の所得格差をこれ以上拡大したくないというお互いの執着心というのは、非常に強いという側面もあり非常に複雑なっている。

 来年になると、金鐘泌に約束した話なので、金大中は、内閣制というのを検討しなければいけない。これは、少なくとも、韓国型のコアビタシォンで大統領が万権を握るのではなくて、首相に分権しろという話は必ず出てくる。そうすると、また反金大中派というのは、多分、そうした意見の人とくっつくこととなり政治的に不安定になってくる可能性がある。つまり、金大中政権のレイムドダック化というのは意外と早いかもしれない。そうすると、改革は中途半端なまま終わってしまうという可能性はある。

 ただ、さはさりながら、痩せても枯れても、無理してOECDに入ったのだというプライドだけが支えているので、政治を全部めちゃくちゃにして、全部崩壊してでもやり直すかというと、そこまでは誰も考えていない。だから、いかに政権が泥仕合になろうとも、それが経済政策を破壊させるところまで行くとは私は思わないが、政治的な駆け引きが長引き、例えば国会が長らく開けないとか──今年も既にずっと続いてきて、法処理が遅れたのはまさにそのためであるが──、そういうことが来年はかなり頻発してくる可能性がある。それは、1つ言えることだと思う。


〔 小川委員 〕 台湾が問題を起こさなかったということで、対外借入を増やさなかったという指摘をされたが、私もそのとおりだと思う。その対外借入を増やさなかった理由として、台湾はIMFとは関係がなくて、貸す方が、IMFは救わないだろう・救えないだろうということでリスクの意識があって……ということだが、それを裏返しすれば、ほかの国々は、IMFの存在がモラルハザードを起こしていたという話だと思う。私もいろいろとIMFの批判をするが、IMFの存在までを私は否定しようとは思ってない。ただIMFの存在によってモラルハザードを起こしていたということはあるかもしれない。台湾の問題として、今言った裏返しのことがあったのかということに、少し疑問がある。というのは、1つは、経常収支が黒字である。そういう意味で、基本的に対外借入を増やさなくてすむという問題があると思う。もう一つは、シンガポールでもそうだというふうに聞いているが、台湾でも、それほど急いで資本の自由化をしていなかった。慎重に自由化していたということですから、そういう意味では、私としては、タイとか、ほかの国に比べると、台湾あるいはシンガポールが慎重に資本自由化していったということがよくて、あるいは経常収支の問題がなかったということがよかったのではないかというふうに思うが、でも、モラルハザードが問題だということになれば、それを教えてもらいたい。

 もう一つは、韓国へのコンテージョンということに非常に関心があるが、例えば、タイで7月に起こったときに、韓国のレートを見ますと、10月〜11月にかけて下がってくる。では、韓国の金融の問題というのはいつからあったかというと、昔からあって、さらにはっきりしてくるのは去年の年初くらいからである。そうすると、どうしてこの10月あるいは11月という時期に韓国の切下げというか危機が起こってきたかというところが非常に関心があるので、そこを教えてもらいたい。


〔 深川委員 〕 まず、最初の質問については、別に、私は、IMFのモラルハザードだけを中心に述べたつもりはなかった。経常収支も黒字化したのは、ものすごく昔の話なので、非常に余裕があったということはもちろんあるが、ただ、今回悲惨な危機に陥った国というのは、みんな無理して成長を加速するか、あるいは成長を維持しようとするあまりに借り入れてしまったわけである。では、政策ポリシーメーカーが無理して、8%をずっと突っ走りたいという気持ちが台湾になかったかというと、多分あったと思う。ただ、現実的に考えてみると、うちは誰も助けてくれない。

 もう一つは、台湾が非常に慎重に自由化を進めてきた理由というのは、中国のお金が自分のところに入ってきてほしくない。これが、極めて特殊な理由としてあったと思う。だからこそ、証券投資とかポートフォリオなどはなるべく開けないかわりに、直接投資はものすごく開放的にやっていて、それも重点的にアメリカの多国籍企業を入れているわけである。それは極めて政治的な動きなので、やや台湾固有の事情というのは当然あったと思う。ただ、資本の自由化が慎重であった、経常収支が黒字であったというのが大きな理由であったということは、私も否定するわけではない。

 もう一つは、韓国のコンテージョンの問題であるが、大きく韓国を左右したのは、香港の金利の利上げだった。香港と台湾が、もしあそこで東南アジアから始まった危機を持ちこたえれば、韓国もあそこまで一気に崩れ去らなくてもすんだかもしれない。なぜかというと、韓国のオフショアでの調達というのはものすごく香港に集中していた。それから、日系であれ、欧系であれ、米系であれ、香港の当局が東南アジアに対する引当金をものすごく積めという要求を急激に出してきたというのも、ただでさえ、所詮は人のお金でぐるぐる回していただけの韓国で、しかも、自分の資金調達はすごい短期で長期に運用していたというめちゃくちゃな投資の仕方をしていたので、とても引当を積める余力などというのはなかった。自分の国内の預金自身も凍りついていたような状態の中では引当を積むなんて、もちろん無理だったわけである。香港のインパクトというのは、確かに韓国については、コンテージョンという意味ではすごく大きな役割を持っていたと思う。

 最近、韓国の学者が、それは結構イデオロギーが入っていると思うが、韓国がこうなったのは、確かに財閥も腐っていたけれども、ニューヨークとか香港を通じてコンテージョンとしてショックが来たという側面はかなり大きいという実証研究を出しているのがあるが、それなどを見ても、韓国の特徴として、外から内というよりも、外から外での焦げつきが非常に大きな意味を持っていたということは、実証されていたかと思う。


〔 篠原委員 〕 技術論的に、今の質問に対して僕の方から一言だけ述べると、アタックというのは為替市場でその国の通貨が売られるという格好で起きる。それが持ちこたえられなくなって、それに対して、介入等を行うが、基本的には介入資金が足りないというのでIMFに行くのが普通であるが、タイの場合でも、それからインドネシアもある程度そうだが、マレーシアなんかは典型的にそうなのだが、非居住者が海外で持っているその国の通貨の残高がかなりの量あったということが非常に大きい。つまり、その国の通貨をアタックするときに、投機家が作る投機ポジションというのは、タイバーツをアタックしようと思ったらタイバーツを借りる。そして、これをアウトライトで売りとばして、それでドルならドル、円なら円の資産にしておく。これが投機ポジションである。ということは、非居住者ないし投機をかける人が、その国の通貨の借入ポジションが作れるか作れないかがキーになってくる。このときに、そういうことができる管理法体系を持っていたのが、例えばタイとかインドネシアである。それから、投機ポジションを作ろうと思ったら作れるような海外にあるユーロ化された自国通貨ポジションがあったのがマレーシアである。

 そういう意味からすると、韓国は、実は韓国ウォンのユーロ化というのを非常に嫌がっていたから、海外の人が持っている韓国ウォンのバランスというのはほとんどなかった。それから、海外の人が韓国ウォンを借りて外に持っていくということが管理法上できなかった。したがって、テクニカルに、これは投機をやろうと思ってもできなかった。どこまでできなかったと言えば、アタックをする人がやっている金融仲介業そのものがおかしいのだから、したがって、お金を回すのをやめようよというところまで、そういうアタックはできなかったというふうに言えるだろうと思う。


〔 北村次長 〕 去年の後半の1つのムードとして、インドネシアに端的にあらわれたように、過度に構造問題というものがいろいろな意味で取り上げられたということで、結局、韓国でも、OECDに加盟する前後から労使問題とか財閥問題というふうな構造問題が指摘されていて、そういったリスクを見る目が非常に敏感というか、センシティブに構造問題の方に注がれたというふうな側面もあったのではなかろうかと思うが、これは斉藤委員の方の話かもしれないが、その点はどうか。


〔 斉藤委員 〕 去年の11月に何が起こったか、前後関係を考えてみたいと思うが、韓国ウォンが圧力を受けて、韓国の中央銀行が外貨をものすごく失ったというのは、11月の半ばの週である。11月12日から17日ぐらいまでの週です。それで、19日に大蔵大臣が辞められて、21日に新大臣がIMFへの要請をした。私の記憶が正しいと、香港の市場が荒れたのはその後である。ただ、その前の段階で、香港の銀行金利が上がっていたのかもしれないが、つまり、IMFのプログラムに構造政策が入ったから……というのは、大分後の話である。


〔 深川委員 〕 私の記憶では、多分、10月の時点では、香港当局はものすごい強力な圧力を既に邦銀・米銀にかけていて、韓国は、あっと言う間に干上がっていたと思う。

 もう一つは、実は、韓国が外貨預託金で嘘をついていたというのが、IMFに行ってから明らかになったが、それ以前に、97年の2月くらいに、もうノンバンクの資金は完全にショートしていて、韓国銀行はそれを支えるために外貨を使っていたような状況だった。ですから、10月、11月と表面的に見ると危機が一気に進んだように見えるが、危機自身は、97年の初頭から、実はタイでの表面化の前からノンバンクへのお金が回らなくなるという形で既に進んでいたのだと思う。


〔 斉藤委員 〕 まさに同感であり、韓国の危機は、もう1月ごろから始まっている。それで、財閥のうち少なくとも6つか10ぐらいの中小財閥がつぶれている。それがつぶれるものだから、銀行の不良資産が増えている。それで、いわゆる市場筋 (日本の銀行を含めて) は、韓国は危ないということでまずニューマネーが止まる、それから引当金を増やさなければならない、そういう状況だった。

 これが危機の原因であるから、その原因に注目しないと危機は解決できない。それに注目するということは、まさに銀行部門、それから財閥の構造改革なのである。したがって、IMFとしては避けて通ることができない、というのが我々の建前であり、また私自身も、それは非常に正しいと思う。


〔 下村委員 〕 台湾が今回あまりショックを受けなかった原因の1つとして、小バブルがあったということ、つまりバブルが小さくてすんだということがあるかと思うが、エマージングマーケットでは、いろいろな数字からみてお金がだぶついていたであろうと思われるのに、なぜそのバブルが小さくてすんだのかということである。

 90年代の初めに、いろいろな報道では台湾も、治安の悪化とかも含めて、社会現象としては先進国病が出ていたということがあるが、そういう社会的な緩みがあったのに、バブルが小さくてすんだという背景として、例えば2つぐらいが考えられると思う。1つは、官民ともに、金融機関も含めてガバナンスがよかった。あるいは、台湾が起こしたバブルは国内に向かわないで、華人マネーとしてASEANに向かって、そこでバブルを起こして、国内で起こさなかったということがあるのか。あるいは、全く違った理由でバブルが小さくてすんでしまったのか、その辺をお聞きしたい。


〔 深川委員 〕 そんなにガバナンスがよかったかどうかは、やや疑問ではないか。私は、むしろ、後者の方が大きかったと思う。台湾の直接投資の出方というのは急激であったので、特にミニバブルの前後でものすごく大きく東南アジア等には出て行った。その出て行き方も、中国に対する投資だとか、東南アジアに対する投資だとか、台湾当局が発表している数字と、受け入れ側から見る数字と全然違う数字が出ている。為替管理は厳しかったが、貿易を通して現地にちょっとずつ資本を蓄積していって、それを直接投資の形で工場にしたりとか、抜け道は非常にたくさんあった。当局も、自分の国でバブルを起こされるよりは、そうやって適当に不胎化してくれた方がいいというふうに考えていた節というのがあって、そこは台湾がすごくずるいのか、賢いのか、公企業にはものすごくうるさいですけれども、中小企業は一々みていられないという理屈で非常に自由にさせているというやり方でやってきたというのはあったように思う。

 ただ、台湾のお金が今度は、タイで不動産に回り、証券に回りといったかどうかは、もちろんよく区別ができないし、結構大きな直接投資、製造業の投資というのものすごく出ているので、必ずしも日本のように「アジアにバブルを輸出した」というところまで台湾が言えるかどうかというのは、ちょっと私にはわからない。


〔 北村次長 〕 台湾では借金体質というものは非常に少なくて、91、92、94年に株式市場・不動産に若干のバブルはあったのだと思う。そのときには、ある意味では自己資金の範囲内で投資を行っていたということで、バブルがつぶれたときにも、自己資金の範囲内で、それほど大きな問題にならなかった。先ほど、韓国と台湾の比較で述べたのは、その点もかなり重要ではないかという気がするが。


〔 深川委員 〕 韓国もそうやっていたが、どうしても韓国自身は伝統的にインフレ的なマクロの運営でしたから、時折不動産投機だけを取り締まったりしてみて、その結果、非常にゆがみが発生してしまったというのがあった。台湾の場合は、そもそもちょっとでも物価が上がったり、ちょっとでも過熱してきたりすると、すぐ金利を上げてしまい、韓国よりは、少なくともよっぽど慎重だった。

 それから、バブル的なものにお金が回ることに対しては、当局の指導は結構うるさくて、銀行はかなり厳しく言われていた。リゾート開発とか、いかにもバブルの固まりのようなものにダイレクトに銀行が貸すということはかなりうるさく見ていた。外資はとにかく来ないし、あと、自分の中でそうやって適当に引き締めていれば、そこまでバブルにはならなかったということはあったのではないかと思う。

 あとは、これはけがの功名としか言いようがないが、90年代に入ってから“大環境運動”というのが吹き荒れており、住民運動が激しくて、大きなゴルフ場開発とか、大きなリゾート開発をしようとすると、必ず「環境破壊」とかいってものすごくやられていたことから、結構それでブロックされた大きな案件というのが多かった。相対的に交渉したり、また住民たちにお金を払ったりすると、結構コストが高くなってしまうという側面もあって、これは全然関係ない要因なのだが、それが歯止めになった点というのは少しはあったと思う。韓国のように、芝生のために殺虫剤をばらまいてでも、どんどんゴルフ場をつくっていたという状態では、台湾はなかったと思う。


〔 後藤委員 〕 台湾と韓国で大きな違いというのは、企業ビヘイビアの違いだと思う。台湾の場合、企業の考え方、特にキャッシュフローという見方に対して、先ほど北村次長が述べたような部分(自己資金の範囲で投資)は、銀行からというよりは、枠組みのとしての法律上での厳しさがあったことで、キャッシュフローを重視して、台湾企業の企業活動を制約してきた。だから、オーナーといえども、韓国とは企業経営に対するインボルブの仕方にかなり差があった。台湾では、債務超過になった場合に、株主がそれを必ず補填しなければそれ以上拡大できないということになるので、キャッシュフローを重視しなければならないことになる。韓国のように、借入をすればそれで済むという話ではない。こういうことが台湾の経済の底支えになったのかと思う。華僑の中でもインドネシア、タイでは華僑のビヘイビア・金の入れ方に違いがあったと思う。

 それから、南に出て行ったというのは、台湾政府の政策として、対中投資とのバランスの中で南進政策というのを90年の初めから推進した。つまり、台湾政府としては中国に対する投資も黙認しながらも、対中投資に偏り過ぎることによる中国との関係を懸念して、特にフィリピンとかマレーシアに南進政策を行った。だから、マレーシアにおいては、一時は最大の投資国は台湾であった。それから、ベトナムに対する投資も大きく、そういう意味では、政府のたまたま対中との関係でとった政策が非常によかった。

 台湾の業者がベトナム等に行って多少不動産投資をしても、彼らの不動産投資というのは投機ではない。非常に早い時期にマンション等を建てて、売れたら、すぐ帰ってしまう。このような台湾のとってきた行動様式というのがうまくいったのかな、という部分があるような気がする。

 先ほど深川委員がおっしゃった銀行の問題で、韓国も過去、財閥が銀行を持っていて、それが経済活動を阻害するということで株を放出させられた。そして、今回の自由化論議の中で、国の外と内に対する制限が同じでなければおかしいではないかということで、もしまた財閥が銀行を持ったら過去と同じ道を歩むのではないか、という心配が、今の韓国経済の動きの中にあるという話があった。委員のおっしゃる来年の初めぐらいに、その見通しがつけば、我々も企業としては非常にうれしいけれども、言い切るにはちょっとこわいかなという部分があるが。

 それぞれの国の経済がどこで回復するか、少なくとも、経済成長がプラスにならないにしても、どこからかそのプラスの方向が見えるのかという判断するのが、来年はちょっと難しそうな気がしないでもない。


〔 小川委員 〕 先ほど、篠原委員から、外の人で韓国のウォンを持っている人がいないから投機アタックがかけられなかったという話があった。そうすると、短期の資金で回していたという韓国のそういう債務の構成というのが問題だったのかなと思う。そのときに、日銀の人から聞いた話で、東京のマネーマーケットでも、タイの銀行の支店がお金を取っていたということを聞いているので、そうするとこの11月に日本で何が起こっていたかということも考えると、因果関係はどうなっているかわからないが、そういうところもあるのかなと。そういう意味で、斉藤委員が、確かに構造的な問題はあると述べているが、どうしてこの11月かというときには、むしろ流動性危機のようなことが起こったのではないのかと。そして、その背景には構造問題というのがあった、というふうに私は思うが。


〔 深川委員 〕 まとめますと、韓国は、東南アジアとは違う理由で危機になった。だから、やはり違う構造改革をしなければいけない、ということではないか。

 財閥という非常に独特の産業組織が既に存在して、そこに異常に経済力が集中している。これと、構造改革のジレンマというのはつきまとってくるわけで、そこは韓国の、一番難しく、闇や深いところということだと思う。 多分、財閥にお目こぼししてやれば、来年の初めは瞬間的によくなる。それでも、構造的なものが変わっていなければ、3年目の借金はもっと返せないので、また破綻するのです。

 韓国は、この何十年も短期最適と長期最適の苦しみの中から常に短期最適をとってきて、ついにここに破綻したということであるが、今回に関してはそれができないわけである。


〔 原 座長 〕 統計を見ていて、全くそのとおりだが、1900年くらいから統計をとると、台湾というのはずっと貿易黒字で、韓国というはずっと赤字である。どうも構造が違う、貿易の構造。2つの国は、えらい体質の差がある。

 2つ目は、僕は前から思っているが、台湾の政府というのは、今は李登輝だが、先ほどから話が出ているが、台湾のガバメントと本当の経済の担い手というのは常に分離している。つまり、民間というのは、政府は何も当てにならない。外省人が入ってきたわけである。ところが、韓国というのは、常に、先ほどの全羅道とかいろいろなことがあるが、政権の担い手と経済の担い手が同じところから出てきている。そうすると、先ほど、長期最適と短期最適と深川委員が述べたが、ここにまた政府とプライベートセクターとの関係という経済学のジャンルを使うと、全くタイプが違うのではないか。そういう2つの違いがあるので、経済の発展のパターンも、リフォームのパターンも違うのではないかという気がする。