財務総合政策研究所

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企業の投資戦略に関する研究会−イノベーションに向けて−
第1回会合
2016年8月30日(火) 10:00〜12:00
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第1回会合

議事要旨

  

各委員の自己紹介及び報告内容の紹介

  岡室  博之  一橋大学大学院経済学研究科教授  報告資料[76kb,PDF]

  金  榮愨     専修大学経済学部准教授

  戸堂  康之  早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授

  松尾  豊     東京大学大学院工学系研究科特任准教授  報告資料[1.6mb,PDF]

  宮崎  俊哉  株式会社三菱総合研究所社会公共マネジメント研究本部主席研究員  報告資料[666kb,PDF]

報告:『1990年以降の日本の設備投資−依然残る慎重姿勢と成長期待の弱さ−』

  報告者:田中  賢治  株式会社日本政策投資銀行産業調査部経済調査室長
  報告資料[2.2mb,PDF]

特別講演:『高齢社会におけるニーズと企業の対応動向
                  〜長寿時代のサクセスフル・エイジングに貢献する市場創造を』

  報告者:前田  展弘  株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員
  報告資料[4.0mb,PDF]


議事要旨

(1) 各委員の自己紹介及び報告内容の紹介

1) 岡室  博之  一橋大学大学院経済学研究科教授  報告資料[76kb,PDF]
日本における新規開業の要因、新規開業企業のその後の成長、あるいは新規開業企業を含む中小企業の研究開発・イノベーション活動について、企業のミクロデータを用いて実証的に分析してきた。
日本のスタートアップ企業のうち、創業者が開業前から研究開発活動をしていたか、あるいは開業後に研究開発活動をしているかを重点的に捉えたパネルアンケート調査を用いた研究を行ってきた。
また、政府のクラスター政策での産学官連携事業の効果分析を用いて、スタートアップ企業だけでなく、中小企業を含む地域企業の研究開発や、それに関連する産学官連携、それを促進する政策の効果やその限界について研究してきた。
これらの研究成果を踏まえ、日本は新しい企業が起こりにくく、国際比較でも過去十数年間、世界最低水準を更新している。その要因も考慮に入れながら、実際に研究開発に前向きに取り組んでいる企業を取り上げ、その後の研究開発活動について分析する。また、これらの企業の産学官連携や他の企業との連携を通じた研究開発について分析した結果を踏まえ、特に地域の中小企業や自治体にも含意のある研究を行う。
2) 金  榮愨  専修大学経済学部准教授
日本の「失われた20年」と呼ばれる1990年から2010年のミクロデータを用いて分析した結果、日本経済の成長が90年代から失速した原因は、企業内部での生産性が低迷していたことが重要な問題の一つであったことがわかった。
企業の生産性低迷の要因として、R&D収益率や投資額の低下が推測されるが、実際はどちらも起きておらず堅調だった。R&D全体の約半分を占める大企業の収益や生産性は落ちていなかった。しかし、中小企業がR&D投資に消極的であり、さらに投資による収益を十分に得られていないことが問題だったのである。
ITの時代になったが、企業は収益性が高いにもかかわらず、大企業も含めて、十分なIT投資が行われていない。IT投資により収益を獲得し、さらに企業の生産性向上を実現するには、組織改編や従業員教育など、無形の補完的な投資が必要不可欠である。
日本では、技術やITの物的なものなどハード的な資産への投資は行っているが、それを補完する教育などへの投資を十分行わないために収益が十分に得られていない。そのため、企業の投資活動自体も消極的になっていると考える。
このような問題意識から、いかにして中小企業がより積極的に投資を行い、生産性を高めていけるかを考察していく。
3) 戸堂  康之  早稲田大学政治経済学術院経済学研究科教授
企業のミクロデータを使い、海外に進出する企業の特徴や海外進出後の企業業績について研究している。日本には、潜在的に生産性が高く、海外市場で競争できる技術力を持っているにも関わらず、海外進出をしない「臥龍企業」が多く存在する。
海外で研究開発投資をすると、日本の本社の生産性も上がることが見出されている。海外で研究開発投資をすることにより、海外の知恵や技術を学ぶ効果があり、それにより日本の本社の生産性が上がるといった実証研究を行っている。
また、企業のネットワークに注目した研究では、日本の企業は地理的に遠い企業と取引があるとイノベーティブになることが分かった。例えば、特許の申請数が上がることが見出されている。これも「よそ者」とつながることで新たな知恵を取り込んだ効果が、取引ネットワーク及びサプライチェーンネットワークで生じていると考えられる。
本研究会では、特に企業のネットワークに注目し、世界中の企業を網羅した取引データ、株式の資本所有のネットワークを網羅しているデータを使用して、どのような企業が海外進出をしているのか、もしくはどのような企業が海外進出することによって業績を上げているのかといった点について、中小企業等に焦点を当てながら分析する。加えて、世界各国を網羅しているビッグデータの強みを生かして、国際比較なども交えながら分析を行う。
4) 松尾  豊  東京大学大学院工学系研究科特任准教授  報告資料[1.6mb,PDF]
現在、人工知能に対する関心は非常に高まっており、政府の重点投資対象になっている。人工知能のうち、「ディープラーニング」部分は、この数年でイノベーティブな変化が起きている。具体的には、画像認識をし、ロボットや機械が作業を練習して上達できるようになった。将来は、言語の意味理解もできるようになる。例えるならば、今までの機械には「眼」がない状態だったが、ディープラーニングを用いることにより「眼がある機械」となったと言える。
ディープラーニングで機械が出来るようになることは数多くある。画像認識や機械・ロボット分野は、日本企業の非常に得意な分野である。しかし、ディープラーニングを活用したイノベーションには、既に多くの海外ベンチャー企業・大企業がいち早く取り組んでおり、その動きは非常に速く、今のままでは日本企業が勝つことは難しい。
IT投資を行う際は、人材投資も含めて大規模に行うことが重要である。海外ではディープラーニングの開発研究者には、数千万〜数億円の年収が支払われている。今までのように物理的な工場に投資をするのではなく、新たな投資の形として、開発研究者の人件費に1人年間1億円をかけるなど、「学習工場」と呼べるソフトウェア的なものに投資を行っていくことを新たな認識として広めていきたい。
5) 宮崎  俊哉  株式会社三菱総合研究所社会公共マネジメント研究本部主席研究員
                                                                                              報告資料[666kb,PDF]
観光やインバウンドが最近話題となっているが、訪日外国人数やその訪問地域、観光消費額が捕捉できない状況であったことから、観光庁が進める観光統計整備をご支援してきた。
今、観光で話題となっているのはDMO(Destination Marketing/Management Organization)であり、観光を支える中小企業や個人事業主をまとめていく組織である。このDMOをどのように活用していくかが重要な課題となっている。
日本の観光に占めるインバウンド割合はまだ小さい。オーストラリアは半分以上をインバウンドで稼いでおり、日本もこの水準になれば産業形態も大きく変わると考えられる。
各事業者の観光の売上げや投資額に関するデータを収集して作成した統計を用いて、観光に関する地域経済や産業構造に関する調査研究の結果を紹介するほか、観光産業を支える全国に104万事業所の中で、調査で抽出した成功事例を紹介する。
IT投資は重要であり、観光とは関係ないITの会社が旅行予約サイトの業界で収益を上げている。そういう面で日本は完全に出遅れている。中小企業はどのようにITを活用すればいいか、どのようにネットワークを築いていくかについても考察する。

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(2) 報告『1990年以降の日本の設備投資−依然残る慎重姿勢と成長期待の弱さ−』

       田中  賢治  株式会社日本政策投資銀行産業調査部経済調査室長  報告資料[2.2mb,PDF]

1.1990年以降の設備投資を振り返る
1990年以降の設備投資の動向を見ると、バブル経済と呼ばれた1990年頃は90兆円(SNA統計ベース)を超えていたが、足元では70兆円程度にとどまっている。国内設備投資対GDP比は、1994年以降14%程度で横ばいとなっている。2000年代半ばには、設備投資は一時的に増えたが、1990年に比べると低い水準となっている。
企業収益は改善しているが、設備投資の水準が低いため、設備投資が弱いと指摘されている。1990年代半ばから、製造・非製造業別、企業規模別でみても設備投資はキャッシュフローの範囲内に収まっており、設備投資は弱いと判断せざるを得ない。
企業に国内設備投資の水準を聞いたアンケートでは、製造業・非製造業の別によらず、国内の設備投資に積極的と評価しているという意外な結果が出た。この背景には、企業利益には円安や原油安によるかさ上げ分や、海外で稼いでいる分が相当含まれており、利益を国内の設備投資に向けず、現時点の水準で十分と判断していると考えられる。
設備投資に抑制的である理由を尋ねたところ、製造業・非製造業とも最も多い回答は、利益が相当出ているにも関わらず「財務体質強化を優先」であった。また、将来の不確実性も設備投資を躊躇させる要因になっている。企業の売上高をみると、ここ数年変動が大きく、企業が設備投資に躊躇する傾向が見て取れる。
国内の設備投資70兆円のうち、有形固定資産が60兆円程度、無形固定資産が10兆円程度となっている。これら以外にも、企業は、海外での有形固定資産投資、M&A(国内、海外)、研究開発(R&D)、人的投資(人材育成)等、将来の収益を獲得するための投資を行っている。企業は、こうした「広義の投資」にかなりの規模の投資的支出を行っており、企業の投資的行動として国内有形固定資産の設備投資だけを見るのでは不十分である。
企業活動はグローバル化している。企業(製造業)は海外で設備投資をしており、海外での生産能力は拡大している。海外の現地法人による海外のマーケット向け販売金額は、2014年度で88兆円に上り、輸出金額75兆円を上回っている。また、リーマンショック以降の急速な円高を背景に、2010年以降、海外での設備投資は相当伸びており、水準も高い。製造業では、相対的に海外を強化する方針が続いており、円高が続けばこの流れが強くなる可能性がある。国内の設備投資について論じるには、海外での動向も念頭に置く必要がある。
国内の期待成長率と設備投資の相関関係は高く、国内で有望な投資機会が見つけられない、あるいは投資機会があっても投資に踏み切る決断ができずにいる可能性がある。ただし、設備投資が盛り上がりを欠いているのは国内に限ったものではなく、世界的な流れである。IMFによれば、先進国・新興国ともリーマンショック前より潜在成長率が低下しており、かつ資本ストックの寄与度が低下している。将来の成長期待の低下が、足元の民間設備を抑制する悪循環が見られる。
2.イノベーションと設備投資
個別企業の設備投資は、マクロの統計より変動が大きい。設備投資には一旦行われると、その設備を容易に破棄できない不可逆性があるため、不確実性がある場合、企業は設備投資を機動的に行うことができない。一方で、環境が一転し、設備投資が一気に伸びる山ができる可能性もある(インベストメントスパイク)。この傾向は、まだ市場が育っていない分野や投資規模が大きな分野で見られることから、新たな技術革新や新商品を導入した際に大型投資が実施されるかどうかが注目される。
1990年代半ば以降は、大型投資が減少しているという分析結果が出ている。大型投資の効果を分析すると、投資後、企業のパフォーマンスが改善しているという結果が出ている。大規模投資が集中する時期は、様々な技術革新が起きた時期と重なっていることから、技術革新が設備投資を誘発していると考えられる。
3.設備投資の復活には何が必要か
企業の中長期的な成長市場開拓への取り組み姿勢の調査結果をみると、全体的にやや弱いと言える。企業が市場開拓に取り組む理由として、「将来の新たな収益柱」、「既存事業とのシナジーの追及」、「事業の多角化の一環」といった回答が多かった。取り組まない理由は、「既存事業の収益力向上を優先」という回答が相当程度多く、その他、「既存事業で収益確保が見込まれるため」、製造業では「海外展開による成長が見込まれるため」という回答も多かった。全体的に慎重姿勢が拭えていないと言える。
製造業・非製造業共通の課題として、低い期待成長率と盛り上がりを欠く設備投資の悪循環を断ち切るためには、企業がよりリスクを取る必要がある。企業による内需の掘り起こしが広がれば国内の設備投資が盛り上がるが、その取組みはまだ不十分である。ビジネスは不満があるところから広がっていくものであり、日本経済には高齢化やエネルギー問題、女性の進出等に伴い、まだ満たされていないニーズや、いろいろな不満、不自由がある。こうした不満解消のビジネスチャンスがまだまだ存在している。非製造業はもっと内需の掘り起こしが可能であり、製造業も海外だけに目を向けるのではなく、国内の不満解消に向け重要な役割を担っている。今後は、製造業・非製造業の垣根を越えたビジネス展開が重要である。
企業収益の改善に比して設備投資の改善は見劣りし、本格回復には至っていない。過去四半世紀を振り返ると、需要側のニーズと供給側の新しい技術、アイデアが結びついたときに新しいビジネスが生まれ、設備投資が行われてきた。成長期待が低いと埋もれたニーズが浮かび上がらず、ビジネスは広がりを欠く。世界的にビジネスや社会を大きく変える可能性のあるIoTやAIなどが開花する可能性があり、いかにうまくビジネスに結び付けていくことができるかが、今後国内で設備投資が盛り上がるかどうかの重要なポイントになるだろう。

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(3) 特別講演:『高齢社会におけるニーズと企業の対応動向
            〜長寿時代のサクセスフル・エイジングに貢献する市場創造を』

       報告者:前田  展弘  株式会社ニッセイ基礎研究所主任研究員  報告資料[4.0mb,PDF]

1.高齢者市場開拓に向けた企業の動向〜“シルバー・イノベーション”に向けた兆し
日本は高齢化の最先進国であり、2030年に65歳以上は3人に1人、75歳以上は5人に1人の割合になる。日本の高齢化スピードは世界に例がない。日本は超高齢社会であり、この人口構造をベースとした市場の創造が急務である。特に75歳以上の後期高齢者層が今後ボリュームゾーンとして増えるため、この分野の市場開拓が非常に重要になる。
世界でも高齢化が進んでおり、2030年には世界の65歳以上の高齢者市場は10億人市場になる。現在の日本の高齢者が3400万人であることを考えると、やがて海外には30倍の市場が出てくる。多くの日本企業は、日本の高齢者市場での成功経験を世界に展開していくため、高齢者市場の開拓に向けた企業の取り組みが本格化している。
超高齢・長寿社会に対応するビジネス創造に向けた、産学官連携によるコンソーシアム組織が近年続々と誕生している。コンソーシアムで高齢者の実態を学び、それをイノベーションに結び付ける展開が出来つつある。
近年注目されるイノベーションの活動のうち、様々な企業が一緒に協業・協働する“Future Center”や、住民及び行政、大学等マルチステークホルダー間での活動を推進する“Living Lab”という組織がある。
“Future Center”や“Living Lab”が注目される背景には、イノベーションの質的な変化、つまり「社会や顧客からの価値の発見・洞察、そしてデザイン活動へ」という展開が進んでいる。こうした“Future Center”や“Living Lab”は「イノベーション加速支援環境」として位置づけられ、急速に拡大している。企業でも、競争から「共創」の時代へ、企業の社会的責任CSR(Corporate Social Responsibility)から社会的な課題を解決するような共通価値の創造CSV(Creating Shared Value)という価値観へシフトが進んでいる。
2.高齢社会ニーズへの対応動向
「高齢者」といっても年齢による違いがあり、同じ年齢でも健康面や経済環境等の違いがあるため、「高齢者市場は多様なミクロの集合体」と捉えることが適切である。高齢者市場を健康面や経済環境等で分類すると、「1:8:1」という市場に分けられる。両端1割の市場は、裕福なシニア層及び医療・ケアが必要な虚弱なシニア層で、真ん中の8割は普通のシニア層である。これまでは、両端の1割のシニア層への取組みが主であったが、現在は、これまで開拓されていなかった8割を占める普通のシニア層の市場の開拓に各社が注力してきている。
高齢者の実態を理解する上では、年齢ごとの健康状態の変化の考慮も欠かせない。多くの人が辿る健康状態の変化を踏まえた高齢期のパターンは、「自立して生活できる期間」(ステージT)から、「自立しながらも日常生活において必要な援助が増える期間」(ステージU)を経て、最終的に「本格的な医療やケアを必要とする期間」(ステージV)へ移行するというものである。各ステージをより良く暮らしていける、自分らしく生きていける生き方をできることが個人にとって理想の「サクセスフル・エイジング」である。企業や社会は、高齢期の各ステージをより良く生きるためのサポートをすることが求められる。
3.持続可能な高齢社会、豊かな長寿の実現に必要な「商助」(民間の力)
持続可能な高齢社会、豊かな長寿の実現に向けては、自助、公助というこれまでの概念に加え、民間による支援の力「商助」の概念を広く浸透させていくことが欠かせない。「商助」の浸透に向けて、国、行政主導レベルの運動として、「サクセスフル・エイジング」に応える企業の取り組みをより積極的に表彰・評価するような活動が期待される。
企業に期待される「商助」としての投資は、以下の3つがある。1つ目は、高齢者は貴重な社会資源と捉え、貴重な社会資源を活かすべく、長寿のライフスタイル・ライフデザインを活かして導くイノベーション投資である。2つ目は、未開拓であった普通のシニア層にいる高齢者のQOL(Quality of Life)の向上に貢献する商品やサービス開発への投資である。3つ目は、地域社会と協働し、地域社会のインフラづくりや環境づくりに参加して、安心で活力ある高齢社会を築くための投資である。
こうした社会の動きをいかにつくっていくか、つまり「商助」の推進による「サクセスフル・エイジング」に貢献する高齢者市場をいかに創造していくかが、日本のこれからの未来の成長戦略という視点でも極めて重要である。

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