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公共部門のマネジメント研究―合意形成をめざして
「公共部門のマネジメントに関する研究会」報告書

平成28年6月発表

目次
(役職は平成28年6月現在)

序章 問題意識と概観

要旨

  1. 公共部門のマネジメントに関する研究会の問題意識とその背景
  2. 民間(企業)部門と公共部門とのいくつかの対比
  3. 公共部門における計数的マネジメント

樫谷 隆夫 

(公認会計士・税理士(樫谷公認会計士事務所))

藤野 雅史

(日本大学経済学部准教授)

松尾 貴巳

(神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)

大西 淳也

(財務省財務総合政策研究所副所長)

第1章 一般行政分野における計数的マネジメント

要旨

  1. 「事務量」の重要性とワーク・ライフ・バランスの要請
  2. 事務量マネジメント
  3. 組織の方向づけにむけて
  4. 事務量マネジメントの導入プロセス
  5. 事務量マネジメントがあてはまる行政分野
  6. 歳出合理化にむけて

松尾 貴巳 

(神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)

藤野 雅史

(日本大学経済学部准教授)

大西 淳也

(財務省財務総合政策研究所副所長)

第2章 国の地方支分部局Aの事例研究

要旨

  1. 国のある行政組織におけるこれまでの取り組みの状況
  2. (X)年度におけるAの取り組み
  3. (X+1)年度におけるAの取り組み
  4. 考察

大西 淳也

(財務省財務総合政策研究所副所長)

第3章 地方公共団体における導入事例研究

要旨

  1. 地方公共団体と事務量管理
  2. 市川市の事例
  3. 北上市の事例
  4. 自治体における事務量管理の可能性と課題

松尾 貴巳

(神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)

第4章 社会福祉・社会資本分野における計数的マネジメント

要旨

  1. 考察の対象としての社会福祉・社会資本分野
  2. 社会福祉分野における計数的マネジメント
  3. 社会資本分野における計数的マネジメント

藤野 雅史

(日本大学経済学部准教授)

松尾 貴巳 

(神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)

大西 淳也

(財務省財務総合政策研究所副所長)

第5章 医療分野における管理会計の活用
:計数的マネジメントを通じた合意形成

要旨

  1. はじめに
  2. 医療機関における管理会計の活用状況
  3. 国立大学法人佐賀大学附属病院のテナント式損益管理
    :計数情報による組織内合意形成を通じた現場自律性の促進
  4. 地域連携バランスト・スコアカード
    :計数情報による組織内外の社会的合意形成と合意事項遂行管理
  5. おわりに

荒井 耕

(一橋大学大学院商学研究科教授)

第6章 習志野市の事例研究

要旨

  1. はじめに
  2. 体制整備と人材育成について
  3. 合意形成の道のり
  4. 習志野市の取組み事例
  5. おわりに

宮澤 正泰

(習志野市会計管理者)

第7章 公共部門の評価と計数的マネジメント

要旨

  1. はじめに
  2. 公共部門の評価
  3. 公共部門の評価と計数的マネジメント

田中 啓

(静岡文化芸術大学文化政策学部教授)

終章 合意形成をめざして

樫谷 隆夫

(公認会計士・税理士(樫谷公認会計士事務所))


 

序章
問題意識と概観

樫谷 隆夫 (公認会計士・税理士(樫谷公認会計士事務所)
藤野 雅史 (日本大学経済学部准教授)
松尾 貴巳 (神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)
大西 淳也 (財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

公共部門のマネジメントに関する研究会における問題意識は、公共部門において、組織内の合意形成や社会的な合意形成にむけて、会計等の計数情報をもちいたマネジメント(計数的マネジメント)をいかに活用していくべきかということにある。そして、その背景として、現在のような人口が減少する時代のもとでは、公共部門における資源配分も、いわゆる負担の配分という色彩を強く帯びる。このため、合意形成のための意思決定プロセスには大きな負荷がかかることになる。したがって、今後は、合意形成のための道具立てを考えていくことが重要となることがあげられる。

以上のような問題意識と背景をうけて、本報告書では、まず、序章において若干の整理を行う。そのうえで、一般行政分野(第1章〜第3章)と社会福祉・社会資本分野(第4章〜第6章)とに分け、理論と事例の両面にわたり考察をまとめる。その後、関連分野と思われる政策評価(第7章)について考察したのち、終章でまとめる。

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第1章
一般行政分野における計数的マネジメント

松尾 貴巳 (神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)
藤野 雅史 (日本大学経済学部准教授)
大西 淳也 (財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

一般的な行政分野では、職員の人手(ひとで)や手間(てま)を中心に構成されるサービスが提供される。職員の人手や手間が、労働時間として測定され、事務量となる。そこでは、事務という活動が、人件費という資源を費消する関係にたつ。ワーク・ライフ・バランスの要請を踏まえると、この事務量自体をどのようにマネジメントしていくのかは重要な課題である。

第1章では、一般的な行政分野における計数的マネジメントとして、この事務量マネジメントについての考察を行う。そこでは、事務フロー等を意識した改善活動を行い、事務量を効率的に活用する一方で、それぞれの行政組織の組織戦略にしたがい、事務量を効果的に活用していくことがもとめられる。また、これらを実効的なものとするためには、組織の価値観を踏まえた組織内の合意形成と職員の方向づけが図られる必要がある。そして、このような事務量マネジメントを導入する際のプロセスについて考察を行う。

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第2章
国の地方支分部局Aの事例研究

大西 淳也 (財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

第2章では、第1章で述べた事務量マネジメントに関連して、国の地方支分部局Aの事例について記述する。要請により、匿名での事例研究となる。

Aは国の行政機関Bに属する地方支分部局である。Bにおいては、これまでも、その事務について事務系統ごとに多数の事務区分に分け、個々の区分への投下事務量を把握してきた。また、長い歴史のある事務改善提案制度なども有してきた。しかし、現状ではそれらがバラバラに取り組まれており、増大する一方の行政需要やワーク・ライフ・バランスの要請などへの対応に苦労してきていた。

このようななかで、地方支分部局Aでは、事務量分析を中心にして、事務改善提案や組織戦略などを連携させた取り組みを行い、相当の効果をあげつつある。本章では、2年間にわたる取り組みの成果などについて記述するとともに、組織の価値観などをつうじた職員の主観への配慮が必要となることなどについて若干の考察を行う。 

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第3章
地方公共団体における導入事例研究

松尾 貴巳 (神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)

【要旨】

1990年代後半以降、多くの地方公共団体は歳出の抑制が行政経営における大きな課題となり、行財政改革に取り組んできた。事業棚卸や行政評価を通じた事業のスクラップ・アンド・ビルド、手続きの簡素化、外部委託や指定管理者制度などのアウトソーシング、非常勤職員の活用、人員再配置など、それまでの資源の利用方法を変更するうえで、組織内外の利害関係者との合意形成が重要になった。

事務量管理は、地方公共団体において一般的に普及した管理手法であるとはいえないが、行財政改革に関わる課題認識や意思決定に、客観性、合理性、そして正当性を与えるうえで一部の自治体において一定の貢献をしてきた。管理の方法には、年一回業務・事務への負荷割合を調査・分析する年次管理の方法と、日々の業務を記録・分析する日次管理の2つの方法が少なくともある。年次管理は人工数情報を比較的容易に提供可能であるが、千葉県市川市の事例にみられるように、各課の管理に委ねると、統一性が低下し部門横断的な課題認識や全市としての取組が難しくなる。そこで同市では、管理プロセスを2ステップに分け、課題認識は事務事業レベルで統一的に行い、次のステップで詳細に分析するアプローチに切り替えた。また、岩手県北上市の事例にみられるように、事務事業単位の包括的コストマネジメントを志向すると、業務の詳細分析は難しくなる。そこで同市では,一部の部門に日次管理である日報管理を試行した。日報管理は、業務を改善するうえで詳細で精度の高い情報を提供するだけでなく、職員や組織の学習効果も見られた。導入上の大きな課題は、入力作業の負荷よりはむしろ日々の管理に対する理解や意識を醸成することにあった。

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第4章
社会福祉・社会資本分野における計数的マネジメント

藤野 雅史 (日本大学経済学部准教授)
松尾 貴巳 (神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授)
大西 淳也 (財務省財務総合政策研究所副所長)

【要旨】

第4章では、計数的マネジメントの実践状況について、社会福祉分野と社会資本分野とを対比しつつ整理する。社会福祉分野における計数的マネジメントについては、伝統的に、医療機関経営においてコスト管理や予算管理などで検討・実践が行われてきている。最近では、医療機関以外でも、いわゆる費用対効果分析が部分的に検討されるようになり、また、地域医療においても、さまざまな計数的マネジメントが検討されるようになってきた。

社会資本分野では、社会福祉分野に先行する形で、高まる公共事業批判のもと、1990年代後半からいわゆる費用対効果分析が実践されてきている。その後、財務会計(公会計)が整備される一方、社会資本の老朽化を契機とするアセット・マネジメントの進展をうけ、地方公共団体においては、施設白書を通じて、地域社会における公共施設などに関する合意形成に、計数的マネジメントを役立てようとする動きがみられるところである。

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第5章
医療分野における管理会計の活用
:計数的マネジメントを通じた合意形成

荒井 耕 (一橋大学大学院商学研究科教授)

【要旨】

本章では、医療分野における計数的マネジメントを通じた合意形成の現状と可能性について述べている。

まず、組織内の合意形成に関して、医療機関で現在実践されている管理会計が合意形成をある程度実現している状況を明らかにしている。具体的には、戦略遂行マネジメント手法としての事業計画及びバランスト・スコアカード(BSC)や、責任センターマネジメントとしての部門別損益業績管理という管理会計実践が医療機関でも一定程度見られるようになり、この実践によって職員の合意が形成され経営方針に沿った職員の行動が実現し、結果として組織成果が向上している状況が明らかとなった。

また、そうした実践の事例として、国立大学法人佐賀大学医学部附属病院のテナント式損益管理が紹介されている。テナント式損益管理は、トップ経営層が組織全体として目指す方向に沿う形で、組織内の現場各部門職員が自律的に経営管理するように促す手法であり、経営方針に関する組織内合意形成を通じて組織成果を向上させる管理会計手法である。

一方、組織内外の地域住民含む社会的合意形成に関しては、地域医療提供システムの計数的な戦略遂行マネジメント手法である「地域連携BSC」について述べている。現状の日本ではまだ実現していないものの、現在進行中の地域医療構想の策定とその遂行管理においてこの手法を活用することにより、社会的合意形成がより促進されるであろうことを示唆している。

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第6章
習志野市の事例研究

宮澤 正泰 (習志野市会計管理者)

【要旨】

本章では、習志野市での合意形成についての様々な取り組みを紹介する。特徴的なものとしては、「体制整備」と「人材育成」に力を入れたことである。多くの職員に公会計情報を理解し、マネジメントに公会計情報が必要であると理解してもらうことにより、経営改革の羅針盤としての公会計情報の活用が可能となる。具体的には公募職員によるプロジェクトの設置・期間限定の組織としてのタスクフォースの設置及び職員の自主勉強会の実施などの取り組みが挙げられる。

次のステップとして、公会計情報を住民の方に伝えていき、合意形成を得るための事業として、「バランスシート探検隊事業」を始めとする様々な取り組みを実施している。「バランスシート探検隊事業」とは、市のバランスシートを住民目線で読み解いていくとともに、バランスシート上の資産である施設を視察する活動である。また、「市の家計簿をチェック事業」は、ファイナンシャルプランナーに市の財務書類を家庭の家計簿(キャッシュフロー表)に置き換えてもらい、その内容について公会計の専門家や公募市民と座談会をするという活動である。このような事業は計数的なマネジメントによる合意形成のモデルである。

習志野市では、多くの地方公共団体が抱えている施設の老朽化問題を「公共施設の再生計画」と位置付け、住民の合意形成に向けて、「わかりやすく丁寧」を心がけ、シンポジウム、財政問題学習会、町会単位での説明会を積み重ね、住民と問題意識を共有するよう努めてきた。

合意形成には、しっかりした体制整備の中でしっかり説明できる人材を育て、しっかりした公会計情報を提供することである。併せて、早い時期から住民に説明する機会をつくり、地道に合意形成を得るための周知活動が必要である。

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第7章
公共部門の評価と計数的マネジメント

田中 啓 (静岡文化芸術大学文化政策学部教授)

【要旨】

近年、日本の公共部門に「評価」が急速に普及した。国内の評価は、制度に基づき画一的に実施されること、業績測定という手法を重用すること、アウトカム指標を重視すること、多様な手法を併用すること、マネジメント志向であること等の特徴がある。国内に評価が広く普及した結果、公共部門において評価の実践活動が定着し、行政機関に関する業績情報の充実につながっている。その一方で、評価結果があまり利用されていないことから、当初存在した評価(制度)に対する期待感や熱意はすっかり沈静化している。ところで評価は、計数的マネジメントと極めて類似性の高い概念であるが、対象とする領域や果たす機能が異なっているため、両者を安易に同一視することは適切ではない。ただし、両者は無関係ではなく、特に評価にとって計数的マネジメントは、評価の質や機能を高める上で補完的な役割を果たしてくれる可能性がある。こうしたことから、行政組織における当面の対応としては、評価と計数的マネジメントの特性の違いを理解した上で、両者を併用しながら、それぞれを適切に実施していくことである。その際に特に留意すべきなのは、現行の評価はかなり粗い内容のものなので、過度に高い精度や細心さを評価に要求するのではなく、現行の評価に見合った「ほどほどの」制度や利用方法を求めていくことである。

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