財務総合政策研究所

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公共部門のマネジメントに関する研究会
第1回会合
2016年2月1日(月) 14:00〜16:30
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第1回会合

報告『市川市・仙台市の事例研究報告』

報告者

松尾 貴巳  神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授
報告『国の地方支分部局Aの事例研究報告』

報告者

大西 淳也  財務総合政策研究所副所長
報告『医療分野における管理会計の活用 -計数的マネジメントを通じた合意形成-』

報告者

荒井 耕   一橋大学大学院商学研究科教授
報告資料(PDF:435KB)PDF

議事要旨

(1) 報告『市川市・仙台市の事例研究報告』

松尾 貴巳  神戸大学社会科学系教育研究府(兼)経営学研究科教授

2007年ごろに、自治体の業績管理について、行政評価等を実際に取り組んでいる自治体にインタビュー調査をした。その当時、業務分析をやっている自治体は市川市と仙台市の2自治体であった。
一般論として、自治体の内部管理経費、間接費が多い点が問題意識としてある一方、それの中身がよくわからない、どういうプロセスで行っているか把握できないため、問題を追求し切れないことがあった。総コストの多くは人件費が占めているが、人件費は職員がどれだけ時間を投入したかによっているため、それを管理しないとコストを下げることができない。市川市では、市民サービスの質的な向上を図ることを目的として掲げ、職員の活動、特に人件費に絞り込んで分析することとした。
当時の分析の手順は、(1)業務一覧を作成する、(2)フロー図を作成する、(3)職員の活動量を調査する、(4)分析し改善案を作成する、(5)分析部門と事業課が協議する、(6)各間接系の総務や財政と調整しながら改善を図る、(7)結果を公開する、という7つで構成されている。まずプロセスを認識して整理する。さらに、その大きな業務フローを構成している具体的な業務(例:受付案内、窓口業務、記録等)をタスクレベルで認識する。各職員は、自分のマンパワーを年間どの程度各タスクレベルに投入しているのかという比率を入力する。そうすることで、本業(事業)にかけている時間とそれ以外(議会への対応、内部の管理等)にかけている時間の割合、それぞれの事業別にかけている時間の割合、それぞれの業務フローの各プロセスにどれぐらいの時間を投入しているかが割合として分かることになる。
当初期待された効果は、作業量が多いものはどれか、内部管理業務が多いものはどういうものかを抽出することを通じて、例えば、(1)こういった業務はアウトソーシングができるのではないか、(2)プロセスの改善ができるのではないか、(3)作業の中でも比較的単純な作業であれば非常勤職員にやってもらうことができるのではないか、といったような改善につなげていくことであった。
市川市の取組みの経緯を見ると、2002年に検討を開始し、2003年頃にエクセルでデータを集め、それを分析して各課にフィードバックすることをしていた。2006年から07年にシステム化を図り、インターネットエクスプローラーを使って入力、集計、グラフ化ができるようにした。しかし2015年にそれまで続けていた仕組みを一旦中止し、現在、今後の取り組み方を模索中である。
2015年に中断した理由は、システムが古くなり安定しなくなったこともあるが、本質的には、各課任せで運用することになったため、業務活動の捉え方が粗い部門もあれば細かい部門もある等ばらつきが見られるようになったことが大きい。取組み当初は、対象課が限定的だったため行財政改革推進課(行革課)が積極的に介入してレベルを揃える等、フィードバックする方法をとったが、システム化するときに各課に任せることになった。その後全庁展開する際に、業務フローをどのように分けるのか、フローごとにどういうタスクで構成されているのか、といった点の管理を各課に任せることにした。各課によって管理ニーズが細かいため、各課の主体性を尊重するべきだという考え方が当時あったようだが、結果的にばらつきが生じてしまったことで、課間、部門間の比較可能性が低いものになってしまった。また、人事異動により担当者間での取組み方にバラツキがみられたことから、期間比較も難しくなってしまった。
現在は、やや中央集権的ではあるが、行革課がデータを吸い上げて、一定のレベルで分析をして、必要に応じて行革課が介入することを通じて、現場の課題を吸い上げる手法になっている。各課個人がエクセルに入力し、間接部門の作業を含め、まず事業レベルで集計するところに重点が置かれている。共通業務や各事業・業務についての整理はされているが、業務フローごとの細かいタスクタスクレベルのデータの集計はしておらず、業務レベルの集計のみとしている。ただし、残業時間が多いとか、仕事が忙しいから人を増やしてほしいといった個別の問題が生じたときに活用するようにしており、個別の問題が生じた事業に関してフロー図をつくり込んでいくような方法に変えている。
各職員は事業ごとに自分の時間の割合を記録しなければいけないが、年間の自分の業務割合が分かるだけである。各担当者のデータは期中の夏頃に収集しており、結果的にどうだったかという実績値の収集まではしておらず、月次のデータも収集していないということであった。今後さらに推進していく上では、ある程度の水準で横並び比較ができる仕組みが必要であり、担当課と行革課が密接にコミュニケーションをとる、一緒に考えて解決に結び付けるようなスタンスで、現場任せにしないで一緒に解決策を考えていくやり方をとらないと難しい。
仙台市については、2007年にインタビューした次の年ぐらいに当時のやり方を中断している。基本的には市川市と同じような考え方で、業務を細かく見ていき、小分類では1万3千程度まで分解して管理することを当時やっていた。中間的なくくりで事務事業の体系に合わせることをやっていたが、それは必ずしも予算事業との連携がとれていない単位であり、管理するために外部に委託して年間かなりのコストがかかることもあって、この仕組みは現在動いていないということである。アウトソーシングを検討する等、業務を改善していく上では非常に細かいデータ情報を提供してくれることで、納得性が高いという点では非常に有用な仕組みだったと理解できる。
仙台市の場合も現場任せとなり、現場の問題意識に基づいて現場が主体的に情報を使って改善していってくださいという傾向が強かったため、細かいデータを自動的にフィードバックできる仕組みはあるものの、市川市と同じような理由で、結果的には現場で十分活用されなかったようである。

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(2) 報告『国の地方支分部局Aの事例研究報告』

大西 淳也  財務総合政策研究所副所長

国の地方支分部局Aの取り組みの事例を具体的に報告するに先立ち、最初に3点ほど指摘しておきたい。1つ目は、会計や計数の分析にはミクロの正確性にこだわり過ぎるという傾向があるが、これをいかにこだわらないようにするか。2つ目は、会計的な分析を組織戦略や組織の価値観とどう結び付けるのかが非常に重要ということで、それがないと会計的な分析はそれほど意味をなさないように思う。3つ目は、組織内に浸透させる場合にはそれなりにエネルギーが必要であり、そのためにはメッセージも簡潔なものである必要があるということだ。
国の地方支分部局Aは、国の行政機関Bの一地方支分部局であるが、行政組織Bでは従来、職員の稼働状況を事務量として把握・分析する取り組みを行っており、個々の職員が事務系統ごとに大中小の100以上の事務区分を1時間単位等で記録し、これをもとに事務量の把握・分析を行っている。また、事務の適正化や効率化を目的として、数十年前より職員からの事務改善提案などを募ってきた。これらの取り組みは個々には評価できるものの、その最大の問題は、これらがバラバラに位置づけられており、相互に関係づけて考えられてきてはいなかったことにあるとのことであった。
地方支分部局Aにおいては、事務の区分として、事務所外で行う特定の事務(以下、「特定事務」)と、事務所内で行うことが多い事務(以下、「その他の事務」)があるが、近年ではその他の事務の事務量が非常に増えてきており、これが特定事務の事務量を圧迫している。特定事務の事務量をいかに確保していくか、事務のやり方や組み立てをいかにしていくのかといった点について、議論が行われてきたとのことである。
その他の事務の事務量が増加しつつあるなかで、職員ニーズが非常に強いワーク・ライフ・バランスの要請に応える観点から、事務量の把握・分析と事務改善提案制度とを同時に考え、これらを通じて、その他の事務の事務量を効率化・圧縮し、その分の一部を職員の残業削減や有給休暇取得の容易化などによるワーク・ライフ・バランスの実現に使うとともに、特定事務の事務量の確保・拡充に充てていこうという取り組みが行われているとのことである。
試行錯誤を繰り返す中で、事務の効率化によって捻出できた事務量を何に充てるかについて、あらかじめ十分に考えておかないとうまく使えないということが分かってきたようであり、民間企業でいえば組織戦略のようなものを組み立て、捻出できた事務量を何に充てるかを考えていくようにしたとのことである。
取り組みを実施する中で重要なポイントとなったのは、組織の価値観だったとのことである。国の行政組織Bでは組織の価値観を表す言葉が徹底されているが、地方支分部局Aにおいても、この言葉を再度徹底しながら組織の価値観を強調し、その他の事務を中心に事務量を削減し、特定事務の事務量の拡充に向けて取り組んだとのことである。取組みの当初は事務改善と人日の徹底が中心だったが、組織戦略といったようないろいろなものが必要に応じて付加され、全体ができあがっていった模様である。
事務改善提案については、これまでも職員からの改善提案を受け付けていたが、作業の標準を強調して、QCサークル運動(同じ職場内で品質管理活動を自発的に小グループで行う活動)などを参考にし、自動車製造会社の話も聞きながら、作業標準の改訂作業としての事務改善活動を実施したようだ。改善活動の類型として、(1)事務の繁閑調整、(2)事務フローの再構築、(3)マニュアルの再整備、の3つがあったとのことである。
正規職員からアルバイト職員に事務を移せばいいという話はよくあるが、無駄を無駄のままアルバイト職員に移したり、アルバイト職員を増やしたりしても意味がないとのことで、アルバイト職員の事務も分析しているとのことである。
事務所の運営の考え方を経営学の組織戦略に近い考え方で整理しており、内容的には戦略マップ、方針管理といったようなものを意識して組み立て、因果関係仮説や目的−手段関係で個々の職員の事務と事務所の組織戦略を連携させていこうと考えている模様である。

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(3) 報告『医療分野における管理会計の活用 -計数的マネジメントを通じた合意形成-』

荒井 耕  一橋大学大学院商学研究科教授

病院の経営環境が変化しており、管理会計の活用の必要性が高まっている。医療分野の管理会計は、医療機関レベルでの管理会計だけではなく、地域医療提供システムをマネジメントするための管理会計や、一国の医療提供システムを管理するための管理会計もある。
診療報酬の抑制政策があるため、医療機関側は採算管理の必要性が高まっている。加えて、急性期領域を中心に疾患種類ごとに日別の定額払いになり、出来高払いの部分が少なくなるため、採算管理が必要になってきた。また、医療分野は非常に技術革新が激しく、新たな投資が必要になってくるため、利益を獲得していく必要性がある。一方で、国民の医療の質に対する要求も高まってきており、質と効率性の両面を統合しながら管理していく必要性が出てきている。さらに、それぞれの病院が得意とする医療機能を選択し、得意でないものは他の医療機関と連携していく等、自分たちの強みを生かした形で経営していくことが必要な時代になっている。経営の多角化も進んでおり、トップが1人で経営できるような状況ではなく、現場の管理者に権限委譲せざるを得ない。これらの観点から管理会計が必要になってきている。
バランスト・スコアカードは多様な側面から業績を管理していくものであり、具体的には(1)財務の視点、(2)顧客の視点、(3)業務プロセスの視点、(4)学習と成長の視点、といった4つの視点にかかわる戦略上の目標に基づいて統合的に管理していくツールである。医療法人を対象として2014年に実施したアンケート調査によると、バランスト・スコアカードを実施していると回答した病院の9割以上が典型的な4つの視点全てを持っている状況であった。バランスト・スコアカードを合意形成の関係からみると、ミッション・ビジョン及びその実現のための戦略を明確化し、組織に浸透させることを通じて、経営層が現場を方向付けすることを主要な狙いとしている。
バランスト・スコアカードでは、その戦略目標間の因果関係を考慮しながら管理していくことが重要であり、実際に遂行していくときには戦略マップを使うことが多い。戦略マップでは4つの視点にかかわる幾つもの戦略目標が設定され、戦略目標間の因果関係を考慮して、ビジュアル的に分かりやすい形で描写する。しかしながら、バランスト・スコアカードを導入していると回答した病院は因果関係をある程度考慮しているものの、その考慮の程度はかなりばらつきがある状況であることがわかった。また、戦略マップまで作成して、さらに時の経過とともに再構築する等戦略マップの活用に積極的な病院は6割にとどまるという調査結果だった。
この戦略マップの最上位に4つの視点のどの視点を置くかが、その組織の究極的な目標がどこにあるのかを表すものだが、財務の視点が5割半強、顧客の視点に関するものが3割半強で、複数の視点を戦略マップ上の最上位に位置付けている病院もあった。一般企業で戦略マップを構築するとほぼ財務視点が一番上に来る状況だと思うが、このあたりは病院という業種の特徴が出ている。
バランスト・スコアカードを導入している病院群の中で、戦略マップを活用(作成・再構築)している病院群と活用していない病院群で見ると、活用している病院群では、職員の方向付けという観点からの効果が有意に高まっている。医療の質の向上と患者満足の向上という病院にとって極めて重要な組織成果にも、戦略マップの活用はよい効果をもたらしている。戦略マップを活用することによって、現場の人たちは病院が向かおうとしている方向性を理解でき、一つ一つトップ層に言われなくても自分たちでその方向に沿って行動できるようになることにより、組織成果の向上につながっているのではないかと考えられる。また、管理者の業績評価にも高い有意性が見られ、戦略マップを使っているほうが管理者の業績評価をしやすい。戦略マップという形で病院の様々な側面の戦略目標間の因果関係が明確になり、組織目標がどのように実現されていくのか明示化されているため、現場の管理職がバランスト・スコアカードで評価されることに納得感があるのではないか。
部門ごとの損益業績管理は管理会計の一番中心的な部分である。様々な部門がある中で、どの範囲を利益センターとして管理するのか、どのセンターで収益と費用を認識して利益に対して責任を持たせるのかといった点が重要になる。特定の財務業績に責任を持たせることが、経営層による現場の方向付けになっていると言える。
診療報酬対象のサービスを直接提供している部署(例えば各診療科、各病棟)は、提供しているサービスには診療報酬が直接設定されているため、利益センターとして管理する傾向が強い一方、管理部門の中の各部門(例えば経理部、人事部)は原価センター、コストセンターとして管理する病院が多い。ただし、診療科等に対して収益予算のみを設定し、収益センターとして管理している例もある。
医療の提供は医師の指示から始まるため管理可能性がないことから、中央診療各部門(例えば手術室、検査室)をコストセンターとして管理している病院がある。他方、コストセンターとしての管理では職員のモチベーションが低下するため、管理可能性は低いかもしれないが、自分たちの提供しているサービスが収益を生んでいると認識させる観点から、中央診療各部門を利益センターとして管理する例も最近増えてきている。
管理部門がないと病院全体の売上が上がらないため、補助管理部門(例えば人事課、経理課)も収益を認識させるために、利益センターとして管理する例が見られる。医療界には様々な職種の人がいて、診療科は利益に責任を持つ、事務方はコストだけに責任を持つとなると、階層意識が生まれかねない。職種間の階層意識を和らげ協力関係を促進しようという観点からも、補助管理部門に収益を認識させ、費用と対応させて利益センターとして管理しようという流れが見られる。もう1つは効率化であり、費用だけ関心を持てばいいと言われるのと、収益もちゃんと認識させて収益と費用の差額としての利益を見せるのとでは効率化の度合いが違う。
利益センターとして管理する場合、どの費用を控除した後の利益で管理するのかが課題になる。全般的には診療部門で発生するサービス提供原価と管理部門で発生する管理費の両者を含む医業費用を医業収益から引いた医業利益を使って利益センターを管理することが多い。一方で、医業外費用である借入利息などを引いた後の利益、管理費を除いた後の医業費用・医業費用の中の直接費・材料費のみを引いた後の利益、または建物減価償却費は含めないで原価計算した結果としての利益に対して責任を持たせる例もある。さらには、段階的な費用控除をして複数の利益を活用してそれぞれの目的に応じて管理していく例も出てきている。
責任センター別の損益計算の実施状況については、4割半強が部門損益を把握している。そのうち1割半強しか部門損益を目標管理していない。つまり、トップ層と現場部門管理者との間で部門損益あるいは部門収益に対する合意形成を必ずしもやっているわけではないという結果である。また、経営層と現場管理者の間に損益目標設定による明確な合意形成があるほうが、現場が主体的に損益管理に取り組んでいる。部門別の損益に対して目標管理をしている群では、現場管理者の4割が損益計算結果を自らが中心となって使っているのに対し、目標を管理していない群では、2割のみである。
病院の財務業績への影響について見ると、部門別収益予算管理をしている病院のほうが、黒字病院の割合は有意に大きい。また、医業利益率や病床当たり医業利益は有意性まではないが高い傾向が推察され、経営層と現場管理者の間に収益予算編成によって収益目標の明確な合意が形成されている病院のほうが採算性がよい傾向にある。その際、(1)病床や手術室等の稼働率向上、(2)DPC(Diagnosis Procedure Combination、診断群分類)サービスごとの採算性向上、の2つの経路を通じて、部門別の損益業績管理が最終的な医業利益の向上(病院全体の財務業績の向上)につながっていると思われる。こうした事例としては、佐賀大学病院のテナント式損益管理がある。経営方針へ職員の合意を得ることを通じて、現場に自発的に経営方針に沿って努力をしてもらうという経営管理の手法であり、この効果として稼働率が向上し、医業利益率も上がった。
地域連携バランスト・スコアカードについて、日本には基本的に地域連携バランスト・スコアカードはないが、今年半ばまでに各都道府県は原則として二次医療圏を対象に地域医療構想をつくることになっている。この地域医療構想の策定に際して、計数情報に基づきながら、地域住民を含む病院内外の関係者の合意を形成することが想定されている。この構想での合意事項を遂行するために、指標とその目標値を設定し、実行状況を評価し、必要ならその施策や構想自体を修正していくというPDCAサイクルの仕組みを機能させることがガイドラインで示されている。具体的な管理手法が提示されているわけではないが、運用方法次第では地域連携バランスト・スコアカードとして展開することが可能な状況になってきていると考えている。

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