財務総合政策研究所

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「医療・介護に関する研究会」報告書

平成28年5月発表

目次
(役職は平成28年5月現在)

序章

全文(PDF:308KB)

井伊 雅子

(一橋大学国際・公共政策大学院教授)

第1章 地域医療の支払い制度 :医療は誰のためにあるのか

全文(PDF:1154KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 総保健医療費の定義
  3. 地域医療(かかりつけ医、かかりつけ診療所)の支払い制度
  4. 終わりに

井伊 雅子

(一橋大学国際・公共政策大学院教授)

第2章 わが国の外来診療の質とコスト
−プライマリ・ケアにおけるかかりつけ医登録制度と包括評価導入の検討−

全文(PDF:1319KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 日本の医療は外来偏重
  3. 外来診療とプライマリ・ケア
  4. 慢性疾患のケア
  5. わが国における慢性疾患ケアの実態
  6. 医療は莫大な費用に見合う効果を挙げていない
  7. What to do? (何をなすべきか?)
  8. プライマリ・ケアに対する支払制度

関本 美穂 

(大阪府済生会吹田病院麻酔科医長)

第3章 医療の質向上と費用節減−両立の条件−

全文(PDF:978KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 医療費の一層の抑制か効率化か
  3. 医療の質を下げない4つの医療費の節減策
  4. 両立策を探るために必要な医療研究
  5. まとめ

近藤 克則 

(千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授)

第4章 Population Health Managementに基づいた
地域包括ケアシステムの展開

全文(PDF:1315KB)

要旨

  1. 緒言
  2. Population Health Managementの概説
  3. 一つの保険者の医療費の分析
  4. PHMの考え方を取り込んだ地域包括ケアシステム(医療・介護・予防部分)の展開
  5. 施策の実施による効果の実際と予測
  6. まとめ

森山 美知子

(広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授)

第5章 米国における医療の質向上と費用抑制の両立のための
取り組み―ACOについて―

全文(PDF:885KB)

要旨

  1. 高齢者等を対象とした公的医療保険制度(メディケア)における取り組み
  2. ACOの仕組み
  3. ACOの効果と課題
  4. まとめ

前島 優子

(財務総合政策研究所総括主任研究官)

第6章 ACOの最近の状況

全文(PDF:492KB)

要旨

  1. はじめに
  2. ACOの概要
  3. メディケアACOの最新の状況
  4. コマーシャルACO
  5. リスク調整
  6. おわりに

岩崎 宏介

(Milliman 執行役員(アクチュアリー))

第7章 Accountable Care Organizations―日本への示唆

全文(PDF:763KB)

要旨

  1. 緒言
  2. ACO誕生の基盤:プライマリ・ケアを中心とした地域密着型モデル(Medical Home)の導入
  3. 疾病構造・人口構造の変化に対応したプライマリ・ケア・システムのメリット
  4. まとめ

森山 美知子

(広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授)

第8章 地域医療構想の概要について

全文(PDF:1709KB)

要旨

  1. 地域医療構想の目的
  2. 地域医療構想で利用される資料
  3. 実際の検討事例―福岡県を事例として―
  4. まとめ―地域医療構想の実効性向上のために必要なこと―

松田 晋哉

(産業医科大学医学部教授)

第9章 夕張市の医療崩壊と市民生活への影響、
そこから日本全体の問題を考える(講演録)

全文(PDF:545KB)

要旨

  1. はじめに
  2. 夕張市の事情
  3. 日本および世界の事情
  4. 夕張市の秘密
  5. 夕張の未来、そして日本の未来

森田 洋之

(南日本ヘルスリサーチラボ代表)


 

第1章
地域医療の支払い制度:医療は誰のためにあるのか

井伊 雅子(一橋大学国際・公共政策大学院教授)

【要旨】

世界の医療制度改革と比較した場合、日本の特徴は、医療が公的な希少資源であるという意識が医療提供者、行政、国民に欠如していることだ。公共財である医療を、商業主義的に扱う傾向さえみられる。政府は、経済再生と財政健全化を両立させる政策として、公的サービスの産業化やインセンティブ改革を強調しているが、インセンティブ改革を行うのであれば、健康な時から継続的に地域住民の健康状況を把握し、地域住民が健康になることで医療機関が経営できる支払い制度に改めるべきだろう。現行の制度は、地域住民が病気になったり、気になる症状が出て初めて医療機関にかかる仕組みであり、医療の必要度の検証もなく、ともすれば利益を上げるために患者を作り出し、過剰なサービスを提供するリスクをはらんでいる。一方で、必要な医療(介護を含む)を受けられない「過少医療」も問題になっている。現行制度では患者の満足度も低く、財政的にも持続的でない。

医療給付費に連動した公費のあり方も大きな問題だ。国から保険者への財政支援として、給付の一定割合を公費として(事後的に)負担する仕組みになっているからだ。個人の負担能力を厳正に判断して、低所得者への支援に限定する仕組み、つまり保険者ではなく、オランダのように、被保険者を直接補助する仕組みが必要である。海外で進められている改革から我々が学ぶ際には、それぞれの国のコンテクストの理解が必須だ。その上で、プライマリ・ケアの先進国がどのように広域にわたる公益性の高い取り組みをしているかを学ぶべきである。そして、所得格差が拡大し貧困層が増加する中、自己負担の増額だけに頼るのではなく、所得税改革など「世代内の公平」、「世代間の公平」の観点からの制度見直しも一層進めていく必要がある。その際、政府が責任を持って保健医療関係の統計を整備していくことが前提条件となる。

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第2章
わが国の外来診療の質とコスト
−プライマリ・ケアにおけるかかりつけ医登録制度と包括評価導入の検討−

関本 美穂(大阪府済生会吹田病院麻酔科医長)

【要旨】

わが国の医療の最大の問題は、国民が支払っている莫大な医療費に見合う効果が得られていないことである。医療費高騰の要因として、1)不必要な医療、2)非効率的な医療、3)一貫性のない医療、4)高コストの医療者の非効率的な利用、5)疾病予防の機会損失などが挙げられる。出来高支払いの下では医療サービスを多く提供するほど医療機関の収入は増えるので、不必要な医療が行われやすいうえに疾病予防が疎かになる。またフリーアクセス制度は、医療のニーズ(疾患や重症度に基づいた医療の必要性)と受診先の診療機能(プライマリ・ケア/専門診療)のミスマッチによる効率の低下を招くだけでなく、複数の医師がばらばらに関わることで適切な意思決定を損ないやすい。さらに患者の健康問題全体を把握する医師がいないと、必要な医療をタイムリーに受ける機会を逸する。

超高齢化社会における医療ニーズに対応するためには、患者の健康に関する情報を病歴や服薬歴も含めて把握、管理するかかりつけ医の存在が不可欠で、日本でも個人にプライマリ・ケア医をかかりつけ医として登録する改革が必要である。「かかりつけ医登録制度」が導入されれば、診療の幅広さや継続性、包括性、他の医療機関や多職種との連携など、これまでとは全く違う側面が患者の評価の対象となり、ひいては適切な質の競争と全体的な質の向上につながることが期待される。現在国民の殆どは、「かかりつけ医」のメリットを十分に理解できていない。そこで、患者がかかりつけ医を積極的に利用するための何らかのインセンティブが必要になる。このメカニズムが機能するには、質の高いかかりつけ医を選ぶことで患者がメリットを実感できるようなシステムの構築が鍵となる。すなわち、1)患者にとっては、質の高いジェネラリストをかかりつけ医に選ぶことで少ない自己負担で高い健康水準が維持でき、2)医療者側にとっては、幅広い疾患をカバーするとともに質の高い医療、予防医療を提供することが高く評価される制度である。具体的には、1)かかりつけ医はcommon disease全般を診療の対象とする、2)かかりつけ医に対する診療報酬を包括評価とし、プライマリ・ケアに対する自己負担を無料にする代わりに、かかりつけ医以外の受診に対して自己負担を求める、3)かかりつけ医による高額医療機器の利用を包括支払に含める、4)診療のボリュームではなく、医療の質に対して報酬を与えるPay for performance制度の導入、5)診療の透明化と診療内容に関する医療機関の情報公開である。

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第3章
医療の質向上と費用節減−両立の条件−

近藤 克則(千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授)

【要旨】

医療費を一律抑制すれば、医療は荒廃する。医療費の自己(窓口)負担増加は、医療を必要としている低所得層を医療から遠ざけるにも関わらず、必ずしも公的医療費の抑制につながらない。医療の質を向上させつつ医療費用を節減するには、それが期待できる対象や方法を特定しアプローチする必要がある。本章では、1)過剰医療の抑制、2)過小医療の是正、3)誤用医療の抑制、4)非医療的なアプローチによる健康水準の向上の4つの視点から考察した。

1)過剰医療は、やり過ぎだと医師も国民も意見が一致する医療であり、技術レベルでは過剰な胃ろう造設、医療基盤レベルでは人口減少地域における過剰病床などがそれにあたる。過剰な(そのために有害・不要な)医療を抑制しても、医療の質は下がらず(時に向上し)、それにかかっていたコストは減る。

2)過少医療は、やるべき医療が広く普及していないもので、例として肺炎球菌ワクチンの予防接種などがあげられる。それによって入院が減り死亡率が下がる場合は医療の質向上となり、入院費用などの節減額が予防接種の費用増加を上回る場合は費用節減となる。

3)誤用医療は、処方ミスや医療事故など、誤った医療である。これらが減れば医療の質向上と費用節減は両立する。

4)非医療的なアプローチによる健康水準の向上とは、WHOも着目する健康の社会的決定要因に対する社会・経済政策などによって健康水準を上げ、必要となる医療費を節減するアプローチである。

これらを政策に応用するためには、まず「何が過剰・過小・過誤医療か」「健康水準向上につながる非医療的なアプローチは何か」などについての調査研究が必要である。これらは狭義の「医学」研究とは異なる「医療」研究の課題である。狭義の医学研究は、生命現象や病態生理の解明、効果的な医学技術開発を追求しており、それが蓄積されても政策の直接的な根拠は得られない。根拠を増やすために医学研究に比べ少なすぎる医療研究の研究資源の配分を増やすべきである。また、現状の「見える化」に留まらず、近未来の「見える化」も進め、今後の変化への対策を講じる必要がある。

医療費を一律抑制すれば、医療は荒廃する。医療の質向上と費用節減を実現するためには、1)過剰医療の抑制、2)過小医療の是正、3)誤用医療の抑制、4)非医療的なアプローチによる健康水準の向上策を強化すべきである。そのためにも、医療研究への資源の投入を増やし、今後の変化を先取りした対策が望まれる。

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第4章
Population Health Managementに基づいた地域包括ケアシステムの展開

森山 美知子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授)

【要旨】

地域包括ケアシステムの構築と、各集団におけるヘルスケアの質の向上と費用抑制のためには、集団特性の分析とその集団の有するリスクに応じた施策の立案が有効である。Population Health Management(PHM)は、第5章〜7章で紹介されるACOにおいて、質の維持と費用抑制のために多用されている効果的なマネジメント方式である。

本章では、PHMを概説したうえで、広島県呉市や大崎上島町で実施した国保・後期高齢者医療費分析の結果をPHMの概念に当てはめ、リスク・資源配分に応じて階層化し展開する事業を例示するとともに、医療費の適正効果をシミュレーションした。

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第5章
米国における医療の質向上と費用抑制の両立のための取り組み
―ACOについて― 

前島 優子(財務総合政策研究所総括主任研究官)

【要旨】

米国のメディケアによるACO(Accountable Care Organization)にかかる取り組みが、地域の医療者の自発的な組織化を促進しており、医療の質の向上と費用抑制の両立に成功していると発表されている。ACOとは、連携のとれた高質なケアを提供するために自発的に組成される医療者組織であり、メディケアが行う支払改革の対象である。

米国政府は、医療の質とコストに関する情報を一元的に把握・分析・公表する体制を整備しつつ、医療者の自発的な組織化と連携のとれた高質なケアの提供が推進されるよう、質の評価と医療費抑制のインセンティブを付した支払い方法を開発している。ACOには、エビデンスに基づくパフォーマンスとデータによる説明責任を課し、質と支払いをリンクさせる。多様な支払いプログラムを用意し、改革が円滑に推進されるようなプロセスに配慮している。

ACO にかかる取り組みは、政府がフリーアクセスを維持したまま、医療の質の向上と費用抑制の両立を果たそうとするものであり、示唆に富む。米国は、医療へのIT導入と支払改革によって、地域の医療資源の連携と本来の能力発揮を促進し、高齢者等の健康管理を行う体制整備を着実に進めようとしている。

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第6章
ACOの最近の状況

岩崎 宏介(Milliman 執行役員(アクチュアリー))

【要旨】

Accountable Care Organization(ACO)は、Primary Care Physician(PCP)を核とする医療提供者の組織であり、医療の質を確保しつつコスト削減のインセンティブを持つ。2014年の、ACOによる医療費削減とQuality Metricsの達成状況は順調であった。これを受けて、Centers for Medicare and Medicaid Services(CMS)はACOにより積極的な役割を与える仕組みを模索している。また、メディケア の対象外の被保険者をカバーするコマーシャルACOも出現しはじめた。

ACOの成功の鍵は、データ分析だと言われている。米国では、データ分析に基づいて、リスク調整などの技術が整備され始めている。

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第7章
Accountable Care Organizations―日本への示唆

森山 美知子(広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授)

【要旨】

ACOは、米国で、保険者が医療提供者をコントロールしてきた流れに対する、医療従事者(特に、プライマリ・ケア・プロバイダー)によるコントロールを自分達に引き戻す回帰ともいえる。このプロセスには、Patient-centered Medical Homeが先行し、ここでプライマリ・ケア(医)の機能や仕組み(構造)を明確にした上で、ACOでは医療従事者の自発的なネットワーク化や取り組みを促し、アウトカムを評価する新たな支払いを組み込んだと考えることができる。

その一方で、ACOは従来の医療提供モデルとは異なる。従来の急性期モデルが患者の疾病への事後対応であるのに対して、ACOも含む慢性期ケアモデルは疾病が起こる前にハイリスク者や状態を特定し、対処するプロアクティブ・モデルである。

疾病構造と年齢構造が変化し、医療も病院(入院)を中心とした急性期モデルからプライマリ・ケア(予防)に重点を置く慢性期ケアモデルにシフトする必要性が高まっている。世界がプライマリ・ケア重視にシフトする中、我が国も医療提供体制の変革が必要とされる。米国の動向は我が国の参考になると考える。

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第8章
地域医療構想の概要について

松田 晋哉(産業医科大学医学部教授)

【要旨】

平成27年度から各都道府県で地域医療構想策定の作業が始まっている。団塊の世代が後期高齢者になる2025年を目標年度として、超高齢社会に適した医療提供体制を各地域の状況を踏まえて構想するために、今回の策定作業に際しては各種データが厚生労働省から提供されている。このデータの基本となったのはDPC (Diagnosis Procedure Combination: 診断群分類)とNDB (National Database)という日本版医療ビッグデータである。筆者らはこのデータを用いて、各地域の現在及び将来の傷病構造を推計し、その結果をもとに病床機能別秒所数を推計するロジック開発を行った。こうしたデータが整備されることで医療関係者は当該地域の将来の傷病構造に関する将来像を具体的に考えることが可能となった。今後、このデータを基に第7次医療計画が、具体性を持って策定されることになる。

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第9章
夕張市の医療崩壊と市民生活への影響、
そこから日本全体の問題を考える(講演録)

森田 洋之(南日本ヘルスリサーチラボ代表)

【要旨】

財政破綻及び医療崩壊が起こった後の夕張市では、75歳以上の人口は増え続け、総死亡の標準化死亡比(SMR)は変わらないまま老衰による自然死が増加し、1人当たり医療費の減少、救急車の出動回数の減少、特養の看取り率が100%になる等、医療崩壊の結果とは言えないような変化が起きている。

医療の目的の原点は、「末永い健康をお金をかけずに」ということであろう。夕張市では財政破綻及び医療崩壊が起きた後、予防医療を重視した。肺炎球菌ワクチンの接種や口腔ケアを行い、肺炎の発症や肺炎による死亡が大幅に少なくなった。こうした取り組みが老衰死を増加させた理由と考えられる。また、市民が生活習慣を改善し健康に気を配る等、医療依存から予防医療へ意識のシフトがみられるようになった。

終末期医療についても、病院依存から天命を受け入れる意識に変わっていったことにより、特養など施設での看取り率が100%になり、救急車の出動も減ったと考える。夕張市の場合、診療費や医療費が減ったかわりに介護費は増加しているが、トータルでみると減少しており、さらに介護費でみても全国平均より低い。重要なのは予防医療や天命を受け入れる市民意識とそれを支える介護体制、さらにそれを支える少しの医療である。

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