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財務総合政策研究所

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医療・介護に関する研究会
第3回会合
2015年10月9日(金) 15:00〜17:00
於: 財務省4階 西456「第1会議室」

第3回会合

報告 『ポピュレーション・ヘルス・マネジメントを基盤にした地域包括ケアシステムの構築と展開』

報告者

森山 美知子 広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授
報告資料[2.4mb,PDF]
報告 『質とコストから考えるわが国の外来診療』

報告者

関本 美穂 大阪府済生会吹田病院麻酔科医長
報告資料[606kb,PDF]

議事要旨

(1) 報告『ポピュレーション・ヘルス・マネジメントを基盤にした地域包括ケアシステムの構築と展開』

森山 美知子 広島大学大学院医歯薬保健学研究院教授

ポピュレーション・ヘルス・マネジメント(以下、PHM)とは、「集団に属するすべての者が何らかの健康支援を必要とするとの認識に立ち、集団に属する人々を身体・心理社会的ニーズ評価から資源の投入度等に応じてリスク分類(階層化)し、そのリスク特性に応じたプログラム/サービスを提供する」ことを指す。PHMの考え方を地域包括ケアシステムの保健・医療・介護・リハビリテーションの部分に応用することで、地域全体への対策を包括的に検討することが可能となる。
広島県大崎上島町では、3年前にPHMの考え方を導入し、地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる。平成27年現在、大崎上島町は人口8,000人、高齢化率50%、多くの高齢者がひとり暮らしをしている場所である。診療所5カ所に医師が5名(大先生を含めると9名)いるが、医療者の新規流入がないため、今後は医療資源の減少が見込まれている。診療所は夕方は閉まり、夜間診療は限定的である為、急病は救急艇を使い本土の病院にかかる等、緊急時に備えて定期的に本土の病院に顔つなぎ受診をしている状況である。大崎上島町では、PHMを展開するために、レセプトデータ(後期医療費、国保、介護保険)を用い、入退院を繰り返している人の傾向、医療費の使われ方、疾病構造等を分析した。それを基に住民をリスクの状態に応じて、マル1在宅看取り、マル2医療的見守り、マル3疾病管理、マル4健康増進(介護予防・特定保健指導等)の4つに分類した。
マル1在宅看取り」にあたっては、オランダやデンマークのマントルケアのように、主に一人暮らしの終末期の人に寄り添う「寄り添いパートナー」(以下、寄り添いさん)を養成する取組みを昨年度から始めた。寄り添いさんは、寄り添って話し相手になり、生活を見守るとともに、日常生活の些細なことを手伝ってもらう。寄り添いさんになるためには、町が行う講習会を受講し、話の聞き方、寝たきりの人に対する水の飲ませ方、タッチング(手をあてる等触れることによる看護手法)、緊急時の対応等を学び、町に登録する。寄り添いさんへのニーズがある場合、町の生活コーディネーターがマッチングを行う。この取組みは徐々に広がっている。
マル2医療的見守り」にある人たちには、高い医療資源の投入が必要となる層である。高齢者は心不全を罹患する割合が高く、この人たちが入退院を繰り返すことで多額の医療費が発生することが分析から明らかとなった。この結果を受け、心不全で入院歴のある人全員に家庭訪問を行い、体重と血圧を継続的に計測してもらい、その経過を遠隔でモニタリングした。心不全の悪化は体重の増減で見ることができ、体重が短期間で増加したときには、早目の受診を促し、利尿剤の増加や生活習慣に対する指導を行っている。これによって入院を防ぐことができ、医療費が抑制できる。広島大学病院心不全センターで、われわれも加わったチーム医療の実践成果では、心不全の重症化予防のため、看護師や理学療法士等が患者教育や心臓リハビリテーションを行っている。この介入によって、入院回数、在院日数、診療報酬請求額が半分以下に減少した。チームを組んで生活指導や症状管理をすることで入院を防ぐことができることが統計学的有意性を持ってデータから示された。
マル3疾病管理」では、糖尿病や高血圧等、放置すると医療費が高額となる人たちの予防がメインである。レセプトや健診データから対象者を抽出し看護師が指導を行った。100名以上に指導した結果、自己管理行動(血圧・体重・食事・運動)が全て改善し、血圧、体重、尿たんぱく、血液検査データも統計学的有意性を持って改善した。また、われわれが厚生労働科学研究費補助金を用いて行った慢性疾患(脳卒中)の再発予防、広島県呉市で実施した糖尿病腎症からの透析予防において、状態改善効果と医療費適正化効果をみるため、従来どおりかかりつけ医の先生からの治療を受ける「対照群」と、自己管理行動の指導を6カ月間行った「介入群」に分け比較分析を行ったところ、「介入群」には一定の予防効果と医療費削減効果が認められた。
PHMを用いた実践を成功に導くには、科学的根拠に基づいたアプローチとケースマネジメントを行うことが重要である。治療対象者は、年齢、性別、疾患名、頻回受診、夜間受診、土日受診の有無、過去のレセプト等から特定する。将来、医療費のかかる人を早く発見して対処することで医療費を抑えることが目的となる。他方、アメリカで導入されているACO(Accountable Care Organization)では、処方薬の数やレセプトからリスク分類を行い、重症者には看護師や医療ソーシャルワーカーの資格を持つケースマネジャーがその人に合った治療を考え医療サービスを提供する。ケースマネジャーと医療関係者が連携することで、緊急入院を抑えるようにマネジメントする。そして、コストを削減することによって生じた余剰資金が、医療者にリターンされるというインセンティブが組み込まれて、臨床指標を何%到達したかで報酬がプラス・マイナスされる仕組みとなっている。日本でも、大崎上島町で実施しているPHMの仕組みに支払いの観点を組みこむことで、日本でも医療者にインセンティブを与えられるような方法が構築できるのではないか。
今年度から、人口23万人と比較的人口規模の大きい広島県呉市でも大崎上島町と同様の取組みを始めた。呉市では、地域包括ケアシステムのゴールである在宅での看取りを進めるために、また、難病・重症の患者もかかりつけ医が対応できるように、専門医や緩和ケア担当の薬剤師によるかかりつけ医のバックアップ機能を取り入れ、かかりつけ医をサポートして、高度なケースマネジメントを行うやり方ができないか関係者で協議しているところである。また、呉市では2014年度から循環器疾患再発予防プロジェクトを開始している。例えば、脳卒中は発症して6カ月以内に再発するリスクが高いので、レセプトで追いかけると対応が遅れる。そこで急性期病院の医師に依頼し、退院時に同意を得て市に脳卒中登録をしてもらい、退院直後からかかりつけ医や疾病管理会社の看護師から再発予防の教育が入るという取組みを実施している。また、呉市では、かかりつけ医の診療所に専門的な患者指導のできる看護師や管理栄養士がいない場合には、依頼に応じて重症化予防プログラムを実施する看護師が保健指導の部分を受け持つという連携を開始している。このような診療所のかかりつけ医を、医療保険者が、疾病管理会社の看護師や管理栄養士を活用して支援する仕組みは、診療所の規模が小さく、日本の医療現場では有効な方法であると考える。
後期高齢者医療制度、国保、介護保険のレセプトの突合分析を行うことで、医療や介護に関する詳細な実態が浮かび上がってきている。医療費が発生している人の全体の2割の人が大半の医療費を使用している実態がある。一部の被保険者が非常に高額な医療費を使用している実態も明らかになった。高額な治療に関しては、ヘルス・テクノロジー・アセスメントを導入して、高額な治療薬や高額医療機器の使用等、費用対効果による検討が必要であり、QALY(Quality Adjusted Life Years)を入れて検討するべきである。

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(2) 報告『質とコストから考えるわが国の外来診療』

関本 美穂 大阪府済生会吹田病院麻酔科医長

日本の医療は外来偏重と言われる。日本の医療現場では終日外来診療を行うケースもあり、現場から見ても外来診療が多いと感じる。外来は一定程度の収入源となっているため、診療時間を短縮できないケースがある。日本のようにフリーアクセスの世界では、医者は人気商売なので評判を落とすことは死活問題である。日本の患者の外来受診回数は他国に比べて多く、欧米が多くて年に5回のところ、日本は年平均13回となっている。外来診療はプライマリ・ケアや慢性疾患のケアだけでなく、病院や専門的な医療機関で行われる特殊外来診療もあり、範囲は広い。医療の進歩によって、以前は入院でしかできなかった治療が外来でも対応可能になってきたことも、近年外来診療が増えてきた要因である。他方で、日本の外来診療では、医療の質を落とさずに無駄な医療を削減する方策があると考える。
多くの患者がいて多額の医療費がかかっている慢性疾患が生活習慣病である。協会けんぽのデータを使用して、慢性疾患の外来診療の実態をみるために、糖尿病(82万人)、高血圧(200万人)の患者のデータを解析した(入院歴のある患者、在宅治療や血液透析中の患者は除外)。約350程度ある二次医療圏ごとに診療所と病院を取り上げ、平均受診間隔を比較すると、二次医療圏ごとによって大きく異なっているが、病院の方が受診間隔が長いことが分かった。診療所は受診間隔が短く二次医療圏ごとのばらつきが小さいことも分かった。外来医療費について同様の比較を行うと、病院の方が高いことが分かった。この背景には病院は診療所と比べて特殊な検査や高額な治療を行う件数の多さや、合併症数が多い患者や重症度の高い患者を診ている傾向が高いことがあると考えられる。医学的には患者の重症度やケアの必要性に応じて受診間隔が決まると思われるが、そのような関係は見られず、年齢や性別による違いも小さい。合併症が増えると外来医療費は高くなるが、その割には処方日数は変わらない。また、診療所の医師密度が高い地区では受診間隔が短くなる傾向が見られた。医師密度が多いと医師一人当たりの患者は少なくなるため、患者の訪問回数を増やすことで収入を増やそうとしている可能性が推測できる。一方、病院の医師密度は受診間隔と関係しない。病院の医師はサラリー制度なので、受診回数によって給料は変わらない。このように収入が受診回数に影響を与える可能性も考えられる。
受診間隔を短くすることと病状のコントロールには関係は見られなかった。病院の医師密度は受診間隔と関連しないが、診療所も病院も医師密度が増えると患者1人当たりの医療費は多くなる傾向が見られた(医師誘発需要ではないか)。日本の生活習慣病の外来診療における問題点の一つは、受診頻度が高過ぎることだ。欧米先進諸国の患者の受診頻度は3カ月に1度程度が一般的である。受診頻度を半年に1度にしてもさほど問題がないという研究結果もある。
治療や薬の処方において、費用対効果の考え方が浸透していない。その背景としては、医療のフリーアクセス、患者と医師間の情報の非対称性、出来高払いの医療制度等が考えられる。医療機関は高額な医療機器を整備することで患者の獲得を図るが、その分投資回収の必要性が上がる。また、現在の医療制度は費用対効果が小さい医療行為に対しても診療報酬が支払われることから、強い効果が期待できなくても医療行為を行ってしまう。現在の医療制度のもとで医療機関が自らの利益を最大化しようとすると、問題となる事象が自然と生じる。一番の問題は、費用に対する効果が見合わないことである。この問題意識についてはアメリカで研究が進められており、アメリカの医療費の約30%は無駄な支出と指摘する研究結果もある。
この問題の是正のために出来ることがいくつかある。1つには、医師以外の医療者によるケアの拡大だ。医師と医師以外の医療者のプライマリ・ケアを比較した海外の研究では、トレーニングを受けた看護師は医師と変わらない能力を発揮するとの結果や、ナースプラクティショナーのケアは医者よりも満足度が高いという結果もある。また、医療の透明性の確保も必要となる。日本の医療現場ではこれまで、他の医師、医療機関で行われている治療が公開されてこなかったが、これからは医師、医療機関によってどれだけ治療が異なるのか、オープンにする必要がある。
慢性疾患ケアモデル(Chronic care model)と呼ばれるケアでは、自己管理の支援、意思決定支援、医療提供システムのデザイン、臨床情報システムの4つの要素から取り組みがなされる。4つの要素のうち一部の取り組みでも、患者の状態が改善する効果があることが分かっている。他方で、同モデルのコスト削減面に関しては様々な見方がなされており、確たる結論は出ていない。
プライマリ・ケアと病院外来診療における支払い制度について考えてみる。イギリスの国民保健サービス(National Health Service)の援助により、治療と予防に関する質の高い医療研究を集めてレビューしたCochrane review(2000)によると、プライマリ・ケアの支払い制度には、給与、人頭払い、出来高の3つがある。給与と人頭払いはProspective paymentの一種である。人頭払いにはコスト抑制の作用があると言われるが、患者を登録することでお金がもらえるので、登録患者の増加に対するインセンティブが生じる。その一方、患者が増えると労働量の増加や患者にかける時間が減るという弊害が生じるとも指摘される。そのほかには、予防医療に対するインセンティブは高いが、合併症のようなコストのかかる患者に対しては、クリームスキミングが起こりやすいとの指摘がある。
多くの国では複数の支払制度を組み合わせている。複数の慢性疾患を持つような患者の診療には、出来高払いは向かない。慢性疾患が悪化すると医療費がかかる。出来高払いのもとで、疾患が悪化すると医療機関の収入が増えるので、予防に対するインセンティブが働きにくくなる。このような患者の診療には包括払いが適している。包括払いでは報酬が一括で支払われるため、医療提供者はケアを予算内で自由な裁量で決めることができる。このような制度の下では、医師以外の医療スタッフにケアを拡大させることで、効率的に医療を提供できる体制づくりを促進させることができるのではないか。慢性疾患は疾患を悪化させないことが大切であり、そのケアは生活習慣の改善や自己ケアの重要性が高く医師よりも看護師の方ができることが多い。このため医療者の士気の低下を招くおそれがあり、この点の配慮が必要だ。
日本では効果のエビデンスがほとんど実証されていない診療行為に報酬がつけられているが、診療行為一つ一つの費用対効果を検証して、診療行為の値段に反映させるのは事実上不可能だ。無駄な医療を減らすためには、個々の患者のケアを包括的に評価する制度にすることで、各医療機関に限られた費用で最大限の効果を出そうというインセンティブを与えることができるのではないか。医療者の士気を高めるためには、現在のように診療のボリュームにお金をつける方法ではなく、医療の成果を評価して成果にお金をつける方法を検討する必要がある。包括支払い制度では、ケアに対する責任の所在を明確にする必要がある。患者のケアの責任を持つ医療者を1カ所に決めても、フリーアクセスのままでは責任機関以外を受診することで責任の所在が骨抜きになる危険性がある。ACOのように、さまざまな医療提供者が大きな組織を形成して、その組織がかかりつけ医の役割を果たすやり方は日本でも受け入れやすいのではないか。加えて、医療が過少になってしまうといった懸念のほか、例えば生活習慣病のケアでは短期間での効果が見えにくいので、手抜き医療を引き起こす可能性も考えられる。
テクニカルな問題として、包括支払いは日本で導入されていない支払制度なので導入にあたっては障壁があると考える。包括の範囲も定義が難しい。この支払制度の導入は、社会と医療者の意識が変わらない限りうまくいかないと思われる点には留意が必要だ。
外来患者を疾患や治療内容でグループ分けをし、同じグループに属する患者に対する医療のやり方や医療費のかけ方を情報公開する仕組みが良いと考える。医療の透明性の確保は不可欠であり、今のレセプトデータも医療の透明性の確保を見るデータとしては不十分だが、何かの形で同じような臨床的特性を持つ患者をグループ分けして、そのグループに対する医療内容を公表することが必要だ。現在、入院に対する包括医療費支払い制度方式では、同じグループでどれだけやり方が違うかのかが公表されており、病院の入院診療の標準化や費用の収束に貢献している。外来診療も同様に情報公開が必要だと考える。

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