財務総合政策研究所

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報道発表

平成26年6月27日

財務省

「高齢社会における選択と集中に関する研究会」(財務総合政策研究所)が報告書を取りまとめました。

我が国は、諸外国に例をみない急速な高齢化に直面しております。高齢化の進捗は、労働力人口の減少、貯蓄率低下及び投資の減少等を通じて、経済成長に影響を及ぼすほか、社会のあり方についても検討が必要となるなど、今後の我が国を左右する現象です。

高齢化を前提として我が国経済社会を維持していくためには、財政面での制約を踏まえ、公的部門の支出を真に必要とされる分野に限定しつつ効率的に行うとともに、公的部門が担っていた役割に民間企業を活用していくことが必要となると考えられます。

「高齢社会における選択と集中に関する研究会」では、高齢者のニーズとはどのようなものか、ニーズへの対応に関する官と民との役割分担のあり方はどうあるべきか、「選択と集中」を意識した、官民それぞれの高齢化に対する取組のあり方とはどのようなものかについて、貝塚啓明・財務総合政策研究所顧問を座長とする研究会において検討を行ってきました。

今般、これまでの検討を踏まえ、研究会の成果として研究会メンバーの執筆により報告書を取りまとめました。1. 報告書の各章の標題と執筆者名、2. 研究会メンバー、3. 報告書の各章の要旨は、別紙のとおりです。

なお、本報告書の内容や意見はすべて執筆者個人の見解であり、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式見解を示すものではありません。

【連絡先】

財務省財務総合政策研究所研究部

総括主任研究官 伊藤

研究員     増田

研究員      原

電話: 03-3581-4111(財務省代表)

内線: 2253, 5974


(別紙)

1.報告書の各章の標題と執筆者名

(役職名は2014年5月現在)

序章

高齢社会における「選択と集中」

貝塚 啓明

研究会座長・財務省財務総合政策研究所顧問

伊藤 美月

財務省財務総合政策研究所研究部総括主任研究官

増田 知子

財務省財務総合政策研究所研究員

原  亮太

財務省財務総合政策研究所研究員

1.高齢社会における「選択と集中」のための課題

第1章

超高齢社会の課題と可能性(講演録)

秋山 弘子

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授

第2章

高齢社会における経済成長と意思決定

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授

2.高齢者のニーズ及びニーズに対応した産業

第3章

高齢者市場開拓の意義と期待
―より豊かな長寿の実現に必要な高齢者ニーズへの対応

前田 展弘

株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員、
東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員

第4章

高齢社会のニーズと産業・制度の相互補完

柏谷 泰隆

株式会社三菱総合研究所人間・生活研究本部主席専門部長

第5章

高齢者市場への取り組みの考察:社会的課題解決に向けて

白木 康司

株式会社みずほ銀行産業調査部ライフケアチーム次長

3.高齢社会における公的部門の役割

第6章

社会保障制度における「選択と集中」

加藤 久和

明治大学政治経済学部教授

第7章

高齢社会における社会資本整備

中村 研二

株式会社日本経済研究所調査本部政策調査部長

第8章

望ましい「老い方・死に方」と今後の医療・介護
―人口構造の変化を踏まえた対応策―

高橋  泰

国際医療福祉大学大学院教授

4.諸外国の高齢化の状況と対応

第9章

東アジアの高齢化問題(講演録)

大泉啓一郎

株式会社日本総合研究所調査部上席主任研究員

特別講演

強靱でしたたかな普通の国スウェーデン
―次世代・未来志向の国づくり

渡邉 芳樹

国際医療福祉大学大学院教授、
前・駐スウェーデン日本国特命全権大使

注)報告書の内容は断りのある場合を除き、執筆時点の2014年3月時点のものである。

2.「高齢社会における選択と集中に関する研究会」メンバー等

(役職は2014年5月現在)

研究会座長

貝塚 啓明

財務省財務総合政策研究所顧問

メンバー(50音順)

秋山 弘子

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授

大泉啓一郎

株式会社日本総合研究所調査部上席主任研究員

柏谷 泰隆

株式会社三菱総合研究所人間・生活研究本部主席専門部長

加藤 久和

明治大学政治経済学部教授

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授

白木 康司

株式会社みずほ銀行産業調査部ライフケアチーム次長

高橋  泰

国際医療福祉大学大学院教授

中村 研二

株式会社日本経済研究所調査本部政策調査部長

前田 展弘

株式会社ニッセイ基礎研究所生活研究部 准主任研究員、
東京大学高齢社会総合研究機構客員研究員

特別講演者

渡邉 芳樹

国際医療福祉大学大学院教授、
前・駐スウェーデン日本国特命全権大使

財務省財務総合政策研究所

中原  広

財務省財務総合政策研究所長

田中  修

財務省財務総合政策研究所次長

高田  潔

財務省財務総合政策研究所次長

佐藤 正之

財務省財務総合政策研究所研究部長

大関由美子

財務省財務総合政策研究所研究部財政経済計量分析室長

伊藤 美月

財務省財務総合政策研究所研究部総括主任研究官

奧   愛

財務省財務総合政策研究所研究部主任研究官

増田 知子

財務省財務総合政策研究所研究員

原  亮太

財務省財務総合政策研究所研究員

3. 報告書の各章の要旨

序章 高齢社会における「選択と集中」

貝塚 啓明

研究会座長・財務省財務総合政策研究所顧問

伊藤 美月

財務省財務総合政策研究所研究部総括主任研究官

増田 知子

財務省財務総合政策研究所研究員

原  亮太

財務省財務総合政策研究所研究員

我が国は、諸外国にも例を見ない急速な高齢化に直面している。高齢化の影響は、経済・社会・福祉等の様々な領域に及ぶ。他方、日本の財政状況は、歴史的に見ても、諸外国との比較においても、極めて厳しい状況にある。

高齢化の進捗、生産年齢人口の減少と財政面の深刻な制約の下では、従来型の社会制度を維持していくことは困難であり、「選択と集中」を意識した対応が必要になると考えられる。それに当たっては、高齢者のニーズを的確に把握し、ニーズへの対応は、民間部門が担えるものは民間部門に任せ、公的部門はそれ以外をカバーするという役割分担を行う必要があるだろう。民間部門は、創意工夫を活かして高齢者のニーズに対応した商品やサービスの開発を行いつつ、更には公的部門が担ってきたサービスの一部を担うことができる可能性がある。その一方で、公的部門は、真に必要な政策分野に資源を集中しつつ、最大限、効率的な実施を図ることが重要な課題となる。

高齢者のニーズをみると、健康不安や身体上の不便の解消や、住み慣れた地域での生活の継続に対するニーズが高いこと、衣食住などの基本的なニーズが満たされた後は、人と認め合うことや自己実現などより高次な精神的欲求の充足へと向かうことがうかがえる。企業は、こうした高齢者のニーズに対応した商品・サービスを開発するとともに、自らの更なる成長のために、今後、高齢社会において需要が増える市場を開拓していくことが不可欠である。公的部門は、企業の参入を阻害するような規制を撤廃し、企業が自らの創意を生かしながらリスクを取ることが可能な環境の整備に力を注ぐことが必要である。

高齢者の社会保障ニーズに関しては、財政制約を踏まえた効率化を行い、本当に支援を必要とする人を救いながら、社会全体としては支出を可能な限り抑制していく必要がある。高齢社会における社会資本整備に関しては、現状と今後の高齢化を踏まえた整備の必要性を把握した上で、財政制約も踏まえて優先順位付けを行い、整備を行う必要がある。また、人口構造の変化に伴う将来の需要予測等を踏まえた医療・介護の供給体制の整備も必要となる。我が国の高齢者の勤労意欲の高さや身体機能の向上を踏まえると、高齢者が地域とのつながりを保ちながら働くことのできる環境を整備することも必要となる。

1.高齢社会における「選択と集中」をめぐる課題

第1章 超高齢社会の課題と可能性(講演録)

秋山 弘子

東京大学高齢社会総合研究機構特任教授

日本は急速な高齢化に直面しており、2030年には65歳以上人口が全人口の3分の1、75歳以上人口が全人口の5分の1を占めるという、世界でどの国も経験したことのない高齢社会を迎える。80歳代、90歳代まで生きることが一般的となる中で、65歳以降の9割程度の期間は自立した生活が可能であり、就労意欲の高い高齢者も多い。そうした元気な高齢者が社会の中でどのような役割を担えるかを考える必要がある。

豊かな長寿社会の実現に向けた今後の課題としては、自立期間(健康寿命)の延長、高齢者が住み慣れたところで安心して快適に日常生活を継続できるような環境の整備、地域で人とのつながりをつくり維持していく仕組み作りが挙げられ、市民、自治体、産業界、学界が連携して取り組んでいく必要がある。

今後は世界中で高齢化が進むため、諸外国が「高齢化最先進国」である日本の取組に注目している。超高齢社会の様々な課題を解決し、新たな日本の発展の可能性を切り拓いていくことは、日本の未来を築くこととなろう。

第2章 高齢社会における経済成長と意思決定

小峰 隆夫

法政大学大学院政策創造研究科教授

将来の人口構造の変化は、ほぼ正確に予測することができる「確かな未来」であり、経済成長だけでなく社会保障、地域、政治的意思決定など多くの分野に多大な影響を及ぼす「重要」な問題である。人口構造の変化がもたらす多くの課題は「確かな未来における確かな課題」であり、解決に向けた努力がなされなければならないが、手つかずの状態で放置されているのが現状である。そこで、課題の解決のためには何が必要か、また、その解決策を政治的プロセスに乗せて実行していくためにはどうすべきかを議論する必要がある。

総人口に占める生産年齢人口の割合が低下していく「人口オーナス」の局面では、労働力、資本などの生産要素が制約を受けるため、経済成長率が低下する。これに対応するためには、少なくなっていく生産要素を最大限効率的に活用し、生産性を上げていくという基本的な政策に加えて、民間企業が、人口構造が変化する中で拡大が見込める未知の新しい需要を開拓することと、従来型の働き方の見直しが必要である。人口オーナスに対抗していくためには、女性が育児と就業を両立しやすい環境を整え、結婚がしやすい社会を築き、少子化に少しでも歯止めをかけていく必要があるが、従来の「メンバーシップ型」の雇用慣行は、長時間労働等の無限定な働き方が求められ、女性の継続的な就業や男性の育児参加を阻害している。長期的には、女性の労働市場への参入と退出が容易となり、結婚・出産に伴う女性の機会費用を低下させる「ジョブ型」の雇用慣行を目指すことが望ましい。

また、人口オーナスの状況を地域別に概観すると、地方部から大都市圏に就業機会を求めて生産年齢層が流出する。その結果、地方部の成長力が低下し、就業機会が生まれにくくなることで、更なる人口流出を招き、人口オーナスを強めるという悪循環に陥る可能性があるが、地方で自律的な雇用機会を増やして人口の社会移動を抑制していけば悪循環が防げる可能性がある。一方で、都市部においては高齢者が集中的に増加することが予測されており、医療・介護需要の増大に供給が追い付かないという事態が考えられる。

さらに、人口オーナスが進展し、有権者・投票者に占める高齢者の割合が高まると、政策に高齢者向けのバイアスがかかる「シルバー民主主義」と呼ばれる現象が起こり得るが、これは人口オーナスへの政策的対応を難しくさせる。民主主義にも多様な形態が考えられ、年齢別選挙区制度を設けるなど選挙制度を見直す、将来世代の立場から政策を評価するなど、人口オーナスの時代にふさわしい民主主義を再構築すべきではないだろうか。

2.高齢者のニーズ及びニーズに対応した産業

第3章 高齢者市場開拓の意義と期待―より豊かな長寿の実現に必要な高齢者ニーズへの対応

前田 展弘

株式会社ニッセイ基礎研究所 生活研究部准主任研究員、
東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員

今後迎える本格的な超高齢社会を「安心で活力ある超高齢社会」にしていくには、あらゆるステークホルダー(行政、自治体、産業界他)が、理想の未来社会の理念や価値観を共有しながら協働していくことが不可欠である。特に、国の財政状況も踏まえれば、山積する高齢化課題解決に向けて、「産業界の力」が期待される。高齢者市場が拡充されること自体、経済成長に貢献することであるが、高齢者のニーズに応え、高齢化の課題解決に資する方向で、当該市場の開拓が進むことがより望ましい。

高齢者市場の規模は、世界各国の高齢化の動向も踏まえれば、将来的にとてつもない市場規模の拡大が期待される。現在の市場の状況をみると、様々な企業ができる範囲での取組みを少しずつ進めている。手探りながら帆を進めている状況にあり、まだまだ開拓余地は大きい。

市場の開拓に向けては、何よりも生活者(高齢者)のニーズを捉え、それに応える解決策を提示していくことが重要である。高齢者(高齢期)のニーズを端的に答えることは本来難しい。ただ、根源的な共通のニーズとしては“より良く生きる”ことがある。しかし、人生の長さが延長した分、逆にこのことが難しくなってきた実態がある。

高齢期は、「自立生活期」「自立度低下期」「要介護期」の3つのステージに分けられ、ほとんどの人はこのステージを辿っていく。このステージをそれぞれ“より良く生きていくこと”が、今日的な長寿時代におけるSuccessful Aging(幸福な老い)と考えられる。この豊かな長寿の実現に向けては、現役生活からリタイアした後の「社会参加ニーズ」、自立度が低下した期間における「楽しみ(快)を求めるニーズ」等が満たされていない。これらのニーズに応える市場の開拓を産業界に期待する。

国も、産業界への期待を表し、積極的な高齢者市場の開拓を促すために、「商助」の概念を打ち出すとともに、「シルバー・イノベーション」の政策を推進していくことが必要である。

第4章 高齢社会のニーズと産業・制度の相互補完

柏谷 泰隆

株式会社三菱総合研究所人間・生活研究本部 主席専門部長

高齢化の進展は、我が国の経済社会のみならず、社会保障制度や財政制度にまで大きな影響を与えている。医療・介護保険制度にとどまらない広い意味で社会を保障する経済社会システムを考えていくうえで、制度と産業の相互補完の視点が重要である。社会保障と産業経済の関係を選択と集中、とくに官民の役割分担という点から再検討するとともに、高齢者の身体的状態像や生活実態をより詳細に捉えたうえでの政策形成やビジネス展開が求められる。そこで、本格的で前人未到の高齢社会を迎えつつある我が国の現状と課題を整理し、高齢者のニーズとそれに対する公的な医療介護制度のあり方、ならびに民間ビジネス産業からの対応について検討した。

全国の高齢者を対象とした意識調査の結果からは、高齢者は、高齢になるにつれて今の住宅に住み続けたいというニーズが高まり、住宅が古くなったり傷んだりしていることや、住宅内等の段差や階段に不満や不便を感じていることがうかがえる。また、健康への不安も年齢の上昇とともに高まり、腰や肩・ひざなどの痛みを初めとする身体機能の低下に困難を感じていることも示されている。住まい・健康に関する高齢者個人と社会システム整備のニーズはまだ充足されておらず、民間企業の商品・サービス展開が今後さらに期待されるとともに、そうした民間サービス拡充に伴い、公的保険による支援・扶助がより必要性の高い人に提供される等、制度と産業が相互補完していく余地が大きい。

今後は、財政的にも持続可能性のある医療・介護保険制度の構築を目指すとともに、継続的に高齢者をめぐるニーズを把握し、それに応える技術や製品・サービスを生み出し続けていくことで、我が国の経済社会の活性化につなげていく発想が求められる。

第5章 高齢者市場への取り組みの考察:社会的課題解決に向けて

白木 康司

株式会社みずほ銀行産業調査部 ライフケアチーム次長

超高齢社会となった我が国では、少子高齢化に向けた対策が喫緊の課題となっている。国民の健康維持と財政健全化の同時達成に向け、民間事業者による公的保険外分野の産業創出および活性化をどのようにして実現するかを考察すると、次の三点を指摘できる。

まず、高齢者のニーズを的確に捉え市場を活性化できれば、超高齢社会の課題は克服可能である。ニーズにマッチした新サービスの提供により、高齢者の幸福な生活が実現し、消費増により民間企業は増収に繋がり、国は納税額増加により財政規律が改善するという好循環が実現する。第二に、高齢者へのアプローチには対象層の細分化が必要である。高齢者の大多数を占めるアクティブ層と、そのうち要介護状態になる可能性の高いメザニン層は、消費者として経済活性化に貢献できるため、両層に適切なアプローチを行い健康増進を働きかけ、心身の健康を長く維持してもらう必要がある。第三に、消費活動や財政規律維持には健康寿命延伸が重要である。国もグレーゾーン解消制度の導入等を実施しているが、同制度の活用により、公的保険に頼らず個人や企業が自ら健康管理を進めるセルフメディケーション推進体制の整備が促進される。

また、高齢者が住みやすい社会の構築に向け検討すべき事項を、高齢者の欲求に沿った形で考察すると、以下の三点を指摘できる。

第一に、住居の確保は最重要で、地域包括ケアシステムの早期具体化が課題である。また、様々な形態の高齢者向け住宅を整備し、要介護状態に至る前からの住み替えを実現すべきである。リバース・モーゲージローンは住み替えに極めて有効な手段であり、普及が進んでいない要因を克服する必要がある。第二に、介護保険外で提供される、疾病や介護の予防に資する生活支援サービスは今後大きく成長する可能性を有しており、認証等の仕組みを導入して当該サービスの普及が実現すれば、予防に留まらず、要介護度の維持・改善といった効果も期待できる。最後に、高齢者の生きがい創造に向け、教育コンテンツは重要である。知的好奇心を満たす「学び」を超え、人に「教える」行為は、高齢者の生きがいに直結し、この取組みは多世代交流と就労環境の整備、高齢者のナレッジの地域社会への還元につながる。高齢者が労働者として活躍すれば、消費者や納税者となることも意味する。高齢者が、支えられる存在から支える存在となる社会の実現を期待したい。

3.高齢社会における公的部門の役割

第6章 社会保障制度における「選択と集中」

加藤 久和

明治大学政治経済学部教授

社会保障制度を巡っては、高齢化の進行とともに、現役世代の相対的な減少や世代間格差といった人口制約、財政赤字と膨大な累積債務に直面する財政制約、さらには社会保障給付の増加が、企業の負担増、家計消費の減少、公債発行増加による長期金利の上昇など様々な経路を通じて経済成長に影響を与えるという三つの制約に直面している。この三つの制約に対応した制度改革を進めるには、限られた財源を、効率的にかつ必要な分野に支出する「選択と集中」が欠かせない。

社会保障制度の「選択と集中」には、上記の三つの制約の下では、新たなターゲティング概念の導入が有用である。これは、全ての所得階層に対する普遍的な給付から、真に支援が必要な者への給付へと考え方を転換することである。対象者の選択を行うことで、限られた資源の効率的な使用も可能となる。これに加えて制度運営の効率性の促進や民間活用なども必要である。

スウェーデンの年金制度改革やオランダの管理競争など、ターゲティング、制度の効率性促進及び民間活用という三つの指針に合致する諸外国の社会保障制度や改革動向は、我が国において社会保障制度の「選択と集中」を進める際に有用な参考となる。

社会保障制度は不可欠な社会システムであり、財源がないという理由で単純に削減すればいいということにはならない。人口、財政及び経済成長の低下という三つの制約の下で社会保障制度を維持し、かつ特定の世代に負担が偏らないようにするには、ターゲティングの考え方の下に、真に必要な人に必要な給付を行う「選択と集中」を一層徹底していくことが必要である。そのためには、社会保障制度の改革を進めていくとともに、税制等その他の制度との幅広い連携、消費者の利便性の向上と市場の効率性の改善に資するような民間活用、社会保障制度そのものの簡素化・統一化の促進なども重要な課題である。

第7章 高齢社会における社会資本整備

中村 研二

株式会社日本経済研究所調査本部政策調査部長

日本の社会資本投資の推移、社会資本ストックの現状をみると、高度成長期に集中的に整備された社会資本の老朽化が進んでおり、今後は一層急速に老朽化が進行し、更新にかなりの費用がかかると推計されている。社会資本に関するデータと管理の実態をみると、入手可能なデータは実務に使えるレベルのものではなく、公有資産台帳の整備は不完全で、管理主体もばらばらであるなど様々な問題を抱えており、総合的な資産管理手法を導入し、効率的・計画的な維持管理を行うレベルにはない。また、社会資本整備を考える上での前提となる環境変化として、人口減少と高齢化、財政制約があり、限られた財源で必要なことを優先順位を付けて行う「選択と集中」が必要であるが、国全体で社会資本整備を総合的な資産管理手法を導入し、効率的・計画的な維持管理を行うためには、近年盛んとなっている自治体公有資産マネジメントが参考事例として挙げられる。

高齢社会における社会資本整備の課題としては、更新が必要な社会資本の状況や今後の更新費用、財政制約など、国民が検討し判断するための材料が少ないことがある。このため、自治体レベル・地域ブロックレベルでの1社会資本の実態把握と管理システムの構築、2地域での環境変化の把握と認識の共有、3人口減少、高齢化等地域の環境変化に基づいた社会資本ニーズの変化の把握、4地域の財政制約の把握と認識の共有、5必要な社会資本の概算試算と予算制約下での順位づけの複数のプラン(選択肢)の提示が必要である。これが行われれば、国民は、社会資本の実態、考慮すべき環境変化、財政制約の状況及びその中で可能な複数の選択肢を理解可能となり、今後の社会資本整備について、地域に引き付けて検討し、「財政制約条件つきの効用最大化」を考えることが可能となる。

ただし、1社会資本により便益の範囲が異なり、どの地域範囲で議論するかが難しい、2自治体の社会資本整備は、国庫支出金、地方交付税の措置があり、自治体の財政制約設定が難しい、3将来の効用と現在の効用の扱い(将来世代のことを考えずに現役世代が自分に有利な意思決定を行ってしまう)という問題がある。そこで、仮想的な地域ブロックを設定し、そこに例えば人口見合いの予算をつけ財政制約を明らかにし、この制約下で「社会資本整備の効用最大化」を考えるといった試みが必要と思われる。

第8章 望ましい「老い方・死に方」と今後の医療・介護
―人口構造の変化を踏まえた対応策―

高橋  泰

国際医療福祉大学大学院教授

日本では高齢者、とりわけ75歳以上の人口の増加が進んでおり、医療・介護需要もそれに伴い増加が継続するものとみられる。そこで、厳しい財政状況を踏まえつつ、増加する医療・介護需要にどのように対応していくかが大きな課題となる。

今後の日本の人口構造の変化を踏まえると、医療提供体制の再編を行い、病気を治すことを目的とする「とことん型」医療から、高齢者の増加により今後必要性が拡大する、病気は完全に治らなくとも地域で生活を続けられるように身体・環境を整える「まあまあ型」の医療の担い手を増やしていくことが必要である。

その際は、現在の医療資源レベル及び医療需要のピーク時期についての地域差が大きいことや、「とことん型」と「まあまあ型」医療の分化が進んでいないという現在の医療提供体制の問題を踏まえ、国が双方の病床区分を区別して設定し、それぞれについて地域ごとの基準病床数を提示すること、都道府県は、国の示す基準病床数を参考に目標病床数を定め、その達成を目指すための「地域医療ビジョン」を作成し、ビジョンの実現に向けた対策を取ることなどが必要である。

また、より大きな課題として、今後の高齢化の進捗と厳しい財政制約を踏まえ、個人の人生のトータルの満足度を保ちつつ、国全体として医療・介護資源を節約することを考える必要がある。そのためには、国民一人一人が、自らの「老い方」「死に方」をどうするべきかを考えることが非常に重要となる。高齢者自身が、自立して生活できる期間を長くする努力をすること、社会もそうした努力を徹底的に援助すること、自分の死に方を人任せにせず、自分で決定し、周囲もその意思を尊重することが求められる。

4.諸外国の高齢化の状況と対応

第9章 東アジア地域の高齢化の状況(講演録)

大泉啓一郎

株式会社日本総合研究所調査部上席主任研究員

戦後長い間、アジアの人口問題といえば人口の急増だったが、現在は一転して、アジアにおいても日本と同様に少子高齢化が進んでいる。アジアの高齢化は、日本と同程度か、日本を上回るスピードで進行している。

アジアにおいては、都市部で高齢化が進む日本とは異なり、都市への人口流出が起きている農村において鋭く高齢化が進む。人口流出は加速しており、農村では所得水準が高まらない中で高齢化が進んでいる。こうした中で、多くの国が全国民を対象とした社会保障制度の整備を目指しているが、既に所得格差が広がっている国で、公平な社会保障制度を整備することは困難である。また、その整備を巡って、社会政治不安が発生する可能性がある。

中国や東アジアの高齢化を放置しておくと、個人には原因がないのに高齢者の生命が危険にさらされるという、人間の安全保障の問題に発展するおそれがあり、今からアジア地域における協力体制を準備しておく必要がある。低所得である農村で進む高齢化への対処に必要なのは、農村の高齢者予備軍である40歳代の人々に、将来的にも何らかの所得を得ることができるようなスキルを付与する支援である。このようなプロジェクトも実施しつつ、高齢化が人間の安全保障の問題へ発展することを防ぐ必要がある。

農村においては、加齢により仕事が困難になる時期が65歳以前かもしれない。中国や東アジアの農村での高齢化対策の準備に残された時間はそれほど多くないことに注意が必要である。

特別講演 強靭でしたたかな普通の国スウェーデン
―次世代・未来志向の国づくり―

渡邉 芳樹

前・駐スウェーデン日本国特命全権大使

スウェーデンは、健全な経済財政運営と福祉国家を両立させていると賞讃されている。それを支えているのは、過激なまでの個人主義と、社会への強い信頼を背景に育まれた独特の人生観・死生観である。スウェーデンは、まず自分を教育し、働いて納税すること、その上でほかの者の権利を尊重し、最後に自分の権利の実現を図ることを求められる国である。

国内の政治風景は、「平等と連帯と安心」から「自由と尊厳と責任」へと大きく転換している。累次の減税等の結果、国民負担は低下傾向にある一方、医療・介護政策は地方税の範囲内で管理されており、患者等の我慢や犠牲も避けられなくなっているなど、「高負担・高福祉」の国から「準高負担・準高福祉」の国への変化も指摘できる。

「思いやりと支え合い」の国である日本がスウェーデンから得られる教訓としては、自らの死を含めた個々人の自立の覚悟を重視すること、国民には納税の覚悟の必要性を繰り返し伝え、国民自身が変わることの重要性に対する理解を求めていく必要がある。医療・介護政策を効率的に実行するためには、IT技術の高度活用も必要である。さらには、国民や政治の姿勢として、子供や子育て中の親など未来への投資へ資源を振り分けていくことが重要である。

(参考資料)「高齢社会における選択と集中に関する研究会」

図