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第25回EBRD年次総会 日本国総務演説(平成28年5月11日 於:英国・ロンドン)

第25回欧州復興開発銀行年次総会における岡田財務副大臣総務演説
(2016年5月11日 於:英国・ロンドン)

  1. はじめに

     欧州復興開発銀行の第25回年次総会の開催にあたり、日本政府を代表し、本総会の主催国である英国政府およびロンドン市の皆様の温かい歓迎に対して、心から感謝いたします。

     ベルリンの壁が崩壊し、1991年にEBRDが設立されてから、本年で25周年の節目を迎えます。この四半世紀の間、EBRDを取り巻く国際情勢は大きく変化しました。中東欧の民主主義化や市場経済化が進展し、EUへの加盟が実現しましたが、2008年以降のグローバルな金融危機や欧州債務危機はEBRDの多くの受益国に打撃を与えました。「アラブの春」後には経済社会の変化があり、EBRDは地中海南東岸諸国へ業務範囲を拡大しました。そして、現在もウクライナの困難な情勢に対応しています。こうした変化の中で、EBRDが市場移行を後退させない努力や経済の脆弱性への対処を行ってきたことに敬意を表します。

     このような変化の時期に、チャクラバルティ総裁は、4年近くにわたり、市場経済移行効果(トランジッション・インパクト)を重視した支援の強化や組織運営の変革を実施するなどリーダーシップを発揮されてきました。特に、昨夏以来、喫緊の課題となっているシリア危機に端を発する難民問題に迅速に対応されたことを評価いたします。

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  3. EBRDの役割の再整理

     「市場経済への移行(transition)」を支援することはEBRDの使命です。しかしながら、この25年の間、EBRDは、業務を旧共産圏以外の国に拡大し、支援対象国が多様化しています。更に、目指すべき市場経済が何であるのかという点についても、市場の機能不全に起因するグローバルな危機・課題の発生を目の当たりにし、その捉え方が相対化し、多様化しています。こうした中、EBRDが設立25周年を迎えるに当たり、その見直しとEBRDの役割について、再整理を行うことは時宜を得ていると考えます。

     日本は、EBRDの限られたリソースを最も効果的かつ効率的に活用するために、目指すべき市場経済の様々な要素のうち、EBRDが支援すべき対象を、最も移行効果が得られる分野に特定することが重要と考えています。また、こうしたEBRDによる支援の目的が達成された国は、EBRDの支援からの卒業プロセスに入ることを明確化する必要があると考えます。

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  5. 日本が考えるEBRDの重点事項

     日本が重視し、EBRDに期待することを4点申し上げます。

    (1)質の高いインフラ

     インフラは経済成長の基盤です。特に、ライフサイクルコスト、安全性、自然災害に対する強靭性、環境・社会配慮、ノウハウの移転に配慮した「質の高いインフラ投資」が重要であり、その推進は、市場経済の機能を向上させ、持続的な成長に繋がるものと考えます。

     「質の高いインフラ投資」の普及には、移行国の発注者が「質」の重要性を認識することが重要です。民間企業を主たる取引相手とするEBRDでは、ライフサイクルコストを含め、商業的に妥当な案件を審査する知見が蓄積されており、この強みを活かし、質の概念を移行国の民間セクター等に普及させていくことを期待します。日本は、「質の高いインフラ投資」の推進を日本信託基金(JECF: Japan-EBRD Cooperation Fund)の優先分野と位置付けて積極的に支援します。

    (2)初期段階移行国(ETC: Early Transition Country)支援

     EBRDでは、3年のローリング式業務運営計画である「戦略実施計画(SIP: Strategy Implementation Plan: 2016-2018)」が導入されました。この計画では、中央アジア等の初期段階移行国(ETC: Early Transition Country)への支援は移行効果が最も大きいとされ、業務増加が示されています。限られた資金で大きな移行効果を上げる観点からも、着実な実施を期待します。

    (3)政策対話や技術協力の重要性

     多様な移行国にアプローチするためには、政策対話や技術協力は今後益々重要になります。目指すべき市場経済への移行過程は各国様々であり、移行支援においては、個別プロジェクトと合わせ政策対話や技術協力を行うことが、きめ細かな改革支援に有効です。日本はEBRDの創設以来、この点を重視し、JECFによる技術協力を実施してきました。

     中央アジアを始めとする初期段階移行国では、外貨による資金調達に未だ大きく依存しており、外在的な要因による自国通貨の大幅な下落に脆弱な経済構造となっています。日本は、民間ベースの現地通貨建て資金調達の拡大を支援するため、日本信託基金を通じて5百万ユーロの資金拠出を行うことといたしました。本支援は、中央アジア地域を始めとするETCに対する、「中小企業向け現地通貨融資の一次損失補填を行う特別基金への資金拠出」と、「現地通貨建て金融資本市場育成のための政策対話と技術協力」という二つの要素から成り立っています。二つの要素の組み合わせによるきめ細かな支援が、ETCにおける安定した市場経済の構築に貢献することを期待します。

    (4)国際機関としてのEBRDの多様性の確保

     EBRDが、グローバルで多様な国際社会の問題に対応していくためには、国際機関として幅広く、深い知見と専門性を備える必要があります。様々な加盟国から有能な人材を採用し、多様な人材が積極的に力を発揮することを通じて、組織全体としての能力を強化していくため一層の努力を傾注することを期待します。

  6. おわりに

     今後4年間は、チャクラバルティ総裁の強いリーダーシップの下で策定された重要な政策方針・戦略が、着実に実施されるべき時期となるべきと考えます。EBRDが、設立から25周年を迎え、市場経済への移行支援というEBRDの使命を一層効果的に果たしていくため、日本は、日本が培った経験や技術も十分に活用しつつ、EBRDとの協力関係を一層強化してまいります。

(以上)