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第52回ADB年次総会 日本国総務演説(2019年5月4日 於フィジー・ナンディ)

第52回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
麻生副総理兼財務大臣総務演説
2019年5月4日(土)(於 フィジー・ナンディ)

1.はじめに
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 まず初めに、今次総会のホスト国のフィジー政府及びナンディ市民の皆さまの温かい歓迎に心より感謝申し上げます。昨年、日本とフィジーの間で直行便が再開されましたが、これを契機に人々の往来が活発化し、両国のパートナーシップが更に深化していくことを願っています。

 この美しい国フィジーを含め、ADBに加盟する68ヵ国のうち約2割が太平洋島嶼国です。ADBの年次総会は本年が第52回となりますが、今回初めて太平洋島嶼国で開催されることを大変喜ばしく思います。また、本年ADBに加盟したニウエに、心より歓迎の意を表します。今次総会での実りある議論が、太平洋島嶼国の更なる発展への契機になると期待いたします。


2.戦略2030の実施
 昨年7月、ADBの2030年までの長期的な戦略の方向性を示す「戦略2030」が全会一致で策定されたことを改めて歓迎します。今後、ADBは、「戦略2030」を本格的に実施していくこととなりますが、その中で特に重要な政策事項について、日本の考え方や期待を述べたいと思います。

<支援対象国>
 ADBの融資承諾額は、過去5年間、全体で33%増えていますが、そのうち高中所得国への融資は37%増と、全体を超える伸びとなっています。ADBの限られた資源を有効に活用するためには、所得の低い国や島嶼国など脆弱な国に支援を重点化していくことが必要です。高中所得国については、
・ 資本市場へのアクセス向上や組織能力強化等、ADBが付加価値を提供できる分野に集中する、
・ 貸付量よりも、地域公共財や気候変動等の分野における知識や経験の共有が益々重要となる、
との「戦略2030」の方針に沿って行われることを求めます。

<卒業政策>
 高中所得国の中でも卒業政策上の所得基準(1人あたりGNI 6,795ドル)に達した国々については、「戦略2030」において、「ADBは、政策の有効性も検証しながら、現行の卒業政策を引き続き適用する」とされています。ADBは、支援の対象を民間資金動員の強化や環境問題に対応する組織能力向上など卒業につながる分野に重点化しながら、卒業への具体的道筋をしっかりと議論していくべきです。その際、国別パートナーシップ戦略(CPS)は、当該国の卒業への準備状況の体系的な分析・評価を行う適切な機会であり、対象となるすべての国のCPSにおいて、こうした分析・評価がきちんと行われることを求めます。

<金利の差別化>
 ADBが受益国の実情に応じた支援を提供するためには、財務の健全性を維持しつつ、国毎の所得水準や支援対象分野に応じ金利を差別化していくことが必要です。金利の差別化は、「戦略2030」において検討する旨が盛り込まれていますが、世界銀行では既に実施されていることも踏まえ、今後できる限り早期に議論が行われ実行に移されていくことを求めます。

<民間セクターへの支援>
 アジア・太平洋地域の持続的な成長を促すためには、民間セクターへの支援が極めて重要であり、「戦略2030」において、民間セクター業務の案件数を2024年までに全体の3分の1に引き上げることを目指していることを、改めて歓迎します。また、ADBが、高中所得国だけでなく、ミャンマー、カンボジア、ブータンといった所得水準が比較的低い国の民間セクターへの支援を強化していることも高く評価します。

 この分野の支援においては、ADBからの投融資の増加だけでなく、金融機関等の民間資金も動員していく必要があります。このためには、ADBが投資環境の整備や金融市場の規制緩和等、ビジネスをし易くする改革に向けた支援を強化していくことが必要です。

<アジア開発基金(ADF)>
 アジア・太平洋地域は、貧困削減に大きな成果を上げてきたものの、未だ多くの貧困人口が残るなど、引き続き深刻な開発課題に直面しています。こうした中、受益国の状況に応じ、今後もADFがグラント支援を提供していくことは極めて重要であり、ADF13交渉での実りある議論を期待します。日本としては、ADF12の成果を踏まえ、災害や保健分野の支援を更に充実させつつ、債務管理能力の強化についても、ADFが取り組む優先分野の一つとして位置づけられることを期待します。

<組織・人員の在り方>
 ADBはMDBsの中で最も効率的な組織の1つです。同じ額のプロジェクト実施に必要な予算額は、世界銀行を含む主要MDBsの中でADBが最も少額です。こうした効率性を更に向上させつつ、ADBが「戦略2030」に沿ったミッションを効果的に遂行するため、必要な体制の強化改編・人員確保を積極的に行うべきです。ADBのスタッフの数は、2015年末から2018年末にかけて9%増加し、その中でオペレーションに関与するスタッフの数は13%増加する等、支援体制の強化が進んでいることを歓迎します。

 更に、インフラ投資における高度技術の活用、保健など社会セクターへの支援など、ADBが今後積極的に取り組む分野に関しては、必要な専門的な知見を有する人材をしっかり確保していく必要があります。また、受益国のニーズを的確に把握しつつきめ細かな支援を提供していくには、強固な現地プレゼンスも不可欠です。こうした中、昨年、太平洋島嶼国のうち11か国でのカントリーオフィス設置を決定したことを歓迎します。ADBは、太平洋島嶼国でのプレゼンスが最も強固なMDBであり、今後、太平洋島嶼国向けの支援が更に充実していくことを期待します。


3.日本の開発プライオリティ

 次に、アジア・太平洋地域の一層の発展に向けて、ADBによる主導的な関与を特に期待する政策課題を4点申し上げます。これらは、日本が議長を務める本年のG20において優先課題として取り上げられています。ADBには、G20での議論の成果を積極的に取り入れ、今後の業務において主流化していくことを強く期待します。

<質の高いインフラ投資>
アジア・太平洋地域には膨大なインフラギャップが存在しますが、持続可能な成長を目指すためには、需給ギャップを量的に埋めるだけでなく、インフラ投資の「質」を追求することが重要です。「質の高いインフラ投資」は、物理的インフラそのものに由来する便益を超えて、経済への波及的効果を長期にわたってもたらすものです。具体的には、雇用の創出、能力構築、及び相互に合意した条件でのノウハウの移転、更なる民間投資の推進などにより、持続可能な成長を支えます。

 ライフサイクル・コストからみた経済性を最大化しつつ、プロジェクトの質を担保するためには、適正なプロジェクトの準備・組成が不可欠です。また、プロジェクトの実施段階では、調達が透明な形で行われる必要があります。そして、インフラの「質」が満たすべき要素としては、ESG、すなわち、環境・社会・ガバナンス等の観点、中でも利用の開放性や債務持続可能性も含みます。

 こうした考え方のもと、日本は積極的に質の高いインフラ投資を支援しています。その一環として、昨年のADB総会で申し上げたとおり、昨年7月にJBICに「質高インフラ環境成長ファシリティ」を立ち上げました。以来、質の高いインフラ案件が積み上がり、アジア・太平洋地域の案件も含め、創設以降の事業規模の実績総額は約90億ドルにのぼります。

 また、日本はこの分野でADBとも緊密に協力しています。日本はADBの高度技術支援基金に対して資金貢献を行ってきましたが、本基金の果たす重要な役割に鑑み、今般、15百万ドルの追加拠出を行うことを表明します。

<自然災害に対する強靭性の強化>
 「アジア経済見通し:2019」によれば、自然災害の影響を受ける全世界の人々の中で、5人のうち4人がアジア・太平洋地域に居住しています。とりわけ小島嶼国はこうした災害に対して極めて脆弱です。自然災害に対する強靭性を確保する観点から、日本は、災害頻発国として蓄積してきた経験・知識を活かして積極的に支援をしていく考えです。ここナンディにおいてもADBに設置されている日本信託基金を通じ、ADBの洪水対策インフラ事業の組成準備を支援しています。

 インフラ面での強靭性に加え、金融面での強靭性も重要であり、とりわけ災害リスクに対して保険が果たす役割が大きいことを強調したいと思います。こうした金融面での備えの強化は、投資の呼び込みにも大きく寄与すると考えており、既にADBがフィリピン等において災害保険制度の構築の支援を行っていることを歓迎します。日本は、自然災害発生後の迅速な保険金支払いを可能にする「東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF)」を推進しており、今後も地域の災害強靭性の強化に一層の貢献を果たしていきます。

<保健>
 人的資本は、持続的な経済成長の礎として重要な役割を果たし、この観点から、日本は途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進を重視しています。本年2月、UHCの達成に向けたADBとJICA主催による国際会議において、中尾総裁から「ADBは、UHCを重視しつつ保健・医療分野の業務を拡大していく」との言及があったことを歓迎いたします。加えて、昨年9月にADBとWHOの間で締結されたMOUに基づき、感染症や生活習慣病、高齢化などアジア・太平洋地域における保健課題解決に向けたADBの貢献に期待します。日本としても、ADBとの協力関係を深めつつ、今後も国際的な議論をリードしていく所存です。 

<債務持続可能性>
 アジア・太平洋地域の膨大なインフラ投資ニーズに応えるにあたっては、同時に、受益国の債務持続可能性に配慮した、適切なファイナンシングを行うことが、健全で安定的な経済成長を実現していくうえで必要不可欠です。しかし、近年、アジア及び太平洋島嶼国の一部では、非伝統的な貸し手からの債務が急速に積み上がり、債務の持続可能性に懸念が生じています。こうした事態には早急な対応が必要で、借り手だけでなく官民の貸し手の双方が、債務の透明性を向上させるとともに、持続可能な貸付を行っていくことが不可欠です。

 こうした中、ADBには、IMFや世界銀行等と連携しながら、債務の透明性の向上、債務管理能力の強化、公的財政管理や国内資金動員の強化等を含めた多面的な取組を通じ、受益国の債務持続可能性確保のための支援を行っていくことを求めます。


4.結び
 かつては、ADBはアジアの途上国のホームドクターと言われました。それは、患者の身近な存在であり何でも直ぐに相談相手になってくれるが、難しい手術の際は専門医を紹介する、というイメージを伴いました。しかし、近年ADBは、引き続き域内加盟国の最も身近な存在であり続けながら、専門性と効率性に磨きをかけ、質の高いプロジェクトを多く実施してきています。エネルギー分野を例にとると、地熱発電、廃棄物発電、スマートグリッド等の気候変動対応にもつながる先端分野のプロジェクトに、島嶼国も含めたアジア各国で力を入れています。こうした進展を心から歓迎します。

 ADBが、高い技術を持った身近なドクターであり続けることに、日本は支援を惜しみません。日本もADBの身近な支援者でありたいと思っています。ADBが今後ますますアジア・太平洋地域に重要な貢献を行い、成果を出していくことを心から祈念します。

(以上)