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国際金融システムの強化
G7蔵相からケルン経済サミットへの報告
(1999年6月18-20日 ケルン)
[仮訳]

目   次


  1. 適切に機能する国際金融システムは、世界的な貯蓄・投資の効率的な配分のために必要不可欠であり、また、全世界的な成長及び全ての国々における生活水準の向上に必要な条件をもたらす。世界経済における最近の出来事は、世界的な経済・金融の統合の利益を最大化し、それに伴うリスクを減少させるためには国際金融システムを強化していくことが必要であることを示すこととなった。

  2. また、国際金融システムの改革は、開かれた多角的貿易システムを強化するであろう。財や資本について開かれた市場を維持していくことにより、世界経済のショックに対する抵抗力を高めるであろう。開かれた市場から得られる利益や経済的な機会によって、先進国・新興市場国における生活水準が大きく改善してきている。我々は、グローバリゼーションのプロセスは、富と雇用を生み出す大きな潜在的な力を新たに提供すると信じる。

  3. 我々は、主要国の蔵相として、国際金融・通貨システムが適切に機能するための条件を改善し、特に、為替相場の安定のために必要である健全なファンダメンタルズを強化することについて、特別な責任を負うことを認識している。このため、我々は、国際通貨システムの安定及びファンダメンタルズと整合的な主要通貨間の為替相場の安定を促進するため、強固な協力を継続する。

  4. 昨年のバーミンガム・サミットでの要請に従い、我々は、他の国々と協力しながら、国際金融システムの構造に関する数多くの重要な改革について提案を行ってきた。我々は、これまで合意されたイニシアティブや改革は、国際金融システムの安定に大きく貢献するものと信じる。

  5. 益々統合の度合いを深める世界経済においても、政策を遂行する責任は依然として主に主権国家にあり、各国家による行動と、一層の国際的協力とにより世界の金融の安定を推進していくことが課題となっている。全ての国々は、国際金融機関及び民間金融機関とともに、こうした責任を果たしていかなければならない。

  6. このために新しい国際的な組織は必要ではない。必要なのは、全ての国々が、健全なマクロ経済政策及び持続可能な為替相場制度に関する政策を追求し、強固かつ抵抗力のある金融システムを確立していくことによって、世界的な安定に対する責任を果たすことである。こうした分野や他の分野において、国際的に合意された基準やルールを採用し実施していくことも必要である。また、現行の機関が、その役割を今日の世界金融システムの要求に見合ったものと変えていくことも必要である。特に、これらの機関が、基準の策定、その実施のモニター、及びその結果の公表のための効果的なメカニズムを設置すること、これらの機関が各国の危機の管理を支援する適切な手段を持つこと、及びこれら機関自身の有効性、アカウンタビリティー及び正統性を強化するための措置を取っていくことが必要である。また、国際金融システムの全ての参加者(各国当局及び民間セクター)に対するインセンティブの構造が適切なものとなっていることが必要である。

  7. 我々の全体的な戦略は、市場の働きを適正なものとし、このために必要な公共財を提供するための政策を特定し実施することである。それには、公的な当局が、強化された透明性及びディスクロージャー、金融機関や市場に対するより良い規制・監督、及び社会の最も脆弱な層を守るための政策を提供することが必要である。また、民間債権者や投資家が、彼らが取ったリスクに対する責任を受け入れ、危機の予防・管理にあたって適切に関与することが必要である。この点において、国際的に合意されたコードや基準を作っていくことは、政策立案者にとってはより良い統治のためのインセンティブとなると同時に、カントリー・リスクを測るための基準ともなるであろう。

  8. 昨秋、我々は首脳に対し国際金融システムを強化するために具体的な措置を取ることの必要性を訴えた。本報告書は、6つの重要な分野において具体的な改革を推奨している。

  1. 国際金融機関及び国際的アレンジメントの強化及び改革
  2. 透明性の強化及び最良の慣行の促進
  3. 先進国における金融規制の強化
  4. 新興市場国のマクロ経済政策及び金融システムの強化
  5. 危機の予防・管理の改善、及び民間セクターの関与
  6. 貧困かつ最も脆弱な層を保護するための社会政策の促進
  1. 我々は、これらの提案が、将来の金融危機のリスクを減少させ、そのより良い管理に役立つと信じる。我々は、これら提案の実施にコミットするとともに、それを緊密にモニターし、必要に応じその進展状況の報告を継続していく。勿論、金融市場は発展し続けており、国際金融システムを更にこのような発展に適合させていくことが将来また必要となるであろう。

A. 国際金融機関及び国際的アレンジメントの強化及び改革

  1. 世界的な経済・金融上のアレンジメントは、常に変化する世界経済の姿を反映して継続的に発展していくものである。我々の目的は、全ての利害が効率的に代表されるようなより効率的な国際金融機関及び国際的アレンジメントを推進していくことである。

  2. 我々は、このプロセスを導く原則について合意する。

  1. IMF及び世銀は、国際経済・金融システムにおいて、またこれらの分野における各国間の協力の促進において中心的な役割を果たす。
  2. 国際的な監督・規制団体は、国際金融システムをより堅固なものとするにあたり非常に重要な役割を果たす。
  3. これらの機関及び国際金融機関のアカウンタビリティー及び透明性は強化されなければならない。
  4. 国際金融システムを常に変化する世界経済に如何に適合させていくかについて議論する際には、幅広い国々が参加するべきである。
  5. 一定の国々の集団から代表を出す制度は、これら機関のガバナンス上適切である。
  1. 国際金融システムに関し現在行っている対話を幅広い国々に拡大するため、数多くの措置が採られてきている。これには、25の参加者からなるIMFの新規借入取極(NAB) の創設、1998年に開催されたシステム上重要な国々の蔵相及び中央銀行総裁による特別会合、今春ボン及びワシントンで開催された33の先進国及び新興市場国によるセミナー、及び今回初めて特別代理会合によって準備が行われた本年春のIMF暫定委員会が含まれる。

  2. 金融市場の監督及びサーベイランスの分野に関し国際的な協力・協調を強化するために、新たに金融安定化フォーラムが創設された。本フォーラムは、4月に初会合を開催し、高レバレッジ機関、オフショア・センター及び短期資本フローの影響という3つの論点に当初焦点を置くことで合意した。本プロセスは他の先進国及び新興市場国からの参加者を交えることとなろう。我々は、本フォーラムが9月の会合までに、効果的な対話を保証するやり方で、重要な金融市場を有する国にまで参加者を拡大するべきであることで合意した。

  3. 機構上の改革に関し、暫定委員会を評議会に改組するというものも含め、多くの提案が議論されてきた。現時点においては、ブレトン・ウッズ機関の主要な出資国としての特別な責任に鑑み、我々は、これら機関を強化し、その有効性を高めるために、以下の重要な措置を支持することに合意した。

  1. 暫定委員会を、「国際金融通貨委員会」として常設の機関とする。本委員会の任務は、IMF協定第1条に定められているIMFの目的である、マクロ経済及び通貨に関する全ての国々の協力の促進に関し、IMFが重要な役割を果たさなければならない、という我々が再確認する原則と整合的であるべきである。

  • この新しい委員会の大臣会合の直前に、代理レベルの会合が年2回開催される。これは、4月の暫定委代理会合が成功したことに基づくものである。

  • 世銀総裁は、この新しい委員会において特別な役割を果たす。また、金融安定化フォーラムの議長はオブサーバーの資格を与えられる。

  • 国際金融通貨委員会と開発委員会の双方が責任を持つことが明らかな事項については、適切な場合においては、両会合の合同会合が開催される。

  1. 我々は、ブレトン・ウッズ機関からなる制度的フレームワークの中で、システム上重要な国々の間の対話のための非公式メカニズムの創設のために協力していく。

 我々は、暫定委員会を評議会に改組するという提案も含め、機構上のアレンジメントを強化するために提出された諸提案を考慮しつつ、これらアレンジメントに関するレビューを継続していく。

  1. 我々はまた、IMF及び他の国際金融機関の有効性を向上させるために、以下を含む措置を採ることで合意した。

  1. 良好な経済パフォーマンスを追求するインセンティブを強化するために、プログラムのコンディショナリティーが終了した後もIMFからの引出残高がある場合について、政策へのコミットメントに関するモニタリングの強化を図る。

  2. 国際金融機関の焦点をその比較優位がある分野に絞り、また、これら機関と他の国際的なフォーラム及び民間部門との対話を拡大する。プログラムに対するその国自身のオーナーシップを強化するため、当該国の固有の状況に特別の注意を払うことが必要である。

  3. 金融危機におけるIMFの支援プログラムの経験に基づき、IMFは、世界経済の変化、特に国境を越えた急激で大規模な資本移動が起こり得る状況をより的確に反映するように、IMFのサーベイランス及びプログラムを一層改善する方策を検討すべきである。

  4. 透明性、政策決定手続き、及びタイムリーな情報の流れを改善することにより、IMFのアカウンタビリティーを強化する。

  5. IMFが、その業務、プログラム、政策及び手続の有効性について内部・外部双方による体系的な評価を引き続き行うよう促す。

B. 透明性の強化及び最良の慣行の促進

  1. 正確かつタイムリーな情報が入手できることは、金融市場及び市場経済が適正に機能するために必要不可欠な要素である。こうした情報は、市場参加者にとって必要なものであり、彼らが適切な意思決定を行うために使われるべきである。また、こうした情報は、政策立案者に対し、健全な経済政策を遂行するためのより大きなインセンティブを与える。改善された情報は、市場が経済の動向により円滑に対応し、危機の伝播を最小化し、変動を抑制することに役立つであろう。

  2. これまで、多くの分野において大きな進展が見られている。IMFは、経済統計や指標に関する強化されたディスクロージャーを促進するという点や、政府がマクロ経済政策や金融監督政策を策定する際のプロセスについて、適切な透明性を確保するために自主的に従うべき良い慣行に関するコードや基準を策定するという点において大きな前進を見せた。

  1. IMF理事会は、1999年3月、各国の外貨準備ポジションに関するデータのより包括的かつタイムリーな公表を行うため、特別データ公表基準(SDDS) を拡充することを承認した。この拡充されたSDDSは、2000年4月に発効し、1996年に作られた当初の基準で不十分だった部分に対処するものである。金融統計に関する関係機関による作業部会において、BIS、IMF、OECD及び世銀が発展途上国及び体制移行国の対外債務に関し発表している統計について、それらの調和を図るための努力が行われ、四半期毎に公表が開始された。

  2. IMFの財政透明性についての良い慣行に関するコードが理事会によって承認され、1998年4月の暫定委員会において支持された。本提言を実施するためのマニュアル、質問集及び自己評価報告書が用意されており、公表されつつある。

  3. 金融政策・金融監督政策の透明性についての良い慣行に関するコードの草案は、それに対する意見を収集する目的で公表されており、1999年のIMF総会までに完成される見込みである。

  1. IMFはまた、加盟国の経済政策及びIMF自身の業務の透明性を向上させるため多くの措置を承認してきている。これには、(1) IMFの政策に関する情報を提供するためのパブリック・インフォメーション・ノーティスの一層の活用、 (2) IMFの支援プログラムの基礎となる政策趣意書、経済・金融政策に関するメモランダム、及びポリシー・フレームワーク・ペーパーを公表するための手続き、 (3) 加盟国のプログラムを承認・レビューする理事会の後の議長ステートメントの公表、及び(4) 4条協議のスタッフ・レポートの自主的な公表のためのパイロット・プロジェクトなどが含まれる。世銀においては、各国の開発上の主要な課題及び世銀の融資プログラムの指針を示す国別支援戦略を1999年7月から原則として公表する予定である。

  2. 民間セクターの透明性は、秩序立った、かつ効率的な金融市場の機能のためにとりわけ必要である。バーゼル委員会、IOSCO(証券監督者国際機構)、IAIS (保険監督者国際機構)はそれぞれの責任分野において監督のためのコア・プリンシプルを策定した。この分野における価値ある作業としては、IOSCOが公表した「多国籍発行体のクロースボーダーの募集及び上場を促進するためのディスクロージャー基準」が挙げられる。BISのグローバル金融システム委員会(CGFS)は、市場におけるディスクロージャーを改善する方策をレビューしている。これには、トレーディング、投融資活動に従事している機関(規制されているか否かにかかわらず)のエクスポージャーやリスク・プロファイルの公表のための様式例が含まれる。これに関し、他の関係当局を交えて更に作業を行っていくことが、金融安定化フォーラムにおいて支持された。

  3. 我々は、透明性を強化するため民間セクターの団体によって行われている努力を支持し賞賛する。我々は、国際会計基準委員会が国際会計基準に関するコア・スタンダードを完成したことを歓迎するとともに、IOSCO、IAIS及びバーゼル委員会がそのレビューを完了することを期待する。我々は、会計基準を策定する関係者全てが協力することにより、引き続き高い質の会計基準が策定され、国際的に合意されることを強く要請する。

  4. 基準や良い慣行に関するコードの策定にはかなりの進展が見られており、現在国際社会が直面している課題はその実施を促すことである。我々は、以下の措置が非常に重要であると考える。

  5. 国際資本市場にアクセスを持つ国々の参加によりSDDS参加国が拡大すること、対外債務の報告に関するSDDSの具体的な基準について幅広い合意を形成すること、金融セクターの健全性に関する指標が追加されること、及びSDDSにより伝えられる情報がより広く認知され利用されるよう努力していくこと。

  6. IMF理事会文書の一層の公表など、IMFの業務び加盟国の経済政策の透明性を向上させるための更なる措置を採っていくこと。

  7. IMFの4条協議プロセスを基礎とし、世銀や基準策定機関と緊密に協力しながら、コードや基準の実施状況に関するサーベイランスのシステムを作ること。このために、我々はIMFに対し、こうした協力関係を調整するメカニズムを確立し、基準の遵守をモニターし促進していく手段としての4条協議プロセスの有効性について報告を行うよう求める。各国の基準の遵守状況は、IMFのコンディショナリティーの策定にも使用されるべきである。

  8. IMFの通常の4条協議レポートやスタッフが用意する各国の透明性の慣行に関する特別報告書の中に、各国の透明性に関する基準の遵守状況に関する情報を体系的に盛り込むこと。我々は、この点に関し、IMFのスタッフによって試験的な透明性報告書が用意されたこと、及びいくつかの国々がそれぞれの透明性に関する慣行について試験的な自己評価に取り組んでいることに勇気づけられる。我々は、これらの報告書が4条協議プロセスの必須の項目となるよう拡大されるようになることを期待する。

  9. バーゼル委員会、IOSCO、IAISによって策定されたコア・プリンシプルの実施に向け継続的な努力を行っていくこと。これには、コア・プリンシプルのメソドロジー作業部会における作業や、IMFや世銀の適切な関与の下で行われている作業を含む。

  10. 我々の規制当局が、外国銀行による市場参入を考慮する際のプルーデンシャル基準の一環として、金融監督の国際的基準等、関連する幅広い国際的基準に対する当該国の遵守状況を勘案するようにすること。

  11. 全ての市場参加者が十分な透明性を有することが重要であることに鑑み、全ての市場参加者の透明性を向上させるための措置がとられなければならない。これには、高レバレッジ機関への直接的かつ具体的なエクスポージャー及び高レバレッジ機関自身による関連情報についての、ディスクロージャーの質及び適時性を改善するための措置も含まれる。我々は、この問題に関する金融安定化フォーラムの作業を期待している。

  12. IOSCOにおいて現在行われている、高レバレッジ機関に透明性やディスクロージャー義務を課すことの当否と実現可能性についてのレビュー。

  13. 外国為替市場における総ポジションと総取引の報告に関するCGFSの作業を完了すること。

  14. 透明性及び監督の分野において、オフショア・センターに国際的に合意された基準やコードを遵守させるための方策を検討すること。我々は、この問題に関する金融安定化フォーラムの作業を期待している。

  15. OECDがコーポレート・ガバナンスに関するコア・プリンシプルを先般承認したこと。そして、世銀が、OECDや他の国際機関と共同して、新興市場国や先進国において可能な限り幅広い範囲で当該プリンシプルが採択・実施されるよう促すこと。

  16. 様々な金融及び経済政策に関する基準や最良の慣行を、国際的な金融・経済政策に関する基準集のような、一つの参照となるものに集約すること。それを使って、各国は様々な基準や最良の慣行を実施していくという意志を表明することができよう。

C. 先進国における金融規制の強化

 

  1. 過去2年間、我々は、投資家や債権者はより高い利回りを求めようとする際、しばしばリスクを過小評価する傾向があることを学んだ。市場が非常に楽観的になっている時は、市場参加者はそういう状況でなければ行わなかったような信用供与や投資に関する決定を行いうる。後知恵ではあるが、主要国の貸し手及び監督者側の失敗には、リスク管理の慣行が不十分なものであったこと、情報が不十分であり、また、利用可能な情報に対しての注意も不適切であったこと、自己資本基準が図らずもリスクの高い借り手に貸し出すインセンティブを提供していたこと、などが含まれる。こうした過度のリスクを取る行為が、高いレバレッジと結びついて、ある出来事もしくは一連の出来事による悪い影響を増幅することがある。

  2. 債権者や投資家をより規律に従って行動させる(つまり、彼らの融資及び投資決定において適切にリスクを分析し評価させる)ための措置は、過度のレバレッジを回避すること、及び新興市場に対する貸出しに伴うリスクについて、より慎重な評価を行うことを促すことを目標とするべきである。上述の透明性に関する方策に加え、我々は、先進国において対処されるべき3つの非常に重要な分野を特定した。

  3. リスク評価及びリスク管理を改善すること。先進国における債権者と投資家に、一層規律に従って行動させるための措置により、投資家が好況時にリスクを過小評価し、悪い状況の際にはリスクを過大評価する傾向を和らげることができる。これらの措置は、企業のリスク管理の慣行に対する強化された監督、及び強化された自己資本比率という形をとることが考えられる。

  4. 高レバレッジ機関が監督当局及び規制当局に対してもつインプリケーションを評価すること。レバレッジは積極的な役割を果たしうるが、過度のレバレッジが過度のリスクの集中を伴った場合には問題が生じうる。加えて、全般的な市場の動きや、特定の脆弱な国々に対する影響という観点から、高レバレッジ機関の活動について懸念が表明されている。

  5. オフショア金融センターが国際的な基準を遵守するよう促すこと。金融市場の参加者は、同じ土俵で競争する必要がある。従って、我々が、我々自身の規制の基準を強化し続けていることに伴って、オフショア金融センターが監督システム及び基準を強化するのは重要なことであろう。

  6. 多くの作業が既に着手されてきた。特に、1999年1月には、バーゼル委員会が、信用評価の慣行等高レバレッジ機関との関連における銀行の健全な実務のあり方、及びより的確なエクスポージャーの測定手法の開発に関するガイダンスを公表した。健全な実務のあり方には、高レバレッジ機関に対する意味のある包括的な信用供与上限の設定、及び高レバレッジ機関に関連する信用エクスポージャーのモニターも含まれる。

  7. 複合的で国際的に活動する金融機関の監督については、特別の要請が求められている。金融コングロマリットに関するジョイントフォーラムは、国際的に活動する金融コングロマリットの出現により生じる最も重要な規制上の課題に対応するための原則、規制技術、及びその他のガイダンスの策定について価値ある作業を行った。1999年2月には、その母体機関である、バーゼル委員会、IOSCO、IAISが、以下ような技術面に関する文書を承認し、発表した。

  8. コングロマリットの自己資本比率の評価
  9. 監督当局間の情報交換の促進(含むコーディネーターの特定)
  10. 監督当局間の協調の促進、及び
  11. コングロマリットの経営者、取締役、及び主要な株主の適格性に関するテスト
  1. リスク評価及びリスク管理については、バーゼル委員会が行っている作業が、この分野における更なる作業の有益な出発点となっている。現在更なる作業が求められている:

  2. 我々は、バーゼル委員会の自己資本合意の見直しの提案に関する最近の合意を歓迎した。これは、自己資本合意を、新興市場国への貸出し及び短期の貸出しに伴う信用リスク等のリスクにより敏感に対応するものとし、SDDSやバーゼル委員会のコア・プリンシプルのような国際的な基準への遵守状況を反映させるためのものである。我々は、市場慣行の変化を考慮しつつ、現行のリスク・ベースの資本規制システムについて幅広い見直しを検討するとのバーゼル委員会の意図を歓迎する。

  3. 我々は、民間企業が自らのリスク管理の慣行を強化するよう促す。この観点から、我々は、取引先リスクの管理手法に関するグループが、リスク管理の慣行の強化についての報告書をまもなく発表することに留意する。発表後、我々は各国当局にこれらの勧告を承認するかどうか検討することを求める。

  4. 各国当局は、各国の銀行が、1999年1月にバーゼル委員会が発表した高レバレッジ機関に関する報告書の中の提言に従って、適切なリスク管理の実務を実施することの確保を図るべきである。

  5. 我々は、高レバレッジ機関との関係において証券会社のリスク管理の慣行を強化するとともに、高レバレッジ機関と取引する場合の取引先リスクを制限するためのその他の方策を検討するというIOSCOの努力を歓迎する。

  6. 高レバレッジ機関については、我々は、全般的な市場の動きや特定の脆弱な国々に関するシステム上の論点などを含む幅広い論点について、新たに設立された金融安定化フォーラムによる作業を期待する。この際、間接・直接的な監督手法や報告・ディスクロージャーの改善による透明性の強化策に関するメリット・デメリットを含め、幅広い観点からあらゆる利用可能な方策について包括的に検討するべきである。

  7. 既に自国の監督を強化する措置をとったオフショアセンターもあるが、全ての国がそうした措置をとったわけではない。さらなる前進のために、我々は以下のことを期待する:

  8. オフショア金融センターと密接な関係を持つ国々は、これら地域に対し、国際的な基準を遵守するよう圧力をかけていくべきである。

  9. 先に述べたように、バーゼル委員会はリスク・ウェイトを国際的基準の遵守と関連づけるべきである。

  10. IOSCO及びバーゼル委員会がスポンサーとなっている作業部会のメンバーとなるには、国際的な基準の実施に向けた進展が見られることを条件とすべきである。

  11. 金融活動作業部会(FATF)は、オフショア金融センター、及び規制が緩く協調的でない地域について資金洗浄対策に関する「40の勧告」の遵守をもたらす具体的な手段や、これらを遵守しない地域がもつ悪影響から国際金融社会を守るための具体的な手段をとるべきである。

  12. より一般的に、我々は、金融安定化フォーラムのオフショア金融センターについての作業に期待している。

  13. この報告書の作成にあたり、我々は、金融セクターに対する監督及び規制に関するG7金融専門家グループによる報告書、及びG7金融犯罪作業部会による報告書を考慮した。

D. 新興市場国のマクロ経済政策及び金融システムの強化

 

  1. 最近の金融危機は、新興市場国の経済ファンダメンタルズ及び金融システムを強化する必要性を明らかにした。これは、これら諸国の経済的厚生を改善するのみならず、国際経済・金融の安定に資する環境を創出するために必要不可欠である。大規模な国際資本移動は、新興市場国の発展に重要な貢献を行ってきた一方で、これら諸国が直面するリスクの性格も変化させた。脆弱なマクロ経済政策及び金融インフラストラクチャーに対して、投資家はより厳しくかつ突然にペナルティを課すであろう。最近、多くの論点において、幅広い国際的なコンセンサスが形成されている。

  2. 各国は、持続可能な為替相場制度及び慎重な財政政策を含む、健全なマクロ経済政策を遂行する必要がある。各国は、債務管理に関する健全な原則を守るべきである。また、新興市場国の金融セクター及び監督制度を強化することに高い優先順位が与えられるべきである。

  3. いくつかの新興市場国は、緊密な貿易及び投資関係のある国(多くの場合同一地域内)の単一通貨又は通貨のバスケットへのペッグ制度を採用することによって、為替相場の安定を図ってきた。固定相場を採用している国々は、必要に応じ、為替相場を固定するという政策に他の政策目的を従属させなければならない。仮に固定相場を選択するならば、このような政策を制度化するアレンジメントが、固定相場に対するコミットメントへの信頼を維持することに有用となりうることを最近の歴史は示している。

  4. 過度の短期借入、特に外貨建の借入に関しては著しいリスクと脆弱性が存在する。問題が生じた国々では、短期の資本フローの選好につながる重大かつ不適切な政策バイアスがしばしば存在した。各国は、短期債務の過度の累積を避け、適切な負債構成を維持し、短期借入を選好するバイアスを除去するよう努力するべきである。

  5. 資本勘定の自由化は、注意深くよく順序立った方法で実行されるべきである。また、健全かつ適切に規制された金融セクター及び一貫性のあるマクロ経済政策のフレームワークが伴わなければならない。

  6. 資本流入規制の使用は、各国が国内金融システム上の制度上・監督上の環境を強化する過渡的な期間において正当化されうる。金融セクター及び監督制度が脆弱な場合は、銀行システムの外貨建エクスポージャーを制限するためのセーフガードが適切であろう。いくつかの国においては、市場の圧力から自らを保護するための手段として、資本流入に対するより包括的な規制が採用されてきたことも事実である。ただし、こうした手段は、コストをもたらし、いかなる場合でも改革の代替手段としては使われるべきではない。更に、資本流出規制は、長期的により大きなコストをもたらしうる。また、資本流出規制は、それほど効果的な政策手段であったわけではなく、改革の代替手段ともなってはならない。しかし、一定の例外的な状況では必要となりうる。

  7. 我々は、新興市場国自身が自国経済及び金融システムの強化において主導しなければならないことに合意する。加えて、

  8. 我々の目的は、新興市場国の政策及び組織が世界経済に完全に参加するために必要とされるものとなるように支援することである。

  9. 国際金融機関及び他の国際的な団体は、新興市場国にとって有効な助言及び支援を与えるにあたって、お互いの協力を強化するべきである。

  10. 最良の慣行に関する基準の遅滞ない実施や、効果的な監督の実現のためには、多くの国が技術支援を必要とするであろう。各国当局及び国際機関には限られた数の専門家しかいないため、我々は、金融安定化フォーラムに対し、技術支援に関する協調を改善するための方策を検討するよう求める。これには、技術支援に関する協調を確保し、利用可能な人的資源を最大限に活用するために、国際的なレベルでクリアリング・メカニズムを創設する可能性も含まれる。

新興市場国の為替相場制度

  1. 新興市場国における適切な為替相場制度については、更なる検討が必要である。為替相場制度の選択は、新興市場国が持続可能な経済的発展を達成するために非常に重要であり、また、大規模な公的支援との関連も含めて、世界経済にとって重要な意味を持つ。この関連において、

  2. 我々は、ある国にとって最も適切な為替相場制度は、その国の貿易相手国との関係の深さなど、具体的な経済状況によって異なりうることに合意する。経済状況は時間とともに変化するため、ある国にとって最も適切な制度もまた変化しうる。いずれにせよ、一貫性のあるマクロ経済政策に裏付けられ、強固な金融システムによって支えられた為替相場制度であるかどうかが安定のための鍵となる。

  3. 我々は、特定の為替相場水準を支えるために大量に介入を行う国に対しては、その水準が維持可能と判定され、かつ、為替相場政策が、強固かつ信頼しうるコミットメントとそれを支えるアレンジメントによって裏付けられる、一貫性のある国内政策に裏付けられるなど一定の条件が満たされる場合を除いては、国際社会が大規模な公的支援を供与するべきではないということに合意する。

  4. 我々はIMFに対して、この分野における検討を継続し、サーベイランス活動との関連で、為替相場の持続可能性に対して注意を高めるよう促す。持続不可能な状況に向かうことのないよう、IMFは、各国に対し、助言を与え、必要ならば支援を行って政策を調整するよう促すべきである。

金融システム

  1. 新興市場国の金融システム強化のために、更なる努力が必要である。
  1. 我々は、国際金融機関及び関連する国際的な規制団体とともに、新興市場国における金融監督の改善を促進するために、我々の協力を強化することにコミットする。

  2. IMF及び世銀は、特に金融セクター改革の分野において、新興市場国への両者の助言が調和のとれたものとするべきである。両機関は、政策レビューの一部として、金融安定化のために必要不可欠であるとみなされる幅広い政策についてのサーベイランスを強化するべきである。国際金融機関が融資を行う際に、IMF及び世銀のコンディショナリティの一部として、各国が、現行の国際的なコードの完全な遵守に向けて迅速に取り組んでいくというコミットメントを明らかにすることが求められるべきである。

  3. 我々は、この分野におけるIMF・世銀間の効果的な協力を強化するため、1998年9月に、金融に関する調整委員会(FSLC)、及びIMF・世銀金融セクター評価プログラム(FSAP)が設立されたことを歓迎する。各国及び国際的な規制・監督団体の有する専門的知識も利用しつつ、金融セクターに関する両機関の努力や業務をより効果的に統合することによって、こうした努力の範囲及びペースを拡大していく必要がある。我々は、IMF及び世銀に対し、協力の進展状況、及びこれらの目的を満たすための提案について、9月の総会までに共同報告書を準備するよう求める。これらの提案は、危機への対応、金融セクターに関するプログラムのデザインとその実施、及び加盟国に対する技術的支援を改善するためのより効果的な組織及び資源の活用を目的とすべきである。

  4. 我々は、アジア及びラ米の新興市場国が、効果的な銀行監督のためのバーゼル銀行監督委員会のコア・プリンシプルの実施に向けて必要な措置をとるというコミットメントを様々な会合の場で行ったことを歓迎する。我々は、他の諸国の政府に対し、コア・プリンシプルを実施するための計画が2001年までに策定されるよう、あらゆる努力を行うよう求める。IOSCO及びIAISのコア・プリンシプルもまた、遅滞なく全ての国によって実施されるべきである。

  5. 政府は、悪い結果を蒙らないように何らかの保護が受けられるだろうとの期待に基づいて債権者が民間企業に貸付を行わないようにするために、民間債務に対する政府保証の範囲を狭めるべきである。供与される保証は明確かつ透明であるべきである。こうした規制の範囲外にあるノンバンクの金融機関は、銀行セクターを対象とする明示的なまたは暗黙の政府保証の対象とされるべきではない。

資本移動

  1. 我々は、IMFに対して、資本勘定の自由化の適切なペース及び順序立てについての検討を継続し、自由化に向けた秩序だったアプローチを促進するにあたってのIMFの役割に関し、更なる論点を検討することを促した。この関連で、短期資本移動、特に外貨建の資本移動の選好につながる政策バイアスの除去及び健全な債務管理政策の促進について特に注意が払われるべきである。IMFはまた、資本規制を行った諸国の経験に関する分析を、更に精緻なものとしていくべきである。この観点から、遠くない過去においてチリ当局によって使用されたものを含め、過度の資本流入を抑制するためのマーケット・ベースのプルーデンシャル措置がもたらす利益とコストについて、更に研究していくことが重要である。

  2. 我々は、IMF及び他の関連する機関に対し、各国当局と協力しながら、国境を越えた資本移動のモニタリングのためのより良いシステムを作ることを求める。

  3. 我々は、資本移動に関するタイムリーかつ包括的なデータが重要であることに留意し、IMF及び各国当局に対して、BIS等他の関連する機関の支援を得て、資本の流出入について、満期構成、通貨構成、債務形態、借入主体ごとの詳細なデータを作るよう促す。この関連で、我々は、特別データ公表基準(SDDS)強化の文脈において、公的セクターの短期負債に関するデータの改善についての合意を歓迎する。

  4. 我々は、債務構造、特に外貨建短期エクスポージャーについて、その持続可能性を判定するのに用いることができる、高頻度の債務モニタリング・システムを使用するよう促し、IMFに対し、この分野における各加盟国との作業を促進するよう求める。

  5. 我々は、金融安定化フォーラムの短期資本移動についての作業に期待している。

債務管理

  1. 我々は、新興市場国及び国際金融機関とともに、債務管理についての良い慣行を促進するための作業を行っていく。これは、

  2. 一時的な市場の混乱に対する強力な防御となるような債務のプロファイルを維持するため、長期債務、可能ならば自国通貨建の債務により依存するよう促す。長期債務を短期債務に変換することは避けるべきである。

  3. 短期の民間借入を促すようなバイアスを除去すべきである。

  4. より厚みのある国内債券市場の創出を促して、長期の自国通貨建の債務による借入を促進する。

  5. 一次産品からの収入に大きく依存している政府に対し、一次産品価格の変動に対する脆弱性をヘッジすることを促し、債権者及び債務者の間でより大きなリスク分担をするような契約上のアレンジメントを促進する。

  6. 短期借入のコストを最小化するよりも、借換リスクを含めた流動性リスクに対する脆弱性を最小化するような債務管理を促進する。危機時に国際収支上の圧力を増幅しかねないような条項をソブリン債務に盛り込むことは避けるべきである。

  7. セクションEで述べられるように、国外で発行されるソブリン債においては、秩序ある債務再構成を促進するための契約条項の使用を促進する。

E. 危機の予防・管理の改善、及び民間セクターの関与

 

  1. 最近の危機は、国際社会の金融危機の予防と解決のためのアプローチを改善し、それを開かれた資本市場に対応したものとすることの必要性を強調した。我々は、民間債権者が自己の投資決定の結果を受け入れるざるを得ないことを認識するように彼らの期待を修正し、危機の伝播のリスクを減らす方法を見出す必要がある。

危機の予防

  1. 金融危機の予防が鍵である。これまで我々が述べてきた方策は、危機の予防の改善に重要な手段となる。加えて、危機の伝播を抑制し、今日の統合された金融市場における民間セクターの重要な役割を十分に活用するためには、新たな原則及び手段が必要である。

  2. IMFの新しい予防的クレジット・ライン(CCL)は、国際金融の安定の促進に重要な役割を果たすであろう。この融資制度は、適切な債務構成を有し、健全なマクロ経済政策及び構造政策を実施し、また民間債権者との適切な対話プロセスを行っている国々を、危機の伝播から守ることを目的としたものである。この融資制度によって、IMFが危機の予防により重点を置くようになり、各国が金融危機のリスクを回避するための措置を早期に採っていく一層のインセンティブが提供されるであろう。CCLは、各国が諸基準を実施するよう促すメカニズムをも提供する。

  3. 各国は、債務の支払い困難に陥った時に、マーケット・ベースで協調的かつ秩序ある解決を実行するフレームワークを強化するために、事前の措置を採る必要がある。我々は、以下の措置に合意した。

  1. 危機の予防と解決の双方において、債務者と債権者の間の適切なコミュニケーションが重要である。我々は、新興市場国が主要な債権者とより体系的な対話を行うメカニズムを策定するよう促す。我々はまた、IMFをはじめとする国際金融機関と民間セクターのコンタクトの強化を支持する。

  2. 我々は、危機の予防と、ショックに対する調整の促進のために、マーケット・ベースの手段を活用するよう促す。これには、新興市場国が民間とマーケット・ベースの予防的クレジットラインを締結することや、債務に借換を可能とするオプションを付与することなどの革新的な金融アレンジメントが含まれる。これらの措置は、新興市場国が不安定な状況となった際に、国際市場へのアクセスを容易にし、また、健全な債務管理のフレームワークとの関連において、流動性危機の予防に寄与し、各国が断固たるマクロ経済調整及び構造調整を行うための時間的余裕を与えるであろう。

  1. 我々は、ソブリン債務の約款において、債権者の集団行動に関する条項や、債権者間の調整を容易にし破壊的な訴訟行動を抑制する他の条項の幅広い使用を進展させるため、より強い努力が重要であることに合意した。我々は、以下を推奨する。

  1. こうした条項の使用を、債務管理の国際的な良い慣行の一項目とすること、また、IMFのCCLへのアクセスを決定する際の考慮項目とすること。

  2. 国際的なサーベイランスにおいて、これらの条項の使用に焦点を当てること、及び、適切な場合に、こうした条項をIMFのコンディショナリティーにおいて考慮すること。

  3. 国際開発金融機関が保証するソブリン債務にこうした条項を盛り込むことを検討すること。

  4. 我々自身の債券にこうした条項を盛り込む可能性について更に検討すること、また、我々の国の市場において他国が発行する債券にこうした条項を使用するよう促すこと。

  1. 我々はまた、健全かつ効率的な破産手続きと強固な司法制度を確立する努力を促す。我々は、各国の破産制度、及び債権者・債務者関係が、より透明で、予見可能かつ平等なものとなるよう支援する国際金融機関の作業を支持する。

危機の解決における民間セクター関与のフレームワーク

  1. 上記の危機の予防のための措置に加え、我々は、国際金融社会が、危機の解決にあたり民間セクターを関与させるための原則及び手段の一般的なフレームワークを事前に設定する必要があることで合意した。以下のフレームワークは、より秩序ある危機の解決の促進に資するものであり、したがって協調的解決を見出す際の債務者及び債権者の共通の利益となる。また、このフレームワークは、借入国と民間債権者の間の協調的な解決を促進し、投資家が悪い結果から守られると信じるリスクを減らすように彼らの期待を修正することに資するであろう。このような債権者・債務者間の協調を促進するフレームワークを策定することは、危機の発生する確率やその深刻さを最小化し、また、債務国が市場へのアクセスを回復するまでにかかる時間も最小化するであろう。

原則

  1. 我々は、このフレームワークは、以下の主要な原則からなることに合意する。

  1. この危機の解決のためアプローチは、各国がその債務を全額満期までに履行しなければならないという義務を弱めるものであってはならない。さもなくば、成長に不可欠な民間投資・金融のフローが悪影響を受け、危機の伝播のリスクが増加するであろう。

  2. 債権者が自らとったリスクの結果を受け入れてはじめて、市場規律が働く。民間債権者の意思決定は、特定の投資にかかる将来のリスクとリターンの評価に基づかなければならず、公的セクターによって悪い結果から守られるという期待に基づいてはならない。

  3. 危機時においては、民間セクターに対するネットの債務支払い額を減らすことは、当該国が直ちに必要とする資金ニーズを満たすこと、及び公的セクターによって供与される支援額を減らすことに寄与しうる。これはまた、慎重な信用供与・投資決定への適切なインセンティブを維持することに資するであろう。これらの利益に対しては、こうした措置が各国の新しい民間資金フローをひきつける能力にもたらす悪影響や、危機の伝播を通じた他の国々やシステム全体への潜在的な悪影響とのバランスが考慮されなければならない。

  4. いかなる民間債権者も、同様の地位にある他の債権者よりも本来的に優遇されると見なされてはならない。両者とも重要である場合、債券保有者の債権は銀行の債権に優先すると見なされてはならない。

  5. 可能な限り、危機管理の目的は、事前に確立された効果的な対話に基づく、債務国と債権者の間で交渉される協調的な解決策を達成することであるべきである。

考察

  1. 上記の原則、及び以下で提案する手段は、個別のケースに対する、適切な政策対応について判断を行うための一般的なフレームワークを確立することに資するものである。民間債権者が適切な役割を果たす場合があればその役割、及び民間債権者にこのような役割を果たさせるための政策アプローチは、個々のケースの状況において異なるであろう。我々の行動や使用するであろう特定のアプローチを導く基本的な考え方を事前に明確にしておくことは有益である。我々が提案する原則及び手段は、個々の金融危機を効果的に解決するために必要とされるフレキシビリティーを損なうことなく、投資家がある程度予測することを可能とするであろう。

  2. 各国が対外的なファイナンシングの圧力に直面する状況は様々である。一つには、当該国の金融上の困難を解決するためにマーケット・ベースの自発的な解決策を強調することが最も良いと信じるような状況がある。一方、将来のより持続可能な債務支払いのためにはより包括的なアプローチが適切であるような場合もある。現実には、この両極の間に様々なケースがあるであろう。ある国がこの間のどこに当てはまるかが、固有の状況に最も適した政策アプローチの決定に役立つであろう。その国の債務支払い能力や市場へのアクセスなどもその関連で考慮されるであろう。

  3. 加えて、様々な政策アプローチの実現可能性は、残存する債務インスツルメントの性質にもよる。これらは、当該国の資金繰りの困難を解決するためにはどの債務に対処しなければならないのか、様々な債権者のカテゴリー間での平等な取り扱いはどの程度の問題となるか、自発的な解決・より強制的な解決のどちらが適切か、といった評価に影響を与えるであろう。債務の性質は、主に民間債務か公的債務か、外貨建か自国通貨建か、短期か長期か、元本の支払いか利子の支払いか、オフショアかオンショアか、有担保か無担保か、債権者のグループが狭いか幅広いかなど、多くの切り口に沿って異なりうる。

  4. 危機が深刻化しないように各国が金融上の困難に早い段階で断固として対応するよう促すインセンティブを設けることが重要である。

手段

  1. 将来起こりうる様々なケースに効果的に対応するためには、国際社会は適切な民間関与を促進するための幅広い手段を持つ必要がある。国際社会が利用しうる手段は以下のものからなる。

  1. 公的な支援を、当該国がその政策プログラムを説明するために債権者との対話を開始しようとする努力とリンクさせる。

  2. 公的な支援を、当該国が必要に応じて支援への債権者からの自発的なコミットメントを求める努力や、民間市場からの新たな資金調達へ当該国のコミットメントにリンクさせる。

  3. 公的な支援を、エクスポージャーのレベルを維持するという民間債権者の具体的なコミットメントを求める当該国の努力にリンクさせる。

  4. 公的な支援を、当該国が残存する債務を再構成する、若しくはリファイナンスするために行っている努力にリンクさせる。

  5. ある国の公的債務がパリ・クラブにおいて再構成される必要がある場合は、国際金融機関を除くすべての債権者が平等に扱われるというパリ・クラブの原則が適用される。パリ・クラブは、様々な債権の相対的な大きさや重要性等の要素を考慮に入れながら、平等性に関しフレキシブルなアプローチを採用すべきである。

  6. 危機の解決にあたって公的支援を行う場合には、民間セクターも債務の再構成等を通じて適切な貢献を行うことを効率的に確保するため、外貨準備に下限を設ける。

  7. 例外的なケースにおいては、債務履行遅滞の累積を避けることができないであろう。当該国が、支払い困難に関して債権者との協調的な解決策を求めている場合には、IMFの債務履行遅滞国に対する貸付も容認されうる。

  8. 例外的なケースにおいては、秩序ある債務の再構成を行う時間を確保するため、その国の政策とプログラムに対するIMF支援の文脈で、債務支払いの停止またはスタンドスティルの一環としての資本取引規制または為替取引規制を導入することもありえよう。

  1. 我々は、IMFに対し、ここで合意されたフレームワークにおける特定のアプローチを実施する際の法律的・技術的な問題を更に明らかにするよう求める。我々は、秋の年次総会までに結論を出すことを期待している。

  2. 投資家の期待をより効果的に導くため、我々は、上記の原則及び考察との関連において、個々のケースにおいて採用された政策アプローチの明確かつ時宜を得た説明を行うよう努めることで合意する。

F. 貧困かつ最も脆弱な層を保護するための社会政策の促進

 

  1. 世界経済における最近の出来事は、経済問題と社会問題との関連が重要であること、良好な経済が政府と市民の安定的な関係及び強固な社会的な連帯にかかっていることを強調した。効率的な社会システムは、人々を変化に対応できるようにすることによって、信頼を築き、人々が現代の競争的な市場に必要なリスクをとることを促す。これにより、グローバリゼーションのリスクが緩和され、その恩恵が広く行き渡る。

  2. 有効な社会政策は、とりわけ危機時の調整を容易にし、必要な改革に対する支持の形成に役立ち、調整の負担が社会の最も貧困で脆弱な層に偏らないようにすることを確保する。

  3. これらの分野における行動については、多くの制約がありうる。一般的に、社会政策に使える資源は限られており、他の優先事項も緊急に行う必要があり、制度上の対応能力にも限界がある。経済が悪化している際には、政策担当者は当面の社会福祉を守ることと、貧困を減らし社会福祉を支える最も良い手段となるコンフィデンスの回復及び安定的な成長の促進に必要な調整を確実に実施することとの間で難しい選択に直面する。我々は、すべての国々と国際金融機関が協力して、最も効果的に経済発展を支える社会政策に関する慣行を策定し促進していくことに大きな利益があると信ずる。

  4. 各国は、それぞれ異なった文化や伝統を持っており、社会問題を解決するための独自のシステムや慣行を発展させてきた。異なる発展段階において最もうまく機能する政策に関する経験を共有することは、各国の共通の利益となるであろう。今春ワシントンで開催された33カ国によるセミナーにおいてこうした経験が議論された。本セミナーにおいては、

  1. 社会政策上の支出において最も重要な分野、財政支出が最も必要な層に効果的に使用される方策、更に社会政策上の支出のレベルが決まった際に生じるトレード・オフについて検討が行われた。

  2. 社会の発展状況をモニターすること、社会政策が透明な方法で実施されることの重要性が強調された。これにより、政府及び国民の双方が、最も早い段階で、特に必要とされる分野とそれに基づく政策を認識することができる。

  1. 更に、現代のグローバル経済の中で活動している国々は、同じような圧力に直面する可能性が高いと考えられるため、原則、政策及び最良の慣行を特定し、国際機関を通じてそれを広めていくことが必要である。我々は、国連と共同して世銀が用意した社会政策に関する良い慣行の原則が承認されたことに留意した。前回の開発委員会において、大臣達は、世銀に対し、最も貧困な層を保護し開発へのモメンタムを維持するための政策と最良の慣行に関する作業について、1999年の年次総会において報告するよう求めた。

  2. 社会政策に関する原則、政策及び最良の慣行を認定し広めていくためには、更なる作業が必要である。

  1. 国連が、社会開発サミットのコペンハーゲン宣言のフォーローアップの一環として基本的な社会政策の原則の策定を早急に進めること。

  2. 世銀が、IMFからの参加も十分に得て、経済発展のプロセスを支援するための政策及び最良の慣行の認定について、1999年の年次総会において報告すること。これらは、危機時において、調整プログラムを最も脆弱な層を保護するようにデザインする際に利用されるであろう。

  3. IMF及び世銀が、透明性や良い統治に関する作業において、浪費を最小化し効率性を最大化する社会プログラムの確実な実施をもたらすような方策をより明確に検討すること。

  4. 世銀及びIMFが、個々の国を対象とした、公的支出の構成と効率性について分析するレビューを用意するにあたり、その協力を強化すること。

  5. 危機時に各国のマクロ経済フレームワークの策定を支援するにあたり、IMFは、調整プログラムの中で社会セクターへ十分な支出を行うことをどの程度織り込んでいるかについて考慮すること。

  6. 世銀が、社会指標の作成及びその実施とフォローアップに関するモニタリングにおいて、各国、IMF及び国際開発金融機関と協力すること。

  7. IMFと世銀が、調整プログラムやセクター別プログラムのデザインにおいてこうした問題により大きな注意を払うこと、及びこの分野において一層協力していくこと。更に、我々は全ての国々に対し、平時及び危機時において、健全な社会政策の遂行を促進するために何ができるか検討するよう求める。

  1. 効果的な社会政策は、グローバリゼーションの利益が幅広く共有されることを確保し、人々を変化に対応できるようにし、また、経済をより堅固なものとすることにより、持続可能な発展の基礎を提供するであろう。

  2. 経済成長の利益を全ての国が共有できるような、世界レベルで持続可能な発展は、最貧困国の持続不能な債務負担を減らし、貧困を緩和するための方策にも依存する。従って、社会政策に関するイニシアティブは、債務救済及び貧困削減のイニシアティブとともに実行されなければならない。これらについては、我々は、別途首脳への提案を行っている。