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20か国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)における小林財務副大臣ステートメント

20か国財務大臣・中央銀行総裁会議(G20)における
小林財務副大臣ステートメント
(2002年11月23日 於:インド、ニューデリー)

 
国際金融危機の予防と解決
 



I.危機の予防

 国際金融システムは、幾度となく、国際金融危機に見舞われてきました。近年では、94年のメキシコ危機、97年以降のアジア通貨危機やロシア、ブラジルにおける危機、昨年以来のアルゼンチン、トルコ等の危機が記憶に新しいところです。
 こうした通貨危機、債務危機を予防するためには、IMF等のサーベイランス機能の一層の充実が必要です。特に、1為替制度の選択、2債務管理等における各国の適切な政策及びそのサーベイランス(相互の監視)が重要です。

 (為替制度の選択)
 為替制度の選択にあたっては、ドル化、カレンシー・ボード制といった厳格な固定相場制度から、変動相場制度にいたるまで、これらの中間的制度を含め、様々な特性をもつ為替制度が存在します。
 固定相場制度については、単一の通貨への固定だけでなく、貿易、投資の相手が分散している場合には、これを考慮した複数の通貨のバスケットに対して為替レートを固定する、という選択がありえます。また、先の欧州通貨統合にも見られるとおり、域内貿易・労働移動の度合い、域内の経済構造の類似性によっては、単一の通貨への収斂という選択肢も考えられます。
 各国の為替制度の採用にあたっては、多様な為替制度の特性と、それぞれの存立を可能とする外貨準備、貿易構造、資本自由化の状況等の経済の基礎的条件を踏まえることが重要です。特に、各国が、経済状況に応じて健全なマクロ経済政策運営を行い、これと整合的な為替制度が選択される必要があります。
 例えば、アルゼンチンのカレンシー・ボード制を例にとると、国内の財政状況が悪化する中で、カレンシー・ボード制とは適合しないようなマクロ経済政策運営を行い、結果として為替レジームの変更を余儀なくされたという事実が指摘されます。カレンシー・ボード制に適合するようなマクロ経済政策運営は容易ではありませんが、いずれにせよ、各国のマクロ経済政策運営に対するサーベイランスは極めて重要であるといえましょう。

 (債務管理)
 適切な為替制度の選択に加え、適切な債務管理を各国が採ることも必要です。アジア通貨危機に関連して指摘されたとおり、自国の債権債務の期間構造や、為替レートの変動に伴う債務拡大のリスクを的確に把握することが重要です。例えば、変動相場制度において為替レートの急激な減価が発生すると、国内企業や銀行が、極めて短期間に国内通貨建てで過大な債務を抱えることになることに注意が必要です。
 また、短期債務が外貨準備と比較して過大とならないようにするなど、過去の経験を生かし、危機の予兆となる変数を分析することも重要です。この他、IMFにおいて進められている「債務維持可能性」に関する分析を実際に活用し、個々のケースにおける経験に基づき、分析手法を深化させていくことも必要です。

 (資本自由化プロセス)
 さらに、危機の予防にあたっては、資本自由化政策にも注意を払う必要があります。直接投資の導入といった長期資本の自由化は積極的に進めていく必要がありますが、短期資本の急激な流入、流出にともなう通貨・債務危機の発生の可能性にも十分に注意を払わねばなりません。また、国内の金融システムの脆弱性も十分考慮に入れながら、資本自由化を進めることが重要です。

 (サーベイランス)
 近年の大量の資本移動に伴い、通貨危機、債務危機の可能性は高まっているといえます。このような状況を踏まえ、健全なマクロ経済政策運営をはじめとして、これと整合的な為替制度、債務管理といった事項に関するマルチの場におけるサーベイランス機能を強化すべきであり、G20のような場における各国経済のサーベイランスの重要性がますます高まっていくものと考えます。

II.危機の解決

 国際金融危機の解決にあたっては、1IMF等による公的融資、2当該危機国による政策調整、及び3必要に応じた民間セクター関与(PSI:Private Sector Involvement)が重要です。それぞれ、IMFやG7等において具体的な検討が進んでおり、その着実な実行が必要です。

 (公的融資)
 IMFによる支援のうち、通常のアクセス・リミットを超える支援は、債務の維持可能性や民間投資の呼び込み効果についての十分な検討を基礎として、真に例外的な場合に限定することが重要であると考えます。
 また、IMFによる支援額の基準となるIMFのクォータについては、現在、5年に1度の見直しが行われています。国際資本移動が増加し、危機の際には大量の資金支援が必要とされることから、現在のIMFの資金規模は十分でないと考えられます。従って、来年1月末に定められた検討期限までに、増資が決定されることを期待します。また、現在のIMFのクォータの配分は、アジア経済の成長を踏まえた世界経済の現状を反映しておらず、適切な配分が行われるべく、同時に見直しを図ることが必要であると考えます。
  
 (政策調整)
 危機の解決のためには、危機国自身のオーナーシップが発揮された政策調整を内容とするIMFプログラムが策定され、これが着実に実行されることが重要です。こうした点に重点をおいて、本年9月に、IMFがプログラムを策定する際のコンディショナリティに関するガイドラインが策定されましたが、今後はこのガイドラインに従って、簡素かつ適切なIMFプログラムが策定され実行されることを期待します。

 (民間セクター関与)
 危機の解決の過程では、国家債務の再編が必要となることもあります。国家の債務の返済条件を迅速に変更するため、1集団行動条項(Collective Action Clauses:CACs)の導入といった契約アプローチ、及び2IMFを中心とする条約等による法的アプローチ(Sovereign Debt Restructuring Mechanism:SDRM)が現在検討されています。この2つのアプローチは、相互に補完的であり、両者を並行して検討するいわゆるツー・トラック・アプローチを採ることが望ましいと考えます。

 集団行動条項については、先のG7において、G7諸国が外国で発行する債券について先行的に導入することを合意しました。今後は、新興市場国が、G10を中心に検討されている具体的な契約条項を基礎として、民間金融セクターの理解を得つつ、既にその導入が進んでいる英国や日本の市場と並び、米国、特にニューヨーク市場においても当該条項を含んだ債券の発行が行われることを期待します。

 また、法的アプローチについては、本年9月のIMFC(国際通貨金融委員会)において決定されたとおり、IMFが来年4月の次回IMFCまでにその具体案をまとめることとなっており、この進展を期待します。

(以上)

[ 英文 ]