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ヘッジファンドと国際金融市場

ヘッジファンドと国際金融市場

 

大蔵省国際局国際機構課長 中尾武彦

(大蔵省広報誌「ファイナンス」99年7月号所載)

1. はじめに


1997年夏のアジア金融危機の発生以降、国際金融市場における民間資本の急速な流れとその担い手である機関投資家の役割に改めて関心が高まっている。なかでも、「ヘッジファンド」という耳慣れない言葉が新聞紙上に頻繁に登場するようになったのは、アジア危機直後から特にいくつかのアジアの新興市場国において、ヘッジファンド等の機関投資家による投機的活動が各国経済に深刻な結果をもたらしているとの主張が盛んに行われるようになってからである。ただし、この時点では、先進各国やIMF等の当局は、ヘッジファンド等の活動の意味合いについて、必ずしも十分な問題意識を持っていなかったように思われる。例えば、昨年5月に作成されたIMFのヘッジファンドに関するレポート(別添1)によると、「ヘッジファンドの資産は機関投資家の総資産に比べて見劣りがする」「市場の変動に対して柔軟に対応できるため、『安定的投機』という機能を果たす」といった文言が並び、高レバレッジを用いたその取引の影響についてはあまり深く論じられていない。


昨年夏のロシアの通貨危機、それに続く米国のヘッジファンドLTCM(Long Term Capital Management)の経営破綻などが相次いで起こるに至り、ようやく国際経済社会が全体としてヘッジファンド等の投げかける問題を真剣に検討し始めたと言えよう。この問題は、アジアの新興市場国がメンバーとなっているAPEC(アジア太平洋経済協力)非公式首脳会議やASEM(アジア欧州会議)において昨年秋以降活発な議論が行われているほか、当課が担当するIMF、7か国蔵相・中央銀行総裁会議、サミット蔵相会合などグローバルな経済・金融問題を取り扱う場でも重要なテーマとなっている(別添2)。我が国も、主として新興市場国に対するヘッジファンド等の活動の影響という観点から、その活動の透明性の必要性等について提言を行ってきた(別添3)。


国際会議等での議論を受けて、既に具体的あるいは技術的な検討も進みつつある。まず、ヘッジファンド等と取引を行う銀行のリスク管理の強化の必要性は、本年1月に発表されたバーゼル銀行監督委員会報告書(別添4)が既に提起している。同様に、ヘッジファンド等の取引相手となっている証券会社のリスク管理やこれに関連する規制のあり方については、IOSCO(証券監督者国際機構)において現在検討作業が行われている。更に、本年4月に金融監督のあり方に関する国際的な議論の場として、G7諸国が中心となり、バーゼル委員会やIOSCOも加わって設けられた金融安定化フォーラムにおいても、「高レバレッジ機関」(2.パラ8参照)、短期的資本フロー、オフショア金融センターに関する3つの作業部会においてヘッジファンド等の活動に関連する検討が行われるつつある。民間のイニシアティブでも、国際的活動を行う金融機関が中心になって組成されたカウンター・パーティー・リスク・マネジメント・ポリシー・グループがヘッジファンド等との取引に関わるリスク管理のあり方について本年6月に報告を公表している(参考文献参照)


こうした流れにも大きな影響を与えているのが、何といってもヘッジファンド等の実質上の拠点が多く設けられている米国の動きである。米国は当初はアジア通貨危機とヘッジファンド等のかかわりについてどちらかと言えば距離を置いたスタンスをとっていたように見える。しかしながら、98年9月末のLTCMの破綻を契機に長期にわたって米国内のみならず世界的に金融市場が大きく混乱したことは、米議会やマスコミからも注目される結果となった。これを受け、ルービン財務長官、グリーンスパン連邦準備委員会議長、レビット証券取引委員会委員長、及びボーン商品先物取引委員会委員長をメンバーとする大統領金融作業部会(議長:ルービン財務長官)で検討が進められ、同作業部会は本年4月の7か国蔵相・中央銀行総裁会議・IMF暫定委員会直後の4月28日に報告書を発表した。


米国大統領作業部会報告書
(別添5参照)は、新興市場国経済への悪影響のおそれという観点がほとんどなく自国の金融システムへのリスクという観点に偏っている側面は否めないが、以下のような点で注目に値する。
1 LTCM破綻の教訓として、いわゆる市場規律が十分に働かなかったことを挙げ、その原因を解明していること
2 ヘッジファンド等と取引を行う金融機関のリスク管理の徹底やこれに向けた監督当局の関与を積極的に求めていること
3 これまで規制の枠にあまり入ってこなかったヘッジファンド等自体の報告・ディスクロージャーの強化や導入にまで踏み込み、必要な立法措置を議会に要請していること
4 ヘッジファンド等自体への自己資本比率規制等(いわゆる直接規制)については、上記23のような措置が有効でないことが明らかになった時に検討されうるとしていること
5 新興市場国への影響については、上述のとおりあまり関心を払っていないが、結論部分でこれらの国自身が自国の金融システムへのシステミックリスクを防ぎ、また市場の健全性(integrity)を維持するなどの観点から、必要な措置を検討することが考えうると認めていること


本稿
では、こうした最近の国際的な議論の流れを踏まえ、ヘッジファンドの性格や活動状況、その国際金融市場における役割と影響、先進国と新興市場国における政策課題などを整理してみることとしたい。国際金融をめぐる状況、ヘッジファンドに関する議論はいわば日々刻々変化しており、本稿も現時点における各方面の検討の成果をまとめておくにとどまることは言うまでもないが、今後の幅広い研究、検討のベースとして少しでも役立てば幸いである。

注1)

ヘッジファンドに関しては、本年3月から6月にかけて、国際金融、金融法、国際私法等の専門家(伊藤隆敏一橋大学経済研究所教授、小川英治一橋大学商学部教授、神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授、道垣内正人東京大学大学院法学政治学研究科教授、宮島秀直国際金融情報センター審議役、和仁亮裕弁護士)を招き、国際機構課が幹事となって、関連部局のメンバーも加わって意見交換を行う機会を持った。この過程で、何人かの市場関係者(水野温氏ドイチェ証券チーフエコノミスト、淵田康之野村総研資本市場室長、イェスパー・コール・タイガーマネジメント日本事務所長ほか)からも意見を伺った。本稿の執筆に当たっては、末尾の参考文献に加え、こうした機会に出された意見を参考にさせて頂いた。文中意見にわたる部分についての責任は筆者個人にあるが、一方、もし本稿の内容に有意義なところがあるとすれば、それは基本的に意見交換に参加したメンバーの貢献である。なお、本稿のとりまとめに当たっては、大久保良夫副財務官、鹿戸丈夫在ニューヨーク領事、仲浩史輸銀主任研究員(ロンドン)、志村仁同主任研究員(ワシントン)をはじめ多くの関係者からたくさんの貴重な示唆を、また当課の金田修係員から基礎資料の調査等多大な貢献を得たことを付言しておきたい。

注2)

本稿準備の最終段階で、6月18日、ケルン・サミットにおける蔵相からの首脳への「国際金融システムの強化」に関する報告書が発表されたが、その中ではヘッジファンド等の高レバレッジ機関について、我が国の提起してきた問題意識も反映し、多くの提言がなされている(別添6)。特に、?全ての市場参加者に透明性の向上が必要とし、高レバレッジ機関自身にもディスクロージャーの改善を求めていること、2高レバレッジ機関に関し、過度のレバレッジの危険性や新興市場国への影響などについて懸念を指摘していること、3銀行、証券に関して上述のバーゼル委員会やIOSCOの作業にも言及しながら高レバレッジ機関との取引に係るリスク管理の徹底を求めていること、4間接・直接の監督手法やディスクロージャーの改善策なども含め、あらゆる利用可能な方策について金融安定化フォーラムでの検討を求めていることなど、従来より相当踏み込んだ内容となっている。
 

2.

 

「ヘッジファンド」とは何か。



「ヘッジファンド」を正確に定義することは困難である。通常、この言葉は、証券、通貨、商品等に対する積極的な投資・裁定取引を行っている私的な投資会社・パートナーシップの総称として使われている。バーゼル銀行監督委員会の報告書は、その定義の困難を認識しつつ、ヘッジファンド等の「高レバレッジ機関」の特徴として、1直接的な規制・監督をほとんど受けていないこと、2規制対象金融機関や上場会社に比べ、ディスクロージャー義務が極めて限られていること、3レバレッジが高いこと、を挙げている。その上で同報告書は、レバレッジが高いことにより市場価格の大幅な変動に対するエクスポージャーが大きくなり、市場の動向如何により高レバレッジ機関の取引相手あるいは債権者を大きなカウンターパーティー・リスクに晒すことになることに注目し、金融機関が高レバレッジ機関と取引するに当たってリスク管理を徹底する必要性を提言している。


ここで「レバレッジ」とは、通常は自己資本に対して借入を行い、これをてこ(lever)として自己資本への収益率の増大を図る(一方、リスクは高まる)戦略を意味し、米国大統領作業部会の報告でもレバレッジの大きさを貸借対照表上の自己資本と総資産の比率で見ている(2. パラ7参照)。 しかし、バーゼル委員会の報告書は、レバレッジを単なる「借入れ」だけではなくデリバティブ等を活用した資金の動員も含む広い概念でとらえており、「何らかの共通の尺度で表されたリスクの自己資本に対する比率」としている。いずれにせよこのレバレッジについては、例えば銀行は自己資本と総資産の比率で見ればレバレッジは相当高い(例えば自己資本比率8%の場合12.5倍)が、同じ比率で見て同程度のレバレッジをとっているヘッジファンド等と比較した場合には、明らかに銀行の方がリスクが小さいと考えられるなど、レバレッジの方法や投資戦略が違う異なる種類の機関の間ではリスクの程度と単純に結びつけるべきではないという点に留意する必要がある。


ヘッジファンドと言われるものが米国で最初に出現したのは、1949年に社会学者で金融関係のジャーナリストでもあったアルフレッド・ジョーンズが始めたジョーンズ・ヘッジファンドであると言われている(参考文献のIMFレポート、宮島論文、淵田論文など参照)。ヘッジファンドと呼ばれる理由は、割高株などのショート(売り持ち)と割安株などのロング(買い持ち)を組み合わせた投資戦略を用いて、市場全体がある方向に動くリスク(マーケット・リスク)に対してヘッジを行っていることにある。すなわち、最も典型的な戦略では、T期において、運用者が割高と考えるA株をT+1期先物で空売りし、割安と考えるB株を直物で買っておく。T+1期になって、実際に割安と割高が修正されA株が下がりB株が上昇した時に、B株を直物で売ってその資金でA株を直物で購入し先物で空売りをしておいたA株の決済を行うようにすれば、B株の価格上昇分とA株の価格下落分について利益を得ることができる。仮に市場の株価全体が下がる場合であっても、購入しておいたB株については損を蒙るものの、空売りしておいたA株についてはより大きな利益を得ることができる。逆に、市場の株価全体が上昇する場合には、ショートポジションのA株については損を生じても、ロングポジションのB株による利益がこれを補ってくれる。したがって、全体として見れば、割安株と割高株の判断さえ間違えなければ、市場全体の株価の動向にかかわらず利益を上げることができることになる。市場全体の動向が金利や経済状況、投資家心理などの影響を受けてより予想しにくいものであるとすれば、その限りでロングとショートの組み合わせはリスク回避のための一つの投資戦略と言える。


1950年代以降
米国で数を増やしたヘッジファンドの多くはこのロングとショートの組み合わせによるマーケット・リスクからのヘッジという投資戦略から離れていったが(その意味でヘッジファンドという言葉は不正確という論者もいる)、レバレッジ(借入れ資金)を活用して自己資本への収益率を高める、リミティド・パートナーシップの形態をとる、ファンド・マネージャーの報酬に成功報酬の要素を入れる、といった点には共通性があった。1966年から68年にかけての株価上昇局面ではヘッジファンドの数も証券取引委員会の調べで215に達し、この中にはレバレッジを活用しながら、単純に値上がりが期待できる株式購入による投資を行う、よりリスクの高い戦略をとったヘッジファンドも多かった。その結果、1968年末から70年末の市場下落の時期には、28の大手ファンドのうち5つは閉鎖されるという事態にも至った。1980年代以降は、世界的な金融自由化・資本規制自由化の流れが国際的分散投資の機会を拡大させたこと、金融イノベーションの進展により先物、オプション、スワップなどのディリバティブ取引が活発化したこと、また、いくつかの大手ヘッジファンドが目覚ましい業績を上げ注目されたこと、などもあり、ヘッジファンド業界は再び活況を呈した。


現在のヘッジファンドの投資戦略は多様である。あるヘッジファンド関連調査機関(Van Hedge Fund Advisors)の分類によれば、国際的な投資活動を活発に行っているヘッジファンドの代表的なタイプとしては、1類似した証券の間で割高、割安の予想の下に上述したようなロングとショートの組み合わせにより投資を行うボンド・アービトラージ型、2各国のファンダメンタルズと証券や為替など資産価格との乖離に着目してこれらの資産に基本的にロングの投資を行うグローバル・マクロ型、3主として新興市場国の株式や債券にロングの投資を行うエマージング型、などがある。


LTCM
はこのうちボンド・アービトラージ型に属するヘッジファンドの典型である。LTCMは、99年はじめのユーロ発足に向けた金利などのコンバージェンスをにらんで、98年前半に、その時点では高金利であるが近い将来相対的に金利下落、債券価格の上昇が予想されたイタリアやスペインなどの国債を保有(ロング)し、相対的に金利上昇、債券価格の低下が予想されたドイツの国債を先物で空売り(ショート)していた。しかし、結果的には、8月のロシア危機の影響などもあって安全資産への選好が高まり、秋にかけてコンバージェンスは進まず、かえってこれらの国の間で金利スプレッドが拡大し、LTCMは大きな損を蒙ることになった。このように、マーケット・リスク(この場合、各国の絶対的な金利水準の動向)をヘッジしているからと言って、安全な投資であるという保証はもちろんない。むしろ、このようなアービトラージ取引の場合、少ない利鞘から大きな利益を上げるため、レバレッジは大きくなりがちで、その分リスクが高まるとの指摘もある。


前述のように、いわゆる「ヘッジファンド」には、多様な種類のものが存在しており、必ずしもすべてのヘッジファンドが大きなレバレッジを利用しているわけではない。ある統計資料(Van Hedge Fund Advisors)によれば、ボンド・アービトラージ型ヘッジファンドでは、自己資本と総資産の比率で見て2倍以上のレバレッジを利用しているものが60パーセント近くにも上るが、他の種類のファンドではレバレッジの利用が限られているものも多い(全体として、レバレッジなしが30パーセント、2倍未満のレバレッジ利用が54パーセント)。もっとも本年4月に発表された米国大統領作業部会報告書によれば、LTCMの場合には、97年末の自己資本(equity capital: 投資家などからの預かり資金)が48億ドルであるのに対し、貸借対照表上の管理総資産(total assets)は1290億ドルに上っており(IMFレポートによるヘッジファンドの平均管理資産1億ドル程度に比べ突出している)、その間のレバレッジは実に28倍に達する。同報告書は、更に、LTCMがこの資産をOTC(Over-the-Counter)デリバティブなどに運用した結果としての想定元本は1.3兆ドルに上るとしている。このような数字は、少なくともLTCM等一部の大手ヘッジファンドによる取引が、レバレッジやデリバティブを活用して市場に大きな影響を及ぼしうることをうかがわせるものとなっている。


一方、レバレッジやデリバティブ取引の利用自体はヘッジファンドだけに見られるものではない。再び上記の大統領作業部会報告書を参照すると、97年末に管理する総資産が100億ドルを超えていたヘッジファンドはLTCMを含めて11である。これに対し、銀行持株会社の最大手5社それぞれの総資産は98年末に2615億ドルから6177億ドルの間にあり、自己資本に対するレバレッジの平均は14倍、また、投資銀行(証券会社)の最大手5社のそれぞれの総資産は1540億ドルから3180億ドルの間にあり、レバレッジの平均は27倍であった。更に、98年末にデリバティブ取引の想定元本が1兆ドルを超えている銀行持株会社は6社、投資銀行は2社ある。これらの数字を見れば、ヘッジファンドのみが大きなレバレッジを使い、あるいは極端に大きなデリバティブ取引を行っているわけではないことが分かる。したがって、市場の安定や健全性、新興市場国経済などへの影響を考えるに当たっては、単に「ヘッジファンド」にのみ注目するのは適切ではなく、高いレバレッジを用いる機関投資家、その中でも特に当局からの直接的な規制・監督をほとんど受けていない機関を一般的に指す、いわゆる「高レバレッジ機関」(Highly Leveraged Institutions : HLIs)に焦点を当てていく必要があるとの議論がなされている(本稿で「ヘッジファンド等」という場合、主として高レバレッジ機関一般を念頭に置いている)。更には、ヘッジファンド等と同様の投資行動をとる、より幅広い市場参加者の行動や金融手法に注目すべきであるとの指摘もある。


このほか、ヘッジファンドの特徴として、ファンド・マネージャーが、年間の運用手数料(例えば運用受託額の1パーセント)に加えて、運用成功報酬(例えば年間収益の20パーセント)を受け取ることが一般的である。またファンド・マネージャー自身が自らの資金を投資している場合も多い。こうしたインセンティブをも背景に、ヘッジファンドは、総じて高い投資純収益を上げていると言われている。他方で、こうした雇用形態が、それぞれのマネージャーが担当している期間の収益最大化のみを目的とした投資を行うことを誘発し、結果として、ヘッジファンドの投資行動のタイムスパンを短くさせ、長期的な観点からのリスク分析が適切になされないことにつながっているとの指摘もある。


見方によれば、ヘッジファンドは、従来の銀行、保険会社、投資信託、年金基金等の金融仲介機関の持っている投資運用機能のみに極度に専門化・純化した機関とも考えられる。金融技術の急速な発達やグローバリゼーションに伴って、他の専門機能に特化した機関(信用評価会社、証券投資アナリスト、金融ソフトウェア会社、M&A専門会社、データ提供会社等)の活動も活発化しつつあるが、ヘッジファンドの活動が従来にも増して注目されていることは、このような金融の世界における大きな流れの一つと考えることもできよう。
 

3.

 

米国におけるヘッジファンドの法的位置づけ



法的には、「ヘッジファンド」は、集合投資スキームの一種である。米国では、投資信託は、投資家保護の見地から投資会社法の適用を受け、証券取引委員会への登録やディスクロージャー等の義務を負う。しかしながら、米国投資会社法の規制上、一定の条件を満たす投資スキームについては、その適用を基本的に免除する規定が設けられており、ヘッジファンドは、この免除規定を活用したリミテッド・パートナーシップないし有限責任会社の形式を取っていることが一般的である。すなわち、米国投資会社法では、従来から、「投資家が100人以内であり、その受益証券を公募していない、あるいは、公募することを意図していない投資会社」については、その適用を基本的に免除している(1940年投資会社法、第3条(c))。1996年の証券市場改革法により、この免除範囲は広げられ、受益証券を公募していない、あるいは公募することを意図していない限り、「適格購入者(qualified purchasers)」のみに販売されるファンド等は、投資会社法の適用を免除されることとなった。ここにいう「適格購入者」とは、1投資残高が500万ドル以上の個人、2投資残高が500万ドル以上で2人以上の近い関係の個人によって設立された法人、3一任勘定残高が2500万ドル以上の機関投資家、と定義されている。


また1933年証券法(及び34年証券取引所法)においては、株式等について一般的に証券取引委員会への登録やディスクロージャー等の義務を定めている。これらの義務を免れるためには私募が条件となるが、33年証券法に基づくRegulation Dでは、私募と認定されることの要件として「認定投資家」(accredited investors)への販売の場合か、認定投資家以外への販売の場合には売却先数35以内を規定している。ここでいう認定投資家には、銀行・保険会社等の他、総資産が100万ドル以上の個人、直近2年間の自身の所得が20万ドル以上か配偶者と合算して30万ドル以上の個人、総資産500万ドル以上の年金基金等が含まれる。ヘッジファンドの活動は、もちろんこの証券法による規制も免除されるような形で行われている。


こうした適格購入者や認定投資家の概念に基づく規制からの免除は、裕福で判断能力の高い投資家に対して法律による投資家保護を図る必要は乏しいとの考え方に立ったものである。同時に、この免除規定は、ヘッジファンドが、投資信託一般に比べ、地域的・商品的に極めて幅広い市場での業務を行うこと、投資戦略のより大胆な変更や投資対象金融商品の機動的な入れ替えを行うことを可能にしていると言われている。


ヘッジファンドが米国投資会社法・証券法上の規制を基本的に免除される形態をとっているといっても、その適用免除を確保するための販売方法(一般的な勧誘の禁止等)などの規制には服している。また、ヘッジファンドのファンド・マネージャーの多くは、商品先物取引委員会(CFTC)の規制により、「商品先物ファンド等管理者(commodity pool operator)として登録義務、ポジションについての報告義務、投資家への情報開示義務等を負っている。更に、極めて大口の為替取引を行う銀行、ノンバンク(ヘッジファンドも含まれる)などは、定期的に外国為替ポジションやデリバティブ取引の内容を財務省に報告することが法律上義務づけられている(法律はUS Code Title 31 Section 5315、これに基づくレギュレーションはTitle 31に基づくpart 128)。これは、規制の対象として主として銀行を念頭に置きつつ、1資本移動の国際金融システムへの顕著な影響の考慮、2大企業の資本的取引を当局が把握する重要性、3IMF協定上の情報提供義務の遂行、を立法目的とするものである。したがって、米国においてヘッジファンドが何らの規制にも服していないと考えることは正しくないが、一方、これらの規制がヘッジファンドに十分なディスクロージャーを求めるものとなっている、あるいは投機的取引への牽制効果を果たしているとも考えられていない。


多くの大規模なヘッジファンドは、法律上オフショア市場に組織されている。その目的は、第一に、オフショアのタックス・ヘイブン(租税回避地)としてのステータスを利用して、投資家への税負担を最小限にすることにあると考えられる。米国税法上も、一定の条件を満たすオフショアの投資スキームは米国内で株式等の自己勘定取引を行っていても米国で業務を行っていると見なされず、その場合、取引から得られる利益は米国での課税の対象外となる。更に、オフショア市場では、投資スキームの設立、登記、情報開示等の面も含め、先進諸国に比較して規制が非常に緩やかである。このようなことから、インフラの整備状況や取引時間帯等をも考慮し、カリブ諸国のオフショア市場がヘッジファンドの設立地として多く利用されている。このことは、ヘッジファンドの活動状況を全体として把握し、必要に応じて適切な政策対応を検討していくことを一層難しくしている。なお、実際の投資指図は、米国内にいる当該ヘッジファンドのファンド・マネージャーが行うのが普通である。
 

4.

 

国際金融市場における役割と影響



一般的に、「ヘッジファンド」を含め、リスクを取ることに積極的な投資家が存在することは、市場の流動性を高め、市場を通じるリスクの再配分を容易にしているといった側面がある。ヘッジファンドは、積極的にリスクを取ることのできる投資家として、かつてのいわゆる「オイル・マネー」等が果たした市場の潤滑油的な役割を果たしていると考えるべきであるという論者もいる。


投機が市場に対して安定的な機能
を果たすのは、例えば、実需のみしか存在しないケースで価格が変動する場合に、資産を価格が低いときに買って、価格が高いときに手放すような場合である。この場合、投機家も利益を得られるが、価格が低いときに追加的な需要をもたらし、高いときに追加的な供給をもたらすことから、通常の需給関数を前提にすると、価格はより平準化される。この点に関連し、昨年5月のIMFレポートは、ヘッジファンドの機能に対してポジティブな評価を行っている。すなわち、通常のミューチュアルファンドにおいては、収益次第で投資家からの預かり資産額が変動するため、最低限の収益を確保する観点から、現在価格が上昇している資産を買い、また内部統制のルールにより損切りを早く行わなければならないため、現在価格が下降している資産を売る傾向にあるが、ヘッジファンドは一定期間安定した預かり資産が保証されているために、市場の変動により適切に対応でき、市場の安定に資する面があるとしている。


これに対し、ヘッジファンドは、特定の市場では後述の群集行動などの影響もあって非常に大きな影響力、あるいは独占的な攪乱力を持つことがあり、そういう投機的な活動がなければ起こらなかった、本来のファンダメンタルズ(各国の基礎的経済条件)からかけ離れた別の均衡へのジャンプを導いてしまっているのではないか、「自己実現的通貨危機モデル」(通貨危機は必ずしもファンダメンタルズの悪化からのみもたらされるのではなく、ファンダメンタルズと関係なく、投資家が通貨切下げを予想して投機アタックをかけることによって、実際に通貨危機が引き起こされることがあるとするもの)、あるいはいわゆる「複数均衡モデル」(経済モデルにおいては、初期条件や外生変数等から導かれる均衡点が一つあると考えるのが普通であるが、外国為替市場のように予想将来価格が現在の価格に影響を及ぼす市場では、市場参加者の予想により左右される複数の均衡点が存在しうるとするもの)が当てはまるのではないか、との指摘もある。このような考え方に従えば、どんなに政策に問題がなくとも、例えば固定為替相場制をとっている比較的小さな規模の経済において、固定制からの離脱を狙った当該国通貨の大量の空売りを先物で行うような場合は、先物で通貨が暴落し、それが現物の下落も招いて、結局元の均衡に戻れなくなるようなケースも考えられる。


更に、ヘッジファンドのように透明性が低く、規制や監視・監督がほとんど行われていない場合には、取引相手がそのリスク行動を十分把握できない可能性が高まり、最終的なリスク負担が取引相手やシステム全体に転嫁されていく危険がある。LTCMの事例は、そうした危険を示唆していると考えられる。この事例を見ると、極めて競争的な市場環境の下で、1個々の取引相手はLTCMの業務リスクの全体像を把握するのが困難であったこと、2LTCMの投資戦略を知りたいというニーズに基づく取引のインセンティブやLTCM経営陣のリスク管理能力に対する過度の信頼があったこと、3実質的なレバレッジを過小評価し、一部金融機関は寛容な取引条件を提示していたこと、等が明らかになっている。


ヘッジファンドの国際金融市場における影響の大きさを推し量るためには、ヘッジファンド業界の全体としての規模を見る必要がある。現在国際金融市場で活動しているヘッジファンドの数やその規模については、様々な推計がある。IMFレポートは、「1990年から97年にかけて、ヘッジファンドの数は127(ヘッジファンドから資金を預かり運用するファンド・オブ・ファンズを除けば95)から1,115(同853)に増加し、管理資産の合計は85億ドル(同72億ドル)から1,096億ドル(同899億ドル)に増加した。」という推計(Managed Account Reports)を引用している。その上で、IMFレポートは、「ヘッジファンドの総資産は他の機関投資家の総資産に比べて見劣りがする。先進国市場では機関投資家の総資産は20兆ドルを超えている。更にこれらの機関投資家はヘッジファンドと同様の手法を多く用いている。したがって、ヘッジファンドが特定の市場を支配し、あるいは買占め等を行うことができるという説には疑問が残る。」として、ヘッジファンドの影響を控えめに見ようとしている。ただし、IMFの推計はおそらく過小であり、前述の米大統領作業部会報告におけるLTCM1社の97年末の資産が1290億ドルという数字とも整合的ではない。ある別の推計(Lee Sachs)は、「現在約3500程度のファンドが存在し、2000億ドルから3000億ドルの資産を運用管理している。」としている。また、ある市場関係者は、ヘッジファンドの管理資産を約3700億ドルと推計している。これらがデリバティブ取引等を活用していることをも考慮すると、実際にヘッジファンドが市場に与えうる影響は相当に大きいとの見方ができる。


ヘッジファンドの行動が金融市場に与える影響を検討する場合は、ヘッジファンド自体の投資行動と同時に、これを模倣して投資行動を行う金融機関や投資家が存在することにも注目すべきであろう。他の投資家がヘッジファンドに追随することを予想してヘッジファンド自体が行動する場合には、ヘッジファンドの市場への影響力は一層大きいものとなる。すなわち、投資家は、経済や市場の基礎的条件(ファンダメンタルズ)の判断よりもむしろ他の投資家が全体としてどう判断しているかによって行動しがちであるとの考え方に立てば、ヘッジファンドがこの「群集行動(herd behavior)を誘発する可能性をも含めてその影響力を考えるべきであるということになる。一般的には、ヘッジファンドの投資戦略がより高度な投資理論に基づいていると考えられていることから、他の投資家の追随(copy cat trading)を招きやすいとの指摘もある。


この群集行動については、その合理性を説明するモデルとして、以下の3つが代表的なものとして挙げられる。1収益外部性モデル」によれば、同じ行動をとる他の投資家の人数が増加すればするほど、その行動をとる投資家の収益が高まる。例えば、株式投資でキャピタルゲインを得るためには、ケインズの「美人投票の理論」にあるように、「よい投資かどうか」よりも「他の多くの人がよい投資と思うかどうか」を基準として投資をした方がリターンが大きいことがある。2依頼人―代理人(principal-agent)モデル」によれば、ファンド・マネージャーの投資成果を評価する際に情報の不完全性が存在する場合には、評価は他との比較で行われがちであり、その結果ファンド・マネージャーは自分たちの評価を維持するために群集の行動を基準に行動することがある。ただし、ヘッジファンドのファンド・マネージャーは他の機関投資家との比較ではなく、絶対的な投資収益に基づき報酬を決定されるため、このモデルはあてはまらないとの議論もある。 3情報カスケード・モデル」によれば、後発投資家が、先に行動をとった投資家は自分よりはよい情報を入手していて、これを基にアクションを起こしたと推定し、これと同じ行動をとることが最適であるとの意思決定をする。このように情報がカスケード(段々滝)状に伝播していくと、群集全体として同じ方向の投資行動がもたらされることになる。このほか、現在では各機関投資家の用いる投資決定モデルが似通っていることが群集行動の源になっているとの指摘がある。


アジア金融危機の過程等で、ヘッジファンドが比較的小さい規模の市場で最も活発に活動してきたと言われていることを考慮すると、その影響力は、新興市場国の市場規模との関係で評価する必要がある。市場規模が小さければ、市場価格の変動等により大きな影響力を行使することが可能である。ただし、ヘッジファンドの投資戦略の生命線は市場の流動性であり、流動性が不足している場合には、投資に対応したヘッジや危機直前のポジション解消が困難になる。したがって、あまり小さい市場よりも、ある程度開放的で流動性の高い市場であることが、ヘッジファンドが活発に活動を行うことができることの前提となるとの指摘がある。なお、流動性が低下している市場環境の下で、ヘッジファンドが急激にポジションの清算を行う場合には、市場全般に与える影響が極めて大きくなることにも留意が必要である。
 

5.

 

先進国市場における政策課題



ヘッジファンドの投資家やファンド・マネージャーが居住し、取引相手としての金融機関等が多く存在する先進国市場において、ヘッジファンドの活動を監視し、規制していく必要があるかどうかという議論がありえよう。金融市場や金融機関に対する規制が必要であるとする考え方の根拠としては、一般に、1投資家等の保護、2市場の健全性・信認(integrity)の確保、3金融システムの安定性の維持、が挙げられる。いずれの国でも、銀行・証券会社・保険会社等の伝統的な金融機関については、このような観点からの規制が行われているが、ヘッジファンドについては、ほとんどのヘッジファンドの実質的本拠が置かれている米国においても、その活動のディスクロージャーを含めてほとんど規制の網がかかっていない。先進国において13のような観点からヘッジファンドを何らかの形で監視ないし規制することができれば、これにより、ヘッジファンドの投機的活動が新興市場国の危機を招くリスクを減少せしめ、国際金融システムの安定を図るという効果も期待できよう。


投資家保護
との関連では、ヘッジファンドの投資家は、高所得者あるいは専門的な投資知識を有する少数の投資家であり、私募の形態をとっていることからも、規制の強化によってこれらの投資家に対する情報開示の強化等を求める必要は乏しいと考えることが一般的である。また、ヘッジファンドは投資家の要望に応えるというビジネス戦略に従って投資家に対して既にかなり詳細な情報開示を行っているとの指摘もある。こうした情報開示の度合いが投資家のヘッジファンド選択の際の一つの要素とされれば、市場メカニズムの下でも自ずから情報開示が進むことになる。他方、ヘッジファンドが投資家に対して提供している情報の質は、投資家の重要性等に応じて差別されているとの指摘もある。この問題については、限られた専門的投資家とヘッジファンドとの個別の問題であり、規制の強化によって適切な情報開示を求めていく必要性は低いとの考え方がある一方、ヘッジファンドについても投資家保護の観点から何らかの対応が必要かどうか更に検討する余地があるとの議論もある。


市場の健全性・信認の確保
は、重要な政策課題である。特定の大きな市場参加者による相場の人為的な操作、風説の流布、仮装取引(water sales)、インサイダー取引等が横行するようになれば、市場への信認は失われ、ひいては市場の効率的な資源配分の機能も損なわれることになる。こうした問題に対処するための市場ルールは、先進国の証券市場においては確立されているが、過度の規制は取引の自由、市場の効率性をかえって妨げることになりかねないという点に留意する必要がある。また、為替市場における取引やOTCデリバティブ等の取引については、相対の取引であり、しかも極めて多様な需要と供給が見合っている市場であるため、人為的な市場操作といった要素を認定することは容易でないという問題がある。これらは、取引所を通じた取引ではないため、監督者が常に市場を監視し、必要に応じて規制を課すのは、困難であるとの見方もある。ただし、米国においては、前述のように(3.パラ4参照)極めて大口の為替取引に限って当局に報告する法律上の義務が設けられており、こうした規制が、実施方法によっては市場の人為的な撹乱等に対する一定の牽制効果を持ちうるとの指摘もある。


金融システムの安定性維持
は、経済活動の基本的インフラである決済システムの維持、預金者保護等の見地から、いずれの国でも重要な政策課題となっている。ヘッジファンド自体が決済システムや預金受入の機能を担っているわけではないが、これに巨額の損失が発生すると、取引・融資関係を持つ金融機関の資産内容の劣化やそれに起因するマーケット・センティメントの悪化が流動性への逃避をもたらし、流動性の大幅な低下が発生する。その程度によっては、金融システム全体の不安に波及する可能性がある。LTCMのケースは、このようなリスクを如実に示したと言えよう。金融システム安定の見地から、金融機関に対する規制(大口融資規制、自己資本規制上の貸出リスクウェイトの引上げ等)を強化することは、ヘッジファンド等のリスクから金融システムを遮断する効果を高めると考えられる。バーゼル銀行監督委員会の報告書は、金融機関自身によるヘッジファンド等との取引に係るリスク管理の徹底に加え、こうした規制強化の可能性を提案している。このような措置は、ヘッジファンド等のリスク・テーキング行動を間接的に抑制する効果を持つことも期待される。


ヘッジファンドは、リスクの高い投資行動をする「投機筋」という見方が一般的であるが、先述したとおり、経済合理性にかなった冷徹な投資判断をしているとも解せられ、その行動は金融市場に流動性を供給し、市場が一方的に揺れることを防ぐ役割も果たしている、むしろ効率性・透明性が高く、歪みの少ないマーケットを形成する上で大きな役割を演じているとの指摘もなされている(この点からヘッジファンドを、「イールド・カーブ・ポリス」と称している論者もいる)。いずれにせよ、ヘッジファンド等の国際的投資家の活動に伴う市場の不安定要因を減らしていくためには、まずは、各国において、できるだけ歪みのない、流動性の高い、透明な市場を形成・維持していくことが有益であろう。


他方、上述のような観点から、ヘッジファンドの提起する問題に対し何らかの対応をしていく必要があるとした場合には、ヘッジファンド自体にディスクロージャーや報告を求めたり、設立や運用につき何らかの形で規制を課すいわゆる「直接的アプローチ」と、これと取引・融資関係を持つ金融機関等のリスク管理の徹底やこれに関する規制を通じて対応していくいわゆる「間接的アプローチ」とがありうる。更に、市場参加者全体に対して大口取引を報告・開示することを義務付ける、店頭取引・相対取引等に対するレバレッジのルールなどを強化する、大口取引を市場の公正取引の維持という見地から監視する、といった形で、市場ルールを強化するアプローチも考えられる。米国の大統領作業部会では、1.で述べたように、「間接的アプローチ」の徹底に加え、ヘッジファンド自体に対する報告・ディスロージャー義務の導入あるいは強化を求めていることが注目される。


いずれにせよ、ヘッジファンドの業務がもたらしうるリスクに対処するための規制のあり方を考えるに当たっては、その方法に応じたコストとベネフィットを十分に比較すべきである。特に、規制の対象をどう定義するか、その定義を回避するような行動をいかに防止するか、効率的にその規制の遵守を担保することが可能かなど、法技術的に解決が容易でない諸問題があることに留意する必要がある。もっとも、仮にヘッジファンドの規制が必要ということになれば、現実的・実務的に一定の基準を設けて、国際的な協調も図りながら制度を考えていくべきであるとの指摘もある。


なお、ヘッジファンドの国際的な性格を考慮すると、仮にその行動に一定の義務や規律を課すことが必要な場合、立法や法執行の管轄権行使をどの国が持つのか、という点も検討する必要がある。すなわち、立法管轄権については、国際法上、1属地主義(自国領域内の行為に対して立法管轄あり)、2属人主義(自国民、自国法を設立準拠法とする会社等の行為であればどこで行なわれようと立法管轄あり)、3保護主義(自国の国家安全保障、経済システムの安定維持など重大な国家利益に影響する行為であれば、誰がどこで行おうと立法管轄あり),4普遍主義(世界全体の普遍的利益に反する行為については、誰がどこで行おうと、また、自国に直接の影響がなくとも立法管轄あり)、の4つの基本的な考え方があるが、これらをどういう形で適用していくべきかという問題がある。更に、最も一般的な属地主義に基づいて考えるだけでも、取引の行為地である市場のある国、行為者の設立準拠法のある国、行為者の経営統括本部のある国、運用担当者の国籍のある国あるいは居住国、投資利益の帰属主体である投資家の居住国等、様々なアプローチがありうる。なお、法執行の問題に関しては、まずは、ヘッジファンドの多くが実質的な拠点を有している米国において執行されることが大きな効果を上げうるとの指摘もある。


資金が自由に瞬時に世界を移動できる現状に鑑みると、特定の国で仮に何らかの規制を設けたとしても、ループホールが見つけ出される可能性が高く、その意味で、少なくとも主要な金融市場のある国においては、市場の透明性や安定の維持等、規制の目的が共有される範囲において、できる限り共通の手法でアプローチを取っていく必要があるとの指摘もある。また、多くの機関がオフショア・センターに設立されているため、それらの国・地域が主要国の規制の実効性を損なわないような措置をとるよう求めていくことも課題となろう。このようなことから、これらの問題についてはG7をはじめとする先進国、及び主要な金融センターを持つ国々の間で緊密な国際協調を図っていくことが重要であり、1.で述べた金融安定化フォーラムはそのための効果的な調整の場となりえよう。
 

6.

 

新興市場国における政策課題



ヘッジファンド等の機関投資家が動員できる資金量やその形成するポジションの規模が、自国の市場の規模に比較して極めて大きい新興市場国の場合、大規模かつ急激な資本移動に対して自国の為替・金融市場の安定を図り、危機を未然に防止することは、先進国と比較して、より緊要性の高い課題となる。まずは、健全なマクロ政策を運営していくこと、金融機関の健全性規制(prudential rules)の徹底を図り金融監督体制をより強固にしていくことが重要である。しかし同時に、各国の実情に応じ、上述の先進国市場におけると同様、金融システムの安定や市場の健全性維持等の観点からの規制を検討していくべきである。更に、これらの国に特有な課題として、1資本取引の自由化の進め方、2為替制度のあり方、3危機に対応した資本規制のあり方、などにも焦点を当てていく必要があろう。


我が国は従来から、資本の自由化の進め方、資本規制の役割について、以下にも述べるようなより現実的・実際的な立場をとってきた。確かに、自由な資本の移動は、新興市場国等の資本受入国におけるより高い生産性の上昇、経済発展を助け、投資家にもより高いリターンをもたらしてきた。しかし、理論的に言っても、特に金融の世界においては、市場に任せてさえおけば資源の最適配分、もっと簡単に言えば最もよい経済的結果がもたらされるという保証はない。ミクロ経済理論の教科書にもあるように、市場が最適配分をもたらすためには、市場参加者の有する情報に非対称性がないこと、外部経済効果が存在しないこと、取引対象が公共財の特性を持っていないことなどが前提となる。ところが、金融市場においては、先の群集行動のところで見たように、情報の非対称性が一般に見られるし、金融システムは共同利用などの点においてある程度公共財の性格を有していると考えられる。このようなことから、国内金融の領域では5. で論じたようないくつかの観点から規制が行われることが必要となるが、国際金融の領域でも、財(貿易)の場合と違い、国際的資本移動の自由という規範については、留意すべきいくつかの点もあわせて考えることが重要であると思われる。市場の様々なインフラ(例えば適切な会計制度、法的枠組みなど)の整備等の点で未成熟な場合にも、市場メカニズムが十全に機能しないことは言うまでもない。


まず、資本取引の自由化の進め方については、従来は自由化をできるだけ広範囲にかつ早く進めるべきだとの主張が国際的議論の中では支配的であったが、アジア通貨危機等の反省もあって、順序良く(well-sequenced)、条件が整っているかどうかを見極めながら進めていくべきであるというのが、今や国際的なコンセンサスとなっている。資本取引の自由化には、1市場経済システムが確立している(特に移行経済国)、2貿易の自由化が進んでいる、3より一般的に経済が成熟し世界市場に既にある程度統合されている、などが前提となろうし、4また、強固な金融セクターや高い能力を有する監督システムを伴っていることも必要である。最後の点に関しては、適切な健全性規制によって、例えば、外国通貨建てのエクスポージャーや満期のミスマッチに係るリスクを正しくモニターすることが不可欠である。また、資本の種類との関係でも、より安定的な長期の直接投資の自由化を、短期資本の自由化より先行させるべきとの指摘もある。こうした順序立った資本取引の自由化についての考え方は、我が国が従来から主張してきた点でもある。


現在の世界経済における大規模かつ急激な資本移動を前提にすれば、新興市場国がそれぞれどのような為替制度を選択するかは極めて重要な判断となる。もちろん、最も適切な為替相場制度は、その国の経済規模や貿易相手国の構成、貿易の主要品目の構成、資本自由化の度合い、過去におけるインフレーションの経験などにより、国によって異なる。しかし、アジア危機はある国の通貨を実質的に一つの通貨にペッグさせることのリスクの大きさを端的に示したと考えられる。単一通貨への固定為替相場制度の下では、しばしば国際的な投資家、国内の借り手双方が為替リスクを軽視するようになり、為替相場の経済ファンダメンタルズからの乖離が継続することにもなりがちである。また、ペッグの対象となっている通貨と他の貿易相手国通貨間の為替相場が変動して、競争条件が大きく影響を受けることもある。このようなことが、資金の過剰な流入、経済活動の過熱や競争力の低下を招き、それがバブルの崩壊、資金の流入から流出への逆転、ついには通貨危機につながる恐れがある。一般的に言えば、新興市場国は、その通貨を最も緊密な貿易及び投資の相互依存関係にあるいくつかの先進国通貨のバスケットにペッグし、あるいはこれを目安としながら為替相場の安定を図り、状況に応じて柔軟に調整することが考えられる。しかし、いずれにせよ、単純な公式があるわけではなく、個々の国の状況に応じ、ケース・バイ・ケースで適切な為替制度を選択すること、為替制度と整合的な適切なマクロ経済政策を遂行することが重要であることを改めて強調したい。


資本の流入は、これまで、その国の将来性や政策に対する信認の反映と単純に考えられがちであったが、特に新興市場国においては、資本流入の規模や内容を適切にモニターし、マクロ経済政策も含めて適切に対応していく必要がある。短期資金の流入は、突然流出に転化する可能性があること、外貨建て債務は大きな為替リスクを孕んでいることを認識することは不可欠である。アジア危機の際には、地域全体として、いったん流入した資金が流出に転じたマグニチュードは、一年間に当該地域のGDPの十数パーセントにも相当する激しいものであった。資本の流入に対して、市場原則を歪めない形で、非居住者からの預金受入れに高い準備率を課す、居住者(特に金融機関)の海外からの借入、証券発行により厳格な健全性規制を求める、といったいわゆる市場メカニズムに則した(market friendly)資本流入規制はむしろ積極的に活用すべきであるとも考えられる。


危機に対応して資本流出規制を導入することは、その国に対する投資に長期的に悪影響を及ぼすことは避けられない。また、複雑で高度に発達した金融取引の現状に鑑みれば、効果的に資本流出を規制することは容易ではないし、裁量的または恣意的な規制を長く用いることは国民経済の効率性を低下させるおそれが大きい。しかし、例えば当該国の政策自体は基本的に適切であるにもかかわらず他国の危機からの伝播(contagion)により資金の大量流出に直面している時、IMFの融資が国外の投資家の救済に使われることを防ぐべき時、居住者の資本逃避を防ぐ時などの例外的な状況において、こうした措置の導入が正当化される場合もありうるのではないかと思われる。もちろん、こうした規制が標準とされてはならず、あくまでも例外的な措置にとどまるべきである。また、このような措置は、技術や経営手法の移転を伴う直接投資など安定的かつ有益な投資の流入に悪影響を及ぼさないよう、注意深くデザインされなければならない。


国際的な議論の中では、資本流出規制には、資本の流入への悪影響、実効性確保の難しさ、先進国側の投資家の利害などとの関連から慎重論が多い。しかし、最近にわかに盛んになってきている「危機の予防と解決への民間関与」という観点から、資本・為替規制も例外的には必要との議論がむしろ新しく出てきていることは注目に値する。最近のアジアにおける一連の危機は、債権者も債務者も民間セクターが主体という状況で資金の大量の流入が生じ、それが維持不可能になったところで危機に至ったという特徴を有している。高いリターンを求めてリスクは承知しながら新興市場国などへの投資を行った民間債権者・投資家の資金引上げを助けるためにIMFなどの公的資金が使われることは、公正の基準からも、効率性の基準(将来同様の問題が起こりうるというモラル・ハザードの観点)からも容認しがたい。そこで、IMFなどの支援の前提として、民間銀行等に貸付レベルの維持を求める、債券保有者を含めた債権者に債務のリストラクチャリングなどを求める、といった議論が一般的になりつつある。更に、その延長線で、例外的な状況においては、債務のリストラクチャリングを行う時間的猶予を確保するために、公的債務の一時的支払い停止や民間の債務支払いを抑制するための一時的な資本・為替規制も検討すべきではないかとの指摘が行われている。


いずれにせよ、資本の流入規制や流出規制については、新興市場国のそれぞれの実情に応じて、危機管理の手法として、コストとベネフィットを勘案しつつ、どのような場合にこうした手法をとることが正当化されるのか、現実的な立場から検討を進めていくべきである。我が国の強い主張もあり、IMFで引き続き各国の規制の経験などについて包括的な分析・検討が行われることになっているが、このような作業の結果に期待したい。

 

注3)

 

本年6月のサミットの蔵相から首脳への報告でも、新興市場国に関し、1資本自由化の順序だった進め方が重要、2一貫性のあるマクロ経済政策と強固な金融システムに裏付けられた為替相場制度が安定のための重要な要素、3資本流入規制は国内金融システムがまだ弱くこれを強化しつつあるような場合等については正当化できる、4資本流出規制も一定の例外的な状況では必要となりうる、5民間関与の方策として、例外的な状況での債務支払いの停止や資本・為替取引規制の導入も一つの手段となりうる、といった点が明確に盛り込まれており、我が国の従来からの主張を相当反映したものとなっている。


 

(主な参考文献)
 

 

IMFレポート「ヘッジファンドと市場のダイナミクス」(1998年5月)

米国大統領金融市場作業部会報告書「ヘッジファンド、レバレッジ及びLTCMの経験」(1999年4月28日)(米国財務省ホームページより入手可能)
バーゼル銀行監督委員会報告書「銀行と、レバレッジの高い業務を行う機関との取引」(1999年1月)(BISホームページより入手可能)
G7蔵相・中央銀行総裁会議声明(1998年10月30日、1999年2月20日、4月20日)
ケルン・サミットにおけるG7蔵相から首脳への報告「国際金融システムの強化」(1998年6月18日)
APEC(アジア太平洋経済協力)非公式首脳会合宣言(1998年11月18日)(外務省ホームページより入手可能)
ASEM(アジア欧州会議)大蔵大臣会合議長声明(1999年1月15、16日)
宮沢大蔵大臣演説「新しい国際金融システムに向けて」(1998年12月15日)
IMF暫定委員会日本国ステートメント(1999年4月27日)
ルービン米財務長官演説(1999年4月21日)(米財務省ホームページより入手可能)
米国議会における公聴会(1998年10月1日:マクドノーNY連銀総裁等)、及び関係者証言(1999年3月3日:マクドノーNY連銀総裁、ボーンCFTC議長、サックス財務省副次官補等)(いずれも米国下院銀行監督委員会ホームページより入手可能)
カウンターパーティー・リスク・マネジメント・ポリシー・グループ報告書(1999年6月http://www.crmpolicygroup.org/より入手可能)
OECD金融市場委員会バックグラウンドペーパー(1999年2月)
JCIFファイナンシャル・レビュー(No.51)『98年に発生したヘッジファンド危機が世界金融市場及び金融機関に与えた影響』(宮島秀直)(1999年1月)
野村総研資本市場クォータリー98年秋号『ヘッジファンド問題の行方』(淵田康之)
J.レーダーマン、R.A.クライン『ヘッジファンドの世界』(邦訳、東洋経済新報社、1999年1月刊)。
Barry Eichengreen, Hedge Funds in the New International Financial Architecture, (1999年3月23,24日アジア経済研究所(IDE)主催シンポジウム提出ペーパー)
Andea Devenou and Ivo Welch, Rational herding in financial economics, European Economic Review, vol.40, 1996.
 

注)○については、大蔵省ホームページより入手可能

 

(別添1) 「ヘッジファンドと金融市場のダイナミクス」(IMF:1998年5月)の概要
 

1.

 

ヘッジファンドの概要

ヘッジファンドは、私的な投資基金であり、運用に当たっては様々な取引手法が用いられる。その設定に当たっては、出資者は法的な制約を逃れるため少数であり、また税制や規制上の利点を求めてオフショア籍となることもある。運営者に対する報酬は、運営者のインセンティブを高めるため運用利益の一定割合とするのが通例である。
実際には個人投資家や銀行も、信用取引等ヘッジファンドと同じ手法による取引を行っており、厳密なヘッジファンド等の定義を定めるのは困難である。また、投資銀行や証券会社は自身の名前を使ったヘッジファンド様式のファンド等を設立しており、ヘッジファンドとその他の機関投資家との区別は不明瞭となりつつある。
非常に緩い定義を用いた推定では、1997年において、ヘッジファンドの数は1115、管理・運用している資産は総額でも1096億ドルであり、機関投資家の総資産20兆ドルと比較すると明らかに見劣りする。
ヘッジファンドのうち、各国のマクロ経済の状況に基づきポジションの決定を行うファンドは一般的に、マクロ経済が正常な状況から逸脱しており、将来の経済の破綻によって資産価格が大きく変動しそうな国に着目し、そこで巨額の損失が発生するリスクがほとんどゼロに等しい投資−例えばペッグ制の破綻が見込まれる場合のショートポジションの形成−を行う。また、ポジションを形成するためのコストが低廉、もしくは流動性の高い市場にも着目する傾向がある。したがって、一般的に流動性の乏しい新興国市場においては、ヘッジファンドの行動は制限されることとなるため、このような市場に対してはあまり関心を示さない傾向がある。
ヘッジファンドが常に市場の先導者となっているとの見方には疑念がある。ヘッジファンドの運用資金の規模は、投資銀行等他の機関投資家に比べ見劣りすることは疑いがない。また、ヘッジファンドのスタッフは少なく、多くの市場を同時に監視することには制約がある。ファンドの多くは情報の提供者でなく、消費者なのである。機関投資家がヘッジファンドと同じようなポジションを取る傾向にあるかどうか調査を行っても、その結果ははっきりしないかもしくは否定的なものであった。
ヘッジファンドは市場の変動に対して柔軟に対応できるため、「安定的投機」という機能を果たすことができる。実際ミューチャル・ファンドは収益に応じて投資される資金量が変動するため現在価格が上昇している資産を買い、内部統制による損切りを行わなければならないために価格の下落している資産を売却する傾向があるが、ヘッジファンドは一定期間安定した資金が保証されるため、市場の変動により適切に対応できる。
 

2.

 

ヘッジファンドに対する規制

ヘッジファンドを監視する必要性については、投資家保護、市場の健全性、システミックリスクという3つの側面から要請されると考えられる。
投資家保護: ヘッジファンドの投資家は、富裕層など「自己防衛しうる」主体が念頭に置かれているため、例えば米国においては、投資家保護規定の適用から除外されている。
市場の健全性を図るための情報開示 :オフショア等に所在地を構えることにより、ある種の報告義務から逃れられることは事実であるが、米国においては、大口の外為取引や政府債の大口保有、一定額の先物ポジションについては他の金融機関と同様の報告義務が課されている。
システミックリスク: 銀行等大規模金融機関には、投融資先に対する監視とマネジメントを適切なものとするためのプルーデンシャル規制(担保設定義務、大口与信規制等)が課されており、これによってシステミックリスクが限定されている。ヘッジファンドもその投融資先に含まれる。
 

3.

 

通貨危機とヘッジファンド

1992年、ヘッジファンドは、ERMによって為替レートがほぼ固定されている欧州通貨に対し、早い段階からショートポジションを持ち、相当の利益を上げた。一方、1994年には、円ベースで資金調達を行い欧州通貨建ての債券を保有する投資を行ったが、結果的に相当の損失を被ることとなった。
今般のアジア通貨危機に際し、ヘッジファンドは、タイバーツのショートポジションを大きく構えたが、その開始時点は、他の国際的投資家と比べて特段早かったわけではない。しかも、他のアジア地域においては、ヘッジファンドはこのようなショートポジションを形成していなかったため、既にロングポジションを持っていた国で相当の損失を被っている。また市場関係者によれば、インドネシア、マレーシア、フィリピンにおいてショートポジションを形成した主な投資家は、ヘッジファンドではなく、外為取引市場や国内の融資業務に対しより優越的にアクセスしうる国際的な商業・投資銀行、場合によっては国内投資家であったとのことである。

 

(別添2) 最近の国際会議におけるヘッジファンド等への言及

○G7蔵相・中央銀行総裁会議宣言(平成10年10月30日)


7(iii)

 BISに本部を置く適切な委員会が、新興市場諸国、各国当局、及び関連する他の民間や公的セクターの団体とともに、投資銀行、ヘッジファンド、及び他の機関投資家といった国際的な資本移動にかかわる民間セクターの金融機関に対する適切な透明性・情報開示の基準の問題を検討すること。

13

我々は、我々自身の国において、金融機関のリスク管理システム及びプルーデンシャル基準に規制の焦点を当てることを更に強めていくことにコミットする。特に、ヘッジファンドやオフショア機関等レバレッジの大きい国際的な金融機関の活動から生じる影響を検討する。オフショア・センターが国際的に合意された基準を遵守するよう促す適切な方策が見いだされるべきである。我々は、国際資本市場に参加する他の国々が同様の措置をとることを要請する。
 

○APEC (アジア太平洋経済協力)非公式首脳会合(平成10年11月18日)


25

我々は、安全かつ持続可能な資本フローを促進するために、先進メンバーにおける金融機関に対する強化されたプルーデンシャル規制の範囲を検討すること、健全な分析とリスクマネジメントの改善を奨励すること、投資銀行、ヘッジファンドその他機関投資家といった国際的な資本フローに関与する民間部門の金融機関のための適切な透明性やディスクロージャーの基準の問題について検討すること、レバレッジの大きい金融機関やオフショアの金融機関のオペレーションの影響について検討することは、特に緊急であると考えている。我々は、これらの分野における、実践的な提案を策定するために、国際金融システム上重要なメンバーを含んだタスクフォースが早期に設立されることを要請する。我々は、また、民間部門との間の秩序立った債務整理アレンジメントを含む危機管理の改善について、適正に構成された国際的な作業部会において直ちに作業を進めることを要請する。これらの提案は、首脳レベルの承認及びその後の実施のため、そのフォーラムにおいて議論されうる。
 

○第2回ASEM(アジア欧州会議)蔵相会合議長声明(平成11年1月15日,16)


7

アジア及び他の地域の金融危機は、特に新興市場において、短期資本移動が潜在的に急激かつ不安定になりうる可能性を浮き彫りにした。さらに、蔵相達は、ASEM参加国間で国際金融のアーキテクチャーに関し意見交換を深めることについて同意した。蔵相達は、投資銀行、ヘッジファンド及びその他機関投資家といった国際的な資本フローに関与する民間部門の金融機関の適切な透明性やディスクロージャーの基準の問題について検討し、レバレッジが高い、あるいは、オフショアにある金融機関のオペレーションの影響を検討する必要性につき留意した。また、蔵相達は、資本移動規制の利用の経験及びこうした規制が適切でありうる状況について、IMFで現在検討が行われることに留意した。
 

○G7(7か国蔵相・中央銀行総裁会議)コミュニケ(平成11年2月20日)


14

我々は、ヘッジファンド等の高レバレッジ機関(HLIs)との取引に内包されているリスクを軽減する方策についてのバーゼル銀行監督委員会による提言を議論し、支持した。我々はまた、IOSCO(証券監督者国際機構)や他の関係する機関もHLIsについての問題に取り組んでいることに留意し、近々彼らからの報告を受けることへの期待を表明した。我々は、HLIsとの取引の際には、金融機関による適切なリスク管理がとりわけ重要であるという点について、バーゼル銀行監督委員会に同意するものである。我々は、より幅広い文脈で、HLIs自身による更なる報告及び情報開示が必要あるいは実現可能なのかどうかを含めて、金融監督のフレームワークに対するHLIs及びオフショア・センターの活動から生じる影響に関して引き続き検討することにコミットした。
 

○G7(7か国蔵相・中央銀行総裁会議)コミュニケ(平成11年4月26日)

(附属文書)

3 我々は、バーゼル銀行監督委員会が、自己資本比率規制をレビューしてリスクをより良く反映するようにする作業を速やかに完了させて公表することを奨励する。我々は、ヘッジファンドを含む高レバレッジ機関(HLIs)との取引に内包されたリスクを軽減する方法についてのバーゼル銀行監督委員会による提案を議論し、支持した。HLIsと取引を行う際には金融機関による適切なリスクマネジメントがとりわけ重要であることについて、我々はバーゼル委員会に同意した。我々はまた、IOSCO(証券監督者国際機構)のHLIsに関する報告及びHLIsに関連する問題について研究している公的団体や民間団体の他の作業をいずれレビューできることへの期待を表明した。
4 我々は、本会合に先立って今月行なわれた金融安定化フォーラムの第1回会合を歓迎した。本フォーラムは特に、金融システムのシステム上の脆弱性についての定期的な情報交換の媒体となるであろう。フォーラムは作業部会を設け、高レバレッジ機関についての貸手・借り手両方の役割においてもたらす影響に対処する観点からの研究、オフショア金融センターに関する研究、及び短期資本フローのグローバルな金融安定への影響、について研究することとなったが、我々はその作業部会の成果に期待する。この作業は、関連する幅広い国々からの参加者を含むことが重要であろう。
 

(別添3)ヘッジファンド等に関する大蔵大臣スピーチなど

○宮沢大臣スピーチ(平成10年12月15日)
(短期資本移動のもたらすリスクと対応策)

 最後に、先進国も、貸手側のモニタリングの強化により、攪乱的な短期資金移動によるリスクを緩和することに貢献できるでしょう。単なるポートフォリオ上の投資から新種のオフバランスのデリバティブに至る様々な形の投資に対応する洗練された監督システムが必要であります。特に、先進国の当局は、ヘッジファンドを含む国際的に活動する機関投資家に関する問題を解決する方策を検討しなければなりません。私の考えでは、我々は、ヘッジファンドに投融資を行っている金融機関への適切なプルーデンシャル・ルールや報告義務−特に、規制が緩いとみられるオフショア・センターに設立されているヘッジファンドについて−、また、ヘッジファンド自身に対するディスクロージャーや報告義務などの措置を検討するべきであります。
 

○IMF暫定委員会(平成11年4月27日) 日本国ステートメント
(2)資本移動への対応(関連部分)

  まず、我が国がこれまでも主張してきているように、資本移動のモニタリングを強化していくことが必要であります。借入国自身による詳細なモニタリングに加え、貸手側におけるモニタリングの強化は重要な課題となっています。
 この関連で、市場の安定性や健全性(integrity)を確保するとの見地から、ヘッジファンドを含めた高レバレッジ機関の活動についても何らかの対応を検討していくことが必要との問題意識が高まっています。高レバレッジ機関の投機的な活動は、小さな国の市場においてはマーケットの動きを支配し、本来は危機が起こる必然性のなかった経済を突然困難に陥れてしまうのではないかとの懸念も示されています。また、昨秋のLTCMの問題以降、ある高レバレッジ機関に生じた問題が、それに投融資を行っている機関に伝播し、先進国の金融システムにシステミックリスクを招くおそれがあることもより明確に意識されるようになりました。高レバレッジ機関の借り手としての側面に関しては、本年1月にバーゼル銀行監督委員会が発表した報告書は、こうした観点から高レバレッジ機関に投融資する金融機関に対しより適切なリスク管理を求めたものであります。
 更に、高レバレッジ機関の貸手側としての活動にも注目し、高レバレッジ機関の透明性を図る観点からディスクロージャーや報告義務を求めていく可能性等も含め、先日第1回の会議が開催された金融安定化フォーラム等において新興市場国の適切な参加を求めながら幅広い検討が進むことを歓迎したいと思います。
 

(別添4)「銀行と、レバレッジの高い業務を行う機関との取引」プレス・リリース(バーゼル銀行監督委員会報告書:1999年1月)

 

  バーゼル銀行監督委員会は、最近における金融市場の動向に対応するとともに、銀行による慎重なリスク管理行動を促すために継続的に努力を行なってきている。同委員会は、本日、銀行が、レバレッジの高い業務を行う機関(highly leveraged institutions、以下HLIs)との間で行う取引を分析したレポート、ならびに、そうした取引に係る健全な実務のガイダンスを発出した。

  バーゼル委員会の議長を務めるニューヨーク連邦準備銀行のウィリアム・J・マクドノー総裁は、「LTCM社が破綻に瀕した事件をはじめとする最近の出来事は、銀行とHLIsとの取引から生じる特異なリスクを十分に把握し、かつ慎重に管理する必要性を明らかにした。これらのリスクは、直接の債権者のみならず、ある種の市場環境においては、金融システム全体に及び得る」と述べている。さらに、マクドノー氏は銀行ならびに監督当局に対して、こうした潜在的リスクに深く注意を払い、HLIsとの取引に係る銀行のリスク管理実務を評価し、これらのリスクに対処するために今後の政策対応を検討するうえで、本ペーパーが一助となることをバーゼル委員会として期待する旨述べている。

 本ペーパーは、オランダ中央銀行のヤン・ブロックマイヤー氏を議長とするバーゼル委員会のワーキンググループが作成したものである。ブロックマイヤー氏は、健全な実務のガイダンスを発出する目的が「HLIsに対するエクスポージャーの評価・測定・管理における慎重なアプローチの発展を促進すること」にあるとしている。勧奨されている健全な実務には以下のものが含まれる。

 総合的な信用リスク管理体制の一環として、対HLIs取引に係る明確な方針と手順を設定すること。

  HLIsに特有のリスクを勘案のうえ、健全な情報収集、デュー・ディリジェンス(due diligence)、及び信用分析の実務を適用すること。
  トレーディング及びデリバティブ取引から生じるエクスポージャーのより正確な計測手法の開発を促すこと。
  HLIsに対して意味のある総与信限度を設定すること。
  担保や早期解約に関する条項をはじめとする信用補完手段をHLIsの特性に対応したものとすること。
  HLIsのトレーディング業務、リスク集中、レバレッジ、及びリスク管理プロセスを考慮のうえ、対HLIs信用エクスポージャーを緊密にモニターすること。

 本レポートにおいては、HLIsに対する一部の銀行のリスク管理実務にいくつかの問題点があることが強調されている。もっとも、同時に、HLIsに対してエクスポージャーを有する銀行のほとんどは、昨秋の一連の出来事を受けて基準を厳格化しつつあるようにうかがわれるとしている。ブロックマイヤー氏によれば、健全な実務のガイダンスを発出する主たる理由は、こうした改善を長きにわたって定着させることにある。
 当委員会はまた、透明性向上への努力、あるいはHLIsに対する直接的規制など、健全な実務のガイダンスを発出すること以外のいくつかの規制・監督措置についても、実施が望ましいか否か、また実施が可能であるか否かを検討した。本レポートは、直接的規制のコスト、利点、及び有効性を評価するためには、そうした規制が金融市場及び市場参加者に与え得る影響を総合的に検討する必要があるとしている。また、そうした規制は銀行監督当局だけで実施し得るものではなく、他の広範な関係者との協力も必要としている。当委員会はまた、HLIsの業務に係るシステミック・リスクの多くは取引相手レベルでリスク管理を改善することによって対処し得るものであることを強調している。銀行内部における慎重なリスク管理は、HLIsのレバレッジを限定・削減し、HLIs向けポートフォリオのリスク度合を限定するという副次効果をも発揮し得る。この結果、急激なレバレッジの解消やポジションの清算によって金融システムに混乱が生じる蓋然性が減少し、金融システム全体の安定性が増すことも期待し得る。
 

バーゼル銀行監督委員会(The Basle Committee on Banking Supervision)
 バーゼル銀行監督委員会は、1975年にG10諸国の中央銀行総裁会議により設立された銀行監督当局の委員会である。同委員会は、ベルギー、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、英国及び米国の銀行監督当局ならびに中央銀行の上席代表により構成される。現在の議長は、ニューヨーク連邦準備銀行のWilliam J. McDonough総裁である。委員会は通常、常設事務局が設けられているバーゼルの国際決済銀行において開催される。
 

(別添5)米国大統領金融市場作業部会報告書「ヘッジファンド、レバレッジ及びLTCMの経験」(1999年4月)概要

○作業部会の概要

メンバー;財務省、FRB、SEC(証券取引委員会)、CFTC(商品先物取引委員会)
議長; ルービン財務長官
本報告は、上院及び下院に送付され、法制定を含む必要な対応を求めるものとなっている

 

○本報告書の概要

ヘッジファンド等が行うレバレッジは、市場に流動性を与えるなど金融システムに積極的な役割を演じる一方で、LTCMの場合に見られるように金融機関がヘッジファンド等に過度の信用を付与した場合には金融システムに問題を与える。


こうした過度のレバレッジの抑制については、基本的には投資家や債権者等による市場規律に委ねられるべきであるが、LTCMの例のように市場規律が働かない場合もあるため、これに加えて以下の手法を推奨する。
1 ヘッジファンド等に関するより頻繁で意味のある情報のディスクロージャー
イ) ヘッジファンド等を含む一定規模以上の商品プール業者(CPO、商品・金融・為替の先  物やオプションを扱う業者)とされているものは、市場リスクについてより意味あるまた包括的な手法を取り入れた報告書を四半期毎に(現行は年1回) CFTC(商品先物取引委員会)に提出すべきであり、またこれは公表されるべきである。
ロ) CPOとして登録されていないヘッジファンド等も同様なディスクロージャーが必要であり、このため議会は必要な法律を制定すべき。
2 金融機関を含む公開企業(public company)による、ヘッジファンド等を含む高レバレッジ機関への信用供与に関する追加的なディスクロージャー
3 金融機関による高レバレッジ機関等の取引先に関するリスク管理慣行の改善
4 監督当局による監督対象機関のリスク管理システム改善の奨励
5 リスクにより敏感かつプルーデントな自己資本比率(capital adequacy)への取組みの促進(各金融機関自身の取組みと監督当局による規制の見直し)
6 ブローカー・ディーラー及び先物取引業者の関連会社で監督を受けていないものに対する監督当局の権限の拡大。そのために必要な法律を制定すべき。
7 一括清算ネッティングをサポートするため、現在上程中の「金融契約ネッティング改善法」の制定
8 オフショア・センターに国際的な基準の遵守を奨励するためのより強いインセンティブを米国の監督当局が検討(バーゼル・コア・プリンシプルを遵守しないオフショア・センターのヘッジファンド等と取引を行う銀行との取引に高いリスクウェイトを課する等)


今日の国境を越えた金融市場の現状に鑑み、他国においても同様の措置が取られることが重要である。


ヘッジファンド等への追加的措置(ヘッジファンド等自体に対する自己資本比率規制等)は、上記の間接的な規制が過大なレバレッジの抑制に有効でないことが明らかになった場合、更に検討されることとなる。


一般的な市場のダイナミックス、特に脆弱な新興市場経済に対する高レバレッジ機関が与える影響については、最近の数多くの研究が示しているように、過去数年の金融危機において高レバレッジ機関が重要な役割を演じたとは考えられていない。この問題は引き続き金融安定化フォーラムで検討される。


新興市場国は、国境を越える資本フローに対し、market integrityを高め、システミックな脆弱性を抑制するための措置を実施することを検討することが考えられる。国際機関及び国際的な規制団体が、新興市場国の制度、基準及び慣行の整備について緊密に協力することが重要である。
 

(別添6)G7蔵相からケルン経済サミットへの報告「国際金融システムの強化」(1999年6月18日)ヘッジファンド関連部分

B.透明性の強化及び最良の慣行の促進


21.

g.
 全ての市場参加者が十分な透明性を有することが重要であることに鑑み、全ての市場参加者の透明性を向上させるための措置がとられなければならない。これには、高レバレッジ機関への直接的かつ具体的なエクスポージャー及び高レバレッジ機関自身による関連情報についてのディスクロージャーの質及び適時性を改善するための措置も含まれる。我々は、この問題に関する金融安定化フォーラムの作業を期待している。
 

C.先進国における金融規制強化


23.

b.
 高レバレッジ機関が監督機関及び規制当局に対してもつインプリケーションを評価すること。レバレッジは積極的な役割を果たしうるが、過度のレバレッジが過度のリスクの集中を伴った場合には問題が生じうる。加えて、全般的な市場の動きや、特定の脆弱な国々に対する影響という観点から、高レバレッジ機関の活動について懸念が表明されている。

26.

c.
 各国当局は、各国の銀行が、1999年1月にバーゼル委員会が発表した高レバレッジ機関に関する報告書の中の提言に従って、適切なリスク管理の実務を実施することの確保を図るべきである。


d.
 我々は、高レバレッジ機関との関係において証券会社のリスク管理の慣行を強化するとともに、高レバレッジ機関と取引する場合の取引先リスクを制限するためのその他の方策を検討するというIOSCOの努力を歓迎する。

27.

 高レバレッジ機関については、我々は、全般的な市場の動きや特定の脆弱な国々に関するシステム上の論点などを含む幅広い論点について、新たに設立された金融安定化フォーラムによる作業を期待する。この際、間接・直接的な監督手法や報告・ディスクロージャーの改善による透明性の強化策に関するメリット・デメリットを含め、幅広い観点からあらゆる利用可能な方策について包括的に検討するべきである。