このページの本文へ移動

新しい国際金融システムに向けて

 

宮澤大蔵大臣スピーチ

98年12月15日 於:日本外国特派員協会

(仮訳)

 

 紳士淑女の皆様、このような素晴らしい集まりにおいてお話しする機会が持てまして、私は大変光栄であり、また嬉しく思います。

 本日は、現在国際金融システムが直面している課題と、その働きを改革し改善していく方策についてお話ししたいと思います。これらは非常に重要な問題であり、我々が正しく解決しなければ、世界経済は来世紀において健全な発展を遂げられないかもしれません。

国際金融システムの将来を見るために、最近の経験を振り返ることから始めたいと思います。

I.最近の経験

 1994年末のメキシコ・ペソ危機以降、国際金融システムに関する改革の方策について多くの議論が行われてきました。この危機の直後から、数多くの意見が発表され、透明性とディスクロージャーの重要性は、IMFの資金基盤の強化の必要性とともに、取り組まねばならない最も重要な課題として浮上しました。投資家がメキシコ経済の実情を知っていたとすれば、彼らは合理的な投資決定を行うことができたであろうし、また、おそらくそもそも投資を行わなかったのではないか、と論じられました。こうした考え方に基づき、IMFSDDS(特別データ公表基準)を策定し、各国の政策のディスクロージャーを促進させることとしました。加えて、IMFのサーベイランスが強化されるべきであるとの議論も行われ、そのための努力が行われてきています。

 そして、昨年、アジアに危機が起こりました。これまでの危機、特に巨額の財政赤字や過剰な消費に主な問題があったラテンアメリカの危機と比較して、アジア危機の最も顕著な側面は、基本的に、民間セクターの借り手が海外の民間債権者から巨額の借入を行っていたことや、そのような借入によって過剰かつ非効率な投資が可能となったことに原因があったということです。アジア危機においては、アジア諸国における金融セクターの脆弱性や金融セクターの適切な監督の欠如が明らかになりました。この経験から、適切な金融監督システムの構築や、危機を予防し解決するために民間債権者の関与が必要であるといった議論が行われるようになりました。しかし、危機意識は世界全体に同じようには共有されなかったように思われます。これは、政府と産業界の間に不透明で不適切な関係があるように見えることなど、アジア危機の原因をアジア諸国の経済運営における固有の欠陥と結び付ける見方が一部にあったからでしょう。

 しかし、今年ロシアとブラジルでも混乱が生じた時、アジアが経験したような危機はより一般的な現象であることが明らかとなりました。我々は、こうした危機の連続が、ある国に固有の問題だけでなく、今日の世界経済システムに内在する一般的な問題にも起因したということを認識せざるを得ません。

 アジアやロシア、ブラジルにおける危機でも明らかなように、短期資本の大規模かつ急激な移動に関するリスクは今では強く認識されています。我々はまた、適切な為替相場制度が、明らかに国際金融システムの安定に向けた鍵であるということを改めて認識することとなりました。事実上の米ドルへのペッグを維持したことがアジアの新興市場諸国の危機の主な原因の一つであったことは、現在広く認識されています。この問題は、1995年以降米ドルが日本円や他の主要通貨に対して大幅に増価しアジア諸国の国際競争力を削いだため、より深刻となりました。

 こうした背景のもと、国際金融システムを如何に改善するかについて、現在活発な議論が行われています。この議論には、民間セクターと公的セクターの双方における透明性や良いガバナンスに関する基準を強化したり、金融セクターの監督を改善することを改めて求める声や、IMF・世銀やその他の機関に関する組織的な再編成についての新しいアイデアなど、様々な提案が含まれています。

 しかし、本日は、私が現在の国際金融システムにおいて最も根本的な問題と考える点に焦点を当てたいと思います。それは、(1)短期資本移動にどのように対応していくか、(2)適切な為替相場制度を如何に決定するか、(3)危機に陥った国々に対しどのようにして流動性を供給するか、の3点であります。私は、危機を効果的に予防し解決するためには、これら3つこそ我々がまず真先に取り組まなければならない問題であると強く信じております。

 私はこれらの問題は、主要な新興市場国の参加を確保しつつ、G7によって早急に議論され、対処されなければならないと確信しています。危機による深刻な影響を経験したアジア地域の一国として、日本は、こうしたシステム全体に関する課題に対応するにあたり、積極的かつ建設的な役割を果たしたいと思います。

II.短期資本移動のもたらすリスクと対応策

 第一の根本的な問題は、巨額の短期資本移動にどう対処するかということであります。

 発展途上国や新興市場国においては、資本の自由な移動が往々にして経済成長の原動力となってきたのは事実であります。しかしながら、最近、金融技術の急激な発展により、国際的な投資家はそれ程知られていない市場においても容易に資金を投資したり引き揚げたりすることができるようになりました。現在、毎日約1.5兆ドルにも及ぶ通貨が取引されていると言われています。1年に250営業日あるとすれば、通貨取引は1年間で375兆ドルにも及ぶことになります。1年間の世界全体の貿易量が11兆ドル程度であることを考えると、資本の移動が各国に対して如何に大きな影響を与え得るか認識せざるを得ません。

 資本の自由な移動は資源の最適な配分をもたらすとされていますが、現実には、特に短期資本フローに関しては、そうは言えないかもしれません。なぜなら、投資家は不完全かつ非対称の情報に基づき意思決定を行い、そのために他の投資家がとる行動に追随する傾向があるからです。この現象はハーディング(herding: 群れをなす現象)と呼ばれ、経済のファンダメンタルズに大きな変化が無くとも短期資本の急激な移動を引き起こしかねません。資本の過剰な流入は、非生産的な投資の増加、資産価格の「バブル」、及びインフレーションなどの経済の過熱をもたらす可能性があります。そして、もし流出が始まれば、流出資金の奔流が一国経済を破滅させかねません。

 こうした認識に基づき、まず第一に、新興市場国や発展途上国においては、資本の自由化が経済の発展段階に照らし更なる成長や効率性の向上のための適切かつ必要な戦略である場合においても、こうした自由化が強固な金融セクターや高い能力を有する監督システム等の一定の適切な条件が存在する場合に実施されるということが必要不可欠であります。更に、資本自由化はよく順序だった方法で進めるべきです。特に、プルーデンシャル規制の必要性はどれだけ強調しても十分とはいえません。これによって、例えば、外国通貨建てのエクスポージャーや満期のミスマッチにかかるリスクも正しくモニターされるでしょう。

 第二に、資本移動、特に短期資本移動のモニタリングが強化されなければなりません。サーベイランスの実施やプログラムの策定にあたり、IMFは、各国当局に対し、適切に支援を与えながら、満期構成、通貨構成、形態(直接投資、銀行借入、証券投資等)、借入主体(ソブリン、準ソブリン、金融機関、民間企業等)といった資本の流入・流出に関するより詳細なデータを収集しモニターするよう促すべきであります。資本自由化によって資本取引に関するデータの収集が困難になることは明らかです。しかしながら、海外の債権者から借入を行っている金融機関及び企業のいずれについても、報告義務は必要に応じて強化されなければなりません。

 第三に、発展途上国や新興市場国は、資本自由化のプロセスにおいて、その経済の規模や金融セクターの発展段階に応じて、資本の流入を手に負えるくらいの水準にとどめておきたいと考えるかもしれません。このような場合、攪乱的な資本流入を防ぐための市場調和的な規制を維持することは正当化されるべきであります。このような措置は、ラテンアメリカの国によって既に導入されており、それらは外貨借入に対し預金準備を要求するなどプルーデンシャル規制を最大限に活用したものであります。

 第四に、資本流出を防ぐための措置の再導入に関してですが、これには強い反対意見があります。こうした措置の中には、投資家のコンフィデンスを悪化させ、直接投資などの有益な資本の流入を阻害するものもあることは事実です。また、裁量的又は恣意的な措置は、国民経済の効率性を低下させるかもしれません。これらの問題点を指摘し、こうした措置の導入を認めることへの警戒を呼びかける人々の躊躇も十分理解できます。

 しかしながら、私は、例えばIMFの融資が外国の投資家の救済に使われることを防ぐ時や、居住者の資本逃避を防ぐ時など、こうした措置の再導入が正当化される場合もあり得るのではないかと考えております。勿論、こうした規制が標準とされてはなりません。例外的なものであるべきです。また、このような措置は、安定的かつ有益な長期的な投資の流入に悪影響を及ぼさないよう、注意深くデザインされなければなりません。私は、10月に開催されたIMF暫定委員会のコミュニケで示されたとおり、IMFが「資本移動規制の使用の経験、及びどのような状況ではこうした規制が適切であるかにつき再検討する」ことを期待しています。

 最後に、先進国も、貸手側のモニタリングの強化により、攪乱的な短期資金移動によるリスクを緩和することに貢献できるでしょう。単なるポートフォリオ上の投資から新種のオフバランスのデリバティブに至る様々な形の投資に対応する洗練された監督システムが必要であります。特に、先進国の当局は、ヘッジ・ファンドを含む国際的に活動する機関投資家に関する問題を解決する方策を追求しなければなりません。私の考えでは、我々は、ヘッジ・ファンドに投融資を行っている金融機関への適切なプルーデンシャル・ルールや報告義務-特に、規制が緩いとみられるオフショア・センターに設立されているヘッジ・ファンドについて-、また、ヘッジ・ファンド自身に対するディスクロージャーや報告義務などの措置を検討するべきであります。

加えて、全ての作業を効果的なものとするために、各国の規制当局及び国際的な規制機関の間の協調が強化されなければなりません。このためには、バーゼル銀行監督委員会やIOSCO(証券監督者国際機構)といった主要な国際的規制団体が、IMF、世銀、及び各国の規制当局とともに、その時々の重要な論点について話し合うことのできるフォーラムを創設することも検討に値するのではないでしょうか。

III.為替相場制度

 今日の国際金融システムが直面する第二の根本的な論点は、為替相場制度であります。

 ブレトン・ウッズ体制の崩壊後、すべての主要国や他の多くの国々が、変動為替相場制を選択しました。当時、変動相場制はその国を海外のインフレーションなど外部からのショックから遮断し、各国間の経常収支不均衡を自動的に修正するメカニズムを持っていると信じられていました。しかし、こうした目的は、どう見ても部分的にしか達成されませんでした。

 変動相場制のもとでは、我々は変動と乖離の問題を経験してきました。すなわち、為替相場は時折大きな変動を見せ、また、経済のファンダメンタルズとは相いれないレベルで長期間乖離し、更に、主要国間の巨額の国際収支不均衡が存在し続けてきました。更には、資本の移動がその大きさ・頻度ともに増加するにつれ、為替相場の変動はより大きくなり、大国においてさえも実物経済部門に深刻な悪影響を与えています。言うまでもなく、巨額かつ短期の資本フローの激しい変動の影響は、小さな国々においてはより痛切です。こうした小国は為替相場の変動によって悪影響を受けるだけではありません。新興市場国は、変動相場制をとったとしても、外貨建融資の更新に困難が生じたり、国際的な投資家が資金を引き揚げることによって、債務不履行のリスクに直面する可能性があることがより明らかになってきています。

 主要な先進国通貨の為替相場を安定させるため、これまで様々な努力が行われてきました。1980年代後半にはマクロ経済政策協調が追求されましたが、期待されたほどの為替相場の安定は得られませんでした。加えて、財政政策又は金融政策の協調は、理論上想定されるほど簡単なものではありません。それは国内要因の考慮と政治的な配慮によって制約を受けるからです。今日においては、為替相場の安定は、各国がそれぞれインフレなき持続可能な成長のため努力することによってより良く達成されると議論されることが多くなっています。しかしながら、問題は、それで十分なのかということです。

 欧州において、主要通貨間で安定性を向上させる必要性に関し、いくつかの提案がなされていると聞いております。私も、安定性を向上させることが望ましいと思います。円、ドル及びユーロの間で、一方において安定性を向上させ、同時にもう一方で必要なフレキシビリティーをもたらすような為替相場制度を作り出す可能性を検討することが我々の任務であります。これは困難な課題ですが、これら3つの通貨の間でこうした「管理されたフレキシビリティー」を達成するために真剣に取り組まねばなりません。

 発展途上国や新興市場国の通貨については、それぞれの国に対しどのような為替相場制度をとるべきであるとアドバイスするのかが極めて重要であります。もちろん、最も適切な為替相場制度は、その国の経済規模や貿易相手国の構成、貿易の主要品目の構成、資本自由化の度合い、過去におけるインフレーションの経験などにより、国によって異なります。

しかしながら、一方で、近時のアジアの経験はある国の通貨を一つの通貨にペグさせることのリスクを露呈したことは確かです。このような為替相場制度の下では、しばしば外国の投資家だけでなく国内の借手も為替リスクを軽視するようになり、また、為替相場の経済ファンダメンタルズからの乖離が継続することがあります。このようなことから、結果としてバブル経済につながり、後に破裂してしまうことを招くことがあるのです。如何なる国も、すべての経済政策の基盤となる為替相場制度につき、選択の誤りに耐えることはできません。

一般的に言えば、新興市場国ないし発展途上国にとっては、その通貨を最も緊密な貿易及び投資の相互依存関係にある先進国の通貨あるいはいくつかの通貨のバスケットにペグし、実質実効為替レート、ユニット・プライス、及び経常収支・資本収支のバランスの動向に応じて定期的にペグを調整することが適切であると言えるでしょう。しかしながら、単純な公式があるわけではなく、個々の国の状況に応じケース・バイ・ケースで慎重に検討することが必要不可欠であることを繰り返したいと思います。

IV.危機に陥った国への流動性の供給

 第三の根本的な論点は、危機に見舞われた国々に対し如何に流動性を供給するかということです。

 98年9月のIMFの世界経済見通しによれば、アジア諸国は1996年には288億ドルの純民間資本流入がありましたが、1997年にはその傾向は激しく反転し、443億ドルの純民間資本流出となってしまいました。一国経済のファンダメンタルズの健全性にかかわらず、どの国もこのような急襲には耐えられません。

 また、アジア諸国の金融市場へのアクセスは事実上不可能となってしまっています。例えば、本年1月、インドネシアのソブリン・リスクが高いと見なされ、ソブリン債券のプレミアムが米国債利回りプラス1,000ベーシス・ポイントまで達し、後で11月までに1,000ベーシス・ポイントにまで戻りましたが、今夏のロシアの危機の後には1,800ベーシス・ポイントにまで上昇しました。他の新興市場国が発行したソブリン債券においても、こうした極端に高いプレミアムがつきました。これらの国々が市場で借り入れることができたとしても、このように大きな利払いは持続可能ではありません。

 今日、市場のコンフィデンスの喪失ということがよく言われています。これは、今日の危機が本質的に流動性の危機であるということを言い変えることにほかなりません。このような危機においては、海外の債権者は、適切な政策を行っている国や支払い能力のある機関や企業からも資金を引き揚げます。このようなタイプの危機への最も適切な対応は、流動性を供給することであります。これは、市場を鎮静化し、各国の状況に応じて危機の後に実施されるべき必要な政策手段を検討することを可能にする息継ぎの間を与えるでしょう。また、海外の債権者の間のパニックを和らげるでしょう。つまり、債権者は、十分な資金があることを認識すれば、小さなパイから出来るだけ大きな部分を獲得しようと急ぐ必要がなくなるのです。

 更に、あまりに野心的な政策調整を求めることによって市場を落ちつかせようとすることは、時には逆効果になることもあり得ます。高インフレーションの歴史がない国に非常に緊縮的な金融政策を求めることや、財政の健全性に関し良好な結果を出している国に対し非常に厳しい財政政策を要求することは、実体経済の収縮と市場のコンフィデンスの一層の悪化を招くだけに終わるおそれがあります。この関連で、IMFが、危機の際にあまりに広範な若しくは野心的な構造改革を求めることを自制することも必要なのではないでしょうか。なぜなら、特に危機時に見られる政治的な混乱の渦中では、そのような目標が達成されないことが往々にしてあり、それが市場のコンフィデンスの一層の悪化を招きかねないからです。勿論、必要なマクロ経済調整まで無視してよいと言っているのではありません。しかし、調整政策は進行中の危機への影響をはっきり認識した上で遂行されるべきです。同様に、必要不可欠な構造政策は、中長期的な課題として解決されていくべきであります。

 結論としては、投資家の間のパニックを防ぎ、出来る限り早くコンフィデンスを回復させるためには、国際社会は流動性を供給する能力を強化する必要があります。IMFは、国際金融システムの中心的機関として、適切な状況においては、ある程度最後の貸手のような役割を担うことにより、こうした努力において重要な役割を果たさなければなりません。この関連で、NAB(新規借入取極)の発効やIMFの増資に向けた進展は、IMFの資金基盤の強化に資するものであり、重要なステップであります。

 私は、これまで述べたような観点に沿って、より迅速かつ巨額の流動性を供給するメカニズムに関する具体的なアイディアをいくつか述べたいと思います。

 第一に、危機に見舞われた加盟国に流動性を供給するために、IMFが予防的かつ必要な際に迅速に資金供与できる新しい融資制度を作ることが考えられます。私の提案する融資制度は、事前に合意された取極を必要とせず、一義的には通常のサーベイランスにおいてよい実績が認められることに基礎を置くという点で、現在検討中の予防的な融資制度とは異なります。この新融資制度は、当面の困難を克服することだけを目的としており、要求される政策はこの目的に資する最少限のものに限られます。危機が過ぎた後、IMFや世銀のより長期的なプログラムの中で必要な改革を実施していくことになります。

 第二に、巨額かつ短期の流動性を供給するIMFの能力を強化するため、現行のIMF協定でも既に認められているようにIMFが市場から借入を行うことも考えられます。借入資金は、既存のSRF(補完的準備融資制度)、現在検討中の予防的な融資制度、及び先程述べた新しい融資制度に限って使用されるべきでしょう。IMFの市場からの借入により、新興市場国への流入が止まった若しくは新興市場国から流出している民間資金を還流させることは、筋道が通っています。

 第三に、IMFが新たなSDRの一般配分を通じて各国の外貨準備を補強することも考えられます。加盟国は昨年、従来からの加盟国と新規加盟国の間での公平な配分を達成するため、SDRの特別配分を行うことに合意しました。しかしながら、世界的に、特に新興市場国において、外貨準備を補充する必要性があること、また、現状においてインフレリスクが低いことを考えると、新たな一般配分を行う根拠は十分に強いものであります。

 第四に、IMFの役割と機能を補完するために、私は、地域内で相互に通貨支援を行うメカニズムの設立を検討することが適当であると考えます。危機の際に流動性を供給する国際社会の能力を強化するため、地域内の各国間の連帯感と相互対話に裏打ちされたある種の地域的メカニズムのようなものを通じて、IMFの融資を補完することが適当ではないかという我々の考えは、ブラジルにおける最近の経験によって強められました。

 このメカニズムは、アジアやラテンアメリカ、東欧といった地域毎に設立されることが考えられ、貿易や投資などの分野で強い相互依存関係にあり、政策目的に関しお互いに継続的な対話を行っている、地域内の国々の資金によって設立されるものであります。また、その地域の安定に経済的・政治的な関心を有する域外の国々が参加することもあり得るでしょう。

 私の名を冠した構想のもと、日本政府はアジア諸国に対し総額300億ドルに上る多様な資金供与スキームを提案しております。私は、この構想が、先程述べた地域内で相互に通貨支援を行うメカニズムに向けた更なる議論につながっていくことを望んでいます。

V.結語

 国際金融システム改革の議論は、一時の流行に終わってはなりません。それは、世界経済が機能していくためのより良い環境を創り出していく上で不可欠であります。

 1926年、ジョン・メイナード・ケインズはこう記しています。

「現代最大の経済悪の多くは、危険と不確実性と無知の所産である。…このような事態にたいする治療法は、一つには、中央機関による通貨及び信用の慎重な管理に求められるべきであり、また一つには、知っておけば有益な、企業に関するあらゆる情報の-必要とあれば法による-全面的な公開ということを含む、事業状況に関する膨大な量の情報の収集と普及に求められるべきであると、私は考える。」

 このような考えに基づき、彼はこう続けます。

「私としては、資本主義は賢明に管理されるかぎり、おそらく、経済目的を達成するうえで、今までに見られたどのような代替的システムにもまして効率的なものにすることができると考えている。」
(「自由放任の終焉」宮崎義一訳)

 彼の洞察は、いつものことながら、現在も生きています。

 来世紀の国際金融システムを構築する作業を進めていくことは、国際金融システムの安定と健全な発展に利害を有する我々全ての責任であります。そして、私は、あと2年後に迫った来世紀への準備というこの重要な任務を遂行するにあたり、我が国が主導的な役割を果たしていくべきであると強く信じております。

 御静聴ありがとうございました。