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第53回ADB年次総会 日本国総務演説(2020年9月18日)

第53回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
麻生副総理兼財務大臣総務演説
2020年9月18日(金)

1.はじめに
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 まず初めに、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、前例のない困難に直面しながらも、浅川総裁のリーダーシップの下、献身的に業務を遂行しているADBスタッフに敬意を表します。

 また、本年次総会が対面で開催できなかったことは残念に思いますが、バーチャル形式での年次総会の開催準備を行ってきたADBスタッフの努力に感謝いたします。


2.新型コロナウイルス感染拡大への対応とADBの役割
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う保健及び経済・金融への影響に対応するために、世界各国並びに国際機関は、様々な取組みを行い、また協調を強化しております。

  こうした中、ADBは本年1月以降、医療機器の調達をはじめとする緊急支援を各国に対して行い、4月には、より迅速かつ柔軟な支援を可能とする特別支援枠組みの創設を含む総額200億ドルの緊急支援パッケージを発表しました。

 日本は、こうしたADBの取組みを評価するとともに、開発途上加盟国における新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するための能力強化を支援するため、貧困削減日本基金(JFPR)及びアジア太平洋災害対応基金(APDRF)を通じ、1.5億ドルの貢献を行っております。

 現時点で新型コロナウイルス感染拡大の収束を見通すことは困難ですが、ADBには、各国の感染状況に応じた適切な支援を引き続き提供することを期待します。


3.日本の開発プライオリティ

 新型コロナウイルス感染拡大を抑制するとともに、コロナ禍からの復興、持続的な経済成長を実現するためには、日本としてこれまで取り組んできた以下の4つの政策課題が一層重要になります。これらの分野においてADBが取組みを継続・強化していかれることを期待します。

(保健)
 日本はかねてより、パンデミックへの備えと対応の強化を訴え、ADBと共に途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進に取り組んできました。今般の新型コロナウイルスの感染拡大により、途上国における強固な保健システムの構築が、保健サービスの質の向上にとどまらず、持続的な経済成長に重要な役割を果たすことが改めて明らかになりました。
 日本は、アジア・太平洋地域におけるUHCを支える①制度枠組の構築、②人材育成の強化、そして③インフラの整備からなる3本柱の下、アジア・太平洋地域でのUHC達成に向け、ADBとの連携をより一層強化していく考えです。

(質の高いインフラ投資)
 コロナ禍収束後の持続的な経済成長のために、「質の高いインフラ投資」の推進は欠かせません。日本はこれまでADBとの間で多くの協調融資プロジェクトを実施するなど、アジア・太平洋地域における「質の高いインフラ投資」に貢献してきました。
 昨年、日本議長下で合意された「質の高いインフラ投資に関するG20原則」は、ライフサイクル・コスト、調達の透明性、利用の開放性や債務持続可能性といった要素が盛り込まれており、これは日本がADBと共に目指してきた取組みとまさに軌を一にするものです。日本としては、これらの要素が今後のADBのオペレーションにおいてより一層反映されることを期待します。

(債務持続可能性)
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、各国は財政出動などの対応を迫られ、アジア・太平洋地域における債務脆弱性のリスクに注意が必要となっています。途上国における債務脆弱性は、世界経済が抱える大きなリスクの一つであり、これに適切に対応する必要性が高まっています。
 資金フローの安定性を確保し、持続可能な経済成長を達成するには、債務の透明性・持続可能性の確保が重要です。日本はADBに対し、IMFや世界銀行と協力し、アジア・太平洋諸国の債務管理能力の強化や債務の透明性向上に関する取組みを推進することを期待します。

(国内資金動員)
 債務持続可能性の課題を根本的に解決するためには、途上国自身の国内資金動員を強化し、国外からの借入に過度に頼らない財政を構築することが必要です。
 こうした観点から、日本はADBがアジア・太平洋地域の途上国において、各国の税制に関する能力強化を支援することを歓迎します。
 アジア・太平洋地域の税制に関する協力において、浅川総裁のリーダーシップの下、ADBが主導的な役割を果たしていくことを期待します。

 日本は、アジア・太平洋地域が抱える様々な課題に効果的に対処するため、ADBの日本信託基金を通じ、これまで述べた日本の開発プライオリティに係る支援を一層強化していく考えです。


4.アジア開発基金(ADF)増資
 以上のとおり、ADBが益々重要な役割を担うことが期待される中、脆弱な国々を支援する財源であるアジア開発基金(ADF)の増資が、成功裡に妥結したことを大変喜ばしく思います。日本が重視する、保健、質の高いインフラ投資、債務持続可能性を重要政策として位置付けたことを高く評価し、日本はADF増資におけるドナー貢献の35%、約1,076億円を拠出する意図を表明いたしました。
 とりわけ脆弱な島嶼国において、主要産業である観光業の落ち込みは、観光産業にとどまらず、国家全体の経済、社会に大きな影響をもたらしています。また、島嶼国は、自然災害、気候変動といった困難な課題にも直面しており、今回の増資において、ADFによる島嶼国への支援が拡大することを歓迎いたします。


5.UMICs
 ADBの限られた資源を有効に活用するためには、通常資本財源(OCR)においても、所得のより低い国や脆弱な国に支援を重点化していくことが必要です。この観点から、UMICsについては、「戦略2030」にあるとおり、ADBが付加価値を提供できる分野に絞って、地域公共財や、気候変動等の分野における知識・経験の共有に更なる重点がおかれるべきであると考えます。
 特に、UMICsの中でも卒業政策上の所得基準に達した国々については、国別パートナーシップ戦略(CPS)の策定にあたり、当該国の卒業への準備状況について、体系的な分析・評価をきちんと行う必要があります。その上で、支援の対象を卒業につながる分野に重点化しながら、卒業への具体的道筋をしっかりと示していくべきであると考えます。


6.結びに
 世界がいまだ未曽有の危機にある中、感染拡大の抑制と経済の早期回復においてADBが果たす役割は大変大きいものがあります。浅川総裁の下、引き続き、地域の支援ニーズに注意深く耳を傾けつつ、 “One ADB”として、革新的で効果的なステップを踏み出していかれることを期待します。
 日本は、こうしたADBの取組みを引き続き強力に支援していく考えであり、ADBと密接に協力しながら、コロナ後のアジア・太平洋地域の力強い回復と更なる発展に貢献してまいります。

(以上)