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第51回ADB年次総会 日本国総務演説(平成30年5月5日 於フィリピン・マニラ)

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第51回アジア開発銀行(ADB)年次総会における
麻生副総理兼財務大臣総務演説
平成30年5月5日(土)(於 フィリピン・マニラ)

1.はじめに
 総務会議長、総裁、各国総務並びにご列席の皆様、

 まず初めに、今次総会のホスト国のフィリピン政府及びマニラ市民の皆さまの温かい歓迎に心より感謝申し上げます。日本とフィリピンは、マニラ首都圏の鉄道事業への協力表明など、様々な協力関係を築き上げてきましたが、今後も日本とフィリピンの関係が更に深化していくことを願っています。


2.アジア・太平洋地域の発展と日本・ADBの役割
<総論>

 アジア開発銀行(ADB)が設立された50年前、アジア・太平洋地域は非常に貧しい状況にありましたが、その後の発展は目覚ましく、力強い経済成長を成し遂げました。他方、アジア・太平洋地域は、未だに3億人を超える貧困層を抱えており、格差拡大、インフラギャップ、急速な都市化、高齢化など、様々な開発課題に直面しています。日本は、アジア・太平洋地域の諸国がこうした開発課題に対応していくにあたり、引き続き積極的に支援を行ってまいります。また、ADBが、過去50年間で培った経験や加盟国との強固なパートナーシップといった付加価値を最大限に活かしつつ、地域の発展に寄与する中核機関として重要な役割を果たし続けることを期待しています。

<インフラ>
 インフラは経済活動の重要な基盤ですが、昨年ADBから示された試算によれば、アジア・太平洋地域は年間1.7兆ドルもの膨大なインフラ需要を抱えており、こうした需要に対応していなかなければなりません。

 その際、インフラ投資の量でだけでなく、質を確保していくことが重要です。日本は、「質の高いインフラ投資」を推進するために、ADBと緊密に協力し、
・民間インフラ投資の推進のため、2016年に設立されたADBの信託基金を通じて約3億ドルを投融資、
 併せてADB本体からも約4億ドルを投融資、
・高度技術のインフラ案件への活用を積極的に推進していくため、昨年、ADBに新しく設立された高度技術支援基金に対し、
 2年間で40百万ドルの拠出を表明、
などの様々な取組みを行ってまいりました。

 こうした「質の高いインフラ投資」を更に推進していく観点から、この機会に、「質の高いインフラ投資」の新たな考え方をお示ししたいと思います。

 「質の高いインフラ投資」と言うと、整備されたインフラ自体について、それがライフサイクルで見た経済性、安全性などを備えているということがまず想起されると思います。しかしながら、改めて「質の高いインフラ投資」というものを見つめ直してみると、その意義は、インフラの持つ物理的な価値にとどまるものではありません。

 「質の高いインフラ」が整備され、それが開放的で万人が使用できることによって、経済の歯車が動き出し、その国の経済が発展していきます。すなわち「質の高いインフラ投資」は、民間投資促進、雇用創出、能力構築、持続可能な借入等が、相互に好影響を及ぼしながら包摂的な成長が持続していくこと、言い換えれば経済発展のための「自律的循環」を強力に推し進めるということになるのです。そして、この「自律的循環」こそが「質の高いインフラ投資」のもたらす大きなもう一つの重要な価値です。

 こうした考え方から、来年のG20に向けて、国際公共財としての「質の高いインフラ投資」の「自律的循環」実現への効果を明確化するとともに、何が「質の高いインフラ投資」であるかのコンセプトに係る原則をアップグレードしていく考えです。アップグレードに当たっては、「自律的循環」を実現する「質の高いインフラ投資」の要素として、マル1経済性、マル2環境・社会配慮、マル3災害などに対する強靭性を改めて強調するとともに、これまで強調されていなかったマル4ガバナンスについては、Responsible Financingやインフラの利用の開放性を前面に出したいと考えています。

 更に、上流すなわちプロジェクト組成から下流すなわちファイナンスに至るまで、更にはインフラの質に関するデータ整備等を含め、包括的な支援メニューを用意しておくことも重要です。こうしたメニューは、途上国による主体的な「質の高いインフラ投資」の実施の助けとなると考えています。

 上流支援として、日本は、ADBの高度技術支援基金への追加的な資金拠出を検討しています。

 下流支援については、新たな提案があります。日本は、JBICに、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資という世界的潮流に着眼した新たな支援ファシリティを創設します。

 このファシリティでは、再生可能エネルギー分野も含め、地球環境保全目的に貢献するインフラ整備を幅広く支援します。このファシリティが、新たな次元での資金支援の先鞭をつけるものとなることを期待します。また、新ファシリティによる支援にあたっては、国際開発金融機関との協調融資など、国際社会とも緊密に連携していきます。

 このように「質の高いインフラ投資」に係る原則をアップグレードし、新ファシリティを含め包括的な支援メニューを用意することが、国際公共財としての「質の高いインフラ投資」の国際的な取組を更に前進させていきます。これが、アジア・太平洋地域をはじめとした途上国等の「自律的循環」に貢献し、更に民間資金動員を一層促進します。

<防災>
 「質の高いインフラ投資」は、自然災害等に対する強靭性の確保を図るものであり、アジア・太平洋地域にとって極めて重要と考えます。これまで、同地域では、台風、地震、津波をはじめとした自然災害が頻発し、地域の経済成長に大きな影響を及ぼしてきました。ADBが今後、防災分野での取組みの強化にコミットしていることを歓迎し、強靭性を備えたインフラ整備など、ADBのプロジェクトにおいて防災の主流化を図っていくことを期待します。

 とりわけ島嶼国はこうした自然災害に対して極めて脆弱です。今月、福島県で開催される第8回太平洋・島サミットや、太平洋島嶼国において初開催となる来年のADBフィジー総会といった機会を通じ、防災に関する日本の経験と知識の共有や国際的な協力関係の構築が一層進むことを期待します。

 今般、自然災害発生時の迅速な資金動員を図る「東南アジア災害リスク保険ファシリティ」を設立することが合意されたことを歓迎します。今後も地域の災害強靭性の強化に一層の貢献を果たしていきます。

<保健>
 質の高い医療や保健サービスの確保は、経済的安定と国の発展の礎であり、日本は、途上国におけるユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の推進を重視しています。この観点から、昨年12月、ADBからもハイレベルの参加者を得て「UHCフォーラム」を東京で開催し、持続可能な保健財政システム確立のために財務大臣の果たす役割の重要性を確認しました。世界に先んじてUHCを実現した日本は、超高齢社会を迎える中で培った知見も活用しつつ、今後とも国際的な議論をリードしてまいります。

 また、UHCに加え、公衆衛生危機への対応も極めて重要であり、アジア開発基金第12次増資(ADF12)において設けられた地域保健枠が着実に活用されていることを歓迎します。

 昨年の横浜総会の際に、ヘルス・セキュリティとUHCの推進に向けて、ADBとJICAの間で協力覚書(MOU)が締結されました。このMOUに基づいてラオスやモンゴル等の国々で具体的な取組みが開始されていることを歓迎するとともに、これも契機に、ADBが保健分野での関与を強化していくことを期待します。

<債務持続性>
 近年、一部の途上国で債務持続性に懸念が生じており、借り手・貸し手の双方において「持続可能なファイナンス」を推進していく必要性が高まっています。特に、借り手・貸し手双方による情報開示の推進、借り手の債務管理能力の強化などが重要となっており、ADBやその他国際機関が積極的に関与していくことを期待します。

 

3.戦略2030
 2030年までの長期的なADBの在り方を示す「戦略2030」については、これまで加盟国やその他様々なステークホルダーとの意見交換が行われ、本年中の策定に向けて議論が進められていることを歓迎します。日本が「戦略2030」において特に重要と考える事項を何点か述べたいと思います。

<支援の方向性>
 受益国の経済的状況や支援ニーズが多様化していく中、ADBがこれまでより広い分野で支援を柔軟に提供していくことや、所得水準を考慮しつつ、国の状況や支援分野に応じて異なる条件を適用させていくとの方向性を、日本としても支持いたします。

 他方、こうしたアプローチが、新たな財源を求めたり、支援の効率性の低下を招いたりするものであってはなりません。支援対象国や支援分野にメリハリをつけ、ADBの限られた資源を効率的・効果的に活用していくことが必要です。

 特に、高中所得国(UMICs)向けの支援については、量から質への転換を図り、政策アドバイスなど知識面での協力や、気候変動を含む環境問題などの国際公共財・地域公共財の分野に重点化していくべきです。UMICsの中でも卒業政策上の所得基準に達した国々については、金利の差別化も図りながら、こうした量から質への転換や支援分野の重点化を、より大胆に目指すべきです。ADBの資本基盤は、アジア開発基金(ADF)と通常資本財源(OCR)の統合という革新的なアプローチにより強化されましたが、長期的にも財務の持続可能性を確保し、限られた財源をより貧しい国に重点化していくためにも、UMICsの支援の質への転換や分野の重点化が重要と考えます。こうした方向性は、ADBの卒業政策と整合的であると考えます。

 ADBはこれまで、シンガポールや韓国などの卒業国を輩出し、これらの国々は「援助の受け手」から「援助の出し手」への転換を果たしています。今後ともADBが更に卒業国を輩出し、アジア・太平洋の発展の証左を築き続けていくことを強く期待します。

<ADBの組織・人員の在り方>
 受益国の置かれた状況や支援ニーズに応じたきめ細かな支援を提供するためには、それを支える組織と人的資源が伴わなければなりません。ADBが、「戦略2030」の実現に向け、例えば保健分野における組織や人材を強化するなど、組織や人員の在り方を不断に見直し柔軟に対応していくことを期待します。

 

4.結語
 アジア・太平洋地域は、今や世界経済の成長を強く牽引しており、現在の成長ペースを維持すれば、2050年には世界のGDPの半分を超すとも言われています。本総会での議論を踏まえて力強い「戦略2030」が策定され、中尾総裁の卓越したリーダーシップの下でADBのミッションが一層効果的に果たされることを期待いたします。日本は、引き続きADBと密接に協力し、地域の更なる発展に貢献してまいります。

(以上)