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第73回IMF・世界銀行年次総会麻生財務大臣総務演説(平成30年10月13日 於:インドネシア・バリ)

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1.世界経済、日本経済

 世界経済の堅調な成長が続いており、ややペースは落ちると見込まれるものの、今後も成長を続ける見込みです。また、リスクは下方に偏っており、一部のリスクは顕在化しています。国際的な金融資本市場がタイト化する中で、新興国に対する資本フローの反転が生じています。世界経済全体へ波及するほどの悪影響は未だ見られませんが、我々は警戒レベルを高め、必要に応じて迅速に国際社会による支援を実施する必要があります。貿易をめぐる緊張の高まりが継続しています。貿易摩擦は市場心理を悪化させ、金融の脆弱性を高めるとともに、投資を減退させます。保護主義的な措置による内向きの政策は、どの国の利益にもなりません。自由で公正なルールに基づく貿易を通じて世界経済の成長を高めていくことが重要であり、二国間の枠組みではなく多国間の枠組みで解決策を追求していく必要があります。

 こうした下方リスクに対処するため、引き続き、財政、金融及び構造政策を個別にまた総合的に用いるというコミットメントが重要です。経済状況が良好な現在のうちに、将来への備えをするため、必要に応じて財政政策のバッファーを再構築することで質の高いインフラや人材に投資するための余地を創出しつつ、債務残高対GDP比を持続可能な道筋に乗せることを確保する必要があります。


 日本経済は、アベノミクスの取組により、実質GDP成長率は3年連続のプラス成長、企業収益は過去最高となっております。労働市場は引き続きタイトであり、失業率は約25年ぶりの低水準となりました。賃金については、2%程度の高い水準の上昇が5年連続で実現しております。

 中長期的な視点に立つと、日本の最大の課題は少子高齢化です。日本の財政は公的債務残高がGDPの2倍程度に累積するなど極めて厳しい状況であり、社会保障関係費の伸びの抑制は不可避の課題です。こうした中、本年6月に「新経済・財政再生計画」を策定し、財政健全化目標として、2025年度のプライマリーバランス黒字化を目指すことなどを掲げました。2025年には全ての団塊の世代が75歳以上になるため、社会保障関係費の増大が見込まれており、この前に財政健全化の道筋を確かなものとする必要があります。計画に沿った歳出改革等に真摯に取り組むことで、この目標の達成を確かなものとしてまいります。

 また、2019年10月に予定されている消費税率10%への引上げに当たっては、その使い道を見直し、子育て世代への投資と社会保障の安定化とにバランスよく充当することとしました。これにより、財政健全化に加え、現役世代が抱える不安を解消し、消費の喚起にもつながるものと考えています。このような消費税率10%への引上げを来年10月に確実に実施するため、引き続き環境整備にしっかり取り組みます。


2.IMF及び世銀グループへの期待

 まず、両機関に対する期待を申し上げます。

 近年、一部の開発途上国において、非伝統的な貸し手からの借入や非譲許的な借入による債務の蓄積が問題となっています。債務の透明性向上と債務の持続可能性の確保のために、債務国だけでなく、公的部門と民間部門を含む債権者による取組が不可欠であり、IMF及び世銀が必要な能力構築支援を実施し、債務持続可能性の重要性について、借り手・貸し手双方の理解を促す取組を行っていくことを期待します。

 次に、IMFに対する期待を申し上げます。

 IMFが、そのサーベイランス機能を十全に発揮して世界経済のモニタリングを行い、支援が必要な国には迅速に融資を行い、能力開発を通じて経済成長の底上げに取り組んできたことを高く評価します。苦境に陥ったアルゼンチンに対する迅速な支援合意は、IMFが世界経済の安定に果たす役割を再度印象付けました。世界が直面する課題の分析や対処において、IMFからの貢献に引き続き期待します。

 過度のグローバルインバランスは、世界経済にとってのリスクです。各国の経常収支は、マクロ的な貯蓄・投資バランスの現れであることを踏まえ、各国が持続可能な貯蓄・投資バランスを実現するために適切なマクロ経済・構造政策を実施し、グローバルインバランスの解消を図っていくことが必要です。多国間の枠組みの中で解決することが不可欠であり、IMFのサーベイランスが共通の土俵を提供することが重要です。

 その観点から、「対外評価報告書(External Sector Report)」において、人口構成の変化や世代ごとの貯蓄行動の差異をより正確に捉えるため、IMFが評価モデルの見直しに取り組んでいることを日本は高く評価します。一方で、多くの国で、経常収支の評価と結び付けて為替レートを評価することの妥当性は失われています。為替レートを経常収支と関連づけて評価するのではなく、むしろ経常収支バランスの分析から過度のインバランスの所在を突き止め、それに対処する構造改革を提言するという本来的な意義に沿った活用に軸足を移すべきと考えます。

 新興国の一部において、資本フローの急激な反転が現実化している現在、それへの政策対応は、資本の流出国と流入国の双方にとって重要です。日本は、時と場合によってはCFMsが許容される局面があるということを示した「IMFの機関としての見解」を高く評価しています。IMFが具体的なIVの適用事例の集積を示したことは、政策当局者にとって有益な指針となるため、今後も継続的な取組を期待します。

 少子高齢化は、先進国のみならず、新興国や途上国においても急速に進展しています。労働供給の減少への対応、世代間公平性の確保、金融包摂など、少子高齢化が影響する分野は多岐にわたります。そうした議論を各国で進める共通の土台として、少子高齢化がマクロ経済、財政、金融に与える影響について、IMFによる分析を期待します。

 世界金融危機を克服する中で、GFSNは、多層的な構成で強化されてきました。それぞれの層のセーフティネットが個別に機能しつつ連携することによって、現在の国際金融システムは危機予防と危機対応の両面から安定性を高めています。

 そうした中、IMFが十分な資金基盤を有していることは極めて重要です。第15次クォータ一般見直しは、IMFが必要とする資金規模とその強化方法、クォータ計算式、といった本質的な論点について各国間で意見の隔たりが大きい状況です。IMFにおいて議論を続け、意見の隔たりを収斂することが必要です。

 その一つの方向性として、日本はIMFの資金基盤における借入資金の有用性及び重要性を強調します。2008年に日本が先陣を切って表明した1,000億ドルのIMFに対する融資は、マーケットに大きな安心感を与えるとともに、その後のIMFの資金基盤強化につながりました。各国からの融資によるIMFの資金基盤強化は続き、欧州債務問題の深刻化を踏まえてバイ融資取極が創設されました。現在、世界経済が下方リスクに直面し一部の新興国が苦境に立つ中で、IMFが緊急に資金を必要とするのであれば、借入資金がその役割を有効に果たすことができると考えます。

 また、IMFの低所得国に対する中心的な融資の枠組みであるPRGTにおいても、各国の資金貢献が欠かせません。こうした資金貢献のインセンティブを各国に付与するメカニズムとして、資金貢献能力や意思の要素をクォータ計算式により強く反映し、加盟国がIMFの財務基盤強化に貢献するインセンティブを強化する必要があると考えます。

 次に世銀グループに対する期待を申し上げます。

 本年4月の開発委員会で合意された世銀グループの増資について、今般、IBRD増資の総務決議が採択されたことを歓迎します。IFC増資の総務決議も、できるだけ早期に採択されることを期待します。総務決議は、世銀グループの改革のスタート地点に過ぎず、今後、増資パッケージで合意された様々な改革を着実に実施していくことが必要です。

 質の高いインフラ投資については、民間投資の更なる動員に繋がるという観点だけでなく、インフラの持つ物理的な価値を超えて、自律的な経済成長に貢献するという観点から推進すべき課題です。質の高いインフラ投資の重要性は広く共有されているところですが、次に考えるべきは、何が「質の高いインフラ」であるかを明らかにするとともに、質の高いインフラ投資に係る考え方をアップグレードし、それを実際の業務運営に反映させていくことだと考えます。これらの議論を進めるにあたり、これまでの業務経験や知見に基づく世銀グループからの貢献を期待します。

 人的資本の強化については、世銀グループがHuman Capital Projectを立ち上げたことを歓迎します。教育や保健が経済成長の実現に重要な役割を果たすとの指摘は、日本も強く賛同します。この観点から、Universal Health Coverageの導入と、それを支える持続可能なファイナンスの構築は極めて重要な課題であり、低所得国に対しては、世銀が国際開発協会(IDA)第19次増資を通じて、これらを重点的に支援していくことを期待します。

 また、蓄積された人的資本を守るという観点からは、パンデミックに対する備えも不可欠です。本年5月には、コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱への対応として、パンデミック緊急ファシリティ(PEF: Pandemic Emergency Financing Facility)より、設立以来初となる1,200万ドルの資金拠出が承認されました。本ファシリティが今後も様々なパンデミックのリスクに対応できるよう、現在検討中の次期PEFにおいては、中・小規模感染症への対応能力を高めるとともに、危機対応への備えを強化するインセンティブの仕組みを検討していくことを期待します。

 防災については、世銀グループが引き続き防災の主流化、とりわけ自然災害に対して強靭なインフラ整備の取組みを強化していくことを期待します。また、世銀が技術支援を提供する東南アジア災害リスク保険ファシリティ(SEADRIF:Southeast Asia Disaster Risk Insurance Facility)について、その最初の成果であるラオス・ミャンマー向けの地域災害リスク保険が早期に稼働すること、他のASEAN+3メンバー国がSEADRIFに参加することを期待します。

 地球環境問題、とりわけ生物多様性保護、化学物質対策、気候変動対応、砂漠化防止、国際水域の汚染対策といった地球環境ファシリティ(GEF:Global Environment Facility)の支援分野は、いずれも重要かつ喫緊の対応を要する課題です。GEFの第7次増資が実質的に過去最大規模で決着したことを歓迎し、困難な交渉を纏めあげた石井CEOの尽力に敬意を表すとともに、石井CEOの卓越したリーダーシップのもと、GEFが引き続きその使命を果たすことを期待します。


3.結び

 日本は来年G20議長国として、世界経済の変化や課題に適切に対処していくべく、IMFや世銀グループからの協力を得ながらリーダーシップを発揮する決意です。また、両機関がこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意を表すとともに、今後も増え続けるであろう困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能かつ均衡ある包摂的な成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。


(以上)