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第71回IMF・世界銀行年次総会麻生財務大臣総務演説(平成28年10月7日 於:ワシントンD.C.)

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1.世界経済、日本経済

 世界経済は穏やかな回復を続けていますが、依然として期待されるほどの力強さはありません。英国における国民投票後の市場の混乱は概ね落ち着いたとは言えますが、世界経済が抱える不確実性は引き続き残されています。このような状況であるからこそ、全ての政策手段‐金融、財政及び構造政策‐を個別にまた総合的に用いるというコミットメントの下、持続可能な成長の確保に向けて取組を進め、過度な悲観論に起因する経済の悪循環は回避する必要があります。先進国経済においては、確固たるリーダーシップに基づいて、経済・社会が抱える課題に迅速かつ的確に対処していくことが重要です。また、システミックに重要な新興国は、世界経済への相応の責任を認識し、適切な政策対応を行って脆弱性に対処することが求められます。世界経済の長期的な成長を実現するために各国が、短期的な政策対応に留まらず、潜在成長力の強化と脆弱性の解消に向け、各国の事情に応じた構造政策を進めて行く必要があります。

 日本経済のファンダメンタルズは堅調であり、2015年度の企業収益は過去最高を更新、失業率は21年ぶりの低水準となるなど、経済の好循環は着実に拡大しています。今年前半の経済成長率は第一、第二四半期に年率でそれぞれ2.1%、0.7%と、潜在成長率を上回る結果となりました。


 好調な企業収益や逼迫した労働市場が、消費や投資の伸びをもたらすような経済の好循環を確かなものとしていく必要があり、そのために継続的に賃金を上昇させることが極めて重要です。このような好循環を拡大させていくことで、デフレ脱却を確実なものとし、持続的な経済成長につなげていきます。

 政府がこの夏にとりまとめた財政措置GDP比2.7%の規模の経済対策は、構造改革と「未来への投資」の加速を目的とした包括的かつ大胆なものです。日本にとっては、雇用促進等により、少子高齢化を乗り越え、潜在成長率を引き上げることが優先課題です。このためこの対策には、長時間労働の是正等の働き方改革など、女性や高齢者の雇用促進につながる構造改革を盛り込んでいるほか、予算面で、保育・介護の受け皿の整備等も盛り込んでいます。また、生産性の引上げに資するインフラ整備に公共投資を集中させることで、民間投資を喚起し、持続的な成長の基盤を整備することとしています。さらに、今月実施された最低賃金の3%引き上げや、同一労働同一賃金の実現などの施策も、この対策において盛り込まれています。

 金融政策については、日本銀行は先月、「量的・質的金融緩和」導入以降の経済・物価動向と政策効果について「総括的な検証」を行い、その結果を踏まえて、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現するため、金融緩和強化のための新しい枠組みである、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。この枠組みは、金融市場調節によって長短金利の操作を行う「イールドカーブコントロール」と、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%の「物価安定の目標」を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する「オーバーシュート型コミットメント」の2つの要素から成り立っています。日本銀行は、新たな政策枠組みのもとで、2%の「物価安定の目標」の実現に向けて、従来よりも一段と強力な金融緩和を推進していきます。

 引き続き、政府・日銀が緊密に連携し、アベノミクスを一層、加速するため、金融、財政及び構造政策を、一体として進めていきます。


2.IMF及び世界銀行グループへの期待

 次にIMFに対する期待を申し上げます。

 世界経済における課題が山積する中、IMFに求められる役割は引き続き大きく、今後とも国際金融システムにおける課題の解決に向けたIMFのイニシアティブに期待します。

 近年、世界経済の統合の進展によりクロスボーダーの資本フローの量やボラティリティは著しく増大しています。このような現代の国際通貨・金融システムにおいて、各国がそれぞれ資本フローを十分に監視し、一定の状況下では適切に管理することは極めて重要です。我々はIMFによる資本フローに係る作業を強く歓迎するとともに、各国当局の政策判断の一助となるような、実践的なガイダンスをIMFが示すことを求めます。

 国際金融システムの安定化に向けたバックストップとしてのグローバル金融セーフティネットは、市場の信認を維持する観点から引き続き重要な役割を担います。各国の外貨準備蓄積や、二国間スワップ、地域金融アレンジメントの拡充により、セーフティネットは量的に見れば以前と比べ格段に拡充しましたが、多層的な各セーフティネットがシナジーを伴って有効に機能することが重要です。この意味でIMFとチェンマイ・イニシアティブの合同テストランの実施を歓迎し、今後同様の取組が他の地域金融アレンジメントとの間においても実施されることを期待します。また、情報交換を含むオペレーショナルなレベルにおいてのIMFとAMRO(ASEAN+3 マクロ経済リサーチオフィス)の連携強化についても、強力に推進していくことを期待します。

 日本は過去、世界金融危機やユーロ圏危機等に際し、融資取極を通じてIMFの資金基盤強化を主導してきました。IMFが対応すべき国際収支危機として、設立時に想定されていた伝統的な経常収支困難に加え、資本フローの急激な流出入を伴う新しい形の危機が登場しています。近年の経験に鑑みれば、発生が予測困難かつその発生頻度も極めて低いがいざ発現した際の被害は大きいシステミックな資本収支危機に起因するものを含む、莫大な潜在的資金ニーズまで、全てクォータで賄うことについては、議論の余地があると考えています。むしろ、個別的な危機に対処する資金はIMFがクォータとして十分に確保しつつ、システミックな危機への備えとしてはクォータ以外のNAB、バイ融資等の借入にて対応することが合理的な姿であり、このような合理的な資金基盤としての欠かすことのできない役割を十分に認識して、この度日本はIMFとのバイ融資取極を延長しました。このIMFの資金基盤における借入の重要な役割に鑑み、借入資金への自発的な貢献は、IMFのガバナンスの根幹であるクォータ・シェアにおいて正当に認知されることが不可欠です。

 次に世界銀行グループに対する期待を申し上げます。

 世界は多様で複雑な開発課題を抱えており、世界銀行に対する期待は高まっています。こうした中、二期目を迎えるキム総裁のリーダーシップの下、世界銀行が、「極度の貧困の撲滅」と「繁栄の共有」という二大目標の達成に向けて主導的な役割を果たすことを求めます。

 世界銀行の役割に関する中長期的なビジョンを示すForward Lookについては、危機への予防及び備え、危機発生時の対応に包括的にアプローチすることの重要性や、IBRDが深刻な貧困問題に直面する低中所得国向けの資金配分を強化する方向性等が示されたことを高く評価し、その着実な実施を求めます。IBRDの増資については、IBRDに求められる役割や金利引き上げ等の収益改善策などを踏まえつつ、検討することが必要と考えます。

 次に、動的計算式について、合意に至ったことは重要な前進であり歓迎しますが、合意された計算式をどのように活用し、選択的増資を実施するのかという、より重要な課題が残されています。投票権の再調整を前進させるためには、非常に幅広い支持が不可欠であることを踏まえ、日本としては、急激なシェアの変動を、増加・減少の両方向について回避するための具体的な手段を講じることを求めます。

 また、現在交渉中のIDA18については、イノベ−ティブな金融手法である市場借入を新たに導入すること、そして自然災害や公衆衛生危機への予防・備えの強化を重点政策とする方向で議論されていることを歓迎します。今後の議論では、IDA卒業国に対し実践的かつ十分な移行支援を講じることなどを求めます。日本としては、低所得国支援に果たすIDAの重要性に鑑み、引き続き相応の貢献をする考えです。

 今後とも、世界は様々な開発課題に直面すると見込まれますが、日本としては、自然災害やパンデミック、難民といった広範な危機への予防・備え・対応、そして質の高いインフラ投資等の様々な分野において、世界銀行と連携して途上国支援に貢献する考えです。


3.結び

 IMF及び世銀グループがこれまで果たしてきた大きな役割と国際社会に対する多大な貢献に敬意を表すとともに、今後も増え続けるであろう困難な世界的諸課題に対処し、強固で持続可能かつ均衡ある成長や貧困の削減の実現に尽力していくことを期待して、結びの言葉とさせていただきます。


(以上)