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12.3.21
国際機構課

アーキテクチャーについての黒田財務官ステートメント
<第6回マニラフレームワーク会合:平成12年3月20日 香港>
(仮 訳)

 

 前回のマニラフレームワーム以降、アジア諸国では、1997-98年の通貨・金融危機からの回復が加速し、持続可能な成長軌道への復帰が強固なものとなっている。アジア諸国には高度に訓練された人的資源と豊富な貯蓄があり、高い成長の潜在性がある。しかし、このような時にこそ、国際金融システム改革の手を緩めるべきではない。

● IMF改革

 IMF改革については、今春の一連の会合の主要議題となる見込みであるが、IMFは国際金融システムの中心に位置する機関であり、IMFの改革は21世紀型の危機の予防・解決に大きな威力を発揮する上で必要不可欠である。
 我が国はこれまで1IMFのサーベイランスやプログラムの力点を急激で大規模な国際的な資本移動への対応に置く、2構造政策への関与は危機の解決に直接関係のあるものに限定していく、3IMFの透明性の向上や政策決定手続きの改善を図る、など様々な提言を行ってきており、多くの点で進展が見られることを評価したい。
 最近強調されるようになっている通り、途上国や新興市場国の資金ニーズを満たすための民間資本市場の役割が重要性を増している。そのため、IMFの機能を基本的に民間金融市場へのアクセスを促進・触媒する方向で見直ししていくことは重要である。しかし、通貨危機が発生した場合に効果的に対応するために、国際的なセイフティネットの役割は依然として不可欠である。この観点から、IMFは、一時的な流動性不足に起因する危機の場合における国際的な「最後の貸し手」的な機能を維持・強化しなければならないことは明らかである。そして、そのために必要な財源を確保することは我々の責務である。
 また、我々は、そもそもIMFが通貨危機には至らないまでも国際収支困難に陥った加盟国が財政・金融政策を強化し、必要な構造改革を実施する場合、その努力を支援するいわば「信用組合」のような機能を果たすことを念頭に創設されたものであることを留意すべきである。IMF資金への依存が恒常化するようなモラル・ハザードは避ける必要があるが、適切な政策を前提に加盟国を支援する機能も引き続き重要であり、このような機能が危機時の最後の貸し手機能を有効に果たすための環境を整えているともいえる。
 この関連で、IMFの現在の役割により適合するように、その機能を改善するためには、IMFの融資制度を合理化・簡素化していくことが必要であろうが、いかにこれらの融資制度を利用、運用していくかも引続き重要な問題であることを強調しておきたい。IMF理事会等で、IMFの融資制度の見直し、IMF資金のセーフガードの強化、プログラム・サーベイランスの改善、手続きの透明性の向上、といった広範な分野において議論が進みつつあるが、相互に関連するこれらの課題について一貫性がある形で慎重に検討が進められることを期待している。
 なお、この機会にIMF改革の一環としてクオータ配分の見直しを行うことの重要性を指摘したい。最近、我が国は専務理事の後任候補として榊原前財務官を推薦したが、これは、IMFが真にグローバルな機関になるために、出身地域によらず、IMFを正しい方向に導いていく本人の能力に基づきそのリーダーを選んでいくべきであるとの我が国の立場を反映するものであった。新専務理事についての国際的なコンセンサスの形成に資する観点から、我が国は先週、同候補の推薦を取り下げたが、その際に宮澤大蔵大臣は、世界経済の変化を反映したクオータ配分の見直しが急務である旨を明確に述べた。IMFが創設されてから半世紀以上を経て、多くのアジア諸国が大きな経済力を付けてきているにもかかわらずアジア諸国の投票権、理事数は非常に限られているという現実がある一方、例えばIMFの投票権の37%が欧州選出(ロシアを除く)の理事によって代表され、また、24名の理事のうち8名が欧州出身であり、しかもそのうち7名は単一の経済共同体を代表している。我が国は、IMFの加盟国がクォータの再配分について早急に検討する必要があると考えている。

● 国際基準等の促進

 IMFは基本的にマクロ経済問題を扱う機関であるが、加盟国の金融セクターの強化を図っていくことや、国際的な基準に即した政策運営を推進していくこと、更にはデータ公開を含めた透明性の向上を促進していくことは、IMFの重要な機能となりつつある。
 一方、主要な国際基準はBIS、IOSCO、IAIS等様々な基準設定団体によって設定されており、総合的なモニタリングやアセスメントのための適切なアレンジメントが必要である。こうした点から、財政や金融セクター、データ公開に関するIMF自身による基準の実施・評価をIMFが自ら行うとともに、モジュールアプローチを通じ、他の国際機関によって設定された各国際基準のモニタリングやアセスメントについてもIMFが中心となって調整していくことが重要であると考える。モジュールアプローチを進めていくにあたっては、IMF内に調整ユニットを創設し、IMFと世銀その他の基準設定団体との緊密な協調の下にこうした作業を迅速かつ効率的に行うことも一案である。
 国際基準を実施するにあたって、新興市場国や途上国において人材や資金等が不足しているならば、IMFや世銀が率先して、積極的に技術支援等を行っていくことが必要である。その際には、国際基準のモニタリングやアセスメントについてだけではなく、国際基準を実施するためのキャパシティ・ビルディングについても注意深く焦点を当てた支援を行っていく必要がある。こうした技術支援に係るコストは、一度危機が発生した際に国際社会が受けるダメージと比べるとはるかに小さいことを肝に銘じつつ、国際社会はこの問題に取り組んでいくべきである。
 なお、国際的に合意された危機の予防策が実際に効果を上げるためには、各国自身が自らのオーナーシップに基づき、着実に具体策を実施していくことが最も重要である。国際基準を促進していく上で、総合調整機関としてのIMFの役割は大きいものの、国際基準を実施していくのは最終的に各国当局の責務であることは言うまでもない。

● ヘッジファンド等への対応

 金融安定化フォーラムで作業が行われている諸課題についても大きな注意を払うに値する。特にヘッジファンド等高レバレッジ機関(HLIs)作業部会においては、1取引相手である金融機関側のリスク管理強化、2これに対する監督当局の監督の改善、3HLIs自身のディスクロージャーの向上に関する様々な方法、4ポジション規制等直接規制の可能性など、様々な角度からHLIsに関する問題についての検討が行われてきた。更に、ヘッジファンドの活動と特に新興市場に対するその影響について、上記作業部会の市場ダイナミクスの研究部会によって調査が実施された。
 我が国としてはこうした検討も踏まえて、HLIs等国際的に活動する投資家の行動を引続き注視し、必要ならば適切な措置について検討していくことが重要であると考えている。新興市場国は国内金融システムを強化する必要があるが、投機家のオペレーションを許すような十分な市場の規模を有しつつも投機家からの影響を受け易いような規模の開放経済は、自己防衛策を採り、市場の健全性を維持することは当然である。例えば、市場操作が疑われる場合などには、HLIs等の大規模投資家に対し直接当該市場における活動について報告を求めたり、場合によっては香港、マレーシアにおける例のように「ノンスタンダードな政策」を採ることも正当化されるべきと考える。
 今週末に完成するHLIsに関する金融安定化フォーラム報告書の勧告が、資本移動、及び、オフショア金融センターに関する他の2つの報告書の勧告とともに、完全に実施される必要があることを強調したい。

● 結語

 国際金融システム強化に向けた国際社会の努力は重要な意義を有しており、昨今の国際金融市場の安定もこうした努力に負うものが大きいと思われる。ただし、情報技術革新、国際金融取引の自由化やグローバリゼーションが進む中、大規模かつ急激な資本の移動により生じる危機のリスクを完全になくすことは不可能である。我々は国際金融システム改革やマニラフレームワーク等の地域的な金融協力の強化を通じて、危機予防のための、また危機が発生した際には迅速かつ適切な解決策を見出すための努力を引続き強めていかなければならない。