経済成長による財政収支の改善
経済成長すれば増税しなくても財政再建は可能という説がありますが、どのように考えていますか?
ご質問にお答えいたします。
- 社会保障と税の一体改革等による財政健全化と、成長のための施策は、一体として進めていく必要があります。経済成長については、政府としては、「新成長戦略」等において、2020年度までの平均で名目成長率3%、実質成長率2%程度を政策努力の目標として掲げ、様々な施策に取り組んでいるところです。
- しかし、高い経済成長を実現し、税収が増加したとしても、 (1) ただでさえ高齢者数の増大により毎年1兆円の自然増が見込まれる社会保障費等に、成長に伴う物価上昇などのためさらなる増加圧力がかかること、(2) 名目成長と同時に国債金利も上昇するが、現在の債務残高は既に巨額に達しているため、国債の利払費が急速に増大することなど、成長に伴って歳出も増加することに注意が必要です。歳出が約90兆円に対して税収が約42兆円(平成24年度一般会計予算)と、歳出規模が税収を大きく上回る現在の財政構造のままでは、場合によっては歳出の増加が税収増を上回ることも考えられます。そのため、社会保障の効率化や税制改革により、こうした財政構造の是正を同時に図らない限り、経済成長のみによって財政収支を持続的に改善することは困難です。
(参考1)平成25年度以降金利が変化した場合の国債費の増減額の試算(単位:兆円)金利(前提からの変化幅) 平成25年度 26年度 27年度 +2% +2.0 +4.9 +8.3 +1% +1.0 +2.4 +4.1 ▲1% ▲1.0 ▲2.4 ▲4.1
◆動画で見る財政の今と未来:もし金利が上昇したら?
(参考2)名目成長率が平成24年度に1%上昇した場合(長期金利は0.55%上昇)の税収及び国債費に与える影響の試算(単位:兆円)平成24年度 25年度 26年度 税収増加額 +0.5 +0.9 +1.4 国債費増加額 +0.6 +1.4 +2.3 差額 ▲0.1 ▲0.5 ▲0.9
(参考3)内閣府試算(平成24年1月)によれば、2011〜2020年度の平均成長率が名目3%、実質2%となる「成長戦略シナリオ」でも、国・地方の公債残高の対GDP比は増加を続けることとなります。[画像をクリックすると拡大できます]
- なお、近年の税収弾性値は高くなっており、経済成長により大幅な税収増が見込めるとの指摘もありますが、比較的安定的な経済成長を実現していたバブル期以前の平均的な税収弾性値は1.1です。研究者の分析では、近年は分母である成長率がゼロ%前後であることなどから数字が大きく振れやすくなっており、所得税の累進性が緩和されてきたことや、比較的弾性値の低い消費税のウェイトが上がってきていること等を踏まえれば、本来の税収弾性値は低下傾向(1強程度)と見られています。 (注1)税収弾性値とは、経済成長に応じて税収がどの程度増加するかをあらわす指標で、具体的には、税収の伸び率を名目GDP成長率で除して算出されます。(注2)2001年から2009年までの各年の税収弾性値を単純に平均すれば4との試算もありますが、これは、税収伸率▲2.7%、名目成長率▲0.7%というマイナス成長下での数値です。しかも、例えば2002年11.2(税収▲8.6%、名目成長率▲0.8%)といった異常値も含んでいます。