国の債務管理の在り方に関する懇談会(第45回)議事要旨
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1 | .日時 平成29年10月18日(水)10:00~11:30 | |
2 | .場所 財務省 第3特別会議室 | |
3 | .内容 | |
| 1.国債管理政策の現状 ・国債管理政策の現状(資料①(PDF:3511KB) ・参考資料(資料②(PDF:1950KB) ・吉野委員意見書(資料③(PDF:191KB) 2.決済期間の短縮化について(報告) ・決済期間の短縮化について(資料④(PDF:406KB) | |
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1.国債管理政策の現状について
▶ 国債管理政策の現状について、理財局から以下のように説明を行った。
(中長期的な需要動向を踏まえた国債発行)
・ 従来から、理財局は、「確実かつ円滑な国債発行」と「中長期的な調達コストの抑制」を、国債管理政策の基本目標としており、「市場との対話」を通じて市場ニーズに即した発行を行ってきた。もっとも、市場ニーズに即した発行といっても、一時的・短期的な需要の変化に過度に対応すれば、市場参加者の予見可能性を損ない、調達コスト増となったり、市場に歪みが発生する恐れがある。したがって、中長期的な需要動向を見極めつつ、より安定的で透明性の高い国債発行を目指すことが重要。
・ これを踏まえ、中長期的な需給動向を分析した。供給側では、近年、低金利環境の下で、将来の金利上昇リスクを抑制するため、短中期債の発行額を減額し、超長期債の発行額の増額を行ってきた。その結果、超長期債の国債発行残高は顕著に増加する一方、中長期債の残高増加は低水準。
・ 現在の年限構成を継続した場合、超長期債の市中への供給が毎年度、償還分をネットアウトしても、相当規模で継続する。一方、中期債のみならず長期債についても、償還超になる年度も生じる傾向が続く。
・ 需要側では、中短期債の主な投資家である銀行と、超長期債の主な投資家である生命保険会社の動向を分析した。
・ 銀行について見ると、大規模な金融緩和状況の下、預金流入が増加。一方、貸出はそこまで伸びず、預貸率は低下。そうした中で、国債の残高を落としているため、結果として、日銀当座預金残高が増加。近年、中期債・長期債の残高が微増に留まっているが、その裏側で、主要投資家である銀行が国債の残高を落としていることで、需給がバランスしていたことが窺える。
・ ただし、銀行の国債保有は、足元で残高減少が下げ止まりつつあるようにも見える。担保需要等により、銀行の国債保有残高の減少には限界があるとの指摘もあり、今後の中期・長期ゾーンの需給を考える上で、銀行の資産構成がどう変化するかを見極めることが重要。
・ また、都銀・地銀とも、平成26年度以降、利回りを求め、超長期債の保有を増やしてきたことが超長期債の需給を下支えしていた。ただ、都銀等は、銀行勘定に対する金利リスク規制導入を見据え、足元では、超長期債の残高を落とし始めており、1年遅れで適用になる地銀も追随する可能性。
・ 生命保険会社について見ると、平成20年度以降、国債保有残高を増やしつつ、残存期間の短い中・長期債から超長期債への入れ替えを平行して進め、資産を長期化。
・ 近年の超長期債の残高増加は、その裏で、主要投資家である生保が残高増加と超長期債への入替を進めてきたことで支えられてきたという構図。
・ ただ、ここ2~3年、超長期債の残高増加を支えてきた生保の国債保有残高の増加と長期化のための入替えがともに一服。この背景には、低金利下で負債とのマッチングを進めれば、逆ざやが固定化してしまうという事情があり、逆に金利が上がれば長期化のための入替えも再開する可能性。ただ、負債サイドとの関係では、残存の年限の短い国債も一定程度保有する必要もあり、今後の超長期債の需給を占う上で、今後の生保の負債サイドがどう変化していくかを見極めることが重要。
・ 生命保険会社の年換算保険料収入は順調に伸びている。一方、保険金等を控除した収支は7~8兆円程度で推移。また、昨年の金融レポートにおいて、金融庁は、今後の人口構成の変化により、保険加入の中核層である30~40歳代が減り、保険料のボリュームが縮小したり、終身保険から医療・介護保障へのニーズの変化をもたらす可能性があるという分析をしており、今後生保の負債サイドが質・量両面で変化する可能性も示唆。
・ 以上のように、近年、銀行が国債保有残高を減少させてきた一方、生命保険会社は超長期債の保有残高を増加させてきたことが、結果として、供給側の超長期債の残高の顕著な増加等と整合していたが、今後この構図が変化する可能性がある。
・ 「より安定的で透明性の高い国債発行」を目指すのであれば、中長期的な投資家の動向を見極め、それと整合的な年限構成としていくことが望ましい。
(国債市場の流動性の向上)
・ 国債市場の流動性も、もう1つの重要な論点。日銀が実施したアンケート調査では、引き続き、市場参加者から、市場の機能が低下しているとの懸念の声がある。
・ また、特定銘柄の需給が逼迫することもある。要因の1つは、市場への供給がカレント債中心である一方、日銀がオフザラン銘柄も含んだ買入れを行っているため、銘柄によって需給が偏り得ること。
・ 発行当局としては、オフザラン銘柄をニーズに応じて追加発行する「流動性供給入札」に注力してきた。近年、その発行額を増加させ、対象銘柄も拡大している。「流動性供給入札」については、市場の状況に応じて四半期ごとに、市場関係者との意見交換を踏まえ、各ゾーンの発行額を決める仕組みとなっている。発行当局が市場流動性向上を行うものとして、この機動的な手段は、今後ますます重要になると考えている。
▶ メンバーから出された意見等の概要(当局においてとりまとめ)は以下のとおり。
・ 現時点で金融政策の出口の議論は時期尚早と言われるかもしれないが、欧米は、既に金融緩和政策の縮小に向けて動いており、日本も、いずれかのタイミングで出口を迎えることについて常に頭においておくべき。今の金融市場は、日本銀行の異次元の金融緩和とイールドカーブコントロールにより、麻酔を打たれている状況だが、金融緩和が出口を迎える際は、1980年代とは違った意味で、第二の金利自由化・市場化を体験していくことになる。
理財局から説明があったように、今後、金融機関がIRRBBによる規制を受けるなど、国債の保有構造がダイナミックに変わり得るため、その変化への対応をこのような場で議論していくことは重要。また、コンティンジェントな事態が起こった際にも常に対応できるよう、財政当局、日本銀行、市場が一体となって準備をしていく体制が必要。
・ 資料①(PDF:3511KB)における銘柄別の国債発行残高の将来推計では、超長期債の増加が目立つが、実態の見方は色々あり、例えば、残存期間別で分析をしている資料②(PDF:1950KB)
の方で見れば、少し違った様相に映るのではないか。
生命保険会社の運用原資としては、保険関係収支のほかに、償還資金もあるため、運用の規模感としては、年換算保険料が近いと感じる。
また、金融庁の分析のとおり、少子高齢化に伴い、生命保険会社の保障性商品の需要は減少する一方で、貯蓄性商品の需要が増えることが見込まれるのは確か。ただ、貯蓄性商品の中には、終身タイプのものもあり、また、今後とも死亡率が低下していけば、これまでと違った形で資金需要が出てくる可能性もあることから、必ずしも、負債のデュレーションが大きく短期化するとも限らないのではないか。さらに、現在も、生命保険会社は、資産より負債のデュレーションが長い構造となっており、金利低下局面では金利リスクが顕在化するため、デュレーションギャップを埋める観点から、現下の低金利状況においても一定の超長期債への需要はある。
・ 現在の日本銀行の国債買入ペースでは、2019年にも日本銀行の国債保有割合が5割を超えると試算できる。戦後の諸外国においても、中央銀行の保有割合はせいぜい2割程度であったことに鑑みても、現在の日本は、前例のない状況になっており、将来金融政策が抜本的に変化する時への対応は、従来と違うレベルで考えておく必要がある。
各金融機関のレベルでも検討されているだろうが、当懇談会の場においても、頭の体操をしておいた方が良いと思う。
・ 黒田日本銀行総裁は、9月21日の金融政策決定会合後の会見で、国債市場の流動性はむしろ高まっているといった内容の発言をしていたが、この趣旨如何。
→(日本銀行より説明)日本銀行としても、市場関係者から流動性低下を懸念する声を聞いている。一方で、当行で参照している流動性に関する様々な指標の中には、むしろ改善しているように見える指標もある。市場関係者の感覚と実際のデータが乖離することもあるため、今後も注視していくこと、また、こうしたことを踏まえて市場参加者との対話をしっかり行っていきたいという趣旨で申し上げたものである。
・ これまでは、政府の債務の長期化は、当局にとっては借換リスクが抑制され、また、投資家にとってもより高い利回りを求める需要が満たされ、一定のメリットがあったと考える。しかし、最近は、海外投資家やHFT(高頻度取引)のプレゼンスが高まっている一方、人口減少に伴い将来的な国内需要は低下が見込まれており、バランスよく発行をしていくという方向に転換していくべきタイミングがいずれ訪れると考える。
また、金融政策の正常化に向けて、国債管理政策として本質的に重要なことは、財政の健全化である。市場機能が麻痺しているのみならず、昨今は、財政規律を重視する論調も減っており、ゆゆしき事態だとの印象を抱いている。
・ 銀行の国債保有残高の減少が担保需要等により下げ止まっているとの分析に違和感はないが、中期債といっても、クロスカレンシーレポも含めた銀行の担保需要は5年債で賄われることは少なく、2年未満の国債を用いることが大半である点は留意すべき。
また、9割以上を国内投資家が保有する現在の日本国債の保有構造では、取引が一方向に傾きやすいため、海外保有率を高めるという観点から、日本国債の「国際化」を推進すべき。
さらに、決済時間や適格担保としての取扱い等の課題を解決していくことで、日本国債のリユース価値を高め、海外投資家を安定的な消化先としていくことができるのではないか。
・ 足下では減少傾向にある借換債の発行額も、5年、10年したら増やさざるを得ない見通し。IRRBBの規制の下でもまだ量は買えるかもしれないが、金融政策が出口に向かうようになれば、海外投資家に消化を頼らざるを得ず、相応の追加リターンを要求されることになるだろう。
また、人口構成の変化により、生命保険会社に集まる資金の減少が予想されるのであれば、新しい切り口でニーズを作っていく必要。結局のところ個人に資金があるのだから、個人の国債保有を促進していくことも一考に値するのではないか。
・ 国債市場における予見可能性は非常に重要との理財局の説明に賛成。ECBやFRBは、原則を事前にアナウンスするなど、予見可能性を高める取り組みをしている。我が国においても、予見可能性の向上に努めてほしい。
・ 多少乱暴な議論になるかもしれないが、当局が発行した国債の多くを日本銀行が当座預金を原資に買っている現状は、同じ政府の中で資金を回しているに過ぎず、発行年限の長期化を進めても、日本銀行を含めた政府全体で見ると、長期化は図られていない状況とも言える。
足下では、生命保険会社に超長期債を消化する余力があることから、むしろ、超長期債を積極的に発行し、その間に財政の健全化を進めていくこととしてはどうか。
・ 市場環境の変化に対しては、流動性供給入札を用いて柔軟に対応しつつ、カレンダーベースでは安定的に発行するという理財局の方針については全く異論はない。
その際、金利が元の水準に戻った場合でも、IRRBBの導入等の環境変化の結果、国債の需要が元の通りに戻るわけではないセクターがあることも踏まえて考えていくべき。海外、個人、年金等、それぞれの投資家層の構造変化を捉えた需要調査を行う必要がある。
また、「貯蓄から投資へ」を目指すべきというが、今の低金利の状況では、個人に提供できる低リスク低リターンの商品がなくなってしまっている。個人のリスクの取り方や、どのような商品を売っていくことができるのかについて、考える必要がある。
・ 国債管理政策は、理財局の説明にあった通り、中長期的視点に立って考えることが重要だ。一見矛盾するようであるが、安定発行を続けるためには、同時に、柔軟性を確保することも大切である。そのため、引き続き、流動性供給入札を積極的に活用してほしい。
国債市場の根本的リスクは財政の信認である。将来、日本銀行が出口に向かうときに、財政の健全化ができていることが重要。仮に、財政健全化目標の達成時期が変更されることになっても、達成の方針自体は維持し、そのための具体的な方法を明確に示すことが必要。
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・ デフレから脱却し、日本銀行の金融政策が変化することを見据えて、政府の債務のデュレーション政策を考えなければならない。
財政再建のためには、生産性の向上が必要となることから、デュレーション政策が生産性に与える影響も考えなければならないのではないか。例えば、金利が上昇すれば、資本効率を高める必要があることから、現状においては、金利上昇は労働生産性にはプラスに働くのではないか。
また、本日の議論では、足元では長期化も可能だが、いずれは短期化しなければならないという意見が多かったかと思う。この点について、自分は、海外投資家から、日本の財政規律についての問い合わせが増えていることもあり、将来的に政府の債務を短期化することになるのであれば、今から債務の長期化の方針を見直すべきだと考える。
・ 国債は、イールドカーブ全域にわたって発行されることで、様々な投資家のニーズに応えるとともに、民間の社債等のベンチマークの役割を果たしており、いわば公共財としての役割を担っている。このような観点から、以前アメリカのゲンスラー財務次官補は、国債管理政策の基本的目標として、資料①(PDF:3511KB)の2ページに掲げられた「財政資金の調達」と「中長期的コスト抑制」に加えて、「効率的な資本市場の形成」を挙げていた。
また、財政への懸念の声が、金利に反映されない状況において、債務の長期化を行うことが何を意味するかを考えるべき。目先の低金利を理由に、機会主義的に債務の長期化を行えば、政府が財政健全化を放棄したとのシグナルとも捉えられかねない。
2.決済期間の短縮化について(報告)
▶ 最後に、決済期間の短縮化について、理財局から以下のように説明を行った。
・ 前回(5月)の本懇談会においてご説明した、国債の決済期間の短縮化に関する検討の結果について、簡単にご報告申し上げる。
・ まず、今回の検討の背景についてご説明する。資料④(PDF:406KB)P1にお示ししているとおり、入札から発行までの期間が長くなっている国債について、決済リスクを低減するという観点から決済期間を短縮してほしいという要請を受けて、検討してきたもの。
・ 今回の見直しについては、P3の表の右上にお示ししているとおり、流通市場における見直しに合わせて、平成30年5月からの実施を予定している。具体的な制度設計としては、太枠内にお示ししているとおり、3・6・9・12月に発行する5~30年債については、原則に合わせてT+1、つまり入札の翌営業日に発行することとし、2年債については、現在の入札日の設定状況を踏まえ、入札翌月の1日に発行することとした。
・ 当局としては、今後も市場関係者と協力して、決済期間の短縮化を円滑に実施してまいりたい。
(以上)
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