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 序 論

 アジア諸国、その中でも「四匹の龍」と呼ばれる香港、韓国、台湾、シンガポール、及び、東南アジアの「新興市場経済」に数えられるインドネシア、マレーシア、タイは、1965年から90年にかけて「奇跡ともいえる成長」を遂げた。これらの国々は、成長の果実を分配することにもおおむね成功し、加えて元々他の途上国と比較して低かった不平等度を更に低下させてきた、と高い評価を勝ち得てきた(93年8月、世界銀行「東アジアの奇跡」)。90年代に入っても、これらの地域は総じて高い成長を維持し、94~95年のメキシコ通貨危機も波及を心配されたが乗り切り、「世界の成長センター」とまで言われるようになっていた。そしてこのような成長をもたらした背景としては、勤勉な質の高い労働力、高い貯蓄率、日本をはじめとした先進諸国からの直接投資等があった。
 しかしながら、97年7月タイに端を発した通貨・経済の混乱は、南はインドネシアから北は韓国にまで、その程度は異なるものの波及し、アジア諸国の経済は瞬く間に大きな試練に直面することとなった。これにより、これまでは成功のかぎとされていた経済の制度までが問題とされるに至っている。また、これら地域が世界経済に占めるウェイトが高まってきていたことを反映して、その経済的混乱は我が国を含め世界経済全体にも少なからぬ影響を与えている。今回のアジア通貨危機は、金融・資本市場のグローバル化や巨額の資本移動を背景として生じ、市場参加者の投資環境の評価(パーセプション)の変化が民間資本フローの急激な逆転をもたらしたという特徴を持つことから、21世紀型通貨危機とも言われている。
 この通貨・経済の混乱の過程で、国際金融機関(IFIs)や日本をはじめとする先進諸国の支援が行われたが、今回の危機が大方の予想を超える規模と広がりを持つに至ったことから、その支援の在り方についても様々な議論がなされている。
 他方、アジア地域は、人口が増大していること、インフラ整備もなお必要であること等の状況にかんがみると、持続的な成長を回復していく必要があることは言うまでもない。
 このような中でアジアにおいて最大の経済力を有し、同地域に経済面ばかりでなく政治面、文化面でも深いつながりのある日本は、これまで通貨危機に見舞われた国々に対し二国間としては最大の支援を行うことをはじめ、国際的な支援体制の構築においてもリーダーシップをとってきた。アジア地域が今回の危機を克服し、今後持続的かつ安定的な成長経路に復帰し、その生活水準の向上を図っていくことは、我が国経済にも大きな影響を与えるものである。アジア地域の動向は、我が国にとっても最大の関心事項となっている。
 本部会では、以上の問題意識を踏まえ、今回の通貨危機の原因、背景及びそれが提起している課題を分析し、今後再びアジア地域が持続可能な成長経路に復帰するために取り組まねばならない問題、及び、将来の危機に備えてなすべき課題につき、議論し取りまとめを行った。

(注)本報告において「アジア」という場合、北は韓国から南はインドネシアに至る太平洋沿岸の東アジア地域を念頭においている。


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