関税・外国為替等審議会
第36回外国為替等分科会議事録
平成29年6月12日(月)
財務省 国際局
於 財務省第3特別会議室
(本庁舎4階)
午後3時00分開会
○小川分科会長 それでは、ただいまより第36回外国為替等分科会を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、御多用中のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。
本日は、プレゼンターとして、日本銀行より山岡決済機構局長をお招きしております。よろしくお願いいたします。
まず、ペーパーレス化の一環で、お手元にお配りしているタブレットについては、今回よりタブレットPCに変更となっております。タブレット、PC、どちらの形でも御利用いただけます。また、紙媒体の資料を御入用の方は事務局までお申し付けください。
本日の議事に入ります前に、1月の第34回外国為替等分科会において武内局長より御説明がありました「外国為替及び外国貿易法の一部を改正する法律」につきまして、田中審議官より簡単に御報告をお願いしたいと思います。
それでは、田中審議官、よろしくお願いいたします。
○田中審議官 小川会長、ありがとうございます。
それでは、資料2でございますが、本年1月24日の当分科会におきまして、経産省が機微技術等の適切な流通管理の強化を内容とする外為法改正を検討しているという旨、御報告をさせていただいた件について、その後の動きを御報告させていただきます。
改正法案は今国会で審議されまして、5月17日に成立しました。この改正により、まず最初に「輸出・技術取引規制違反における罰則の強化」、2点目「輸出入規制における行政制裁等の強化」、3点目「対内直接投資規制の強化」が図られることになります。今後、施行に向けまして必要な政省令の改正を行った上で、1年以内に施行される予定です。
また、国会の法案審議に際しては、附帯決議において、我が国の対内直接投資規制の考え方が外国投資家に十分理解されるよう情報提供に努めるということが求められており、政府として適切に対応してまいりたいと考えております。
以上、報告でございます。ありがとうございます。
○小川分科会長 どうもありがとうございました。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。
本日は、武内局長より「円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討」について説明いたしました後、日本銀行山岡決済機構局長より「アジア・日本の成長と金融インフラ」について御説明をいただき、その後、質疑・自由討議の時間をおとりします。
まず、議題「円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討」に移らせていただきます。
それでは、武内局長よろしくお願いいたします。
○武内国際局長 国際局長の武内でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
資料3「円とアジア通貨の更なる利便性向上策の検討」を用意させていただきました。
なぜこのようなテーマを設定したかということでございますが、その問題意識について、最初に、資料の説明に入る前にお話させていただきます。
2つございまして、1つには、日本の企業の海外進出が拡大している中で、いま一度円の利便性というのをきちんと捉え直すことで、日本企業の海外展開の後押しをするための成長戦略が考えられないかということであります。「円の国際化」というのは、一時非常に議論が活発でございましたが、今振り返ってみると、結局のところ、政府が円の利用を民間主体に強制するわけにはいかないので、政府としてできることは、皆さんに円をお使いいただけるよう円の利便性を高めることが大事と思い直した次第であります。そのためにも、まずは円を取り巻く現状を把握した上で、何が仕掛かりつつあるのか、どのような動きがあるのか、更にはどういうことができるのかということを整理しようと思ったところです。もとより、この円の利便性の向上というのは、日本政府、財務省だけではなく、金融庁、それから日銀──今日は日本銀行の山岡局長にお見えいただいたのはまさにそういう観点からですが、更には民間の決済システムを預かっている方たちの御協力も要るわけです。まずはその辺りも含めて、円の利便性の向上を増すことによって日本企業の海外進出の後押しをするということに役立てないかという問題意識があります。
それからもう一つ、アジアの成長をどう日本が取り込んでいくのかという観点からも勉強する価値があると思っております。今後、アジアの成長が増していくにつれて、日本企業や日本の金融機関が、円のみならずアジアの通貨も使いたがるだろうということが予測できるわけでございますが、そのためには、円だけではなくてアジアの通貨の利便性の向上のために日本としてどのように協力できるのかを考えることが大事と思います。従来は、円の国際化ということで、円にだけスポットライトを当てて考えてきたわけですが、時代の流れとともに、円のみならずアジア通貨についてもその利便性の向上のために何ができるのかを考える機会としたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
目次をご覧いただきますと、本日の発表の全体像を示してございます。先ほど、アジア経済の成長を取り込むという話をさせていただきましたが、アジアとともに成長する日本経済の実態というものを一例に挙げて、その後、円の状況、アジア通貨を巡る状況、それから東京市場を巡る状況、それぞれを見た後、現在取り組み中の円とアジア通貨の利便性の向上策を取り上げ、最後に中長期的な課題、これは先行きが長い話がたくさんございますが、円とアジア通貨の利便性向上策としては、長い目で見てどのようなものがあるのかということを、この順番で紹介できたらと思っております。
それでは、早速3ページ、「アジアとともに成長する日本経済」ということです。
結論を先取りして申し上げますと、日本の経済の成長は今後とも対アジアの貿易・投資によって牽引されていく可能性が多い。それから昨今、日本企業のアジア進出のパターンが多様化してきている中で、きめ細かく成長戦略を考えていく必要があるだろうということを幾つかのスライドで見ていければと思っております。
最初のスライドは4ページですが、これはアジアとともに成長する日本経済を、日本の名目GNIと名目GDPの動向で比較したものです。GNIは、GDPに海外の所得の純受取を足したものですが、これをご覧いただきますと、名目GNIは名目GDPを上回る伸び率を示しております。2016年は円高もあって少しシュリンクした形になっていますが、実際問題としてGDPよりもGNIが今後増え続けると思われます。人口減少で潜在成長率が下がっている日本として、対外投資の拡大によってアジアの成長を日本国民の所得増につなげるという意味では、見逃せない一つの特徴と思います。
次のページ、この表では青色がいわゆる直接投資の収益を示したものです。ピンク色の証券投資収益に比べて、近年は随分少なかったわけですが、ここのところ、日本企業の海外進出を背景として、直接投資収益の受取が増加していることが見て取れると思います。
次のページでは、直接投資がどこから、どの地域から上がっているのかというのをご覧いただけるかと思います。これは、対外直接投資の残高について示しているグラフですが、2016年末では直接投資残高が154兆円ほどとなっております。
そのうち、アジア向け直接投資は、一番下の青色部分ですが、順次増えてきて、対外直接残高の割合に占めるアジア向けにつきましては、青い線をご覧いただくと、かつての2割弱から今では3割近くまで上がってきていることが見て取れます。これから先もアジア向け直接投資が大事ではないかと思っております。
次のページは、これだけ長い年月をかけて日本企業がアジアに進出しているわけですが、もう少しパターンを見てみるとどうなのかということで、3つのパターンを挙げさせていただいております。
類型化を試みたわけですが、一番上が従来からよく見られているところの「グローバル輸出加工型」ということで、電気機器や家具のように日本や中国から部材を輸入して、アジアの現地拠点の工場を使って物を作って、それを最終的な輸出先国である日本、米国等の先進国へ輸出する形態であります。このパターンでは、最終消費地が米国等の先進国であるために、ドルが使われることが今までは多かったということが言えるのではないかと思っております。
次に、最近は、アジアの経済成長に伴い、いわゆる「内需志向型」がパターンとして出てきております。すなわち、現地で生産した完成品を現地で販売するということで、このパターンでは仕入れにドルが使われることも多いと思いますが、収入は現地通貨となります。ここでは、現地通貨の果たす割合が非常に大きくなってきているところです。
最後に、これも最近新しく見えているものですが、電子部品やバルブの継手等における「日本再輸出型」と類型されるものです。これは、日本から輸入した部材を現地で加工した上で、完成品を再び日本へ輸出するパターンです。企業などへヒアリングをしますと、ベトナムなどではレンタル工場のように初期投資を抑える仕組みが出来てきており、こうしたパターンで、実際日本から物を運んでアジアで組み立てて、また日本に輸出するというものが出てきております。これにつきましては、輸出先が日本ですので、円を使うことが割合としては多くなってきているところです。従来のグローバル輸出加工型ではどうしてもドル依存が多かったものの、2の内需志向型、3の日本再輸出型の割合が増えるのに伴い、ドル以外の通貨、現地通貨あるいは円の使い手も出てくるかと考えられております。特に3つ目のパターンでは、円の海外送金の利便性を高めるニーズがあると思っております。
以上がアジアとともに成長する日本ということでございますが、次は、円を巡る状況、アジア通貨を巡る状況、東京市場を巡る状況を順次見ていきたいと思います。
まず、円を巡る状況でございますが、大企業と中小企業とで円の使用の選好等が異なってくるのではないかということが一つ。それから、日本国債の海外保有、外貨準備における円の増大等においてグローバルな円の役割が拡大し得るであろうということをお示しできたらと思います。
まず、8ページでございますが、円の利用状況について。
上の方が貿易取引に占める円建ての比率です。赤いドットが円でございますが、輸出では大体4割弱、輸入では2割強程度、アジア向け輸出においても大体4割台ということで、正直申し上げまして、これを見る限りは、あまり円が上がってきている状況ではありません。そういう意味では残念な状況にあるわけですが、他方で、信用金庫へヒアリングをしますと、顧客の貿易取引では、輸出の場合には7割が、輸入の場合には3割が円建てとなっており、日本全体の平均値よりも明らかに高いことが伺えました。普段からドルを扱っていない中小企業においては、国際取引においても円の使用を選好するということは自然なことと考えられますので、円の利便性を考える上ではこのようなニーズにも着目していく必要があると思います。これは鶏と卵ではないですが、もう少し円の使い勝手が良くなれば中小企業ももう少し積極的に展開するかもしれませんので、そのような意味からも諦めずに、もう少し上手く円の利便性を高めることが大事ではないかと思います。
実際、円がどのようなところで未だ不自由なのかということでございますが、次のページ、金融機関から幾つかお話を聞いてまいりました。円建て送金の制約ということで、アジアにおける円建て送金の状況を見てみると、アジアで円建てで送金を一日で完結させるには制約が非常に大きいということがコメントとして多く出されました。例えば、インドネシアとベトナムの例を挙げておりますが、インドネシアでもベトナムでも、当日中に送金を完了させるためには、現地時間では午前10時とか、午前11時までに決済をする必要があり、実際、それが遅れてしまうと2日かけないと送金ができないことが多いという声がございました。
他方で、企業の資金効率の向上や急ぎの円資金への対応を考えると、円の即日着金のニーズは高いとのことで、円送金の迅速化をどうすれば早めることができるかというのは一つの課題と思っております。
次のページ、これは必ずしも円自体ではございませんが、日本国債の海外保有の進展です。日本国債の海外保有残高は、IRの結果もあり、113兆円まで増えてきております。2010年の57兆円に比べれば、113兆円と倍近くなっているわけですが、ここのところの伸び率を見てみると、もう少し頑張ることが出来ても良いのにと思います。さはさりながら、じりじり増えてきているところは増えてきています。日本国債のグローバルな活用の可能性をどうやって図っていくのかというのも一つの大事な課題かと思っております。これも後で出てくる方策の一つの中に入っております。
その次、先ほども申し上げましたが、外貨準備に占める円の割合について。これも3.7%から4.2%ということで、頭打ち感はありますが、そうはいっても少しずつ増えてきているので、これも頑張って増やしていく必要があると思っております。 最後に、円を巡る状況ということで、もう一つ申し上げさせていただきたいのですが、13ページ、円とドルのベーシスコストの推移を挙げさせていただいております。マーケットが荒れていきますと、このドル/円のベーシスが高くなってくるわけです。私ども邦銀の方々からもお話を聞くわけですが、何かショックがあった際には必ずドル/円のベーシスポイントが跳ね上がる。つまり、邦銀がドルを調達するのに非常に苦労するわけです。これは、現在は足元では、32ベーシスポイントですので非常に落ち着いていますが、ある意味、円の国際的な通貨としての脆弱性というか、危機になった瞬間から円が欲せられなくてドルが欲せられるということの裏返しと思っています。逆に言うと、円の利用が高まれば、このベーシスポイントが、コストが、そんなにボランタリーになることもないと思っておりますので、この辺りについても着目していく必要があると思っております。
以上が円を巡る状況です。
次が、14ページ「アジア通貨を巡る状況」ということで、先ほどアジアはアジアで成長していると申し上げましたが、その裏返しとして、アジア各国はアジア各国で、他力本願ではなくて、つまりドルや円に頼らずに、自国の現地通貨を大いに使おうという試みが幾つもあります。そういった中で、日本企業、日本の金融機関にとって、アジアの現地通貨とどのように関わっていくかは一つの大きな課題かと思います。
また、日本は今インフラ輸出を一生懸命取り組んでおりますが、インフラ・プロジェクトを進めるに当たっても、現地通貨建ての長期融資や資本市場の発展等が必要となります。そこで、アジアの経済成長を日本に取り込むためにも、更には日本の企業・金融機関がアジアで活躍するためにも、アジア通貨を巡る状況について一通り見ていきたいと思い、このチャプターを用意いたしました。
15ページをご覧ください。先ほどアジア各国は各国で一生懸命、アジアにおけるドル依存脱却の動きをしているということを申し上げました。ここには、インドネシア、マレーシア、ベトナムの例を挙げさせていただいております。例えば、インドネシアにおいては、国内決済におけるルピア使用を義務化、2015年7月から施行しております。マレーシアにおいても、これは2016年12月、輸出代金の75%のリンギットへの両替義務化や、国内取引におけるリンギットの使用義務化などがイニシアチブの中に盛り込まれております。ベトナムについても、2011年以降、ドル預金金利を順次引き下げて、2015年にはゼロ化する、あるいは、ドル以外の通貨建ての価格表示をしたら罰金を科す等、かなりドラスチックに自国通貨を使うようにしようとしております。
これは、それぞれの国の中でとどまっているわけではなく、次のページにありますように、国境を超えて、ASEANの国々の中で現地通貨決済の促進の動きというものが見られております。貿易においても、自国通貨での決済を推進しようというものです。その場合には、相手国の協力も必要ということで、例えばタイとマレーシアでは二国間の現地通貨建て決済促進のための枠組み(Local Currency Settlement Framework)を2016年3月に発表しています。その中では、資料にも記載がございますが、両国でそれぞれ3つの銀行を指定して、指定された銀行は、両国いずれの通貨でも預金の受け入れをする、貿易金融及びヘッジ商品の提供を可能とするということです。例えば、マレーシアリンギットについては、現在国外でリンギット建ての預金や金融取引のサービスが提供できないというのが原則ですが、このLCSFの指定銀行はタイ国内でそのようなサービスができるようになるということで、規制の風穴を3つの銀行について開けることによって、タイとマレーシア間の資金のやりとりの風通しの良さを図っているということです。この試みについては、インドネシアも参加する動きがあるということで、このままいくと徐々にASEAN各国の中で資金が自由に行き交い、それぞれの現地通貨で決済ができるようになっていくという動きが出てきていることが伺えます。
そのような中で、日本はどうかですが、17ページをご覧いただきますと、日本の企業も、日系の中堅・大企業、中小企業へのアンケートを見ますと、国際通貨決済額全体におけるアジア圏の通貨、決済額のウェイトというのは、最近5年間で上昇したとする企業が約4割弱に上っており、日本企業のアジア通貨での決済のニーズは段々と高まってきております。 実際、それに応えている例もありまして、資料の下半分に、ある信用金庫と地場銀行との例を掲げております。アジアに進出した中小企業が地場銀行から現地通貨を借り入れようというニーズがあって、それに応えるために、日本の信用金庫が地場銀行に対して、その地場銀行からの借り入れに対して保証をすることで、個々の企業が現地通貨を調達することを支援しているということでして、アジアの成長を日系の中小企業が取り込み裨益するためには、こういった形でのアジア通貨の利便性の向上を側面からサポートするのが大事ではないかということもうかがえる一つの例と思っております。
では、日本政府関連では何ができるのかということで、まず、JBICによるアジア現地通貨建ての出融資の話を18ページに掲げております。JBICは日本企業の海外展開事業に対して、アジア現地通貨建てでの出融資を実施してきましたが、昨年の法改正で一歩踏み込み、途上国向けのインフラ事業等で需要の動き、現地通貨建て出融資を促進するべく、JBIC自体が現地通貨の調達方法として、民間銀行から現地通貨建ての長期借り入れをすることができるようになっております。資料の図でお示しすると、左下の方で、JBICがタイの現地金融機関からタイバーツで長期で借り入れることができるようになったということです。その長期で調達したタイバーツをインフラのために融通することができるということで、右側のグラフにありますように、JBICのアジア通貨建ての出融資実績も、金額ベースあるいは件数ベースで、かなり伸びてきております。
以上がJBICの取組でございますが、現地通貨の調達というのはなかなか各国苦労しております。次のページでは、日本のメガバンクの取り組みを参考でまとめております。ここでは韓国の例を挙げておりますが、韓国においては、邦銀の貸出残高が増えている傾向にあります。その貸出の資金をどう調達するかというと、従来は本支店からの送金をウォンにかえていたものを、最近足元では、邦銀みずからウォンの預金を預かり、ウォンの預金を獲得することによって、その集まったウォンの貸し出しをするようになってきております。この背景には、先ほどもありましたようにドル調達コストの増大があり、ある意味、背に腹は代えられなくなって、ドルだと高くつくので、ウォンを直接獲得しているということはあろうかと思います。このような形で、日本の金融機関も現地通貨を一生懸命調達しようとしていることがこの資料から伺えます。
以上が現地通貨の話ですが、この機会に合わせて、現地通貨建ての債券の発行の増加も御紹介します。東南アジア各国では、現地通貨建ての債券市場は拡大しており、現在、債券残高は約1兆ドル近くまで増えてきております。ABMIの創設時に比べては4倍強増えてきているということです。
御案内のように、アジア自身が非常に貯蓄の豊富な地域ですから、そういったところで債券を発行して、その貯蓄を吸い上げて有効活用するというのは非常に理にかなっているところでして、これによって、アジア域内でのクロスボーダーでの資金調達をこれからも図っていくことが大事です。
次のページが、「インフラ・プロジェクト推進にあたっての通貨面の制約」ということで、幾つか、アジア開発銀行の分析を紹介させていただきました。
アジア全体では、毎年、1.7兆ドル程度インフラのために資金需要があるとアジア開発銀行の研究で言及がありましたが、アジア開発銀行の融資は、170億ドルぐらいなので、1%にも満たないような額しか融資できていないことになります。最近話題のAIIBはさらにその10分の1ですので、まだまだインフラ・プロジェクト推進に当たって資金を調達しなければいけないわけですが、現地通貨建てでの長期融資はなかなか出来ないということが(4)で挙げられています。そこについて何が出来るのかというのも、これから先大いに検討しなければならないと思っております。
例えばベトナムの場合では、事業収入がドン払いとなりますが、ベトナム政府が外貨兌換保証の上限を設定しているために、ドンでもらったお金を他の国の通貨に換えることができないという問題も生じております。そのような意味からも、現地通貨建ての長期融資や資本市場の発展、それから十分な外貨交換性とそれを担保するセーフティーネットの構築が求められているということが言えると思います。こうやって担保するためのセーフティーネットの強化が必要ということで、これもこれからの課題かと思って、今も取り組んでいるところです。
円を巡る状況、それからアジア通貨を巡る状況を取り上げさせていただきましたが、最後に、日本が元気になるため、東京市場を元気にするためにはどうしたら良いのかということで、東京市場を巡る状況について、これは今までも色々なところで取り上げているので旧聞に属するところも多いかと思いますが、まとめさせていただきました。
23ページをご覧いただきますと、東京市場の規模ですが、東京市場は世界で最も早く開く主要市場ということもあり、グローバルに見て外国為替取引規模で5位、株式時価総額で約3位と、やはりまだまだ非常に存在感がある市場であります。これをどのようにしてもう少し育てられるのかというのが長年の課題であり、これからも一生懸命考えていかなければならないと思っています。
次のページ、日本には1,800兆円に上る国民の金融資産があるわけでございます。そのうち、国民がそのお金をどのように使っているかと考えたときに、外貨建ての資産は、足元では、投資信託100兆円のうち約3割程度しか外貨建てに回ってきていない。国民の金融資産が外貨建てに回るようになれば、それは東京市場の活性化にも非常に大きく役に立つのではないかとい、ここは一つの潜在能力を示すものだと思っています。
それから、25ページでは、外貨建ての資金調達のニーズの増大ということで、居住者の海外債券発行額の推移を挙げさせていただいています。これは、結局のところ、居住者が外貨建てを発行するわけですが、必ずしも東京市場ではなくて、アジアの他の国に行って債券を発行しているところも伺えるわけです。せっかくだから東京でも発行してもらいたいと思っているところです。
26ページ以降では、利便性向上のために何をしているの、何ができるのということをお示ししてございます。 まず、何をしているのかということで、円決済のグローバル化、円為替取引の効率化、2つ目にセーフティーネットの充実、3つ目にアジア現地通貨建て取引、資金調達の促進という、3つの項目に分けて説明させていただけたらと思います。 27ページでは、「円とアジア通貨の利便性向上の意義」をまとめております。
通貨の利便性の向上というのは、日本にとっては、円のみならず、アジア通貨にも目を配って、その利便性を向上することが非常に重要です。円、アジア通貨の利便性の向上は、それぞれ日本企業、邦銀、東京市場にとってメリットがあり、日本はアジアの先進国として、アジアの通貨当局と連携しながら、円とアジア通貨の利便性を向上させていくリーダーシップを担っていくのが大事です。その際には、財務省、金融庁、それから日本銀行、更にはマーケットを担っている方たちとの横の連絡も密にとりながら、アジア各国の通貨当局とも連携できることから連携していく必要があると思っています。
次に28ページ、「日銀ネットの稼働時間延長・端末の国外設置」については、後ほど山岡局長から御説明いただけると思いますので、詳しく述べませんが、日銀ネットの重要性というのも円の利便性の向上のために、一日のうちに送金が完了するという観点からは非常に重要です。
次のページ、「円と人民元の直接交換」については、実は2012年にそういったものが創設されています。しかし、取引の現状をヒアリングすると、活発に使われている状況ではないということでして、これから先、人民元が重要になっていくから放っておいても活性化するということだけでは寂しいので、もっと能動的に何ができるのかということを考えていく必要があると思っています。
それから、次のページでは、「国際「ロー・バリュー」送金(小口で、急がない送金)の取り組み」についてまとめさせていただいています。
民間における円為替取引の効率化の取組として、手数料をどのように安くするかというのが大事ですが、従来のコルレス銀行を介する場合には、取引の都度手数料が生じ、小口で利用する中小企業の方たちにとっては非常に負担感が大きくなっています。そのような中で、国際ロー・バリュー送金の取組ということで、小口の場合には相手国との間の送金を決済銀行に集約し、また、送金指図電文も接続事業者に集約することで手数料を抑えることができないかと、今トライアルが始まっており、これも円の利便性の向上という意味では一つの例として挙げられるのかと思います。
次のページでは、危機が起きたときにはどうするのかについて纏めております。これは、平時の場合と危機時の場合とに分けて考えると、平時の場合が多いので、必ずしもストレートに円の利便性あるいはアジア通貨の利便性につながらないのかもしれませんが、御案内のように、グローバル・セーフティーネットという時には、一番上位の概念としてIMFがあって、その下に地域金融枠組ということで参加国13カ国、規模2,400億ドルのチェンマイ・イニシアティブがり、その下に二国間のスワップがあり、最後に各国の外貨準備があります。アジア通貨危機のときには、この2番目、3番目のセーフティーネットがそれほど強くなかった上、更には各国の外貨準備が薄かったこともあり、非常に危機が大きくなりましたが、こういったものをどう充実させるかということが、アジア通貨、円の利便性を主張する上では足腰の強化につながると思います。
とりわけ今回私どものほうで考えたのは、円の利便性の向上、あるいは円を通じたアジア経済の足腰の強さを強化するために、従来は危機対応のためのバイのスワップ等は、先方の現地通貨をお預かりしてドルを貸し出すものでしたが、今回は希望があれば円でも貸し出すということを提案いたしました。それがこの32ページにある「危機への備え(二国間通貨スワップ取極に係る新提案)」になります。これは、去る5月に横浜で開かれた第50回のアジア開発銀行の総会の際に紹介したものです。一つの大きな眼目として、今まで頼まれればドルをお貸しします、ドルで皆さんを支えますというふうにASEANの国々とはお約束しておりましたが、今般、もちろんドルでもいいですが、ご希望があれば円でもどうぞと。実際、円で引っ張ることはできないのかと質問してきていた国々もありましたので、それなりに関心があるかと思っています。更には、規模の面でも最大4兆円規模の新たなBSAを創設することを決めたところです。
それから、次の33ページが現地通貨スワップの拡大ということで、これは平時の現地通貨スワップを、また、その次の34ページでは、「中央銀行による日本国債・日本円のクロスボーダーの担保活用」を紹介しております。後ほど、山岡局長の方からお話があるかと思いますので、省かせていただきます。
35ページ、「ASEAN+3のクロスボーダー債券決済」についても山岡局長より、詳しく説明されると思いますが、いずれにせよこういう形で、日本銀行、財務省、それぞれが出来ること等を使いながら、円とアジア通貨の利便性の向上というものをやり始めているところです。
では、もう少し本腰を据えてやれるものとしてはどのようなものがあるのかということで、中長期的な課題を、チャプター6で幾つか挙げさせております。
まずは、「アジアにおける円の更なる浸透」ということですが、これは、円建て送金システムのアジア展開の可能性を挙げております。先ほど日銀ネットの稼働時間の延長の話等を申し上げましたが、より徹底するためには、日銀ネットからさらに全銀システムについてもう少し使い勝手を良くできないか、全銀システムの海外からのアクセスの可能性を模索することができないのか、ということが、一つアイデアとしてあります。もとより外為法上の確認義務や販収法上の取引時確認義務等々、法令順守の徹底というのは当然の前提ですが、その上で、民間システムである全銀システムをより広く使うことによって、例えば海外の邦銀の支店からアクセスすることによって円の取引が非常にスムーズに進むということができないかというのが一つの中長期的な課題かと思っています。これは、全銀協等に御検討いただかなければならないわけですが、ブレインストーミングということで、このようなことも考えられないかということで挙げさせていただきました。
それから先ほど、円とアジアの通貨の直接交換の関係で、ASEAN各国の間で、それぞれの現地通貨間の直接交換の可能性としてマレーシアとタイの例を挙げましたが、実は、円とアジア通貨の直接交換についてももう少し上手くできるようにすることは有用ではないかと考えました。
規制のない通貨同士の場合は、上の方の例にありますが、飛行機の路線に例えると、円・ドルと人民元・ドルの場合にはそれほど規制がないので、円からドル、ドルから人民元という──この場合では、山口・東京、東京・青森と、非常に便数がたくさん飛んでいるところは、いちいち円から人民元に直接換えないでも、円からドル、ドルから人民元とした方が早いわけでして、ここの間での直接交換というのはそれほどメリットがないのかもしれません。
他方で、マレーシアリンギット、タイバーツのようにそれぞれ現地通貨の利用を強制する等、ドルの取引に関する規制が依然として強いような通貨の場合には、ドルと人民元の直接交換を念頭に規制に風穴を開ける方法があるのではないかということで、今後の検討の余地があるかと思っています。マレーシアリンギットからドルに換えて、ドルからタイバーツに換えるということが不便ならば、むしろマレーシアリンギットからタイバーツに直接換えることにトライしたらどうかということです。
実際、需要もあると思います。39ページをご覧いただきますと、タイの貿易相手国の決済通貨を見ると、タイは円とバーツでの決済が約5割とかなり多くなっています。つまり、円とバーツを直接換えることが出来れば、日本の業者とタイの業者との間は非常に楽に決済ができることになります。他方で、タイは非居住者のタイバーツ建て預金口座の残高上限を3億バーツと規制しており、なかなか直接交換はできておりません。そのような中で、今後タイと二国間協議を通じて、直接交換市場の実現に向けた課題を整理していくことを我々当局としても考えていけたらと思っているところです。
それから、40ページでは、東京市場で、円に限らず、多通貨での決済の可能性を探ってはどうかということをお示ししております。東京では、円建て債券の決済についてはDVP(Delivery versus Payment)決済、すなわち証券の引き渡しと代金の支払いが同時に起こる決済が行われており、決済リスクがないものの、外貨建て債券の場合には、右の図のように、資金決済が海外で行われることからDVP決済が実現していないために、東京市場において外貨建て債券の発行・流通の阻害要因となっています。東京で外貨建て債券取引のDVP決済を行うためには、まず東京において外貨決済が可能となることが必要であると。これが何とかできないかという問題意識です。
次の41ページに記載しておりますが、香港では実際に多通貨決済を始めています。香港においては、民間の銀行が資金決済会社となることにより、香港ドルに加えて米ドル、ユーロ、人民元のDVP決済が可能となっているとのことです。長期的には、東京においてもアジア通貨の取引ニーズが拡大されていることから、何とか東京市場がアジアの金融通貨ハブとしての発展の素地を築けないかということで、香港における多通貨決済の仕組みや運用実態についてこれから先調査してみることも有用かと思っている次第です。
最後に、42ページで、外貨決済ができると商品先物市場も発展の可能性があるということに言及しております。ここに挙げているような産業構造審議会商品先物取引分科会などにおいても提言されております。この辺りも引き続き勉強することによって、東京のマーケットの活性化、それから円の活性化に繋げていきたいと思っています。
以上、仕掛かりのもの、それから今後チャレンジするに値するものとして考えられるものについてお話をさせていただきました。
ややパッチワークのようにばらばらと説明させていただきましたが、正直申し上げてまだ全然、十分に熟したものを練りに練って皆さんにお諮りしているという段階ではございません。むしろ、今の段階ではとにかく少し頭出しで勉強してみて、今後につながるものがあれば引き続き御教授をいただき、ここで取り逃したものについては、新たに御提言をいただければ幸いです。
私からは以上です。どうもありがとうございました。
○小川分科会長 どうもありがとうございました。
それでは、続きまして、議題「アジア・日本の成長と金融インフラ」に移らせていただきます。
日本銀行、山岡決済機構局長、よろしくお願いいたします。
○山岡日本銀行決済機構局長 山岡でございます。本日は貴重な機会をいただきましてありがとうございます。
私どもとしても、財務省と一緒に、円の国際化、それから決済通貨としての利便性向上に努めておりますが、やはり最大の課題は、あらゆる支払い決済の手段は、ネットワークの外部性というものが強烈にあることです。
典型的には、クレジットカードはたくさん持っていれば加盟店になるメリットは増える。一方で、加盟店がたくさんあればクレジットカードを持つメリットが増える。同じように、例えば現金についても、日本でなぜキャッシュレス化が進まないかという議論がよくありますが、これも、現金を使うお客さんが一定量いたら、お店も現金を受け入れざるを得ないわけです。金庫も置いて、ガードマンも雇って、バイトさんも育てないといけないなど、とてもコストがかかるのですが。それでもやはり、現金を使う人がいたら現金のための用意をしなければいけないということになります。今、キャッシュレス化は、例えば中国やスウェーデン等で進んでいますが、そういう国では、現金が使えないお店がたくさんあったりします。そうなってくると、キャッシュレス化という時に、「ネットワークの外部性を崩すのに必要なトリガーがどこにあるのか、そこがなかなか難しいところだと思います。ここは大口になっても全く同じような議論かと思いました。
その上で、アジアは、今後、何を考えていけばいいのか。私はやはり、アジアは発展可能性があると思いますが、その内容は変わりつつある。内容が変わっているということは、インフラ面でもやるべき作業は変わりつつあるかもしれません。 まず3ページ目アジアの成長率を右側のグラフでご覧いただきますと、もちろん、アジアの成長率はずっと高くなっています。アジアの高成長が続くだろうとかいうのはしょっちゅう議論になりますが、過去の歴史を紐解きますと、19世紀の半ばまでは、アジアはすごく大きな経済圏でした。これが19世紀後半以降非常に縮んできて、第二次大戦後これを取り返しているとも言えるかと思います。左側のグラフを見ると、例えばアジアが世界のGDPの4割を超えて5割に迫ろうとするのは実現できないかというと、そうではないかもしれない。もしかしたら、昔持っていた力を取り戻すだけかもしれないということです。
次の4ページ目は、アジアの1人当たりGDPですが、やはり一貫して戦後成長は高いです。ただ、中所得国から高所得国になる時に、普通の国は、コストが上がってきて成長率が下がってくるので、ここを突破できるかどうか。これについては本当にいろいろな議論があります。
例えば、まだ成長の余地があるのではないかということをお示しする一例が5ページ目になります。これは「人工衛星から眺めた夜のアジア」ですが朝鮮半島を見ると、南側はキンキンに光っている一方で北側は真っ黒であり、それ以外にもアジアは比較的黒いところや真っ黒のところが、まだ相当多くなっています。ここから見ると、アジアにはまだまだ発展の余地があるのではないかと仰る方もいます。
一方で、次の6ページ目を見ますと、アジアといえばやはり、人口の意味で大きいのは中国、インド、インドネシアです。中国はもう13億人、インドも12億人以上、インドネシアも3億人近くいるわけで、これだけの人口を抱えるところが、今後どんどん高所得国の仲間入りをしてくる。これまでのようにコストが安いことを売りにできなくなってくる。そうなると、やはりこの面で違う成長を考えなければいけないのではないかという議論になるわけです。
それから、もう一つ、よく言う人口ボーナス、人口オーナスということですが、実は、アジアは相当急速なテンポで少子高齢化が進んでいます。出生率、日本はずっと低いのですが、このところ、アジアでこれから高所得国化が見込まれる国々でも、相当出生率が低下してきています。この先、7ページ右側の15~64歳人口比率、労働人口の推移を見ていただきますと、経済予測は難しいのですが、労働人口は一番予測しやすいんです。今出生率を引き上げても20年後ぐらいにしか労働人口には来ませんので、労働人口の予測は非常にしやすい分野でありますが、先行き、どこの国も労働人口の不足に悩んでくるということは見え見えという状況です。
これを図式的に表したものが8ページ目です。アジア諸国の1人当たりのGDP、点々の線を引いているところは、低所得、中所得、高所得というメルクマールですが、日本の例を見ても、ある程度高所得になってくると高成長は難しくなってくる傾向がわかるかと思います。アジアは今後、高所得化と労働人口の減少傾向に直面するということで、この中でどのように成長していくかということです。次の図は、単にポンチ絵ですが、これまでは、1人当たり所得が低くて成長率が高かった多くの国が、全体としてドドドッと右下に寄ってくるということ、これはもう明白なわけです。
さて、その中で何が必要か。金融インフラですが、これまでのアジアは、先進国にとって投資対象でした。先進国からすれば、金融資産の蓄積が進み、どこに投資しようかという時に、アジアは決定的に魅力的な投資対象であったということです。ただ、今後、アジアの中でも国内で金融資産の蓄積が進む一方で成熟経済化してくると、「アジアの貯蓄をアジアの中で回すインフラ」を考える必要があります。これには、副次的なメリットもあります。これまでアジアというと「グローバルな金融市場変動にバルネラブルである」というのが一般的な見方であり、だからアジアはこれまでも、山ほど外準を持って、時々介入もするということで、IMFとは結構論争も繰り広げていたわけですが、この原因は根本的には、アジアが外部からの資金流入に頼っていたことにあります。先進国等の金融機関や投資家のような外部からの資本流入に頼っているとなると、こういう人々の投資行動がバルネラブルであれば、アジアの金融市場はその影響を受けやすいことになります。ですので、「アジアの資金をアジアの中で循環させるインフラ」ができれば、金融市場の安定化という観点からもメリットがあると考えます。 それから、「スロー・トレード」という問題です。私の発表の副題に「グローバルと情報技術革新」とつけましたが、最近は「アンチグローバル化」とよく言いますが、我々の分析でも、相当程度グローバル化がエンベッドされ、グローバル化が当然のような経済活動になってきている。逆に言うと、グローバル化の「果実」を感じにくい状況になってきているかもしれない。
その中でも当局として、どのようにこのグローバル化の果実を皆に感じさせるかということも一つのポイントかと思いますが、一つの現象として、最近起こっている「スロー・トレード」と言われるものがあります。これは、最近の黒田の講演でも触れましたが、これまでの経済構造から導き出される推計値よりも、実際の世界の貿易の伸びが低いということです。11ページのグラフを見ていただきますと、外挿値に比べると世界の輸入値が低い。典型的には下のグラフですが、理由を見ると、例えば中国などでは中間財の輸入が弱い傾向があります。これは、先ほど武内局長の御説明にもありましたが、やはり生産構造も変わってきていて、中間財を輸入しないといけないというよりは、ゼロから作るということになってきているわけです。そう考えると、日本としては、日本からそういう所への「輸出」を支援するというよりは、「アジアの国々がゼロからものを作る活動」をどう支援できるか、そういうことを考えていかなければいけないということかと思います。
「何が求められているのか」ですが、3つに簡単にまとめてみました。
まず、「アジアの貯蓄をアジアで有効活用できる金融インフラ」。これはもちろん、アジアの債券発行をサポートするとか、アジアボンドファンドとかもありますし、東京金融市場の国際化もあるかと思います。
それから、生産ラインが各国に分散していますので、「クロスボーダー取引に対応できる金融インフラ」、これも武内局長から御説明がありましたように、例えば一日の間でアジアの間での送金を完了させることができるインフラが重要になってくると思います。
それから、「セーフティーネットの役割を果たせる金融インフラ」というものが、もう一つあるかと思います。これは後ほど申し上げますが、日本の金融機関は相当、海外、特にアジアでの活動を活発化しています。こうした中で、どのような形でセーフティーネットが整備できるかということです。
また、次の13ページ目、アジアで成長余地も、貢献できる余地も大きく、その中でも特にインフラ需要が挙げられます。右側のビジネス環境を見ていただきますと、「電力事情が問題」と言っている国はアジアでは相当多いです。右側のグラフを見ていただきますと、相当程度、アジアにはインフラ需要があることがわかります。よって、直接の投資としてサポートできる部分も、相当あるだろうと考えています。
それからもう一つ、「アジアから日本に来られる方々のための金融インフラ」は、日本経済にとっても重要かと思います。例えば、財輸出とサービス輸出について、2010年を100として比べてみますと、サービス輸出が非常に大きく伸びています。この内訳を見ると、やはり大きいのは、海外の日本拠点に向けた経費のための送金や、訪日外国人による国内支出になります。15ページの右側は旅行収支と訪日外国人数を示していますが、インバウンド観光客は、数年前の政府の見通しを遥かに超えるスピードで増加しています。このような方々が日本にやってきて、現地で使っている支払手段を東京、日本でも使えるインフラを整備することは、日本の経済にとっても大変重要なことであると思います。
続きまして、金融インフラに関する日本銀行の取組を御説明申し上げます。
17ページ目、円の金融インフラについては、私どもとしてもこれまで、まず日銀ネットを作って、この日銀ネットを世界水準に近づける、世界水準のさらに先を行くということで、これをイノベートしてきました。
2015年10月に新日銀ネットを全面稼働しましたが、これは技術的には24時間近い稼働が可能になっていす。実際にこれを24時間近く稼働させるためには、技術以外の問題もあります。典型的には「需要」、どれぐらいの人が使っていただけるかということです。私どもはやはり公共の者ですので、誰もお客さんが来ないのに24時間開けるわけにもいきません。ですので、我々としても積極的に宣伝して使っていただき、なるべく皆さんの役に立つように、可能であれば稼働時間を伸ばしていく、そういう方向を考えたいと思っています。
次の、新しい日銀ネットについてちょっとテクニカルなことですが例えば、最新の情報処理技術、よくISOという言葉がありますが、ISO20022という最新のフォーマットを利用しておりまして、かつ、先ほど申し上げましたように、24時間近い稼働が可能ということです。私どもとしては、技術的には世界最先端と自負しております。あとはどう使っていただくか、私どもとしても財務省とも力を合わせて、積極的に宣伝活動をしているところです。
とりあえず、ということですけれども、2016年2月15日には稼働時間を夜の9時まで拡大しております。夜の9時、これはどういう時間かといいますと、大体アジア全域の日中時間はカバーできる。だから、アジアで活動している企業がその日のうちに東京に円を送金したい場合は、大体間に合うと思います。
それから、欧州はほぼ昼間までカバーしております。ヨーロッパタイムだったら、ロンドン、ヨーロッパは同じぐらいですけれども、大体正午から1時ぐらいまでをカバーしていることになり、午前中の取引はカバーできます。 さらに申し上げると、一部の外国の方々から要望が強いのは、アメリカの東部時間をカバーしてということです。これはニューヨーク市場ですが、これが一番難しくて、日本が一番不利なのは、日本とアメリカの東部時間は時差が正反対で、しかもニューヨーク市場では夕方の取引が多いのです。だから、ここをカバーしようと思ったら、日本で早朝開けなければならない。ここが一番ハードルが高いところです。
それから、クロスボーダー送金。先ほど武内局長からも若干お話がありましたが、日銀ネットには、大きな金融機関は大体つながっておりまして、30弱ございます。こういったところと取引をしている企業は、日銀ネットを使って、夜間でも今は送金ができます。ただ、実際、夜間での送金には幾つか条件があって、企業の側にまず「ニーズ」があることですね。
それからもう一つは、「日銀ネットにつながっている銀行が、そういうサービスを企業に提供しているかどうか」ということもあるわけです。私どもとしては、今、日銀ネットをこれだけ開けているんですから、ぜひそういうサービスを提供していただけませんかということで、いろいろお願いをしているところです。
企業のニーズとしては、例えば、アジアで展開している企業が円貨を東京オフィスで一括して管理し、円の流動性を節約したいといったことがあれば、こういうサービスが使える。実際そういうサービスに関心があるという企業の方はいらっしゃいます。あとは、銀行がどれぐらい、そういうことをサポートするかということにもかかってくると思います。
夜間利用例ですが、海外から国内に送金をする時例えば、一番左の顧客Aが銀行X──民間銀行ですけれども、――これに送金を依頼する。すると、日銀ネットの中で銀行Xから銀行Yへの振替が行われる。銀行Yのお客さんとして企業Bがぶら下がる場合、A企業からB企業に、例えば夜の8時に送金ができることになります。少なくともアジアに関しては、そういったサービスが可能ですので、私どもとしては、そういったサービスに気づいていただいて、ぜひ使っていただきたいということです。
それからもう一つ、ちょっと図が込み入っていてごめんなさい。日本国債の有効活用ということです。日銀ネットには、資金以外にも国債もございますので、この国債のサービスですが、国債を振り替えることで担保に使う。例えば、現地で、現地通貨が欲しい一方で、担保としては国債しかないと。なので、その国債を担保に入れることで、現地でお金を調達する。そういう取引にも使えますよという、そういう絵であります。
これが、先ほど申し上げた、私どもも今情宣に努めておりますけれども、本年2~3月に、企業にアンケート調査を行いました。このアンケート調査は、―気づいていただくという意味もあるんですが、―「関心がありますか」ということです。これは、「やっぱり関心があります」という企業さんが結構ありました。特に関心が高いのは、輸送用機械──自動車ですね。こういったところはやっぱりアジアの中で相当生産分業を行っているので、そういったサービスへのニーズも高いということかと思います。
今後、日銀ネットの稼働時間をどうするかですが、とりあえず、現在は21時まで拡大しておりまして、これから皆さんのニーズを聞きながら判断していくと。先行き、私どもとしては開けることにやぶさかではありませんよと。ただ、我々としても国民への説明ということもございますので、それなりのニーズがあると。つまり、「我々が開けていることが日本経済にとって役に立つ」ということがきちんと言えることが大事と考えています。 そのために私どもとしても、私どもの局で「日銀ネットの有効活用に向けた協議会」というのを設けておりまして、ここにいろいろな方々を呼んでお話をすると。その中には、ワーキンググループ、下にある3つを設けまして、それぞれにつきまして、銀行の方には積極的なサービスの提供、それから企業の側にはそういったサービスを十分に御認識いただく、そういう活動をやっているところです。
それから「グローバル・アクセス」、これは、別のもう一つのイニシアチブですが、4月に私どもは、日銀ネットに対する海外からの接続を認める方向というのを公表しました。これは、今の段階では、ニーズがある先がすぐにつなぎますというわけではないのですが、例えば外国の金融機関の方で、東京に小さなオフィスが一つしかなく、しかも海岸沿いであると。例えば、津波が来た時、日本の金融機関であれば複数の拠点が日本国内にありますので、BCPという意味では、「ここがだめならここ」というのが使えますが、海外の金融機関で一つしか拠点がない先は、そこがもし津波に遭ったらどうしようといったことがあり得るわけです。海外の金融機関には、結構そういった関心を持たれるところがあります。
それから、先ほど申し上げた、例えばニューヨーク時間とオーバーラップするかどうかというとき、一番問題になるのは、各国の金融機関にとっても労働環境です。「各国の市場に対応させるために徹夜させるのか」という話です。しかし、既に、ニューヨークの昼間の時間にニューヨークで働いている方はいらっしゃるわけですね。そういう外国の金融機関の方々が、例えばそこから直接日銀ネットにつなげれば、ニューヨークは昼ですから当然人がいるわけで、そこで動かせるわけです。なので、このグローバル・アクセスは、先行き、日銀ネットの稼働時間を考える上でも、大変重要です。
次に、少し話題が変わりますけれども、26ページ目は、今、日本の与信がどうなっているかという話です。日本の金融機関、これは緑の線ですけれども、実はリーマンショックの後、日本の金融機関の与信シェアは各国で拡大しております。この理由はクリアでありまして、2008年のリーマンショック以降の国際金融規制は、どちらかというと、グローバルな金融機関を小さくする方向でした。十分小さくなったという反省もあるわけですが、これにより、欧米の金融機関は、どちらかと言うと海外与信を縮小させる方向だったわけです。一方で、日本の金融機関は、2008年のリーマンショックでは傷まなかったわけです。そうなってくると、彼らは国内でそんなに与信が伸ばせるわけではないので、海外でビジネスを拡大しようと考える。ということで、海外、欧米の金融機関が与信を縮小させる動きと、日本の金融機関が海外に収益機会を求める動きが相まって、日本の与信シェアは海外で拡大しています。実際、次のページ、海外向け貸出ですが、3メガの海外の貸出残高は伸びておりますし、国際与信のシェアもどんどん伸びている状況です。
では、どうやって流動性を調達しているのかですが、これも先ほど武内局長からの御説明にもありましたけれども、円投に頼っているということがあるわけです。国内でそんなに与信先があるわけではないということですけれども、細かい話をしますと、米国の投信に関する法制の変化もございまして、ドルの出し手が、これまでのように積極的に出してくれるわけでもない。なので、邦銀が海外で活動するときに、いざというときの流動性調達に円投に頼ることのリスクも非常に意識されている。そうした中で、左側のグラフにあるように、調達プレミアムも、日本の金融機関に円の預金が集まってきて、ドルで貸出をしたい、投資したいという動きが強まりますと、やはりどうしてもドル調達プレミアムが乗ってくる。では、いざという時の流動性は大丈夫かが、やっぱり問題になりやすいということです。
それからアジアですが、やっぱり、アジア向け与信も増加傾向にあるわけですが、アジアでは、右側のグラフを見ていただいても、預貸率が100を超えている。つまり、現地で預金を調達するよりも貸出の方が多い状況です。銀行も結構現地で頑張って預金を集めて流動性を調達しようとしているんですけれども、まだまだ全然足りないという状況です。
では、流動性をどうしようか。先ほど武内局長のお話にもありましたように、流動性のバックアップをどうするかという話です。この中で一番中銀の関与が強いのは中銀スワップでして、中銀がお金を貸してあげるというスキームです。これはもちろんセーフティーネットとしては有効ですが、あまりこれに頼られるべきものでもないということです。
次に、そこまで中銀がむき出しに助けるわけでもないのが、クロスボーダー担保であります。これは中央銀行がお金を貸すけれども、担保はきちんと出してもらいますというスキームです。なので、むき出しのスワップよりは、よりインセンティブを生かすシステムです。
次に、もっと自助努力を促す方法が「クロスボーダーDVPリンク」というもので、これはまだできているわけではありませんが、もし中央銀行間で中央銀行の資金システム、国債システムをつなぐことができたら、中央銀行のシステムを使うことによって、国債と資金のDVPが実現できるかもしれない。そうすると、金融機関側では、例えば日本の国債を担保に使って香港ドルやシンガポールドルを借りる、そういうことができるかもしれないということです。これは、金融機関に頑張ってもらうという意味で、インセンティブ上は一番良いシステムではないかと思います。
これは、現在ASEAN+3の間で話し合いを進めており、一応、先行きに向けたロードマップができております。このASEAN+3の中で、できる国は2020年までにこういったDVPリンクを構築していきましょうということで、日本銀行としてもこの話し合いに加わっているところです。これが将来的にできれば、スワップとかクロスボーダー担保まで行く前に金融機関が頑張って、自分の持っている国債などを使って現地通貨を調達してもらうインフラができるという趣旨です。
それから証券決済の短縮化。これは民間のイニシアチブによるものですけれども、これは財務省、日本銀行としても非常に支援しているということです。現在、国債はT+2、約定してから2日後に決済でございますけれども、既にアメリカとイギリスではT+1を実現しております。これを、日本でも来年の5月1日よりT+1に移行。それから株式についても、T+3だったのが、2019年中のなるべく早い時期にT+2に移行しようとしております。これも、日本のファイナンシャルマーケットが安全であるというイメージとしても、非常に大事な取り組みと考えています。
それから3つ目ですが、情報技術革新。なぜこれを持ち出したかというと、アジアでは結構ものすごく動いている分野です。よくFinTechと言いますけれども、FinTechに3つくらい主要要素があります。ブロックチェーンや分散型台帳。それからAI、それからスマホですけれども、皆がドーッと一緒に起こってきたところです。ブロックチェーン、これはサトシ・ナカモトさんの2008年に出た論文、これがビットコインを作ったと言われていますけれども、このビットコインの基になっている技術です。なので、これが出てきたのが2008年。それから、AI、ビッグデータ分析。これは昔からありますけれども、「ディープラーニング」という分野が出てきたのは2010年頃からです。それからスマホですけれども、御承知のようにiPhoneが2007年にできましたので、大体リーマンショックの前後に、皆同時に、どんと出てきたわけです。
この中で、なぜアジアが大きいか。ブロックチェーン、分散型台帳というのは実験段階のものが多いです。それから、AI、ビッグデータ分析は、色々なところで応用が進んでいますが、これが今そんなに収益源になっているかというと、そうでもないかもしれない。一方で、今、スマホは、スマホアプリをどう作るかとが銀行ビジネスの主戦場でございまして、もう誰もかれもスマホアプリを売り込んでいるわけです。このスマホの伸び方が、やっぱりアジアではものすごいということがあります。
もう一つ、リーマンショックというのがFinTechの背景にあって、リーマンショックのときに米欧では公的資金を入れて、公的資金を入れると必ず銀行は評判が悪くなるので、新しいチャレンジャーがもてはやされたこともあろうかと思います。
アジアは特に、情報技術革新の恩恵を得やすい立場にあると言えるのではないか。まず、「ITリテラシーが高い」ということですね。それから、「スマホやインターネットの普及が急」ということ。それから、どこも割と人口が多いですから、「金融サービスの伸びしろも結構大きい」ということです。
日本は人口減少もあり、経済成熟化もありということで苦しいのですが、FinTechの方々は皆さん、インドネシアやインド、中国も含め、アジアに進出して、アジアと共有できるビジネスモデルを作って、そこから規模の利益を得ようというビジネスモデルを考えておられる方が多いと思います。
例えば、1人当たりカードの保有枚数を見てみますと、カードをたくさん持っているのは、シンガポール、日本、韓国、それから中国です。ただ、日本の場合は、たくさん持っていても全然使っていないという統計もありまして、日本の人は現金もたくさん持っているので、大体日本人のお財布はカードでパンパンなはずです。でも、あんまりカードを使っていないのが日本の実情ですが、他の国では相当使っているということです。
それから、カード決済金額の対GDP比。これも中国の伸びが圧倒的です。キャッシュレス化が日本では進まないと言われますけれども、日本とドイツは大体同じくらいです。圧倒的にすごいのは中国で、だから中国に行かれた方は「中国ってすごいよ」と言うんですけれども、ちょっと中国は図抜けています。それから、韓国もすごい。もともとそういう意味では、アジアは比較的この分野になじみがあって、リテラシーも高い。
それから、ITという意味では、何といってもアジアの学生はアメリカでは優秀ということで、それこそ「逆ダイバーシティー」ではないけれども、アジアの人が多過ぎるからアジアの人が入りにくいという、そういう大学もあるくらいです。なので、アジアは、新しい情報技術の影響を強く受けている国々ではないかと思います。
典型的には、よく「Financial Inclusion」と言いますけれども、例えば中国のWeChatPayは今9億人近いユーザーがいると言われ、世界最大のモバイルペイメントです。
これは、人口が多くて、もともとあまり金融インフラがなかったから。
それから、そういう国は、銀行のように、「貸出ビジネス」と「資金決済ビジネス」を結びつけるというよりは、自分たちのやっているeコマースとかデータ分析を金融と結びつけてくるということで、そこで新しい企業が出てきているということだと思います。例えばAlibabaとかTenCentなどです。
それから、FinTechの投資資金は、今、相当アジアに流入していることです。
こうした中で、インフラ面で何を考えなければいけないか。やはり、インフラを巡る国際競争は相当激化しています。人民元取引もそうですが、例えば先日、東京都の小池さんの懇談会に来られていたギフーォドさんという前ロンドンメイヤーは、ロンドンは今、「人民元」と「イスラム金融」に力を入れていますと明言しておられました。いろいろなところで競争が起こっているということです。
それから、インフラ面ではやはり資産形成です。「貯蓄から投資へ」を支えるインフラも重要になっている。例えば、ロボアドバイザーなどが最近非常に注目されています。
それから、オープン・イノベーションです。これからの時代を考える上では、色々な人々の競合、例えばIT会社や金融機関、スタートアップ、そういった人々が協力して知恵を出し合って、新しいインフラを作っていくことが必要と思いますので、オープンAPIやIoTも重要になってこようかと思います。
それから、「インフラの軽量化」とか「分散化」の話です。クラウドとかがありますけれども、極端な話、今、インドに「バーチャル銀行」があるんです。一つも店舗を持っていない、ATMもない。でも銀行業は完璧にできるわけです。つまり、クラウドを使って全部メーンフレームをクラウドに移す。顧客管理はスマホでやって、アプリをダウンロードしてもらってということです。そうすると物理的店舗が要らないわけです。新しい技術は、どちらかというと、昔の固定的・物理的インフラを不要にする方向になってきています。これは日本にとっては、なかなか重い課題ではありますが、新技術をそうした方向に使うことを考えていかなければなりません。
それから、最近のもう一つの流行りは、「情報やデータを活用できるインフラ」です。本来、支払いには、「いつ、誰が、どこで、何を買ったか」という情報が付いているんですが、現金は、それらを全部切り離しているわけです。だけど、それが収益の種になると考えれば、この情報を使えるかどうかが、一つの鍵になってくる。ただ、そこで問題になるのは、「プライバシーをどうするのか」ということ。これにどう制度的に対応できるかが鍵になると思います。
それから、最後に「規模の利益やスケーラビリティを確保できるインフラ」ということで、インフラには、やはりスケールメリットは相当ありますので、何を作るにしても、アジア間の連携とか、アジアとのスケールメリットを得ていくようなビジネスモデルを考えていくことが、一つの鍵になってくると思います。
それから、これは単にご参考ということで、競争という観点からですけれども、よく最近、「ビットコインみたいなものが出てくると円はどうなってしまうのか」という議論があります。これは学界とのカンファレンスでも取り上げましたが、学界の皆さんが仰るのは、「ビットコインがどう使われるか」という話は、「外貨がどう使われるか」という話とそっくりですよねと。さて、日本で外貨を使うことは、昔は絵空事、夢物語だったんですけれども、今は例えば、それこそドンキホーテなどに行くと8カ国の通貨が使えますと書いてあります。企業も仕入れ先がいろいろ分かれてきて、いろいろな通貨を使う機会も増えていますし、外国人観光客も増えているということで、外貨の利用をサポートするコストが昔に比べて低下しているかもしれない。そう考えると、日本銀行としても、円の使い勝手をきちんと考えていかないと、我々の商売があがったりになってしまうかもしれないということかと思います。
それから、これは先日、東大の柳川先生と私とで書かせていただいた論文に書いたのですが、インフラの整備を考えていく上で、これからはやはり分散型というのが一つの鍵です。歴史的に見ると、銀行券や小切手、現金には、小切手法など「紙」の「分散型インフラ」のための法制はあるんですね。それから、90年代に作られた、ブックエントリーシステムのための法制というのもあるんです。しかし、意外と、「デジタル」だけど「分散型」というモノのための法制はないかもしれない。そこは注意しなきゃいけないということを書かせていただいたところです。
それから、最後になりましたが、「アジア・日本の成長を支えるインフラ」ということで、肝心なことは、まず、「円を用いながらグローバルに活動する企業」をサポートする。これは、円を使ってアジアで生産分業をするだけではなく、現地で販売をする、販売拠点をつくる、インフラ整備をする。そういったことも含めて、円を使う企業を、世界のどこでもサポートしましょうということ。
その過程で、国境を越えたeconomies of scaleを実現していきましょうということ。
それから、economies of scopeという点では、「インフラを使って様々な活動をつなげる」よう考えなければいけない。先ほど申し上げたような、データの活用とかIoTのようないろいろな企業との連携、そういったものを「つなぐ」ことを考えなければいけない。例えば「オープンAPI」なども、その一環かと思います。
それから、冒頭に申し上げましたけれども、「海外から日本に来られる方々の利便に貢献するインフラ」というのも、考えなければいけないと思います。
それから、情報技術のメリットという意味では、分散型台帳やブロックチェーンのメリットも、しっかり生かしていく必要があるだろうということです。
それから最後に、これは中央銀行の決まり文句として申し上げるんですけれども、インフラへの信認をしっかり確保していく必要があるということです。
49ページ、最後のところと少し関係するのですが、我々は分散型台帳をすぐに日銀ネットに使うつもりはないのですが、これがどういうものかをしっかりと理解していく必要があるということで、現在、European Central Bank、欧州中央銀行との間で共同調査を行っております。これはどこの中央銀行も最近非常に力を入れておりまして、やっぱり先行きを考えていくと、分散型台帳とかAIを使って、あまり人手を介さなくても、夜中にでもどんどんインフラがつながっていくという世界も考えられなくはない。そういう時代がいつ来るか―10年後か20年後かはわかりませんけれども、そういうものにもアンテナをしっかり立てて対応していかなければいけないと考えている次第です。
私からは以上でございます。ありがとうございました。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
それでは、委員の皆様方から御質問、御意見をいただきたいと思います。御発言されたい方は、名札を立てていただければ指名させていただきます。
植田委員、お願いします。
○植田委員 武内局長、山岡局長、どうもありがとうございました。大変参考になりました。
私、お話を聞いていて、本当にそのとおりだなと思ったのが、ただ、まだよくわからないんですけれども、一つは、国際的にどんどん取引が進んでいく中で、国際的なスケールエコノミーというものが出てきますので、もう皆さんおわかりのとおり、今まで東京は東京、香港は香港、シンガポールはシンガポール、ニューヨークはニューヨークというように、色々なところで金融の中心であったのが、その中でどれが生き残るかという競争にもなってきていると思うんですよね。やはり、香港とかシンガポールは、証券取引所をはじめ、もっと積極的に他の欧米の証券取引所や商品取引所等を合併しながら、いかにこの中で生き残っていくかということを考えていると。──ちょうど昨日、1週間ほど香港とシンガポールに行ってきまして、当局の方たちに、状況についてお話を聞いたのですが、非常に積極的にやろうとしているということで、それに対して日本はやはり、欧米についていこうというだけでは恐らくだめで、リードしていかないと負けてしまうのではないかという懸念があります。方向性としては今のとおりで良いと思うんですけれども、足りない部分は何かできないかなというような、私自身にアイデアがなかなか出てこないので申し訳ないですけれども、もう少し証券取引所も含めて頑張っていかないといけないのではないかという気がいたします。
とはいうものの、その一方で、アジア諸国は日本の経済レベルに追い付いてきているので、日本だけの問題でもなく、アジア全体でどうやって栄えていくかという問題。これはある意味で、特にアジアの中であまりドル等に依存せずに栄えていくためには、もしかしたら、いつかヨーロッパが昔やったような「スネーク型の為替管理」──為替管理と言っては変ですけれども、ドルを除いた直接のアジア通貨間の直接な交換をもっとできるような制度というのを、何となく市場に任せておくのではなくて、もう少し考えないといけない段階にそろそろ来ているのではないかというような気がいたします。
最後に、一つは、どちらかというと質問でしょうか、日本銀行さんへの質問ですけれども、今の段階ではまだ、諸外国のアジア主要国の国債を担保として、日本で受け取って日本円を渡すというような意味での担保の受取まで行っていないわけですよね。いつかどこかでそうなるような、この通貨システムと同時に動いていかないといけないと思うんですけれども、そのようなところまでお話は進んでいるのでしょうか。どうもありがとうございます。
<"span style="color: #ff0000;">○山岡日本銀行決済機構局長 仰るとおり、今進んでいるお話は、日本の国債を担保に現地での通貨を借りるというところでして、逆に海外の国債を担保に日本円を貸すという議論は、具体的に進んでいるわけではございません。ただ、委員おっしゃいますように、これも先行きは重要な課題となってくる。また、こういう片面的なものをよく思わない国もいないわけではない、ということもあります。
それから、日本銀行の制度では、国債はがちがちに、担保はこれこれじゃなきゃだめと言う割には、最後の最後は無担保で貸せると、すごく飛ぶわけです。これに対し、海外の、例えばFRBの制度は、何でもいいからとにかく担保を取れと、エフォートとしてははなっているわけです。なので、委員のおっしゃった問題は、非常に深いところで、ある種、日本の制度的な独自性の問題を指摘する問題ではないかなとも感じます。
○小川分科会長 それでは、亀坂委員、お願いいたします。
○亀坂委員 今御説明いただいた、財務省で進めていただいていることも、日銀の方々が進めていただいていることにも特に反対するところは全然なくて、特に今の49ページの欧州中央銀行との共同調査など、こういった方向性は非常に日本にとっても良いことではないかと思うのですが、その上で、いただいた資料を悲観的に見ている面があります。具体的には、例えば日本銀行様から御提示いただいた6ページ目のスライドなどを見ると、各国別1人当たりGDPで見て、日本は、香港、シンガポール、台湾、韓国に次ぐ位置と、このようなところで少し悲観的にならざるを得ない面もあります。成長率はどこでも言われていることなので別としても、やはりどうしても悲観的に伺ってしまう面があります。
あと、41ページの、米国大学への留学生の出身国。これも、御説明を私が理解しているかはわからないですが、アジアからの留学生が多い。それは本当にそうだと思うんですけれども、私はもう10年以上前からアメリカの学会などに行くと、絶対日本人だと思われないんですね。日本人だと言うとすごいびっくりされる。「えっ、何で来たの」と言われて。そういう状況でいると、特にファイナンス系の学会とか経済系の学会に行って非常に悲しくて、日本は生産性を上げなくてはいけない、人口減少に直面しているので、1人当たり生産性をどうしても上げないと、この先どんどん経済が縮小していくという状況で、やはり日本人のそもそもの基礎知識というか、専門的知識を高めるとか、留学生をもう少し支援するとか、留学しやすい環境を整えていただくとか、最先端の知識を学ぶ機会をもっと色々な省庁の方々や日本銀行様に高めていただけると嬉しいです。あるいは、日銀の方々が得られた知識を学者にも提供していただく機会をいただいたり、あるいは財務省の方々の情報を提供していただく機会とか、何か生産性アップのほうの教育面での支援など、そういった機会をいただけると非常にありがたいなと。特にファイナンス系のですね。
実際、証券のほうが専門なんですけれども、私が大学院生だった頃には、それこそ大手の金融機関、特に証券系に入った人は、簡単にハーバードとかイェールに留学させてもらって、その最先端の知識を得て帰ってきて大学の先生になってしまうということで、しまったなと思うことが多かったんですが、やはりこれだけ長期に経済が停滞してしまうと、そういう方も本当に金融分野でも減ってしまって、競争力が落ちてしまっていると感じております。
この審議会に直接関係ありませんが、大学教育の無償化などを議論されるよりも、生産性アップの方も何か──というか、それについて議論していただいてももちろん良いことだとは思うんですけれども、その最先端の知識を身につける人材を増やす。日本の金融業界を牽引していくような知識のある専門家を育てるといったことももう少し議論していただけると嬉しいです。
あと、もう一つ、財務省の方々の作成してくださった資料では、29ページと38ページの、円と他のアジア通貨の直接交換市場の推進が気になっていまして、私も2015年の9月に、財務省の方々にも相談したんですけれども、中国政府の国際会議に呼ばれて、人民元の国際化に関して議論させていただいたのですが、そのときも私、日本と中国は時差1時間しかないので、何で日本円をドルに換えて、ドルを元に換えるのを続けるのかということを申し上げました。それはそうだと言ってくれたんですが、日本の金融機関の方が仰るには、その方がコストが安いと。なので、財務省の方々、あるいは日銀の方々がそれをプッシュしてくださる、そしてコストを下げてくださるとか、何かそういったことの音頭をとっていただけると良いとここ1~2年ずっと感じていたので、そのように少し発言させていただきました。
○小川分科会長 どうもありがとうございました。今、亀坂委員がお話しされている間にたくさん名札が立ってしまったので、ちょっとまとめて御質問、御意見を承って、それからちょっとお答えをいただくということで、それでは、相澤委員、お願いいたします。
○相澤委員 恐れ入ります。1点だけ。この発展途上国、特にアジアということになりますと、どういう仕組みを考えても、制度整備がやはり発展途上国の最大の問題──新興国もそうでありますが、法制度整備ということが問題になりまして、これをどうするか。どういう仕組みを考えても、先方の国で進出企業なり何なりが収奪されるということであれば、どんな仕組みも仕方がないわけでございます。
それから、最後の方に少し法律の問題が出てきましたけれども、やはり発展途上国におきましては制度整備というものをきちんと考えていただきたい。
それから、制度整備を担保するためには、東ヨーロッパなんかで西ヨーロッパの国がある程度有効だったように、投資保護協定のようなものを、そういう条約による整備ということでも考えていただきたいというふうに思います。
ありがとうございました。
○小川分科会長 ありがとうございます。それでは、伊藤恵子委員、お願いいたします。
○伊藤(恵)委員 御説明ありがとうございました。
簡単に3点、まず1点目ですが、円と人民元の直接取引に関して、何かあまり大きくなっていないというか、それほど進んでいないというお話があったんですけれども、どこが問題かというところを十分に精査した上で、他のアジア通貨に広げていく必要があると思います。多分、バーツはある程度需要があるというお話でしたが、貿易の絶対額から言うと、中国との貿易の方が多いわけでありまして、やはりどういう理由で人民元との交換が進まないのかというところをしっかりと議論していく必要もあると思いました。
方向性としては全く賛成なんですけれども、やはり円の利用が進まない最大の原因は、実体取引がアジアで──減っていないですけれども、相対的に日本企業のアジアにおける取引とか生産というものが相対的に減っていると。こういったインフラを整備するということが日本企業のアジアでの活動を手助けするということは賛成なんですが、それと同時に、やはり日本企業がよりアジアの中で、他のアジアの国の企業との取引を拡大していくというところも同時に推し進めていかないと、いくらこのインフラを整えたところで使ってもらえないと思います。
特に、製造業の企業ですと、こういった為替管理の専門家がいないということを指摘する声も非常に多くて、日本においてもアジアにおいても、インフラを整備してもそれを製造業の企業にしっかりと伝えるということと、製造業の企業が色々な通貨をうまく管理できるような援助というか、教育というか、そういったところを経産省とも一体になって進めていく必要があるというのが2点目です。
最後に、FinTechのお話をされて、前半の日銀ネットのお話と、後半のFinTechのお話、かなり乖離があるという印象を受けました。というのは、実態はもっと速く進んでいると言いますか、日銀ネットの時間を拡大するとか、日銀ネットを海外の支店でも使えるとか、そういうレベルの問題ではないところにどんどん金融取引が進んでいるという印象でして、もちろん日銀ネットの利用の拡大自体は賛成ですけれども、もう少し次の段階というのをスピードアップして議論していく必要があるのではないかと。全銀協のシステムを拡大するというお話ですとか、日銀ネットを拡大するというお話も、今のところ海外にいる日系の銀行の利用にとどまっているという印象ですけれども、そうではなくて、現地の企業との互換性も議論する必要があるのかですとか、もっと技術の進歩のほうが随分速いという印象ですので、更に一歩進んだ議論が必要という印象です。
以上です。ありがとうございます。
○小川分科会長 それでは、伊藤隆敏委員、お願いします。
○伊藤(隆)委員 もう10年以上前に円の国際化のワーキンググループの座長をした者としては、じくじたるものがありますが、なぜ人民元の国際化が上手くいきつつあって、円の国際化がうまくいかなかったのかとずっと考えているんですけれども、今、伊藤恵子さんが言ったような実体経済の面も多少あると思うんですね。中国が今成功しているのは、やはり中国に輸出したければ、こういうことをやりなさいと。中銀スワップをやりなさいと。中国と取引をしたければ、それでこういうことをやれば人民元の決済機能を持っている銀行をおたくに進出させてあげますよという、非常に政治的な圧力を利用してやっているというのが1点。
もう一つは、多分、輸出入が両建てで大きいわけで、そうすると、やっぱり中国に輸出して人民元をもらえば、その人民元で中国から輸入できると。ドルが機軸通貨になったと同じ道をたどっているわけで、そういう意味では日本経済そのものがもっとオープンになって、オープンの比率は高まってきているのですが、旅行者が来るようになり、それで日本で円を使って、それで日本に輸出して円をもらって、そのもらった円をまた日本で使うというような、その両建てで輸出入あるいは資本でも良いのですが、高まっていかないと、多分自然に円の国際化というのが進んでいかないのではないかという印象を持っています。
2番目、FinTechなんですけれども、例えばアメリカだと、もうインターネットバンキングというのが当たり前のように進んでいますから、誰かに支払いをするとか、昔はアメリカでそのチェックを切っていたわけですけれども、何でこんなに後れたシステムなんだと思っていたのが、いつの間にかインターネットバンキングで人にチェックを送ったり、あるいは直接口座送金をしたり、夜、銀行の送金指示とか入金の確認とかをやっていて、支店には行かないですよね。だから、日本で支店に人があふれているというのは非常に奇異に感じます。そのあたり、例えば、少なくとも高級なFinTechまで行かなくても、単純なインターネットバンキングというのはどれくらい日本で進んでいるのかというか、後れているのかというのは、何か統計があったらお示しいただきたい。
それと、3点目、スウェーデンの例が一言ありましたけれども、スウェーデンの中央銀行の発行している電子マネーというのが一体どういうもので、それがどういうふうに使われていて、それで現金がこれからなくなっていくのかという、これは中央銀行によってプラスかマイナスかというのは難しいところだと思うんですけれども、その中央銀行のファイナリティーを持った電子マネーというのはどういうものなのだというのを少し教えていただければと思います。
○小川分科会長 それでは、ひとまずここで質問に対してお答えをいただきたいと思いますけれども、お願いいたします。
○武内国際局長 ありがとうございます。質問をいただいているというよりも、コメントで叱咤激励をいただいたという感じが多いと思いますが、仰るとおり、円と人民元ぐらい、さっさと直接交換ができるはずではないのかと。原因は何なのかという話。仰られるとおりで、最初に道が開けないとなかなかそれが定番にならないというところもあると思います。そういう意味で、どのようにそれがルーティン化するかというのがすごく大事かなと思っておりますし、他方で、御指摘を踏まえて、スピード感を持ってやらなければならいけないとは思っております。
もう一つ、付け加えさせていただければ、実体取引がきちんと、そのプレゼンスがないからちゃんと進まないじゃないのかという御指摘もありましたが、我々、この話をしている時には、メーカーさん以外にも、日本の金融機関についてのビジネスチャンスとしてもこれは大事だと思っていまして、こういうことを率先して金融面でのインフラ整備をすることによって、日本の金融機関が非日系の人たちの取引も取り込めるように頑張ることも大事と思っております。
それと、先ほど御指摘いただいた投資保護協定云々の話は前々から問題意識を持っておりまして、世銀などからODAを実施するときにも、そのような観点からのテクニカルアシスタントなども盛り込むことによって、ひいては進出しようとしている日本の企業にも資するようなことを考えてやらせていただいているので、今後もその方向性でいきたいと思っております。
以上、ありがとうございました。
○山岡日本銀行決済機構局長 伊藤隆敏委員から御質問のあったインターネットバンキング、これは調べましたけれども、後ほど皆様に何らかの媒体を通じましてお届けしたいと思います。日本ではやはりインターネットバンキングの普及は、諸外国に比べても遅いというのが率直なところでございます。
それから、スウェーデンのeクローナという中銀マネーですが、これは構想段階でございまして、スウェーデンは現金のGDP比率がわずか1.7%で、日本は約20%ですから、圧倒的に違うんですね。これにより、スウェーデンでは、中央銀行の債務としてのマネーにアクセスできない人が非常に増えてしまったというので、これに対して中銀の側でも、中央銀行の債務としての信用リスクのない支払手段を提供しなければいけないと。むしろそういう方向で、これから2年をかけて、eクローナという中銀デジタル通貨を発行するかどうかを考えていくということでございます。ちなみに、中銀デジタル通貨の発行について検討中と言っているのは、スウェーデン以外に中国もそうです。
それから、これが中央銀行にプラスかどうかはなかなか難しいんですけれども、スウェーデンでも、これによって金融政策ができなくなったという議論まではありません。基本的に、金融調整の考え方としては、一定の水準でベースマネーを必ず吸収する、それから、一定の水準でベースマネーを必ず供給するという、フロアと天井を設けた「コリドー方式」を使えば、ベースマネーがどう動こうが金利の調節はできるだろうという見方が、現段階では多いように思います。
それから、これも伊藤隆敏委員が仰られた、アメリカでチェック決済だったのが急激に進んだ。それから、伊藤恵子委員からも御指摘があった、相当ギャップがあるのではないか。これもきちんと対処していきたいと思います。確かに仰るとおり、今、急速にそういうものが進んでいる国というのは、これまでインフラがなかった国が多い。そういう国だからこそ圧倒的に進んでいるという面がございます。典型的には中国ですし、あとはケニアのM-PESAもそうだと思いますけれども、そういう面がある。つまり、これまでの固定的なインフラがない部分を一気にキャッチアップする。ATMや店舗がないことがむしろ「プラス」になる状況もあり得ると思いますので、そういったことも踏まえ、きちんと対処してまいりたいと考えております。
以上です。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
それでは、奥田委員、お願いいたします。
○奥田委員 質問というか、聞いていてよく分からなくなってしまったのですが、まず、武内局長からは3つテーマがあり、東京市場の活性化というのが1つ、それから、もう一つは円の利用の円滑化、それから、単なる円の利用の円滑化ではなくて、今やアジアの通貨の円滑化と一緒に考えなければいけないと、この3つの話があった。それから、もう一つ、山岡局長の方からは、全体でまとめてしまうと、円を使うグローバルな日本企業をサポートしていくようなシステムを作っていきたいと、このようなお話でした。
円の利用の円滑化やアジアの通貨の利用の円滑化、それから、円を使う日本のグローバル企業をサポートするというのは、すっきり分かるんですが、東京市場の活性化のところがどのようにつながるかがよく分からない。確かに、ここにお書きになっているように、外債に対する需要がある。この外債も、中身としてはアジアの外債はそんなにないのではと思ったりするのですが、東京市場で複数通貨の多通貨決済みたいなものをやっていくと。あるいは、ドル決済をもっと、かなり簡単になったのだけれども、もっと簡単にしていきたいというお話がありました。
それで、先ほど植田先生から、要するに、グローバルな金融市場同士の競争なので、スケールメリットなどが大事になってくると。そういう話と合わせてみると、アジアとか日本の通貨の利用の円滑化の話はわかるんですが、別に東京の方の市場の活性化をやるために多通貨決済とかドル決済をやりやすくしていくと、逆にスケールメリットが益々きいてしまって、何となく前半と矛盾してしまうのではないか、あるいはどのように切り分けて政策を考えていくのかというところがよく分からない。もともと矛盾しているものなのか、それとも矛盾するものではないのか、あるいはどのように切り分けたらその辺りが一つの一貫した政策になるのか、もし何かアイデアがありますのならちょっと教えていただけると。
○小川分科会長 それでは、続いて、小枝委員、お願いします。
○小枝委員 今の奥田委員の御質問と関連するかもしれないですが、先ほどの事務局の報告では、アジアに進出する企業を助けると、中小企業などを念頭に入れている議論だったと思うのですが、東京市場の活性化で日銀ネットの話があって、大口の決済だと思うのですが、少し37ページにあったんですが、小口の決済で全銀システムに使われている。この小口の決済については、アップグレードの話などが特にあるのでしょうかというのが一つ質問です。コメントは、事務局の方の資料27ページに、円の利便性向上がもたらすメリットとあるんですけれども、先ほど、海外からの旅行者のメリットなど、そういった議論もありましたが、やはり貯蓄をする日本国民としてのメリットも、貯蓄をする側としてはやはり外貨建てでアセットをもって資金運用をする、現在手数料が非常に高い状況だと思うんですけれども、そういったことの軽減にもつながるというメリットもあるかと思いました。でも、そういうことが進むと、先ほどのベーシスコストの高いものが少し押し下げるような効果にもつながるのかなとも思いました。
ただ、そういったことで市場が活性化して、効率がよくなって、ドルファンディングコストも下がっていくと、今、ドルファンディングコストが高いから短いほうの国債が負の利回りでも持っているという状況なので、今のイールドカーブ・コントロールの状況などの与える影響というのも少し気になりました。これはコメントです。
以上です。
○小川分科会長 それでは、清水委員、お願いします。
○清水委員 中央銀行と財務省が一緒になってこういう取り組みをするということで、非常に嬉しく思います。
円がなぜ使われないのかということの大きなポイントが3つあると思うんですけれども、まずは、やはり円とアジア通貨の変動が激しい。これはよく私たちの研究でも言っていることなのですが、これに関しては、最初の植田委員が仰ったように、やはり円とアジア通貨が安定化するような為替政策というのを今後施行していくことを打ち出すということがまず大切ではないかと思います。
第2点目が、手数料が高い、取引コストが高いということです。これは、金額別に分かれると思うんですね。100万ドル以上のものであれば、外為市場で銀行から年間バンクのプライスがとれますから関係ないです。恐らく500万円以下であれば、今やクレジットカードが多通貨決済化していますので、それを使えばすごくコストが安くなると。問題なのが、恐らく1,000万から1億までの間の金額の中小企業が取引をするような取引に対して、今何が使われているかというと、仲値決済でTTS、TTBを使っています。これは、長年私は疑問に思っているのですが、プラザ合意前の270円の時代にTTS、TTB、1円、1円、プラマイだったのが、100円になってもなぜ1円プラスマイナスなのかと。ここが、でもこれは財務省や日銀が変えることではなくて、メガを中心とする日本の金融機関がそこを本当は変えてもらって、あのドル/円のTTS、TTBの1円が基本となってクロスレートのコストが決まっているので、なぜ日本でアジア通貨の決済などをしないで現地の国で行っているかと言ったら、もう手数料が安い、それだけに依存する。なので、ただし日本の金融機関の利ざやがすごく小さくなっているところで、なおかつ外為手数料を半額にしろというのは非常に厳しい注文なんですが、そこで武内局長が仰るように、手数料は下がっても取引は増えるのだと。倍増すれば、当然そこで収益が上がるわけですから、そういった道筋を財務省として打ち出していく。手数料を下げることが東京市場の活性化、ひいては円の利便性の向上のために必要不可欠であるということを、一回言ってみても良いのではないかと思っています。
最後ですが、最後の伊藤隆敏委員が仰った、円がなぜ使われなかったか、元がなぜ成功したのか。一番の理由は、元高の予測があったということだと思います。皆が元を持っていても、この後元が高くなるという予測があれば、元の取引で元が手元に残って、これが換えられなくてどうしようと思っても、まあ、元が高くなるからいいやと思って持っているわけです。それに対して日本円を誰が預金で海外で持つかといえば、この金利が低いこと、そして日本政府が、これは根本的な問題なのですが、円安が良いと常に何となく打ち出してしまっているところが、将来円安になるのに円を誰が持つかというところになると思うんですね。
そこはまた置いておいてですけれども、少なくともドルが使われている一番の理由は、中小企業であれば少なくともドル預金ぐらいは持っていて、ドルとアジア通貨の取引コストが安ければ、そこでドル/ルピアとか、ドル/ルピーの交換をするとなっているので、やはり外国の企業が円預金を持っているという状況が常態化して、それで円と直接交換というところで、初めてそこにニーズが出てくるのだと思います。その意味では、根本的ですが、このマイナス金利あるいは日本の金融政策が早く出口に向かって、あるいはこの先、円高基調、あるいは円高にならずとも、円安を望まず、この安定的な相場で良いというような政府になれば、おのずと海外の人が円を持ってもいいや、円と直接交換をしようというような環境が生まれるということだと思います。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。それでは、どうぞ。
○植田委員 すみません、最後に一言。
伊藤委員、清水委員の話を聞いて改めて思ったんですけれども、やはり10年前と違うのは、ドル機軸通貨制というのは日本にとってさほど悪い話ではなかったので、今まで色々やってこなかった。何だかんだ言っても、あまり積極的に打ってきていなかったと思います。円安は何だかんだ良い話だということもあって。でも、やっぱり歴史的に今転換点にあるのは、恐らく放っておいたら、もしかしたらアジア地域の機軸通貨が人民元になってしまうかもしれないという可能性が今出てきている中で考えないといけないという話で、いろいろなことを話していると思います。そうだとしたら、では、ドルの代わりに円を機軸通貨にすべきかというのが一つありますが、恐らくそれは皆さんわかっていらっしゃるように人民元とどちらがなるだろうかという可能性を計算したら、若干難しいかなというのが現実ではないかということで、私が次に考えたのは、当時のヨーロッパが何をしてきたか。ドイツマルクが機軸通貨制になるかというときに、やっぱり他国が反対してユーロ、エキューとかから始めて、ERMとか、スネーク制から始めていたわけなので、恐らくそこに行き着くしかない。人民元を、危険を考えて何かやるとしたら、そうやっていくのではないのかなと思いながら読んでいて、だからアジアと協力していくのではないかという話で、うまくこれはつながっている話だなと思って読んでいました。大局観はそのような感じではないのかと私は思いますが、いかがでしょうか。
○小川分科会長 では、伊藤隆敏委員。
○伊藤(隆)委員 清水さんに反対するわけではないのですが、TTS、TTBは確かにプラスマイナス1円ですけれども、多分中小企業でも色々なところがあって、きちんとメーンバンクと話ができていれば、プラスマイナス1円ではなくて0.5円のところもあるでしょうし、それは顧客によって差別化していると都銀やメガの方が言っているので、そういうことではないかと思うんですね。
むしろ、何で仲値を使うのというところが問題で、仲値の決め方で、ロンドンではスキャンダルがあって改革されましたけれども、東京は色々な理由でコリュージョンはないと、あり得ないということでおとがめなかったわけですけれども、よくよく聞いていくと、やはりその仲値で取引しているというのは輸入業者が多いと。そうすると、ドルを買うわけですから、ドル高になるんですね。2秒か3秒の間。今の高速取引ですと、2秒とか3秒というのは永遠に長い時間ですから、そこでドル高になった値段を仲値と呼べば銀行がものすごい収益を上げることができるということがあって、では何でそんな仲値で取引を業者はするのかというと、これは規制業種だから、原価が上がればそれを消費者に転嫁すればよいと思っているに違いないというのが回答で、それは、その規制業──要するに電力、ガスですけれども、そういうところが仲値取引をしている。輸出業者はなぜ仲値取引をしないかというと、それはもう、ソニーでもトヨタでも、世界中で取引をして、世界中からの通貨のやりとりがあるので、東京市場は仲値で取引なんかしないと。シンガポール、ロンドンにファイナンシャル、カレンシーオーバーレイをやる会社を自分たちで作ってやっているということなので、東京市場はある意味ゆがんでいるということだと思います。
それから、今は円安傾向があるので、円を持とうとされないのではないかということでしたけれども、円の国際化をやっていたときは円高傾向があったんですよね。それでも持ってくれなかった。円安傾向になったら、では円で借りてくれれば良いじゃないかと。でも、円でも借りてくれない。だから、円高傾向でも円安傾向でも、理由としては逆の理由で使われてこなかったというところはつらいところだと思うんです。バスケット制も随分、清水さんとの共同研究もありますけれども、色々頑張ってきたけれども、これもあまりうまくいっていないというところであります。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
それでは、武内局長からお願いいたします。
○武内国際局長 どうもありがとうございます。 まず、円の利便性、アジア通貨の利便性はともかく、東京市場が何で出てくるのかというところですけれども、せっかくですから東京市場もうまくこのテーマの中で取り上げられないかということでございます。Economies of scaleの話があって、金融市場一体化が進み各市場の競争が進む中で、幾つも市場が要らなくなるわけですよね。一つで足りるのではと。全世界、アジアで一つといったときに、東京市場が生き残るためには何ができるのかという視点を落としてしまうと東京市場をある意味見捨てた形にもなりかねないので、それで入れさせていただいたところでありまして、全くフィットするとも思えませんけれども、他方でまだ十分マーケットとしての存在価値があるだろうから頑張れというつもりで、そのような整理で入れさせていただいたというところであります。
それから、奥田委員の、大企業、中小企業で、中小企業の方、仰られるように、先ほど少し御紹介したロー・バリュー送金の話です。あのようなものをもう少し工夫してやっていくことが大事だと思っていますので、そういったことは勉強していく余地があろうと思います。
それから、最後に、大家の皆様から色々御指摘をいただいた、大局観を持ってどうするのかというところなのです。段々日本経済の重点が徐々にアメリカからアジアに移っている一方人民元は、今はバスケットの決め方に非常に不透明なところがあるわけです。そういう意味では、日本の円というのは正々堂々としているところもありますから──そういうことも踏まえながら、きちんと、徐々にやっていければと思っています。もちろん簡単ではないわけでして、アジアの国々と話していると、中国もあるし、日本もあるし、ASEANはASEANでかたまりたいみたいなところがあるので、ではASEAN各国がやろうとしているトライアルの中に日本がすぐに入れるかというところは難しいですし、ましてや、人民元抜きで日本だけ入ろうなんて、そんな度量の狭いことを見せたら、ますます敬遠されてしまうので難しい。さはさりながら、今日こうしてお示ししたように、日本の経済の重点がアジアに移っていく中で、どうしたら円が引き続きより一層御愛顧いただけて、東京マーケットが御愛顧いただけるのかということは粘り強く模索し続けていく必要があると思っています。大局観を失わずに、引き続き知恵を出したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
○小川分科会長 山岡局長、お願いします。
○山岡日本銀行決済機構局長 ありがとうございます。
まず、今幾つかいただきましたが、人民元のお話でございますけれども、例えば、「スネーク」や「ERM」のような、これもご提案いただいたわけでございますけれども、「完全フロート・変動相場制」以外の仕組みを採るときの問題は、やはり「合意を守っていくインセンティブ」をどう維持するかではないかなと思います。「ERM」の時も、―これは御記憶かと思いますけれども―要するに、イギリスとイタリアがとっとと抜けたわけです。それで輸出主導で回復して、まだフランスやドイツは根に持っているわけです。そういうことも考えますと、やっぱりそういうものが持続可能かどうかという論点もあろうかと思います。
それから、これは委員から御指摘いただいた、「なぜ人民元と円の直接交換市場が」というお話とつながってくるのですけれども、これはやはり、直接交換となると、例えば銀行などが、両方の通貨ともふんだんな流動性を持っている。あるいは、いざというときの円、人民元、どちらの調達に関しても不安がないことが必要ですけれども、やっぱり人民元の流動性調達に関して不安があるという先が多いので、なかなかそういうマーケットができない部分があるのかなと思います。これは中国の方でも、今CIPSなどの制度を作っていますので、今後これがどうなるかわからないし、引き続き見ていかなければいけないのですけれども、例えば、今、ビットコインは、結局中国の為替政策がどうなるかを見て、がんがんレートが動くわけです。これを見ても、やはりマーケットの見方がそこまで収れんしていないからこそ、そういうことになっている面もあるのではないかなという気がいたします。
それから、伊藤隆敏委員から仲値のお話をいただきました。これは本当にここ数年、大変な話題だったのですけれども、仲値については、これも御存知のとおり、仲値はそれぞれの銀行が出すものであるから「指標」ではないという議論になっているわけです。ただ、国際的にこういった指標金利や指標プライスに対する見方が非常に厳しくなっているということもしっかりと考えながら、対処して参りたいと思います。
それから、政策関連で幾つかいただきましたけれども、小枝委員から、円/ドルのプレミアムによって、例えばTBのマイナス金利が深くなっている。これがなくなると、という話ですけれども、円/ドルの調達プレミアムについて日本円がディスプレミアムを余計に払っていて、外人がマイナス金利で調達できるので、TBを買ってもペイする状況では、確かにTBのマイナス金利は深いかもしれませんけれども、それがすごく景気浮揚効果があるわけでもないと思います。円/ドルのドル調達コストが下がった結果として、TBのマイナス金利幅が若干縮まったとしても、それはすごく大きな問題というわけではないのかなと思います。
それから、とっととこのマイナス金利の政策を早くやめてということなんですけれども、これは本当に仰るとおりでありまして、日本銀行としては早期に物価2%を達成したいということで、この政策をやっているわけです。例えば国会などでもしょっちゅう、一向にこの物価2%が達成できないのに、どうして2%という目標を置き続けているのかといった質問をよくいただくわけですけれども、一つの理由としては、各国、特に先進国の大きなエコノミーが大体2%と言っているわけです。この中で2%以外の数値を掲げれば、それ自体が為替の変動要因になってしまうので良くないということを申し上げているわけでありまして、日本銀行としては、この2%を掲げ続け、一日も早く、この2%を達成して参りたいと考えているところです。
以上であります。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。 時間が随分過ぎておりますので、本日の議事をここで終了させていただきたいと思います。 なお、今回の議事録の作成は私に一任いただければと存じます。その際、発言部分を事前にご覧になりたい委員の方におかれましては、会合終了後にその旨を事務局に御連絡いただきたいと思います。御連絡のございました委員の方には議事録を案の段階で事務局より送付したいと考えております。その後、1週間程度の間に御意見がない場合には、御了解いただいたものとして理解させていただきたいと思います。それでよろしいでしょうか。
(異議なし)
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
次回の分科会につきましては、事務局と相談の上、御連絡させていただきたいと思います。
以上で終わりたいと思います。
本日は、長い時間にわたりまして御出席いただきまして、ありがとうございました。
午後5時08分閉会