関税・外国為替等審議会
第37回外国為替等分科会議事録
平成30年3月12日(月)
財務省 国際局
於 財務省第3特別会議室
(本庁舎4階)
○小川分科会長 それでは、お時間になりましたので、ただいまより第37回外国為替等分科会を開催いたします。
委員の皆様方におかれましては、御多用中のところ御出席いただきまして、ありがとうございます。
本日は、プレゼンターとして、日本銀行より山岡決済機構局長をお招きしております。よろしくお願いいたします。
それでは、本日の議事に入りたいと存じます。
本日は、前回の分科会の進捗報告として、武内局長より「アジアにおける金融協力の推進」について説明をしていただきます。その後、山岡局長より「グローバル金融インフラとアジア・日本の視点」について御説明いただき、その後、質疑、自由討議の時間をおとりしたいと思っております。
まず、議題「アジアにおける金融協力の推進」に移らせていただきます。
武内局長、よろしくお願いいたします。
○武内国際局長 それでは、よろしくお願いいたします。
お手元に「アジアにおける金融協力の推進~日本とアジアの成長基盤の更なる強化に向けて~」という資料を用意させていただいておりますので、それに基づいて説明させていただきます。
前回の外為等分科会、昨年の6月に開催したところでございますけれども、まさにこのテーマで御議論いただいたところでございます。本日は、その後どうなっているのかということを報告させていただきたいと思います。
まず、「全体像」、3ページをご覧いただきたいのですけれども、この中で「主要課題」というところがまさに昨年の6月時点で今後フォローアップしていくべきものとして議論されたところでございます。セーフティネットの充実、円・アジア通貨の直接交換市場の拡大、現地通貨建て取引の促進、円決済のグローバル化といった点を挙げておりますけれども、私の方からは本日は財務省が進めている取組について、それから山岡局長から日銀の方でお進めいただいている取組について、それぞれ現状報告をさせていただきたいということでございます。
まず、「アジアにおけるセーフティネットの充実」ということでございます。
5ページをご覧いただきますとお分かりいただけますように、グローバル金融セーフティネットというものは幾つかの層に分かれてできておりまして、一番上にIMFが設けているセーフティネット、その次に地域金融の観点からリージョナルアレンジメントがあります。更にはバイの、二国間の通貨スワップがあり、最後に各国がそれぞれの外貨準備を用意しているというところでございますけれども、私ども、これまでのところは、セーフティネットという時には、この左側のグローバル金融セーフティネットのことを議論することが多うございました。他方で、最近力を入れておりますのは、それに合わせて自然災害セーフティネット、このページで言うところの右側でございます。東南アジアの国々は、様々な自然災害によって持続的な経済成長が妨げられることもございます。そういった中で、そのような自然災害に襲われた時に、金融セーフティネットに加えて用意できるセーフティネットとして、自然災害セーフティネットというものにも最近注力しております。前段ではグローバル金融セーフティネット、後段では自然災害セーフティネットというものを御紹介させていただきます。
まず、グローバル金融セーフティネットでございます。このページの左側を見ていただくとお分かりいただけますように、2008年の世界金融危機以降、急速に拡大しているわけでございます。内訳を見てみましても、外貨準備やIMF以外にも、地域でのセーフティネット、それからバイのスワップアレンジメントが相当程度貢献してきているということがお分かりいただけると思います。
次のページでございます。地域金融取極でございますけれども、特にASEAN+3としての取組についてフォーカスさせていただきます。アジア通貨危機以降のASEAN+3のマルチ金融協力は、2008年から2009年の世界金融危機を契機としまして、大きく進展・強化されています。当初はチェンマイ・イニシアティブは断片的な二国間のバイのスワップアレンジメントのネットワークとして発足したわけでございますけれども、その後マルチ化されるとともに規模の倍増などの機能強化が図られたほか、サーベイランスユニットとしてのAMROが設立されたところでございます。以上のことを7ページでは簡単に時系列で書かせていただいているところでございます。
次のページでは、先ほど最後にAMROと申し上げましたけれども、チェンマイ・イニシアティブとAMROとの関係について書かせていただいてございます。チェンマイ・イニシアティブは、ASEAN+3域内の短期流動性支援に主眼を置いた取極でございますけれども、AMROは、その短期流動性支援との関係では、これを支えるための事務局的な機能を果たしているところでございます。AMROは、平時においてはASEAN+3に特化した経済サーベイランスを行い、危機時においてはチェンマイ・イニシアティブ発動時の事務局支援機能を担うということで、平時においてはアジアにおけるOECDのような機能というものを果たしていきたく、今までもスタッフの充実等々を図ってきているところでございます。それから、危機時においては、きちんとチェンマイ・イニシアティブが機能するように様々な手続を行うということを考えているところでございます。
次のページに、IMFとRFA(Regional Financial Arrangement)等の連携強化の必要性について書かせていただいております。過去の金融危機を振り返ってみましても、IMF以外の金融セーフティネットの役割が重要となってきております。例えばユーロ危機時には、IMFよりもRFAである欧州安定メカニズム(ESM)などが大きな役割を果たしているところでございます。例えば、ギリシャの2回目の債務危機時などを見てみても、いかにヨーロッパサイドのリージョナル金融セーフティネットが大きな役割を果たしているかというのが見てとれると思います。こうしたことを踏まえれば、IMFがRFAとどのように連携を強化していくのかが非常に大きな問題となると思っております。
では、そのIMFとRFAとの連携の試みについて、次のページで御紹介したいと思います。10ページでございますけれども、実は昨年の7月にIMF理事会は、IMFと地域金融取極との連携に関わる理事会ペーパーを承認してございます。これを受けまして、昨年10月にはAMROはIMFとMOUを締結し、サーベイランスミッションへの参加、スタッフの人事交流などを促進していくことで合意しているところでございます。IMFとRFAとの連携強化の運用原則を参考で書かせていただいておりますけれども、IMFとRFAはそれぞれ独立性を担保しつつ、どのようにプログラム作成に当たってのコーディネーションをしていくのかというのが非常に大きな課題となっているところでございまして、これについては、今後も改善すべき点は改善していく必要があると思っております。
それから、IMFとチェンマイ・イニシアティブの連携強化、これも1つの課題でございます。IMFはIMFでグローバルセーフティネットとして危機時に作動するわけでございますけれども、チェンマイ・イニシアティブも地域におけるセーフティネットとして危機時に稼働するわけでございます。では、その両者が連携をとりながらどのように稼働していくのかが非常に大きな課題となるわけでございますけれども、いざという時に備えて、これまでIMFとチェンマイ・イニシアティブとの間では、合同テストランということで、模擬演習をしているところでございます。模擬演習の結果浮かび上がってきた問題について更に改善を重ねて、実際に危機が発生した際にはスムーズに展開していこうというわけでございますけれども、実際これまで認識されてきた課題といたしましては、第一に早期の情報共有のあり方、第二に政策の一貫性、すなわちIMF側の提言する政策とチェンマイ・イニシアティブ側の提言する政策との間の一貫性等に関しての緻密な連携のあり方について模索し、これからも検討が必要だということになってございます。
次のページでは、リージョナルの次のレベル、二国間通貨スワップ取極(BSA)について御紹介します。日本は、アジア各国との間でBSAの締結を推進しておりまして、現在、タイ、インドネシア、シンガポール、フィリピンの4か国と結んでいるところでございます。マレーシアとも現在協議中でございまして、近々締結することができようかと思っているところでございます。これまで日本が結ぶBSAについては、要請を受けて危機時にドルが供給されることを想定しておりましたが、昨年5月の横浜でのアジア開発銀行総会の際に開催されました日ASEAN財務大臣・中央銀行総裁会議におきまして、要請国側が要請するのであれば、ドルのみならず円も選択可能とすることを提案したところでございます。そのような提案を受けまして、現在、ASEAN各国との間で円での引き出しも可能とするようなBSAの改正交渉を申し入れているところでございますが、昨年10月時点では、フィリピンとの間のBSAにおいて、円でも引き出し可能なものに改正したところでございます。
次のページにお進みください。これまでのBSAと新型のBSA、両方の比較を書かせていただいております。ASEAN金融統合や日本企業のASEANへの進出が進む中、アジア唯一のハードカレンシーである円に対しては、ASEAN諸国からも一定のニーズがあるということが、ヒアリングの結果分かったところでございます。このため、円の流動性を供給するメカニズムとしてBSAを使えないかということで、先ほど申し上げたように、円での引き出しも可能な新しいタイプのBSAとすることとしたところでございます。あわせて、AMROのサーベイランス能力向上を背景としまして、これまでIMFのプログラムなしに発動できるチェンマイ・イニシアティブの割合を30%としておったのを今後は40%に引き上げることも提案させていただいているところでございまして、今般のフィリピンとの間の新型のBSAでも30%から40%の引上げがされたところでございます。
以上がグローバルセーフティネット、リージョナルセーフティネット、それからバイラテラルのスワップアレンジメントでございますけれども、次に、簡単にアジアにおける災害リスクの観点からのものを御紹介させていただきます。
自然災害に対するセーフティネットについて御紹介します。アジアにおいては自然災害が様々な形で発生し得るわけでございますけれども、低所得国においては、経済・社会全体、特に貧困層に対する影響が大きいことが懸念されますところ、それへのセーフティネットを別途構築できないかということが問題意識でございます。14ページをご覧いただきますと、ASEAN10か国の自然災害による損害状況というものが出てございますけれども、対GDP比の経済損失比率というものはかなり高いわけでございます。
では、何ができるのかということで、既に取り組んでいるものをまず御紹介させていただきます。まずは、太平洋地域でのPCRAFIという自然災害リスク保険の事例でございます。PCRAFIは、地震や台風等による大規模自然災害が発生した際、一定の推定損害額を超えた場合に迅速に保険金が支払われる保険メカニズムを活用したプログラムでございます。日本はこれを世界銀行とともに立ち上げまして、これまで既に3件の保険金の支払いがございます。ここに書かせていただきましたように、2014年から2018年にかけまして、トンガで2件、バヌアツで1件、いずれもサイクロンが絡んでいるものでございますけれども、そういったものについて保険金を支払っているわけでございます。日本は、災害の多い国として世界銀行に対して率先して資金を拠出するとともに、英・独・米のドナー参加や再保険市場への民間損害保険会社の参加に対してリーダーシップを発揮したところでございますし、日本の大手損保会社も災害リスク保険の再保険に本件から初めて参加したところでございます。
このPCRAFI、太平洋地域での自然災害リスク保険を経験して、もう少しその範囲を拡大できないかということで取り組んでおりますのが、次の16ページのSEADRIF、地域災害リスクプールの創設でございます。PCRAFIの参加国はアジア太平洋の島国であったわけでございますけれども、ASEAN地域での自然災害リスクということで、具体的には、世銀と協力して、カンボジア、ラオス、ミャンマーとの間で保険を利用して同じようなことができないかということで、SEADRIFを提案しているところでございます。この場合は、対象とする災害は、主に洪水を想定しているわけでございますけれども、アジアで初めての災害リスク保険の地域単位での取組ということで目新しいところもありますし、来年の稼働を目指して各国との協議を加速させていただいているところでございます。実は、このようなことを考えているのだということは、昨年の横浜でのアジア開発銀行総会の際にもカンボジア、ラオス、ミャンマー以外のASEANの国々にも紹介しましたところ、例えばインドネシア等々、非常に関心を示している国々もございましたので、これらの国々にも将来的には拡大することはできないかということも含めて検討を進めていきたいと思っているところでございます。
次のページでは、日本が推進する災害リスク保険の特徴ということで、大規模災害の資金需要に耐え得る巨額の補塡を迅速に実行できることを挙げております。リスク移転を、大規模で低頻度のものについて進めることができないかということで、考えていきたいと思っておるところでございます。
18ページは、アジアにおけるセーフティネットの充実ということで、これまで私が申し上げさせていただいたところのポイントを書かせていただいております。
以上がセーフティネットの話でございます。
次に、昨年も1つの大きなテーマとなりました「円とアジア通貨の利用拡大に向けた取組」ということで、最近の動きについて御紹介させていただきます。
20ページをご覧ください。円とアジア通貨の利用拡大に向けた取組としては、2つの大きな柱があります。1つは、ASEANにおける現地通貨利用拡大の動き、もう1つは、現地通貨建て債券市場の育成に向けた取組ということでございます。前半部分では、ASEANにおける現地通貨利用拡大の動きということで何点か申し上げさせていただきます。後半では、ABMIを中心とする現地通貨建て債券市場の育成に向けた取組について最近の動きを御紹介させていただきます。
まずは、現地通貨の利用拡大に向けた動きでございます。ここで最初に取り上げさせていただきたいのは、残念ながら日本が関与しての取組ではないのでございますけれども、タイ、マレーシア、インドネシアが開始したLocal Currency Settlement Framework(LCSF)というものでございます。ASEAN各国では、アジア通貨危機の経験もあり、各種規制によりオフショア市場の整備が不十分なことから、依然として現地通貨の使い勝手は良くないということが言えようかと思います。一方で、ASEANの各国は、将来的にはASEAN金融統合を志向していることもあり、オフショア市場創設という形ではない現地通貨の利用促進策を模索しているところでございます。こうした中で、LCSFは、タイ、マレーシア、インドネシアの3か国の中央銀行が進める現地通貨建ての貿易取引・決済の促進を目的とする協力枠組みです。昨年の12月11日、3か国の中銀がこれを発表したわけでございますけれども、具体的には、タイとマレーシアの間で、これまでモノとサービスの貿易のみを対象として現地通貨建ての決済を促進してきたところ、これを投資等にも拡大するとともに、指定される取扱銀行がこれまでタイ・マレーシア双方3行ずつとされていたところを、双方7行ずつまで拡大することとなりました。さらに、インドネシアとタイ、インドネシアとマレーシアの間は、まず貿易取引等について現地通貨建ての決済取引を開始することになったことがアナウンスされたわけでございます。この取組により、マレーシア・タイ・インドネシアの間では平時におけるそれぞれの現地通貨の利用が促進され、アジア通貨の交換可能性を高めていくことが大いに期待されるところでございます。
併せて付言させていただきますと、今回の拡大によって、タイとマレーシアの間では、BTMUマレーシアとアユタヤ銀行が取扱銀行として指名されるなど、日系銀行もこの枠組みに関与できるようになってきているところでございます。
この点につきまして、タイ中銀からヒアリングしたのでございますけれども、現地通貨の利用を拡大する取組を当初はASEAN全ての国で行いたいと考えていたが、足並みをそろえるのが難しく、結果的には地理的にも経済的にもつながりの深いマレーシアと始めることになったとのことです。一方で、タイ中銀としては、例えばミャンマーではタイバーツが公式のインボイス通貨として認められていないなど、ハードルは高いものの、将来的にはこのLCSFの取組をASEAN全体に広げていきたいと考えているとのことでございました。
したがいまして、このLCSFが将来のASEAN金融統合の第一ステップとなる可能性も十分あるのかと思っておりますし、そういった観点からも、日本としてもサポートできることはサポートしていきたいと考えているところでございます。
次のページはタイバーツの利用拡大の動きでございます。先ほど申し上げましたように、LCSFの取組にタイは熱心でございますけれども、タイは「タイバーツの利用拡大」という観点からLCSFにも取り組んだわけでございます。この背景には、タイバーツは特にASEAN各国との貿易取引で多く使用されておりまして、昨年第4四半期の数値ではASEAN向け輸出の25%、輸入の14%がタイバーツでの受払いとなっております。その背景には、カンボジアやラオスとの国境近くでの取引でタイバーツが利用されていることで、カンボジア、ラオスの一定地域ではタイバーツの使用ができる地域が広がっていることがあると考えられます。ラオスではビエンチャンにかなり近い地域までタイバーツが通用し、カンボジアでもタイ国境から50キロメートルくらいまでのエリアでタイバーツが使えたという話もあるわけでございまして、そういったことが背景になっていることと思われます。
では、そのタイバーツと円につきまして、我々の最近の試みを紹介させていただきますのが23ページでございます。6月の外為等分科会におきまして、円とタイバーツの直接交換を課題として提示させていただきました。それを受け、昨年の9月には、為替市場において電子ブローキングサービスを提供しているEBS社が試験的に円=タイバーツの直接交換市場を開設しました。対アジア通貨としては、2012年6月に開設した円=人民元の直接交換市場に続き2例目となるわけでございます。まだまだタイバーツと円との間の直接交換市場は規模が小さいし、正直申し上げて取引量も伸び悩んでいると聞いておりますけれども、今後、取引の拡大が期待されているところでございます。また、タイバーツと円との間の直接取引に加えて、機会があれば、人民元やタイバーツ以外の通貨との間の直接交換市場の開設も進めていきたいと考えているところでございます。このようにしてタイバーツと円の間の直接交換取引を行うことが可能となれば、ドルを介しての取引が不要となりますので、マーケット次第でドルが非常にショートするような状況であってもタイバーツと円の間の取引が順調に進むというメリットがあるわけでございますので、これは大事なことと思っているところでございます。
24ページは、実は先週、タイ中央銀行との間で現地通貨の利用促進に関する協力覚書を結んだところでございまして、それを掲げさせていただいているところでございます。ここでも、日泰間の為替取引の促進、関連規制緩和を含めた施策の実施に向けまして、円=タイバーツの直接取引に関するレート表示や銀行間市場における取引を促進させること、定期的な協議を実施するなど日泰当局間の協力体制を強化すること、で合意しているところでございます。実は、日本の金融機関がタイでビジネスをするに際しまして、タイ中央銀行が設けた様々な規制がまだあるところでございます。これらにつきましても、円とタイバーツの直接交換をすることを通じながら、何とかタイ側の規制について、これを緩和する方向に働きかけることができないかということを考えておりまして、今回の協力覚書がその1つの足がかりになろうかと思っているところです。
以上がアジア通貨間の利用の促進、更に言えば円も絡めたものでございますけれども、あと2つほどアジア通貨との関係で御紹介させていただきたいと思います。
まず、邦銀による中国パンダ債の発行でございます。これはASEANの動きとは関係ございませんけれども、人民元との間の現地通貨利用拡大の動きとして、本年1月に本邦のメガバンクが中国市場において人民元建て債券(パンダ債)を発行することに至ったわけでございます。三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行はそれぞれ10億人民元、5億人民元を発行できたということでございまして、これも1つの人民元との間の現地通貨利用拡大の証左だと思っております。
もう1つ、26ページでございますけれども、日本の金融機関から、なかなか長期でのアジア現地通貨の調達が難しいというリクエストがかねてよりございました。それを受けまして、2016年のJBIC法の改正におきまして、JBICの現地通貨調達手段を充実させる観点から、JBICが民間銀行からの現地通貨建ての長期借入をすることを可能といたしたところでございます。JBICが、例えばタイならタイの現地金融機関からタイバーツを借り入れ、借り入れたタイバーツを使ってタイでの日系機関のビジネスを円滑にするという試みでございまして、出融資の実績もこれからまだまだ伸びると考えておりますので、こういった試みも引き続きフォローしていきたいと思っているところでございます。
以上が現地通貨の利用の話でございます。
次に、現地通貨建て債券市場の育成に向けた取組について御紹介させていただきます。
まず、27ページで、そもそもなぜ現地通貨建て債券市場の育成に向けた取組をするのかということでございます。右のグラフをご覧ください。縦軸に名目為替レートの下落幅を示しておりまして、上に行くほど下落が大きいものでございます。横軸は現地通貨建て債券の発行の変化を示しておりまして、右に行くほど発行が増加しているということでございます。ここでは、右斜め下に直線を引く形で、正直申し上げて弱い形でございますけれども、ある程度相関関係が見られます。ということは、現地通貨建て債券の発行量が増加するほど危機時における名目為替レートの下落を受けにくい、すなわち、現地通貨建ての債券発行ができれば、現地通貨のショックに対する耐性が強くなってくるということが見てとれるので、現地通貨建ての債券市場育成について取り組む必要があろうということで、過去に取り組んできたところでございます。
28ページをご覧ください。ABMI(アジア債券市場育成イニシアティブ)というものが2002年から開始されてございます。これはアジア通貨危機の一因となった通貨と期間のダブルミスマッチの解消を目的として、アジア通貨建て債券市場の育成のために2002年以降取り組んでいるわけでございまして、幾つかの項目で主な活動をそれぞれ書かせていただいております。以下、個別の取組について御紹介させていただきます。
まず、現地通貨建て債券市場の規模につき、最近の動きを見ていただきたいと思います。左側をご覧いただきますと、ABMIが創設された2002年頃から比べますとASEAN6の現地通貨建ての債券発行高は約4.5倍規模にまで拡大しているところでございます。債券の発行が膨らんできているわけでございますけれども、海外投資家の国債保有比率を見てみますと、インドネシアにしろ、韓国にしろ、マレーシアにしろ、タイにしろ、欧米の投資家が多く保有しているところでございます。ただ、今後、アジア通貨の自由化が進展すれば、アジア域内のクロスボーダーでの国債保有の拡大も想定されるわけでございますし、そのようにして裾野が広がれば、各国において、例えばインドネシアのボンドをマレーシアの居住者が保有するとか、フィリピンのボンドをシンガポールの居住者が保有するといった形でのASEAN域内での国境を越えた債券市場の拡大がますます見込めるのではないかと考えているところでございます。
次の30ページでございます。Asian Bonds Onlineです。これは域内の債券市場に関する情報やABMIの活動を紹介するウェブサイトでございまして、アクセス数もそこそこ増えてきているところでございます。アジアに関するレポートでも着目されてきているようでございますし、こういった情報発信もこれからどんどん進めていきたいと考えているところでございます。
次のページ、ABMF(ASEAN+3 Bond Market Forum)ですが、ADB主催の官民合同のフォーラムとして、域内の債券発行手続の標準化を志向したAMBIF債などを議論することでクロスボーダーの促進を目指しているフォーラムでございます。過去2015年にみずほ銀行がタイでAMBIF債を1つ発行したところでございますけれども、2件目がなかなか出てきておりません。現在、後から申し上げるCGIF保証を活用した第2号案件をカンボジアで計画中というところで、こういった動きもこれから促していきたいと思っているところでございます。
こういった国債市場の発展のためのグッドプラクティスとしてどのようなものがあるかにつきましても、32ページにありますように、昨年のG20作業部会最終報告書にも、現地通貨建て債券市場の取組について、唯一の参照文書としてこのグッドプラクティスが取り上げられました。これは今後ASEAN+3域外国にその知見を展開できるものと考えておりますし、域内でも引き続きこういった知見について蓄積していくことが重要かと考えているところでございます。
債券市場を充実させるということは、言うは簡単でございますけれども、やはり自国の債券市場で自国通貨建てのものを発行するに当たっては、それなりの能力が必要でございます。債券市場が未発達な国では、なかなかそのような能力が無いわけでございまして、日本は、そういった国々を支援するため、具体的にはカンボジア、ラオス、ミャンマーの債券市場育成を支援するために、これまで技術支援を行ってきているところでございます。足元の技術支援の例につきまして、33ページにも掲げさせていただいていますけれども、こういった地道な努力を続けることによって、実際の債券市場のための足腰を強化していくことも必要かと考えているところでございます。
最後に、この関係でCGIFについて御紹介したいと思います。
CGIFと申しますのは、34ページになりますけれども、ASEAN+3域内で債券発行による資金調達が困難な企業の信用力を高め、現地通貨建て債券発行を円滑化することを目的として設立された機関でございます。当初7億ドルの規模で、2010年の11月にADBの信託基金として設立されたわけでございますけれども、自力では債券を発行できないような企業に、あるいはなかなか発達していない現地通貨の市場で何とか債券を発行できないかと、それを容易にするためにCGIFが保証するということでございます。2014年12月に保証したベトナムの食品・飲料の製造・卸売業は、その後、CGIFの保証なしに社債を発行するなど政策効果を上げつつあるわけでございまして、発射台、最初の踏み台としてCGIFを使って、それがその企業が伸びていく上での役に立てばと思っているところでございます。
次のページ、CGIFによる民間資金動員の規模でございますけれども、これをご覧いただきますと、各機関の保証による民間資金の動員では、CGIFは、世銀、アフリカ開発銀行に次いで第3位の実績を上げているところでございまして、それなりに保証機関としての役割を果たしているところであると思います。
CGIFの保証の実績につきましては、36ページに掲げさせていただいておりまして、保証可能枠、それから保証件数、いずれもそれなりに増えてきているところでございます。
そういった中、CGIFの当初の出資が足りなくなりまして、昨年の12月にはCGIFの増資が出資者の賛成多数をもちまして議決されたところでございます。日本も相当程度出資をしてきているところでございますけれども、今回も応分の出資を応諾し、もう既に割当額は振り込みました。他方で、CGIFにつきましては一層厳格かつ緻密な運営が求められますところ、リスク管理の強化などの課題を検討していきたいと思っております。
以上が円とアジア通貨の利用拡大に向けた取組でございます。
38ページでは、これまでのセクション3のまとめをお示ししているところでございます。
最後でございますけれども、情報技術による金融イノベーション、いわゆるフィンテックが、アジアの金融協力の推進にどのような可能性を持つかということについて、クロスボーダーの決済を中心に簡単に触れさせていただきます。
クロスボーダー決済の課題とフィンテックの活用ということでございますけれども、従来からクロスボーダーの決済につきましては、送金にかかる時間やコストが利用者の大きな不満でございました。例えば、日本からカンボジアへ米ドルを送金する場合、銀行窓口からの依頼では4~6営業日かかります。さらには、中継銀行数が事前には分からないため、最終的な手数料額が送金後まで分からないという場合も多うございました。また、中央銀行など決済サービスを提供する主体にとっては、より安価で頑健な決済システムを実現することが課題でございました。そういった中で、スマートフォン、ビッグデータ分析、分散型台帳技術、こういった新しい情報技術を活用して、送金にかかる時間やコストをどのようにして縮めることができるのかというのが、クロスボーダー決済における大きな課題だと考えております。次ページ以降では、電子小口決済の活用、銀行間決済への分散型台帳技術の活用という2つの観点から、クロスボーダー決済におけるフィンテック活用の取組について簡単に御紹介させていただきます。
まず、41ページでございますけれども、皆さん御案内のとおり、中国ではAlipayやWeChatPayが、利便性に加えて導入コストが低いために、ユーザー数はそれぞれ5億人、9億人を超えるようになってございます。そしてもう1つの特徴は、これらの両サービスはいずれも銀行ではない主体が提供しているわけでございまして、むしろそういったことを通じて集められた情報を分析することによって収益を上げるということで、これまでの銀行とは異なる形で電子小口決済にアプローチして大きな成果を上げているところでございます。中国以外にも、インドやケニア等、現金以外の決済手段が未成熟な国々を中心に、銀行ではない主体が電子決済サービスを提供する例が急速に増加してきているわけでございまして、先進国でもその例が見られます。日本の場合は、幸か不幸か、まあ幸いだと思いますけれども、現金に対する国民の信用が非常に高うございまして、なかなか現金決済の比率が急速に低下する様子は見られないわけでございますけれども、今後、電子小口決済についてどのように対応していくのかというのが1つの大きな課題になろうかと思っております。
次のページ、電子小口決済の活用事例の2つ目でございます。これは海外の事例で、クロスボーダーの事例でございます。シンガポールとタイ、それぞれの国では、もともと大手銀行が組んで国内の電子小口決済のサービスが開始されておりました。銀行口座と携帯電話番号を紐付けることで、お互いの電話番号を知るだけで送金できる仕組みがシンガポール国内で、そしてタイ国内で随分広がってきていたところでございます。そして、昨年の11月に、シンガポール中銀は、フィンテック・フェスティバルにおいて、シンガポールにおいて行われている電子小口決済を、タイ国内で行われている電子小口決済とつなげることができないかということについて、連携して検討を進めていくと発表いたしました。これが可能となりますと、シンガポールの人とタイの人との間で非常に簡単にクロスボーダーでの電子小口決済ができるということとなりまして、これは1つのクロスボーダーでの電子小口決済の風穴になるものと思って、注目を要するものだと考えてございます。
次のページは、中央銀行による活用事例です。これはむしろ山岡局長の方がお詳しいかもしれませんので簡単にさせていただきますけれども、ユーロシステムで検討されているTIPSについて、ここでは御紹介させていただいております。ユーロシステムは、昨年の6月に、ユーロ圏内において24時間365日の小口決済のインフラであるTIPSと呼ばれるシステムに係る構想を発表されました。これによりまして、小口の決済であれば、夜間や銀行休業日の取引でも銀行間決済におけるファイナリティを実現することでリスクを軽減しようとするものでございます。本年11月のサービスを予定されているということで、携帯電話番号による送金も実装と聞いております。ユーロ以外の通貨への取引拡大についても着目する必要があろうと思っております。
最後に、分散型台帳技術について、2ページにわたって取組を紹介させていただきました。
台帳が1つしか存在しない場合、台帳の可用性・改ざん耐性を確保するためのコストが必要なのに対し、分散型台帳技術であれば、同一台帳が複数存在するために、台帳の可用性・改ざん耐性の確保が低コストで実現できますので、もしかすると、この分散型台帳技術を使うことによって、銀行間の決済のコストも下げられるのではないかということが考えられるわけでございます。
45ページには、実際にそれに向けての取組の例が幾つか掲げられてございます。カナダ中銀やシンガポール中銀はそのような検討を始めたそうでございますけれども、これらについても目が離せない状況にあろうと思っております。
最後の46ページには、セクション4のまとめをお示ししているところでございますけれども、フィンテックが金融セクターのあり方を大きく変え得る、更に言えば、これまでと異なる形でのリスクが現れてくる、ということで、プラスの面・マイナスの面、両方あろうかと思いますけれども、イノベーションの促進とリスクのモニタリング管理の両面に目を配りながら、動向を注視していきたいと思いますし、これは日本が来年議長を務めるG20でも取り上げなければならない1つの大きな課題だと考えているところでございます。
私からの説明は以上でございます。
○小川分科会長 武内局長、ありがとうございました。
それでは、続きまして、議題「グローバル金融インフラとアジア・日本の視点」に移らせていただきます。
山岡局長、よろしくお願いいたします。
○山岡日本銀行決済機構局長 どうもありがとうございます。
分厚い資料を用意してしまいましたが、前回、6月にお招きいただきました後のアップデートという趣旨でございます。本日、幾つか追加で資料をつけさせていただいたものがございます。
まず、前回、6か月前からの大きな変化という意味では、世界的に仮想通貨への関心が非常に高まったことでございます。こちら、資料をつけましたけれども、本日これを説明させていただくつもりはございません。御参照いただければと思います。
前回私が参りました時には、今後重要になるのはアジアの貯蓄をアジアに還流させるインフラだということを申し上げました。アジアはかなり急速に少子高齢化が進んでおります。今後はアジアの高所得化への道が進んでいく。これに伴って資産蓄積が進んでいくわけです。これまでアジアといえば、マーケットとしては欧米の金融機関、投資家が投資をするところだったと思いますが、これからはアジアの貯蓄をアジアの投資にどう使うかが重要になってくると思います。そうした取組について、今、武内局長からいろいろ御説明をいただいたところでございますけれども、私どもとしても財務省とともに協力して取り組んでいるところでございます。
本日、分厚い資料を作りましたけれども、要点のみ御説明させていただきたいと思います。
本日は、私どもの取組を10年前の教訓、それから10年前からの世界の大きな変化、特にアジアの大きな変化の中で御説明申し上げたいということでございます。
まず、アジアは、ただいま御説明がありましたよう、フィンテックなどでも──今、アジアの例ばかりでしたけれども、アジアはフィンテックで一番大きく変わっているということかと思います。その中で、やはりアジアとともに発展していく、これは非常に重要ということ。もう1つは、アジアのインフラと競争していかなければいけない、そういう要素が出てきていると。こうした中で、やはり国を挙げた対応が、これまでにも増して重要になっていると思います。
恐縮ですが、5ページ目まで飛んでいただけますでしょうか。
「10年ひと昔」ということで10年前を振り返ってみたいのですけれども、この時私はIMFにおりまして、この時の関心は、どうやって今の危機から抜け出すかということでして、グローバル金融危機、リーマンショックは2008年9月14日でございますけれども、この時は同時にソブリン危機もございまして、これまでIMFがほとんどお金を貸したことがないような欧州の国々が次々と危機に陥ったということです。この危機からどう脱却するか、これが一番大きな課題だったということです。G20も、実はこの時にできた。その歴史は非常に新しいわけでありまして、2008年にいきなりアメリカが招集してできた。この時からG20のプロセスが始まったということです。
バーゼルⅢも、この前ようやくコンプリートしましたけれども、この時から動きが始まったということでして、その時の関心は、大銀行に対するコントローラビリティを取り戻すということではなかったかと思います。制御不能になってしまったかに見える銀行に対するコントローラビリティをどう取り戻すかということ。
それから、経済状況を考えてみますと、当時、スマホは誕生直後で、今、電車に乗ると皆スマホを操作していますけど、これは10年前は無かったわけです。2007年にできたばかりですから、スマホは誕生直後。それから、ビットコインって、2009年からですから、無かったわけです。シェアエコノミーも、ほとんど無かったことになります。いかにこの10年間で世界が大きく変わったかということです。
次のページでございますけれども、この時のグローバル金融危機の教訓は、もちろんございます。
危機の拡散・スピルオーバーを防ぐにはどうすれば良いのか。もちろん銀行が全く淘汰されないという、それはそれで問題はあろうかと思うのですけれども、スピルオーバーをインフラによってどう防ぐかということです。日本は90年代の経験から学んでいた面があったと思いますけれども、やはり、いかに流動性を確保するかということです。「ファイアセール」を防ぐ、連鎖倒産を防ぐ、スピルオーバーを防ぐ、これが極めて重要ということでして、これが危機のスピルオーバーを食い止める鍵であるということです。
その一方で、危機の再発を防ぐにはどうすればいいのかということです。中央銀行の流動性供給は、本質的にモラルハザードという問題を伴うわけです。なので同時に、モラルハザードをどう防止するかという議論も非常に盛んになったわけです。Too-big-to-failはもうやめようということです。その観点から、平時から流動性をなるべくたくさん持ってもらおうと。これまでバーゼル規制の枠組みには流動性規制は明示的には無かったわけですけど、バーゼル規制で初めてLCR、NSFRという枠組みが入ったわけです。それから、平時から流動性を調達できるインフラが重要。流動性規制の本質的な問題として、どれだけ持っていれば安心なのかというメルクマールが、なかなか無いわけです。例えばLCRは、「1か月耐え忍んでください」という発想で作っているわけですけれども、1か月で足りるのかというと、なかなかメルクマールが無いわけです。なので、いかに平時から流動性を自力で調達できるインフラを作るか、これが重要になってくるということです。
もう1つは、金融取引の構造まで踏み込んで、どうやってスピルオーバーを防止すればいいのかというマクロプルーデンス的発想が初めてできたということです。これはピッツバーグサミットで2009年の時に出てきた清算集中合意、つまりデリバティブ取引はなるべく清算集中をした方がトランスペアレンシーも高まるし、危機を制御しやすいのではないか、そういう発想が出てきた。取引の構造まで踏み込んでグローバルな金融安定を守ろうと、そういう発想が出てきたということです。 次のページですけれども、外貨流動性調達ファシリティー、これはいろいろございます。
左側のスワップとドルオペですけれども、驚くべきスピードといいますか、2008年9月14日にリーマンショックがありましたが、それから1か月の間に、主要中銀がスワップによるドル供給のスキームを作り上げた。これは非常に大きな役割を果たしたと思っております。同時に、これは担保、流動性供給の両面で中銀に依存するシステムです。なので、これをふだんから頼られてしまうと、むしろグローバルな安定に役立たないわけです。
ということで、1つにはまずクロスボーダー担保。これは、流動性の供給は中銀がやるけれども、担保は自力で調達してくださいということです。
それからクロスボーダー・レポ。これは、それぞれの国で流動性を調達するマーケットを作って、そこで流動性の調達に努めてください、そういうスキームです。
次のページですけれども、これは先ほど武内局長からもお話がありましたけれども、こういったスキームは、重層的に、マルチレイヤーで作ることができれば、マーケットの機能を生かしながらスピルオーバーも食い止めることができる、これが一番大きなところです。
もう1つは、Too-big-to-failはもうだめということで話が進んでいるわけです。このことは、裏を返せば、いかなる民間債務もアプリオリに安全ではないということです。そうした中で、経済主体はますますリスクに敏感になっているということです。
この2つの要請をどう調和させるか。Too-big-to-failのモラルハザードはだめ、だけれども、リスクはきちんと管理しなければいけないとなってくると、次のページですけれども、どうやって中銀マネーを供給するか、中銀マネーというインフラをどう供給するのかということになります。
例えば中銀決済システムを夜間や週末に提供する。これは、ただいま武内局長からお話がありましたけれども、欧州のTIPSですね。欧州で24時間、週末も含めて即時の送金ができるようにする。逆に言うと、中銀マネーを供給しない場合には、週末とか夜間に未決済残高がたまっていくわけですね。中銀マネーを供給することによって未決済残高がたまらないようにできる、即座に中銀マネーで決済ができる、そういうことです。それから、中国はこの1月から大口決済システムの稼働時間を大幅に拡大して、前日の11時半からあけるということをしております。中国は、人民元国際化という国是に沿って、かなり思いきったことができる国。こういった国々とのインフラ競争をどう考えるかも、重要な論点になってくると思います。
それから、中銀決済システムの参加者の拡大や、中銀決済システム相互運用性の拡大、どうやってお互いに接続ないしは相互に利用し合うことによってリスクを低めていくことができるか、そういうお話です。最近、「中銀デジタル通貨」などありますけれども、結局、リスクのない中銀マネーをどこまで踏み込んで供給していくか、こういう議論がこの10年間で一段と盛んになってきているということです。
その上で、この10年間の変化ということです。アジアが大きく変わっているということでして、11ページですが、まず、情報革命・データ革命ということで、一説によると、この2年間で生み出されたデータが、過去人類が作ったデータを凌駕していると、そういう研究もあります。最近電車に乗ると、雑誌や新聞を読む人はいなくて、皆スマホを操作していますけど、大きな違いは、スマホを操作するということは何百人もの人がデータを日々作っているわけです。SNSで発信するだけじゃなくて、ゲームをやったらゲームの履歴が残りますし、そもそも位置情報を発信しているわけです。電車の中でスマホをあれだけいじっているということは、皆でデータをせっせと生産しているわけです。だから、データ量が図抜けて増えていて、これをどう使うかが世界を決めてきているということです。
11ページですが、金融サービスがグローバルに広がっているということです。スマホはたった10年の間に世界中に拡大したということで、これを使うサービスが世界中に広がったということです。今、顧客数で世界最大の金融サービス企業はTenCent、それからAlipayです。それから最近ではインドのPaytmですね。こういったところが圧倒的に急成長したということです。
それから、データジャイアントが登場しているということです。例えばGAFAですね、Google、Amazon、Facebook、それからApple。それから、BAT、Baidu、Alipay、TenCentです。この人たちは通信企業ですかとか小売企業ですかって、なかなか難しいのですが、共通しているのは、巨大プラットフォームで巨大データ、ビッグデータを集めている企業ということです。
次のページは、データジャイアントは圧倒的にアメリカと中国に集中しておりまして、国家の規模を超えるデータを収集しているということです。これがインフラの面では非常に大きな変化です。
次のページですけれども、2008年のグローバル金融危機の時の最初の課題は、どうやって大銀行のシステミックな流動性を抑えていくか。この時注目されたのは、例えば銀行のバランスシート規模ですね。だけど、今この時代、銀行がたくさん預金を持っているから怖いという人はいなくなってきたわけです。誰がジャイアントかと言えば、圧倒的にプラットフォームを押さえている人です。例えば「ポケモンGO」をやる時にはGoogleマップを使います。Googleマップにお金を払わなければいけないわけですね。そういったものを使わないと、ありとあらゆるビジネスに乗り出していくことができない。となると、システミックな重要性としては、例えばビッグデータとか、プラットフォームとか、クラウドとか、そういうものをどう考えるかが、ますます重要になってきています。
次のページですけれども、圧倒的に変化が激しいのはアジアです。今申し上げたような、急激にこの10年間で巨大化したデータジャイアントは大体アジアの企業です。それ以外にも、キャッシュレス化が一気に進んでいるのも、アフリカもありますけれども、やはりアジアです。逆に言うと、アジアの視点からこういう問題を考えていくことは、グローバルな視点にもつながってくると思います。
次のページが、現金の動向ですけれども、意外と先進国は現金が減っていないのですね。2008年のリーマンショックの後、世界的な低金利政策もあるのでしょうけれども、先進国ではむしろ現金の残高は増え続けている国が多いのです。ただ、減っている国は、スウェーデンみたいな特殊な例もありますけれども、中国ですとか、あと最近、高額紙幣の禁止があったインド、そういったところです。
次のページ、参考4ですけれども、銀行はこれまで、預金をたくさん集めて支払決済と貸出を両方やるということだったのですけれども、最近データジャイアントがやっていることは、データが核になっている。まず、支払決済サービスはデータを集める手段、そのデータをほかのことに使います。例えば保険のセールスや、eコマースの顧客ハントに使います、そういったことをやっています。
次のページの、参考5、これはAlipayのデータの使い方の彼らの資料ですけれども、彼らはデータを使って、ありとあらゆるサービスを提供しています。ただ、ありとあらゆるサービスの提供は、Alipayを使うことが前提になっておりますので、Alipayを使えば使うほどスコアが上がる、それによって彼らが供与するサービスの範囲も広がっていく、そういうビジネスです。
ちょっと飛ばして21ページに行っていただきますと、似たような例ですが、中国のUberの例ですけれども、このビジネスの特徴は、データ革命の中で、多くの人の評価を前提にしている。これは「一見さんお断り」とかいう古典的なものとは違って、シェアリングエコノミーとかeコマースというのは知らない人同士の取引ですから、中古品売買もそうですけれども、Facebookの「いいね!」と同じで、皆で皆を評価する。例えばUberだったら、乗り手がドライバーを評価する、ドライバーも乗り手の方、良い客、悪い客を評価する。皆の評価を新しい情報技術で取り込むことによって、新しいビジネスを作ろうとしています。
次のページですが、データジャイアントによる「個人のデータベース化」という問題がいろいろ出てきているということかと思います。
次は、Alipayがやっている「ゴマ信用」という有名なスコアで、これは中国に出張に行くと男の人は皆このスコアを見せてくれるという、個人に付与するスコアですけれども、これはお友達がお金持ちだったらスコアが上がるとか、そういうちょっと嫌なところもあるわけです。ただ、これを皆が持っていて、しかもこのスコアを上げるために皆ゲーム感覚で頑張っている。ただ、Alipayを使えば使うほどスコアが上がるという部分があるわけで、競争力という観点ではなかなか複雑な問題になってくるわけです。例えば、海外の企業が中国に進出する時に、コンサルティングで、例えば「親身のサービス」を幾らやっても、ちょっと勝てないわけです。Alipayと組んだら、Alipayが直ちに5億人分のデータをくれるわけです。その方が中国に進出しようとする中小企業にとってはありがたいかもしれない。なかなか難しいのは、個人のデータベース化がしやすい国の方が進出しやすいのかということにもなってくるわけです。データベース化が進む中では、プライバシーの保護とか、民主主義的な尊厳といった考え方と、データベース化が進む世界というものを、どう調和させるかが重要になってくるということです。これは、日本としても「国を挙げて」という部分が重要になってくる要因の1つと考えております。
それから、話は変わりますが、邦銀の海外進出です。リーマンショック後、邦銀は相対的に米欧の銀行のプレゼンスが下がったこともあり、海外の貸出のシェアを伸ばしています。
次のページですが、外貨調達コストの方は、この間、高止まっております。先ほど武内局長から円とタイバーツの直接交換という話がありましたけれども、ほとんどの場合、スワップ調達はドルを噛ますわけです。なので、ドル調達コストが高いということは、それだけ高い調達コストを払いますし、いざという時にドルの調達コストが跳ね上がるリスクを負っていることになります。
次のページ、邦銀のアジア向け与信ですけれども、アジアは有望市場でございますので、邦銀も相当熱心貸出を行っておりますし、現地通貨建ての与信も増えています。したがいまして、邦銀の与信活動をしっかりとサポートすることは、アジアの国々の信用仲介の円滑にも寄与すると思います。
「仮想通貨と中銀デジタル通貨」の話はちょっと割愛させていただき、42ページまで飛んでいただけますでしょうか。残りの資料は適宜御参照いただければと思います。
仮想通貨、非常に最近話題が多いのですけれども、国際会議の中で多いのは、疑わしい仮想通貨が跋扈することを防ぐために、中央銀行が自分でデジタル通貨を発行したらどうかと、そういう御提案も学界からはあるわけです。私どもとしては、そういう考えは今持っていないわけですけれども、仮想通貨は、理論的には、信認と使い勝手を備えたソブリン通貨に勝つことは難しいという見解が多いかと思います。中銀としては引き続き、例えばデジタルな支払手段が出てきても十分な円決済の利便性を提供するために、インフラの革新に努めていくことが重要だと思います。
例えば、先ほど武内局長から御説明のあったTIPSですけれども、ECBは、民間ベースの24時間決済を中銀マネーできちんとサポートできれば、中銀があえてデジタル通貨を発行する必要はないと説明をしているわけです。そういう発想がTIPSの背景にあります。
44ページに参ります。日本銀行の取組、いろんな立場からございますけれども、まず、我々自身が基盤インフラを提供する、それから我々自身がオペレーターになるということ。それから、民間も含めた金融インフラをオーバーサイトするということ。それから、民間の取組を促していくということでございます。私ども自身のインフラを新しいものに更新していくということ。それから、データの重要性やデータセキュリティーの重要性などに対する民間の理解を促していく。それから、新しい技術に積極的に取り組んでいく。そういったことでございます。
次のページですけれども、具体的には、これは6月も御説明申し上げましたけれども、以下のような取組を行っています。まず、日銀ネットの更なる活用。それから、昨年12月に日銀ネットの「グローバル・アクセス」の受付を開始いたしました。それから、クロスボーダーDVPリンクの取組も続けております。それから、民間の効率性・利便性向上も後押しをしているところです。それから、先ほど武内局長からもありました新しい技術、これについても積極的に取り組んでいます。 まず、日銀ネットの有効活用ですけれども、先ほど中国のことを申し上げました。中国は、人民元国際化という国是があると、需要ということはすっ飛ばしていきやすいのですが、私どもや先進国中銀はどこもそうだと思うのですけれども、ある程度きちんと使ってくれることを確認しなくてはいけない立場にございます。なので、私どもは、こういったパンフレットを作り、配布し情宣することによって、「便利になりましたので、使ってください」という情宣をしています。
48ページに行かせていただきます。こういったアンケート結果は、民間側に夜間の送金を利用したいというニーズがあるのですということで、こういったニーズを開拓してくださいということで物事を進めていこうということです。日本の立場からすると、ある程度そういった需要がある、これは役に立つということを確認しながら進めていくことになりますし、そういった活動を私どもは積極的にやっています。
次のページは、「グローバル・アクセス」です。これは日銀ネットに対して海外から接続することを新たに認めるというものです。先ほど武内局長から御説明いただきました自然災害の対策としても、非常に有効ではないかと考えております。
海外の方々が日本への進出を考える時に、意外と非常に気にするのがBCP、自然災害のリスクです。例えば海外の金融機関がたくさん日本に店舗を持つわけにいかない。例えば、日本の非常に標高の低いところに1つだけ店舗があると。さて、洪水になったらどうするのだと、そういったことを考えた時に、大阪とか別の所に店舗を持つのは非常に大変だけれども、もともとシンガポールや香港には店舗を持っている。そういった所からアクセスできればBCPにも役に立つ。そういったメリットが考えられるということです。
それから、51ページ、クロスボーダーDVPリンクですけれども、引き続きASEAN+3の枠組みに沿って努力を続けています。これはASEAN+3の参加国のいずれか1つ、最低1つが2020年までにリンクを実現していくロードマップになっておりまして、この最初のASEAN+3の中では日本と香港のリンクが例示されているということです。私どもとしては、そのラインに沿って引き続き努力を続けています。この取組は、マーケット機能を生かしながら流動性調達のファシリティーを確保するという点で、重要な取組と考えています。
53ページ以下は御参考でございますけれども、ほかの中銀からも、中銀のシステムのインターオペラビリティ(相互運用性)をどう確保するかといった関心は、非常に高まっております。これは、先ほど武内局長からも御説明いただきましたシンガポールとカナダとの合同実験にも関わるところです。
55ページは、2017年10月の日本・フィリピンの二国間通貨スワップ取極の改正でして、これにより、フィリピンは自国通貨を日本円とも交換することが可能になったということです。
56ページのクロスボーダー担保は、引き続き取組を続けておりまして、現段階で申し上げることはございませんので、次の57ページ、日本における24/7即時振込ですけれども、世界的に民間レベルの支払決済も便利にしていこうということで、この取組が進んでいるということです。これにつきましても、日本銀行は、業界団体とも議論を重ねながら、なるべくこの24/7に多くの主体が参加していただけるように取り組んでいます。
それから、ちょっと飛ばしていただきまして、60ページ、国債の決済期間短縮化でございます。日本の決済インフラが安全であるということも非常に重要な視点かと思います。グローバルスタンダードに沿って、その最先端をいくということで、国債決済はT+1──これは、発行とかオペ、こういったところも含めてT+1を実現していく、これを本年5月から実施する予定です。
それから、次の61ページですけれども、私どもは新しい技術にも積極的に取り組んでおります。いろんな、ここに書いてあるような活動をしておりますけれども、この中で、欧州中央銀行と共同でのDLT(分散型台帳技術)に関する実証実験なども行っています。
最後に、68ページまで飛んでいただければと思います。以上、いろいろ申し上げましたけれども、2008年のグローバル金融危機の教訓、それから、その後の世界の変化を考えますと、マーケット機能を生かしながら、いかに中銀マネー、中銀インフラを供給していくかということ。それから、アジアの発展を捉えますと、やはりアジアの成長を取り込む、アジアとともに発展していくということ、それからアジアのインフラに伍していく、そういうことも非常に重要になってくると思いますので、そういった取組もしているということです。それから、新しい技術。これは最近半年間でも非常にそういった技術に更に関心が強まっているわけですが、そういった技術にも前向きに取り組んでいるということです。日本とECBの共同実験につきましては、昨年の9月に私どもで論文を発表させていただきましたし、これからも同じような実験を続けていく予定です。
どうもありがとうございました。
○小川分科会長 山岡局長、ありがとうございました。
それでは、委員の皆さんからご質問、ご意見をいただきたいと思います。
中曾委員、お願いいたします。
○中曾委員 本日のテーマでもあります、「アジアとともに成長する日本経済」、それから「円決済のグローバル化」に資する日本銀行の取組につきまして、今、山岡局長からも説明があったとおりですけれども、私自身、日本銀行の経営資源を相当投入してきた分野でもありますので、多少オーバーラップする部分がありますが、強調しておきたい点を指摘させていただきたいと思います。
まず、中央銀行間のスワップラインです。これは、先ほど山岡局長から話があったとおり、バックストップとしては非常に大きな役割を果たしました。大きな特徴としては、中央銀行は自国通貨建ての債務を無制限に発行できる唯一の主体ですから、中銀間のスワップラインというのは、理論上は、無制限に資金供給をできるということになります。そうした点で、特にドルスワップラインについては、GFC(Global Financial Crisis: 国際金融危機)の時に非常に大きな役割を果たしたと同時に、モラルハザードをどうやって抑制していくかという問題が発生したということだと思います。
それから、山岡局長から説明のあったとおり、クロスボーダー担保の整備、日銀ネットの高度化、クロスボーダーDVPリンクの構築、これらはいずれも、我々としても、組織として重要な事案、プロジェクトであると思っています。特に日銀ネットの高度化につきましては、これは相当リソースのかかるプロジェクトでもあるのですけれども、先ほど説明がありましたように、稼動時間の延長が行われておりまして、これによって海外送金について夜間の時間帯の活用ができるようになったということです。また、グローバル・アクセスの提供は、金融機関のグローバルな事務処理体制を構築するのに有効な手段となり得るということだと思います。つまり円の使い勝手を良くする方向での基幹インフラの拡充と私自身は位置づけておりまして、これは山岡局長が繰り返し述べていたと思うのですけれども、私も他国のインフラと競争していかなくてはならないという意識を強く持っているところです。
それから、これは武内局長から説明がありましたが、現地通貨建ての債券市場の育成につきましては、私どももアジアのほかの中銀と一緒に債券投資ファンドであるアジア・ボンド・ファンドを2003年に創設して、債券市場の育成を支援してまいりました。TA(Technical Assistance)については、アジアの中銀に対して金融市場の育成・整備について積極的に技術協力・支援を行っているところです。こういった取組もありまして、アジアの現地通貨建ての債券発行残高はこの15年程度で大きく拡大していると思います。
今後の課題は、日本にとっても振り返ってみるとそうだったのですけれども、まずは、その域内の投資家を育成すると。それから、やや技術的ではあるのですけれども、債券貸借市場、レポ市場、この辺りの整備が大事であると。つまり、セカンダリーマーケットの流動性を高めていくという点が大きな課題かなと思っております。日本もそうですけれども、発行市場は、機能するセカンダリーマーケット、すなわちレポ市場とか債券貸借市場も含めた流通市場がないとうまく回っていかない。つまり、発行市場と流通市場のバランスの良い発展を促す、そういった取組を進めていくのが今後の課題ではないかと思っておりますので、付言させていただきました。ありがとうございました。
○小川分科会長 ほかはいかがでしょうか。
○相澤委員 現代の電子情報システムによる進化からは逃れることはできません。しかし、残念ながら、現代の電子情報システムそのものが脆弱性を有しています。この電子情報システムの脆弱性というものが、社会全体に大きな影響を与えます。システム・リスクがカタストロフをもたらすという危険もあると思っています。したがいまして、これから電子情報システムというものを使ったいろいろなシステムの発展に当たっては、情報リテラシーの向上というものが必須になると思います。
データジャイアント企業というのがこの10年で出てきたということが言われております。しかし、この業界、非常に激しい競争があります。日本のように制度信頼性の高い国民性の間においては、そういう企業が何か起きた時に社会不安になるおそれもあるかと思います。電子情報社会の進展というのはとどめられないのですが、情報リテラシーを向上してうまく進めていくようお願い申し上げます。
○小川分科会長 ただいまの相澤委員の御指摘に、山岡局長、何か。
○山岡日本銀行決済機構局長 御指摘のとおりと思います。
日本銀行では、ビッグデータ社会になっていく、それに伴うリスクにつきましてもウォーニングを発しようということで、昨年の11月1日にビッグデータに焦点を当てましたフォーラムを開催しております。
その時には、中曽副総裁の講演もありましたけれども、この時にやはり問題になったことは、まず1つ、データの構築が進むにつれて、例えば個人の救済ですね、間違ったデータがストアされてしまって、それによって不利益を被るような人の救済をどうするかといった法律の問題が、たくさん出てくるだろうということ。
それから、例えばデータを独占することによって、それがアタックされやすくなる。例えば中銀デジタル通貨というと、中銀がデジタルの情報を全部集積してしまう可能性があるわけですけれども、逆にそんなものを発行したらハッカーの餌食になるのではないかと、そういうリスクもあるわけです。
それから、先生仰られた、情報国家になっていくにはデータ人材ですね。例えば先日香港に出張した時に、香港は、今後15年から20年はサイバーセキュリティーの専門家が成長産業になるということで、国を挙げてそれを養成しているということです。その時のカンファレンスでも、そういったデータのセキュリティーをできる人材の絶対数が不足しているという声が随分聞かれました。こういったところは、先生御指摘のとおり、これから日本が情報国家になっていく上で課題になってくるのではないかと感じております。
○小川分科会長 ほかはいかがでしょうか。
それでは、亀坂委員、お願いいたします。
○亀坂委員 ちょっと間接的な質問になってしまうのですけれども、45ページの「特に民間による効率性・利便性向上やリスク削減努力の後押し」のところに関係すると思うのですけれども、前の質問とも関係があるのですが、フィンテックとか新しい流れについていくというのももちろん重要だと思うのですけれども、以前も例えば金融システムレポートとかを拝見させていただいて思ったのですけれども、日本の銀行なりの改革の仕方とか、もう現時点で店舗をたくさん抱えている日本の銀行が、インフラが整備されているといえば整備されている状況の中でどう民間部門の銀行業全体の生産性を高めるかという議論も、なかなか一民間銀行ではしにくいということをお伺いしておりまして、例えば日銀が音頭をとっていただいて、例えばですけれども、日本人は確か1人10口座ぐらい保有していると。管理コストだけでも大変で、過剰サービスではないかと。私も日銀の方と意見を交換させていただいたことがあるのですけど、無料のサービスばかりたくさん日本の銀行は提供していまして、付加価値を高めろといっても、各銀行にそれぞれ任せてしまうと、それぞれの銀行で自分だけやめるというわけにはいかないので、どこかで音頭をとってもらわないと無理だと仰るのですね。
ですので、日銀の方々とかに、どうやって日本なりの生産性を高める方法があるのかというのを、例えば海外の事例とかを調べていただいて、例えばですけれども、例えば1人3口座までは無料とかですね。その代わりに、例えば資産管理サービスとかも店舗でサービスをするよとか、たくさん資金を預けている人にメリットを与えるとか、何か日本なりの効率性向上とかを議論していただけないのかなと以前から思っているのです。
○山岡日本銀行決済機構局長 仰るとおりと思います。民間の銀行の方々は、非常に厳しい経営課題に直面していらっしゃるということで、私どもとしても、効率化しろみたいな無責任なことの言いっ放しにならないように、日々気をつけているところでして、金融システムレポート等を通じて、いろんな情報を提供しているところでございます。
御指摘のとおり、日本の銀行のビジネスモデルは、これまでの、ある程度名目金利水準があった時代に、決済性預金のサービスを、その金利差で賄っていくというモデル。なので、付随するサービスは、基本的に無料で提供していくモデルだったわけですけれども、世界的な低金利環境の中で、そういったモデルは、なかなか難しくなっていくわけです。そうなってくると、個別のサービスについて、コストパフォーマンスをきちんと評価して、きちんとした対価を得ていくことが、当然考えられるわけです。
これ、むき出しで言うと不人気になるわけですね。日本人の方って、そういうサービスに慣れていらっしゃいます。なので、いかにそれをポジティブなイメージを与えていけるか。
先生御指摘のとおり、日本の銀行は、既に発達したインフラを抱えながらフィンテックに対応していかなければいけないので、大変な部分があるわけです。同時に、例えばインフラを合理化していく、変えていく上で、今のフィンテックとか新しい技術というものを、ポジティブなイメージに使っていくことができる要素はあると思います。
私どもとしても、例えば先日決済システムレポートの「フィンテック特集号」というのを出しましたけれども、なるべく今の技術をポジティブに使って、お客様にそういった、「これからいい方向に変わる」ということを与えながらインフラを変えていくことができればということで、その方面に向けた取組を進めてまいりたいと考えております。
○小川分科会長 河野委員、お願いいたします。
○河野委員 ありがとうございます。
武内局長の御説明の資料の方で、20ページから始まる「円とアジア通貨の利用拡大に向けた取組」という御説明があったのですけれども、21ページの3-2の「現地通貨の利用拡大の動き」というところの御説明の冒頭に「残念ながら」という言葉を入れられたと理解したのですけれども、この現地通貨で特にタイバーツが強くなるということと、それと23ページのタイバーツと円の直接交換という形で円の利用価値を高めるということと、そこの関係をどのように考えたらよいのか。それから、日本の政策として、この地域において日本の円の利用促進、あるいはタイバーツとの関わりというのをどのように考えておられるのか、少し伺わせていただけるとありがたいと思います。
○武内局長 ありがとうございます。
まさに、最初に「残念」と申し上げたのは、本当は円も例えばLCSFの中に入れてもらって、タイとマレーシアとインドネシアと日本の4か国の枠組みとしたいわけなのですけれども、タイの場合には、先ほど来申し上げているように、結構ほかの国々との間での利用割合が高いので、比較的ニーズがあるわけです。それで、残念ながら日本の円についてはそういうニーズがあまりない中で、まだ強いて言えばタイバーツが一番相性が良いということで、始めてみたわけです。けれども、実際問題としてはなかなか利用が伸びない。その辺りにやはり、枠組みは作ったとしても、本当に需要が無ければ伸びていかないところがあるわけですね。
けれども、鶏と卵と同じで、利用がないからと放っておいたらずっとそのままですし、タイバーツを1つの試みにして、いろんな工夫を重ねて、利用割合が増えてきて、それでぼちぼち円も、それは無いとメンバーとして困るというところまで育てていきたいと思っているわけです。
そういう意味では、御質問に対しては、まさにタイが一歩先んじてマレーシア、インドネシアとやっているところを、今、日本が追いかけようとして、タイと日本の間で始めてみましたと。同じような枠組みをもっと広げられることに越したことはないですし、それに向けて頑張っていきたいという位置づけです。
○小川分科会長 伊藤(隆)委員、お願いいたします。
○伊藤(隆)委員 幾つか飛び飛びの質問があるのですけど、1つは、CMIMとAMROの関係で、CMIMの発動は誰が決めるのかと。せっかくトリガーを1つにしたわけですよね、CMIMにしたことで。その時に、3分の2の投票権が必要と書いているわけですけれども、実際にその危機がCMIMの発動を必要としているかどうかとか、コンディショナリティに当たるようなものをどうつけるかというのは、AMROが一番知っているはずだから、AMROがそのトリガーを引くとか、あるいはトリガーを引くリコメンデーションするというようなことを明示的に書くようになるのか、そこに向けて今いっているのか。まだいっていないですよね。だから、そういう方向に今いこうとしているのかというところを教えていただきたいというのが1点目。
2点目が、ドル調達コストが高いというのは前から言われていたのですけれども、どんどん悪くなっているわけですよね。邦銀がせっかく海外でドルで貸してももうからないというような状況になっているのは、これはなぜそうなっているのか。邦銀の信用力がないのか、それとも足元を見られているのか分かりませんけれども、これを何とか改善する方法を見つけてあげないと非常に困る事態になるのではないかと。邦銀の方も、ドル預金を調達するとか、ドルを自前で調達する方法を考えないといけないのに、何か相変わらずスワップで調達しようとしているというようなことをどう考えたら良いのかということです。
それから、3番目は、これで最後ですけれども、Alipayにしても、それからそれ以外の個人間決済ができるサービスにしても、日本でそれができないのは銀行法のせいだという話を聞いたことがあるのですけれども、間違っていたら間違っていますと言っていただきたいのですけれども、個人間決済ができるかできないかでその普及が随分違うと思うのですね。アメリカではもう学生も割り勘にする時なんてその場で決済していますから、そういうようなことが日本で、それを妨げているのが何かというのを教えていただけるとありがたいと思います。
○武内局長 ありがとうございます。
まず、AMROがどの辺りまでを目指しているのかという御質問ですけれども、今、一生懸命経済分析の能力を高めて、危機が発生した時にも、どのような状況にあって、どのような政策対応が可能かについて提言をするところまで能力を高めようとはしています。ただ、実際に発動しようと決めるのはあくまでもチェンマイ・イニシアティブの参加国でございます。それで、将来、参加国の人たちが何も発言権を有しないままに、AMROが「これで発動します」と決めるところまで目指すかというと、なかなかそこまでいくのは難しいと思います。1つには、まだAMROのサーベイランス能力がそのレベルまで達していないこと。それから、やはりチェンマイ・イニシアティブを発動して自国の資源を使うということは非常に重い責任を伴いますから、IMF等々のように一旦出してあるものについてそれをやるのはともかく、チェンマイ・イニシアティブの場合にはまだそれぞれの国のものが出ていくわけですから、それについてAMROという機関が責任を負うというところまではなかなかいかないのではないかと個人的には思っています。
○山岡日本銀行決済機構局長 ドル調達コストですけれども、私、今は市場局長ではありませんけれども、市場局長の時の私の個人的な感覚でいくと、先生の仰るとおり、足元を見られている方が少し大きいかなと思います。ドルの出し手の方も、日本の邦銀、特にメガバンクが国内で貸出先が無くて海外に出ざるを得ないということは十分知っているわけです。その上で、欧州は低金利ですから、イールドが抜けるところというと北米かアジアのマーケットしかないことは十分分かっているし、更に言うと、全部がアメリカ現地でのドルファンディングで調達できるわけではない事情も十分知っていますので、そういったことで、足元を見られているという部分はあるのかなと、個人的には感じておりました。
それから、AlipayやTenCent、規制の話をなかなか私から申し上げるのは難しいのですけれども、全く無いわけではないのかなと思うのは、例えば今、日本でもLINE Payってありますけれども、資金決済法の制限がかかりますので、100万円ということになるわけですね。そういったものが全く無いとは申しませんけれども、大きいのは、彼らは、そういう資金決済サービスを、ほぼただで提供できるわけです。
なぜかというと、彼らは、資金決済サービスをオファーすることによって、それで手数料を稼いでもうけようと思っているというよりは、それを彼らがやっているほかの多様なビジネスに使うことによってもうけようとしているからです。そういったビジネスというのは、なかなか日本では今の段階で発達させにくいというところがあるのかなと感じております。
○小川分科会長 中曾委員、お願いします。
○中曾委員 ドル調達コストについては、これも実は我々、大変に問題意識を持って見ているところですけれども、自分としてはこのように見ています。
つまり、アメリカの金利が高くなっているわけですね。ですから、日本、あるいは非米国の投資家というのは、基本的に自国の金利が低い場合にはドル建ての資産に投資したいと思う。その時にヘッジをするわけですね。ヘッジはスワップで行うことが多い。そうすると、スワップ市場がその分タイトになりますからドルの調達コストは上がると。本来であればアメリカの国内市場との裁定が働くはずですけれども、何故かこの裁定がうまくいっていない。多分、1つの理由としては、新しいバーゼル規制などの国際金融規制によって、ドルの本来の出し手にとってバランスシートを使うコストがやや高くなっているからうまくドルが流れないという点があるのかもしれないなと思います。
いずれにしても、そういうことが基本的な背景にあるので、伊藤(隆)委員もよく御存知のGFCとか、あるいはそれ以前の、日本の金融危機の時のジャパンプレミアムに起因する、つまり信用リスクに起因するドル高、ドル調達コストの高い状態とはかなり異質であると思っています。
我々も、大手邦銀のドル調達コストが上がり過ぎると問題であるというのは認識をしていますので、大手邦銀には、なるべくstable funding sourcesと言っていますけれども、顧客預金ですね、スワップみたいにすぐに流動性が無くなったりしないような、粘着的な、顧客預金の部分を増やしてくださいとお願いしておりまして、スワップのような非常にボラタイルな市場への依存度は、あまり高くなっていない、逆に抑えることができているということだと思いますので、確かにドル調達コストは上がっているのですが、だからといって邦銀のドルファンディングに支障が生じたり、あるいは収益が直ちに悪化するというような状況ではないと見ています。
○小川分科会長 ほかはいかがでしょうか。奥田委員。
○奥田委員 最初に、山岡局長、ちょっと御意見をお伺いしたいのですけれども、先ほど質問がありましたけど、アジアの変化が非常に顕著である。全くそのとおりだと思うのですけれども、いろんなサービスをプラットフォームの上で提供していて、ビジネスモデルとして新しいということなのですけれども、金融のサービスとして見ると、基本的には決済サービスがメインで、与信サービスに対してものすごい大きな影響が出ているようには見えないのですね。もちろん、プラットフォーム上のデータを変換して、与信サービスのためのデータの補完的な材料に使うという話は聞くのですけれども、実際それをどのくらい使っているかというと、そんなにあるようには何か私は感じない。そうすると、もちろん大きな変化が起きていることは分かるのですが、金融のサービスとしては、将来性をどういうふうに、特に与信という意味ではどういうふうにお考えになっているのかなというのが1つお聞きしたい。
それからもう1つは武内さんの方なのですけど、フィンテックでシンガポールとタイの間でクロスボーダーの小口決済が、始まったのか、それか始まることになったのか分からないのですけれども、やるということなのですけど、この場合は通貨の取引に関してはどういう影響が出てくるのでしょうか。前に出ていたような、シンガポールと、それからタイバーツの直接取引を促進する要因──大きく見れば要因なのでしょうけれども、そういうふうに考えるべきなのでしょうか、それとも当座はあまり関係ないと見るべきなのでしょうか。
○山岡日本銀行決済機構局長 まず、与信面でのサービスでございますけれども、これは御指摘のとおり、アメリカで最初にこういう与信面でのフィンテックが出てきたのですね。「レンディングクラブ」という所ですけれども、これはボリュームが伸びませんでした。おそらく、与信のビジネスでは、銀行も当然それなりのエキスパティーズを持っている。その上でオープンな情報を使うとすると、同じ条件だったら、既存の銀行が強いのですね。だから、ボリュームを稼げるわけではなかった。だから、先進国ではフィンテック型の与信サービスに対する恐怖感がすごくあるわけではないと思います。
例えば、そういった与信サービスをやっているフィンテック企業を、M&Aをかけて、ある種「先兵」として使って、良さそうだったら銀行に移す、そういったサービスが起こっているくらいです。先進国の銀行からすると、仰るとおり、与信サービスというのはあまり脅威とは感じられていない。
これはおそらく、支払決済の場合は、支払決済とeコマースとか、支払決済とシェアリングビジネスとか、支払決済とレンタルビジネスとか、そういうものをくっつけることでプラットフォーム化するビジネスモデルがあるのですけど、与信に関しては、なかなか既存の強いところに勝ちにくいというところがあるのかなという気がします。
一方、これが伸びているのは中国でありまして、これは既存の銀行の与信ビジネスがあまり強くないということがあろうかと思います。そういったところでは、Alipayもそうだし、TenCentもそうなのですけれども、グループ内に実質的な銀行機能を持つ子会社を作ってきています。例えばTenCentがやっているWebankという銀行は、1,200人くらいいるそうですけれども、そのうち600人がエンジニアで、彼らは基本的にはAIしか使わないわけです。彼らは、それこそeコマースのトランザクションデータとかを持っていますし、彼らが言うには、長期の与信管理や与信判断は、人間でないと難しいところだそうです。ただ、6か月間で返してくれ、6か月間貸し倒れないという商売だと、AIがある程度強みがあるので、彼らは徹底的に省力化をして、AIだけで与信判断をして、その代わり返してくれたら金利を下げる、返してくれなかったら金利を上げる、そういう細かい調整をすることによってレンディングをやっているということです。これは、既存の銀行がどれくらい強いかというところによります。逆に言うと、日本でそういうレンディングがボリュームを伸ばすのは、もしかしたら難しいかもしれないなと感じております。
○小川分科会長 ほかはいかがでしょうか。どうぞ。
○神作委員 すみません、時間が過ぎていて恐縮ですけれども、1点だけ、法律を勉強しておりますので、その観点から一言だけ感想と申しますかコメントをさせていただきます。
山岡さんの資料の16ページでございますけれども、先ほど伊藤(隆)先生から日本の特に金融分野におけるフィンテックの発展にとって法制度が邪魔をしているところがないのかという、そういう御指摘がございましたが、この金融のアンバンドリング・リバンドリング、更に金融と商業そのものの境界が必ずしも明らかでなくなっていくという中で、日本の金融法制が、過剰な規制の部分もあるし、逆に穴がある部分もあると。
例えば仮想通貨交換業というのは規律の対象となっておりますけれども、それ以外の部分等については規律の対象となっておりません。今、金融庁の方で金融制度スタディ・グループというのでまさにそのような問題意識から議論がされているのではないかと思いますけれども、私、本日のお話を聞いて、例えば参入規制とか業務範囲規制を、フィンテック・イノベーションの促進、それから金融システムの安定性という観点から、更にこの法制度としても見直すと申しますか検討すべき点が少なくないと感じました。
簡単な感想にすぎませんけれども、一言申し上げさせていただきました。ありがとうございます。
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
ほかに無ければ、お時間になりましたので、本日の議事を終了させていただきたいと思います。
なお、今回の議事録の作成は私に一任いただければと思います。その際、発言部分を事前にご覧になりたい委員の方におかれましては、会合終了後にその旨を事務局に御連絡を頂戴したいと思います。御連絡のございました委員の方には、議事録を案の段階で事務局より送付させていただきます。その後、1週間程度の間に御意見がない場合には、御了解いただいたものとして理解させていただければと存じます。それでよろしいでしょうか。
(異議なし)
○小川分科会長 どうもありがとうございます。
次回の分科会につきましては、事務局と相談の上、御連絡させていただきたいと思います。
以上で終わりたいと思います。
本日は、長い時間にわたりまして御出席いただきまして、ありがとうございました。
午後3時07分閉会