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税制メールマガジン 第88号 28/06/27

税制メールマガジン 第88号   平成28年6月27日

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◆目次
1 はじめに
2 「パナマ文書」問題〜国際的な課税逃れへの対応について
3 若手コラム1〜カナダの歴史と税制
4 若手コラム2〜スウェーデンの二元的所得税について
5 新入省者紹介
6 編集後記

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1  はじめに

  早いもので、私が税制メールマガジンの発行に携わるようになってから、1年が経とうとしています。
  この1年で扱ってきたテーマも、経済社会の構造変化を踏まえた所得税改革、国際課税の見直し、消費税の軽減税率制度など多岐にわたり、改めて激動の一年であったことが伺われます。

  最近では、6月1日に安倍総理が記者会見で、消費税率の10%への引上げ時期を30か月延期する方針を明らかにされました。主税局でも、この方針に沿って、法制化等の作業が今後必要になってきます。

  改めて痛感したのは、当たり前のことではありますが、税制のあり様は国のあり様の選択そのものの写し鏡になるということです。
  最近読んだ本の中にこんな一節がありました。明治時代の初期に、欧米先進諸国の税制に関する知識を導入すべく、翻訳作業等が盛んに行われたそうですが、その出版物の一つの序文に、維新の元勲の一人である井上馨が、「税重傷民、税軽傷國」という漢詩を寄せたそうです。「税が重ければ民生を損ない、税が軽ければ国政を損なう」という意味で、今風にいえば、経済の再生と財政健全化の両立をいかに図っていくことの難しさに関する井上馨の思いが表れているように感じます。

  税制改正の議論はこれからも続きます。扱うトピックは様々なれど、常に「民」、「国」のあり様を意識して色々な選択がなされていくことでしょう。読者の皆様ひとりひとりの将来にも大きく影響する選択が、どのようになされていくのか、今後とも注目していただければと思いますし、このメールマガジンが税制の現場で何が起きているかをゆる〜くお伝えしていく機会の提供に少しでも役立てばと思います。

  引き続き、税制メールマガジンをよろしくお願いします。

主税局総務課 前・主税企画官  関 禎一郎  

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2  「パナマ文書」問題〜国際的な課税逃れへの対応について

〇 「パナマ文書」って何?
  「パナマ文書」とは、報道等によれば、オフショア金融センターでの会社設立や運営代行を手掛けるパナマを拠点とする法律事務所「モサック・フォンセ」から流出した内部文書のことで、今年4月と5月に国際報道機関(ICIJ)によってその一部が公表されました。
  このいわゆる「パナマ文書」には、著名人や大企業の名前も含まれており、こうした富裕層や大企業が課税逃れを行っているのではないかとの疑惑が一挙に高まりました。

〇 「パナマ文書」に名前の挙がった顧客は全て悪いのか?
  「モサック・フォンセカ」の顧客として、オフショア金融センターに会社を設立したからと言って、直ちにその個人や法人が課税逃れをしたことになる訳ではありません。こうした会社を通じて得た利益を適切に申告していれば違法行為、すなわち、脱税とはなりません。
  但し、たとえ合法であったとしても、節度を超えた租税回避的な行為については道義的に問題となるでしょう。特に公職にある個人に対する批判が高まったのも、国民に納税を依頼する立場にありながら、自分は課税逃れを行っていたとすれば問題だという認識に基づくものだと考えられます。

〇 「パナマ文書」への対抗策
  それでは、こうした課税逃れに対して、どう対抗していけば良いのでしょうか?利益をきちんと申告していない、資産を隠しているような違法行為、脱税の防止のためには、こうした利益や資産を誰がどれだけ持っているかを当局が把握する、すなわち、透明性を高めることが重要となります。他方、合法的ではあるが、道義的に問題だということであれば、税制自体を変更する必要が生じます。

〇 「パナマ文書」の問題は新しい問題なのか?
  オフショア金融センターを利用した脱税や租税回避といった課税逃れが世界中で行われているであろうことは、専門家の間では以前から認識され、対応策についても議論されてきたところです。特に近年は議論が急速に進展しており、大きな成果があがっています。

〇 G20財務大臣・中央銀行総裁会議の成果
  「パナマ文書」の一部が初めて公開された今年の4月に開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会議のコミュニケでは、こまでG20・OECDが取り組んできた国際的な脱税・租税回避を防止するための二つの取組みが、引き続き重要であることが確認されました。

(1)「BEPS(Base Erosion and Profit Shifting: 税源浸食と利益移転)プロジェクト」
  本プロジェクトは、多国籍企業が各国の税制の隙間や抜け穴を利用して行う国際的な租税回避を防止するため、国際課税ルールや各国の国内税制の調和を図る目的で立ち上げられたプロジェクトであり、昨年10月にBEPSへの対抗策に関する勧告を含む「最終報告書」が公表されました。
  今後は、勧告を踏まえて各国で税制改正を行う実施段階に入ります。また、これまでは、G20・OECDメンバー国だけで議論してきましたが、今後は、BEPSの成果を開発途上国等にも広げて行こうということになっています。

(2)「非居住者の金融口座に係る自動的情報交換」
  また、特に、脱税等、資産や利益を海外の金融機関に隠す行為に対抗するため、非居住者の金融口座情報を各国間で定期的に交換する枠組み(自動的情報交換)もG20・OECDが中心となって確立してきたところです。2014年4月にOECDは、各国間で交換する金融口座情報を共通化するため、「共通報告基準」を策定し、各国が国内法制化を進める段階に至っています。現在、101ヵ国が2018年末までに初回の情報交換を行うことをコミットしております。日本も当然コミットしており、27年度税制改正で既に「共通報告基準」の法制化も終えているところです。
  ちなみに、「パナマ文書」問題の発覚以前、「共通報告基準」に基づいた「自動的情報交換」の取り組みに消極的であり、未参加国の1つであったパナマについては、4月20日の日パナマ首脳会談で同取組みへの参加の意向が表明され、更に、両国間の合意を受け、5月末には世界に先駆け、同基準(共通報告基準)に基づく「自動的情報交換」規定を含む「日パナマ租税協定」について実質合意に至りました。

〇 「パナマ文書」を受けた議論の加速化
  「パナマ文書」が必ずしも新しい問題ではないと言いましたが、もちろん、これまで専門家間に限られていた国際的租税回避に対する問題意識が世間一般まで広がった点で、「パナマ文書」の意義は大きかったと言えるでしょう。また、その分、これまで以上に責任ある対応が求められるようになったことも言うまでもありません。
  4月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議では、税の透明性に関する「非協力的地域」を特定するための客観的基準を策定するようOECDに求めると共に、改善見られない場合の「防御的措置」の検討も成果文書に明記されました。
  課税逃れへの包囲網は「パナマ文書」を契機として加速度的に強化されてきていると言えるでしょう。

〇 日本のリーダーシップ
  G7伊勢志摩サミットでも、国際的な課税逃れは重要なテーマとなり、議長国日本のリーダーシップの下、これまでの取組みをグローバルに広げて行くことが確認されました。また、現在、税に関するルールメイキングを行うOECD租税員会の議長は、日本財務省の浅川雅嗣財務官であり、今年6月には、京都で本委員会の本会合及び「BEPSプロジェクト」に関する拡大会合が開催されます。日本としては、今後とも、「BEPSプロジェクト」の実施や参加国拡大、自動的情報交換を始めとした透明性を高めるための取組み等に関しリーダーシップを発揮すると共に、「BEPSプロジェクト」の成果を着実に国内法制に反映し、万全の体制で、国際的な課税逃れに対抗していきたいと考えています。

  主税局参事官室 参事官補佐  高橋 龍太  

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3  若手コラム1〜カナダの歴史と税制

  読者の皆様、お久しぶりです。86号税制メルマガでもお目にかかりましたね。主税局調査課で環太平洋・アジア地域の税制調査を担当しておりました丹羽と申します。この1年の仕事では、カナダの税制についてよく調べていました。

  読者の皆様は、カナダという国に対してどのようなイメージを持っていますか?「メープルシロップ」、「オーロラ」、「ジャスティン・ビーバー」…。断片的なイメージは浮かんできますが、カナダは一言で言えばどんな国か、と聞かれたら、意外と答えに困るのではないでしょうか。G7の他のメンバー(日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア)と比べてみてください。

  カナダ自身も、1971年にトルドー首相(先日のG7伊勢志摩サミットで話題になったトルドー首相の実父)が「多文化主義宣言」を行い、公用語を英仏2か国語とする等、「多様性」をアイデンティティとして掲げるまでは、国家としての独自のアイデンティティの確立に長年苦しんできました。イギリス連邦の一員でありながら、フランス系住民が多数を占めるケベック州との国内対立を抱え、約10倍のGDPと人口を持つ隣国アメリカから影響を受ける、複雑な状況にあったことが原因となっています。
  以下の有名な建国神話は、その様子をよく表していると言えるでしょう。
  「建国の父たちが集い、彼らの祖先や隣人が生み出した最良のものを取り入れて真に偉大な国家を建設せんと決意した。彼らが構想した国家は、フランスの文化、イギリスの政治、そしてアメリカの科学技術を統合したものであった。しかし計画はうまく行かず、カナダはフランスの政治、イギリスの科学技術、アメリカの文化とともに残された。」

  そんなカナダという国家の特殊性は税制にも表れています。
  カナダの税制は、イギリスの税法・法理論を基準としながら、アメリカの税制の動向に政治的・経済的影響を受けてきました。また、連邦の課税権が各州との間で常に問題となってきたことから、カナダの連邦税制は所得税中心の体系となっており、所得税収が全体の61%を占めています(2014年。日本では29%。)。
  建国当時から現在の状況に至るまでの経緯を、以下で見てみましょう。

  カナダは1867年に、連邦制国家として独立を果たす際、憲法上の連邦の権限を強大なものとしました(州の権限を列挙権限のみとし、残りの権限を連邦に付与)。これは、カナダ建国の直前に起きた、アメリカの南北戦争を教訓としたためだと言われています。アメリカの連邦制においては、憲法上の州の権限が強大なものとされており(連邦の権限を列挙権限のみとし、残りの権限を州に付与)、この規定が州同士の深刻な対立の一因となったと考えられていました。
  州の権限の限定は、税制にも及んでおり、州の課税権は当初は直接税のみに限定されていました。よって、建国からしばらくは、連邦は間接税を中心に、州は連邦からの補助金を中心にした税収構造が続いていました。

  その後、様々な税目が導入されていく中で、1917年に連邦所得税が導入されました。一時的利得(キャピタルゲイン等)には課税しないというイギリス型の制限所得概念を採用したものでしたが、導入当初の税率は4%と低いものでした。翌年1918年の所得税収は連邦の全税収の4%に過ぎず、間接税収が81%を占めており、連邦の間接税中心の税収構造は変わらなかったようです。

  転機となったのは、1930年代です。連邦が間接税収を独占することができなくなりました。各州が憲法上の制限を回避する形で独自に間接税の課税をはじめ、州が課税権を拡大しました。
  小売売上税(消費税の一種)を、直接税として「消費者購入税」という形で導入したのです。つまり、納税義務者は購入者とされ、小売業者は州政府の代理人として税の徴収・納付を行うものとされました。
  通常の消費税では、事業者が納税義務者とされていることを考えると、不思議な構成をしていますね。
  ほとんどの州が1950年代までに消費税を導入し、1955年の所得税収は連邦の全税収の31%まで上昇し、間接税収は42%まで低下しました。
  なお、他国にも同様の事例があります。1960年代以降のオーストラリアの各州は、憲法上の課税権の制限を回避するため、アルコール等への間接税の課税の代わりに、「州によるアルコール等の販売許可のライセンス料(fee)」の徴収を行っていました。税(tax)ではないものとして構成し、州の歳入を確保していたわけです。

  なぜ、建国当初の想定と異なり、カナダの州の権限は拡大していったのでしょうか。実は、カナダの「多様性」こそが原因となったのです。カナダはアメリカと並ぶ世界有数の移民国家ですが、アメリカとは1点大きな違いがあります。アメリカでは異民族間の同化が進んでいる(通称「人種のるつぼ」)一方で、カナダでは州ごとに各民族の文化が保持されています(通称「モザイク社会」)。ケベック州のフランス系住民、ブリティッシュ・コロンビア州の日系人等が代表的です。住民の帰属意識が連邦ではなく、州にあることが、州政府の権限の強化につながったのです。

  その後、今度は1971年税制改革において、連邦は相続税・贈与税の課税から撤退しました。当時の連邦は、徴収した相続税・贈与税収の75%を州に移転していましたが、一部の州が取り分を住民へ独自に返還しはじめ、連邦による統一的な制度の維持が不可能になったこと等が原因とされています。その代わり、連邦は、死亡時に譲渡があったものとみなして所得税を課税する方式(みなし譲渡益課税)を導入しました。この方式は世界でもかなり珍しいものです。この時、所得税改革において、一時的利得(キャピタルゲイン等)を課税対象とする変更を行い、アメリカ型の包括的所得概念への転換を行いました。改革後の1973年の所得税収は連邦の全税収の48%と、約半分を占めるようになりました。

  1987年税制改革では、アメリカが1986年税制改革(レーガン政権)において所得税・法人税の累進緩和・簡素化を行ったことに影響を受け、所得税・法人税の累進緩和・簡素化を行いました。その一方で、消費税については、州ごとにバラバラに課されていた州の消費税を連邦の消費税と1つにまとめ、連邦が徴収しようとしていました。しかし、州の反対が強かったため失敗に終わり、1991年に連邦のみで改革を行いました。改革後の1992年の所得税収は連邦の全税収の62%となり、現在まで続く連邦の所得税中心の税体系が出来上がりました。

  ちなみに、社会保障制度は、憲法上、基本的に州の権限とされてきました。つまり、連邦の政策ツールは、所得税の課税権以外かなり限られたものとなってしまったわけです。カナダでは、低所得者への配慮(人的控除の税額控除化)や子育て支援(児童手当の拡充)が、所得税法の枠組において行われていますが、そういった事情が背景にあるのかもしれませんね。

             主税局調査課 丹羽 啓介  

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4  若手コラム2〜スウェーデンの二元的所得税について

  メールマガジン読者のみなさま、ご無沙汰しております、主税局調査課の小笠です。昨年11月に寄稿させて頂いて以来の登場となります。前回に続いて、スウェーデンのお話をさせて頂きたいと思いますが、今回は去る3月に行われました政府税制調査会の海外調査出張において得られた知見も踏まえて、スウェーデンの現状の社会構造や税制についてご紹介したいと思います。

  スウェーデンは人口約980万人(日本の約8%)、面積が約45万平方km日本の約1.2倍)であり、GDPは約60兆円程度と日本の十数パーセントの規模ですが、一人当たりGDPでは日本を上回っており、「北欧の盟主」と呼ばれるにふさわしい経済を築いているといえるでしょう。リーマンショック後に経済は大きく後退しましたが、その後経済は回復しており、2016年も経済成長を見込んでいます。一方の政治情勢については、2014年9月の総選挙において中道右派が敗北し、8年ぶりに政権交代が実現しました。背景としては失業率の高止まり、医療・福祉サービスや教育の質の低下への不満等があったとされています。同年10月には社会党及び環境党を中心とした左派政権が成立したものの、少数連立政権とならざるを得ませんでした。同年12月、野党提出の予算案が可決された後、政権と野党4党の間で政治安定化に係る枠組みに合意しましたが、2015年10月には同合意は消滅してしまっています。爾来、政権の基盤は極めて脆弱となっています。

  さて、スウェーデン税制についてでありますが、租税負担率は49.9%(2013年、日本は24.1%)となっており、北欧諸国のイメージである「高福祉・高負担」に合致するかと思いますが、社会保障負担だけでみれば日本の3分の1程度となっており、租税で必要な経費を賄うスタンスの国であるということが伺えます。

  具体的な税制についてでありますが、スウェーデン税制においてもっとも特徴的なのは所得税におけるいわゆる「二元的所得税」だろうと思われます。二元的所得税とは、給与所得や事業所得等の勤労所得には累進税率を、利子所得や配当所得等の資本所得には比例税率を課すという仕組みであり、北欧諸国やデンマークにおいて採用されていると言われています。冒頭に述べた政府税制調査会の海外調査出張においても、スウェーデンについては二元的所得税に対する評価や問題点に主眼が置かれました。

  スウェーデンにおいて二元的所得税が導入されたのは1991年で、この年には所得税だけではなく法人税や付加価値税の分野でも改革が行われたため、一連の税制改革は「世紀の税制改革」とも呼ばれています。二元的所得税導入の背景事情としては、1980年代のスウェーデンでは、支払利子控除が広範に認められていたことにより、住宅投資への歪んだインセンティブが働き貯蓄率が低下していたことや支払利子控除を利用した租税回避が生じていたこと等が指摘されています。この税制改革により、勤労所得については累進税率(地方分が約31%・国税分が20%の累進税率、及び最高税率の引下げ:73%→51%)、資本所得については比例税率(30%)が適用されることとなりました。

  当該改革に関する評価についてでありますが、一口に評価といっても様々な観点があろうかと思います。ここでは何点かに観点を絞って、その評価をご紹介できればと思います。

  まず、再分配の観点ですが、税による再分配効果に着目すると、1989年と1991年を比較すれば、いずれの世帯属性においても数値が低下しており、1991年税制改革によって税による再分配効果が弱まったとされています。一方、給付による再分配効果に着目すると、再分配効果が強化されたとされており、これは税制改革と同時に行われた児童手当及び住宅手当の拡充による影響と考えられています。全体で評価すれば、子供の多い家庭において再分配効果が改善されることを通じ、再分配が強化されたとされたとの評価となっています。

  税収の観点からは、所得税だけでは大幅な減税となるため、これを賄うために法人税や付加価値税の課税ベースの拡大等が行われましたが、バブルの崩壊の煽りを受け経済が失速していたこともあり、1991年改革はトータルでみると税収減となってしまいました。税率が引き下げられたことにより、キャピタルゲインからの増収につながったことや租税回避の余地が狭められたことも指摘されていますが、いずれも税収に対する効果がどの程度あったのかについては、明確な評価が下っていません。

  労働供給の観点では、最高税率が引き下げられたため高所得者の就労促進にはつながったとの分析があるものの、中・低所得者に対しては最高税率の引き下げによる恩恵があまりなかったため、中・低所得者の就労促進にはつながらなかったとされています。

  最後に、貯蓄の観点では、支払利子控除の制限で借入が減少したことにより、純金融資産が増加し、マイナスであった貯蓄率は90年代に入って上昇することになりました。1989年と1992年の貯蓄率を比較すると、13%の伸びを記録したとの分析も存在しています。

  このように、様々な評価のある1991年の二元的所得税の導入ですが、導入から25年経過した現在でも、その原則は維持されており、大幅な制度変更は検討されていないようです(主な改革としては1999年に国税の税率が20%、25%の2段階の累進構造に見直されました)。

  ただし、どんな制度にも問題点はつきもので、二元的所得税にも当然、問題点は存在しています。二元的所得税における主要な問題点として指摘されているのは「事業所得に対してどのような課税を行うか」という点です。事業所得はその名の通り、個人事業主ないしは小規模事業者がその事業によって得る所得であり、原則として勤労所得の一つとして課税されるものですが、例えば事業主が得た事業所得を配当という形式で自らに分配した場合、その所得については資本所得であるため、30%の比例税率が適用されることになるため、事業所得は資本所得に振り替えようという誘因が働きます。この誘因を小さくするために様々な制度が導入されています。制度の仕組みは大変複雑であるため詳細は割愛しますが、所得それ自体の性質に着目した振り分けではなく、特定の割合に基づいた概算的な振り分けとなっているようです。

  以上、スウェーデンにおける二元的所得税についてご紹介してきました。二元的所得税はこれまで様々な場面で議論がなされてきた制度であろうと思います。今回の海外調査出張の事前調査やこの1年の調査業務を通じて、このスウェーデンの制度についてその現状や問題点等を垣間見ることができたと思います。スウェーデンは日本と比較して制度のバックボーンが大きく異なり、単純に比較できる制度ではないことは明らかですが、今後、日本の税制を考えていく上においては、学ぶべき部分も多いのではないかと思った次第です。

  次回以降のメールマガジンでは、後輩たちが引き続き若手コラムに寄稿する予定です。引き続き、応援の程宜しくお願い致します。

             主税局調査課 小笠 智樹  

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5  新入省者紹介

  今年の春、主税局に仲間入りした社会人一年目の3人に、折角の機会ですので、意気込みを書いてもらいました。

  まずは、Kさんから。
  はじめまして。この春より財務省に入省し、主税局調査課の内国税制の担当となりました。ところで、16世紀のとある地域では王様のベレー帽が落ちる度に人々に課税していたという想像しがたい話があるそうです。この話から、税という制度自体は時代や地域が異なっていても広く一般的に見られるものですが、そのあり方は時代・地域・社会によって多種多様であることがわかります。入省以来、現代日本では、主税局が以下のようなことを重視し、現代の日本社会に合った税制の企画・立案をしていることを、働きながら実感するようになりました。
  まず、税制度の安定的な運用のために、税制の核である公平性・中立性・簡素性の原則や租税理論が前提にあります。そのうえで、税制は社会のあらゆる物事と深く関連し、それゆえ日々刻々と動く国内・国際情勢に対応するために、世の中を広く見据えて、どう変化しているのかを調査し、それを踏まえて今後の税制はどうあるべきかを考えています。このように既存の税制度を受け継ぎながらも、世の中の変化とともに税制に反映させていくことが重要な仕事である主税局では、職場にズラッと並んだ過去の税に関係する記録の参照と最新の統計資料のチェックは、双方ともに欠かせないということを日々痛感しています。
  今後より良い日本の税制の実現のために少しでもお役に立てるよう、先輩方から色々と教わりながら頑張って参りますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。

  続いてTくん。
  はじめまして。4月1日から主税局調査課で働いております。執筆時点で約1ヶ月、私の役回りは新人として先輩方の仕事をサポートすることでしたが、むしろサポートのサポートが必要となって先輩方の仕事を増やすばかりです。
  そんな私も少しずつドイツ税法の調査を始めています。日本語でも理解するのが難しい「減価償却」などの仕組みを外国語で理解するのは想像を絶するほど大変です。しかし、このような作業が日本の税制企画の基礎の基礎になると思うとやりがいを感じます。
  主税局は日本の税制を考える部署である、というのが私から見た主税局の第一のイメージでした。それはまったく間違っていませんが、しかし、実際には海外への目配りが驚くほど求められます。ドイツ政府の最新の動向を毎日チェックし、国際機関からは様々な情報が飛び込んでくる。そういった情報を踏まえ広い視野から日本の税制が立案されていることを知り、私は自分のイメージとのギャップを感じるとともに、日本の税制への信頼感を高めました。私自身も早くこの大きな仕事の中で自分の役割を一人前に果たせるよう日々努力したいと思います。

  最後にKくんから。
  はじめまして。この度、フランス税制の調査担当となりました。学生時代からフランスの歴史や文化に興味があり、語学も好きだったのですが、いざ仕事を始めてみると、想像より遥かに厳しい世界でした。
  主税局調査課は、その名前からしてアカデミックで、静かな部署であるというイメージがあったのですが、実際入ってみると、多数の関係先から問い合わせが止まず、その空気感についていくだけで一苦労でした。また、そもそも日本の税制自体が十分に分からない中、社会背景も大きく異なる外国の仕組みをリサーチするというのは、非常にタフであるように思います。たとえば、家族に対する考え方や中央政府と地方政府の関係なども、少なからず違っているようです。それら多数の事柄を、先輩方に初歩から教えてもらう日々です。
  とはいえ、知らないからこそ学びがいがあると言え、その意味では成長できる部署ではないかと思っています。何より、自分のまとめた内容が、この国のより良い税制を構築する上で微力でも役立てるように、頑張って参りたいと思います。よろしくお願いいたします。

  日々の業務に取り組む中で、いずれは、税制に関するコラムを執筆できるくらいの知識を蓄えてくれると思いますので、3人の成長を温かく見守っていただけると幸いです。

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6  編集後記

  知識の全くない税制の担当に異動してから、早いもので2年。私がお送りするメルマガも今回で最終号になりました。その間、法人税改革や軽減税率制度の導入決定などの非常に重要な動きを、少しでも解りやすくお届けすべく、メルマガを含む広報に取り組んできました。広報業務自体が初めての経験でしたので、ご迷惑もおかけしたかと思いますが、楽しく取り組むことができました。

  子ども用(小中学生)の広報は、既に、国税庁を中心として全国的に実施されているのですが、経験値を高めるため、高校や各地の大学に出前講座に行ったのは大変な勉強となりました。受け手の反応を想像しながら、どういうことには興味を持ってもらえるか、どういう言い方をすれば適切に伝わるのか等、頭の体操をしている時間に、多くの時間を費やしました。

  好きこそ物の上手なれと言いますが、そうした多少の苦労も、自分自身が税の世界に魅力を感じれば感じるほど、楽しみに変わっていきました。でも、そこは人間ですから、税制の奥深さとか、歴史的な繋がり等の豆知識をお話しして、「へぇ〜」という声が聞こえたとき、苦労が報われる思いがするのも事実です。(ですから、皆さんも次にどこかの講演会にお話を聞きに行かれた際には、積極的に反応してみてください。きっと、演者も気持ちが乗ってきて、面白い話をしてくれると思います。)

  きょうまでに、2年間で20か所での講演を行いました。2000人近くの方に直接お話しする機会を頂きましたが、その中に、税の世界って面白いな、もっと勉強してみたいなと思った方が少しでもいたであろうことを、期待するばかりです。この1年間は、調査課の若手係員の協力を得て、税と周辺環境についての寄稿をお届けしてきましたが、これも、「どこかで皆様の興味に引っ掛かれば」という思いで始めたものです。今回の小笠君と丹羽君の文章は、彼らの主税局生活の集大成。多少長かったかもしれませんが、いかがでしたでしょうか。もし感想がございましたら、お送りいただければ、彼らにとっても大切な糧になると思います。

  だいぶ掴めてきた(?)広報のコツのようなものを、次の異動先でも、是非とも生かしていきたいと思っています。次号からは後任がお送りいたしますが、変わらずにお読みいただければ、担当者冥利につきます。これまで、ありがとうございました。

                   (高澤)


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