(参考1)

1.貿易・資本取引部会

(1)  開催状況
 貿易・資本取引の実務家(商社・金融機関等)による円建て取引の現状、将来の円建て取引拡大の可能性等について検討。(7回開催)

(2)

 主な調査・研究結果
 貿易取引、資本取引のいずれにおいても円建て取引は進んでいないのが現状である。しかし、アジア諸国における変動相場制への移行や、我が国企業の利益・リスク重視の経営への移行が進みつつあること等を踏まえると、円建て取引拡大の新たな可能性が生まれている。こうした中、今後は、特にアジアにおいて円建て取引を進めていくとの将来戦略が商社、メーカー等により示されたが、こうした企業の取組みが、日本経済・金融の安定や円の利便性の向上と合わせて、今後アジア域内における円の国際化の進展につながっていくものと考えられる。同時に、我が国金融・資本市場のさらなる環境整備のため、今後も官民による継続的な取組みが不可欠である。

2.通貨制度研究部会

(1)  開催状況
 通貨バスケット制度を中心に、アジアにおける望ましい通貨制度のあり方に関する理論的考察や実証分析等を実施。(5回開催)

(2)

 主な調査・研究結果
 通貨バスケット制、ドル・ペッグ制、変動相場制について、理論モデルによる検証及びタイのマクロ経済データを用いた実証分析を行った。主な結論として、当局がどのような政策目標を置くかによって望ましい通貨制度は異なるものの、多くの場合において通貨バスケット制が最も望ましい(当局の政策目標関数における損失の値が最小となる)制度であることが、理論モデル及び実証分析の双方から示される。
 通貨バスケット制を採用した場合の最適ウェイトも、当局の政策目標(為替安定、国内経済や経常収支の安定等)により異なる。また、当該ウェイトの決定について、一定の仮定の下で貿易ウェイトが最適となる場合もあるが、多くの場合、金利や為替リスク等の財・資本市場に影響を与える様々な要因を考慮する必要がある。
 また、別の理論モデルにおいては、貿易収支を安定化させるためには円のウェイトを高めたバスケット制が望ましいこと、さらに、そうしたバスケット制によると急激な資本流入を緩和させる働きがあることが示された。但し、バスケット制を導入する際に同様な貿易構造を持つ国の間で協調の失敗の問題が発生する可能性があることが指摘された。

3.決済システム調査ワーキング・パーティ(WP)

(1)  開催状況
 欧州、米国、アジアの証券決済システムの現状報告や、現地調査にあたっての問題意識の打ち合わせ等を行った。(3回開催)

(2)

 主な調査・研究結果
 欧米先進国の証券決済システムについては、G30/ISSA勧告に沿って制度改善に向けた各種の取組みが行われており、特に欧州では証券集中保管機構(CSD)の統合・連携が盛んに行われている。また、アジアの債券市場及び証券決済システムについても整備が進みつつある。
 日本の証券決済システムは、証券の種類ごとに別個の証券決済機関が存在し、各々異なるルール・手続で決済を行うなど、非効率な面があり、@民事基本法制の見直し、A証券担保法制の改善、B国際私法ルールの見直しが不可欠である。アジア諸国の証券決済システムとの連携のための法整備等も必要と考えられる。
 民事基本法制の見直しについては、株式、債券等の券面に表象されるべき権利の発生、移転、消滅の私法上の性質を再検討し、券面がない場合についても法律構成を確立しておくことが望ましい。
 これらの課題の解決を通じて我が国証券決済システムを大幅に改善するとともに、アジア諸国における効率的な証券決済システムの整備に対して積極的な支援・協力をすることで、日本がリーダーシップを発揮していくことが望ましい。その上で、アジア各国の証券決済システムの効果的な連携が実現すれば、円の国際化推進に資する制度的インフラが整備されることになろう。


(参考2) マルクの為替媒介通貨化

 〜 第3回会合(2000年1月26日開催)における田中素香 東北大学教授の報告をベースに、事務局においてとりまとめたもの。

(1)

 欧州におけるマルクの為替媒介通貨化は1989年と92年の間に生じており、1990年頃が分水嶺と考えられる。
(注 )為替媒介通貨とは、直接取引のない2つの通貨のインターバンク取引を媒介する通貨である。

(2)

 為替ディーラーやブローカーが為替媒介通貨として選ぶのは、取引コストの低い通貨である。為替取引のコストは一般に取引規模に反比例し、為替リスクに比例する。従ってマルクの為替媒介通貨化は、@対顧客外為市場におけるマルク取引の「厚み」の増大(取引高要因)と、AEMSにおける為替相場の安定(為替相場安定要因)という2つの要因により説明することができる。

(3)

 80年代後半にEC市場統合の進展等によりEC域内の貿易総額が増加したが、EC域内の貿易取引においてマルク建ての比率が大きく上昇していないこと等を勘案すると、80年代後半におけるマルクの為替媒介通貨化をもたらした実需側の要因を貿易取引に求めることは困難と考えられる。

(4)

 ドイツは「マルクの国際的魅力を強化するために」80年代後半以降本格的に金融自由化に着手し、とりわけ資本市場の開放が推進された。84年に25%の非居住者債券利子源泉課税が廃止され、85年5月には外銀・証券の現地法人にマルク建て外債の主幹事開放、発行額の事前承認制の廃止等の資本市場自由化措置が実施された。その結果、EC域内の非居住者のマルク建て外債を利用した資金調達・運用が活発化し、また非居住者のドイツ国内確定利付債(主に国債)の取引が急増した。これが、80年代後半にマルク対EMS諸国通貨の外国為替取引を著増させ、マルク取引の「厚み」を増大させることとなったと考えられる。
 他のEC諸国においても同様に資本取引の自由化、為替管理規制の撤廃が進められており、EMSの安定の下むしろ機関投資家による域内分散投資が進んだため、欧州域内において投資通貨のマルクへの集中は必ずしも生じていない。しかし、分散投資により発生する為替リスクをヘッジする際、EMS諸通貨との為替相場が最も安定しているマルクが使われるケースが多かった。その結果、機関投資家がマルクをわずかな割合しか含まない域内分散投資を行う場合でも、外国為替市場においてはその数倍のマルク対価取引が発生することになった。

(5)

 介入通貨としてのマルクの使用も、マルク取引の「厚み」を増大させた。EMSにおける変動幅内介入の介入通貨としてのマルク使用は、域外とは変動相場制、域内では固定相場制というEMSの基本的な性格による部分がある。すなわち、ドル相場がEMSに対して下落トレンドにあり、他方マルクがEMSの強い通貨となっている場合、弱くなった自国通貨を支えるためにドル売り、自国通貨買いの介入を行うと、売られるドルの一層の相場下落をもたらし、投機的なドル売りを誘う危険性があるので、マルク売り介入を行うことになる。EMS通貨(ほとんどがマルク)による変動幅内介入がドル介入を上回ったのは1986年以降、すなわちドルのEMSに対する長期大幅な下落の時期であった。

(6)

 また、83年以降EMS諸国は物価の安定した西ドイツの経済パーフォーマンスを目標として政策を運営するようになり、マルクはEMSの基準通貨に転化していった。その結果、EMS参加国は、対マルク相場の管理を通じて他の9カ国通貨との統一的固定相場体系を管理するようになり、ドイツ連銀は、ドル介入によってマルクとドルの位置を決め、他の通貨当局はマルクを用いた変動幅内介入によって自国通貨のEMSでの位置を定めるという分業が行われるようになった(介入通貨化)。
 また欧州の中央銀行のマルク準備保有が進んだ。80年代末でEMS参加中央銀行は外貨準備の50%近くをEMS諸通貨で保有しており、その大部分はマルクであった(準備通貨化)。

(7)

 上記の要因からマルク取引の「厚み」が増したことに加え、80年代後半以降EMSの下、欧州通貨の対マルク為替相場が安定したことから、欧州通貨との為替取引において、マルクを媒介通貨として使う方がドルを使うよりも取引コストが低くなった。

(8)

 米国に比べて、ドイツの経済規模あるいは金融及び外為市場は小さく、規制も残存していたこと等を勘案すると、マルクの為替媒介通貨化はドイツのみの力によるものというより、EC統合あるいはEMS参加国の協調によるものとして捉えることもできると考えられる。
 例えば1992年4月のロンドン市場におけるマルク取引高は1242億ドルと、ドイツ市場の471億ドルよりも大きく(日平均)、外為取引におけるドイツの劣勢をロンドンがカバーしていた。またユーロマルク市場の発展が、マルク資金の調達・運用を可能にし、為替媒介通貨マルク成立において大きな役割を果たした。

(9)

 以上の点を勘案すると、マルクの為替媒介通貨化をもたらした要因としては、資本取引の拡大やマルクの介入通貨化等に伴うマルク取引の「厚み」の増大もあるが、その背景となったEMSにおけるマルクの基軸通貨化と、マルクと他のEMS通貨との為替の安定が重要であったと考えられる。


参考文献

 井上伊知郎 「欧州の国際通貨とアジアの国際通貨」(1994)
 大山剛 「我が国主要産業・企業の為替リスク・エクスポ−ジャ−に対する取り組みについて」日本銀行調査統計局working paper 98-7
 小川英治 「国際金融システムの安定性」(1998)
 嘉治佐保子 「欧州経済通貨同盟」(1994)
 勝悦子 「円・ドル・マルクの経済学」(1994)
 木村武・中山興 「為替レートのボラティリティと企業の輸出行動」日本銀行調査月報2000年3月号
 高木信二 「為替レート変動と国際通貨制度」(1989)
 田中素香編著 「EMS:欧州通貨制度」(1996)
 山本栄治 「『ドル本位制』下のマルクと円」(1994)
 

APPENDIX:アジア各国通貨と円との連動性

1.回帰分析の結果
韓 国 ウ ォ ン
タ イ ・ バ ー ツ
インドネシア・ルピア
マレーシア・リンギ
フ ィ リ ピ ン ・ ペ ソ
シンガポール・ドル
台  湾  ド  ル
韓 国 ウ ォ ン 1999年1月〜
タ イ ・ バ ー ツ 1999年1月〜
インドネシア・ルピア 1999年1月〜
マレーシア・リンギ 1999年1月〜
フ ィ リ ピ ン ・ ペ ソ 1999年1月〜
シンガポール・ドル 1999年1月〜
台  湾  ド  ル 1999年1月〜
2.アジア各国通貨の対円・対ドル標準偏差
3.アジア各国通貨と円・ドルとの相関
 

(付)
「円の国際化推進研究会」の開催状況

(1)

 第1回会合
日 時: 平成11年9月10日
議 題: 外為審答申の実施状況、研究会の概要等の説明
本研究会において研究すべき内容等についての自由討議

(2)

 第2回会合
日 時: 平成11年11月10日
議 題: アジア通貨/円の直接取引の可能性について
報告者及び報告内容:
太田メンバー:「戦前のアジア通貨と円との関係」
奥畑メンバー:「アジア通貨/円の為替市場創設の可能性」
篠原メンバー:「アジア通貨集中決済機構の役割」
折谷・日本銀行審議役:「アジア通貨/円の為替市場の発展可能性と資金決済システム」

(3)

 第3回会合
日 時: 平成12年1月26日
議 題: 欧州における通貨制度の歴史的進展について
報告者及び報告内容:
田中素香・東北大学教授:「EMSでのマルクの為替媒介通貨化について」
嘉治佐保子・慶應義塾大学教授:「アジアの通貨安定メカニズムの検討−欧州の経験から学ぶこと−」

(4)

 第4回会合
日 時: 平成12年4月7日
議 題: 3部会等における調査・研究結果の報告
報告者:
浦田秀次郎・早稲田大学教授(貿易・資本取引部会長)
吉野直行・慶応義塾大学教授(通貨制度研究部会長)
神田秀樹・東京大学教授(決済システム調査WP長)

(5)

 第5回会合
日 時: 平成12年6月30日
議 題: 「中間論点整理(案)」について

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