バスケットペッグ制・ドルペッグ制・変動相場制の比較分析
| 吉野直行・嘉治佐保子・鈴木彩子 (慶応義塾大学経済学部教授・教授・大学院博士過程) |
目次 |
1.本章の目的 |
| 2.財市場・金融市場を含むマクロモデル | |
| 3.理論モデルによる均衡解の導出 | |
| 4.政策目標関数の設定と望ましい為替制度 | |
| 5.タイデータを用いた実証分析と最適な通貨制度 | |
| 6.まとめ | |
| 7.補論 |
1.本章の目的
1997年にタイに始まったアジア通貨危機の原因の一つには、為替レートのドルペッグ制があげられる。近年、為替制度のあり方に関する議論が活発化している。中でも、バスケットペッグ制に関する分析が、伊藤・小川・佐々木などを初めとして多数なされている。この章では、政府が様々な政策目標をおいた場合に、どのような為替政策が望ましいかを考えていく。また、そのような政策目標のもとでバスケットペッグ制を取ったときにはどのようなバスケットウェイトが望ましいかも分析する。従来は、バスケット通貨のウエイトは、貿易のウエイトが望ましいと言われていたが、本章では、限られたケースを除くと、バスケットウエイトは、貿易ウエイトにしない方が望ましいことが導かれる。
理論モデルは、吉野・藤丸(1999)モデルと同様に、5つの市場均衡を考えるが、本論文では金融市場で資産残高と需要が均衡するストックアプローチを取り入れる。吉野・藤丸(1999)では「円ドル為替相場の変動(円安進行)がタイなどの現地経済に与える影響(GDPの減少)は、固定相場制のときよりも変動相場制のときの方が小さい。また、バスケットペッグ制の方がドルペッグ制のときよりもGDPの減少に与える影響が小さい。」ことが示されている。
吉野・藤丸モデルに付け加え、本章では、それぞれの市場に影響を与える為替リスクを明示的に考慮する。その結果、吉野・藤丸(1999)の結果とは異なり、円ドル為替相場の変動が現地のGDPに与える影響は変動相場制のときには大きくなる。また、政策目標が、為替安定であるのか、国内経済の安定を重視するのか、経常収支の安定を目指すのかによって、為替制度の優位性が異なることと、最適なバスケット通貨のウエイトも変化することが導かれる。
主な結論をまとめると、
| (i) | バスケット通貨制度を採用した場合に、最適な通貨バスケットのウエイトが貿易のウエイトに等しくなるのは、政策目的関数が貿易収支で、かつ、貿易が為替レートにのみ依存し、かつ、為替レートが両国の純輸出に与える影響が等しい場合に限ることが導出される。 |
| (ii) | 政策目標が、国内実質GDPの安定、経常収支の安定、為替(バーツ/ドル為替レートの安定、「バーツ/ドル」レートとGDPの二つの安定、経常収支とGDPの二つの安定の場合を検討する。 |
| (iii) | 国内GDPの安定化を目指す政策の場合には、為替リスクが市場に与える影響が小さい場合には、バスケット・ペッグ制が最も望ましい政策となり、ついで、ドル・ペッグ制、変動相場制の順となる。また、通貨バスケットの最適な組み合わせウエイトは、@利子率が債券市場に与える影響の度合い、A海外資産の収益が債券市場に与える影響、B資産効果が債券市場の及ぼす影響、C為替リスクが債券市場に及ぼす影響、D金利が投資に与える影響、E為替レートが財・サービス市場の与える影響、F為替リスクが財・サービス市場の与える影響などに依存することが導かれる。 |
| (iv) | 政策目標が経常収支の安定化を目指す場合、バスケット・ペッグ制、変動相場制、ドル・ペッグ制の順に、望ましい政策となる。 |
| (v) | 政策目標が、バーツ/ドルの安定を目指す場合には、ドルペッグ制がもっとも望ましい政策である。 |
| (vi) | 政策目標が「経常収支とGDP」の二つの場合と、「バーツ/ドル為替レートとGDP」の二つの場合には、それぞれ、バスケット・ペッグ制を採用し、最適な通貨ウエイトを採るならば、政策目標の損失をもっとも小さくすることができ、最適な政策となる。 |
| (vii) | タイのマクロ経済データを用いた実証分析の結果から得られた係数をもとに、政策目標の損失を最小とする政策を求めると、「バーツ/ドル」為替レートの固定を目標とする場合を除くと、バスケット制がもっとも望ましいと言う結論となった。 |
| (viii) | タイのマクロ経済データから、最適な通貨バスケットの値を求めると、0.43から0.89が、バーツ/ドルのウエイトとなった。 |
2.財市場、金融市場を含むマクロモデル
3.理論モデルによる均衡解の導出
4.政策目標関数の設定と望ましい為替制度
| (1) | 最適通貨バスケットのウェイトが貿易ウェイトになるケース このように、通貨の最適なウェイトが貿易ウェイトになるケースは、 |
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| @ 純輸出が為替のみに依存する、 | |||||||||||||||||||
| A 為替の純輸出への弾力性が各国において等しい | |||||||||||||||||||
| という強い仮定のもとにのみ成立しており、通貨バスケットが貿易ウェイトなるケースは、より現実的なモデルには当てはまらないといえる。 | |||||||||||||||||||
(2) |
政策目標がGDPの安定の場合 政策目標関数が、GDPの安定を目標とする場合に、政府がバスケットペッグ制をとったとすると、政策目標関数の値を最小にするバスケットウェイトは
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(3) |
政策目標が経常収支の安定の場合 |
(4) |
政策目標が為替(「バーツ/ドル」為替レート)の安定であるケース |
(5) |
政策目的が「バーツ/ドル」為替レートとGDPの安定の二つであるケース |
(6) |
政策目標が「経常収支」と「GDP」の安定の二つのケース |
(7) |
政策目標の設定と最適な為替制度に関するまとめ 表1はそれぞれの政策目標における望ましい為替制度をまとめたものである。政策目標が変わると、望ましい為替政策も変わってくることがわかる。また、理論的には、バスケットペッグ制は、バスケットウェイトを変えることによって政策目標関数の損失の値を小さくすることが可能であるため、どの目的関数の場合でも比較的望ましいことがわかる。 さらに、バスケットペッグ制をとるとすれば、その最適ウェイトは、政策目標関数とそのウエイトによって変化する。表2はどのような要因が、通貨の最適ウェイトに影響を与えるかをまとめたものである。表2から、通貨の最適ウエイトは、貿易ウェイトよりも複雑な要因に依存していることが判明する。 |
5.タイデータを用いた実証分析と最適な通貨制度
アジア金融危機とその対応
| (1) | 為替政策のありかた ドルとの実質的なペッグ制、変動相場制、バスケットペッグ制、 (タイ、シンガポール・インドネシア・韓国・中国・マレーシア) 政策目標と為替制度、 固定相場(マレーシア・中国・香港)、それ以外の諸国は変動相場制 為替レートの不安定性 ワイダーバンド 域内貿易の活発化 短期資金の規制(チリ) |
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| (2) | 金融自由化のプロセス
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| (3) | 金融セクターの脆弱性 ガバナンスの問題、金融監督、 |
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| (4) | 企業セクターの問題 ファミリー・ビジネス、コーポレート・ガバナンス、倒産法制などの法整備 |
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| (5) | 外資依存による輸出主導の成長、 国内市場の育成、 |
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| (6) | 国内貯蓄をいかに国内に回すか? GSB(タイ)、郵便貯金(中国、ベトナム) |
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| (7) | 金利政策、(IMFは危機直後に高金利政策を提唱) | ||
| (8) | 債券市場の整備(タイ・中国) | ||
| (9) | アジア諸国でのマクロ経済政策の協調,AMF(Asian Monetary Fund) | ||
| (10) | 円の国際化 | ||
| (11) | 域内への日本の支援 | ||
| (12) | 国際競争力(人的資源面での欠如、教育問題) | ||
| (13) | 技術移転(中小企業レベルでは進んでいる) | ||
| (14) | 金融セクターを含むマクロ計量モデル | ||
| (15) | 金融部門の不良債券問題と財政赤字の問題 | ||
| (16) | 構造改革(規制緩和など) | ||
| (17) | マクロ政策−−−金融・産業−−−ミクロ政策 |
| 表1 望ましい為替制度 |
| 表2 通貨バスケットのウェイトに影響を与える要因 |
| 表3 マクロモデルの推計結果 |
| 表4 最適な通貨のウェイト |
| 表5 目標関数の損失値の大きさ |
| 表1 通貨バスケットの最適構成比率 |
| 表2 資本流入の推定値とシミュレーションした値 |
| 図1〜4 |
| 図1 タイの資本流入(その他の投資) |
| 図2 タイの資本流入(証券投資とその他の投資) |
| 図3 韓国の資本流入(その他の投資) |
| 図4 韓国の資本流入(証券投資とその他の投資) |
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第4回円の国際化推進研究会/決済システム調査WP WP長 東京大学 神田秀樹
2.証券決済システムの現状 3.証券決済システムの問題点 4.証券決済システムの今後のあり方 (1)民事基本法制の見直し ● 権利の私法上の性質 ● 複数権利者の権利の性質 ● 権利の発生、移転、消滅 ● 善意の取得者の保護 ● 階層保有の場合 (2) 証券担保法制の改善 (3) 国際私法ルールの見直し (4) 複数の証券決済システムの連携 5.結びに代えて:アジアにおける証券決済システムのあり方と日本の役割 |